説明

制御された遺伝子自殺機序組成物及び方法

本発明の実施形態は、種々の真正細菌ミニ細胞生産及び精製方法における補助的使用を含む生物剤の精製向上に使用される制御された遺伝子自殺機序の組み込み及び使用に関する。
親細胞染色体を修復不能に破壊する制御された遺伝子自殺機序を含み、そのためミニ細胞生産及び精製実行中の任意の時点で、培養中の生菌親細胞を機能的に除去することができる、遺伝子修飾を有する高収量の真正細菌ミニ細胞生産菌株が本明細書に記述されている。本発明の実施形態は、他の細胞に基づく生物剤の産生中に生菌親細胞を除去するのに有用な方法も記述する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2008年6月25日に出願された米国特許仮出願第61/075687号及び2009年4月10日に出願された第61/168457号の利益を請求するものである。これら関連出願の各々の内容は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明の実施形態は、in vivo及びin vitroでの、核酸、タンパク質、及び低分子薬物送達の標的送達媒体として、並びに標的in vivo画像化及び診断技術として、真正細菌ミニ細胞を産生、精製、製剤化、及び使用するための組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0003】
以下の説明は、本開示の理解を助けるために提供されているが、本開示の先行技術を記述又は構成するものであると認めるものではない。本出願で言及又は引用された論文、特許、及び特許出願、並びに他の全ての文書及び電子的に利用可能な情報の内容は、あたかも個々の公開文献が具体的に及び個々に参照により組み込まれていることを示すのと同様に、参照により本明細書にそれらの全体が組み込まれる。本出願人らは、あらゆるそのような論文、特許、特許出願、又は他の文書に由来するありとあらゆる物質及び情報を、本出願に物理的に組み込む権利を留保する。
【0004】
ミニ細胞とは、細菌細胞の正常な分裂機構が破壊された後で細菌により形成される、染色体が欠如した膜封入生物学的ナノ粒子(≦400nm)である。ミニ細胞は、染色体DNAを含有せず、それ自体は非分裂性であり生存不能であるという点を除いて、本質的には、小型で代謝的に活性な、正常な細菌細胞の複製である。ミニ細胞は染色体DNAを含有しないが、プラスミドDNA分子、RNA分子、天然及び/又は組換え的に発現されたタンパク質、並びに他の代謝産物は、全てミニ細胞内へと分配されることが示されている。
【0005】
前世紀全体にわたって、ミニ細胞は、細胞分裂、プラスミド複製、プラスミド分配、RNA産生、タンパク質産生、プラスミド単離、プラスミドの特性評価、及び原核生物においてプラスミドから生じる病原性因子の産生を研究する研究者のためのツールとして利用されてきた。
【0006】
微生物学、微生物遺伝学、及び分子生物学の分野が進歩した結果、今では、ミニ細胞が由来する親の細胞種に関わらず、任意の所与のミニ細胞を、操作し、その後にin vivo又はin vitro標的送達又は画像化媒体として使用することができる。
【0007】
ミニ細胞は、他の複数の送達技術が特異的に持つ利点の多くを、単一の多用途な送達媒体に併せ持つため、in vivo送達及び画像化媒体として、他に類を見ないほど好適である。ミニ細胞は、治療及び予防的な医学応用の両方における後の送達のために、種々の核酸、タンパク質、及び低分子薬物を含む生物学的活性分子を優先的に封入、結合、又は吸収するように「操作」することができる。下記で更により詳細に記述するが、ミニ細胞は、幾つかの異なる抗体、又は親和性に基づく手法を使用することにより、ミニ細胞を特定の細胞、組織、及び器官タイプに標的化することができるという点で更なる利点を有する。
【発明の概要】
【0008】
幾つかの実施形態は、隔壁形成、二分裂、及び染色体分配の1つ又は複数を調節するミニ細胞生産遺伝子産物をコードする発現可能な遺伝子と、エンドヌクレアーゼをコードする発現可能な遺伝子とを含み、該ミニ細胞生産細菌の染色体が該エンドヌクレアーゼの1つ又は複数の認識部位を含む、ミニ細胞生産細菌を提供する。幾つかの実施形態では、ミニ細胞生産遺伝子は細胞分裂遺伝子である。細胞分裂遺伝子には、これらに限定されないが、ftsZ、sulA、ccdB、及びsfiCが含まれる。幾つかの実施形態では、ミニ細胞生産遺伝子は、誘導可能なプロモーターの制御下で発現される。幾つかの実施形態では、エンドヌクレアーゼ遺伝子は、ミニ細胞生産細菌の染色体上に位置している。幾つかの実施形態では、エンドヌクレアーゼは、ホーミングエンドヌクレアーゼである。ホーミングエンドヌクレアーゼには、これらに限定されないが、I−CeuI、PI−SceI、I−ChuI、I−CpaI、I−SceIII、I−CreI、I−MsoI、I−SceII、I−SceIV、I−CsmI、I−DmoI、I−PorI、PI−TliI、PI−TliII、及びPI−ScpIが含まれる。幾つかの実施形態では、エンドヌクレアーゼは、誘導可能なプロモーターの制御下で発現される。幾つかの実施形態では、ミニ細胞生産細菌はグラム陰性細菌である。グラム陰性細菌には、これらに限定されないが、カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)、ラクトバチルス種(Lactobacillus spp.)、ナイセリア・ゴノレア(Neisseria gonorrhoeae)、レジュネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、サルモネラ種(Salmonella spp.)、シゲラ種(Shigella spp.)、シュードモナス・エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、及び大腸菌(Escherichia coli)が含まれる。幾つかの実施形態では、ミニ細胞生産細菌は、リポ多糖合成に関与する遺伝子産物をコードする遺伝子を含み、該遺伝子は、対応する野生型遺伝子に対し遺伝子組換えされている。幾つかの実施形態では、該遺伝子は、対応する野生型細菌のリピドA分子と比較して、改変されたリピドA分子を細菌に産生させる遺伝子産物をコードするmsbB遺伝子である。幾つかの実施形態では、変更されたリピドA分子は、対応する野生型細菌のリピドA分子と比較して、リポ多糖分子のリピドA部分へのミリスチン酸(myristolic acid)の付加に関して欠損している。ミニ細胞生産細菌は、グラム陽性細菌であってもよい。グラム陽性細菌には、これらに限定されないが、スタフィロコッカス種(Staphylococcus spp.)、ストレプトコッカス種(Streptococcus spp.)、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)、又はバチルス・セレウス(Bacillus cereus)が含まれる。幾つかの実施形態では、ミニ細胞生産細菌は、相同組換えに関与する遺伝子を含み、該遺伝子は、対応する野生型遺伝子と比較して遺伝子組換えされており、該ミニ細胞生産細菌はDNA損傷修復を欠損している。
【0009】
他の幾つかの実施形態は、本明細書に開示されているミニ細胞生産細菌を培養すること、及びミニ細胞生産親細胞からミニ細胞を実質的に分離し、それによりミニ細胞を含む組成物を生成することを含む、ミニ細胞を作製する方法を提供する。幾つかの実施形態では、本方法は、ミニ細胞生産親細胞からのミニ細胞形成を誘導することを更に含む。幾つかの実施形態では、本方法は、エンドヌクレアーゼをコードする遺伝子の発現を誘導することを更に含む。幾つかの実施形態では、ミニ細胞形成は、イソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)、ラムノース、アラビノース、キシロース、フルクトース、メリビオース(melbiose)、及びテトラサイクリンから選択される1つ又は複数の化学化合物の存在により誘導される。幾つかの実施形態では、エンドヌクレアーゼをコードする遺伝子の発現は、温度の変化により誘導される。幾つかの実施形態では、本方法は、組成物からミニ細胞を精製することを更に含む。幾つかの実施形態では、ミニ細胞は、遠心分離、超遠心分離、密度勾配、免疫親和性、及び免疫沈降からなる群から選択される工程により、親細胞から実質的に分離される。
【0010】
他の幾つかの実施形態は、外膜を含む真正細菌ミニ細胞を提供し、該外膜は、ミチスチン酸部分を有していないリピドA分子を含む。幾つかの実施形態では、本明細書に開示されている真正細菌ミニ細胞の外膜は、対応する野生型細菌に由来する真正細菌ミニ細胞の外膜と比較して、哺乳動物宿主において炎症促進性免疫応答の低減をその結果としてもたらす組成物を有する。幾つかの実施形態では、真正細菌ミニ細胞は、1つ又は複数の生物学的活性化合物を更に含む。幾つかの実施形態では、生物学的活性化合物の少なくとも1つは、放射性同位元素、ポリペプチド、核酸、及び低分子からなる群から選択される。生物学的活性化合物は、低分子薬物、低分子造影剤、化学療法剤、又はプロドラッグ転換酵素であってもよい。また、生物学的活性化合物は、核酸及び低分子の組合せ;低分子造影剤及び低分子薬物の組合せ;低分子薬物、低分子造影剤、及び核酸の組合せ;又は核酸及びポリペプチドの組合せであってもよい。幾つかの実施形態では、本明細書に開示されている真正細菌ミニ細胞は、細胞表面局在化標的化部分を更に含む。幾つかの実施形態では、細胞表面局在化標的化部分は融合タンパク質であり、該融合タンパク質は、真正細菌外膜アンカー型ドメインと抗体断片との融合体である。幾つかの実施形態では、細胞表面局在化標的化部分は融合タンパク質であり、該融合タンパク質は、ナイセリア・ゴノレア(Neisserria gonorrheae)IgAPと、哺乳動物細胞表面抗原を認識する抗体断片との融合体である。幾つかの実施形態では、哺乳動物細胞表面抗原は、以下のものからなる群から選択される:アディポフィリン、AIM−2、BCLX(L)、BING−4、CPSF、サイクリンD1、DKK1、ENAH、Ep−CAM、EphA3、FGF5、G250/MN/CAIX、HER−2/neu、IL−13Rアルファ2、腸管カルボキシエステラーゼ、アルファ−フェトプロテイン(alpha-foetoprotein)、M−CSF、MCSP、mdm−2、MMP−2、MUC−1、p53、PBF、PRAME、PSMA、RAGE−1、RGS5、RNF43、RU2AS、secernin 1、SOX10、STEAP1、サバイビン、テロメラーゼ、WT1、Cdc27、CDK4、CDKN2a、BCR−ABL、BAGE−1、GAGE1−8、GnTV、HERV−K−MEL、KK−LC−1、KM−HN−1、LAGE−1、MAGE−A1、MAGE−A2、MAGE−A3、MAGE−A4、MAGE−A6、MAGE−A9、MAGE−A9、ムチン、NA−88、NY−ESO−1、LAGE−2、SAGE、Sp17、SSX−2、SSX−4、TRAG−3、CD−166、及びTRP2−INT2。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】大腸菌培養増殖に対するI−CeuIの効果を示すグラフである。
