説明

切断刃

【課題】鋭角の超ファインエッジ刃先を形成することができ、また髭や毛髪を導入しやすい薄肉の刃を形成することができ、またマクロ的・ミクロ的に三次元の任意の形状に形成することができると共に、形状・寸法を高精度に形成することができ、さらに耐磨耗性および耐食性に優れ刃先寿命を大幅に改善することができる切断刃を提供する。
【解決手段】鋭角な切刃角を形成する刃先6を備えた切断刃Aにおいて、少なくとも刃先6の部分が金属ガラス合金により形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、髭や毛髪を切断する切断刃に関するものであり、特に電気カミソリや電気バリカンに使用される切断刃に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、髭や毛髪を切断する器具として、電気カミソリ、電気バリカン、安全カミソリなどがある。電気カミソリや電気バリカンは一対の切断刃で形成され、一方の切断刃の刃穴に髭や毛髪を導入し、他方の切断刃との間の刃先間で髭や毛髪をはさみ切りするようにしたものであり、また安全カミソリは肌にある種の潤滑効果を持たせたウェット状態で、単一の切断刃で髭を切断するようにしたものである。これらの切断刃の構成材料は、主としてマルテンサイト系ステンレス鋼やNi電鋳などの高硬度・高強度・高耐食材料が使用されている(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
マルテンサイト系ステンレス鋼を用いて切断刃を作製する場合は、刃形状に加工して熱処理した後の刃先研削で刃先先端形状が形成されるが、研削バリが発生することを抑制することに大きな課題がある。また、Ni電鋳で切断刃を作製する場合は、三次元的に複雑な形状や厚い切断刃を製造することができないという課題がある。さらに両者の材料に共通する課題は、強度や硬度が最大でHv600程度と限界があるということであり、それ以上の高強度・高硬度材料は脆いために切断刃に塑性加工することができない。また切断刃は、人が日常使用する刃物であるため、使用途中での割れや折れを防止するうえで剛性が必要であり、従来の材料で切断刃を作製する場合、刃体積が大きくなり、切断する髭や毛髪を導入し難くなるという問題もあり、さらに従来の材料では刃先磨耗による切れ味劣化は避けられず寿命にも問題がある。従って現在、工業生産された切断刃は、これらの制約条件下で設計されている。
【特許文献1】特開平2003−313612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように従来から使用される金属材料で切断刃を作製する場合、使用材料の強度・硬度、塑性加工性、電気的加工性、研削加工性に問題があるものであった。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、鋭角の超ファインエッジ刃先を形成することができ、また髭や毛髪を導入しやすい薄肉の刃を形成することができ、またマクロ的・ミクロ的に三次元の任意の形状に形成することができると共に、形状・寸法を高精度に形成することができ、さらに耐磨耗性および耐食性に優れ刃先寿命を大幅に改善することができる切断刃を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1に係る切断刃は、鋭角な切刃角を形成する刃先を備えた切断刃において、少なくとも刃先の部分が金属ガラス合金により形成されて成ることを特徴とするものである。
【0007】
この発明によれば、切断刃の刃先を型形状への転写性が極めて優れる金属ガラス合金で形成することによって、鋭角の超ファインエッジ刃先に、また髭や毛髪を導入しやすい薄肉の刃に、またマクロ的・ミクロ的に三次元の任意の形状に形成すると共に、形状・寸法を高精度に形成することができ、さらに耐磨耗性および耐食性に優れ刃先寿命を大幅に改善することが可能になるものである。
