説明

切削工具

【課題】段部において形成された円孔等、その周縁端が同一平面上に存在しないような円孔の周縁端に対する切削加工を、良好な作業性でもって行うことができる切削工具を提供する。
【解決手段】切削工具において、周縁端における段部による登り部分や降り部分において生じる切削抵抗の変位を、第2の回転中心周りに切削部材を回動させて上記切削抵抗により生じる外力と釣り合うような付勢力を上記切削部材に対して付与することで、当該切削部材の回動の位置の制御を行う回動位置制御部材24と、上記登り部分や降り部分における上記周縁端の高さ方向の変位に加えて、さらに上記切削部材の回動に伴う上記周縁端に対する切削刃の当接高さ位置の変位をも合わせて吸収するように、上記切削部材の昇降を行う高さ変位吸収部材16とを備えさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転駆動装置に脱着可能に装備され、当該回転駆動装置により回転駆動されることで、切削加工対象物である略円孔の周縁端に対する切削加工を行う切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料等により形成された部材に機械加工で円孔を設けた場合、その円孔の周縁端にはエッジ部分が形成され、このエッジ部分にはバリが発生する。従来、このようなバリの除去やエッジ部分の除去を目的として、切削工具を用いることによる円孔の周縁端に対する切削加工、すなわち面取り加工が行われている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
このような切削工具を用いた従来の面取り加工方法について、図面を用いて説明する。図8(A)に示すように、切削工具である面取り工具80は、図示しない回転駆動装置に脱着可能に装備されて、その軸心周りに回転駆動されるシャフト82と、このシャフト82の下端82aに取り付けられた大略円錐台形状の切削部84とを有している。また、この切削部84の円錐外周面には、1又は複数の切削刃86が形成されている。
【0004】
このような構成の面取り工具80を用いて、金属部材87を貫通するように形成された円孔88に対する面取り加工を行う際には、まず、図8(A)に示すように、シャフト82の軸心と、金属部材87における円孔88の中心との位置合わせを行った後、回転駆動装置により面取り工具80の回転駆動を行いながら、円孔88の図示上方開口部における周縁端88aの略全体に切削刃86を当接させるようにシャフト82を下降させる。この当接により、切削刃86が円孔88の周縁端88aに沿って摺動され、周縁端88aに対する切削が行われ、その結果、図8(B)に示すように、円孔88の周縁端88aのエッジ部分が除去されて、バリの除去加工及び面取り加工が行われることになる。
【0005】
【特許文献1】特開2005−14194号公報
【特許文献2】特開2000−176738号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記構造の面取り工具80は、金属部材87における平坦な表面に形成された円孔88の周縁端88aに対する面取り加工を前提とするものであり、例えば、図9の模式図に示すように、金属部材87の表面が平坦ではなく、段部90が形成されており、この段部90をまたぐように形成された円孔89の周縁端89aに対する面取り加工を行うような場合にあっては、その作業性が著しく低下せざるを得ないという問題がある。
【0007】
すなわち、図9に示すように、段部90の存在により、円孔89の周縁端89aが同一平面に存在せず、例えば図示右側の周縁端89aが図示左側の周縁端89aよりも高い位置に形成されているような状態においては、面取り工具80の切削刃86を周縁端89aの全周に同時に当接させることができない。このような場合には、例えば、より小型の切削部84を有する面取り工具80を用いて、同一平面上に位置されない周縁端89aに対して部分的に切削刃86を当接させて部分的な面取り加工を行い、この動作を周縁端89aの全周に対して施すように複数回に分けて行うことで、円孔89の周縁端89aに対する面取り加工が行われている。
【0008】
よって、従来の面取り工具では、その周縁端89aに段部90を有するような円孔89に対する面取り加工を効率的に行うことができず、その作業性が著しく低下するという問題がある。また、このような段部を含む円孔がより小径に形成されるような場合にあっては、上記複数回に分けての加工を行うこと自体が、さらにその作業性を低下させることにもなる。
【0009】
従って、本発明の目的は、上記問題を解決することにあって、回転駆動装置に脱着可能に装備され、当該回転駆動装置により回転駆動されることで、切削加工対象物である略円孔の周縁端に対する切削加工を行う切削工具において、段部において形成された円孔等、その周縁端が同一平面上に存在しないような円孔の周縁端に対する切削加工を、良好な作業性でもって行うことができる切削工具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
【0011】
本発明の第1態様によれば、回転駆動装置に脱着可能に装備され、当該回転駆動装置により回転駆動されることで、切削加工対象物である略円孔の周縁端に対する切削加工を行う切削工具であって、
上記回転駆動装置に装備可能であって、その中心軸を上記回転駆動の第1の回転中心として備えるシャフトユニットと、
上記第1の回転中心に対して偏心された第2の回転中心において回動可能に当該シャフトユニットの一端に取り付けられるとともに、上記第2の回転中心に対して傾斜された方向に延在し、かつ当該第2の回転中心側に向けて配置された刃端を有する切削刃が形成された大略棒状の切削部材と、
