説明

切花の鮮度保持剤および鮮度保持方法

【課題】本発明は、種々の有機水銀系、燐酸系、塩素系、砒素系などのいわゆる殺菌剤を用いず、安全でかつ有効な切花用鮮度保持剤を提供することを目的とする。
【解決手段】有効成分として、センダングサ属植物の抽出物を含有することを特徴とする切花用鮮度保持剤、及び前記切花用鮮度保持剤若しくは前記切花用鮮度保持剤を添加した水あるいは切花用保存液に切花を浸漬することを含む、切花の鮮度保持方法により上記課題が解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセンダングサ属の植物の抽出物を有効成分として含む、切花用鮮度保持剤およびそれを使用する鮮度保持方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の切花用鮮度保持剤は、種々の有機水銀系、燐酸系、塩素系、砒素系などのいわゆる殺菌剤が大半であるが、これらの殺菌剤の使用には皮膚カブレやアレルギー反応などの副作用が伴い、また環境汚染にもつながる問題がある。本発明はそれらに代わる安全でかつ有効な切花用鮮度保持剤を提供するものである。
一方、植物エキスを含む切花用保持剤として、杉、桧等の木材から得られるフィトンチッド類を主成分として含むエキスを用いることの報告はある(特許文献1参照)。
一方、センダングサ属植物であるビデンスピローサは昔から身近にあるハーブであり、民間薬草として干した地上部分を煎じ、解熱、解毒、消炎、鎮痛、利尿薬として用いることが知られている。しかし、このセンダングサ属植物の抽出物を、切花用鮮度保持剤として用いることができることは従来全く知られていない。
【0003】
【特許文献1】特開2006−199592号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、種々の有機水銀系、燐酸系、塩素系、砒素系などのいわゆる殺菌剤を用いず、安全でかつ有効な切花用鮮度保持剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らはセンダングサ属植物であるビデンスピローサの有用性に注目して応用研究した結果、意外にも全く知られていない切花の鮮度保持および鮮度保持方法において、有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、有効成分として、センダングサ属植物の抽出物を含有することを特徴とする切花用鮮度保持剤に関する。
本発明の好ましい態様において、上記切花用鮮度保持剤は、水溶液、粉末状、ゲル状、または固形状の形態である。
また、本発明の他の態様は、有効成分として、センダングサ属植物の抽出物を含有し、かつゲル状の形態にある、切花輸送用鮮度保持剤である。
本発明の更に他の態様は、上記切花用鮮度保持剤若しくは前記切花用鮮度保持剤を添加した水あるいは切花用保存液に切花を浸漬することを含む、切花の鮮度保持方法である。
更に好ましい態様としては、水あるいは記切花用保存液体の全質量に対して、センダングサ属植物の抽出物(乾燥物換算濃度)が0.01〜5.0質量%の濃度となるように切花用鮮度保持剤を添加することを特徴とする切花の鮮度保持方法である。
なお、本発明において、「乾燥物換算濃度」とは、液体状の抽出物から液体を除去した固形分に換算した濃度を意味する。例えば、乾燥して2gの固形分が得られる100gのセンダングサ属植物抽出物(切花用鮮度保持剤)を、1Lの水に添加して切花用保存液を調製する場合、センダングサ属植物の抽出物は「乾燥物換算濃度」で表して、約0.2質量%の濃度で含まれることになる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の切花用鮮度保持剤は、例えば、フラワーショップ、花の宅配、家庭や栽培農家において使用することができる。
栽培農家が花を収穫して輸送する前に処理する液を「前処理剤」、輸送後、フラワーショップなどの小売店や消費者において処理する液を「後処理剤」ということがあるが、本発明の切花用鮮度保持剤はこのような「前処理剤」、「後処理剤」としても使用できる。
この切花用鮮度保持剤(単独)に、あるいはこの切花用鮮度保持剤を添加した水あるいは切花用保存液に切花の切り口を浸しておくことによって、収穫後の切花の花弁および葉の劣化を防止し、切花をきれいに咲かせ、より鮮やかな状態でより長期に渡って保存することができる。
