説明

切削インサートおよび切削工具ならびにそれらを用いた被削加工物の製造方法

【課題】 切削インサートの拘束性に優れ、加工した被削材の加工面が良好な切削インサートを提供すること。
【解決手段】 本発明は、略多角形平板状をなす本体部を備え、該本体部には、上面と側面との交差稜線部に形成される切刃と、上面および下面を貫通する取付ねじ当接部とが形成される切削インサートであって、上面視において、前記取付ねじ当接部の中心軸が、前記切刃の垂直二等分線と交わるとともに、前記切刃に対して前記本体部の中心軸よりも離れた位置にあることを特徴とする、切削インサートを提供する。本発明はまた、上記切削インサートと、該切削インサートが複数装着されるホルダとを備える、切削工具を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削インサートおよび切削工具ならびにそれらを用いた被削加工物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スローアウェイ式の切削工具は、切削インサートの中心に設けられた取付孔に取付ねじを挿通し、ホルダにねじ止めして用いられる。
【0003】
他方、切削インサートの取付安定性の点で、上記ねじ止めに加えて、ホルダに備えられるクランプ部材にて切削インサート上面を押圧する場合もある。特に、送り量が大きな切削工具、すなわち高送り加工用の切削工具においては、高送り加工時に加わる負荷による切削インサートの浮き上がりを抑制する観点から、ねじ止めに加えてクランプ部材が用いられる場合が多い(例えば、特許文献1)。
【0004】
しかし、クランプ部材を用いる場合、切削時に生成される切屑がクランプ部材に絡みつき、切削インサートが損傷する、あるいは被削材の加工面に傷を生じるなどの問題がある。さらに、クランプ部材の存在は、切削インサートを交換する際の作業効率の妨げとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2000−005921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、切削インサートの拘束性に優れ、加工した被削材の加工面が良好な切削インサートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の切削インサートは、略多角形平板状をなす本体部を備え、該本体部には、上面と側面との交差稜線部に形成される切刃と、上面および下面を貫通する取付ねじ当接部とが形成される切削インサートであって、上面視において、前記取付ねじ当接部の中心軸が、前記切刃の垂直二等分線と交わるとともに、前記切刃に対して前記本体部の中心軸よりも離れた位置にあることを特徴とする。
【0008】
ある実施態様においては、前記切刃が複数形成されるとともに、前記切刃のそれぞれに対応して前記取付ねじ当接部が形成されることを特徴とする。
【0009】
ある実施態様においては、前記取付ねじ当接部は、対応する前記切刃までの距離が等しくなるように形成されることを特徴とする。
【0010】
ある実施態様においては、上面視において、前記取付ねじ当接部が重複するように形成されることを特徴とする。
【0011】
ある実施態様においては、前記切刃が、主切刃および副切刃からなり、前記取付ねじ当接部の中心軸が、前記主切刃の垂直二等分線と交わるとともに、前記主切刃に対して前記本体部の中心軸よりも離れた位置にあることを特徴とする。
【0012】
本発明の切削工具は、上記切削インサートと、前記該切削インサートが複数装着されるホルダとを備える。
【0013】
本発明の被削加工物の製造方法は、上記切削工具を回転させて近づける工程と、被削材の表面に前記切削工具の切刃を接触させて前記被削材を切削する工程と、前記被削材から前記切削工具を離間させる工程と、を包含する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の切削インサートによれば、取付ねじ当接部の中心軸が、上面視で、本体部の中心軸よりも切刃から離れた位置に設けられている、すなわち、切刃から切削インサートをねじ止めする位置までの距離が従来に比べて長くなるため、切削インサートの拘束力のモーメントを増大させることができ、高送り加工などの切刃に大きな負荷がかかる場合であっても、クランプ部材を用いることなく、切削インサートの浮き上がり、特に被削材に衝突する際に生じる切削インサートの浮き上がりを抑制することができる。したがって、上記切削インサートを用いた切削工具は、安定した加工が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本実施形態の切削インサート1の全体斜視図である。