【0008】
本発明の請求項2に係る切断刃は、鋭角な切刃角を形成する刃先を形成した刃孔が多数存在するシート形状の切断刃において、少なくとも刃先の部分が金属ガラス合金から形成されて成ることを特徴とするものである。
【0009】
この発明によれば、刃孔の刃先を型形状への転写性が極めて優れる金属ガラス合金で形成することによって、鋭角の超ファインエッジ刃先に、また髭や毛髪を導入しやすい薄肉の刃に、またマクロ的・ミクロ的に三次元の任意の形状に形成すると共に、形状・寸法を高精度に形成することができ、さらに耐磨耗性および耐食性に優れ刃先寿命を大幅に改善することが可能になるものである。
【0010】
本発明の請求項3に係る電気カミソリの切断刃は、多数の穴状の刃孔を有するシート状の外刃とこの外刃の内面を摺動する内刃とを備えて外刃と内刃とで髭を切断する電気カミソリ用の切断刃において、外刃と内刃の少なくとも一方の、少なくとも刃先の部分が金属ガラス合金から形成されて成ることを特徴とするものである。
【0011】
この発明によれば、外刃や内刃の刃先を型形状への転写性が極めて優れる金属ガラス合金で形成することによって、鋭角の超ファインエッジ刃先に、また髭や毛髪を導入しやすい薄肉の刃に、またマクロ的・ミクロ的に三次元の任意の形状に形成すると共に、形状・寸法を高精度に形成することができ、さらに耐磨耗性および耐食性に優れ刃先寿命を大幅に改善することが可能になるものである。
【0012】
本発明の請求項4に係る電気バリカンの切断刃は、多数の櫛状の刃を有する板状の固定刃とこの固定刃と摺動する可動刃とを備えて固定刃と可動刃とで毛髪を切断する電気バリカン用の切断刃において、固定刃と可動刃の少なくとも一方の、少なくとも刃先の部分が金属ガラス合金から形成されて成ることを特徴とするものである。
【0013】
この発明によれば、固定刃や可動刃の刃先を型形状への転写性が極めて優れる金属ガラス合金で形成することによって、鋭角の超ファインエッジ刃先に、また髭や毛髪を導入しやすい薄肉の刃に、またマクロ的・ミクロ的に三次元の任意の形状に形成すると共に、形状・寸法を高精度に形成することができ、さらに耐磨耗性および耐食性に優れ刃先寿命を大幅に改善することが可能になるものである。
【0014】
また請求項5の発明は、請求項1乃至4のいずれかにおいて、上記金属ガラス合金は下記式(1)〜(5)の組成のいずれかから成ることを特徴とするものである。
【0015】
Cu …(1)
(式(1)において、M=Al,Zr,Ni,Ti,Sn,Pb,Hf,Ta,Ga,Co,Fe,Mo,Cr,Si,B,Cより選ばれた1種以上の元素、2≦x≦65,35≦y≦88、x+y=100)
Zr …(2)
(式(2)において、M=Al,Ni,Cu,Ti,Sn,Pb,Hf,Ta,Ga,Co,Fe,Mo,Cr,Si,B,Cより選ばれた1種以上の元素、2≦x≦65,35≦y≦88、x+y=100)
Ni …(3)
(式(3)において、M=Al,Zr,Cu,Ti,Sn,Pb,Hf,Ta,Ga,Co,Fe,Mo,Cr,Si,B,Cより選ばれた1種以上の元素、2≦x≦65,35≦y≦88、x+y=100)
TixMy …(4)
(式(4)において、M=Al,Ni,Cu,Zr,Sn,Pb,Hf,Ta,Ga,Co,Fe,Mo,Cr,Si,B,Cより選ばれた1種以上の元素、2≦x≦65,35≦y≦88、x+y=100)
FexMy …(5)
(式(5)において、M=Al,Ni,Cu,Ti,Sn,Pb,Hf,Ta,Ga,Co,Zr,Mo,Cr,Si,B,Cより選ばれた1種以上の元素、2≦x≦65,35≦y≦88、x+y=100)
この発明によれば、金属ガラス合金で切断刃を形成することによる上記の効果をより高く得ることができるものである。
【0016】