本発明の切花用鮮度保持剤の効果は、センダングサ属植物に含まれる有機物と多量に含有されているミネラルなどの総合的な働きによるものと推測される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に用いられるセンダングサ属の植物、特にビデンスピローサの抽出エキスまたは抽出エキス末は人に服用され安全性は全く問題なく、切花の鮮度保持効果を著しく上昇させるため農業や園芸分野に極めて有用である。
【0009】
本発明に使用されるセンダングサ属植物は、学名でBidens属と言われる一群の植物である。種類も多岐にわたり互いに交配するので変種も多く、植物学上も混乱が見られ、学名、和名、漢名の対応も交錯していて同定することは極めて困難であるが、本発明で用いられるセンダングサ属植物は以下に掲げるこれらのものを包含する。
Bidens pilosa L.(コセンダングサ、コシロノセンダングサ、咸豊草)
Bidens pilosa L.var.minor(Blume)Sherff(シロバナセンダングサ、シロノセンダングサ、コシロノセンダングサ、コセンダングサ、咸豊草)
Bidens pilosa L.var.bisetosa Ohsani et S.Suzuki(アワユキセンダングサ)
Bidens pilosa L.f.decumbens Scherff(ハイアワユキセンダングサ)
Bidens pilosa L.var.radiata Scherff(タチアワユキセンダングサ、ハイアワユキセンダングサを含むこともある)
Bidens pilosa L.var.radiata Schultz Bipontinus(シロノセンダングサ、オオバナノセンダングサ)
Bidens biternata Lour.Merrill et Sherff(センダングサ)
Bidens bipinnata L.(コバノセンダングサ、センダングサ)
Bidens cernua L.(ヤナギタウコギ)
Bidens frndosa L.(アメリカセンダングサ、セイタカタウコギ)
Bidens parviflora Willd(ホソバノセンダングサ)
Bidens radiate Thuill.var.pinnatifida(Turcz.)Kitamura(エゾノタウコギ)
Bidens tripartita L.(タウコギ)
この植物は中国・台湾では主に咸豊草と呼ばれるが異名も多く、同冶草、鬼針草、三葉鬼針草、三葉刺針草、刺針草、婆婆針草、白花婆婆針、符因草、符因頭、赤査某、含風草、南風草、等の名があり、それぞれがどの学名に相当するのかは明らかでない。
【0010】
花はキク科特有の形で、白または黄の丸みのある花弁状の舌状花が5ないし8個、中央には黄褐色の管状花が数十個集合している。茎は四角で薄紫に着色した節がある。3つまたは5つに羽状に分かれた葉には柄があり、縁はぎざぎざがあって対生している。日本では本州の暖地以南で見られ、台湾、中国ないし熱帯各地に分布する草丈25〜85cmの一年草である。温暖な気候条件に恵まれると花は年中次々と咲く。動物や人の衣服に付いて運ばれる黒褐色の種子の上部に逆棘のある針があり、中国では鬼針草属と呼ばれている。
【0011】
本発明では、上記センダングサ属植物のうち、特にビデンス・ピローサと称される一群の植物を用いることが好ましい。より具体的には、Bidens pilosa L.Bidens pilosa L.var.minor (Blume)SherffBidens pilosa L.var.bisetosa Ohtani et S.SuzukiBidens pilosa L.f.decumbens ScherffBidens pilosa L.var.radiata Scherff、及びBidens pilosa L.var.radiata Schultz Bipontinus、を用いることが好ましい。
【0012】
本発明において、センダングサ属植物の抽出物は以下のように抽出することができる。
上記センダングサ属植物の使用部位は、根、地上部(茎、葉、花等)又は全草何れの部位を用いてもよい。特に、葉及び茎の部分を使用することが効力の点において好ましい。
