説明

初乳又は初乳由来組成物、及び、初乳又は初乳由来組成物を用いた方法

【課題】
Th1/Th2バランスを調整し、アレルギー性疾患、潰瘍性大腸炎などの症状を抑制又は改善すること。
【解決手段】
Th1/Th2バランスを調整する初乳又は初乳由来組成物、及び、初乳又は初乳由来組成物を用いた、Th1/Th2バランスを調整する方法、を提供する。本発明に係る初乳又は初乳由来組成物は、Th1/Th2バランスが、通常のTh1/Th2バランスと比較して、Th1細胞が弱まりTh2細胞が優位になる方向に偏向する病態を示す疾患、例えば、アレルギー性疾患、潰瘍性大腸炎などに適用できる。本発明に係る初乳又は初乳由来組成物は、医薬組成物として用いたり、飲食物(食品、菓子、ガム、飲料、ジュース、サプリメントなど)、飲食物などに含有させたりすることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Th1/Th2バランスを調整する初乳又は初乳由来組成物、抗アレルギー剤である初乳又は初乳由来組成物、潰瘍性大腸炎治療剤である初乳又は初乳由来組成物、及び、前記初乳又は初乳由来組成物を少なくとも含有する医薬組成物及び飲食物、並びに、初乳又は初乳由来組成物を用いた、Th1/Th2バランス調整方法、アレルギー抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Th1/Th2バランスの偏向が、アレルギー性疾患発症の重要な要因となっていることが明らかになりつつある。
【0003】
リンパ球の一種であるヘルパーT細胞は、Th1細胞とTh2細胞に分類される。Th1細胞は、細菌・ウイルスなどの異物を破壊するなど、細胞性免疫に関与し、また、IFN−γ(インターフェロンγ)、IL−2(インターロイキン2)などのサイトカインを分泌する。Th2細胞は、IL−4、IL−5、IL−6、IL−10、IL−13などのサイトカインを分泌してB細胞の抗体産生を促進するなど、体液性免疫に関与している。
【0004】
Th1細胞の分泌するサイトカイン(IFN−γなど)はTh2細胞を抑制し、Th2細胞の分泌するサイトカイン(IL−4、IL−10、IL−13など)はTh1細胞を抑制する。従って、Th1細胞とTh2細胞のいずれかが優位になり、Th1/Th2バランスが偏向することは、さまざまな免疫疾患の原因となる。Th1細胞が通常のTh1/Th2バランスと比較して優位な場合は、炎症性疾患や自己免疫性疾患を発症し、Th2細胞が通常のTh1/Th2バランスと比較して優位な場合は、生体防御能が低下したり、アレルギー疾患や潰瘍性大腸炎を発症したりすることが知られている。
【0005】
アレルギー性疾患の具体的な発症機序は、概ね次のとおりであると考えられている。通常のTh1/Th2バランスと比較して、Th2細胞がTh1細胞よりも優位になると、Th1細胞によるIFN−γなどの分泌が抑制されるため、Th2細胞の活性は増強され、Th2細胞からIL−4、IL−5、IL−13などのサイトカインが過剰に分泌される。IL−4及びIL−13は、B細胞のIgE産生を促進し、IL−5は、好酸球の分化を促進する。そして、IgEの過剰産生と好酸球の過剰亢進は、アレルギー反応を惹起する。また、Th2細胞から過剰に分泌されたサイトカイン(IL−4、IL−10、IL−13など)によりTh1細胞の分化がさらに抑制されるため、Th2細胞の分化がさらに促進され、アレルギー反応が増強される(非特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1〜3は、抗アレルギー疾患に関連する先行文献である。特許文献1は、牛乳アレルギーの原因物質を酵素的に分解した抗アレルギー栄養組成物について、特許文献2は、酸乳ホエー(乳清)を用いた抗アレルギー剤について、特許文献3は、タンパク質加水分解物調合乳によるアレルギー予防方法について、それぞれ記載されている。
【特許文献1】特開平8−214836号公報
【特許文献2】特開2000−239175号公報
【特許文献3】特表平11−510791号公報
【非特許文献1】東京化学同人発行、「免疫学辞典 第2版」、P414