【図2】図1に示す切削インサートの上面図である。
【図3】切削インサート1の別の実施形態の全体斜視図である。
【図4】図3に示す切削インサートの上面図である。
【図5】本実施形態の切削インサート1を用いた切削工具の全体斜視図である。
【図6】切削工具による被削加工物の製造方法を説明するための工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<切削インサート>
以下、図1および図2を用いて、本発明の一実施形態である切削インサート1(以下、単にインサート1と略す)について説明する。
【0017】
図1において、インサート1は、略多角形板状の本体部を備えている。この本体部の上面視での形状は、例えば、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形などの当業者が通常インサートに使用する形状であればよく、特に制限されない。図1および図2においては、5つの長辺を有する略五角形の形状が用いられている。
【0018】
上記本体部はまた、すくい面として機能する上面2と、着座面として機能する下面3と、逃げ面として機能する上面2および下面3に連続する側面4とで構成され、上面2と側面4との交差稜線部にそれぞれ切刃5が形成されている。さらにすくい面に相当する上面2上には、上面2から下面3にむかって本体部を貫通する取付ねじ当接部6が、各切刃5に対応して複数形成されている。
【0019】
図1に示すインサート1は、具体的には、側面4が上面2および下面3に対して垂直に形成されている。すなわち上面および下面の両面をそれぞれすくい面として使用可能なネガティブ形のインサートである。すなわち、インサート1は10コーナー使いのインサートである。この場合、下面3と側面4との交差稜線においても切刃5が形成されており、下面側の切刃5を用いる場合、下面3をすくい面、上面2を着座面として使用することが可能である。なお、本発明においては、上面2または下面3と、側面4との間に逃げ角を有する、いわゆるポジティブ形のインサートであってもよい。
【0020】
上面2と側面4との交差稜線部に形成される切刃5は、主切刃51と、主切刃51に連続して形成される副切刃52とからなる。主切刃51は、切削作用において、切屑生成に主な役割を果たす刃である。切削抵抗の低減の観点から、主切刃を分断するような溝部を設けてもよい。副切刃52は、被削材の仕上げ面粗度向上の目的で形成される。
【0021】
取付ねじ当接部6は、具体的には、ホルダ取付孔であり、本体部を貫通するように略円筒形状に形成されている。この取付ねじ当接部6は、インサート1をホルダに固定する目的で形成され、この取付ねじ当接部6に取付ねじを挿入してホルダにねじ込むことによって固定される。取付ねじ当接部6は、切刃5、特に主切刃51に対応して形成される。例えば、図2に示すインサート1においては、上面2と側面4との交差稜線部に形成された5本の主切刃51a〜51eにそれぞれ対応して、5個の取付ねじ当接部6a〜6eが形成されている。
【0022】
本発明においては、取付ねじ当接部6は、取付ねじ当接部6の中心軸が、上面2(すくい面)から見て、本体部の中心軸を通る対応する切刃5、特に主切刃51の垂直二等分線と交わるとともに、この切刃5に対して本体部の中心軸よりも離れた位置に形成されている。例えば、図2においては、取付ねじ当接部6aの中心軸が、切刃51aの垂直二等分線Lと交わっており、切刃51aから略五角形のインサート本体部の中心軸Cまでの距離Dより離れた位置に形成されている。このような構成によって、切削インサートをねじ止めする位置の切刃からの距離が、従来本体部の中心軸に設けられていた場合に比べて長くなるため、切削インサートの拘束力のモーメントが増大する。したがって、例えば、高送り加工などの切刃に大きな負荷がかかる場合であっても、クランプ部材を用いることなく、インサート1の浮き上がりを抑制することができ、安定した加工が可能となる。