【図2】大腸菌生存能に対するI−CeuIの効果を示すグラフである。
【図3】図3A及び3BはftsZの過剰発現及びI−CeuI誘導を同時に行うことが、minCDE−突然変異体又はftsZ単独の過剰発現と比較して、より高いミニ細胞収量に結び付くことを示す棒グラフである。
【図4】図4A〜DはftsZの過剰発現及びI−CeuIの誘導に基づく自殺系が、親細胞繊維化の増加を引き起こすことを示す画像である。
【図5】I−CeuIに基づく自殺系が、修復不能な二本鎖染色体破損を導入することを示す棒グラフである。
【図6】I−CeuIに基づく自殺系が、精製ミニ細胞中の親細胞夾雑物を低減することを示す棒グラフである。
【図7】S.ティフィムリウムのmsbb遺伝子の欠失が、LPS特性を変化させることを示す銀染色SDS−PAGEゲルである。
【図8】msbbの欠失が、J774.A1マウスマクロファージ様細胞に、S.ティフィムリウムLPSと比べて、より低レベルの腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)を産生させることを示す棒グラフである。
【図9】一本鎖I−CeuI DNA認識配列及び二本鎖I−CeuI DNA切断部位を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
定義
本明細書で使用される「細胞分裂遺伝子」という用語は、細胞分裂プロセスに寄与する遺伝子産物をコードする遺伝子を指す。多くの細胞分裂遺伝子が、当技術分野で発見され特徴付けられている。細胞分裂遺伝子の例には、これらに限定されないが、zipA、sulA、secA、dicA、dicB、dicC、dicF、ftsA、ftsI、ftsN、ftsK、ftsL、ftsQ、ftsW、ftsZ、minC、minD、minE、seqA、ccdB、sfiC、及びddlBが含まれる。
【0013】
本明細書で使用される「導入遺伝子」という用語は、自然に又は任意の数の遺伝子工学技術により、ある生物から別の生物に移行される遺伝子又は遺伝物質を指す。幾つかの実施形態では、導入遺伝子は、ある生物から単離されており、異なる生物に導入されている遺伝子配列を含有するDNAのセグメントである。この非天然DNAセグメントは、トランスジェニック生物においてRNA又はタンパク質を産生する能力を保持してもよく、又はトランスジェニック生物の遺伝子コードの正常機能を変更してもよい。幾つかの実施形態では、導入遺伝子は、それが遺伝子コード配列を含有しているかどうかに関わらず、導入遺伝子が以前に見出されなかった生物へ導入されている人為的に構築されたDNA塩基配列である。
【0014】
本明細書で使用される場合、作用剤は、作用剤が精製される組成物と比較して、組成物中のその濃度が増加する場合、及び/又は1つ又は複数の望ましくない夾雑物の濃度が減少する場合、当該作用剤は「精製された」と言われる。従って、精製は、組成物中の作用剤を濃縮すること、及び/又は組成物から作用剤を単離することを包含する。
【0015】
本明細書で使用される「ドメイン」又は「タンパク質ドメイン」という用語は、共通の物理的及び/又は化学的特徴を共有する分子又は構造の領域を指す。タンパク質ドメインの非限定的な例には、疎水性膜貫通又は表在性膜結合領域、球状酵素又は受容体領域、タンパク質間相互作用ドメイン、及び/又は核酸結合ドメインが含まれる。
【0016】
「真性細菌」及び「原核生物」という用語は、これらの用語が当業者により使用されるのと同じように本明細書で使用される。本明細書で使用される「真正細菌の」及び「原核生物の」という用語は、グラム陰性及びグラム陽性細菌の両方を含む真性細菌、原核生物ウイルス(例えば、バクテリオファージ)、及び偏性細胞内寄生体(例えば、リケッチア、クラミジア等)を包含する。
【0017】
本明細書で使用される「核酸」という用語は、多様な核酸分子の任意のコレクションを指す。核酸は、ssDNA、dsDNA、ssRNA、dsRNA、tRNA(希少コドンを使用するtRNAを含む)、mRNA、リボソームRNA(rRNA)、ペプチド核酸(PNA)、DNA:RNAハイブリッド、アンチセンスオリゴヌクレオチド、リボザイム、又はアプタマーであってもよい。
【0018】
本明細書で使用される「過剰発現」という用語は、DNAによりコードされたポリペプチド又はタンパク質の宿主細胞における発現であって、該ポリペプチド若しくはタンパク質は、宿主細胞に通常存在しないか、又は該ポリペプチド若しくはタンパク質は、該ポリペプチド若しくはタンパク質をコードする内因性遺伝子から通常発現されるレベルより高いレベルで宿主細胞に存在するものを指す。
【0019】
「調節する」という用語は、本明細書で使用される場合、標的の活性を変更して生物学的プロセスを調節するために、直接的又は間接的のいずれかで標的と相互作用することを意味する。「調節」の方法には、これらに限定されないが、標的の活性の増強、標的の活性の阻害、標的の活性の限定、又は標的の活性の拡張が含まれる。
【0020】
説明
真正細菌ミニ細胞は、標的送達及びイメージングベクターとして機能するのに非常によく適している。ミニ細胞は、本質的に病原性又は少なくとも日和見的に病原性であることが多い細菌に由来するため、特に静脈内に投与される場合、全身性in vivo投与の前に、所与の集団からあらゆる夾雑親細胞を機能的に除去すると都合がよい。結果的に、望ましいミニ細胞製剤は、ミニ細胞を処理及び精製する際に、残留生菌親細胞数ができるだけ低くなるようしたものであろう。これを達成する1つの方法は、自殺機序を導入して、物理的分離ステップが完了した後で残留親細胞を死滅させることである。安全特性の増強により、感染及び敗血症のリスクが低減され、他の細菌との組換え事象による遺伝子復帰変異の可能性が減少し、宿主における挿入事象のリスクが最小限に抑えられる。ミニ細胞生産親細胞菌株の細菌染色体から抗生物質耐性マーカーが除去されていることが好ましい。ミニ細胞生産細菌菌株の抗生物質耐性遺伝子マーカーの除去は、米国食品医薬品局(FDA)により、ヒトで使用するために課されている規制課題を克服するために望ましい。FDAは、最終産物がヒトでの使用を意図されている細菌又は細菌性生産用菌株の選択目的には、カナマイシン耐性遺伝子マーカーの使用のみを許容するだろう。更に、FDAは、薬物製品及びミニ細胞最終製剤の分析を証明するための特定の基準が、純度、凝集体の非存在、及び特定物質の非存在に関するUSP及びICHのガイドラインを満たすことを要求している。従って、薬物製品の上流及び下流処理は、企業の、薬物製品生産活動の化学、製造、及び分析(CNC)、の下になされるものとする。
【0021】
より良好な精製方法が必要であることは、病原性細菌に由来するミニ細胞の開発を妨げている要因である。本発明の実施形態は、適切なシグナルとの接触時に、修復不能な二本鎖破損をミニ細胞生産親細胞の染色体に導入し、その結果として親細胞の死滅をもたらす制御された遺伝子的自殺機序の組み込み及び使用に関する。また、自殺機序の活性化は、他のミニ細胞生産菌株と比較して、ミニ細胞収量を増加させ、全てのミニ細胞生産親細胞を同時に不可逆的繊維状表現型に変換する。従って、本明細書で開示されている自殺機序は、染色体保持親細菌細胞の死滅を促進することに限らず、ミニ細胞生産量を向上させるために協同して作用する他の多機能性作用を有することができる。幾つかの実施形態では、本明細書で開示されている多機能性自殺機序(「MSM」系)は、染色体保持親細胞を死滅させるように機能する。幾つかの実施形態では、本明細書で開示されている「MSM」系は、ミニ細胞収量を増加させる機能を果たす。幾つかの実施形態では、本明細書で開示されている「MSM」系は、排他的に親細胞による不可逆的な繊維状表現型を誘導して、ミニ細胞からの親細胞分離を支援する機能を果たす。幾つかの実施形態では、本明細書で開示されている「MSM」系は、(i)染色体保持親細胞を死滅させ、(ii)ミニ細胞収量を増加させ、(iii)排他的に親細胞による不可逆的繊維状表現型を誘導して、ミニ細胞からの親細胞分離を支援する機能を同時に果たす。MSM系の多機能性作用は、本明細書に記載の技術を使用して、ミニ細胞生産量及び純度を向上させることができる。
【0022】
幾つかの実施形態は、多機能性遺伝子自殺機序(「MSM」系)を、ミニ細胞生産親細胞系に導入することにより、生存可能な夾雑物ミニ細胞生産をする生菌の真正細菌親細胞の数を低減又は除去しつつ、産生されるミニ細胞の収量及び純度を最適化するための組成物及び方法に関する。幾つかの実施形態は、合成生物学的応用に使用するためのMSM系の使用に関する。
【0023】
ミニ細胞の最終調製物中に夾雑物生菌親細胞が存在することは、特に、生菌の病原性及び日和見的に病原性の細菌から産生されるミニ細胞にとって問題である。ヒト又は他の哺乳動物での使用が意図されている細菌由来の生物剤又は薬剤を生産する場合、夾雑物親細菌は、疾患、深刻な炎症、及びある場合には死を引き起こす能力があるため、夾雑物親細菌に関する安全性及びCMC問題が懸念される。本明細書に記載の細菌ミニ細胞を産生する組成物及び方法は、ミニ細胞生産量及び純度を向上させるだけでなく、in vivo及び他の用途のミニ細胞調製物の安全特性を同時に向上させる。以下の例に限定されないが、高純度で安全なミニ細胞調製物のin vivo応用物は、標的化バイオ画像化、並びに癌(又は複数の癌)、遺伝障害、及び感染症の治療的予防及び治療に使用することができる。本開示の幾つかの実施形態は、適切なシグナルとの接触時に、修復不能な損傷をミニ細胞生産親細胞の染色体に誘導する制御された遺伝子MSM機序の組み込み及び使用に関する。自殺機序は、同時に、多数の標的送達応用に使用するためのミニ細胞の調製物から生存可能な親細胞をより良好に除去するように設計された精製技術を容易にする。
