説明

切削バイト及びビード切削装置

【課題】切削時のすくい角を大きくすることなく、切削屑が円滑に排出され、切削抵抗も小さな切削バイト及びビード切削装置を提供する。
【解決手段】鋼板の連続圧延ラインにおいて先行鋼板の後端と後行鋼板の先端とをフラッシュバット溶接した際に生じるビードを切削するビード切削装置に装着される切削バイト12において、側断面視して円弧状の凹部15、16がすくい面13、14に形成され、凹部15、16の開口幅Wが7mm〜15mm、且つ凹部15、16の最大深さDが0.5mm〜2.0mm、さらに刃部17、18の先端から凹部15、16の開始点までの距離Lが2mm〜6mmとされている。また、ビード切削装置に装着された切削バイト12のすくい角は5°〜17°とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板の連続圧延ラインにおけるフラッシュバット溶接時に生じるビードを切削するビード切削装置及び該ビード切削装置に装着される切削バイトに関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板の連続圧延ラインでは、先行鋼板の後端と後行鋼板の先端とを接続するため、フラッシュバット溶接が広く用いられている。フラッシュバット溶接はフラッシング工程とアップセット工程からなり、アップセット工程での強い圧接によって、溶接面の外部にメタルとスラグが押し出されてビードが形成される。鋼板に形成されたビードをそのままにしておくと、フラッシュバット溶接後の圧延工程において鋼板に疵が発生したり、鋼板が破断したりする。このため、フラッシュバット溶接によって生じたビードは、フラッシュトリマ又はビードトリマと呼ばれるビード切削装置により平滑に切削(フラッシュトリミング)される(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭63−116186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ビード切削後に削り残しや切削屑として部分的にでも鋼板上にビードが残存している場合、鋼板圧延時に圧延ロールに疵が付き、その疵が鋼板に連続的に転写してロール疵となりやすい。そのため、ビード切削においては、削り残しが無いようにすると共に、切削屑を円滑に除去することが重要となる。
【0005】
図5は切削角を示した模式図であり、切削バイトの進行方向の前面は、切削された切削屑をすくい取る役割をしているため、すくい面と呼んでおり、すくい面と仮想鉛直面との間の角度をすくい角という。また、切削バイトと被切削物との間に空間を作るための角度を逃げ角という。一般に、切削時のすくい角が大きい(逃げ角が小さい)と、切削バイト先端が欠けやすくなり、ビードの削り残しにつながる。逆に、すくい角が小さい(逃げ角が大きい)と、切削屑が円滑に排出されず、結果的に切削抵抗が大きくなり切削面の蛇行につながる。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、切削屑が円滑に排出され、切削抵抗も小さな切削バイト及びビード切削装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、第1の発明は、鋼板の連続圧延ラインにおいて先行鋼板の後端と後行鋼板の先端とをフラッシュバット溶接した際に生じるビードを切削するビード切削装置に装着される切削バイトにおいて、側断面視して円弧状の凹部がすくい面に形成され、前記凹部の開口幅が7mm〜15mm、且つ前記凹部の最大深さが0.5mm〜2.0mmであることを特徴としている。
【0008】
凹部開口幅が7mm未満であると、切削屑が凹部に引っ掛かりやすくなると共に、切削屑の分断性が悪くなる。一方、開口幅が15mmを超えると、切削屑の分断性が悪くなる。また、凹部の最大深さが0.5mm未満であると、切削屑の螺旋径が大きくなり過ぎる一方、最大深さが2.0mmを超えると、切削抵抗が大きくなり過ぎる。
【0009】
また、第1の発明に係る切削バイトでは、側断面視して、刃部の先端から前記凹部の開始点までの距離が2mm〜6mmであることを好適とする。
【0010】
刃部の先端から凹部の開始点までの距離が2mm未満であると、刃欠けまでの寿命が短くなる一方、刃部の先端から凹部の開始点までの距離が6mmを超えると、切削屑の螺旋径が大きくなり過ぎる。
【0011】
さらにまた、第2の発明は、第1の発明に係る切削バイトが装着され、鋼板の連続圧延ラインにおいて先行鋼板の後端と後行鋼板の先端とをフラッシュバット溶接した際に生じるビードを切削するビード切削装置において、前記切削バイトのすくい角を5°〜17°とすることを特徴としている。