また、本発明においては、従来に比べて、取付ねじ当接部(取付孔)を小さく形成しても同程度のインサートの拘束性が得られるため、取付ねじ当接部による空隙を小さくすることが可能であり、インサート自体の耐久性を向上することが可能である。さらに、クランプ部材を必要としないため、切屑排出性が良好となり、切屑がクランプ部材に絡みつくことにより生じるインサートの損傷、あるいは切屑により生じる加工面の傷を抑制することができる。本発明はまた、クランプ部材を必要としないため、クランプ部材に生じるコストの増加を低減できるとともに、従来のインサートの交換時に生じるクランパーの取り外しなどの煩雑な操作を必要としない。なお、取付ねじ当接部6における切刃5からの距離の上限は、取付ねじ当接部が本体部に形成できればよく、特に制限されない。
【0023】
取付ねじ当接部6の大きさは、インサート1の強度、インサート1の取付安定性などに応じて適宜設定される。インサート1の強度の点では、取付ねじ当接部(取付孔)の径を小さくすることが好ましく、他方、インサート1の取付安定性(インサート1の浮き上がり抑制)の点では、取付ねじ当接部(取付孔)の径を大きくすることが好ましい。さらに、取付ねじ当接部6の位置は、切刃5に対して本体部の中心軸より離れていればよく、例えば、取付ねじ当接部6の中心軸と本体部の中心軸との距離が、切刃5から本体部の中心軸の距離の約1/10〜約2/3程度、好ましくは約1/10〜約1/2程度となるように設計される。例えば、図2では、切刃から本体部の中心軸を通る径が17mmの略五角形板状のインサートにおいて、約3.5の直径を有する取付ねじ当接部6が形成されており、取付ねじ当接部の中心軸が、本体部の中心軸Cから約4.5mm離れた位置に形成されている。なお、切刃5から本体部中心軸Cまでは約8.5mmである。
【0024】
取付ねじ当接部6はまた、断面視において、径が一定で、かつ上面から下面に向かって鉛直に形成されている。このような構成にすれば、上面および下面の形状が同じになり、ネガティブ形のインサート1として使用する場合に好適である。インサート1の浮き上がりをさらに抑制する観点から、例えば、取付ねじ当接部の断面形状が、上面2および下面3から中央に向かってテーパー状となるように形成してもよいし、あるいは上面2から下面3に向かうに従って、対応する切刃5に近づくように傾斜させて形成してもよい。
【0025】
取付ねじ当接部6が複数形成される場合、切刃から取付ねじ当接部6までの距離が、それぞれ等しくなるように各取付ねじ当接部が形成されることが好ましい。このような構成にすることによって、各切刃5を用いた場合に、同様のインサートの浮き上がり抑制効果が得られる。
【0026】
図3および図4は、切削インサート1の別の実施形態を示す。図3および図4においては、複数の切刃5に対応する複数の取付ねじ当接部6が上面視(すくい面から見て)で重複するように形成されている。このように取付ねじ当接部を重複するように形成することにより、切削インサートの空隙面積を減少させることができ、強度を保持することが可能である。複数の取付ねじ当接部6が重複する場合、各取付ねじ当接部の距離については、少なくともそれぞれの取付ねじ当接部で独立的にねじ止めできる程度に離して設計されることが好ましい。またこのような取付ねじ当接部においては、取付ねじを傾斜して取り付けてもよい。
【0027】
<切削工具>
図5は、本発明の第一の実施形態によるインサート1を装着してなる切削工具11の全体斜視図である。ここで、ホルダ10の外周先端部に複数の切りくずポケット13が形成されており、切りくずポケット13内の各々外周位置にインサート1が取り付けられる。具体的には、インサート1は、回転方向に上面(すくい面)2を向けて最外周に主切刃51が位置するように装着される。切削工具11は、ホルダ10を回転させることによって主切刃51により切削が行われる。
【0028】
本発明の切削工具は、使用されるインサート1が被削材に衝突する際に生じる浮き上がりを効果的に抑制される構成を有しているため、特に送り量の大きい、例えば、0.6〜2.0mm/rev程度の送り量の高送りの切削工具として用いる場合に好適である。
【0029】
本発明の切削工具はまた、クランプ部材を必要とせず、ホルダにおいてクランプ取付部(ポケット)を形成する必要がない。そのため、十分な強度を有するホルダを用いることができる。