【0024】
本明細書で使用される「制御された遺伝子自殺機序」という用語は、細胞又は一群の細胞が、既知の外部刺激源により刺激されて、細胞の生物学的に必須な成分又は細胞プロセスを不可逆的に損傷可能な1つ又は複数の遺伝子産物を産生し、そのため前記細胞がもはや生存可能でないか又は前記事象から回復できないという機序を指す。多機能性自殺機序、MSMという用語は、自殺エレメントの誘導中に親細胞で排他的に高レベルのミニ細胞生産、親細胞死滅、及び繊維状表現型を同時に誘導する制御された遺伝子自殺機序の使用を指す。
【0025】
本明細書で使用される「標的化ミニ細胞」又は「標的送達」という用語は、前記ミニ細胞が、選択された1つ又は複数の生物活性分子(複数可)を封入しており、該ミニ細胞の外部表面上に標的化部分を提示しており、該ミニ細胞が、(i)完全に無傷であるか、(ii)プロトプラスト(外膜及び細胞壁が除去されている)であるか、又は(iii)ポロプラスト(poroplast)(外膜が除去又は透過化されている)であるかのいずれかであり、そのため前記部分が特異的に結合し、結合され、又は他の幾つかの方法で特異的に認識され、それにより特定の細胞、器官、又は組織タイプ内に送達、局所化、又は集中し、前記ミニ細胞の分子内容物を、in vitro又はin vivoで前記標的細胞、組織、及び器官タイプに送達するミニ細胞組成物を指す。この特異的標的化は、ミニ細胞を使用して標的細胞又は組織に積荷を送達することを意図している。
【0026】
ミニ細胞を使用するin vivo送達応用には、これらに限定されないが、動物に「生物学的効果」(生物学的応答と同義)を生じさせる生物活性(生物学的活性と同義)低分子薬物、生物活性核酸、生物活性タンパク質、及び生物活性リポ多糖の標的送達が含まれる。生物学的効果には、これらに限定されないが、以下のものが含まれる:標的細胞(例えば、癌細胞)を死滅させる効果、標的化される特定の細胞タイプ内で欠損しているか又は機能障害性であり得る遺伝子を置換する効果、特定の標的細胞で調節不全である発現及び/又はタンパク質若しくはシグナル伝達分子の活性を低減する効果、特定の細胞からのホルモン分泌を低減又は増加させる効果、特定の細胞からのタンパク質分泌を低減又は増加させる効果、1つ又は複数の抗原に対する適応性細胞性免疫応答を刺激する効果、1つ又は複数の抗原に対する適応性体液性応答を刺激する効果、1つ又は複数の抗原から、適応性体液及び細胞性免疫応答の両方を刺激する効果、1つ又は複数の先天性免疫応答を刺激又は抑制する効果;動物の生物学的プロセスに肯定的又は否定的に影響を及ぼす効果;及び前記動物の疾患を治療又は予防するために、病原性寄生体、細菌、ウイルス、又は他の病原性微生物の生物学的プロセスに影響を及ぼす効果。生物学的活性エレメントは、宿主動物の免疫反応を誘導するために必ずしもそれ自体が免疫原である必要はないが、その生物学的活性の結果として間接的に免疫応答を誘発することができる。
【0027】
真正細菌ミニ細胞は、in vivoで生物活性分子を特定細胞タイプに標的化及び送達するように操作できるため、送達において独特の利点を有する。標的化は、標的細胞表面分子に特異的なミニ細胞抗体又は抗体誘導体の表面に結合することにより達成することができる。或いは、標的化は、ミニ細胞生産親菌株の遺伝子操作により達成することができ、そのためそれらが産生するミニ細胞は、標的細胞特異的表面分子に親和性を有する抗体断片又は他のポリペプチドをミニ細胞外膜上に発現及び提示する。この後者の場合、ミニ細胞表面上に装飾されている標的化部分は、細胞表面に局在する標的化部分と膜貫通型タンパク質配列、例えばナイセリア・ゴノレア由来のIgAPとのキメラ融合タンパク質を作製することにより、膜に係留することができる(下記を参照)。前記抗体及び標的化部分をそれらの表面上に提示するミニ細胞を使用して、特定細胞タイプをin vivoで標的とし、それらの生物活性な積荷を優先的に標的組織、器官、及び細胞タイプに送達する。
【0028】
ミニ細胞が特定の組織、器官、及び細胞タイプを標的化するのを支援するための抗体又はその任意の部分は、IgA、IgM、IgD、IgG、又はIgEを含むがこれらに限定されない、任意の免疫グロブリン又は免疫グロブリンサブクラスに由来してもよく又はその一部であってもよい。細胞特異的抗原に対する任意のサブクラスの任意の抗体は、適応免疫により抗体反応を生じさせることが知られている任意の動物で誘発され、同じ目的を達成することができるが、ミニ細胞の標的化機能を促進するための任意のサブクラスの抗体は「ヒト化」されていてもよい。自然界において、抗体は、それらのそれぞれの抗原に対して明確な特異性を有する2つの別々の腕状部分を含有するように産生される。以下のものに限定されないが、ミニ細胞の表面を装飾する標的化部分は、ファージディスプレイライブラリーに由来してもよく、又は標的細胞上のリガンドを認識する細胞外受容体断片に由来するキメラ融合タンパク質であってもよい。
【0029】
抗体は、単一の抗体が2つの別々の抗原を同時に標的とするように、異なる抗原に対して独立して特異的であるように操作することができる。これは、「二重特異的」抗体又は「二重特異的」標的化部分と呼ばれる。非限定的な例として、抗体は、所与の真正細菌ミニ細胞の推定表面成分(例えば、LPS O抗原)を一方のFab’で認識するように操作することができ、二重特異的抗体の他方のFab’は、下記に列挙されているもの等の細胞特異的な表面抗原を認識するように操作することができる。加えて、当業者であれば、別々の特異性を有する2つの別々の抗体は、それらをプロテインA/Gと結合させることにより非共有結合で結合されて、ミニ細胞の表面に付着可能な二重特異的抗体誘導体を形成することができ、該複合体の1つの抗体が、前記ミニ細胞の表面に特異的に付着し、他方の抗体がin vivoで特定の細胞、組織、又は器官タイプを特異的に認識し、従って「標的化する」ことができると直ちに認識する。同様に、当業者であれば、別々の特異性を有する2つの別々の抗体を、無数の架橋技術を使用して共有結合で結合させて、同じ効果を達成することができることを認識するだろう。
【0030】
幾つかの実施形態では、ミニ細胞は、それらの表面上に組換え標的化タンパク質を発現及び提示するように遺伝子「操作」される。Chlam 12又はCTP3に対して特異性を有する単一鎖Fv(scFv)抗体断片に融合された抗原43−α外膜アンカー型ドメインを含有する融合タンパク質を使用することにより、サルモネラ・エンテリカでこれを達成することに成功している。同様の研究では、ナイセリア・ゴノレアの外膜局在化IgAプロテアーゼと融合されたコロナウイルスエピトープに対する単一鎖Fv抗体断片を発現及び提示する大腸菌細胞が、in vitroでコロナウイルスを中和し、感染を予防することが示された。同じタイプの戦略を使用して、ミニ細胞表面上に標的化融合タンパク質を生成及び提示することができる。LamB、OmpF、OmpC、OmpA、OmpD、PhoE、PAL、及び種々のフラゲリンを含む他の天然外膜タンパク質が、グラム陰性腸内細菌科のメンバーの膜アンカー型及び提示ドメインとして使用されている。一般的に、同じ手法を使用して、任意の腸内細菌科又はバチルス科のメンバーに由来するミニ細胞の表面に抗体断片を発現及び提示させることができ、そのため前記ミニ細胞は、種々の臨床的徴候に関与する細胞、組織、又は器官タイプの表面に存在する抗原の「特異的」標的送達媒体になる。この目的は、推定又は予測外膜タンパク質又は外膜局在化配列と、所与の細胞、組織、又は器官タイプに存在する表面分子に対して親和性を有する抗体、抗体誘導体、又は他のポリペプチド配列との融合タンパク質をコードする核酸配列を生成すれば達成される。
【0031】
送達媒体(標的化又は非標的化)としてミニ細胞を使用することに関する別の利点は、生物活性分子を組合せて送達することができるということである。例えば、ミニ細胞は、プラスミドDNAワクチンの送達媒体として使用される場合、異種抗原に対する体液性免疫応答をうまく誘発することができることが実証されている。DNAワクチン及び対応するタンパク質の両方を同時に送達するためにミニ細胞が使用される場合、体液性応答が大きく向上し、送達選択肢に関するミニ細胞の柔軟性という有益性を例示している。同様の様式でミニ細胞を使用して、幾つかの遺伝子が単一の送達事象で発現停止されるように、プラスミドDNA又は異なるmRNA転写物に特異的な種々のアンチセンス干渉RNA(例えば、shRNA、siRNA)分子等の異なる核酸タイプの組合せを封入及び送達する。また、ミニ細胞を使用して、幾つかの細胞内標的が単一の送達事象で対応されるように、2つ以上の低分子薬物を同時に送達する。
【0032】
本明細書で開示されている幾つかの実施形態では、幾つかのクラスの生物活性な積荷を一斉に又は単独に送達可能な標的化真正細菌ミニ細胞が記述されており、ミニ細胞の最終調製物は、従来の分離技術に適用された誘導可能な遺伝子自殺機序との併用効果により、いかなる残留生存可能な夾雑親細胞を実質的に含まない。
【0033】
1. ミニ細胞生産
ミニ細胞とは、細菌細胞の正常な分裂機構が破壊された後で細菌により形成される、染色体が欠如した膜封入生物学的ナノ粒子(≦400nm)である。本質的には、ミニ細胞は、染色体DNAを含有せず、非分裂性であり生存不能であるという点を除いて、正常細菌細胞の小型で代謝的に活性な複製である。ミニ細胞は染色体DNAを含有しないが、プラスミド、RNA、天然及び/又は組換え的に発現されたタンパク質、並びに他の代謝産物の能力は、全てミニ細胞内へと分配されることが示されている。ミニ細胞生産細菌の菌株を構築する幾つかの方法は、2002年5月24日に出願された米国特許出願第10/154,951号明細書で詳細に考察されており、これは参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0034】
