説明

切削工具の形状設計方法及び形状設計システム

【課題】工具の形状を適切に設計することによって背分力を0[N]とし且つ実際の加工に十分に適応可能とする。
【解決手段】横切れ刃47を備え旋削加工を行う切削工具49の形状設計システム1であって、アプローチ角をパラメータとする切込み量及び背分力の切削関係を記録したデータベース3と、切削関係から任意の正のアプローチ角αの任意の第1の切込み量の正の背分力を選択する第1の選択部13と、切削関係から別の負のアプローチ角−αの負の背分力で正の背分力を相殺できる第2の切込み量を選択する第2の選択部15と、選択を繰り返して出力される第1,第2の切込み量の和相互を比較する比較部17と、比較部17の比較結果に基づき正負のアプローチ角α、−αの組み合わせの何れかを切削工具49の形状として決定する形状決定部19とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、旋盤等に用いられる切削工具の形状を設計するために供される切削工具の形状設計方法及び形状設計システムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、旋盤を用いて切削加工(以下、「旋削加工」と呼ぶ。)を行うと切削抵抗が発生し、この切削抵抗は、主分力、送り分力、背分力の3成分によって表現される。
【0003】
図18は、一般的な工具により工作物を旋削加工した場合の概念図である。
【0004】
図18のように、前記3成分の内、工具101から工作物103に働く背分力Fは、矢印に示すように切込み方向に作用する。このため、この力Fにより工作物103は加工中に弾性変形することになる。この弾性変形が加工後に戻ることで、加工形状は図19のようになり、良好な加工が行われなかった。
【0005】
すなわち、このような弾性変形が発生すると、通常の旋削加工においては形状誤差の原因となり、また直径の小さな微細軸の加工においては加工を継続することが困難となる。
【0006】
図20は、工具のアプローチ角を正(a)と負(b)とにセットして旋削加工を行った場合の背分力作用の概念図を示している。
【0007】
図20(a)のように、工具101のアプローチ角ψを正にセットすると、背分力は切り込みの方向である正の値となり、図20(b)のように、工具101のアプローチ角ψを負にセットすると背分力は逆向きの負となる。したがって、アプローチ角をこの間の適切な角度にセットすると、背分力がゼロとなる。
【0008】
図21は、工具の先端部分を詳細に示した図である。
【0009】
図21のように、工具101の先端には円形状のノーズ部105が形成されており、工具101は、このノーズ部105と隣接した横切れ刃部107とで加工を行っている。アプローチ角が負の場合では、ノーズ部105で正(上向き)の背分力F1が発生し、横切れ刃部107では負(下向き)の背分力F2が発生する。これらの合力として背分力の正負が決まると考えられる。
【0010】
これを確認するためにノーズ部105と横切れ刃部107のみによる旋削加工を試験的に行った。図22は、切込み量を小さくし、ノーズ部だけで真ちゅうを旋削加工した場合の背分力を実験的に求めた結果のグラフである。図23は、真ちゅうを横切れ刃部のみで加工を行った時の背分を実験的に求めた結果のグラフである。横切れ刃部のみでの加工は、図24に示すような中空の工作物109を用い、工具101の横切れ刃部107のみで旋削加工を行った。
【0011】
図22によれば、背分力は正の値となり、アプローチ角によらず一定の値を示している。この結果より、ノーズ部105で発生する背分力はアプローチ角とは関係ないことが分かった。
【0012】
図23の結果を見ると、背分力はアプローチ角の増加に伴って直線的に増加する傾向があり、アプローチ角ψ=0で背分力がゼロとなった。これは図21に示す横切れ刃部107で発生する背分力F2がアプローチ角に依存していることを表している。
【0013】
以上に示した図22、図23の結果から次のことが明らかとなった。
(1)背分力の正負はノーズ部で発生する正の値と横切れ刃部で発生する負の値との大小関係で決まる。
(2)横切れ刃部で発生する背分力の値はアプローチ角によって決定される。
(3)横切れ刃部によって決定される背分力は横切れ刃部が工作物とどのように干渉しているかに依存するため、最終的な背分力はアプローチ角と工具と工作物との間の干渉量を決める切込み量によって決定される。
【0014】
以上の結果に基づいて旋削加工を行った結果を図25に示す。
【0015】
図25は、アプローチ角を−6°と−8°に設定して切り込み量に対する背分力の変化を実験的に求めた結果のグラフである。
【0016】
図25のように、何れのアプローチ角の場合も切込み量が0.1mm程度までは、切込み量の増大と共に背分力が増加し、切込み量が0.1mmを越えると減少する傾向を示した。これは切込み量が0.1mm以下の領域では工具のノーズ部105のみで加工しているため、背分力が増加傾向となり、切込み量が0.1mmを超えると横切れ刃部107が工作物103と干渉して図21に示した負の背分力が発生するため、減少傾向となるもので、図22、図23に示した結果を裏付けるものである。
【0017】
図25の結果では、アプローチ角が−8°の場合、切込み量が1.3mmの時に背分力がゼロとなり、−6°の場合、切込み量が約1.9mmの時にゼロとなることがわかる。
【0018】
以上に示した結果に基づいて旋削加工した微細軸の例を図26に示す。この例ではアプローチ角を−8°にセットして切込み量を1.3mmとして加工しており、この条件で毛髪よりも細い良好な微細軸が加工できることを確認した。
【0019】
しかしながら、このような工具では、アプローチ角に応じた切込み量はひとつしか存在しない(ψ=−8°の場合はt=1.3mm)ため、実際の加工には適応し難いという問題がある。
【0020】
【特許文献1】特開2006−315156号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
解決しようとする問題点は、アプローチ角及び切り込み量の設定により背分力を0[N]とし、微細軸の加工等を可能とするが、実際の加工には適応し難い点である。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、工具の形状を適切に設計することによって背分力を0[N]とし且つ実際の加工に十分に適応可能とするために、横切れ刃を備え旋削加工を行う切削工具の形状設計方法であって、前記横切れ刃が切り込み方向及び反切り込み方向に対してなす正負のアプローチ角をパラメータとする切込み量及び背分力の切削関係から切り込み方向に対してなす任意の正のアプローチ角の任意の第1の切込み量の正の背分力を選択する第1の選択ステップと、前記切削関係から反切り込み方向に対してなす別の負のアプローチ角の負の背分力で前記正の背分力を相殺できる第2の切込み量を選択する第2の選択ステップと、前記第1、第2の選択ステップを繰り返して出力される前記第1,第2の切込み量の和相互の比較に基づき前記正負のアプローチ角の組み合わせの何れかを切削工具の形状として決定する形状決定ステップとを備えたことを切削工具の形状設計方法の最も主要な特徴とする。
