説明

切断装置付きマルチシート敷設機

【課題】従来のシート切断装置では大容量のバッテリが必要となってコストの点で不利であったり、マルチシートを確実に切断できないなどの不都合があって作業能率が充分に向上されなかった。
【解決手段】回転自在に保持したマルチロール(21)からマルチシート(20)を巻きほどいて、被覆器(4)により畝に被覆していくと共に、必要な長さでマルチシートを切断するシート切断装置(3)を備えた切断装置付きマルチシート敷設機において、このシート切断装置(3)は、巻きほどいたマルチシートのマルチ保持具の側で同マルチシートを押える元側押え機構(30)と、被覆器の側で同マルチシート(20)を押える先側押え機構(31)と、マルチシートの全幅にわたって移動動作する移動機構と、この移動機構によりマルチシートと干渉可能に保持された電熱線(326)による発熱機構とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圃場にマルチシートを敷設して畝を被覆していくマルチシート敷設機において、マルチシートを幅方向に切断するための切断装置付きマルチシート敷設機に関する。
【背景技術】
【0002】
圃場の畝の端までマルチシートを被覆したあとに、このマルチシートの端を枕地へ固定して当該畝への敷設作業を終了するために、必要な長さのマルチシートを切断するマルチシート敷設機として、特許文献1が知られている。
【0003】
特許文献1に記載のマルチシート敷設機は、ロール状に巻かれたマルチシートを装着可能な移動機体に、シートの幅よりも長い電熱線を左右水平方向に張り渡すと共に上下動可能に構成しており、この電熱線を下動してシートを溶断する。
【0004】
このマルチシート敷設機によれば、運転者の操作により、運転者が運転席から降りることなく電熱線を加熱すると共にこの電熱線を下動してマルチシートを溶断できるため、作業能率の向上が期待できる。
【0005】
しかし、上述のシート切断装置では、少なくともマルチシートの幅程度の長さの電熱線を全長にわたって同時に加熱しなければならず、充分に加熱するためには大容量のバッテリを搭載する必要があるが、バッテリの重量負荷が大きく高コストとなる。さらに、バッテリ容量が十分でない場合には加熱に相当の時間を要するうえに、電熱線が長いため風などにより冷えやすくマルチシートを確実に切断できないおそれがあって充分な作業能率の向上が図れない。
【特許文献1】特開平6-133653号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
解決しようとする問題点は、従来のシート切断装置ではコストの点で不利であったり、マルチシートを確実に切断できないなどの不都合があって作業能率が充分に向上されなかった点であり、本発明は、簡便で確実にマルチシートを切断可能で作業能率を充分に向上できる切断装置付きマルチシート敷設機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、マルチシートをロールに巻いたマルチロールを回転自在に保持するマルチ保持具と、このマルチロールから巻きほどいたマルチシートで畝を被覆する被覆器と、マルチ保持具と被覆器との間にあってマルチシートを切断するシート切断装置とを備えた切断装置付きマルチシート敷設機において、上記シート切断装置は、巻きほどいたマルチシートのマルチ保持具の側で同マルチシートをその全幅について押える元側押え機構と上記マルチシートの被覆器側で同マルチシートをその全幅について押える先側押え機構と、これら両押え機構によって固定されたマルチシートに沿って、その全幅にわたって移動動作する移動機構と、この移動既往により上記マルチシートと干渉可能に保持されつつ昇温可能な電熱線による発熱機構とからなることを特徴とする。
上記構成のマルチシート敷設機は、被覆器によってマルチシートを畝に被覆し、マルチシート敷設機の前進によりマルチ保持具からマルチシートが引き出されてマルチシートが敷設され、また、シート切断装置の元側押え機構及び先側押え機構はマルチシートの2カ所をそれぞれ全幅について押え、移動機構は押えられたマルチシートに沿ってその全幅にわたって移動動作し、この移動機構に保持された電熱線が発熱しつつマルチシートと干渉することによりマルチシートが溶断される。