染色体複製と細胞分裂との協調の破壊は、ほとんどの桿状原核生物における極領域からのミニ細胞形成を引き起こす。染色体複製と細胞分裂との協調の破壊は、隔壁形成及び二分裂に関与する遺伝子の幾つかの過剰発現により促進することができる。或いは、ミニ細胞は、隔壁形成及び二分裂を調節する遺伝子における突然変異を内包する菌株で産生することができる。染色体分配障害機序は、多くの異なる原核生物中で示されているように、ミニ細胞形成に結び付く場合がある。
【0035】
同様に、ミニ細胞生産は、娘細胞への新生染色体の分配に関与する遺伝子の過剰発現又は突然変異により達成することができる。例えば、大腸菌のparC又はmukB遺伝子座における突然変異は、ミニ細胞を産生することが実証されている。両者は、腸内細菌の染色体分配プロセスの異なる必須ステップに影響を及ぼす。本明細書に記載の細胞分裂遺伝子のように、ミニ細胞生産をその結果としてもたらす染色体分配プロセスに関与する任意の所与の遺伝子の野生型レベルを操作することは、他のファミリーに同様の影響を及ぼすことになる。
【0036】
細胞分裂及び染色体複製プロセスは、生存に非常に重要であるため、原核生物のファミリーメンバー中には、これらのプロセスに関与する遺伝子に関する高レベルの遺伝子的及び機能的保存性が存在する。あるファミリーメンバーでミニ細胞生産を駆動可能な細胞分裂遺伝子の過剰発現又は突然変異は、ミニ細胞を産生するために別のメンバーで使用することができる。例えば、サルモネラ種及びシゲラ種等の腸内細菌科メンバー、並びにシュードモナス種等の他の科のメンバーにおける大腸菌FtsZ遺伝子の過剰発現は、その結果として同様なレベルのミニ細胞生産をもたらすことになることが示されている。
【0037】
同じことは、腸内細菌科の突然変異に基づくミニ細胞生産菌株で実証することができる。例えば、腸内細菌科メンバーのいずれにおいても、min遺伝子座の欠失は、その結果としてミニ細胞生産をもたらす。突然変異が、ミニ細胞形成に結び付く場合がある腸内細菌に由来する細胞分裂遺伝子には、min遺伝子群(MinCDE)が含まれるが、これらに限定されない。min突然変異菌株からのミニ細胞生産は可能であるが、産生菌株という点でのこれらの菌株の商品価値は限定的である。その理由は、min遺伝子内に欠失又は突然変異を有する菌株は、ミニ細胞を構成的に低レベルで作製するからである。これは、商業化及びスケールメリットの点で2つの問題を提示する。第1は、これらの菌株からのミニ細胞収量が低いということであり、これは生産コストを増加させる。第2は、ミニ細胞収量が突然変異菌株により高度に変動し、ロット間のばらつきが、製造品質管理及び規制保証に関する生産コストの変動に大きな影響を及ぼすということである。突然変異菌株を使用して、最初に親細胞により作製された送達用のタンパク質、RNA、DNA、及び他の代謝産物等の生物学的活性分子を封入したミニ細胞を産生させ、そのため産生されたミニ細胞が前記生物学的活性分子を封入することには問題が伴う。突然変異菌株でのミニ細胞生産の開始は、制御することができず、低レベルで生じ、そのため最終的な結果は、幾つかのミニ細胞は生物学的活性分子を含有せず、その一方で他のミニ細胞は、幅広く変動する量の生物学的活性分子を含有するということだろう。これらの欠点は、総合した場合でも又は別々の場合でも、これら突然変異菌株を使用して、商業的に採算の合う収量及び/又は品質でミニ細胞を産生する可能性を大きく制限する。
【0038】
細胞分裂遺伝子を過剰発現するミニ細胞生産菌株(「過剰発現体」)は、過剰発現される細胞分裂遺伝子が、誘導可能な又は他の条件的に活性な真正細菌プロモーター系の制御下に置かれている場合、ミニ細胞生産表現型が制御可能であるため、突然変異に基づく菌株より好ましい。細胞分裂遺伝子ftsZを過剰発現する菌株からのミニ細胞生産は、プラスミドに基づく相補性の研究を通して、大腸菌の細胞分裂に必須の遺伝子を特定していた研究者により発見された。これらの研究において、ftsZ遺伝子は、1細胞当たり10を超えるコピー数で存在していた。ftsZが複数の遺伝子コピー数で存在することにより、ミニ細胞及び非常に長い繊維状細胞が産生されることが実証された。結局のところ、この不可逆的な繊維状表現型への移行は、産生されるミニ細胞の数が任意の突然変異株より依然として高いものの、多コピープラスミドからftsZを過剰発現する菌株からのミニ細胞収量に負の影響を及ぼす。ftsZ遺伝子のコピー数を単一の染色体複製に低減することにより、ftsZが多コピープラスミドにあり、繊維状表現型がそれほど深刻でないこれらの菌株より、産生されるミニ細胞の数が増加することが、それ以来実証されている。従って、幾つかの好ましい組成物(複数可)は、重複している染色体に組み込まれたftsZのコピーからftsZ遺伝子を過剰発現する誘導可能なミニ細胞生産菌株である。使用される重複ftsZ遺伝子は、ミニ細胞生産表現型が操作されている細菌種に直接的に由来してもよく、また他の細菌種由来のftsZ遺伝子配列に由来していてもよい。非限定的な例では、大腸菌のftsZ遺伝子の過剰発現を使用して、大腸菌及びサルモネラ・チフィリウムからミニ細胞を生成することができる。その結果生じる菌株は、野生型ftsZ遺伝子、染色体上のftsZ遺伝子の別々の重複した誘導可能なコピー、及び下記でより詳細に記述されている誘導可能な遺伝子自殺機序で構成される。
【0039】
ミニ細胞生産に対するこの誘導可能な表現型の手法は、突然変異体系に対して幾つかの注目すべき利点を有する。第1点目は、これらの菌株には遺伝子突然変異がないため、正常な増殖中に選択圧が存在せず、培養中の細胞は、ミニ細胞表現型が誘導されるまで非常に安定した正常な生理機能を維持するということである。最終的な結果は、誘導可能なミニ細胞生産菌株が、より壮健でより安定しているということであり、それにより最終的に、図3に示されるようにミニ細胞のより高い収量がその結果としてもたらされる。ミニ細胞生産に対して誘導可能表現型手法を使用することに関する別の注目すべき利点は、ミニ細胞を使用して、ミニ細胞生産親細胞自体により作製することができるタンパク質、RNA、DNA、及び他の代謝産物等の生物学的活性分子を送達し、従って、産生されたミニ細胞がこれら生物学的活性分子を封入する場合である。これらの場合、好ましい方法は、ミニ細胞表現型を誘導する前に、親細胞内で生物学的活性分子の形成を誘導し、そのため産生されるミニ細胞の全てが、十分な量の送達用に封入される所望の分子を含有することである。これらの利点は、組合せて使用される場合、その結果としてより高品質でより多量のミニ細胞をもたらす。非限定的な例では、過剰発現して腸内細菌科でミニ細胞を産生することができる分裂遺伝子には、これらに限定されないが、FtsZ、MinE、SulA、CcdB、及びSfiCが含まれる。好ましい組成物は、所与の真正細菌菌株の染色体に安定的に組み込まれている誘導可能なプロモーターの制御下に、細胞分裂遺伝子の重複コピーを有するものである。誘導可能な細胞分裂遺伝子カセットが、プラスミド、コスミド、細菌人工染色体(BAC)、組換えバクテリオファージ、又は細胞中に存在する他のエピゾームDNA分子に存在する場合、この同じ戦略を実施することができる。他の生物に由来するこれら遺伝子又は遺伝子産物の相同体も使用することができる。
【0040】
本明細書に記載されている新規の誘導可能なMSM系は、誘導可能なミニ細胞菌株のミニ細胞収量を更により増加させる。MSM系の活性化は、その結果として、ミニ細胞形成を促進するためにftsZをほんのわずかに過剰産生するに過ぎない他の菌株と比較して、10倍を超えるミニ細胞収量の増加がもたらされる(実施例3)。MSM系と、MinCDEに突然変異又は欠失を内包するミニ細胞生産菌株とを組合せることが可能である。1つの好ましい実施形態は、MSM系が、誘導可能なミニ細胞生産表現型を制御すること、ミニ細胞収量を増加させること、その結果として修復不能な細胞損傷をもたらすこと、及び親細胞集団に繊維状表現型を促進することを全て行う実施形態である。好ましいMSM遺伝子の組合せは、ftsZ又はその任意の機能的相同体を過剰発現する誘導可能なミニ細胞生産菌株と、ホーミングエンドヌクレアーゼ、好ましくは、下記でより詳細に記述されているような藻類クラミドモナス・モエブシイ(Chlamydomonas moewusii)由来のI−CeuI遺伝子の誘導可能な発現とで構成される。
【0041】
誘導可能なMSM系の活性化に起因するミニ細胞生産及び親細胞自殺/繊維状表現型は、腸内細菌科に限定されず、由来がグラム陰性又はグラム陽性のいずれでもよい細菌を含む任意の桿状細菌で再現することができる。例えば、バチルス・スブチリスのミニ細胞生産菌株、及びバチルス科の他のメンバーは、非常に詳しく研究されている。腸内細菌科内のミニ細胞生産菌株と同様に、バチルス科のミニ細胞生産菌株は全て、細胞分裂又は染色体分配プロセスに関与する遺伝子の突然変異又は過剰発現の結果である。従って、任意の桿状細菌の科又は属の細胞分裂又は染色体分配プロセスに関与する保存された遺伝子を操作することは、ある生物と同じ科又は属の他のメンバーでミニ細胞生産菌株を生成するのに有用であり得るという考えを支持する十分な根拠が存在する。同様に、表1(下記)により実証されているように、MSM系を生成するのに有用なクラスの遺伝子は、多数の異なる桿状グラム陰性及びグラム陽性細菌種の染色体を認識及び破壊することができる。
【0042】
誘導可能なプロモーター
誘導可能なプロモーターを使用して、生物のある発生段階で遺伝子転写を活性化又は不活性化することにより、遺伝子発現を調節することができる。これらプロモーターの活性は、生物因子又は非生物因子の存在又は非存在により誘導することができる。
【0043】
誘導可能なプロモーターには、これらに限定されないが、化学的に調節されるプロモーター及び物理的に調節されるプロモーターが含まれる。プロモーターを含む化学的に調節されるプロモーターの転写活性は、1つ又は複数の化学化合物の存在又は非存在により調節することができる。化学化合物には、これらに限定されないが、低分子、核酸、ポリペプチド、及びタンパク質が含まれる。化学化合物の非限定的な例は、イソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)、ラムノース、アラビノース、キシロース、フルクトース、メリビオース、テトラサイクリン、アルコール、ステロイド、金属、及び他の化合物である。物理的に調節されるプロモーターには、その転写活性が、水又は塩ストレス、照明、明るさ又は暗さ、放射線、低温又は高温、酸素、及び窒素等の1つ又は複数の物理的因子の存在又は非存在により調節されるプロモーターが含まれる。