【0023】
また、横切れ刃を備え旋削加工を行う切削工具の形状設計システムであって、 前記横切れ刃が切り込み方向及び反切り込み方向に対してなす正負のアプローチ角をパラメータとする切込み量及び背分力の切削関係を記録したデータベースと、前記切削関係から切り込み方向に対してなす任意の正のアプローチ角の任意の第1の切込み量の正の背分力を選択する第1の選択部と、前記切削関係から反切り込み方向に対してなす別の負のアプローチ角の負の背分力で前記正の背分力を相殺できる第2の切込み量を選択する第2の選択部と、前記第1、第2の選択部による選択を繰り返して出力される第1,第2の切込み量の和相互を比較する比較部と、前記比較部の比較結果に基づき前記正負のアプローチ角の組み合わせの何れかを切削工具の形状として決定する形状決定部とを有することを切削工具の形状設計システムの最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の切削工具の形状設計方法は、横切れ刃を備え旋削加工を行う切削工具の形状設計方法であって、前記横切れ刃が切り込み方向及び反切り込み方向に対してなす正負のアプローチ角をパラメータとする切込み量及び背分力の切削関係から切り込み方向に対してなす任意の正のアプローチ角の任意の第1の切込み量の正の背分力を選択する第1の選択ステップと、前記切削関係から反切り込み方向に対してなす別の負のアプローチ角の負の背分力で前記正の背分力を相殺できる第2の切込み量を選択する第2の選択ステップと、前記第1、第2の選択ステップを繰り返して出力される前記第1,第2の切込み量の和相互の比較に基づき前記正負のアプローチ角の組み合わせの何れかを切削工具の形状として決定する形状決定ステップとを備えた。
【0025】
このため、形状決定ステップでは、要求される切込み量に基づき、第1、第2の選択ステップで選択したアプローチ角の組み合わせの何れかを切削工具の形状として決定することができ、背分力をゼロにする切込み量の範囲を拡げること等ができ、実際の加工に十分に適応させることができる。
【0026】
また、横切れ刃を備え旋削加工を行う切削工具の形状設計システムであって、 前記横切れ刃が切り込み方向及び反切り込み方向に対してなす正負のアプローチ角をパラメータとする切込み量及び背分力の切削関係を記録したデータベースと、前記切削関係から切り込み方向に対してなす任意の正のアプローチ角の任意の第1の切込み量の正の背分力を選択する第1の選択部と、前記切削関係から反切り込み方向に対してなす別の負のアプローチ角の負の背分力で前記正の背分力を相殺できる第2の切込み量を選択する第2の選択部と、前記第1、第2の選択部による選択を繰り返して出力される第1,第2の切込み量の和相互を比較する比較部と、前記比較部の比較結果に基づき前記正負のアプローチ角の組み合わせの何れかを切削工具の形状として決定する形状決定部とを有する。
【0027】
このため、形状決定部では、要求される切込み量に基づき、第1、第2の選択部で選択したアプローチ角の組み合わせの何れかを切削工具の形状として決定することができ、背分力をゼロにする切込み量の範囲を拡げること等ができ、実際の加工に十分に適応させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
工具の形状を適切に設計することによって背分力を0[N]とし且つ実際の加工に十分に適応可能とするという目的を、第1,第2選択ステップ及び形状決定ステップを備えた方法及び第1,第2選択部及び形状決定部を設けた装置により実現した。
【実施例1】
【0029】
[形状設計システム]
図1は、本発明実施例に係る切削工具の形状設計システムの機能ブロック図、図2は、同切削工具の形状設計システムの構成図である。
【0030】
図1のように、切削工具の形状設計システム1は、データベース3と第1,第2のアプローチ角決定部5,7と特性選択部9とを備え、第1,第2のアプローチ角決定部5,7の出力をディスプレイ11に出力表示できるようになっている。
【0031】
前記切削工具は、横切れ刃を備え旋盤によって旋削加工を行うバイトである。
【0032】
前記データベース3には、横切れ刃が切り込み方向及び反切り込み方向に対してなす正負のアプローチ角をパラメータとする切込み量及び背分力の切削関係のデータが記録されている。このデータの詳細は、後述する。
【0033】
前記第1のアプローチ角決定部5は、第1,第2の選択部13,15、比較部17、形状決定部19、記憶部21を有し、前記第2の選択部15は、組合せ部23及び結合部25を備えている。
【0034】
前記第1の選択部13は、前記切削関係のデータから切り込み方向に対してなす任意の正のアプローチ角の任意の第1の切込み量の正の背分力を選択し、選択した背分力を、前記第2の選択部15へ出力し、又第1の切込み量を正のアプローチ角と共に記憶部21へ出力するものである。
【0035】
前記第2の選択部15は、前記切削関係のデータから反切り込み方向に対してなす別の負のアプローチ角の負の背分力で前記第1の選択部13から入力された正の背分力を相殺できる第2切込み量を選択し、前記負のアプローチ角と共に比較部17及び記憶部21へ出力する。
【0036】
前記記憶部21は、第1,第2の選択部13,15で前記のような選択に基づく正負のアプローチ角、第1,第2の切込み量の関係が記憶される。
【0037】
前記比較部17は、前記第1、第2の選択部13,15による選択を繰り返して出力された第1,第2の切込み量相互を比較する。この比較は、例えば、第1,第2の切込み量の和を最小にするために行うものであり、第1、第2の選択部13,15からの出力及び記憶部21からの読み出しにより行われる。但し、切込み量の範囲をある程度犠牲にして刃の強度アップが要求される場合もあり、必ずしも最小にする必要はない。
【0038】
前記組合せ部23は、負のアプローチ角に続いてアプローチ角ゼロを組み合わせるためのものである。この組合せ部23でのアプローチ角ゼロの組み合わせにより、正負のアプローチ角及びアプローチ角ゼロの組合せの形状を用いて前記切込み量の和の比較を行わせることができる。
【0039】
なお、組合せ部23を、形状決定ステップ19に備えることもでき、この場合は、決定された正負のアプローチ角を持つ形状に連続してアプローチ角ゼロを組み合わせて最終形状とすることができる。
【0040】
前記結合部25は、正のすくい角を結合するためのものである。この結合部25でのすくい角の結合により、正負のアプローチ角及びアプローチ角ゼロの組合せに正のすくい角を結合した形状を用いて前記切込み量の和の比較を行わせることができる。