また請求項6の発明は、請求項1乃至5のいずれかにおいて、上記金属ガラス合金の密度が、同一組成の合金の結晶化後の密度に対して、0.5%以上小さいことを特徴とするものである。
【0017】
この発明によれば、金属ガラス合金の加工性がより良好になり、金属ガラス合金で切断刃を形成することによる上記の効果をより高く得ることができるものである。
【0018】
また請求項7の発明は、請求項1乃至6のいずれかにおいて、上記金属ガラス合金の表面には、酸化処理、窒化処理から選ばれる表面改質、あるいは表面コーティングが施されていることを特徴とするものである。
【0019】
この発明によれば、金属ガラス合金単体で切断刃を形成する場合よりも、耐磨耗性および耐食性により優れ、かつ、刃先寿命をさらに改善した切断刃を実現することができるものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、切断刃の少なくとも刃先を型形状への転写性が極めて優れる金属ガラス合金で形成することによって、鋭角の超ファインエッジ刃先に、また髭や毛髪を導入しやすい薄肉の刃に、またマクロ的・ミクロ的に三次元の任意の形状に形成すると共に、形状・寸法を高精度に形成することができるものであり、さらに耐磨耗性および耐食性に優れ刃先寿命を大幅に改善することが可能になるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0022】
図1は切断刃Aの一例を示すものであり、図1(a)は電気カミソリの外刃1として使用される切断刃Aを、図1(b)は電気カミソリの内刃2として使用される切断刃Aを示すものである。外刃1の内側を摺接して内刃2が往復運動することによって、外刃1に設けた刃孔5に導入された髭を、外刃1と内刃2の間で切断することができるものである。図1の実施の形態では往復駆動方式の電気カミソリについて示したが、外刃1の内側を摺接して内刃2が回転運動することによって、髭を切断するようにした回転駆動方式の電気カミソリであってもよい。
【0023】
図1(a)の外刃1は上記のように多数の刃孔5を有するシート状(薄板状)に形成されるものであり、刃孔5と網目状の桟部10とからなるものである。刃孔5は桟部10の網目として形成されるものであり、刃孔5の閉ループとなった内周先端に刃先6が形成してあり、刃先6は髭を切断する役割を果たす。また桟部10は刃孔5の刃先6よりも厚く形成されるものであり、刃孔5の刃先6を支える役割を有すると共に、髭の起毛や絞り出しと同時に肌を保護する役割がある。
【0024】
ここで、外刃1による髭の切断性能は、切刃角(先端角度)と刃先エッジの大きさから決まる、刃孔5の刃先6の鋭利さで大きく左右されるものであり、切刃角αは30°以下の鋭角になっていることが、刃先エッジの刃先先端R(曲率半径)は0.5μm以下であることが望ましい(刃先6の切刃角α及び刃先先端Rについては図2(b)参照)。切刃角αを30°以下の鋭角に形成することによって、髭や毛髪の切断抵抗を低減することができ、スムーズな切れ味性能だけでなく、一度に多数の髭や毛髪の切断が可能な高カット能力と長い刃先寿命を有した外刃1(切断刃A)を実現できるものである。また刃先先端Rを0.5μm以下にすることによって、髭や毛髪の切断抵抗を低減することができ、スムーズな切れ味性能だけでなく、一度に多数の髭や毛髪の切断が可能な高カット能力と長い刃先寿命を有した外刃1(切断刃A)を実現できるものである。
【0025】
また、外刃1において刃孔5が占める面積が大きい程、一度に多数の髭や毛髪の切断が可能にあるので、刃孔5が占める面積つまり開口面積率は55%以上であることが望ましい。そしてこの刃孔5の開口面積率は桟部10の幅で決まるので、刃孔5の開口面積率を55%以上にするためには、桟部10の幅寸法を小さくする必要がある。また桟部10の厚さ設計が髭の導入性および髭剃り後の髭の短さを決めるものであり、さらに桟部10や外刃1の三次元形状・寸法の精度が重要である。外刃1の三次元形状・寸法の精度は、外刃1と内刃2の隙間精度に関わり、髭切断性能を左右するものであり、また髭の導入性及び髭剃り後の髭の短さや肌保護性能に関わるものである。