請求項2記載の発明は、請求項1の構成において、前記移動機構を、マルチシートの幅方向に向けて前記シート切断装置に取り付けたレールからなるガイド部材と、このガイド部材を転動する溝付き車輪とにより構成することを特徴とする。
上記構成のマルチシート敷設機は、溝付き車輪がレールを転動することにより、移動機構に保持された電熱線がその進行方向に姿勢を維持されつつマルチシートに沿って移動動作し、電熱線がマルチシートと確実に干渉しつつマルチシートを滑らかに溶断する。
請求項3記載の発明は、請求項1記載の構成において、前記押え機構の少なくとも一方を、前記マルチシートを表裏から挟持して繰出し動作と停止保持動作が可能な繰出し機構により構成することを特徴とする。
上記構成のマルチシート敷設機は、元側又は先側の押え機構の少なくとも一方が、マルチシートを表裏から挟持してその全幅について保持する停止保持動作に加え、挟持したマルチシートを繰り出す繰出し動作が可能となり、押え機構と繰出し機構とが一体化される。
請求項4記載の発明は、請求項1記載の構成において、前記押え機構の少なくとも一方は、マルチシートを表裏から挟む一対の押圧体を備え、この押圧体の少なくとも一方は回動動作して他方に当接する回動部を備えることを特徴とする。
上記構成のマルチシート敷設機は、一対の押圧体の少なくとも一方が備える回動部の回動動作により、この回動部が他方の押圧体に当接離反して開閉し、回動部の開動作により両押圧体の間が開いてマルチシートが開放され、回動部の閉動作により両押圧体が閉じてマルチシートの表裏が挟まれて全幅について保持される。
請求項5記載の発明は、請求項1記載の構成において、前記押え機構の少なくとも一方は、マルチシートを表裏から挟む一対の押圧体を備え、両押圧体は、対向して回動動作する回動部を備えることを特徴とする。
上記構成のマルチシート敷設機は、一対の押圧体の回動部が互いに対向して回動動作することにより開閉し、開動作により両回動部の間が広く開いてマルチシートが開放されると共に両押圧体の閉動作によりマルチシートの表裏が挟まれて全幅について保持される。
請求項6記載の発明は、請求項1記載の構成において、前記移動機構及び発熱機構は、前記押え機構の少なくとも一方との間に、押え機構によりマルチシートが押えられたときに移動機構及び発熱機構を作動する連係機構を介設したことを特徴とする。
上記構成のマルチシート敷設機は、押え機構によりマルチシートが押えられると、連係機構を介して移動機構及び発熱機構が動作してマルチシートが溶断される。
【発明の効果】
【0008】
請求項1記載のごとく構成したマルチシート敷設機により、マルチシートの切断時は、電熱線がマルチシートと干渉するわずかな部分、すなわち、マルチシートの表裏に及んでマルチシートの厚さ方向に伸びる短い長さの昇温部分によって溶断されることから、わずかな電力でも溶断に充分な温度まで急速昇温が可能となる。その結果、容量が小さく小型で重量負荷の少ないバッテリを用いることができて低コストなうえに、急速昇温により高速な動作が実現されると共に確実にマルチシートを溶断できて作業能率が向上される。
【0009】
請求項2記載のごとく構成したマルチシート敷設機により、マルチシートの切断時は、溝付き車輪がレールを転動する簡易構成により電熱線の姿勢を維持しつつマルチシートの幅方向に沿って移動可能となる。その結果、電熱線によって確実にマルチシートを溶断すると共に砂埃や塵などの詰りによる動作不良を生じにくく、メンテナンスも容易となる。
【0010】
請求項3記載のごとく構成したマルチシート敷設機により、マルチシートを表裏から挟持して保持する押え機構と挟持したマルチシートを繰り出す繰出し機構とが一体化される。その結果、シート切断装置の構成が簡易なものとなりコンパクトに形成可能である。
【0011】