【0041】
結合部25は、形状決定ステップ19に備えることもできる。この場合は、決定された正負のアプローチ角及びアプローチ角ゼロの組合せを持つ形状にさらに正のすくい角を結合して最終形状とすることができる。
【0042】
なお、結合部25は、省略することもできる。この場合は、すくい角を考慮した形状の決定等は行われない。
【0043】
前記形状決定部19は、前記比較部17の比較に基づき前記第1、第2の選択部13,15で選択した正負のアプローチ角の組み合わせの何れかを切削工具の形状として決定する。この決定により、例えば比較部17で切込み量の和が最小であると判断されたとき、対応する正負のアプローチ角が、アプローチ角ゼロ及び正のすくい角と共に、工具の形状として出力される。
【0044】
前記第2のアプローチ角決定部7は、選択部27、比較部29、形状決定部31、記憶部33を有し、前記選択部27は、組合せ部35及び結合部37を備えている。
【0045】
前記選択部27は、前記切削関係のデータから切り込み方向に対してなす負のアプローチ角の背分力がゼロとなる切込み量を選択し、比較部29及び記憶部33へ出力する。
【0046】
前記記憶部33は、選択部27で前記のような選択に基づく負のアプローチ角、切込み量の関係が記憶される。
【0047】
前記比較部29は、前記選択部27による選択を繰り返して出力された切込み量相互を比較する。この比較は、例えば、切込み量を最小にするために行うものである。但し、切込み量の範囲をある程度犠牲にして刃の強度アップが要求される場合もあり、必ずしも最小の切込み量にする必要はない。
【0048】
前記組合せ部35及び結合部37は、前記第1のアプローチ角決定部5の組合せ部23及び結合部25と同機能である。
【0049】
なお、結合部37も、省略することもできる。この場合は、すくい角を考慮した形状の決定等は行われない。
【0050】
前記形状決定部31は、前記第1のアプローチ角決定部5の形状決定部19と同機能である。
【0051】
前記特性選択部9は、材料の特性に応じて前記第1、第2のアプローチ角決定部5,7の何れかを選択するものである。例えば、材料には硬軟等の特性があり、材料が硬い場合にはチッピングを起こし難い工具の形状を決定するための第1のアプローチ角決定部5を選択し、材料が軟らかい場合には簡易な形状決定を行うために第2のアプローチ角決定部7を選択する。
【0052】
従って、特性選択部9で入力する材料特性は、材料の硬度、或いは材質等となる。
【0053】
選択された第1、第2のアプローチ角決定部5,7の何れかの形状決定部19,31から決定された工具形状が出力され、ディスプレイ11に平面的或いは立体的に表示される。
【0054】
前記切削工具の形状設計システム1は、例えば、図2のようにクライアントコンピュータ39,41,・・・及びサーバーコンピュータ45により構築されている。
【0055】
前記クライアントコンピュータ39,41,・・・は、CPU、ROM、RAM等を備え、サーバーコンピュータ45に対してWAN、LAN、或いはインターネット等により接続可能となっている。
【0056】
クライアントコンピュータ39,41,・・・は、キーボードで構成される特性選択部9,本体部で構成される第1、第2のアプローチ角決定部5,7,及び液晶のディスプレイ11を備えている。
【0057】
サーバーコンピュータ45は、データベース3を備えている。
[切削関係のデータ]
図3は、加工条件を示す図表であり、図4は、真ちゅう(C3604)の工作物を対象とし、アプローチ角をパラメータとして切込み量と背分力との関係を測定した結果を示すグラフである。但し、アプローチ角は−8°から+8°まで2°ごとに変化させたものである。
【0058】
図3の加工条件により真ちゅうの工作物を旋削加工すると図4の結果となった。図4の結果より、アプローチ角が一定の条件では背分力は切込み量に比例して直線的に変化することがわかる。また,背分力の切込み量に対する傾きはアプローチ角が0°の時にゼロで,アプローチ角が負の時は負,正の時は正となっている。さらに,全ての曲線は切込み量がほぼ0.3mmの所で同じ点を通っている。
【0059】
これらのことより,真ちゅうの工作物の場合に発生する背分力Fは、アプローチ角ψ、切込み量tで整理することができ、下記のような実験式を得ることができる。
【0060】
F=(0.124t-0.029)ψ+0.860 (1)
ただし,F:背分力
t:切込み量
ψ:アプローチ角
図5〜図7は、アルミニウム(A2011)、銅タングステン(Cu-W)、快削リン青銅(C5441)の工作物を対象とした同様の測定結果を示すグラフである。
いずれの場合も図4の真ちゅうと同様の傾向を示し、これらの結果を実験式にまとめると次のようになる。
【0061】
<アルミニウム(A2011)>
F=(0.099t-0.017)ψ+0.575 (2)
<銅タングステン(Cu-W)>
F=(0.254t-0.044)ψ+1.092 (3)
<快削リン青銅(C5441)>
F=(0.130t-0.028)ψ+0.764 (4)
式(1)、(2)、(3)、(4)に示した実験式は3つの項によって構成されている。
【0062】
式(1)、(2)、(3)、(4)はそれぞれの材料に応じて一定であると考え、これらと材料の特性を示すヤング率との関係を図8のグラフとして示した。図8によると,各項ともヤング率の変化と直線的な関係にある。また第一項と三項はヤング率と共に増加する傾向があり、第二項はわずかながら減少する傾向があることがわかった。これらの関係はヤング率のみならず横弾性係数ならびにこれと密接に関係する材料のせん断強さとの関係においても同じことがいえる。
【0063】
この結果は旋削加工を行う時に発生する背分力は工作物の材料特性によって決まることを示しており、この関係を用いると各材料毎に加工条件を適切にセットすることにより、背分力を制御し得ることを示唆している。
【0064】
従って、本発明実施例では、図4〜図7の関係を前記切削関係のデータとしてデータベース3に記憶させている。
[すくい角]
図9は、すくい角と背分力Fvとの間形を示すグラフである。
【0065】
図9のように、すくい角を大きくしていくと背分力は減少する傾向がある。この図9を参考にすると、すくい角を正の角度にセットすれば、背分力はその絶対値が小さくなり、図4に示した値は全体的に下がることになる。その結果図4に基づいて上記システム1にて得られる工具形状は変化し、切込み量をより小さくできると考えられる。
【0066】
従って、より小さな切込み量で背分力をゼロとすることなどを可能とするため、図9の関係をデータベース3に記憶させている。
【0067】
但し、結合部25,37を設けない例では、図9の関係は不要である。
[システムの動作]