センダングサ属植物の全草あるいは地上部を乾燥させたものの溶媒による抽出物、またはセンダングサ属植物の全草あるいは地上部の搾汁の溶媒による抽出物を用いてもよい。
乾燥は、天日乾燥あるいは通風乾燥が用いられる。後者の場合、温度は焦げない程度であればいいが安全のためには80℃以下が望ましい。天日乾燥の場合に、乾燥の途中で雨に塗れたりしない様にする必要がある。乾燥の目安としては水分10%以下になるまで乾燥することが望ましい。
【0013】
抽出溶媒の種類によってはそのまま抽出物を用いてもよいし、搾汁または抽出物を乾燥して、固体とした後、用いてもよい。溶媒としては、水、またはメタノール、エタノール、酢酸メチル、酢酸エチル、エチレングリコール、ブチレングリコールなどの有機溶剤、それらの混合溶剤などが挙げられる。
さらに、常温又は加温下に水又は含水溶媒を添加して抽出したものを用いてもよい。抽出方法としては例えば、浸漬して静置、またはソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出物を得ることもできる
抽出時の温度は、通常、室温〜沸点程度で行うことができる。また、抽出時間は、温度や溶媒にもよるが、室温〜沸点程度で抽出を行う場合には、1〜300時間程度の範囲にわたって行うことができる。
搾汁または抽出物を乾燥して用いる場合には、噴霧乾燥、凍結乾燥などにより乾燥粉末として用いてもよい。また乾燥に当って貼着剤として糊成分を少量混合して用いてもよい。
【0014】
本発明の切花用鮮度保持剤は、上述したセンダングサ属植物抽出物100質量%からなるものであってもよく、また、例えば80質量%までの量を含み、残りは水、その他の添加剤を含んでいてもよい。添加剤については後述する。
【0015】
本発明の切花用鮮度保持剤は、水溶液、粉末状、ゲル状、または固形状の形態であることができる。
本発明の水溶液の形態の切花用鮮度保持剤は、センダングサ属植物を水で抽出した水溶液、あるいはセンダングサ属植物抽出物を水に溶解して調製することができる。水以外に、更にエタノール、グリコール類等の溶媒を添加してもよい。
【0016】
本発明のゲル状の形態の切花用鮮度保持剤は、例えば、センダングサ属植物抽出液、あるいはセンダングサ属植物抽出物を水あるいは溶媒に溶解した後、ゲル化剤を添加して攪拌して調製される。使用するゲル化剤は公知のものを使用することができるが、例えば、グルコマンナン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース等が挙げられる。ゲル化剤の添加量は、切花用鮮度保持剤全体の質量に対して、0.1〜10.0質量%程度である。
本発明の切花用鮮度保持剤をゲル状の形態とした場合、特に、流通(輸送あるいは運搬、保管)時に簡便に使用することができ、水分がゲルになっているため蒸発せず、更に高い鮮度保持効果を示すため特に好ましい。
【0017】
本発明の固形状の形態の切花用鮮度保持剤は、例えば、センダングサ属植物抽出物を、結晶セルロースなどの賦形剤と混ぜてプレスすることにより調製することができる。
【0018】
切花を浸漬する切花用鮮度保持剤中または切花用鮮度保持剤を添加した水あるいは切花用保存液中のセンダングサ属植物の抽出物濃度は、乾燥物換算濃度として0.01〜5.0質量%、好ましくは0.05質量%〜3.5質量%、更に好ましくは0.05質量%〜1.0質量%であることが効果の観点から好ましい。濃度があまり高くなると、コストが高くなってしまい好ましくない。また、抽出物にはミネラル分が多く含まれるため、高濃度での使用はミネラル分が多くなり好ましくない場合もある。
【0019】
本発明の切花用鮮度保持剤は以下のようにして使用することができる。
上記切花用鮮度保持剤若しくは前記切花用鮮度保持剤を添加した水あるいは切花用保存液に、切花を浸漬する。このとき、切花の茎等の切断断面から十分に水あるいは切花用保存液が吸収されるように浸漬することは言うまでもない。
また、切花用鮮度保持剤をゲル状形態で使用する場合には、ゲルを切花の切断断面を覆うように塗布して用いる。更に、ゲルを保持するために、周囲をアルミホイル、ビニール等で覆って使用してもよい。
【0020】