請求項4記載のごとく構成したマルチシート敷設機により、マルチシートの敷設作業時は押圧体が開いて、この押圧体が畝を被覆しつつ引き出されていくマルチシートと干渉せずマルチシートを確実に敷設可能となると共に、マルチシートの切断時は押圧体の回動動作によって両押圧体が閉じてマルチシートを表裏から挟み、全幅について保持可能となる。その結果、一方向に回動動作する押圧体による簡易な構成で容易確実にマルチシートを保持可能である。
【0012】
請求項5記載のごとく構成したマルチシート敷設機により、マルチシートの敷設作業時は両押圧体の間が広く開いて開状態となり、引き出されつつ畝を被覆していくマルチシートと両押圧体とが干渉することがなく、マルチシートの切断時は両押圧体が回動動作によって閉じて閉状態となり、マルチシートを表裏から挟んで全幅について保持可能となる。その結果、対向して回動動作する一対の押圧体による簡易な構成で、開状態においてはマルチシートと押圧体が干渉することが無く好適な作業が可能であると共に、容易に閉状態となって確実にマルチシートを保持可能である。
【0013】
請求項6記載のごとく構成したマルチシート敷設機により、押え機構の押え動作によってマルチシートが押えられたときに、移動機構及び発熱機構がこれに連係して動作することが可能となる。その結果、簡便な操作と簡易な制御とにより、マルチシートが押え機構により保持された状態で確実に溶断可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図1乃至図5を参照して本発明に係る切断装置付きマルチシート敷設機の実施形態について説明する。
【0015】
まず、本実施形態のマルチシート敷設機について、図1及び図2を参照して説明する。図1は、本発明に係る切断装置付きマルチシート敷設機の側面図であり、図2はその要部背面図である。
【0016】
本実施形態のマルチシート敷設機1は、畝立て用ロータリ10及び畝成形器11と一体に構成され、トラクタなどの移動農機のヒッチ12に連結される。畝立て用ロータリ10と畝成形器11は進行方向Fの前側からこの順に配置し、畝成形器11の背後にマルチシート敷設機1を組み付ける。
【0017】
マルチシート敷設機1は、フィルム状のマルチシート20を巻回したマルチロール21を回転可能に軸支するマルチ保持具2と、マルチロール21から一定の長さを巻きほどいたマルチシート20を所定位置で切断するシート切断装置3と、巻きほどかれたマルチシート20を畝に敷設していく被覆器4とから構成される。これらは、ヒッチ12より後方に突設した支持フレーム14、15に取り付けられている。
【0018】
支持フレーム14は左右に設けられており、これにマルチ保持具2とシート切断装置3とを取り付ける。マルチ保持具2は左右の支持フレーム14より上向きに起立させたマルチロール保持杆22、22に軸支具23、23を取り付けてなり、この軸支具23によりマルチロール21を回転自在に軸支する。
【0019】
このマルチロール21の下方にシート切断装置3を配置する。シート切断装置3は、左右の支持フレーム14にそれぞれ支持板33、33を一体に取り付け、この支持板33、33の間に、図2に示すように、モータ300によって駆動される繰出し機構30と、繰り出されたマルチシート20の先側を挟持して押える押え機構31と、左右にスライド移動する移動機構及び発熱機構とを備えた電熱器321によって破線図示の切断位置でマルチシート20を切断する切断機構32とを配置して構成される。押え機構31と切断機構32とは、連係機構34を介して接続する。各機構の詳細は後述する。
【0020】
被覆器4は、中央の支持フレーム15に取り付けたセンターフレーム150と左右のサイドフレーム151、151に設けられている。センターフレーム150には、巻きほどかれたマルチシート20の中央部を前方Fに折り返すように配置したセンターローラ40を設け、このセンターローラ40に、左右側方に張り出してマルチシート20が中央に寄らないように押える押えバー400を取り付ける。左右のサイドフレーム151には、マルチシート20の左右両縁を踏圧すると共に土をかけて畝の両裾位置に敷き込んでいく左右の踏圧輪41と土寄せディスク42とを設ける。これらは、シート切断装置3の下方から後方に配置される。
【0021】