図10〜図12は、本システムの動作を示し、図10は、特性選択、図11は、第1のアプローチ角決定ステップの実行、図12は、第2のアプローチ角決定ステップの実行に係るフローチャートである。
【0068】
システムの起動により、図10のルーチンが実行可能となる。
【0069】
図10のステップS1,S2は、特性選択ステップとして機能する。
【0070】
ステップS1では、「材料特性の選択・読み込み」の処理が実行される。この処理では、図2の特性選択部9のキーボード操作により材料の硬さ、或いは種類等が特性として選択入力される。本実施例では、真ちゅう(C3604)、アルミニウム(A2011)、銅タングステン(Cu-W)、快削リン青銅(C5441)の何れかの選択入力となる。この選択によりステップS2へ移行する。
【0071】
ステップS2では、「グループの選定」の処理が実行される。この処理では、入力された材料により、グループA又はBが選定され、ステップS3又はS4へ移行する。
【0072】
ステップS3は、「グループAの形状決定」の処理を実行し、ステップS4は、「グループBの形状決定」の処理を実行する。
【0073】
グループAの形状決定は、チッピングを起こし難い工具形状を決定するための第1のアプローチ角決定部5による処理を選択する。グループBの形状決定は、材料が軟らかい場合に簡易な形状決定を行うため第2のアプローチ角決定部7による処理を選択する。
【0074】
ステップS3は、第1のアプローチ角決定ステップとして図11の各ステップにより実行される。図11の各ステップの実行により、正負のアプローチ角、アプローチ角ゼロ、及びプラスのすくい角により工具の形状が決定される。
【0075】
ステップS4は、第2のアプローチ角決定ステップとして図12の各ステップにより実行される。図12の各ステップの実行により、負のアプローチ角、アプローチ角ゼロ、及びプラスのすくい角により工具の形状が決定される。
【0076】
ここで、図13は、図11のルーチンにより決定された工具の形状の要部を示す平面図、図14は、図4から求めた背分力の値を実験値と共に示すグラフ、図15は、図12のルーチンにより決定された工具の形状の要部を示す平面図、図16は、図4から求めた背分力の値を実験値と共に示すグラフである。
【0077】
以下、図11のルーチンでは、図13を参照し、図12のルーチンでは、図15を参照つつ説明する。
【0078】
図11のステップS31,S32は、第1の選択ステップとして実行される。
ステップS31では、「任意のアプローチ角を選択する。」の処理が実行される。この処理では、第1の選択部13がデータベース3から対応する図4〜図7の何れかの切削関係のデータを読み出し、切り込み方向に対してなす任意の正のアプローチ角を自動で選択するか、切削関係のデータをディスプレイ11に表示させ、作業者がキーボード操作等によりデータ上の正のアプローチ角を選択する。例えば、図4のデータにおいてアプローチ角5°(図13のAB部)を選択した。
【0079】
ステップS32では、「選択した傾きにおいて任意の切込み量における背分力の値αを求める。」の処理が実行される。この処理では、第1の選択部13において、選択したアプローチ角5°の任意の第1の切込み量、例えば0.65mmの正の背分力α=1.1Nが求められる。求められた背分力α=1.1Nを前記第2の選択部15へ出力する。また、アプローチ角5°及び第1の切込み量0.65mmを記憶部21へ出力する。
【0080】
図11のステップS33,S34は、第2の選択ステップとして実行される。
【0081】
ステップS33では、「傾きが負となる別のアプローチ角を選択する。」の処理が実行される。この処理では、第2の選択部15において、前記読み出された切削関係のデータから反切り込み方向に対してなす別の負のアプローチ角、例えば−11°(図13のBC部)が選択される。
【0082】
ステップS34では、「選択した負のアプローチ角において背分力が−αとなる切込み量を選択する。」の処理が実行される。この処理では、負の背分力−α=1.1Nで前記第1の選択部13から入力された正の背分力α=1.1Nを相殺できる第2の切込み量が0.88mm(=1.53−0.65)として選択され、比較部17及び記憶部21へ出力する。
【0083】
これらの正負のアプローチ角を組み合わせると、第1,第2の切込み量の和として総合的な切込み量1.53mmで背分力がゼロとなる。
【0084】
ステップS35は、組合せステップ及び結合ステップとして実行される。
【0085】
ステップS35では、「引き続いて背分力がゼロとなるアプローチ角ゼロを組み合わせる。又、プラスのすくい角を結合する。」の処理が実行される。この処理では、その後アプローチ角ゼロ(図13のCD部)を設ける。従って、総合的な切込み量が1.53mm以上の範囲では、切込み量を変えても背分力がゼロとなり、変化しない。また、このステップS35では、プラスのすくい角を結合する。
【0086】
ステップS36,S37は、形状決定ステップとして実行される。
【0087】
ステップS36では、「最適な工具形状であるか?」の判断処理が実行される。本実施例では、広い範囲の切込み量で背分力をゼロとするため、上記処理で得られた切込み量1.53mmが最小であるか否かの判断が行われる。この判断において、第1,第2の切込み量の和を最小にするアルゴリズムは、種々用いることができる。例えば、複数回のステップの繰り返しによる第1,第2の切込み量の和相互の比較において、後に決定された第1,第2の切込み量の和に対して規定回数続いて小さいと判断されたとき、当該第1,第2の切込み量の和は最小である等とすることができる。また、前記のような第1,第2の切込み量の和の決定処理を予め決められた複数回行わせ、総当たりにより最小値として求めることもできる。
【0088】
ステップS37では、「工具の幾何学的形状が決定される。」の処理が実行される。この処理では、ステップS36において切込み量が最小である等と判断されたとき、形状決定部19が、該当する正負のアプローチ角及びアプローチ角ゼロ、すくい角を読み出し、最適な工具形状として決定し、ディスプレイ11へ出力する。
【0089】
ディスプレイ11では、例えば図13のような横切れ刃47を備えた切削工具49の工具形状が出力表示される。
【0090】
図14の図4から求めた背分力の値を示すグラフでは、実験値を同時にプロットしている。図14から明らかなように、この実験結果は、計算したものと非常に良く一致した。
【0091】
図12のステップS41は、図11のステップS31に対応し、図12のステップS42,S43,S44,S45は、図11のステップS34,S35,S36,S37に対応し、ほぼ同様の処理が実行される。
【0092】
図12のステップS41,S42は、選択ステップとして実行される。
【0093】