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、Th1/Th2バランスの偏向が、アレルギー性疾患発症の重要な要因となっている。そこで、本発明は、Th1/Th2バランスを調整すること、及び、Th1/Th2バランスが、通常のTh1/Th2バランスと比較して、Th1細胞が弱まりTh2細胞が優位になる方向に偏向する病態を示す疾患、例えば、アレルギー性疾患、潰瘍性大腸炎などの症状を抑制又は改善することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らの研究の結果、初乳又は初乳由来組成物には、Th2細胞によるIL−4及びIL−10の分泌を抑制する作用があることが明らかになった。また、初乳又は初乳由来組成物を用いることにより、Th1/Th2バランスを、Th1細胞を優位にしTh2細胞を弱める方向に調整できることが明らかになった。
【0009】
そこで、本発明では、まず、Th1/Th2バランスを調整する初乳又は初乳由来組成物、及び、初乳又は初乳由来組成物を用いた、Th1/Th2バランスを調整する方法、を提供する。
【0010】
また、本発明では、抗アレルギー剤である初乳又は初乳由来組成物、潰瘍性大腸炎治療剤である初乳又は初乳由来組成物、及び、初乳又は初乳由来組成物を用いたアレルギー抑制方法、を提供する。
【0011】
前記の通り、本発明に係る初乳又は初乳由来組成物は、Th1/Th2バランスを、Th1細胞を優位にしTh2細胞を弱める方向に調整できるため、Th1/Th2バランスが、Th1細胞が弱まりTh2細胞が優位になる方向に偏向する病態を示す疾患、例えば、アレルギー性疾患、潰瘍性大腸炎などに適用できる。
【0012】
例えば、アレルギー性疾患の場合、前記の通り、Th1/Th2バランスが、通常のTh1/Th2バランスと比較して、Th2細胞優位の方向に偏向することが、発症の主な原因となっている。本発明に係る初乳又は初乳由来組成物を用いるにより、Th1/Th2バランスを、Th2細胞を弱める方向に調整できるため、アレルギー症状を抑制又は改善することができる。
【0013】
また、例えば、潰瘍性大腸炎の場合も、腸管内におけるTh1/Th2バランスが、通常のTh1/Th2バランスと比較して、Th2細胞優位の方向に偏向することが、発症の主な原因となっている。本発明に係る初乳又は初乳由来組成物を用いるにより、Th1/Th2バランスを、Th2細胞を弱める方向に調整できるため、潰瘍性大腸炎の症状を抑制又は改善することができる。
【0014】
なお、Th1/Th2バランスの偏向は、アレルギー性疾患に共通な発症メカニズムであるため、本発明に係る初乳又は初乳由来組成物は、特定のアレルギー性疾患だけでなく、アレルギー性疾患全般に広く適用可能であると推定できる。
【0015】
具体的には、本発明を適用できるアレルギー疾患として、例えば、アレルギー性鼻炎、気管支喘息、花粉症、蕁麻疹、ダニ・チリアレルギー、食物アレルギー、薬物アレルギー、アトピー性皮膚炎、などを想定できる。
【0016】
加えて、本発明における抗アレルギー作用は、初乳又は初乳組成物自体を用いている点で、従来の抗アレルギー性の乳組成物などとは異なった特質を持つ。
従来、牛乳をはじめ乳製品はアレルギーの原因となる場合があるため、乳組成物自体を、アレルギー症状を抑制又は改善する用途で用いることはなかった。即ち、従来の抗アレルギー性の乳組成物は、乳中のアレルギー原因物質を除去・分解などしたものに限られていた。
それに対し、本発明は、初乳又は初乳由来組成物自体に、アレルギー症状を抑制又は改善する作用があることを新規に見い出した点で、従来の抗アレルギー性の乳組成物などとは異なる。
【0017】
その他、本発明に係る初乳又は初乳由来組成物は、天然物由来であり、化学合成物を用いた医薬組成物・飲食物などと比較して、安全性が高いという有利性もある。
【0018】
なお、本発明に係る初乳又は初乳由来組成物は、医薬組成物(錠剤、液剤、顆粒剤、カプセル剤など)として用いたり、医薬組成物に含有させたりすることができる。本発明に係る初乳又は初乳由来組成物は、飲食物(食品、菓子、ガム、飲料、ジュース、サプリメントなど)として用いたり、飲食物に含有させたりすることもできる。
【0019】
本発明において、「初乳」は、哺乳類の分娩後に分泌される乳をいい、乳タンパク質、ミネラル、新生児に受動免疫を与える抗体などに富む。最も好適なものは、分娩後一週間以内に分泌された牛の初乳である。本発明において、「初乳由来組成物」は、初乳を濃縮・乾燥した液状物・粉状物など、初乳から作製される組成物を広く包含する。
【0020】