【0044】
2.親細胞からのミニ細胞の分離及びミニ細胞の精製
ミニ細胞は、本質的に病原性又は少なくとも日和見的に病原性であることが多い細菌に由来するため、投与の前に、所与の集団からあらゆる夾雑親細胞を機能的に除去することが有利である。従来、生菌親細胞は、物理的手段又は生物学的手段のいずれかにより除去されてきた。
【0045】
物理的手段には、遠心分離に基づく分離手順、ろ過法、クロマトグラフィー法、密度勾配、免疫親和性、免疫沈降、又はそれらの任意の組合せの使用が含まれる。各々は、有効ではあるが各々の欠点を有しており、ミニ細胞から生菌親細胞を除去するのに完全に適した単一の物理的分離法はない。最終的に、商業生産の場合、ろ過法又はその組合せが、その単純さ、実用性、低コスト、及び拡張可能性のため、最も好ましい技術である。しかしながら、多くの夾雑親細胞がフィルターを通過するため、現行のろ過スキームには制限がある。これを回避することも可能であるが、最終ミニ細胞収量を低減する恐れがある。最終的に、従来のろ過法と併せて、親細胞のサイズ及び生存能に影響を及ぼす生物学的因子を設計及び使用することは、その結果として生菌細胞の最も良好な除去をもたらすだろう。下記に示されているように、本明細書で開示されているMSM系は、ミニ細胞より容易に分離することができる細長い繊維状親細胞を、産生中に誘導可能に発生させることを可能にする。
【0046】
生物学的除去は、これらに限定されないが、親細胞の優先的溶解、栄養要求性親菌株の使用、抗生物質による処理、紫外線による処理、ジアミノピメリン酸(DAP)欠乏、親細胞の選択的吸着、及び他のDNA損傷剤による処理により達成される。
【0047】
親細胞の優先的溶解は、典型的には、溶原性プロファージの溶菌サイクルを誘導することにより媒介される。ミニ細胞生産菌株の場合、溶解表現型の活性化中にミニ細胞が引き続き感染及び溶解しないように、溶解能力はあるが再感染性を欠損しているプロファージを使用することが最も有用である。代替的な、及び非限定的な例では、ホリン遺伝子ファミリーのメンバーとして分類されている遺伝子等の個々の遺伝子を発現させて、溶原性プロファージの使用につきものの再感染に対する懸念のない同様レベルの溶解を達成することができる。両手法は、それを達成するために使用される方法に関わらず、溶解事象が、許容できない量の遊離エンドトキシンが培地に放出されるという事実により制限を受ける。そのような大量の遊離エンドトキシンの除去には、多くの時間が必要とされ、ロット間のばらつきを引き起こし、最終的にコストがかかり過ぎて実現不可能である。
【0048】
栄養要求性菌株の使用は、復帰変異に対する懸念を生じさせ、そのため、共生又は非病原性の細菌菌株からミニ細胞が産生される場合にのみ、そのような使用をすることができる。従って、それらの応用は、ミニ細胞生産において生きた親細胞を除去するための方法として使用することに関し、制限を受ける。
【0049】
特に、病原性又は日和見的に病原性の親菌株からミニ細胞を作製する場合、抗生物質でミニ細胞調製物を処理することは、抗生物質耐性の発生に対する懸念を生じさせる。所与のミニ細胞生産の実行から親細胞を除去するために抗生物質を使用する場合、規制に関する懸念及びコストも非常に懸念される。
【0050】
UV照射による処理は、UV照射が無作為であり、結果はロット間で非常に変動するという事実を除いて、ミニ細胞生産を実行する際の生菌親細胞除去に有用であり得る。加えて、UV照射は、核酸を無作為に損傷する際に無差別であるため、治療又は予防用核酸を送達するためにミニ細胞を使用する場合、この方法は好ましくない。例えば、プラスミドDNAは、UV照射によるDNA損傷にも非常に影響を受けやすく、ミニ細胞により効果的に送達されるにもかかわらず、効力を失っている場合がある。
【0051】
DAP欠乏は、この手法を使用することができる種の数により、この手法が制限を受けるということを除いて、生菌親細胞の除去に有用であり得る。言いかえれば、ミニ細胞を産生可能な全ての親細胞種が、生存のためのDAPを必要とするとは限らず、その場合、この手法には価値がない。DAP依存性菌株の復帰変異も、この手法に伴う懸念である。
【0052】
選択的吸着法は、生存可能親細胞からのミニ細胞精製に関して、まだ利用されていない。選択的吸着は、基質に対するそれらの親和性により、親細胞が優先的に基質に吸着する任意のプロセスとして定義される。非限定的な例では、高親和性タンパク質間相互作用を、この用途のために利用することができる。非限定的な例では、グラム陰性種であるエルシニア・シュードツベルクロシス(Yersinia pseudotuberculosis)由来の外膜タンパク質インベーシンは、ベータインテグリンのタンパク質配列に埋込まれているRGDモチーフに対して高い親和性を示す。誘導可能なプロモーターの制御下にあるインベーシンをコードする遺伝子を、ミニ細胞生産菌株に容易に導入することができる。ミニ細胞は、インベーシン遺伝子発現の活性化前にこの菌株から産生させることができ、そのため産生されるミニ細胞は、それらの細胞表面上にインベーシンを発現又は提示しない。所望量のミニ細胞が前記菌株から産生されれば、インベーシンタンパク質を産生するシグナルが培養内の生菌細胞に与えられ、そのためインベーシンは、生存可能細胞上でのみ発現及び提示される。インベーシンが生存可能親細胞の表面上に発現されれば、生存可能親細胞は、ベータインテグリン又は合成ポリペプチド若しくは他の組換えタンパク質に埋込まれたRGDモチーフでコーティングされた基質に直ちに吸着することができる。吸着すると、使用される基質タイプに応じた多数の異なる手段により、生存可能親細胞からミニ細胞を選択的に精製することができる。基質には、これらに限定されないが、重力ろ過の応用に使用される固相クロマトグラフィーカラム、磁気ビーズ、イオン交換カラム、又はHPLCカラムが含まれる。この手法は、全ての種のミニ細胞生産親細胞で機能する単一のタンパク質間相互作用はないだろうという欠点により制限を受ける。例えば、上述のインベーシン−インテグリン手法は、ほとんどのグラム陰性腸内細菌科のメンバーに有用であるが、ミニ細胞生産グラム陽性バチルス科メンバーでの使用には有用ではないだろう。
【0053】
以前に言及したミニ細胞生産親菌株の繊維状表現型を使用することは、繊維状表現型が、夾雑物生菌細胞のサイズを優先的に約1μMの長さから約10〜15μMの長さにまで増加させるため、ろ過等の従来のサイズに基づく物理的分離技術を支援するという点で非常に独特な利点を提示する。しかしながら、ミニ細胞は、それらの典型的なサイズである約400nMのままである。ミニ細胞と繊維状親細胞との間でサイズの違いが増加することは、生存可能親細胞除去の好ましい方法としてろ過スキームを大きく単純化及び不要にする。繊維化は、幾つかの手段により桿状真性細菌で誘導することができ、最も一般的な手段には、高濃度の塩を添加することにより、又は培養物のpH、細胞分裂遺伝子(上述のようなfts遺伝子等)の過剰発現、及びSOS応答の誘導を増加又は減少させることにより、細胞に生理学的ストレスを与えることが含まれる。細菌におけるSOSストレス応答の誘導は、他の機序が機能することが示されているが、典型的には著しい染色体損傷の導入により誘導される。細胞培養に生理学的ストレスを適用して繊維化を誘導することに伴う問題は、全く影響されない親細胞から、部分的に繊維化された親細胞、完全に繊維化された親細胞にまで及ぶサイズの違いを導くストレスに対して、集団内の細胞が全て等しく応答するとは限らないということである。この手法は、精製実行間の再現性に関して、集団内のこの不均質な応答により制限を受ける。集団中の細胞が全て等しくその作用剤に応答して繊維を作るとは限らないという点で、外来性DNA損傷作用剤の添加によるSOS反応の誘導についても同じことが言える。
【0054】
上記に列挙されている生物学的手法の制限を全て考慮すると、生存可能なミニ細胞生産親細胞を除去する普遍的な信頼性の高い効率的な方法を開発して、in vivo応用のためにミニ細胞の安全特性を向上させる必要性が依然として大きい。この目的を達成するために、本発明の実施形態はこの必要性に取り組み、以前に記述されていない制御された遺伝子自殺機序を使用することにより、生存可能なミニ細胞生産親細胞の染色体を修復不能に損傷可能な方法を提供する。遺伝子自殺機序の活性化は、従来のろ過に基づく生菌夾雑親細胞からミニ細胞を分離する技術を支援するのに有用な繊維状表現型を誘導する間に、同時に及び不可逆的に細胞を死滅させる。
【0055】
ある集団中の全ての生存可能なミニ細胞生産親細胞が均一に繊維状なることを保証するための好ましい新規な方法は、本明細書に記載のMSM系で達成されるように(実施例4)、誘導因子による誘導時に繊維化を引き起こす誘導可能なプロモーターの制御下にある遺伝子又は一組の遺伝子を、ミニ細胞生産菌株の染色体に遺伝子操作することである。本明細書に記載の遺伝子自殺(MSM)機序の活性化は、著しい繊維化を引き起こすことが判明した(実施例4)。従って、本発明の実施形態は、任意の生存可能細胞(染色体を有する細胞)が要求時に繊維化されることを保証することにより、繊維化に対する他の手法に存在する不均一性問題を克服する。適切なシグナルが与えられた際に、所与の集団内の全ての細胞が自殺することを保証するために、誘導因子の取り込み、及びプロモーター活性に影響を及ぼす他の生理学的因子に関連する自殺機序発現問題を回避することが望ましい。不十分なプロモーター活性を除去し、集団内の各細胞が繊維状になることを保証するために、CI857tsプロモーター系により使用されるもの等の、遺伝子自殺機序を活性化するための1つの好ましいプロモーター系は、温度制御される。幾つかの実施形態は、誘導可能な原核生物発現シグナルに作用可能に連結されたミニ細胞生産遺伝子(好ましくは、ftsZ)をコードする遺伝子を更に含む核酸と、誘導可能な原核生物発現シグナル(好ましくは、CI857ts)に作用可能に連結された、親細胞を溶解しない自殺遺伝子(好ましくは、ホーミングエンドヌクレアーゼI−CeuI)をコードする遺伝子を含む第2の核酸とを含有するグラム陰性又はグラム陽性細菌菌株を含む。ミニ細胞生産遺伝子及び自殺遺伝子に連結された原核生物発現シグナルは、同じ原核生物発現シグナルの制御下にあってもよく、又は異なる原核生物発現シグナルの制御下にあってもよい。更に、ミニ細胞生産遺伝子及び自殺遺伝子は、細胞内の同一核酸に位置していてもよく又は異なる核酸に位置していてもよく、そのうちの1つはエピゾーム核酸(例えば、プラスミド)であってもよい。他の幾つかの実施形態では、ミニ細胞生産遺伝子及び自殺遺伝子は、転写融合体に作用可能に連結されており(つまり、同一のmRNA転写物にある)、共通の誘導可能な原核生物発現シグナルの制御下にある。ミニ細胞生産遺伝子及び自殺遺伝子は両方とも、1細胞当たり複数の遺伝子コピー中に位置してもよい。