ステップS41では、「傾きが負となる負のアプローチ角を選択する。」の処理が実行される。この処理では、選択部27がデータベース3から対応する図4〜図7の何れかの切削関係のデータを読み出し、切り込み方向に対してなす任意の負のアプローチ角を自動で選択するか、切削関係のデータをディスプレイ11に表示させ、作業者がキーボード操作等によりデータ上の負のアプローチ角を選択する。例えば、図4のデータにおいてアプローチ角9°(図15のAB部)を選択した。
【0094】
ステップS42では、「選択した負のアプローチ角において背分力がゼロとなる切込み量を選択する。」の処理が実行される。この処理では、選択したアプローチ角9°の傾きにおいて背分力がゼロとなる切込み量が0.91mmとして選択され、比較部29及び記憶部33へ出力される。
【0095】
ステップS43は、組合せステップ及び結合ステップとして実行される。
【0096】
ステップS43では、「引き続いて背分力がゼロとなるアプローチ角ゼロを組み合わせる。又、プラスのすくい角を結合する。」の処理が実行される。この処理では、その後アプローチ角ゼロ(図15のBC部)を組み合わせる。従って、総合的な切込み量が0.91mm以上の範囲では、切込み量を変えても背分力がゼロとなり、変化しない。
【0097】
ステップS44,S45は、図11のステップS36,S37と同様に処理され、比較部29での比較の結果、形状決定部31が、該当する負のアプローチ角及びアプローチ角ゼロ、すくい角を読み出し、最適な工具形状として決定し、ディスプレイ11へ出力する。
【0098】
ディスプレイ11では、例えば図15のような横切れ刃51を備えた切削工具53の工具形状が出力表示される。
【0099】
図16の図4から求めた背分力の値を示すグラフでは、実験値を同時にプロットしている。図16から明らかなように、この実験結果は、計算したものと非常に良く一致した。
[実施例の効果]
本発明実施例は、横切れ刃47を備え旋削加工を行う切削工具49の形状設計方法であって、横切れ刃が切り込み方向及び反切り込み方向に対してなす正負のアプローチ角α、−αをパラメータとする切込み量及び背分力の切削関係のデータから切り込み方向に対してなす任意の正のアプローチ角αの任意の第1の切込み量の正の背分力を選択する第1の選択ステップS31,S32と、前記切削関係のデータから反切り込み方向に対してなす別の負のアプローチ角−αの負の背分力で前記正の背分力を相殺できる第2の切込み量を選択する第2の選択ステップS33,S34,S35と、前記第1、第2の選択ステップS31,S32,S33,S34,S35を繰り返して出力された前記第1,第2の切込み量の和相互の比較に基づき前記正負のアプローチ角α、−αの組み合わせの何れかを切削工具49の形状として決定する形状決定ステップS36,S37とを備えた。
【0100】
このため、形状決定ステップS36,S37では、要求される切り込み量に基づき、第1、第2の選択ステップS31,S32,S33,S34,S35で選択したアプローチ角α,−αの組み合わせの何れかを切削工具49の形状として決定することができ、背分力をゼロにする切込み量の範囲を拡げること等ができ、実際の加工に十分に適応させることができる。
【0101】
横切れ刃51を備え旋削加工を行う切削工具53の形状設計方法において、横切れ刃が切り込み方向及び反切り込み方向に対してなす正負のアプローチ角α、−αをパラメータとする切込み量及び背分力の切削関係のデータから反切り込み方向に対してなす負のアプローチ角−αの背分力がゼロとなる切込み量を選択する選択ステップS41,S42,S43と、前記選択ステップS41,S42,S43を繰り返して出力された切込み量相互の比較に基づき前記負のアプローチ角の何れかを切削工具53の形状として決定する形状決定ステップS44,S45とを備えた。
【0102】
このため、形状決定ステップS44,S45では、要求される切り込み量に基づき、選択ステップS41,S42,S43で選択したアプローチ角−αの何れかを切削工具53の形状として決定することができ、背分力をゼロにする切込み量の範囲を拡げること等ができ、実際の加工に十分に適応させることができる。
【0103】
横切れ刃47,51を備え旋削加工を行う切削工具49,53の形状設計方法であって、前記横切れ刃が切り込み方向及び反切り込み方向に対してなす正負のアプローチ角をパラメータとする切込み量及び背分力の切削関係のデータから切り込み方向に対してなす任意の正のアプローチ角αの任意の第1の切込み量の正の背分力を選択する第1の選択ステップS31,S32と、前記切削関係のデータから反切り込み方向に対してなす別の負のアプローチ角−αの負の背分力で前記正の背分力を相殺できる第2の切込み量を選択する第2の選択ステップS33,S34,S35と、前記第1、第2の選択ステップS31,S32,S33,S34,S35を繰り返して出力された前記第1,第2の切込み量の和相互の比較に基づき前記正負のアプローチ角α、−αの組み合わせの何れかを切削工具49の形状として決定する形状決定ステップS36,S37とを有する第1のアプローチ角決定ステップS31〜S37と、前記横切れ刃が切り込み方向及び反切り込み方向に対してなす正負のアプローチ角をパラメータとする切込み量及び背分力の切削関係のデータから反切り込み方向に対してなす負のアプローチ角−αの背分力がゼロとなる切込み量を選択する選択ステップS41,S42,S43と、前記選択ステップS41,S42,S43を繰り返して出力された切込み量相互の比較に基づき前記選択ステップS41,S42,S43で選択したアプローチ角の何れかを切削工具53の形状として決定する形状決定ステップS44,S45とを有する第2のアプローチ角決定ステップS41〜S45と、材料の特性に応じて前記第1、第2のアプローチ角決定ステップS31〜S37、S41〜S45の何れかを選択する特性選択ステップS1〜S4とを備えた。
【0104】
このため、旋削する材料の硬さなどの特性に応じて特性選択ステップS1〜S4により第1、第2のアプローチ角決定ステップS31〜S37、S41〜S45の何れかを選択することができる。従って、背分力をゼロにする切込み量の範囲を拡げる等して実際の加工に十分に適応させることができ、且つ硬い材料に対してはチッピングを起こし難い形状とし、軟らかい材料に対しては、簡易な処理を行わせること等ができる。
【0105】
前記第2の選択ステップS33〜S35は、負のアプローチ角に続いてアプローチ角ゼロを組み合わせる組合せステップS35を備えた。
【0106】
このため、決定したアプローチ角の切込み量以上の範囲で、切込み量を変えても背分力をゼロにすることができる。
【0107】
なお、組合せステップS35は、第1のアプローチ角決定ステップS31〜S37の形状決定ステップS37によって実行させ、最終的に正負のアプローチ角α,−αが決定された後にアプローチ角ゼロを組み合わせることもできる。
【0108】