【0012】
すくい角が5°未満であると、切削抵抗が大きくなり過ぎる一方、すくい角が17°を超えると、刃欠けまでの寿命が短くなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る切削バイトは、切削バイトのすくい面に、側断面視して円弧状の凹部を設け、凹部の開口幅を7mm〜15mm、且つ凹部の最大深さを0.5mm〜2.0mmとし、さらにこの切削バイトが装着されたビード切削装置は、切削バイトのすくい角を5°〜17°としているので、ビードを切削した際、切削抵抗が小さく、発生した切削屑は円弧状の凹部に沿って螺旋状に回転して分断される。その結果、切削屑が円滑に排出される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】フラッシュバット溶接を説明するための模式図であり、(A)はフラッシング工程、(B)はアップセット工程を示している。
【図2】(A)は切削バイトが装着されたバイトホルダの正面図、(B)は同バイトホルダの側面図である。
【図3】(A)は本発明の一実施の形態に係る切削バイトの正面図、(B)は同切削バイトの側面図である。
【図4】図3のA−A矢視断面図である。
【図5】切削角を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
【0016】
鋼板の連続圧延ラインにおけるフラッシュバット溶接を説明するための模式図を図1に示す。フラッシング工程と呼ばれる第一の工程では、電源20に接続された電極21を介して印加される電圧により、連設された鋼板11の端面(先行鋼板の後端面と後行鋼板の先端面)間に連続してアークを発生させる(図1(A)参照)。アークが発生した部分は局部的に溶融し、溶融した金属の一部はスパッターとして外部に放出されるが、残りは鋼板11の端面に残留する。アークによって溶融した部分にはクレータと呼ばれる凹みが発生する。鋼板11は徐々に近づけられていき、新たな接触部分にアークが次々に発生し、局部的な溶融の繰返しにより鋼板11は次第に短くなっていく。
フラッシング工程を数秒から数十秒間継続することにより、鋼板11の端面の全面が溶融した状態となる。また、鋼板11の端面近傍は温度上昇により軟化する。この状態に達した時点で、図1(B)に示すように、鋼板長手方向へ加圧が行われる(アップセット工程)。このアップセットと呼ばれる加圧により、鋼板11の端面に形成されていたクレータは潰され、端面間に存在していた溶融金属が溶接面の外へ押し出される。軟化した端面近傍は、塑性変形して断面が増大し、溶接面の周囲にはビード22が形成される。
【0017】
フラッシュバット溶接により生じたビード22は、次工程において、フラッシュトリマ又はビードトリマと呼ばれるビード切削装置(図示省略)により平滑に切削される。
図2(A)、(B)に、ビード切削装置を構成するバイトホルダ10の一例を示す。このバイトホルダ10は大略直方体形状とされ、材軸が鋼板11に対して略垂直となるようにセットされる。バイトホルダ10の下部には、進行方向Xがわ及び下方に開口する凹陥部10aが形成されている。凹陥部10aには、すくい角θが5°〜17°となるように、切削バイト12が装着される。
【0018】
切削バイト12の形状を図3及び図4に示す。切削バイト12を正面から見ると、矩形状であり、各コーナー部12aにはアールが形成されている(図3(A)参照)。また、切削バイト12を側面から見ると、略平行四辺形の形をしており、鋭角部が刃部17、18となる(図3(B)参照)。切削バイト12は、側面視して点対称な形状に形成されており、刃部17が摩耗した場合、切削バイト12を側面視して180度回転させることにより、刃部18を使用することができる。なお、切削バイト12は、炭化タングステンと結合材であるコバルトを混合して焼結させた超硬合金や高速度鋼(高速度工具鋼)などから形成されている。
【0019】
切削バイト12の正面及び背面は、それぞれすくい面13、14となり、すくい面13、14の刃部17、18の先端から所定の距離離れた位置に、部分円筒状(側断面視して円弧状)の凹部15、16が形成されている。
【0020】
切削バイト12の両側面部12bにはV形の溝部19が形成されており、バイトホルダ10に形成された逆V形の突条部(図示省略)を切削バイト12の溝部19に嵌合することにより、切削バイト12をバイトホルダ10に装着する。
【0021】