上記切削部材に取り付けられ、切削抵抗によって上記第2の回転中心周りの上記回動の方向において上記切削部材に作用される外力に抗するように当該切削部材を付勢して、当該切削部材の回動の位置を制御する回動位置制御部材と、
上記シャフトユニットに取り付けられ、上記周縁端の高さ位置の変位、及び上記切削部材の上記回動に伴う上記周縁端に対する上記切削刃の当接高さ位置の変位を吸収するように、上記第1の回転中心に沿って上記切削部材を昇降させる高さ変位吸収部材とを備え、
上記第1の回転中心周りに上記シャフトユニットを回転駆動させて上記切削部材を公転させ、上記略円孔の周縁端に沿って上記切削刃の摺動を行うとともに、上記周縁端の高さ位置の変位に伴う上記外力の変位に応じて、上記回動位置制御部材により上記付勢される力を変位させて上記切削部材の上記回動の位置を制御し、かつ上記高さ変位吸収部材により当該周縁端の高さ位置の変位、及び上記切削部材の上記回動に伴う上記当接高さ位置の変位を吸収しながら、上記切削加工対象物の切削加工を行うことを特徴とする切削工具を提供する。
【0012】
本発明の第2態様によれば、上記切削刃は上記刃端に対して対称形状を有し、
上記回動位置制御部材は、上記切削抵抗が生じていない状態において、上記第1の回転中心と上記第2の回転中心との間に上記切削刃が延在するような位置である回動基準位置に上記切削部材が位置されるように、当該切削部材に対する上記付勢を行う第1態様に記載の切削工具を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、切削工具において、周縁端における段部による登り部分や降り部分において生じる切削抵抗の変位を、第2の回転中心周りに切削部材を回動させて上記切削抵抗により生じる外力と釣り合うような付勢力を上記切削部材に対して付与することで、当該切削部材の回動の位置の制御を行う回動位置制御部材と、上記登り部分や降り部分における上記周縁端の高さ方向の変位に加えて、さらに上記切削部材の回動に伴う上記周縁端に対する切削刃の当接高さ位置の変位をも合わせて吸収するように、上記切削部材の昇降を行う高さ変位吸収部材とが備えられていることにより、第1の回転中心周りに上記切削部材を公転させることで、このような登り部分や降り部分を含む上記周縁端に沿って上記切削刃を高い追従性でもって摺動させることができる。従って、上記段部を含むような周縁端に対する切削加工を円滑かつ効率的に実現することができるとともに、高い再現性でもって切削加工を実現することができるため、切削加工精度にバラツキの少ない加工を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明にかかる実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0015】
(第1実施形態)
本発明の第1の実施形態にかかる切削工具の一例である面取り工具10の構造を示す側面図を図1に示し、その下面図を図2に示す。本第1実施形態の面取り工具10は、例えば切削加工装置等に備えられた回転駆動装置に脱着可能に装備されて用いられるような自動機装備用の切削工具であって、当該回転駆動装置により回転駆動されることで、切削加工対象物である略円孔の周縁端に対する切削加工を行うような切削工具である。特に、金属材料等により形成された部材に機械加工で円孔を設けた場合に、その円孔の周縁端において形成されたエッジ部分に対する面取り加工やバリ取り加工等の切削加工に用いられるような切削工具である。なお、このような面取り工具による切削対象物は、例えば、金属材料、その他、樹脂材料などにより形成されている。
【0016】
(面取り工具の構成)
図1に示すように、面取り工具10は、図示しない上記回転駆動装置により回転駆動されるシャフト11と、このシャフト11の図示上部全体を保持するとともに、上記回転駆動装置に脱着可能に装備させるシャフトホルダ12と、上記切削加工を行う切削部材であるブレード13と、このブレード13をシャフト11の図示下端に固定する切削部材保持部14とを備えている。なお、シャフト11、シャフトホルダ12、及び切削部材保持部14によりシャフトユニット9が構成されている。
【0017】
シャフト11は、その軸心を第1の回転中心(軸)C1として、シャフトホルダ12を介して回転駆動されることが可能となっている。また、シャフトホルダ12は、その内部においてボールスプライン機構15を備え、このボールスプライン機構を介してシャフト11の保持を行っている。すなわち、シャフト11は、シャフトホルダ12に対して昇降可能に保持されている。
【0018】
さらに、シャフトホルダ12の内部において、シャフト11の上方には、シャフト11の上端部を下方に向けて常時付勢する昇降用付勢バネ16が備えられている。具体的には、昇降用付勢バネ16は、シャフトホルダ12の内部において、調節ネジ17により昇降用付勢バネ16の上端の固定位置が調整可能に固定された状態とされるとともに、その下端がシャフト11の上端を下方に向けて付勢するように配置されている。なお、シャフト11の上端にはフランジ部11aが形成されており、このフランジ部11aがボールスプライン機構15の上部に当接されることで、シャフト11の昇降範囲における下限位置が規定された状態とされている。このような構成が採用されていることにより、シャフト11に対して、上方に向けて外力が作用された場合に、昇降用付勢バネ16を弾性圧縮させながら、ボールスプライン機構15に沿って摺動させて、シャフトホルダ12に対してシャフト11を上昇させることが可能となっている。また、図1に示すように、シャフトホルダ12の上部における小径の軸部分において、上記回転駆動装置のコレットチャック29により脱着可能に保持されるように面取り工具10は構成されている。
【0019】