前記選択ステップS41,S42,S43は、負のアプローチ角−αに続いてアプローチ角ゼロを組み合わせる組合せステップS43を備えた。
【0109】
このため、決定したアプローチ角−αの切込み量以上の範囲で、切込み量を変えても背分力をゼロにすることができる。
【0110】
なお、組合せステップS43は、第2のアプローチ角決定ステップS41〜S45の形状決定ステップS45によって実行させ、最終的に負のアプローチ角−αが決定された後にアプローチ角ゼロを組み合わせることもできる。
【0111】
前記第2の選択ステップS33〜S35は、正のすくい角を結合する結合ステップS35を備えた。
【0112】
このため、すくい角をも考慮して各ステップを実行させることにより、さらに小さな切込み量で背分力をゼロとすることなどを可能とする。
【0113】
なお、結合ステップS35は、第1のアプローチ角決定ステップS31〜S37の形状決定ステップS37により実行させ、最終的に正負のアプローチ角α,−αが決定された後にすくい角を結合させることもできる。
【0114】
前記選択ステップS41,S42,S43は、正のすくい角を結合する結合ステップS43を備えた。
【0115】
このため、すくい角をも考慮して各ステップを実行させることにより、さらに小さな切込み量で背分力をゼロとすることなどを可能とする。
【0116】
なお、結合ステップS43は、第2のアプローチ角決定ステップS41〜S45の形状決定ステップS45により実行させ、最終的に負のアプローチ角−αが決定された後にすくい角を結合させることもできる。
【0117】
横切れ刃47を備え旋削加工を行う切削工具49の形状設計システム1であって、横切れ刃が切り込み方向及び反切り込み方向に対してなす正負のアプローチ角をパラメータとする切込み量及び背分力の切削関係を記録したデータベース3と、前記切削関係から切り込み方向に対してなす任意の正のアプローチ角αの任意の第1の切込み量の正の背分力を選択する第1の選択部13と、前記切削関係から反切り込み方向に対してなす別の負のアプローチ角−αの負の背分力で前記正の背分力を相殺できる第2の切込み量を選択する第2の選択部15と、前記第1,第2の選択部13,15による選択を繰り返して出力される前記第1,第2の切込み量の和相互を比較する比較部17と、前記比較部17の比較結果に基づき前記正負のアプローチ角α、−αの組み合わせの何れかを切削工具49の形状として決定する形状決定部19とを有する。
【0118】
このため、形状決定部19では、要求される切り込み量に基づき、第1、第2の選択部13,15で選択したアプローチ角α,−αの組み合わせの何れかを切削工具49の形状として決定することができ、背分力をゼロにする切込み量の範囲を拡げること等ができ、実際の加工に十分に適応させることができる。
【0119】
横切れ刃51を備え旋削加工を行う切削工具53の形状設計システム1であって、横切れ刃が切り込み方向及び反切り込み方向に対してなす正負のアプローチ角をパラメータとする切込み量及び背分力の切削関係を記録したデータベース3と、前記切削関係から反切り込み方向に対してなす負のアプローチ角−αの背分力がゼロとなる切込み量を選択する選択部27と、前記選択部27による選択を繰り返して出力される切込み量相互を比較する比較部29と、前記比較部29の比較結果に基づき前記選択部27で選択したアプローチ角−αの何れかを切削工具53の形状として決定する形状決定部31とを有する。
【0120】
このため、形状決定部31では、要求される切り込み量に基づき、選択部27で選択したアプローチ角−αの何れかを切削工具53の形状として決定することができ、背分力をゼロにする切込み量の範囲を拡げること等ができ、実際の加工に十分に適応させることができる。
【0121】
横切れ刃47,51を備え旋削加工を行う切削工具49,53の形状設計システム1であって、横切れ刃が切り込み方向及び反切り込み方向に対してなす正負のアプローチ角をパラメータとする切込み量及び背分力の切削関係を記録したデータベース3と、前記切削関係から切り込み方向に対してなす任意の正のアプローチ角αの任意の第1の切込み量の正の背分力を選択する第1の選択部13と、前記切削関係から反切り込み方向に対してなす別の負のアプローチ角−αの負の背分力で前記正の背分力を相殺できる第2の切込み量を選択する第2の選択部15と、前記第1、第2の選択部13,15による選択を繰り返して出力される前記第1,第2の切込み量の和相互を比較する比較部17と、前記比較部17の比較に基づき前記正負のアプローチ角α,−αの組み合わせの何れかを切削工具49の形状として決定する形状決定部19とを有する第1のアプローチ角決定部5と、前記切削関係から反切り込み方向に対してなす負のアプローチ角−αの背分力がゼロとなる切込み量を選択する選択部27と、前記選択部27による選択を繰り返して出力される切込み量相互を比較する比較部29と、前記比較部29の比較結果に基づき前記負のアプローチ角−αの何れかを切削工具の形状として決定する形状決定部31とを有する第2のアプローチ角決定部7と、材料の特性に応じて前記第1、第2のアプローチ角決定部5,7の何れかを選択する特性選択部9とを備えた。
【0122】
このため、旋削する材料の特性に応じて特性選択部9により第1、第2のアプローチ角決定部5,7の何れかを選択することができる。従って、背分力をゼロにする切込み量の範囲を拡げる等して実際の加工に十分に適応させることができ、且つ硬い材料に対してはチッピングを起こし難い形状とし、軟らかい材料に対しては、簡易な処理を行わせること等ができる。
【0123】
前記第2の選択部15は、正負のアプローチ角α,−αに続いてアプローチ角ゼロを組み合わせる組合せ部23を備えた。
【0124】
このため、決定したアプローチ角α,−αの切込み量以上の範囲で、切込み量を変えても背分力をゼロにすることができる。
【0125】
なお、組合せ部23を、第1のアプローチ角決定部5の形状決定部19に設け、最終的に正負のアプローチ角α,−αが決定された後にアプローチ角ゼロを組み合わせることもできる。
【0126】
前記選択部27は、負のアプローチ角−αに続いてアプローチ角ゼロを組み合わせる組合せ部35を備えた。
【0127】
このため、決定したアプローチ角−αの切込み量以上の範囲で、切込み量を変えても背分力をゼロにすることができる。
なお、組合せ部35を、第2のアプローチ角決定部7の形状決定部31に設け、最終的に負のアプローチ角−αが決定された後にアプローチ角ゼロを組み合わせることもできる。
【0128】
前記第2の選択部15は、正のすくい角を結合する結合部25を備えた。
【0129】
このため、すくい角をも考慮して各ステップを実行させることにより、さらに小さな切込み量で背分力をゼロとすることなどを可能とする。
【0130】
なお、結合部25を、第1のアプローチ角決定部5の形状決定部19に設け、最終的に正負のアプローチ角α,−αが決定された後にすくい角を結合させることもできる。