【0026】
外刃1などの切断刃Aには、上記のような刃孔5の刃先6の切刃角α及び刃先先端R、刃孔5の開口面積率、三次元形状・寸法の精度が要求されるものであり、このような要求を満たす切断刃Aをマルテンサイト系ステンレス鋼やNi電鋳などの従来の材料で作製することは難しい。そこで本発明は、金属ガラス合金を用いて切断刃Aを作製するようにしたものである。切断刃Aの全体を金属ガラス合金で作製するようにしてもよいが、刃孔5の刃先6のみを金属ガラス合金で作製するようにしてもよい。金属ガラス合金は、結晶化温度領域(Tx)以下に、ガラス遷移とそれに続く過冷却液体領域を有する、非晶質層を主体とする合金である。そして金属ガラス合金のこの過冷却液体領域を利用して、容易に加工することができるものであり、上記のような要求を満たす切断刃Aを容易に作製することが可能になるものである。
【0027】
金属ガラス合金としては、切断刃Aとして要求される特性に優れる元素を多く含むものが望ましく、例えばCuを含むような合金組成が望ましいが、必ずしもこれに限定されるものではない。本発明において好適に使用される金属ガラス合金の合金組成として、下記式(1)〜(5)のものを挙げることができる。尚、組成の添え字の数値は、金属組成比(原子百分率)を示すものである。
【0028】
Cu …(1)
(式(1)において、M=Al,Zr,Ni,Ti,Sn,Pb,Hf,Ta,Ga,Co,Fe,Mo,Cr,Si,B,Cより選ばれた1種以上の元素、2≦x≦65,35≦y≦88、x+y=100)
この式(1)のCu系の金属ガラス合金としては次のものを例示することができる。
Cu−Zr−Ti(例えば、Cu60Zr30Ti10
Cu−Ti−Ni−Hf−Zr−Si(例えば、Cu42.5Ti41.5Ni7.5HfZr2.5Si
Zr …(2)
(式(2)において、M=Al,Ni,Cu,Ti,Sn,Pb,Hf,Ta,Ga,Co,Fe,Mo,Cr,Si,B,Cより選ばれた1種以上の元素、2≦x≦65,35≦y≦88、x+y=100)
この式(2)のZr系の金属ガラス合金としては次のものを例示することができる。
Zr−Cu−Al(例えば、Zr50Cu40Al10
Zr−Cu−Ni−Al(例えば、Zr50Cu30Ni10Al10
Zr−Cu−Ni−Al−Ti(例えば、Zr53Cu20Ni12Al10Ti
Ni …(3)
(式(3)において、M=Al,Zr,Cu,Ti,Sn,Pb,Hf,Ta,Ga,Co,Fe,Mo,Cr,Si,B,Cより選ばれた1種以上の元素、2≦x≦65,35≦y≦88、x+y=100)
この式(3)のNi系の金属ガラス合金としては次のものを例示することができる。
Ni−Nb−Ti−Zr−Co―Cu(例えば、Ni53Nb20Ti10ZrCoCu
Ni−Nb−Ti−Zr(例えば、Ni60Nb15Ti15Zr10
Ni−Nb−Ti(例えば、Ni60Nb15Ti25
Ni−Nb−Zr(例えば、Ni60Nb20Zr20
Ni−Nb−Ti−Zr−Fe(例えば、Ni55Nb15Ti15Zr10Fe
Ni−Nb−Ti−Zr−Co(例えば、Ni55Nb15Ti15Zr10Co
Ni−Nb−Ti−Zr−Cu(例えば、Ni55Nb15Ti15Zr10Cu
Ni−Nb−Ti−Zr−Co−Cu(例えば、Ni53.5Nb20.2Ti10.1Zr7.1Co6.1Cu
TixMy …(4)
(式(4)において、M=Al,Ni,Cu,Zr,Sn,Pb,Hf,Ta,Ga,Co,Fe,Mo,Cr,Si,B,Cより選ばれた1種以上の元素、2≦x≦65,35≦y≦88、x+y=100)
この式(4)のTi系の金属ガラス合金としては次のものを例示することができる。