【0056】
幾つかの実施形態では、ミニ細胞は、ミニ細胞を含む組成物中のミニ細胞生産親細胞から実質的に分離されている。分離後、ミニ細胞を含む組成物は、約99.9%、99.5%、99%、98%、97%、96%、95%、94%、93%、92%、91%、90%、89%、88%、87%、86%、85%、84%、83%、82%、81%、80%、79%、78%、77%、76%、75%、74%、73%、72%、71%、70%、65%、60%、55%、50%、45%、40%、35%、又は30%未満がミニ細胞生産親細胞を含まない。
【0057】
3.修復不能な染色体損傷を誘導する方法
所与の細胞の染色体に対する修復不能な量の損傷が、その結果として不可逆的な細胞死をもたらすことになるという概念は、UV照射の使用により最も良好に例示されている。UV照射は、所与のDNA分子の隣接したチミンヌクレオチド間でチミン二量体の形成を引き起こす。チミン二量体の数が、これら付加体のDNA修復に関与するタンパク質が十分な量で利用可能でない閾値レベルに達すると、細胞は効果的に死滅することになる。しかしながら、上記に言及されているように、この手法は、染色体内の付加体形成部位に対する特異性を欠如しており、全ての核酸タイプに対して偏りなく影響を及ぼし、曝露時間に無関係に変動するため、大きな制限を受ける。
【0058】
染色体に対する修復不能な損傷は、エンドヌクレアーゼの過剰発現によって達成することもできる。エンドヌクレアーゼは、配列特異的切断部位で二本鎖DNAを切断することができる。切断は、その結果として、使用される制限酵素に依存して、平滑末端の切断産物又は付着末端の切断産物をもたらすことができる。
【0059】
4.クラミドモナス・モエブシイのI−CeuI遺伝子
藻類クラミドモナス・モエブシイの葉緑体DNAによりコードされたI−CeuI制限酵素(配列番号1)は、広範囲の真正細菌ミニ細胞生産親菌株の染色体に修復不能な損傷を導入するのに特に有用である。I−CeuIは、ホーミングエンドヌクレアーゼとして一般的に知られているイントロンにコードされたI型制限酵素の固有なファミリーに属する。I−CeuIホーミング制限酵素は、23SリボソームRNA(rRNA)rrnオペロン部位の15〜19塩基対の保存された配列(配列番号2)内で特異的に切断する。23S rRNA配列は真性細菌でよく保存されているため、I−CeuIを使用して、広範囲のミニ細胞生産親細胞種に修復不能な染色体損傷を導入することができる。23S rRNA部位は、ほとんどの真性細菌では、4〜10箇所の別々の位置のいずれかに位置しており(表1を参照)、一連の部位は、修復不能な損傷を支援することになる。典型的には、23S rRNA部位は、一般的なプラスミドDNA分子の配列内には位置しておらず、そのためI−CeuIを使用して親細胞を除去することができる一方で、治療又は予防用の積荷としてそれらを送達する目的で、依然としてプラスミドをミニ細胞中に増殖及び分配することを可能にする。更に、I−CeuIホーミングエンドヌクレアーゼは、42〜47℃で最も効率的に作用し、それにより、I−CeuIホーミングエンドヌクレアーゼが、ラムダファージに由来するCI857tsプロモーター系等の温度制御されるプロモーター系と共に使用するのに独特に好適となる。CI857tsプロモーター系は39℃より低い温度では不活化され、42〜45℃に移行されると非常に高度に活性となり、培養内のミニ細胞生産親細胞の各々を迅速に、持続して、及び均一にI−CeuIに接触させることが可能になる。このプロモーター系の活性化は、誘導因子取り込み等の多くの阻害的な生理学的要因に対し、概して独立している。
【0060】
【表1】

【0061】
元々、I−CeuIは、パルスフィールドゲル電気泳動ゲノム解析用に精製真正細菌染色体DNA分子を消化するために、クラミドモナス・モエブシイから単離された。I−CeuIは、研究使用に市販されており、微生物学者により長年利用されて、ゲノム配置、ゲノム再編成の研究、BACクローニングの実施、及び真正細菌染色体DNAに関する他の分析が実施されてきた。I−CeuI及びそのI型ファミリーメンバーは、真性細菌中で非常に異なる場合がある様々なDNAメチル化パターンによる影響を受けないという点で独特である。従って、I−CeuIは、広範囲の異なるミニ細胞生産親菌株で使用することができる。非限定的な例では、I−CeuIは、サルモネラ、シゲラ、大腸菌、シュードモナス種、エロモナス種(Aeromonas spp.)、クロストリジウム種(Clostridium spp.)、スタフィロコッカス属種、バチルス種、及びナイセリア種のゲノムを、全て同等の効率で分析するためにin vitroで使用されてきた。
【0062】
更に、I−CeuIは、LAGLIDADGファミリーとして知られているホーミングエンドヌクレアーゼのサブファミリーメンバーである。このファミリーのメンバーの数は100を超えており、全てが、ホモ二量体相互作用接触面、並びに活性部位形成及び機能として機能する保存されたアミノ酸配列モチーフLAGLIDADGを含有する。
【0063】
I−CeuI及び他のI型制限エンドヌクレアーゼは、それを認識し、それぞれの切断反応を実施する配列に関して、より典型的なタイプII制限エンドヌクレアーゼほど厳格ではない。15〜19塩基対配列内の幾つかの塩基は切断に不可欠であるが、他のものは重要でない。従って、重要ではない塩基の配列が異なるが、依然として機能的な切断部位であるように、15〜19塩基対配列のある変異を操作することができる。ミニ細胞生産親菌株の染色体に、そのような部位をそのように操作及び導入することができる。これら修飾された切断部位は、in vivo又はin vitroでI−CeuIにより認識される標的としても機能することになり、染色体に修復不能な損傷を導入するために使用することができる。
【0064】
5. I−CeuIの機能的等価物の使用
以前に言及されているように、クラミドモナス・モエブシイのI−CeuI遺伝子は、LAGLIDADGファミリーとして知られているホーミングエンドヌクレアーゼのサブクラスのメンバーである。そのため、幾つかの実施形態には、他のLAGLIDADGホーミングエンドヌクレアーゼファミリーメンバーのうちの1つを使用することにより、同様の遺伝子自殺機序を構築及び使用することが含まれる。I−CeuIの代わりに用いることができるLAGLIDADGのメンバーには、これらに限定されないが、PI−SceI、I−ChuI、I−CpaI、I−SceIII、I−CreI、I−MsoI、I−SceII、I−SceIV、I−CsmI、I−DmoI、I−PorI、PI−TliI、PI−TliII、及びPI−ScpLが含まれる。
【0065】
I型ホーミングエンドヌクレアーゼの別のサブファミリーは、GIY−YIGファミリーと名付けられている。このファミリーのメンバーには、これらに限定されないが、バクテリオファージT4エンドヌクレアーゼI−TevI、Am atpase−6、及びSegAが含まれる。
【0066】
I型ホーミングエンドヌクレアーゼの更に別のサブファミリーは、H−N−Hファミリーと名付けられており、そのメンバーには、これらに限定されないが、Eco CoE8、Eco CoE9、Eco CoE2、Eco Mcr、I−HmuI、I−TevIII、Cpc1 gpII、Cpc2 gpII、Avi gpII、Sob gpII、及びSce gpIIが含まれる。
【0067】
I型ホーミングエンドヌクレアーゼの最新のサブファミリーは、His−Cysボックスファミリーと名付けられており、そのメンバーには、これらに限定されないが、I−DirI、I−NaaI、及びI−PpoIが含まれる。
【0068】
4つのクラスのホーミングエンドヌクレアーゼ及びそれらの対応するDNA標的配列又はその機能的変異体のいずれか又は全てを使用して、ミニ細胞から生存可能な夾雑親細胞を除去するのに使用するための、本明細書に記載されている制御された遺伝子自殺系を構築することができる。
【0069】
6.遺伝子自殺機序の活性化と組合せたftsZの過剰発現は、高収量のミニ細胞生産菌株を生成する
図3に示されているように、I−CeuIの活性化及びミニ細胞生産表現型の誘導を同時に行うことは、協同して作用して、ミニ細胞の産生及び収量、並びに夾雑親細胞の生存能減少及び繊維化に肯定的な効果を示した。実施例3は、ftsZ及びI−CeuIを同時に過剰表現させた場合に、産生されたミニ細胞の数が10倍増加した高収量ミニ細胞生産菌株を示す。高収量ミニ細胞生産菌株は、100mLの開始培養から109個以上のミニ細胞を産生するものであると定義された。高収量のミニ細胞の生成に加えて、親細胞は、図4に示されているように、I−CeuI及びftsZ遺伝子の活性化の際に均一に繊維状になった。その結果生じた繊維状表現型は、ろ過に基づくミニ細胞精製スキームをより良好に容易にするために利用される因子である。
【0070】
7.相同組換え及び他のDNA損傷修復経路
真性細菌の相同組換え経路は、機能及び作用機序の点で高度に保存されている。本質的に、相同DNA組換えは、二本鎖DNAの二本鎖解体の誘導、その後、ストランド侵入として知られている酵素依存性プロセスで使用される一本鎖DNA突出を生成する5’から3’のエキソヌクレアーゼ活性により媒介される。ストランド侵入中に、2つの別々の二本鎖DNA分子の相同領域が、互いに塩基対を形成する。新しいDNAの合成は、エキソヌクレアーゼにより分解された領域(複数可)を置換し、その結果は、ホリデイジャンクションを名付けられている4つの腕状部分を有する短命なヘテロ二本鎖DNA構造である。ホリデイジャンクションは、分枝点移動として知られているヘリカーゼ依存性プロセスを起こし、ヘテロ二本鎖DNA構造の中心は、ホリデイジャンクションの4つの腕状部分のいずれかの長さに沿って、その元々の位置から他の任意の位置に移行することができる。安定すると、ヘテロ二本鎖ホリデイジャンクションは、レソルバーゼと名付けられている酵素により、「解体」され、2つの別々の二本鎖DNA分子がその結果として生じる。幾つかの場合には、著しい量のDNAが、一方のDNA分子から他方のDNA分子に移行し、従ってその用語は組換えである。