次に、シート切断装置3の各機構について、図面を参照して詳細に説明する。まず、繰出し機構30について説明する。
【0022】
繰出し機構30は、マルチシート20の幅方向に沿ってその表側と裏側とにそれぞれ配置される一対の繰出し軸と、この繰出し軸に取り付けた互いに噛合う繰出し輪303a、303bとから構成される。本実施形態では、繰出し軸の一方は駆動モータ300に接続して駆動軸301とし、他方は、支持板33、33に形成した長孔330、330によって駆動軸301に対して接近離反可能な従動軸302としている。
【0023】
駆動軸301は、マルチロール21の下方で支持板33、33に軸支し、モータ300と接続する。従動軸302は、駆動軸301の進行方向後側(図1の紙面左方向)に配置している。長孔330は駆動軸301に向かって低く、駆動軸301から離れるにつれて高く形成し、従動軸302が自重により長孔330の下端、つまり駆動軸301の側に下がるようにし、この位置で駆動軸301と従動軸302の繰出し輪303a、303bが噛み合う。図3は、繰出し輪303a、303bが噛み合っている状態を示している。
【0024】
繰出し輪303a、303bの周面には、互いに噛み合う歯車状の歯面を形成する。モータ300によって駆動軸301を回転させると、繰出し輪303a、303bが噛み合って従動軸302が共に回転する。また、本実施形態の繰出し輪303a、303bは、左右両端面の周縁と歯先の角をとって丸く形成している。
【0025】
本実施形態の繰出し機構30は、好ましい実施形態として、対となる繰出し輪303a、303bをマルチシートの左右両縁位置及び中央位置の3箇所に配置しているが、マルチシートの左右幅が短い場合などには、左右両縁位置のみ又は中央位置のみに配置してもよい。また、マルチシートの左右幅が長い場合には、4箇所以上に繰出し輪303a、303bを配置してもよく、また、軸方向に長く形成した幅広の繰出し輪を用いてもよい。
【0026】
また、本実施形態の繰出し機構30では、駆動軸301と従動軸302に取り付けた一対の繰出し輪303a、303bの噛み合わせによりマルチシート20を繰り出していくが、駆動軸301にのみ繰出し輪303を取り付け、従動軸302には周面がウレタンなどの容易に変形可能な材質からなる円板輪を取り付けて構成してもよい。繰出し輪の歯面によって円板輪の周面が変形して互いに噛み合い、両輪によりマルチシートを挟むと共に両輪の噛合いによりマルチシートを繰り出す。
【0027】
次に、押え機構31について説明する。
本実施形態の押え機構31はマルチシート20の全幅にわたる長さの一対の押圧体310、311から構成され、繰出し機構30の下方に設けられている。押圧体310、311はそれぞれ回転軸より径方向に伸びる腕部312と帯状に長い回動部313とを備えている。回動部313の当接面は、マルチシート20が滑らないように、ゴムやスポンジなどからなる把持部材314により形成するのが好ましい。
【0028】
押圧体310、311はそれぞれ、同歯数の回転ギア315、316を備えており、これらが互いに逆向きに回転するように伝動する。この回転ギア315、316により同期機構を形成して、回動部313、313を対向して回動させる。この回転ギア315、316に不図示のモータで駆動される駆動ギア317の動力を伝達して、押圧体310、311を対向して回転させる。駆動ギア317には回転ギアよりも歯数が少ないものを用いて、押圧体310、311が適切な速度で駆動されるように減速するのが好ましい。
【0029】
押圧体310、311には、連係機構34を接続している。この連係機構34はリミットスイッチからなり、押圧体310、311が閉じたときにスイッチ信号を発信して、これにより駆動ギア317を回転しているモータを止めて押圧体310、311の閉状態を保持すると共に、後述する切断機構32の動作を開始させるスイッチ信号を発信する。
【0030】
また、押圧体310、311が、回転して開いたときにも(例えば、両押圧体が閉状態より180°回転したとき)、連係機構34を作動させてモータを止め、開状態を保持する。
【0031】