Ti−Zr−Cu−Ni−Hf(例えば、Ti45Zr2.5Cu42.5Ni7.5Hf2.5
Ti−Zr−Cu−Ni−Nb(例えば、Ti45Zr2.5Cu42.5Ni7.5Nb2.5
Ti−Zr−Cu−Ni−Ta(例えば、Ti45Zr2.5Cu42.5Ni7.5Ta2.5
Ti−Zr−Cu−Ni−V(例えば、Ti45Zr2.5Cu42.5Ni7.52.5
Ti−Zr−Cu−Ni−Sn(例えば、Ti45Zr2.5Cu42.5Ni7.5Sn2.5
Ti−Zr−Cu−Ni−Al(例えば、Ti45Zr2.5Cu42.5Ni7.5Al2.5
Ti−Zr−Cu−Ni−Si(例えば、Ti45Zr2.5Cu42.5Ni7.5Si2.5
Ti−Zr−Cu−Ni−Pb(例えば、Ti45Zr2.5Cu42.5Ni7.5Pb2.5
Ti−Zr−Cu−Ni−Ga(例えば、Ti45Zr2.5Cu42.5Ni7.5Ga2.5
Ti−Zr−Cu−Ni−Y(例えば、Ti46.3Zr2.45Cu41.45Ni7.32.5
Ti−Zr−Cu−Ni−B(例えば、Ti45Zr2.5Cu42.5Ni7.52.5
Ti−Zr−Hf−Cu−Ni−Si(例えば、Ti41.5Zr2.5HfCu42.5Ni7.5Si
Ti−Zr−Cu−Ni−Si−B(例えば、Ti45Zr2.5Cu42.5Ni7.5Si0.5
Ti−Cu−Ni−Fe−Mo(例えば、Ti52Cu23Ni11FeMo
Ti−Cu−Ni−Zr−Al−Si−B(例えば、Ti53.5Cu21Ni12ZrAlSi0.5
Ti−Cu−Ni−Zr(例えば、Ti40Cu45NiZr10
FexMy …(5)
(式(5)において、M=Al,Ni,Cu,Ti,Sn,Pb,Hf,Ta,Ga,Co,Zr,Mo,Cr,Si,B,Cより選ばれた1種以上の元素、2≦x≦65,35≦y≦88、x+y=100)
この式(5)のFe系の金属ガラス合金としては次のものを例示することができる。
Fe−Si−B−Nb(例えば、Fe71Si20Nb
Fe−Co−Si−B−Nb(例えば、Fe57.6Co14.4Si20Nb
Fe−Si−B−Nb(例えば、Fe72Si20Nb
Fe−Ni−B(例えば、Fe60Ni2020
Fe−Cr−Mo−C−B−Er(例えば、Fe48Cr15Mo1415Er
Fe−Mo−C−B−Er(例えば、Fe63Mo1415Er
Fe−Ni−Si−B−Nb(例えば、Fe43Ni29Si20Nb
Fe−Nb−B(例えば、Fe72Nb24
Fe−Co−Ni−B−Si−Nb(例えば、Fe57.6Co7.2Ni7.219.2Si4.8Nb
金属ガラス合金の一例としてZr−Cu系のZr50Cu40Al10を挙げて説明する。Zr50Cu40Al10金属ガラス合金は433℃においてガラス転移現象を示し、519℃の結晶化温度に至るまでの温度範囲内において過冷却液体領域となる(Y.Yokoyamaet al.Materials Transactions,Vol.46,No.12(2005)pp.2755―2761を参照)。そしてZr50Cu40Al10金属ガラス合金はこの過冷却液体領域では、変形抵抗は小さく大歪の塑性変形をさせることができる。従って、433℃〜450℃程度の過冷却液体領域の温度で、金属ガラス合金の薄板を金型プレス加工などで加工することによって、複雑な形状でも成形型の形状に極めて忠実な形状に成形することができるものである。この過冷却液体領域での加工とは別に、金属ガラス合金を溶融状態から直接、冷却型に注入して成形する方法も有望であり、薄肉に成形する場合には、湯流れを良くするために圧入をかけて注入することが望ましい。また、単純な形状で小さい塑性歪で成形することができる場合には、金属ガラス合金の薄板を冷間で金型プレス加工することが可能である。特に、金属ガラス合金の密度が同一組成の合金の結晶化後の密度に対して0.5%以上小さいものは、靭性に富むので、冷間での加工が容易になるものである。これらのどの方法においても、型形状への転写性が極めて優れる金属ガラス合金の特徴を活かして成形することができるものであり、特定の方法に限定されるものではない。