凹部15、16の大きさ及び位置については最適範囲が存在し、図4に示すように、切削バイト12を側断面視して、凹部15、16の開口幅をW、凹部15、16の最大深さをD、刃部17、18の先端から凹部15、16の開始点までの距離をLとすると、Wを7mm〜15mm、Dを0.5mm〜2.0mmとする必要がある。また、Lは2mm〜6mmであることが好ましい。
【0022】
なお、凹部15、16の側断面が完全な円弧である場合、凹部15、16の曲率半径をR(mm)とすると、RとW及びDとの間には三平方の定理より次式の関係が成り立つ。
(R−D)+W/4=R (1)
(1)式より曲率半径Rは(2)式のようになる。
R=(4D+W)/8D (2)
【実施例】
【0023】
凹部の大きさ及び位置をパラメータとして複数の切削バイトを製作し、ビードの切削試験を実施して各切削バイトの評価を行った。試験結果の一覧を表1に示す。なお、試験時のすくい角は9°に固定した。
切削抵抗値は、ビード切削装置に取り付けたロードセルによって測定した。
同表における寿命は、刃先が欠けるまでの日数であり、オンライン切削回数を200回/日として評価した。
また、切削屑の分断性評価は、切削屑が凹部に引っ掛かるトラブルの回数で評価し、試行回数50回に対してトラブル回数が1回以下の場合は○、試行回数50回に対してトラブル回数が2回〜9回の場合は△、試行回数50回に対してトラブル回数が10回以上の場合は×とした。
【0024】
【表1】

【0025】
実施例1〜8のうち、実施例7、8は、刃部の先端から凹部の開始点までの距離Lが2mm〜6mmの範囲外にある。また、比較例1、2は、凹部の最大深さDが0.5mm〜2.0mmの範囲外、比較例3、4は、凹部の開口幅Wが7mm〜15mmの範囲外にある。
同表より、実施例は全て、切削抵抗が小さく、刃先が欠けるまでの寿命は5〜8日、切削屑の螺旋径は13mm〜33mm、切削屑の分断性も良好であった。一方、比較例1、4は切削屑の分断性が悪く、比較例2は切削抵抗が大きかった。また、比較例3は、切削屑が凹部に引っ掛かり切削不能となった。
【0026】
また、切削バイトの凹部の開口幅Wを12mm、凹部の最大深さDを1.7mm、刃部の先端から凹部の開始点までの距離Lを5mmとして、すくい角をパラメータとしてビードの切削試験を実施した。試験結果の一覧を表2に示す。
同表より、すくい角が5°未満である比較例5では、切削抵抗が大きく、すくい角が17°を超える比較例6では、刃先が欠けるまでの寿命が短くなっている。
【0027】
【表2】

【0028】
以上、本発明の一実施の形態について説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、上記実施の形態では、切削バイトの表裏両面に凹部を形成しているが、一方の面のみに凹部を形成しても良いことは言うまでもない。また、上記実施の形態では、切削バイトは一体物としているが、刃部を別体としてもよい。
【符号の説明】
【0029】
10:バイトホルダ、10a:凹陥部、11:鋼板、12:切削バイト、12a:コーナー部、12b:側面部、13、14:すくい面、15、16:凹部、17、18:刃部、19:溝部、20:電源、21:電極、22:ビード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板の連続圧延ラインにおいて先行鋼板の後端と後行鋼板の先端とをフラッシュバット溶接した際に生じるビードを切削するビード切削装置に装着される切削バイトにおいて、
側断面視して円弧状の凹部がすくい面に形成され、前記凹部の開口幅が7mm〜15mm、且つ前記凹部の最大深さが0.5mm〜2.0mmであることを特徴とする切削バイト
【請求項2】
請求項1記載の切削バイトにおいて、側断面視して、刃部の先端から前記凹部の開始点までの距離が2mm〜6mmであることを特徴とする切削バイト。
【請求項3】
請求項1又は2記載の切削バイトが装着され、鋼板の連続圧延ラインにおいて先行鋼板の後端と後行鋼板の先端とをフラッシュバット溶接した際に生じるビードを切削するビード切削装置において、
前記切削バイトのすくい角を5°〜17°とすることを特徴とするビード切削装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−218529(P2011−218529A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−93286(P2010−93286)
【出願日】平成22年4月14日(2010.4.14)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】