【0131】
前記選択部27は、正のすくい角を結合する結合部37を備えた。
このため、すくい角をも考慮して各ステップを実行させることにより、さらに小さな切込み量で背分力をゼロとすることなどを可能とする。
【0132】
なお、結合部37を、第2のアプローチ角決定部5の形状決定部31に設け、最終的に負のアプローチ角−αが決定された後にすくい角を結合させることもできる。
【0133】
本発明の実施例では,工具の幾何学的形状を適切に設計することにより、切込み量の大小によらず背分力をゼロとすることができた。その結果、図26に示すような微細軸を旋削加工によって能率的に得ることができる。
【0134】
背分力をゼロに制御できれば非常に剛性の低い工作物の加工も行うことができる。
【0135】
図17は、中空の工作物を示す断面図である。軸芯部が穴となっている中空の工作物は剛性が低い。このため、穴径と外径が小さくなると通常の旋削加工では加工ができない。
【0136】
しかしながら、本発明実施例の方法、システムによって背分力をゼロに制御し、加工中の工作物の弾性変形を防ぐことができる。
【0137】
その結果、細い中空軸の外側の加工が可能となり、医療,通信,ロボット等の分野で必要とされている微細な中空軸の加工にも適応が可能となる。さらに、大径の中空軸を薄肉に旋削加工することもできる。
[その他]
第1、第2のアプローチ角決定ステップS31〜S37、S41〜S45は、それぞれ単独で構成することもできる。
【0138】
第1、第2のアプローチ角決定部5,7は、それぞれ単独で構成することもできる。
【0139】
切削工具の形状設計システム1は、ネットワーク接続しないスタンドアローンのコンピュータで構成することもできる。
【0140】
決定した切削工具の形状をプリントアウトさせることもできる。
【0141】
切削工具の形状は、図形でのみならず、数値で出力させることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】切削工具の形状設計システムの機能ブロック図である。(実施例1)
【図2】切削工具の形状設計システムの構成図である。(実施例1)
【図3】加工条件を示す図表である。(実施例1)
【図4】真ちゅう(C3604)の工作物を対象とし、アプローチ角をパラメータとして切込み量と背分力との関係を測定した結果を示すグラフである。(実施例1)
【図5】アルミニウム(A2011)の工作物を対象とし、アプローチ角をパラメータとして切込み量と背分力との関係を測定した結果を示すグラフである。(実施例1)
【図6】銅タングステン(Cu-W)の工作物を対象とし、アプローチ角をパラメータとして切込み量と背分力との関係を測定した結果を示すグラフである。(実施例1)
【図7】快削リン青銅(C5441)の工作物を対象とし、アプローチ角をパラメータとして切込み量と背分力との関係を測定した結果を示すグラフである。(実施例1)
【図8】材料の特性を示すヤング率との関係を示すグラフである。(実施例1)
【図9】すくい角と背分力Fvとの関係を示すグラフである。(実施例1)
【図10】特性選択に係るフローチャートである。(実施例1)
【図11】第1のアプローチ角決定ステップの実行に係るフローチャートである。(実施例1)
【図12】第2のアプローチ角決定ステップの実行に係るフローチャートである。(実施例1)
【図13】図11のルーチンにより決定された工具の形状の要部を示す平面図である。(実施例1)
【図14】図4から求めた背分力の値を示すグラフである。(実施例1)
【図15】図12のルーチンにより決定された工具の形状の要部を示す平面図である。(実施例1)
【図16】図4から求めた背分力の値を示すグラフである。(実施例1)
【図17】中空の工作物を示す断面図である。(実施例1)
【図18】一般的な工具により工作物を旋削加工した場合の概念図である。(従来例)
【図19】一般的な工具により工作物を旋削加工した場合の加工後の概念図である。(従来例)
【図20】工具のアプローチ角を正(a)と負(b)とにセットして旋削加工を行った場合の背分力作用の概念図である。(従来例)
【図21】工具の先端部分を示した概念図である。(従来例)
【図22】背分力とアプローチ角との関係のグラフである。(従来例)
【図23】背分力とアプローチ角との関係のグラフである。(従来例)
【図24】中空の工作物を負のアプローチ角の横切れ刃のみで切削する状況を示す説明図である。(従来例)
【図25】背分力と切込み量との関係を示すグラフである。(従来例)
【図26】旋削加工した微細軸の例を示す写真である。(従来例)
【符号の説明】
【0143】
1 切削工具の形状設計システム
3 データベース
5 第1のアプローチ角決定部
7 第2のアプローチ角決定部
9 特性選択部
13 第1の選択部
15 第2の選択部
17,29 比較部
19,31 形状決定部
23,35 組合せ部
25,37 結合部
S1,S2 特性選択ステップ
S31,S32 第1の選択ステップ
S33,S34 第2の選択ステップ
S36,S37,S44,S45 形状決定ステップ
S41,S42 選択ステップ
S3(S31〜S37) グループAの形状決定ステップ(第1の形状決定ステップ)
S4(S41〜S45) グループBの形状決定ステップ(第2の形状決定ステップ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
横切れ刃を備え旋削加工を行う切削工具の形状設計方法であって、
前記横切れ刃が切り込み方向及び反切り込み方向に対してなす正負のアプローチ角をパラメータとする切込み量及び背分力の切削関係から切り込み方向に対してなす任意の正のアプローチ角の任意の第1の切込み量の正の背分力を選択する第1の選択ステップと、
前記切削関係から反切り込み方向に対してなす別の負のアプローチ角の負の背分力で前記正の背分力を相殺できる第2の切込み量を選択する第2の選択ステップと、
前記第1、第2の選択ステップを繰り返して出力される前記第1,第2の切込み量の和相互の比較に基づき前記正負のアプローチ角の組み合わせの何れかを切削工具の形状として決定する形状決定ステップと、
を備えたことを特徴とする切削工具の形状設計方法。
【請求項2】
横切れ刃を備え旋削加工を行う切削工具の形状設計方法において、
前記横切れ刃が切り込み方向及び反切り込み方向に対してなす正負のアプローチ角をパラメータとする切込み量及び背分力の切削関係から反切り込み方向に対してなす負のアプローチ角の背分力がゼロとなる切込み量を選択する選択ステップと、
前記選択ステップを繰り返して出力される切込み量相互の比較に基づき前記負のアプローチ角の何れかを切削工具の形状として決定する形状決定ステップと、
を備えたことを特徴とする切削工具の形状設計方法。
【請求項3】
横切れ刃を備え旋削加工を行う切削工具の形状設計方法であって、