また、切削部材保持部14は、大略棒状のブレード13を第2の回転中心C2周りに回動可能にその上部において保持するブレードホルダ18と、このブレードホルダ18の中心(軸)である第2の回転中心C2を第1の回転中心C1より偏心させた状態にて、ブレードホルダ18をシャフト11の下端に固定する偏心ホルダ19とを備えている。すなわち、シャフト11が第1の回転中心C1において回転駆動されることで、当該第1の回転中心C1と同一方向に配置されかつ偏心された第2の回転中心C2が公転されるように、偏心ホルダ19及びブレードホルダ18を介して、シャフト11の下端にブレード13が固定されている。なお、ブレードホルダ18には、ブレード13を脱着可能に保持させることが可能となっている。
【0020】
また、ブレード13は、ブレードホルダ18への保持部分となる略直線状に形成された上部部分と、第2の回転中心C2に対して傾斜して形成され、かつ当該傾斜方向に延在するように形成された切削刃13aを有する下部部分とを有している。具体的には、ブレード13は、その上部部分の軸心が第2の回転中心C2と一致するように、ブレードホルダ18に回動可能に保持されており、さらに、当該保持された状態において、図示下方に向けて傾斜されるように延在して形成された切削刃13aの刃端(刃の鋭端部分)13bが第2の回転中心C2側に向くように形成されている。なお、図1に示すブレード13は、切削刃13aの刃端13bが部分的に曲線を描くように形成されているが、本第1実施形態はこのような場合についてのみ限定されるものではなく、例えば、略直線状に形成されているような場合であってもよい。第2の回転中心C2に対して切削刃13aが傾斜して形成されていれば、後述する切削機能を実現することができるからである。
【0021】
このようにブレード13及びブレードホルダ18が構成されていることにより、第2の回転中心C2においてブレード13を回動させて、傾斜された方向に延在されている切削刃13aを第2の回転中心C2周りに回動させることが可能となっている。
【0022】
また、図1及び図2に示すように、面取り工具10には、このような第2の回転中心C2周りのブレード13の回動範囲を規制するとともに、後述するようにブレード13の回動位置(回動姿勢)の制御を行う回動位置制御機構(部材)20が備えられている。具体的には、回動位置制御機構20は、図1に示すようにブレード13における略中間付近、すなわち略直線状の上部部分と傾斜して形成された下部部分との間の位置に固定されるとともに、略水平方向に第1の回転中心C1に向けて延在して形成されたプレート部材21と、このプレート部材21における上記延在された側の端部に形成されたバネ掛け部22と、偏心ホルダ19において第1の回転中心を挟んでブレードホルダ18の固定位置と略対称の位置に形成されたバネ掛け部23と、それぞれのバネ掛け部22、23にその両端部が取り付けられた1つの回動位置制御用付勢バネ24とを備えている。また、図1に示すように、このように2つのバネ掛け部22、23の間に取り付けられた回動位置制御用付勢バネ24が、略水平方向に伸縮されるように、それぞれのバネ掛け部22、23における端部の高さ位置が上下方向において調整されており、例えば、ぞれぞれの端部は、偏心ホルダ19の下面の高さ位置と、ブレード13の略中間の高さ位置との間に位置されるように構成されている。
【0023】
また、回動位置制御用付勢バネ24は、このような取り付け状態において、弾性的に延伸された状態とされており、その結果、図2に示すようにブレード13に対して切削抵抗が負荷されていない状態において、切削刃13aが第2の回転中心C2と第1の回転中心C1との間に延在するように配置される位置である回動基準位置P1に位置させることが可能となっている。さらに、図2に示すように、ブレード13に対して切削抵抗が負荷されることにより、第2の回転中心C2周りの回動の方向に外力が作用されて、ブレード13が回動されるような場合であっても、回動基準位置P1に対する回動角度の大きさに応じて回動位置制御用付勢バネ24の延伸量が増加する、すなわり、回動角度が大きくなるにつれて、ブレード13を回動基準位置P1へ引き戻そうとする方向に作用する付勢力を増加させることができるため、ブレード13の正方向又は逆方向への回動範囲を規制することが可能となっている。なお、このようなブレード13の回動範囲としては、例えば、図2に示すように、回動基準位置P1に対して、反時計方向に45度だけ回動された回動位置P2と、時計方向に45度だけ回動された回動位置P3との間の範囲に設定することができる。
【0024】
(面取り工具により切削加工の原理)
次に、このような構成を有する面取り工具10により、切削加工対象物である金属材料等よりなる被加工部材(例えば板状部材)に形成された略円孔の開口の周縁端に対して行われる面取り加工(バリ取り加工も含む)の原理について、模式説明図を用いて以下に説明する。
【0025】
(平坦な周縁端に対する面取り加工)
まず、このような被加工部材30の表面が略平坦面であり、当該被加工部材30に形成された円孔31の周縁端31aが段部等を含むことなく、同一平面上に形成されているような場合について説明する。なお、図3(A)は、このような被加工部材30の円孔31の周縁端31aに対して、面取り工具10により面取り加工を行っている状態におけるブレード13の状態を示す模式断面図であり、図3(B)は、周縁端31aのそれぞれの回動位置においてブレード13の回動姿勢状態を示す模式平面図である。なお、図3(A)及び(B)においては、その説明の理解を容易なものとすることを目的とし、ブレード13の形状を線状に模式化して示しており、1本のブレード13の公転によるそれぞれの複数箇所の位置での状態を示している。
【0026】