【0071】
幾つかの場合には、二本鎖破損修復は、真性細菌の相同組換え経路(複数可)により媒介されることが知られている。以前に述べられているように、I−CeuI及び他のI型ホーミングエンドヌクレアーゼのファミリーメンバーは二本鎖破損を導入し、前記破損は、相同組換えによる修復の支配を受ける。従って、細胞が相同組換えを実施する能力を除去することにより、I型ホーミングエンドヌクレアーゼのファミリーメンバーにより導入された二本鎖破損が修復される可能性も排除される。二本鎖破損の場合、染色体の修復は回復に不可欠であり、そのため前記遺伝子自殺機序と併せて、相同組換え経路ヌル突然変異体又は条件突然変異体を使用することは、生存可能な夾雑物ミニ細胞生産親細胞の低減に非常に有益だろう。幾つかの実施形態は、遺伝子自殺機序を含有する細胞が、自殺機序の活性化の結果として導入されるあらゆる染色体病変を修復するのを防止するためのDNA組換え及び損傷修復経路の使用を提供する。
【0072】
真正細菌の腸内細菌科において、突然変異させることができるか、不活化することができるか、条件付で発現させることができるか、又は遺伝子自殺機序の活性化の際に生存可能な夾雑物ミニ細胞生産親細胞の除去を支援することに関して任意の方法で修飾することができる相同組換え又は本明細書に記載のプロセスの任意のステップに関与する遺伝子には、これらに限定されないが、recA、recBCD、uvrABC、lexA、recN、recQ、recR、ruv、gyrAB、helD、lig、polA、ssb、recO、mutH、mutL、mutS、topA、uvrD、xseA、srfA、recF、recJ、recE、recT、rusA、dam、dut、xth、又はrdgBが含まれる。前記遺伝子の任意の相同体は、他の属及び別々の真正細菌科において破壊することができる。
【0073】
これら遺伝子の発現に影響を及ぼす突然変異は、単独で存在してもよく又は相互に組合せて存在してもよい。前記遺伝子(複数可)の転写レベルは、染色体欠失、プロモーター破壊、プロモーター置換、プロモーター修飾、又はRNA媒介性プロモーター干渉により影響を受ける場合がある。前記遺伝子(複数可)の翻訳は、アンチセンスmRNAの発現、shRNA、siRNA、又はシャイン‐ダルガルノ配列の修飾により影響を受ける場合がある。前記遺伝子(複数可)産物(複数可)の機能は、前記遺伝子(複数可)のドミナントネガティブ型(複数可)又は前記遺伝子(複数可)の他の抑制因子の過剰発現により影響を受ける場合があり、そのため機能が損なわれる。
【0074】
幾つかの実施形態は、上記に列挙されている相同組換え又は二本鎖破損修復経路に関与する遺伝子のいずれか又は全てを、十分に特徴付けられている温度感受性突然変異体である前記遺伝子(複数可)の対立遺伝子と置換することを提供する。この例示的な例では、例えば、遺伝子産物RecAは、39℃未満の温度で正常に機能し、従って正常な増殖、生理、及びミニ細胞生産が可能であるが、39℃より高い温度では機能せず、そのためミニ細胞生産培養の温度を42〜45℃に移行させてI−CeuI遺伝子を活性化すると、細胞内に存在するRecA分子は、二本鎖染色体病変の修復を支援するのに十分なレベルで必要な機能(複数可)を実施することができないだろう。この手法は、I−CeuIの死滅効果を促進させる一方で、細胞に修復機序(複数可)を提供しないことにより、生存可能なミニ細胞生産親細胞の除去に別のレベルの保証を提供する。
【0075】
幾つかの実施形態では、遺伝子lexAの野生型コピーは、切断欠損変異体対立遺伝子と置換される。LexAタンパク質は、真性細菌のSOS応答遺伝子の全体的な調節因子であり、SOS応答遺伝子のプロモーター領域内の転写開始部位を並列で占有することにより、そのレギュロン内の遺伝子に対する抑制因子として作用する。従って、LexA抑制因子がSOS応答遺伝子のプロモーター領域に結合すると、該遺伝子は、LexA媒介性立体障害のため転写因子が接近不能になる結果として、不活化される。細胞が、二本鎖染色体DNA破損が導入される際にもたらされるストレス等のストレスに曝されると、LexAが切断される。切断の結果として、LexAは、もはや結合することができず、SOS応答遺伝子の活性を抑制することができない。切断は、2つの機序を介して生じ得る。第1は、一本鎖DNAの存在下でRecAタンパク質の活性により刺激されるRecA媒介性切断である。一本鎖DNAは、二本鎖染色体破損の導入直後のまさにその次の一連の事象として、RecBCDエキソヌクレアーゼ複合体により産生される。第2の機序は、「自己切断」と名付けられており、温度又はpHの変化に応答して、分子内反応で自発的に生じる。両切断機序は、アミノ酸119位のセリン残基(S−119)及びアミノ酸156位のリジン残基(L−156)により媒介されるセリンプロテアーゼ活性に依存する。切断は、アミノ酸84位のアラニン残基(A−84)とアミノ酸85位の隣接したグリシン残基(G−85)との間に生じる。lexA3と名付けられたlexA遺伝子及びその対応物lexA33の十分に特徴付けられている切断欠損変異体対立遺伝子を、本発明の幾つかの実施形態と共に使用することができる。
【0076】
8.標的化ミニ細胞
ミニ細胞は、生産、遺伝子自殺機序の活性化、及びその後精製の後、標的送達媒体として使用される。抗体、抗体誘導体、及び他の標的化部分をそれらの表面上に提示するミニ細胞を使用して、in vivoで特定の細胞タイプを標的とし、それらの生物活性な積荷を優先的に標的組織、器官、及び細胞タイプに送達する。
【0077】
ミニ細胞が特定の組織、器官、及び細胞タイプを標的化するのを支援するための抗体又はその任意の部分は、IgA、IgM、IgD、IgG、又はIgEを含むがこれらに限定されない、任意の免疫グロブリンサブクラスに由来してもよく又はその一部であってもよい。細胞特異的抗原に対する任意のサブクラスの任意の抗体は、適応免疫により抗体反応を生じさせることが知られている任意の動物で誘発され、同じ目的を達成することができるが、ミニ細胞の標的化機能を促進するための任意のサブクラスの抗体は、「ヒト化」されていてもよい。自然界において、抗体は、それらのそれぞれの抗原に対して明確な特異性を有する2つの別々の腕状部分を含有するように産生される。
【0078】
抗体は、単一の抗体が2つの別々の抗原を同時に標的とするように、異なる抗原に対して独立して特異的であるように操作することができる。非限定的な例として、抗体は、所与の真正細菌ミニ細胞の推定表面成分(例えば、LPS O抗原)を一方の腕状部分で認識するように操作することができ、他方の腕状部分は、細胞特異的な表面抗原を認識するように操作することができる。この手法では、有用である可能性のあるミニ細胞表面分子には、これらに限定されないが、リポ多糖(LPS)、外膜タンパク質(OMP)、鞭毛タンパク質、繊毛タンパク質、及びポーリン等の天然分子が含まれる。或いは、ミニ細胞生産親菌株は、天然に存在しないか又は他の生物に存在するタンパク質又はLPS分子をそれらの表面上に発現及び提示するように操作することができ、そのため前記分子は、標的化抗体又は他の標的化部分をミニ細胞の表面に結合させるために使用される抗体の1つ又は複数の腕状部分により認識される。例えば、FLAGエピトープを発現及び提示するように操作されたタンパク質は、抗体の一方の腕状部分がFLAGエピトープを認識し、他方が、特定細胞選択的な選択された抗原を認識することができるように、設計及び使用することができる。加えて、当業者であれば、別々の特異性を有する2つの別々の抗体は、それらをプロテインA/Gと結合させることにより非共有結合で結合されて、ミニ細胞の表面に付着可能な二重特異的抗体誘導体を形成し、該複合体内の1つの抗体が、前記ミニ細胞の表面に特異的に付着し、他方の抗体がin vivoで特定の細胞、組織、又は器官タイプを特異的に認識し、従って標的化することができると直ちに認識する。同様に、当業者であれば、別々の特異性を有する2つの別々の抗体を、無数の架橋技術を使用して共有結合で結合して、同じ効果を達成することができることを認識するだろう。これらの考え得る標的化の手法は全て、当業者により容易に認識される。
【0079】
抗体及び抗体誘導体を外来性に付加する代わりに及び付加するより好ましくは、ポリペプチドに基づく標的化部分を提示する外膜融合タンパク質を生成することにより、それらの表面上に組換え標的化タンパク質を発現及び提示するように、ミニ細胞を「操作」することができる。これは、グラム陰性細菌に由来する外膜タンパク質のいずれかを使用して達成することができるが、幾つかの外膜タンパク質又はその領域が、提示用により好適である。Chlam12又はCTP3に対して特異性を有する単鎖FcV抗体断片に融合された抗原43−α外膜アンカー型ドメインを含有する融合タンパク質を使用することにより、サルモネラ・エンテリカでこれを達成することに成功している。同様の研究では、ナイセリア・ゴノレアの外膜局在化自己輸送体IgAプロテアーゼ(IgAP)と融合されたコロナウイルスエピトープに対する単鎖FcV抗体断片を発現及び提示する大腸菌細胞は、in vitroでコロナウイルスを中和し、感染を予防することが示された。同じタイプの戦略を使用して、ミニ細胞表面上に標的化融合タンパク質を生成及び提示することができる。LamB、OmpF、OmpC、OmpA、OmpD、PhoE、PAL、及び種々のフラゲリンを含む他の天然外膜タンパク質は、グラム陰性腸内細菌科メンバーの膜アンカー型及び提示ドメインとして使用されている。一般的に、同じ手法を使用して、任意の腸内細菌科又はバチルス科のメンバーに由来するミニ細胞の表面上に抗体断片を発現及び提示させことができ、そのため前記ミニ細胞は、種々の臨床的徴候に関与する細胞、組織、又は器官タイプの表面に存在する抗原の「特異的」標的送達媒体になる。当業者であれば、この目的は、推定又は予測外膜タンパク質又は外膜局在化配列と、抗体、抗体誘導体、又は所与の細胞、組織、若しくは器官タイプに存在する表面分子に対して親和性を有する他のポリペプチド配列との融合タンパク質をコードする核酸配列を生成すれば達成されることを理解しよう。