本発明において、「Th1/Th2バランス」とは、Th1細胞・Th2細胞の産生するサイトカインによって調節される免疫バランスをいう。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、Th1/Th2バランスを調整することができる。また、本発明により、Th1/Th2バランスが、通常のTh1/Th2バランスと比較して、Th1細胞が弱まりTh2細胞が優位になる方向に偏向する病態を示す疾患、例えば、アレルギー性疾患、潰瘍性大腸炎などの症状を抑制又は改善できる。
【実施例1】
【0022】
実施例1では、初乳又は初乳由来組成物に、Th2細胞によるIL−4及びIL−10の分泌を抑制する作用があるかどうか、調べた。実験手順の概要は次の通りである。
【0023】
まず、マウスに、初乳溶液を、1日400μLずつ、3ヶ月間、又は、6ヶ月間経口投与した。
【0024】
初乳溶液は、初乳を限外濾過濃縮し、乾燥させて粉末状にした後、該粉末35mgを、殺菌済みの生理食塩水400μLで溶解して用いた(溶液の濃度は、8.8重量/容量%)。初乳は、NUMICO Reserch Australia製の、分娩後4日間に作られた牛の初期乳で、16.5重量%の免疫グロブリンGを含有したものを用いた。
【0025】
マウスは、C57BL/6系統の3週齢のメスを、日本SLC株式会社から購入し、用いた。マウスは、SPF(Specific Pathogen−Free)条件を維持したものを用いた。エサと水は、適宜与えた。
【0026】
次に、初乳溶液を投与したマウスの小腸組織から、i−IEL(intestinal−IntraEpitherial Lymphocyte;腸管上皮細胞間リンパ球)を回収した。なお、i−IELには、腸管上皮細胞間に存在するTh1細胞及びTh2細胞なども含まれている。具体的な手順は次の通りである。
【0027】
マウス小腸組織を摘出して5mm以下の小片にし、最終濃度10容量%の不活性化Nu−serum(商品名、血清代替品)と1mMDTT(ジチオトレイトール)を添加した199培地(GIBCO社製)に入れ、37℃、30分、振盪培養した。次に、撹拌後、遠心分離し、沈殿物をRPMI培地で溶解し、37℃、30分振盪培養した。次に、ガーゼで残渣をろ過・除去し、通過物を、Percoll(Phermacia製)を用いて600×G、25℃、20分、45%/67%密度勾配遠心し、i−IELを回収した。
【0028】
次に、抗CD−3モノクローナル抗体を固定した各ウエルに、i−IEL細胞液を200μL(5×10cell/200μL)入れ、37℃、96時間培養後、培養上清を採取した。具体的な手順は次の通りである。
【0029】
平底の96ウエルプレートに、抗CD−3モノクローナル抗体を入れ、4℃、オーバーナイトでインキュベートし、各ウエルの底面に固定した。次に、各ウエルに、i−IEL細胞液(RPMI培地で希釈したもの)を200μL入れた(i−IELの細胞数は、約5×10cell/200μLになるように調製した)。次に、37℃、96時間培養し、培養上清を採取した。
【0030】
各ウエルには抗CD−3モノクローナル抗体が固定されているため、i−IELのうち、CD−3の発現している細胞(T細胞)が、抗CD−3モノクローナル抗体と結合し、各ウエル内に固定される。そして、それらの細胞が、それぞれの機能に基づき、IFN−γ、IL−4、IL−10などを、培養液中に分泌する。
【0031】
次に、ELISA法を用いて、培養上清中のIFN−γ、IL−4、IL−10を検出した。結果を、図1に示す。
【0032】
図1中、左上の棒グラフは培養上清のIFN−γ濃度(ng/mL)を、左下の棒グラフは培養上清のIL−4濃度(pg/mL)を、右下の棒グラフは培養上清のIL−10濃度(pg/mL)を、それぞれ示している。
【0033】
図1の各グラフにおいて、縦軸は、培養上清中の各サイトカイン(IFN−γ、IL−4、IL−10)の濃度、即ち、ウエル内に固定されたi−IELが生成・分泌したサイトカイン量を示している。横軸の「3mo」は初乳溶液などの投与期間が三ヶ月であることを、「6mo」は六ヶ月であることを、それぞれ示している。
【0034】
図1中、「colostrum」は初乳溶液投与群であることを、「control milk」は成熟ミルク溶液投与群であることを、「saline」は生理食塩水投与群であることを示す。「control milk」及び「saline」は対照群である。対照群では、生理食塩水又は成熟ミルク溶液を初乳溶液の代わりに用いて、同様の実験を行った。成熟ミルク溶液は、初乳溶液と同様の手順で作製した。成熟ミルクは、DMV International(オランダ)製のものを用いた。