まず、このような円孔31に対する面取り加工が行われる際には、円孔31の中心と、面取り工具10における第1の回転中心C1とを一致させるように両者に位置決めが行われ、その後、図示しない回転駆動装置を下降させることにより面取り工具10全体を下降させて、回動基準位置P1に位置された状態のブレード13の刃端13bが、円孔31の周縁端31aに当接させた状態とさせる。なお、このような当接状態においては、切削抵抗を確保するために、ブレード13の刃端13bを周縁端31aに押し付けるように、昇降用付勢バネ16を僅かに弾性圧縮させた状態とする必要がある。
【0027】
次に、このような状態から図3(B)に示すように、回転駆動装置により面取り工具10を第1の回転中心C1において時計方向に回転駆動させると、切削位置P31において、回動基準位置P1に位置されていた状態のブレード13に対して、当該回転駆動による周縁端31aと切削刃13aとの間の切削抵抗により生じる外力が作用され、当該外力によりブレード13が第2の回転中心C2において図示時計方向に回動される。このブレード13の回動により回動位置制御用付勢バネ24が延伸されることとなり、当該延伸によりブレード13の上記回動を引き戻そうとする方向に付勢力が作用されることとなる。上記外力は、周縁端31aと刃端13bとの間の切削角度により変化するものであり、切削角度が深く(大きく)なる(すなわち回動角度が小さくなる)にしたがって外力も大きくなり、切削角度が浅く(小さく)なる(すなわち回動角度が大きくなる)にしたがって外力は小さくなる。一方、付勢力は、付勢バネ24の延伸量に比例して変化するものであり、回動角度が大きくなるにしたがって付勢力は大きくなり、回動角度が小さくなるにしたがって付勢力は小さくなる。このような外力と付勢力とが釣り合うような回動位置に位置されるようにブレード13が第2の回転中心C2周りに回動されて回動位置の制御が行われた状態にて、切削加工が開始される。なお、図3(B)に示す切削位置P31においては、外力Fと付勢力Tとが釣り合った状態に回動位置を示している。
【0028】
ここで、ブレード13の回動角度αと、切削刃13aの周縁端31aに対する切削角度θとの関係を図6(A)及び(B)の模式説明図を用いて説明する。図6(A)に示すように、ブレード13が回動角度αだけ回動された状態においては、周縁端31aに対する切削刃13aの切削角度はθとなっており、回動角度と切削角度との関係は、θ+α=90度となる関係にある。このような状態より、図6(B)に示すように、回動角度がαからαへと増加されると、それに伴って切削角度はθからθへと減少されることになる。このように切削角度が減少されると、切削刃13aの刃端13bが周縁端31aを押圧する力が減少することとなり、その結果、切削抵抗が減少することとなる。従って、切削角度θと切削抵抗とは比例関係にあり、回動角度αと切削抵抗とは反比例の関係にある。なお、例えば、図6(B)に示す状態においては、刃端13bの周縁端31aへの当接位置より周縁端31aに対して直交する面と、切削刃13aの刃面との間の角がすくい角βであり、周縁端31aと切削刃13aの刃面との間の角が逃げ角γとなっている。
【0029】
上述したような釣り合い状態にて、ブレード13が第1の回転中心C1周りに公転されることで、ブレード13の切削刃13aが周縁端31aに沿って摺動され、周縁端31aに対する切削加工、すなわち周縁端31aのエッジ部分を除去するような面取り加工が行われる。また、このような円孔31の円周端31aには段部等が含まれていないため、図3(B)において、ブレード13が公転された場合における90度毎の切削位置P31〜P34のいずれの位置においても、外力Fと付勢力Tとの釣り合い状態が変化しないため、第2の回転中心C2に対するブレード13の回動位置は変化することなく一定の状態が保持されることとなる。すなわち、図3(A)に示すように、周縁端31aの高さ位置に変化がないため、図示左側の切削位置P31におけるブレード13の姿勢と、図示右側の切削位置P33におけるブレード13の姿勢とは、第1の回転中心C1に対して軸対称の関係にあり、ブレード13の高さ方向の変位も生じない(すなわち、昇降用付勢バネ16の圧縮状態が変位されることはない)。従って、略平坦面に形成された円孔31の周縁端31aに対して、略均一な状態で面取り加工を行うことができる。なお、図3(B)において示すRは、第2の回転中心C2の公転の軌跡である。
【0030】
(高さ方向に変位を有する周縁端に対する面取り加工)
次に、被加工部材40の表面が平坦面ではなく、段部41bあるいは隆起部分を含み、当該被加工部材40に形成された円孔41の周縁端41aがこのような段部等を含むような場合、すなわち、周縁端41aが同一平面に形成されていないような場合について説明する。なお、図4(A)は、このような被加工部材40の円孔41の周縁端41aに対して、面取り工具10により面取り加工を行っている状態におけるブレード13の状態を示す模式断面図であり、図4(B)は、周縁端41aのそれぞれの回動位置においてブレード13の回動姿勢状態を示す模式平面図である。なお、図4(A)及び(B)においても、ブレード13の形状を線状に模式化して示しており、1本のブレード13の公転によるそれぞれの複数箇所の位置での状態を示している。
【0031】
このような円孔41に対する面取り加工を行う際にも、円孔41の中心と、面取り工具10における第1の回転中心C1とを一致させるように両者の位置決めを行い、その後、切削抵抗を生じさせるように、昇降用付勢バネ16を弾性圧縮させた状態にて、ブレード13の切削刃13aを円孔41の周縁端41aに当接させた状態とさせる。
【0032】