【0029】
このように金属ガラス合金は型形状への転写性が極めて優れるものであり、図2に示すように(図2は外刃1の枠部10の部分を切断した断面の顕微鏡拡大写真を図で示したものである)、刃孔5の刃先6を切刃角α=30°以下、刃先先端R=0.5μm以下に形成することが可能になるものである。さらに、刃孔5の開口面積率=55%以上になるように枠部10の幅寸法を小さくし、三次元形状・寸法を精度高く形成した外刃1を作製することができるものである。従って、1.鋭角刃の超ファインエッジ刃先、2.髭を導入しやすい薄肉の刃、3.マクロ的・ミクロ的に三次元の任意の形状刃、かつ高精度の形状を有した刃を有する外刃1を作製することができるものであり、さらに4.耐磨耗性および耐食性に優れ刃先寿命を大幅に改善することができるものである。
【0030】
尚、上記では、電気カミソリの外刃1を金属ガラス合金で作製する実施の形態を説明したが、電気カミソリの図1(b)に示す内刃2を金属ガラス合金で作製するようにしてもよい。この場合、内刃2の刃先6のみを金属ガラス合金で作製するようにしてもよい。
【0031】
また、図3は切断刃Aの他の一例を示すものであり、図3(a)は電気バリカンの可動刃4として使用される切断刃Aを、図3(b)は電気バリカンの固定刃3として使用される切断刃Aを示すものである。固定刃3に摺動して可動刃4が往復運動することによって、固定刃3と可動刃4にそれぞれ櫛歯状に設けた刃先6で毛髪を切断することができるものである。この電気バリカンの固定刃3や可動刃4も上記と同様に金属ガラス合金で作製することができるものであり、固定刃3や可動刃4の刃先6のみを金属ガラス合金で作製するようにしてもよい。
【0032】
上記のように金属ガラス合金で形成される切断刃Aの表面には、酸化処理、窒化処理から選ばれる表面改質、あるいは表面コーティングを施すことができる。
【0033】
酸化処理は、例えば、脱脂後約380℃で60分間、大気酸化させることによって、Zr50Cu40Al10などの金属ガラス合金の表面に、Zrの酸化物層を形成することによって行なうことができる。この処理により、摺動性や耐摩耗性が向上するものである。
【0034】
窒化処理としては、例えば、窒素元素を含む反応性のガスあるいは窒素ガス中でのグロー放電を利用した窒化処理や、高純度窒素ガス中で試料を400℃近傍に加熱して行なう窒化処理などがあり、これらの窒化処理により、主として、Zrの高硬度窒化物を表面近傍に緻密に形成することができるものである。
【0035】
表面コーティングとしては、例えば、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)の皮膜や、Ni電鋳メッキでNi皮膜を形成する方法を採用することができる。その他、一般的な高硬度物質の皮膜を、PVDやCVDで形成するようにしても良いものであり、この場合、過冷却液体領域温度400℃を大きく超えない温度(450℃)以下で行うことが必要である。DLCコーティングは、例えば、黒鉛ターゲットを用いて水素ガスを含むガス雰囲気中でのPVD、あるいは、水素元素を含む反応性ガス中でのCVDで形成することができる。この場合も、過冷却液体領域温度400℃を大きく超えない温度(450℃)以下で行うことが必要である。この場合、高度はHv=2000〜3000と極めて高い皮膜で覆うことが可能となる。
【実施例】
【0036】
次に、図1(a)の外刃1をZr−Cu系金属ガラス合金(Zr50Cu40Al10)で試作した実施例について説明する。
【0037】