【0030】
<被削加工物の製造方法>
本発明に係る被削加工物の製造方法は、上記切削工具(転削工具)を回転させて被削材に近づける工程と、被削材の表面に前記切削工具の切刃を接触させて前記被削材を切削する工程と、前記被削材から前記切削工具を離間させる工程と、を包含する。具体的な工程図を図6に示す。
【0031】
このような被削加工物の製造方法は、上述のように、インサート1とホルダ10との拘束力が高いため、切削時にインサートが振動することが少なく、さらにクランプ部材を必要としないため、良好な切削加工面が得られる。
【0032】
具体的には、まず、ホルダ10にインサート1を装着する。このとき、ホルダ10の同一円周上に沿って、インサート1を、ホルダ10の取付部に取り付ける。取り付け方法は、例えば、インサート1の逃げ面である上面21に形成される中央部のねじ穴に、ねじを挿入することによって行われる。
【0033】
次いで、ホルダ10にインサート1を取り付けた後、図6(a)に示すように、ホルダ10の軸心を中心にA方向に回転させ、切削工具11の切刃を被削材100に近づけ(B方向)、接触させることによって、被削材を切削する。例えば、図6(b)に示すように、切削工具11は、被削材の表面を略平行(C方向)に切削することが可能である。
【0034】
その後、図6(c)に示すように、被削材から切削工具を離間させる(D方向)。切削加工を継続する場合には、切削工具11を回転させた状態を保持して、被削材の異なる箇所に切削工具の切刃5を接触させる工程を繰り返せばよい。
【0035】
以上、本発明にかかるいくつかの実施形態について例示したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り任意のものとすることができることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0036】
1 切削インサート
2 上面
3 下面
4 側面
5 切刃
51 主切刃
52 副切刃
6 取付ねじ当接部
10 ホルダ
11 切削工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略多角形平板状をなす本体部を備え、該本体部には、上面と側面との交差稜線部に形成される切刃と、上面および下面を貫通する取付ねじ当接部とが形成される切削インサートであって、
上面視において、前記取付ねじ当接部の中心軸が、前記切刃の垂直二等分線と交わるとともに、前記切刃に対して前記本体部の中心軸よりも離れた位置にあることを特徴とする、切削インサート。
【請求項2】
前記切刃が複数形成されるとともに、前記切刃のそれぞれに対応して前記取付ねじ当接部が形成されることを特徴とする、請求項1に記載の切削インサート。
【請求項3】
前記取付ねじ当接部は、対応する前記切刃までの距離が等しくなるように形成されることを特徴とする、請求項2に記載の切削インサート。
【請求項4】
上面視において、前記取付ねじ当接部が重複するように形成されることを特徴とする、請求項2または3に記載の切削インサート。
【請求項5】
前記切刃が、主切刃および副切刃からなり、
前記取付ねじ当接部の中心軸が、前記主切刃の垂直二等分線と交わるとともに、前記主切刃に対して前記本体部の中心軸よりも離れた位置にあることを特徴とする、請求項1から4のいずれかの項に記載の切削インサート。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかの項に記載の切削インサートと、該切削インサートが複数装着されるホルダとを備える、切削工具。
【請求項7】
請求項6に記載の切削工具を回転させて被削材に近づける工程と、
前記被削材の表面に前記切削工具の切刃を接触させて前記被削材を切削する工程と、
前記被削材から前記切削工具を離間させる工程と、
を包含する、被削加工物の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−253632(P2010−253632A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107910(P2009−107910)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】