本実施形態の押え機構31は、好ましい実施形態として、回動部313を備える左右一対の押圧体310、311により構成しているが、例えば、一方の押圧体を支持板に固定すると共に他方の押圧体には回動部を形成し、他方の押圧体を回動して固定した押圧体に当接離反させるように押え機構を構成してもよい。このように構成すると、同期機構が不要となるため、さらに簡易に押え機構を構成できる。
【0032】
次に、切断機構32について説明する。本実施形態の切断機構32は、左右の支持板33、33に架設したレールからなるガイド部材320と、このガイド部材320に沿って摺動する電熱器321とから構成される。
【0033】
本実施形態のガイド部材320は、左右の支持板33、33に架設した棒状体で角柱形状のレールからなる。このガイド部材320は、シート保持部2に保持されたマルチロール21とほぼ平行に取り付ける。
【0034】
電熱器321は、角柱形状のガイド部材320に沿って転動する溝付き車輪322a、322bと、溝付き車輪322aを駆動するモータ323と、これらを一体に組み付けた基板324とを備える。さらに、この基板324から、繰出し機構30とその下方の押え機構31との間に一対の支持杆325a、325bを延出して、この先端に電熱線326を架設して発熱機構を形成する。この電熱線326には不図示のバッテリを接続する。
【0035】
この電熱器321の溝付き車輪322a、322bとガイド部材320とにより移動機構を形成する。溝付き車輪322a、322bとガイド部材320とが係合することにより、電熱器321の直進性を確保すると共に電熱器321が進行方向の回りに回転しないように姿勢が維持される。
【0036】
本実施形態の溝付き車輪322a、322bは、中央部が凹んだ略円柱形状で、これを断面菱形のガイド部材320の上側に一つ、下側に二つ配置する。上側の溝付き車輪322aはモータ323によって回転駆動され、これに従って下側の溝付き車輪322bが転がることにより上下の溝付き車輪322a、322bがガイド部材320と係合しつつ転動し、電熱器321の姿勢を維持しつつ、電熱器321に保持された電熱線326をガイド部材320に沿ってマルチシート20の全幅にわたって移動させる。
【0037】
支持杆325a、325bは、その先端を繰出し機構30と押え機構31との間に延出し、この先端の間に電熱線326を架設する。
【0038】
電熱線326を加熱するためのバッテリ(図示しない)は、マルチシート敷設機1や不図示の移動農機に搭載しておく。電熱器321に取り付けて、電熱器321と共に移動する構成としてもよい。
【0039】
本実施形態のシート切断装置3において移動機構は、好ましい実施形態として、断面菱形のレールからなるガイド部材320の上を中央部が凹んだ略円柱形状の溝付き車輪322a、322bが転動する構成としているが、ラックとピニオンからなる直動機構などにより移動機構を構成してもよい。
【0040】
図4は、シート切断装置3の側面断面図である。図面右方向がマルチシート敷設機の進行方向Fである。巻きほどかれたマルチシート20は、左右の繰出し輪303a、303bの間と、左右の押圧体310、311の間を通る。
【0041】
電熱器321の支持杆325a、325bは、その先端を繰出し機構30と押え機構31との間に延出すると共に、一方の先端は両機構30、31よりも進行方向前側に、他方の先端は両機構30、31よりも進行方向後側に配置される。この両先端の間に電熱線326を架設して、電熱線326が、両機構30、31の間に下垂するマルチシート20と干渉可能に構成する。
【0042】
敷設作業時には、マルチシート敷設機の進行に伴ってマルチシート20は引張られて緊張する(実線図示)。このとき、マルチシート20の中央部20aはセンターローラ40によって前方Fに張り出すが、左右両側縁部20bは後方に引っ張られる。繰出し輪303bは、後方に引っ張られたマルチシート20の左右両側縁部20bの張力によって長穴330に沿って後退し(実線図示)、繰出し輪303aとは噛合わない。押圧体310、311の間は左右に広く開いており、マルチシート20とは干渉しない。
【0043】