まず急冷速度を10Kに設定した急冷法で金属ガラス合金の厚さ0.03mmの薄板を作製し、この薄板の刃孔5に相当する部分に下穴をパンチングで明けた。次に、この金属ガラス合金の薄板を金型にセットし、誘導加熱方式で433℃〜450℃の間に急速加熱した後、約3秒でプレス成形して孔刃5と枠部10を成形し、急冷した。このようにして得られた外刃1の刃孔5の刃先6のみを革で軽く仕上げた。図2はこのようにして作製した外刃1の桟部10の切断した断面を顕微鏡で拡大して示したものであり、断面形状・寸法は設計された金型どおりの寸法精度の形状が得られた。そして総ての刃孔5において、刃先6の切刃角α=20°、刃先6の先端エッジ部のR=0.3μmに形成することができた。また桟部10の幅は0.12mmであり、刃の厚さtは0.06mmと0.04mmが連続的につながっているものであった。
【0038】
上記のようにして作製した外刃1において、刃孔5に髭を1本導入し、外刃1を10mm/秒で動かしたときの切断抵抗を測定したところ、15〜20grfであった。これは、市販の安全カミソリの20grfと比べて同等以下の優れた切れ味であった。また桟部10の幅は0.12mmであり、刃孔5の開口面積率は65%に達し、現在市販の外刃の51%の開口面積率よりも大幅に大きくすることができるものであった。また0.06mmと0.04mmの二種の刃厚のうち、0.04mmの桟部10は、肌面にほぼ平行に生えた髭を起毛できることを観察できた。結果として、髭の刃孔5への導入率は現在市販の外刃に対して約2倍に増加するものであった。
【0039】
ここで、市販のマルテンサイト系ステンレスで2種の刃厚が連続した形状に外刃を作製する場合、焼入れ時に歪が大きく発生して寸法精度を充分に得ることができない。また、刃孔の閉ループに形成される刃先を研削加工などで作製するにあたって、刃先の切刃角α=20°では膨大な研削バリが発生するものであり、また刃先エッジRを1μm以下にすることは極めて困難である。さらに、市販のマルテンサイト系ステンレスの焼入れ後の強度には限界があり、桟部の幅を1.8mm以下にすると刃折れや刃変形を生じ、実用に耐えない。
【0040】
尚、上記のように厚さ0.03mmの金属ガラス合金の薄板を作製するにあたって、急冷速度を10Kと10Kの二種類の冷却速度で行なった。そしてそれぞれの薄板について、同一組成の合金の結晶化後の密度に対する、結晶化による密度変形率を測定したところ、前者の薄板は0.6%小さく、後者の薄板は0.2%小さいものであった。そしてこれらの薄板を上記のように外刃1に加工して、髭剃り試験を行なった結果、前者の薄板から作製した外刃1は靭性があり刃折れは皆無であったが、後者の薄板から作製した外刃1はやや脆く刃折れが部分的に存在した。従って、金属ガラス合金の密度が、同一組成の合金の結晶化後の密度に対して、0.5%以上小さいことが好ましいことが確認される。
【0041】
次に、上記のようにして作製した金属ガラス合金の外刃1について、表面無処理のものと、表面酸化処理して厚さ0.1μmの酸化被膜を形成したものと、厚さ0.1μmのDLCをコーティングしたものと、の三種類の切断性能寿命の比較試験を行った。表面酸化処理は、脱脂後約380℃で60分間大気酸化することによって行なった。またDLCコーティングは、黒鉛ターゲットを用い水素ガスを含むガス雰囲気中で400℃でPVDを行なうことによって形成した。
【0042】
結果は、表面無処理の外刃1に対して、表面酸化処理した外刃1は約2倍、DLCコーティングした外刃1は約3倍の切断性能寿命が得られた。また食塩水中に浸漬することによる耐食性についても、ほぼ同等の結果が得られた。一方、市販のマルテンサイト系ステンレスで作製した外刃の刃先寿命は、鋭角ファインエッジになるほど極端に短くなるものであり、また食塩水中浸漬による耐食性試験においてもその寿命は極端に短いものである。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】電気カミソリの切断刃を示すものであり、(a)は外刃の斜視図、(b)は内刃の斜視図である。