【0035】
図1の左上の棒グラフが示すとおり、IFN−γ量については、初乳溶液投与群と生理食塩水投与群又は成熟ミルク投与群とで、有意な差は見られなかった。一方、IL−4量とIL−10量については、図1の左下及び右下の棒グラフが示すとおり、初乳溶液投与群は、生理食塩水投与群又は成熟ミルク投与群と比較して、有意に低下した。
【0036】
上記の通り、Th1細胞はIFN−γを、Th2細胞はIL−4、IL−10を、それぞれ分泌し、また、IL−4、IL−10はTh1細胞を、IFN−γはTh2細胞を、それぞれ抑制することが分かっている。従って、この実験結果は、まず、初乳又は初乳由来組成物がTh2細胞のIL−4及びIL−10分泌を抑制する作用を持つことを示している。
【0037】
加えて、この実験結果は、初乳又は初乳由来組成物が、Th1/Th2バランスを、Th1細胞を優位にしTh2細胞を弱める方向に調整する作用を持つことを示唆している。即ち、初乳又は初乳由来組成物が、Th2細胞のIL−4、IL−10分泌を抑制することにより、Th1細胞の分化を促進し、Th1/Th2バランスを、Th1細胞が優位の方向に偏向させることができることを示唆している。
【0038】
従って、初乳又は初乳由来組成物は、Th1/Th2バランスが、通常のTh1/Th2バランスと比較して、Th1細胞が弱まりTh2細胞が優位になる方向に偏向する病態を示す疾患(例えば、アレルギー性疾患、潰瘍性大腸炎など)の症状を抑制又は改善する作用があることを示唆している。
【実施例2】
【0039】
実施例2では、アレルギー感作成立時における、初乳又は初乳由来組成物の抗アレルギー作用について、検討した。実験手順の概要は次の通りである。
【0040】
はじめに、実験に用いるマウスを準備した。
まず、C57BL/6系統のマウス(メス、3週齢、日本SLC株式会社より購入)を、数日間、馴化した後、初乳粉末投与群(Col)、常乳粉末投与群(CM)、基本食投与群(BS)、の三群に分けた。各群は5匹ずつとした。
初乳粉末投与群には、AIN93G組成の飼料(市販の精製粉末飼料、「AIN」はAmerican Institute of Nutritionの略、以下同じ)に初乳粉末を10重量%添加した初乳添加飼料を、常乳粉末投与群には、AIN93G組成の飼料に常乳粉末を10重量%添加した常乳添加飼料を、基本食投与群には、AIN93G組成の基本飼料を、それぞれ与えた。各飼料は、実験終了まで与え、また、その飼料及び水は、マウスが常時摂取できるようにケージ内にセットした。
【0041】
続いて、各群のマウスに、アレルゲンを投与することにより、アレルゲン感作した。アレルゲンにはOVA(卵白アルブミン)を用いた。
具体的には、試験食投与開始から28日後、各マウスに、OVA/CFAを腹腔内投与し、さらに、その7日後(試験食投与開始から35日後)に、OVA/IFAを腹腔内投与した。
ここで、「CFA(Complete Freund’s Adjuvant)」は完全フロイントアジュバントを、「IFA(Incomplete Freund’s Adjuvant)」は不完全フロイントアジュバントを、それぞれ示す。
OVA/CFAは、OVA100μg、PBS(リン酸緩衝食塩水)100μL、CFA100μLの組成で調製した。OVA/IFAは、OVA100μg、PBS100μL、IFA100μLの組成で調製した。
【0042】
続いて、最初のアレルゲン投与から21日後(試験食投与開始から49日後)、アレルゲン感作マウスから脾臓を採取した。採取した脾臓は、アレルゲン特異的サイトカイン産生量の分析に用いた。具体的な手順は次の通りである。
まず、採取した脾臓をすりつぶし、溶血処理を行った。次に、ナイロンウールに通し、T細胞が豊富に存在する画分を回収した。
次に、96穴培養プレートに、回収したT細胞と抗原提示細胞(細胞数5×10/well)とを入れ、OVAを100μg/wellを添加した後、48時間培養した。抗原提示細胞には、本実験で用いたマウスと同系統のナイーブマウス(アレルゲン感作を受けていないマウス)から脾臓を採取し、マイトマイシン処理したものを用いた(後述の実施例においても同じ)。なお、前記手順において回収したT細胞は、アレルゲン感作を受けたマウス由来であるため、アレルゲンと抗原提示細胞の存在下で培養することにより、アレルゲン特異的にサイトカインを分泌する。