非作業時には、マルチシート20は緩んで垂れ下がっており、繰出し輪303a、303bが噛合ってマルチシート20は両輪303a、303bにより挟まれ、元側が押えられる。左側の押圧体310を時計回りに回転させ、右側の押圧体311は反時計回りに回転させて、マルチシート20の先側を押える。
【0044】
以下に上記の構成によるマルチシート敷設機の作用と効果について、図5を参照して説明する。まず、作用について説明する。
【0045】
マルチシートの被覆作業時にはマルチシート20の先側は畝に敷設されており、マルチシート敷設機の前進に伴ってマルチシート20の左右両縁部は後方に引張られている。その張力によって、従動軸302は長穴330の範囲で後退動作し、待避位置にまで持ち上げられて(図5(a)破線図示)、この位置で繰出し輪303bが空転動作する。押え機構31の押圧体310、311も左右に広く開いているため、回動部313、313もマルチシート20の妨げとならず、マルチシート20は滑らかに引き出されていく。
【0046】
畝端までマルチシート20を被覆した後は、枕地にマルチシート20の端を固定して当該畝へのマルチシート敷設作業を終了させるために、まず繰出し機構30によってマルチロール21から必要な長さのマルチシート20を繰り出す。
【0047】
繰出し操作は、まず、緊張しているマルチシート20を緩め、繰出し輪303a、303bを噛み合わせてマルチシート20を挟む。次に、モータ300により駆動軸301を駆動し、両繰出し輪303a、303bを回転させて必要な長さのマルチシート20を繰り出す。
【0048】
このようにして繰り出されたマルチシート20は押え機構31の開いた状態で保持されている押圧体310、311の間に垂下する(図5(a)実線図示)。
【0049】
次に、押え機構31によりマルチシート20の先側を押える。押え機構31を作動させると、図面左側の押圧体310は時計回りに、右側の押圧体311は反時計回りに回転して上方から対向して閉じ、マルチシート20を下方に張りつつ挟んで押える(図5(b))。
【0050】
このとき、マルチシート20の元側は繰出し機構30によって押えられている。すなわち、従動軸302が自重によって長孔330の下端、つまり駆動軸301の側に下がり、この位置でそれぞれの繰出し輪303a、303bが噛み合って、マルチシート20のマルチロール側、すなわち元側を挟んで全幅について押えている。
【0051】
押圧体310、311には連係機構34が取り付けられており、押圧体310、311が閉じるとモータが止まり、閉状態が保持される。さらにこのときには、連係機構34から切断機構32を作動させるスイッチ信号が発信される。このスイッチ信号を受信すると移動機構及び発熱機構が駆動され、電熱線326を加熱し始めると共に電熱器321がマルチシート20の幅方向(図5の紙面垂直方向)に沿って移動する。
【0052】
電熱線326はマルチシート20の表裏にわたる程度の短いものであり、容量が小さく重量負荷の少ない小型のバッテリで加熱してもマルチシート20を溶断可能な温度まで急速に昇温されると共に、電熱器321はガイド部材320と溝付き車輪322a、322bによって姿勢を維持されて電熱線326がマルチシート20と干渉しつつその全幅にわたって移動動作し、マルチシート20が溶断される。
【0053】
このようにして、被覆作業を終えた畝には、枕地への固定処理に必要な長さのマルチシート20が残される。作業者は、このマルチシート20の端部に土をかけるなどして枕地へ固定する。
【0054】
以下に上記のごとく構成したマルチシート敷設機の効果について説明する。
【0055】
マルチシートの切断時は、電熱線がマルチシートと干渉するわずかな部分、すなわち、マルチシートの表裏に及んでマルチシートの厚さ方向に伸びる短い長さの昇温部分によって溶断されることから、わずかな電力でも溶断に充分な温度まで急速昇温が可能となり、急速昇温により高速な動作が実現されると共に確実にマルチシートを溶断できて作業能率が向上される。
【0056】
さらに、電熱線が短いため、容量が小さく小型で重量負荷の少ないバッテリを用いても短時間で昇温可能なことから、バッテリの重量負荷が少なくコスト的に有利であって実用性に優れる。