【図2】外刃の桟部の部分を切断した断面の顕微鏡拡大写真を図で示したものであり、(a)は桟部の全体を示し、(b)は刃先の部分をさらに拡大したものである。
【図3】電気バリカンの切断刃を示すものであり、(a)は可動刃の斜視図、(b)は固定刃の斜視図である。
【符号の説明】
【0044】
1 外刃
2 内刃
3 固定刃
4 可動刃
5 刃孔
6 刃先
A 切断刃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋭角な切刃角を形成する刃先を備えた切断刃において、少なくとも刃先の部分が金属ガラス合金により形成されて成ることを特徴とする切断刃。
【請求項2】
鋭角な切刃角を形成する刃先を形成した刃孔が多数存在するシート形状の切断刃において、少なくとも刃先の部分が金属ガラス合金から形成されて成ることを特徴とする切断刃。
【請求項3】
多数の穴状の刃孔を有するシート状の外刃とこの外刃の内面を摺動する内刃とを備えて外刃と内刃とで髭を切断する電気カミソリ用の切断刃において、外刃と内刃の少なくとも一方の、少なくとも刃先の部分が金属ガラス合金から形成されて成ることを特徴とする電気カミソリ用の切断刃。
【請求項4】
多数の櫛状の刃を有する板状の固定刃とこの固定刃と摺動する可動刃とを備えて固定刃と可動刃とで毛髪を切断する電気バリカン用の切断刃において、固定刃と可動刃の少なくとも一方の、少なくとも刃先の部分が金属ガラス合金から形成されて成ることを特徴とする電気バリカン用の切断刃。
【請求項5】
上記金属ガラス合金は下記式(1)〜(5)の組成のいずれかから成ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の切断刃。
Cu …(1)
(式(1)において、M=Al,Zr,Ni,Ti,Sn,Pb,Hf,Ta,Ga,Co,Fe,Mo,Cr,Si,B,Cより選ばれた1種以上の元素、2≦x≦65,35≦y≦88、x+y=100)
Zr …(2)
(式(2)において、M=Al,Ni,Cu,Ti,Sn,Pb,Hf,Ta,Ga,Co,Fe,Mo,Cr,Si,B,Cより選ばれた1種以上の元素、2≦x≦65,35≦y≦88、x+y=100)
Ni …(3)
(式(3)において、M=Al,Zr,Cu,Ti,Sn,Pb,Hf,Ta,Ga,Co,Fe,Mo,Cr,Si,B,Cより選ばれた1種以上の元素、2≦x≦65,35≦y≦88、x+y=100)
TixMy …(4)
(式(4)において、M=Al,Ni,Cu,Zr,Sn,Pb,Hf,Ta,Ga,Co,Fe,Mo,Cr,Si,B,Cより選ばれた1種以上の元素、2≦x≦65,35≦y≦88、x+y=100)
FexMy …(5)
(式(5)において、M=Al,Ni,Cu,Ti,Sn,Pb,Hf,Ta,Ga,Co,Zr,Mo,Cr,Si,B,Cより選ばれた1種以上の元素、2≦x≦65,35≦y≦88、x+y=100)
【請求項6】
上記金属ガラス合金の密度が、同一組成の合金の結晶化後の密度に対して、0.5%以上小さいことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の切断刃。
【請求項7】
上記金属ガラス合金の表面には、酸化処理、窒化処理から選ばれる表面改質、あるいは表面コーティングが施されていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の切断刃。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−237521(P2008−237521A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−81838(P2007−81838)
【出願日】平成19年3月27日(2007.3.27)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】