次に、図4(B)に示すように、回動駆動装置による面取り工具10の第1の回転中心C1における時計方向の回転を駆動すると、図3(B)にて説明したように、切削抵抗により生じる外力Fと回動位置制御用付勢バネ24の弾性的な延伸により生じる付勢力Tとが釣り合うような第2の回転中心C2周りの回動位置に、ブレード13が回動された状態とされる(切削位置P41)。
【0033】
その後、このような回動姿勢が保持された状態にて、第1の回転中心C1周りのブレード13の公転が行われ、周縁端41aに対する切削刃13aの摺動により周縁端41aの面取り加工が開始される。
【0034】
さらにブレード13の公転が行われ、段部41bを有する周縁端41aの登り部分に到達すると、当該登り部分の形状によりブレード13に対する切削抵抗が増加することとなる。具体的には、図4(B)における切削位置P42において、ブレード13の回動姿勢が切削位置P41における回動姿勢と同じであると仮定した場合(図示点線にて示す)に、切削抵抗により生じる外力がFからFへと増加することで、F>Tとなり、ブレード13に作用されている外力と付勢力との釣り合い状態が崩れることとなる。その結果、ブレード13の回動角度が大きくなるように第2の回転中心C2周りのブレード13の回動が行われ、当該回動により切削抵抗により生じる外力は低減され、逆に付勢力は増大されることとなる。これにより、切削位置P42において、図示実線にて示すようなブレード13の回動姿勢にて、外力F2と付勢力T1とが釣り合った状態とされる(すなわち、F=T(F<F、T<T))。このような釣り合いが採れた状態の回動姿勢にてブレード13による周縁端41aに対する面取り加工が継続して行われる。
【0035】
ここで、このような切削抵抗の変位により生じる外力の変位、ブレード13の回動角度の変位、及びブレード13の高さ位置の変位の関係について、図4(A)を用いて説明する。
【0036】
図4(A)において、図示左側の切削位置P41に位置されているブレード13がその回動姿勢を保持した状態のまま180度公転されて図示右側の切削位置P42に位置された状態(仮想的な状態)のブレード13を図示点線にて示す。このような状態においては、段部41bを有する周縁端41aにおいて、ブレード13の切削刃13aが図示下方に位置されており、両者の間に高さ方向の変位ΔHが存在している。
【0037】
さらに、このような回動姿勢のブレード13(図示点線にて示す)を、切削位置P42において、図4(B)にて実線にて示す回動位置にまで回動させると、ブレード13自体の昇降を固定した状態においては、図4(A)において二点鎖線にて示すブレード13の回動姿勢のように、周縁端41aにおいてさらに高さ方向の変位ΔHだけ下方に位置されることとなる。このようなブレード13の第2の回転中心C2周りの回動、及び第1の回転中心C1周りの公転によるブレード13の高さ方向の変位量は、図4(A)及び(B)に示す模式説明図における幾何学的関係より求めることができる。従って、ブレード13自体の昇降が仮に固定された状態においては、このような段部41bの存在による切削抵抗の増加により、ブレード13が高さ方向に変位量(ΔH+ΔH)だけ下方に向けて仮想的に変位されることとなる。
【0038】
面取り工具10においては、このようなブレード13の高さ方向の変位量(ΔH+ΔH)は、シャフト11がシャフトホルダ12の内部に取り付けられている昇降用付勢バネ16を弾性圧縮しながら、ボールスプライン機構15に沿って上昇することで、吸収することができる。すなわち、ブレード13において生じる高さ方向の変位は、昇降用付勢バネ16の弾性圧縮状態の変位により吸収することができる。その結果、図4(A)において実線にて示すように、ブレード13が高さ方向に(ΔH+ΔH)だけ上昇されて、円孔41aの周縁端41aに切削刃13aが当接された状態とさせることができる。従って、円孔41の周縁端41aが段部等を含むような場合であっても、ブレード13の公転を行いながら、周縁端41aの高さ方向の上昇変位に拘わらず、面取り加工のための確実かつ円滑な摺動を行うことができる。
【0039】
以上は、このような段部等を有する周縁端41aに対する面取り加工において、周縁端41aの登り部分に対する面取り加工が行われる場合の原理についての説明であるが、次に、周縁端41aの降り部分に対する面取り加工が行われる場合の原理について説明する。当該説明にあたって、図5(A)及び(B)に模式説明図を示す。
【0040】
図5(B)に示すように、切削位置P42から切削位置P41へ向けて、周縁端41aの降り部分に沿ってブレード13の公転による摺動が行われると、この降り部分の形状によりブレード13に対する切削抵抗が減少することとなる。具体的には、図5(B)における切削位置P41において、ブレード13の回動姿勢が切削位置P42における回動姿勢と同じであると仮定した場合(図示点線にて示す)に、切削抵抗により生じる外力がFからFへと減少することで、F<Tとなり、ブレード13に作用されている外力と付勢力との釣り合い状態が崩れることとなる。その結果、ブレード13の回動角度が小さくさるように第2の回転中心C2周りのブレード13の回動が行われる。当該回動により切削抵抗により生じる外力が増加され、逆に付勢力は減少されることとなる。その結果、切削位置P41において、図示実線にて示すようなブレード13の回動姿勢にて、外力Fと付勢力Tとが釣り合った状態とされる(すなわち、F=T(F<F、T<T))。このような釣り合いが採れた状態の回動姿勢にてブレード13による周縁端41aに対する面取り加工が継続して行われる。
【0041】
ここで、上述の周縁端41aの登り部分の説明と同様に降り部分において、このような切削抵抗の変位により生じる外力の変位、ブレード13の回動角度の変位、及びブレード13の高さ位置の変位の関係について、図5(A)を用いて説明する。
【0042】