【0057】
押え機構は、一対の押圧体の回動部が互いに対向して回動動作することにより開閉し、開動作により両回動部の間が広く開いてマルチシートを開放すると共に両押圧体の閉動作によりマルチシートの表裏を挟んで全幅について保持する構成となっており、マルチシートの敷設作業時は両押圧体の間が広く開いて開状態となり、引き出されつつ畝を被覆していくマルチシートと両押圧体とが干渉することがなく、マルチシートの切断時は両押圧体が回動動作によって閉じて閉状態となり、マルチシートを表裏から挟んで全幅について保持可能となるため、対向して回動動作する一対の押圧体による簡易な構成で、開状態においてはマルチシートと押圧体が干渉することが無く好適な作業が可能であると共に、容易に閉状態となって確実にマルチシートを保持可能である。
【0058】
また、両押圧体をマルチシートの元側から先側に向かって閉じることでマルチシートを張りつつ押えることができるため、切断作業時における元側と先側の押え機構の間のマルチシートの位置ずれが少なく、電熱線が短く済むうえにマルチシートを滑らかに且つ確実に切断することができる。
【0059】
また、移動機構と発熱機構は、押え機構との間に、押え機構によりマルチシートが押えられたときに移動機構及び発熱機構を作動する連係機構を介設しており、押え機構によりマルチシートが押えられると、連係機構を介して移動機構及び発熱機構が動作してマルチシートが溶断されるため、簡便な操作と簡易な制御とにより、マルチシートが押え機構により保持された状態で確実に溶断可能である。
【0060】
繰出し機構は互いに噛み合う歯車状の歯面を周面に形成した一対の繰出し輪を備えており、これらの繰出し輪によってマルチシートが挟まれる。繰出し軸を回転駆動すると、マルチシートは、両繰出し輪の噛み合った歯面の間で、その速度差によるせん断力をその両面に受けつつ繰り出される。その結果、マルチシートが繰出し輪の歯面に貼り付くことなく確実に繰出し可能となり、巻き付いたマルチシートを解きほぐすなどの手間を要せず、作業能率を向上することができる。
【0061】
押え機構と繰出し機構は一体に構成されており、シート切断装置は簡易な構成でコンパクトに形成することができる。
【0062】
また、元側の押え機構を繰出し機構と一体構成としたことにより、切断作業後に隣の畝への被覆作業を開始する際にも繰出し機構で必要な長さのマルチシートを繰り出しておくことができ、手動でマルチシートを引き出すと共に、引き出したマルチシートの長さを確認する手間を要しない。
【0063】
さらに、先側の押え機構は、両押圧体の回動部の間が広く開放されるため、切断作業後に繰出し機構によりマルチシートを繰り出しても、繰り出されたマルチシートの先端縁が元側の押え機構の両押圧体の間を確実に通り、マルチシートの通過位置を確認したり、これを正しく直す手間を要しない。
【0064】
繰出し輪は周縁と歯先の角が丸く形成されており、繰出し輪によって部分的に挟持されて引き出されるマルチシートに繰出し輪の周縁の角や周面に形成した歯面の歯先が当たっても、マルチシートにその幅方向の引張り強度を超える負荷がかからなくなるため、マルチシートが長さ方向に引き裂けるなどの不都合が生じることがなく、確実にマルチシートを引き出すことができて、作業能率の向上が図れる。
【0065】
マルチシートの表側と裏側とに配置された一対の繰出し軸は、一方を駆動軸とし、他方を、駆動軸に向かって低く形成した長穴に軸支して従動軸としており、マルチシートの敷設作業時には、マルチシートの張力によって従動軸が長穴の範囲で後退動作するため、繰出し輪が待避位置で空転動作して、引き出されていくマルチシートの邪魔にならず、敷設機の前進に伴ってマルチシートは滑らかに繰り出されていくうえに、マルチシートの繰出し作業時には、従動軸が自重により繰出し輪の噛合い位置に復帰して、両軸の繰出し輪によりマルチシートを確実に繰出し可能である。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明に係るシート切断装置を備えたマルチシート敷設機の側面図である。