次に、培養上清中に存在するサイトカイン(アレルゲンの添加により、アレルゲン応答性T細胞から分泌されたサイトカイン)を、ELISA法により定量した。本実験で定量したサイトカインは、IFN−γ、IL−4、IL−13の三種類である。
【0043】
結果を、図2に示す。
図2は、マウス脾臓由来のアレルゲン応答性T細胞から分泌されたサイトカイン産生量を示すグラフ、である。
図中、左上のグラフはIFN−γの定量結果、右上のグラフはIL−4の定量結果、左下のグラフはIL−13の定量結果、である。各グラフの縦軸は各サイトカインの産生量(単位はpg/ml)を、「OVA(−)」及び「OVA(+)」はのアレルゲン応答性T細胞の培養時にOVAを添加したかどうかを、「Col」は初乳投与群の結果を、「CM」は常乳投与群の結果を、「BS」は基本食投与群の結果を、それぞれ示す。
【0044】
図2に示す通り、アレルゲン感作マウスから採取した脾臓由来T細胞をアレルゲン存在下で培養した場合、初乳投与群では、アレルゲン応答性T細胞のIFN−γ産生量が有意に高かった。また、初乳投与群では、アレルゲン応答性T細胞のIL−4産生量及びIL−13産生量が、基本食投与群と比較して、低くなる傾向が見られた。
【0045】
上述の通り、IFN−γは、Th1細胞から産生され、Th2細胞を抑制するサイトカインであり、IL−4及びIL−13は、Th2細胞から産生され、Th1細胞を抑制するサイトカインである。
従って、この実験結果は、初乳又は初乳由来組成物を投与することにより、アレルギー感作時におけるTh1/Th2バランスの偏向(Th2細胞優位の方向への偏向)を、緩和できることを示唆する。
即ち、この実験結果は、初乳又は初乳由来組成物が、アレルギー感作成立を抑制する方向に作用することを示唆する。
【実施例3】
【0046】
実施例3では、アレルギー発症時(2次応答時)における、初乳又は初乳由来組成物の抗アレルギー作用について、検討した。実験手順の概要は次の通りである。
【0047】
はじめに、C57BL/6系統のマウス(メス、3週齢、日本SLC株式会社より購入)を、数日間、馴化した後、初乳粉末投与群(Col)と基本食投与群(BS)の二群に分け、それぞれ、初乳添加飼料、基本食を与えて飼育した。飼料の調製及び飼育方法は、実施例2と同様に行った。なお、本実験では、各群は10匹ずつとした。
【0048】
続いて、各群のマウスに、アレルゲンを投与することにより、アレルゲン感作した。アレルゲンには、実施例2と同様、OVA(卵白アルブミン)を用いた。
具体的には、試験食投与開始から28日後、各マウスに、OVA/CFAを腹腔内投与し、さらに、その7日後(試験食投与開始から35日後)に、OVA/IFAを腹腔内投与した。
【0049】
続いて、最初のアレルゲン投与から21日目より7日間(試験開始から49日〜56日)、感作マウスにアレルゲン刺激を再付加し、アレルギーを発症させた(2次応答)。
アレルゲン刺激は、OVAをPBS(リン酸緩衝液)に1容量%添加し、その溶液を20μL経鼻投与することにより行った。なお、対照では、PBS(リン酸緩衝液)を20μL経鼻投与した。
【0050】
そして、アレルゲン刺激再付加開始から7日目(試験開始から56日目)に、経鼻投与直後の10分間における、くしゃみの回数を計測した。
【0051】
また、その次の日(試験開始から57日目)に、頚部リンパ節を採取した。採取した頚部リンパ節は、アレルゲン特異的サイトカイン産生量の分析に用いた。具体的な手順は実施例2とほぼ同様である。
即ち、まず、ナイロンウールに通し、T細胞が豊富に存在する画分を回収し、次に、96穴培養プレートに、回収したT細胞と抗原提示細胞とを入れ、OVAを100μg/wellを添加した後、48時間培養し、次に、アレルゲン応答性T細胞によるサイトカイン産生量を、ELISA法により定量した。本実験で定量したサイトカインは、IFN−γ、IL−4、IL−13の三種類である。
【0052】
結果を、図3及び図4に示す。
図3は、マウス頚部リンパ節由来のアレルゲン応答性T細胞から分泌されたサイトカイン産生量を示すグラフ、図4は、アレルゲン経鼻投与後のくしゃみの回数を示すグラフ、である。