図5(A)において、図示右側の切削位置P42に位置されているブレード13がその回動姿勢を保持した状態のまま180度公転されて図示左側の切削位置P41に位置された状態(仮想的な状態)のブレード13を図示点線にて示す。このような状態においては、段部を有する周縁端41aにおいて、ブレード13の切削刃13aが図示上方に位置されており、両者の間に高さ方向の変位ΔHが存在している。
【0043】
さらに、このような回動姿勢のブレード13(図示点線にて示す)を、切削位置P41において、図5(B)にて実線にて示す回動位置にまで回動させると、ブレード13自体の昇降を固定した状態においては、図5(A)において二点鎖線にて示すブレード13の回動姿勢のように、周縁端41aにおいてさらに高さ方向の変位ΔHだけ上方に位置されることとなる。このようなブレード13の第2の回転中心C2周りの回動、及び第1の回転中心C1周りの公転によるブレード13の高さ方向の変位量は、図5(A)及び(B)に示す模式説明図における幾何学的関係より求められる。従って、ブレード13自体の昇降が仮に固定された状態においては、このような段部の存在による切削抵抗の減少により、ブレード13が高さ方向に変位量(ΔH+ΔH)だけ上方に向けて仮想的に変位されることとなる。なお、それぞれの高さ方向の変位は、ΔH=ΔH、ΔH=ΔHの関係にある。
【0044】
面取り工具10においては、上述の登り部分と同様に、このようなブレード13の高さ方向の変位量(ΔH+ΔH)は、弾性圧縮された状態にある昇降用付勢バネ16が延伸されることでシャフト11を押し下げて、ボールスプライン機構15に沿って下降させることで、吸収することができる。その結果、図5(A)において実線にて示すように、ブレード13が高さ方向に(ΔH+ΔH(=ΔH+ΔH))だけ下降されて、円孔41aの周縁端41aに切削刃13aが当接された状態とさせることができる。従って、円孔41の周縁端41aが段部等を含むような場合であっても、ブレード13の公転を行いながら、周縁端41aの高さ方向の下降変位に拘わらず、面取り加工のための確実かつ円滑な摺動を行うことができる。
【0045】
このように、円孔41の周縁端41aにおいて高さ方向の変位が含まれるような場合であっても、周縁端41aの高さ方向に変位に起因する切削抵抗の変位に対して、第2の回転中心C2周りにブレード13を回動させて切削刃13aと周縁端41aとの間の切削角度を変位させることで、上記切削抵抗により生じる外力Fと、回動角度の大きさに比例して生じる付勢力Tとの釣り合いを採って、第2の回転中心C2周りのブレード13の回動位置を制御しながら、周縁端41aの形状による高さ方向の変位だけでなく、切削抵抗の変位に対応するためのブレード13の上記回動による高さ方向の変位が加算された総合的なブレード13の高さ方向の変位量に対して、昇降用付勢バネ16の弾性圧縮量を変位させることで当該変位量の吸収を行うことができる。従って、円孔41の周縁端41aが高さ方向の変位を含むような形状を有する場合であっても、周縁端41aに沿って高い追従性でもって確実かつ円滑にブレード13の切削刃13aを摺動させることができ、周縁端41aに対する面取り加工を効率的に行うことができる。
【0046】
なお、本第1実施形態においては、このように昇降用付勢バネ16が、単に周縁端41aの段部の高さ変位を吸収するだけでなく、第2の回転中心C2周りのブレード13の回動によるブレード13の高さ方向の変位をも吸収する機能を有していることから、昇降用付勢バネ16が高さ方向変位吸収部材(機構)の一例となっている。
【0047】
また、本第1実施形態の面取り工具10においては、ブレード13の切削刃13aが、その刃端13bに対して対称形状を有しており、さらに切削抵抗が負荷されていない、いわゆるフリーな状態において、回動位置制御用付勢バネ24の付勢力により、ブレード13が回動基準位置P1に位置された状態とされるため、ブレード13は、第1の回転中心C1周りに時計方向(正方向)だけでなく反時計方向(逆方向)にも公転させることができる。このように正逆いずれの方向にも公転可能とされていることにより、例えば、周縁端41aの登り部分や降り部分において生じる切削抵抗の変位に起因する部分的な切削量のバラツキが生じるような場合であっても、周縁端41aに対してブレード13を正方向に公転駆動させることにより切削加工を行った後、ブレード13を逆方向に公転駆動させることにより切削加工を行うことで、上記登り部分や降り部分において生じる可能性のある切削量のバラツキを低減することができ、高精度な切削加工を実現することができる。
【0048】
また、このような面取り工具10は、切削装置等における回転駆動装置に脱着可能に装備されて切削加工を行うことができるため、このような段部を有する周縁端に対する加工として従来行われている手作業による切削加工とは異なり、作業効率を向上させることができるだけでなく、多数の同一被加工対象物に対する切削加工を再現性でもって行うことができるという利点を有する。
【0049】
また、上述において説明したように、切削抵抗により生じる外力と、回動位置制御用付勢バネ24により生じる付勢力との釣り合いにより、周縁端41aの高さ方向に位置の変位に応じて、ブレード13の回動位置が制御されることとなるが、このような回動位置の制御は、第1の回転中心C1周りのブレード13の微小な公転量毎に随時行われており、その結果、連続的な回動位置の制御がなされるものである。ただし、回転駆動装置によるシャフト11の回転駆動速度が高速化された場合には、回動位置制御用付勢バネ24の仕様(バネ定数等)によっては、回動位置の制御がブレード13の公転に追従できないような事態も考えられる。このような事態の発生を防止するため、シャフト11の回転駆動速度に応じて、回動位置制御用付勢バネ24の仕様を決定することが好ましい。具体的には、例えば、シャフト11を高速回転させて使用するような場合にあっては、回動位置制御用付勢バネ24のバネ定数を大きく設定することで、回動位置の制御追従性を良好なものとすることができる。一方、シャフト11を低速回転させて使用するような場合にあっては、バネ定数を小さく設定することで、周縁端41aの高さ変位量に応じて適格にブレード13の回動位置を変位させることができるため、高精度な切削加工を実現することができる。なお、回転駆動装置による面取り工具10を回転駆動させる回転速度としては、被加工対象物の材質、円孔の口径、そして面取り加工の精度等に応じて決定することが好ましい。このような回転速度としては、例えば、60〜300rpm程度の範囲内にて決定することができる。