【図2】マルチシート敷設機の背面図である。
【図3】マルチシート敷設機の要部斜視図である。
【図4】マルチシート敷設機の要部側面断面図である。
【図5】シート切断装置の動作を示す側面構成図である。
【符号の説明】
【0067】
1 マルチシート敷設機
10 畝立て用ロータリ
11 畝成形器
12 ヒッチ
14、15 支持フレーム
150 センターフレーム
151 サイドフレーム
2 マルチ保持具
20 マルチシート
20a 中央部
20b 側縁部
21 マルチロール
22 マルチ保持杆
23 軸支具
3 シート切断装置
30 繰出し機構
300 モータ
301 駆動軸
302 従動軸
303a、303b 繰出し輪
31、31a 押え機構
310、311 押圧体
312 腕部
313 回動部
314 把持部材
315、316 回転ギア
317 駆動ギア
318 押圧体
32 切断機構
320 ガイド部材
321 電熱器
322a、322b 溝付き車輪
323 モータ
324 基板
325 支持杆
326 電熱線
33 支持板
330 長穴
34 連係機構
4 被覆器
40 センターローラ
400 押えバー
41 踏圧輪
42 土寄せディスク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチシート(20)をロールに巻いたマルチロール(21)を回転自在に保持するマルチ保持具(2)と、このマルチロールから巻きほどいたマルチシートで畝を被覆する被覆器(4)と、マルチ保持具と被覆器との間にあってマルチシートを切断するシート切断装置(3)とを備えた切断装置付きマルチシート敷設機において、
上記シート切断装置(3)は、巻きほどいたマルチシート(20)のマルチ保持具の側で同マルチシートをその全幅について押える元側押え機構(30)と上記マルチシートの被覆器の側で同マルチシートをその全幅について押える先側押え機構(31)と、これら両押え機構によって固定されたマルチシートに沿って、その全幅にわたって移動動作する移動機構と、この移動機構により上記マルチシートと干渉可能に保持されつつ昇温可能な電熱線(326)による発熱機構とからなることを特徴とする切断装置付きマルチシート敷設機。
【請求項2】
前記移動機構は、マルチシート(20)の幅方向に向けて前記シート切断装置(3)に取り付けたレールからなるガイド部材(320)と、このガイド部材を転動する溝付き車輪(322a、322b)とにより構成することを特徴とする請求項1記載の切断装置付きマルチシート敷設機。
【請求項3】
前記押え機構の少なくとも一方は、前記マルチシートを表裏から挟持して繰出し動作と停止保持動作が可能な繰出し機構(30)により構成することを特徴とする請求項1記載の切断装置付きマルチシート敷設機。
【請求項4】
前記押え機構の少なくとも一方は、マルチシートを表裏から挟む一対の押圧体を備え、この押圧体の少なくとも一方は回動動作して他方に当接する回動部を備えることを特徴とする請求項1記載の切断装置付きマルチシート敷設機。
【請求項5】
前記押え機構の少なくとも一方は、マルチシートを表裏から挟む一対の押圧体を備え、両押圧体は、対向して回動動作する回動部(310、311)を備えることを特徴とする請求項1記載の切断装置付きマルチシート敷設機。
【請求項6】
前記移動機構(321)及び発熱機構(326)は、前記押え機構(30、31)の少なくとも一方との間に、押え機構によりマルチシートが押えられたときに移動機構及び発熱機構を作動する連係機構(34)を介設したことを特徴とする請求項1記載の切断装置付きマルチシート敷設機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−106188(P2009−106188A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−281445(P2007−281445)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(391020089)株式会社佐野アタッチ研究所 (3)
【Fターム(参考)】