本発明の切花用鮮度保持剤には、添加剤として、ブドウ糖、果糖、ガラクトース、麦芽糖、ショ糖、乳糖等の糖類や硝酸カリウム、硫酸カリウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸アンモニウム、第一リン酸カリウム、第一リン酸アンモニウム、リン酸、尿素等の無機栄養成分、クエン酸、酢酸、リンゴ酸等のpH調整剤、第4級アンモニウム塩、8−ヒドロキノリン硫酸塩、クエン酸塩等の殺菌作用又は抗菌作用を有する殺菌剤又は防腐剤を併用もしくは混合しても良い。また水上げ促進効果を有する界面活性剤成分やホスホン酸、フェニルホスホン酸等のホスホン酸類も併用もしくは混合しても良い。
【0021】
本発明の切花用鮮度保持剤を使用できる花の種類としては、バラ、カーネーション、キクなどをはじめとする、切花になる全ての花が挙げられる。
以下、製造例、実施例を挙げて本発明の詳細を具体的に説明するが、本発明はこれに限定するものではない。
【実施例】
【0022】
[製造例1]ビデンスピローサの常温水抽出物
ビデンスピローサの地上部全草を1〜5cmに切って乾燥させ、その5gを水100gに浸して7〜10日間放置抽出後、ろ過して抽出物65gを得た。乾燥物換算濃度は2.5質量%であった。
【0023】
[製造例2]ビデンスピローサの熱水抽出物
ビデンスピローサの地上部全草の乾燥物50gを1,000gの水に加え、80~100℃で5時間抽出したのち冷却、ろ過して熱水抽出物600gを得た。得られた抽出物中のビデンスピローサの乾燥物換算濃度は3.1質量%であった。
【0024】
[製造例3]ビデンスピローサの熱水抽出乾燥物
製造例2で得られた熱水抽出物100gを凍結乾燥してプレスしてタブレット状の乾燥物3gを得た。乾燥物換算濃度は3.0質量%であった。
【0025】
[製造例4]ビデンスピローサ熱水抽出物ゲル
製造例2で得られた熱水抽出物100g(乾燥物換算濃度は3.1質量%)にグルコマンナン1g加えてゲル状にした。
【0026】
[実施例1]
製造例1,2,3で得られたビデンスピローサ(BP)抽出物を水道水で希釈して、表1に記載の乾燥物換算濃度に調整して水溶液を作り、そこへバラの切花を各5本ずつ入れて室温で鮮度保持性を調査し、表1にまとめた。なお、14日間、水換えは全く行わなかった。
【0027】
表1 各BP抽出物濃度とバラの切花鮮度保持結果


試験結果の評価は目視で行った
5:ほとんど変化なし 4:花弁退色 3:2〜3本枯死 2:4本枯死 1:全て枯死
表1から、ビデンスピローサ抽出物を所定量添加した水に切花を浸漬すると、何も添加しない場合と比較して、バラの鮮度保持期間が延長される。特にBP抽出物濃度(乾燥物換算濃度)が0.01質量%であれば2週間程度鮮度を保持することができ、更に0.05質量%以上であれば更に鮮度保持効果が高くなる。
【0028】
[実施例2]
この試験は切花の流通を考慮した試験である。製造例4で得られたビデンスピローサ(BP)熱水抽出物ゲルは強固に固まっており、水分蒸発は極めて少なく輸送上にはよい形態である。
バラの切花各5本に試験例および比較例のゲルをそれぞれバラの切り口に2gずつ塗布して室内放置にて切花の鮮度保持効果を調査した。結果を表2にまとめた。
【0029】

表2 BP抽出液ゲルのバラの切花鮮度保持結果


判定は目視で行った。
5:ほとんど変化なし 4:花弁退色 3:2〜3本枯死 2:4本枯死 5:全て枯死
【0030】
表2よりビデンスピローサ抽出物含有ゲルは抽出物が入ってない方に比較して明らかに、鮮度保持効果が高い。特に一週間以上の長期にわたり鮮度が保持されるという顕著な効果が観察された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分として、センダングサ属植物の抽出物を含有することを特徴とする切花用鮮度保持剤。
【請求項2】
水溶液、粉末状、ゲル状、または固形状の形態である、請求項1記載の鮮度保持剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の切花用鮮度保持剤若しくは前記切花用鮮度保持剤を添加した水あるいは切花用保存液に切花を浸漬することを含む、切花の鮮度保持方法。
【請求項4】
切花を浸漬する切花用鮮度保持剤中または切花用鮮度保持剤を添加した水あるいは切花用保存液中のセンダングサ属植物の抽出物濃度が、乾燥物換算濃度として0.01〜5.0質量%である、請求項3記載の方法。