図3中、左上のグラフはIFN−γの定量結果、右上のグラフはIL−4の定量結果、左下のグラフはIL−13の定量結果、である。図中、各グラフの縦軸はサイトカイン産生量(単位はpg/ml)を、「Col」は初乳投与群の結果を、「BS」は基本食投与群の結果を、それぞれ示す。各グラフ中、「i.n. challenge(intranasal challenge)」の項目は、アレルゲン感作マウスにアレルゲン刺激を再付加したかどうかを示し、「−」はPBSを経鼻投与した場合(対照)を、「+」はOVA(アレルゲン)を経鼻投与した場合を、それぞれ示す。各グラフ中、「culture with」の項目は、アレルゲン応答性T細胞の培養時にOVAを添加したかどうかを示し、「OVA(−)」はOVAを添加せずに培養した場合(対照)を、「OVA(+)」はOVAを添加して培養した場合を、それぞれ示す。
図4中、グラフの縦軸はくしゃみの回数を、「Col」は初乳投与群の結果を、「BS」は基本食投与群の結果を、それぞれ示す。また、「PBS」はPBSによる経鼻投与を行った場合(対照)の結果を、「OVA」はOVAによる経鼻投与を行った場合の結果を、それぞれ示す。
【0053】
図3に示す通り、感作マウスにアレルゲン刺激を再付加した場合(2次応答時)において、初乳投与群(Col)では基本食投与群(BS)と比較して、IL−13の産生量が有意に抑制された(右下のグラフ中、右から二番目のバーを参照)。また、初乳投与群(Col)では基本食投与群(BS)と比較して、IL−4産生量の抑制傾向がみられ(右上のグラフ中、右から二番目のバーを参照)、IFN−γ産生量の増加傾向がみられた(左上のグラフ中、右から二番目のバーを参照)。
【0054】
また、図4に示す通り、感作マウスにアレルゲン刺激を再付加した場合(2次応答時)において、初乳投与群(Col)では基本食投与群(BS)と比較して、くしゃみ回数の減少する傾向がみられた。
【0055】
以上の結果は、初乳又は初乳由来組成物を投与することにより、アレルギー発症時(2次応答時)におけるTh1/Th2バランスの偏向(Th2細胞優位の方向への偏向)を、緩和できることを示唆する。
即ち、この実験結果は、初乳又は初乳由来組成物が、アレルギー症状を緩和する方向に作用することを示唆する。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明に係る初乳又は初乳由来組成物は、医薬品、特定保健用食品、飲食物、飲食品添加物などに利用できる可能性がある。本発明に係る初乳又は初乳由来組成物を含有する医薬組成物及び飲食物は、医薬品、食品、飲料品などとして、生産・販売できる可能性がある。Th1/Th2バランスを調整する方法及びアレルギー抑制方法は、健康増進サービス業などでの適用可能性がある。
その他、例えば、初乳又は初乳由来組成物を日常的に摂取して体質改善を行うことにより、アレルギー感作を抑制できる可能性があり、また、アレルギーが発症した際にも、その症状を緩和できる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】実施例1において、初乳を投与したマウスの、i−IELから分泌されたサイトカイン量を示すグラフ。
【図2】実施例2において、マウス脾臓由来のアレルゲン応答性T細胞から分泌されたサイトカイン産生量を示すグラフ。
【図3】実施例3において、マウス頚部リンパ節由来のアレルゲン応答性T細胞から分泌されたサイトカイン産生量を示すグラフ。
【図4】実施例3において、アレルゲン経鼻投与後のくしゃみの回数を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Th1/Th2バランスを調整する初乳又は初乳由来組成物。
【請求項2】
抗アレルギー剤である初乳又は初乳由来組成物。
【請求項3】
潰瘍性大腸炎治療剤である初乳又は初乳由来組成物。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項記載の初乳又は初乳由来組成物を少なくとも含有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一項記載の初乳又は初乳由来組成物を少なくとも含有することを特徴とする飲食物。
【請求項6】
初乳又は初乳由来組成物を用いて、Th1/Th2バランスを調整する方法。
【請求項7】
初乳又は初乳由来組成物を用いたアレルギー抑制方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−96752(P2006−96752A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−248994(P2005−248994)
【出願日】平成17年8月30日(2005.8.30)
【出願人】(597040784)オルト株式会社 (2)
【Fターム(参考)】