【0050】
(第2実施形態)
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、本発明の第2の実施形態にかかる切削工具の一例である面取り工具は、上記第1実施形態の面取り工具10とは、その回動位置制御機構の構成のみが異なっているものであり、その他の構成は同様な構成となっている。このように異なる構成である回動位置制御機構50の構成を示す部分側面図を図7(A)に示す。
【0051】
図7(A)に示すように、本第2実施形態の面取り工具における回動位置制御機構50は、偏心ホルダ19にバネ掛け部23を備えさせない構造を採用している点において、上記第1実施形態の回動位置制御機構20と大きく異なる構成を有している。具体的には、回動位置制御機構50は、ブレード13の上部部分側面に形成された切り欠き部分13cに鋼球51を回動位置制御用付勢バネ52で押圧付勢することにより、ブレード13を回動基準位置P1に向けて常時付勢するような構成を有している。このような鋼球51と回動位置制御用付勢バネ52は、図7(B)に示すように、ブレードホルダ18の外周面に固定されたリング状のバネホルダ53の内側において取り付け保持されており、ブレードホルダ18においては、このような鋼球51及び付勢バネ52の取り付け位置に合わせて開口部が形成されている。
【0052】
このような構成が採用されていることにより、バネホルダ53内に設置された回動位置制御用付勢バネ52により鋼球51がブレード13の切り欠き部分13cに常時押圧付勢された状態とされ、このような状態において、ブレード13の回動が行われると、当該回動により切り欠き部分13cが鋼球51を押し戻して、回動位置制御用付勢バネ52を弾性圧縮し、その結果、付勢バネ52により回動基準位置P1に向けてブレード13を付勢するような力が作用されることとなる。従って、上記第1実施形態の回動位置制御機構20と同様な機能を得ることができる。
【0053】
なお、このような回動位置制御機構としては、上記それぞれの実施形態において採用しているような構造のみに限定されるものではなく、このようにブレード13の回動により付勢力を生じさせるような機能を有する他の構造を採用することもできる。
【0054】
また、ブレード13の形状については、切削刃13aが形成されている部分が第2の回転中心C2に対して傾斜されるように形成されていれば、上記それぞれの実施形態の効果を得ることが可能であるが、ブレードホルダ18に取り付け状態において、ブレード13の先端位置が第1の回転中心C1を大幅に超えてしまうような位置に位置されない程度にブレード13を傾斜させて形成することが好ましい。すなわち、ブレード13の傾斜部分が極端に長くなりすぎると、その先端部が円孔41の内周面に接触してしまい、公転による切削加工が困難となる場合があるからである。なお、傾斜の角度は、面取り加工の仕様により決定することができるが、例えば、30〜60度の範囲にて設定することが好ましい。
【0055】
また、第1の回転中心C1に対する第2の回転中心C2の偏心の程度は、切削加工対象物である円孔41の孔径により決定することが好ましい。なお、本発明はこのように第1の回転中心C1に対する第2の回転中心C2の偏心の位置が固定されているような構成についてのみ限定されるものではなく、例えば、図10に示す上記実施形態の変形例(例えば、上記第1実施形態の変形例)にかかる面取り工具60のように、第2の回転中心C2の偏心の位置を可変させることができるような構造が採用されるような場合であってもよい。具体的には、図10に示すように、切削部材保持部61において、水平方向に貫通孔部62aが設けられた偏心ホルダ62と、この貫通孔部62aに摺動可能に嵌合される棒状の偏心位置調整バー63とを備えさせ、偏心位置調整バー63の遠端側にブレードホルダ18を固定して、貫通孔部62aと偏心位置調整バー63との嵌合位置をスライド移動により調整することで、第2の回転中心C2の偏心位置を調整することができる。なお、このような嵌合位置は、固定用ネジ62bにより解除可能に固定することができる。このような構成を有する面取り工具60では、より広範な孔径範囲の円孔に対する面取り加工に対応することができる。
【0056】
また、上記それぞれの実施形態のような面取り工具10を用いて切削加工を行うような場合には、第1の回転中心C1と円孔41の中心との位置合わせを確実に行った後に当該切削加工を行うことが好ましいが、上述したように円孔41の周縁端41aの高さ位置の変位に追従して切削加工を行うことができるという機能を有しているため、上記位置合わせに多少の位置ズレが生じているような場合であっても、上記追従性の機能でもって適切な切削加工を実現可能という効果を得ることもできる。
【0057】
また、同様に、段部を含むような円孔41の周縁端41aを、仮想的に平面的に展開すると楕円、長円等、異形の円周曲線を有することとなるため、円孔が僅かに変形された異形の孔として形成されるような場合であっても、面取り工具10による面取り加工を実現することができる。
【0058】