前記横切れ刃が切り込み方向及び反切り込み方向に対してなす正負のアプローチ角をパラメータとする切込み量及び背分力の切削関係から切り込み方向に対してなす任意の正のアプローチ角の任意の切込み量の正の背分力を選択する第1の選択ステップと、前記切削関係から反切り込み方向に対してなす別の負のアプローチ角の負の背分力で前記正の背分力を相殺できる切込み量を選択する第2の選択ステップと、前記第1、第2の選択ステップを繰り返して出力される前記第1,第2の切込み量の和相互の比較に基づき前記正負のアプローチ角の組み合わせの何れかを切削工具の形状として決定する形状決定ステップとを有する第1のアプローチ角決定ステップと、
前記横切れ刃が切り込み方向及び反切り込み方向に対してなす正負のアプローチ角をパラメータとする切込み量及び背分力の切削関係から反切り込み方向に対してなす負のアプローチ角の背分力がゼロとなる切込み量を選択する選択ステップと、前記選択ステップを繰り返して出力される切込み量相互の比較に基づき前記負のアプローチ角の何れかを切削工具の形状として決定する形状決定ステップとを有する第2のアプローチ角決定ステップと、
材料の特性に応じて前記第1、第2のアプローチ角決定ステップの何れかを選択する特性選択ステップと、
を備えたことを特徴とする切削工具の形状設計方法。
【請求項4】
請求項1又は3記載の切削工具の形状設計方法であって、
前記第2の選択ステップ又は第1のアプローチ角決定ステップの形状決定ステップは、負のアプローチ角に続いてアプローチ角ゼロを組み合わせる組合せステップを備えた、
ことを特徴とする切削工具の形状設計方法。
【請求項5】
請求項2又は3記載の切削工具の形状設計方法であって、
前記選択ステップ又は第2のアプローチ角決定ステップの形状決定ステップは、負のアプローチ角に続いてアプローチ角ゼロを組み合わせる組合せステップを備えた、
ことを特徴とする切削工具の形状設計方法。
【請求項6】
請求項1又は3記載の切削工具の形状設計方法であって、
前記第2の選択ステップ又は第1のアプローチ角決定ステップの形状決定ステップは、正のすくい角を結合する結合ステップを備えた、
ことを特徴とする切削工具の形状設計方法。
【請求項7】
請求項2又は3記載の切削工具の形状設計方法であって、
前記選択ステップ又は第2のアプローチ角決定ステップの形状決定ステップは、正のすくい角を結合する結合ステップを備えた、
ことを特徴とする切削工具の形状設計方法。
【請求項8】
横切れ刃を備え旋削加工を行う切削工具の形状設計システムであって、
前記横切れ刃が切り込み方向及び反切り込み方向に対してなす正負のアプローチ角をパラメータとする切込み量及び背分力の切削関係を記録したデータベースと、
前記切削関係から切り込み方向に対してなす任意の正のアプローチ角の任意の第1の切込み量の正の背分力を選択する第1の選択部と、
前記切削関係から反切り込み方向に対してなす別の負のアプローチ角の負の背分力で前記正の背分力を相殺できる第2の切込み量を選択する第2の選択部と、
前記第1、第2の選択部による選択を繰り返して出力される第1,第2の切込み量の和相互を比較する比較部と、
前記比較部の比較結果に基づき前記正負のアプローチ角の組み合わせの何れかを切削工具の形状として決定する形状決定部と、
を有することを特徴とする切削工具の形状設計システム。
【請求項9】
横切れ刃を備え旋削加工を行う切削工具の形状設計システムであって、
前記横切れ刃が切り込み方向及び反切り込み方向に対してなす正負のアプローチ角をパラメータとする切込み量及び背分力の切削関係を記録したデータベースと、
前記切削関係から反切り込み方向に対してなす負のアプローチ角の背分力がゼロとなる切込み量を選択する選択部と、
前記選択部による選択を繰り返して出力される切込み量相互を比較する比較部と、
前記比較部の比較結果に基づき前記負のアプローチ角の何れかを切削工具の形状として決定する形状決定部と、
を有することを特徴とする切削工具の形状設計システム。
【請求項10】
横切れ刃を備え旋削加工を行う切削工具の形状設計システムであって、
前記横切れ刃が切り込み方向及び反切り込み方向に対してなす正負のアプローチ角をパラメータとする切込み量及び背分力の切削関係を記録したデータベースと、
前記切削関係から切り込み方向に対してなす任意の正のアプローチ角の任意の第1の切込み量の正の背分力を選択する第1の選択部と、前記切削関係から反切り込み方向に対してなす別の負のアプローチ角の負の背分力で前記正の背分力を相殺できる第2の切込み量を選択する第2の選択部と、前記第1、第2の選択部による選択を繰り返して出力される第1,第2の切込み量の和相互を比較する比較部と、前記比較部の比較結果に基づき前記正負のアプローチ角の組み合わせの何れかを切削工具の形状として決定する形状決定部とを有する第1のアプローチ角決定部と、
前記切削関係から反切り込み方向に対してなす負のアプローチ角の背分力がゼロとなる切込み量を選択する選択部と、前記選択部による選択を繰り返して出力される切込み量相互を比較する比較部と、前記比較部の比較結果に基づき前記負のアプローチ角の何れかを切削工具の形状として決定する形状決定部とを有する第2のアプローチ角決定部と、
材料の特性に応じて前記第1、第2のアプローチ角決定部の何れかを選択する特性選択部と、
を備えたことを特徴とする切削工具の形状設計システム。
【請求項11】
請求項8又は10記載の切削工具の形状設計システムであって、
前記第2の選択部又は第1のアプローチ角決定部の決定部は、負のアプローチ角に続いてアプローチ角ゼロを組み合わせる組合せ部を備えた、
ことを特徴とする切削工具の形状設計システム。
【請求項12】
請求項9又は10記載の切削工具の形状設計システムであって、
前記選択部又は第2のアプローチ角決定部の形状決定部は、負のアプローチ角に続いてアプローチ角ゼロを組み合わせる組合せ部を備えた、
ことを特徴とする切削工具の形状設計システム。
【請求項13】
請求項8又は10記載の切削工具の形状設計システムであって、
前記第2の選択部又は第1のアプローチ角決定部の形状決定部は、正のすくい角を結合する結合部を備えた、
ことを特徴とする切削工具の形状設計システム。
【請求項14】
請求項9又は10記載の切削工具の形状設計システムであって、
前記選択部又は第2のアプローチ角決定部の決定部は、正のすくい角を結合する結合部を備えた、
ことを特徴とする切削工具の形状設計システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2009−113143(P2009−113143A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−287730(P2007−287730)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】