また、ブレード13の高さ方向の変位を吸収する機構として、シャフトホルダ12内にボールスプライン機構15を装備させるような場合について説明したが、上記それぞれの実施形態はこのような場合についてのみ限定されるものではない。このような場合に代えて、例えば、ブレードホルダ18にブレード13の高さ変位を吸収するような機構を備えさせるような場合であってもよい。シャフトユニット9において、このような高さ変位を吸収する機構が備えられていれば良いからである。
【0059】
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第1の実施形態にかかる面取り工具の構造を示す側面図である。
【図2】図1の面取り工具における下面図である。
【図3】上記第1実施形態の面取り工具により平坦な円孔に対する面取り加工を行う原理を説明するための模式説明図であり、(A)は円孔の断面図であり、(B)は円孔の平面図である。
【図4】上記第1実施形態の面取り工具により段部を有する円孔の登り部分に対する面取り加工を行う原理を説明するための模式説明図であり、(A)は円孔の断面図であり、(B)は円孔の平面図である。
【図5】上記第1実施形態の面取り工具により段部を有する円孔の降り部分に対する面取り加工を行う原理を説明するための模式説明図であり、(A)は円孔の断面図であり、(B)は円孔の平面図である。
【図6】上記第1実施形態の面取り工具において、第2の回転中心周りのブレードの回動角度と切削刃の切削角度との関係を示す模式平面図であり、(A)は回動角度が相対的に小さく、切削角度が相対的に大きい状態を示す図であり、(B)は回動角度が相対的に大きく、切削角度が相対的に小さい状態を示す図である。
【図7】本発明の第2の実施形態にかかる面取り工具の回動位置制御機構の構造を示す図であり、(A)は側面図であり、(B)はバネホルダの平面図である。
【図8】従来の面取り工具により円孔の面取り加工を行う方法を説明するための模式説明図であり、(A)は面取り加工開始時の状態を示す図であり、(B)は面取り加工が完了した状態を示す図である。
【図9】従来の面取り工具により段部を有する円孔に対する面取り加工を行う方法を説明するための模式説明図である。
【図10】上記第1実施形態の変形例にかかる面取り工具の模式外観斜視図である。
【符号の説明】
【0061】
9 シャフトユニット
10、60 面取り工具
11 シャフト
12 シャフトホルダ
13 ブレード
13a 切削刃
13b 刃端
14 切削部材保持部
15 ボールスプライン機構
16 昇降用付勢バネ
17 調節ネジ
18 ブレードホルダ
19 偏心ホルダ
20 回動位置制御機構
21 プレート部材
22、23 バネ掛け部
24 回動位置制御用付勢バネ
29 コレットチャック
30、40 被加工部材
31、41 円孔
31a、41a 周縁端
41b 段部
C1 第1の回転中心
C2 第2の回転中心
P1 回動基準位置
F 外力
T 付勢力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動装置に脱着可能に装備され、当該回転駆動装置により回転駆動されることで、切削加工対象物である略円孔(41)の周縁端(41a)に対する切削加工を行う切削工具(10、60)であって、
上記回転駆動装置に装備可能であって、その中心軸を上記回転駆動の第1の回転中心(C1)として備えるシャフトユニット(9)と、
上記第1の回転中心に対して偏心された第2の回転中心(C2)において回動可能に当該シャフトユニットの一端に取り付けられるとともに、上記第2の回転中心に対して傾斜された方向に延在し、かつ当該第2の回転中心側に向けて配置された刃端(13b)を有する切削刃(13a)が形成された大略棒状の切削部材(13)と、
上記切削部材に取り付けられ、切削抵抗によって上記第2の回転中心周りの上記回動の方向において上記切削部材に作用される外力(F)に抗するように当該切削部材を付勢して、当該切削部材の回動の位置を制御する回動位置制御部材(20、50)と、
上記シャフトユニットに取り付けられ、上記周縁端の高さ位置の変位、及び上記切削部材の上記回動に伴う上記周縁端に対する上記切削刃の当接高さ位置の変位を吸収するように、上記第1の回転中心に沿って上記切削部材を昇降させる高さ変位吸収部材(16)とを備え、
上記第1の回転中心周りに上記シャフトユニットを回転駆動させて上記切削部材を公転させ、上記略円孔の周縁端に沿って上記切削刃の摺動を行うとともに、上記周縁端の高さ位置の変位に伴う上記外力の変位に応じて、上記回動位置制御部材により上記付勢される力を変位させて上記切削部材の上記回動の位置を制御し、かつ上記高さ変位吸収部材により当該周縁端の高さ位置の変位、及び上記切削部材の上記回動に伴う上記当接高さ位置の変位を吸収しながら、上記切削加工対象物の切削加工を行うことを特徴とする切削工具。
【請求項2】
上記切削刃は上記刃端に対して対称形状を有し、
上記回動位置制御部材は、上記切削抵抗が生じていない状態において、上記第1の回転中心と上記第2の回転中心との間に上記切削刃が延在するような位置である回動基準位置(P1)に上記切削部材が位置されるように、当該切削部材に対する上記付勢を行う請求項1に記載の切削工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−83336(P2007−83336A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−274361(P2005−274361)
【出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(505356446)有限会社興国産業 (2)
【Fターム(参考)】