【0080】
本明細書に記載の抗体、抗体断片、及び他のポリペプチドに基づく標的化部分のいずれかをミニ細胞の表面上に提示するのに好ましい実施形態は、「自己輸送体」ファミリーの外膜との融合による。自己輸送体のサブクラス5型分泌系に属する単量体自己輸送体(一般的に5a型として分類される)が、最も好ましい。5a型として分類されるこれら自己輸送体のうち、ナイセリア・ゴノレアのIgAプロテアーゼ(IgAP)が好ましい。IgAP自己輸送体パッセンジャードメイン(autoransporter passenger domain)は、短い8〜10個の反復プロリンリンカー配列で隔てられている抗体可変軽鎖及び抗体可変重鎖により容易に置換される。可変重鎖(VH)及び可変軽鎖(VL)由来の配列は、当業者であれば容易に認識するように、B細胞ハイブリドーマから、又は可変軽鎖及び可変重鎖配列の任意の他の従来の組換えDNA若しくはRNA供給源から、容易に特定、単離、配列決定、及びクローニングされる。幾つかの異なる抗体断片及び抗体断片タイプは、大腸菌のIgAP系を使用して提示及び特徴付けられているが、この手法は、ミニ細胞での使用と併せて、組織、器官、又は細胞タイプを標的とするためにそれらを使用することに関しては、全くの新規である。従って、抗体を特定することによる。
【0081】
当業者であれば、ミニ細胞表面上の細胞特異的表面抗原に対して特異性を有する抗体又は抗体誘導体の提示に加えて、特定の細胞、器官、又は組織タイプに対するミニ細胞の標的化を達成することができる他の方法があることを認識するだろう。1つのそのような方法は、細胞特異的抗原を標的とする非抗体由来のポリペプチドを、ミニ細胞の最も外側の表面に発現及び表示することである。これらポリペプチドは、これらに限定されないが、天然配列又はその有用な部分及び合成由来の配列に由来していてもよい。
【0082】
天然配列には、細胞特異的表面抗原と相互作用することが当技術分野で公知であるものが含まれる。これらのタイプの相互作用の例には、これに限定されないが、十分に特徴付けられているVEGFとVEGF受容体との相互作用等の、天然リガンドと受容体との相互作用が含まれる。例えば、VEGFタンパク質の受容体結合ドメインでミニ細胞を装飾することにより、内皮細胞又は他の細胞の表面に提示されたVEGF受容体を標的とすることができ、従って内皮細胞にミニ細胞を送達するための標的化部分を提供することができる。これは、抗VEGF受容体のscFv断片を標的化部分として使用することの代用になるだろう。幾つかの実施形態では、上記に列挙されているミニ細胞の同じ天然表面局在化分子を、標準的分子生物学的技術を使用して操作して、これらリガンドの結合部分(複数可)を提示する融合タンパク質を生成することができ、そのため前記ミニ細胞は、目的の特定細胞タイプ、組織、及び器官を特異的に認識し、局在化し、及びそれらの対応する積荷を送達することができる。
【0083】
哺乳動物細胞表面抗原等の細胞特異的表面抗原と選択的に結合する合成分子を特定し、本発明の幾つかの実施形態に組み込んで、標的化部分として機能させることができる。例えば、ファージディスプレイライブラリーにより特定されたペプチド配列は、上述のような天然ミニ細胞外膜タンパク質のいずれかとの融合体として容易にクローニングされ、標的化部分として機能させることができる。同様に、標準的化学結合又は架橋技術を使用して、合成標的化分子をミニ細胞の表面に結合することができる。
【0084】
特に、癌細胞については、ミニ細胞を使用して標的とすることができる細胞タイプが非常に求められている。多くの癌は、細胞表面タンパク質変異体、又は腫瘍特異的抗原として集団的に公知であるか若しくは腫瘍選択的抗原(TSA)と呼ばれることがある他の免疫学的に識別可能な細胞表面マーカーを提示する。従って、TSAを特異的に認識する多くの抗体、及びその可変領域の核酸配列は、当技術分野で既に公知である。これら抗体はいずれも、外来性の様式で発明に使用されてもよく、又はその代わりに、膜結合型融合タンパク質として発現され、上述のようにミニ細胞表面に提示されてもよい。抗体及び従ってそれら抗体の可変領域の核酸配列が現在入手可能ではない多くのTSAが特定されている。しかしながら、TSAに対する抗体を産生する方法は当技術分野で周知であり、本明細書に開示されている方法は、TSA又は他の細胞特異的表面抗原に対するありとあらゆる抗体を、記載されている組成物に組み込むことができるように設計することができる。
【0085】
腫瘍選択的な抗原には、これらに限定されないが、以下のものが含まれる:アディポフィリン、AIM−2、BCLX(L)、BING−4、CPSF、サイクリンD1、DKK1、ENAH、Ep−CAM、EphA3、FGF5、G250/MN/CAIX、HER−2/neu、IL−13Rアルファ2、腸管カルボキシルエステラーゼ、アルファ−フェトプロテイン、M−CSF、MCSP、mdm−2、MMP−2、MUC−1、p53、PBF、PRAME、PSMA、RAGE−1、RGS5、RNF43、RU2AS、secernin 1、SOX10、STEAP1、サバイビン、テロメラーゼ、WT1、Cdc27、CDK4、CDKN2a、BCR−ABL、BAGE−1、GAGE1〜8、GnTV、HERV−K−MEL、KK−LC−1、KM−HN−1、LAGE−1、MAGE−A1、MAGE−A2、MAGE−A3、MAGE−A4、MAGE−A6、MAGE−A9、MAGE−A9、ムチン、NA−88、NY−ESO−1、LAGE−2、SEGE、Sp17、SSX−2、SSX−4、TRAG−3、及びTRP2−INT2。
【0086】
癌細胞及びそれらに由来する腫瘍を標的とすることに加えて、本発明の実施形態は、選択的細胞表面抗原(複数可)を提示する任意の細胞タイプも包含する。例えば、ミニ細胞を膵臓に標的化して糖尿病薬を送達すること、又はミニ細胞を樹状細胞又はそれらの任意のサブクラスに標的化してタンパク質、糖、又はワクチン開発若しくは先天性免疫調節に使用するための抗原をコードする核酸を送達することが望ましい。内皮細胞用のVEGFに基づく標的化系は、上述されている。同様に、ミニ細胞を、小腸のパイエル板等の特定細胞タイプの粘膜上皮に標的化することが望ましい。
【0087】
9.積荷タイプ
真正細菌ミニ細胞は、動物に対して治療的、予防的、又は診断的有益性を有する幾つかのクラスの生物学的活性化合物を封入及び送達可能である。ミニ細胞により送達することができる生物学的活性化合物(積荷)のタイプには、これらに限定されないが、低分子、核酸、ポリペプチド、放射性同位元素、脂質、リポ多糖、及びそれらの任意の組合せが含まれる。
【0088】
本明細書で使用される「低分子」という用語は、肯定的な又は否定的な意味で生物学的プロセスに影響を及ぼすように作用することができる任意の化学的部分又は他の部分を含む。低分子には、現在公知であり使用されている任意の数の治療薬が含まれていてもよく、又は生物学的機能(複数可)のスクリーニング用のそのような分子のライブラリーで合成された低分子であってもよい。低分子は、サイズにより巨大分子と区別される。本明細書で開示されているような低分子は、通常、約5,000ダルトン(Da)未満、好ましくは約2,500Da未満、より好ましくは1,000Da未満、最も好ましくは約500Da未満の分子量を有する。
【0089】
低分子には、限定ではないが、有機化合物、ペプチド模倣物、及びそれらの複合体が含まれる。本明細書で使用される場合、「有機化合物」という用語は、巨大分子核酸及びポリペプチド以外の、炭素に基づく任意の化合物を指す。炭素に加えて、有機化合物は、カルシウム、塩素、フッ素、銅、水素、鉄、カリウム、窒素、酸素、硫黄、及び他の元素を含有してもよい。有機化合物は、芳香族の形態であってもよく又は脂肪族の形態であってもよい。有機化合物の非限定的な例には、アセトン、アルコール、アニリン、炭水化物、単糖類、オリゴ糖、多糖、アミノ酸、ヌクレオシド、ヌクレオチド、脂質、レチノイド、ステロイド、プロテオグリカン、ケトン、アルデヒド、飽和、不飽和、及び多価不飽和脂肪、油及びワックス、アルケン、エステル、エーテル、チオール、スルフィド、環式化合物、ヘテロ環式化合物、イミダゾール(imidizole)、及びフェノールが含まれる。有機化合物には、本明細書で使用される場合、ニトロ化有機化合物及びハロゲン化(例えば、塩素化)有機化合物が含まれる。
【0090】
「低分子」は、合成であってもよく、天然であってもよく、及び天然供給源から精製されていてもよい。低分子には、これらに限定されないが、低分子薬物及び低分子造影剤が含まれる。低分子薬物のタイプには、体細胞性、胚性、伝染性、又はその他であるかに関わらず、疾患に罹っている動物の利益のために、細胞、組織タイプ、又は器官内の生物学的又は生化学的プロセスを予防、阻害、刺激、模倣、又は修飾するものが含まれる。薬物の例には、米医薬品便覧(Physicians Desk Reference)に列挙されているような化学療法剤(抗癌剤)、抗生物質、抗ウイルス薬、抗うつ薬、抗ヒスタミン剤、抗凝血剤、及びそれらの他のクラス若しくはサブクラスが含まれる。低分子には、フルオロフォアとして集団的に公知である分子のクラスも含まれる。フルオロフォアを封入し、細胞特異的標的化部分を提示するミニ細胞は、動物の細胞タイプ、組織、器官、又は腫瘍のin vivo画像化に使用することができる。低分子フルオロフォアには、これらに限定されないが、DAPI、Cybr Gold、Cybr Green、臭化エチジウム、Alexa Flour、Texas Red、及びCFSE等が含まれる。低分子化学療法剤を、標的化分子を提示するミニ細胞を使用して、組織、細胞、及び器官を標的として送達することができる。本明細書で使用される「化学療法剤」という用語は、抗癌剤、転移抑制剤、抗血管新生剤、及び他の抗過剰増殖剤を指す。手短に言うと、「化学療法剤」は、細胞及び組織を破壊するための化学薬品を指す。そのような作用剤には、これらに限定されないが、以下のものが含まれる:(1)アントラサイクリン(ドキソルビシン、ドノルビシン(donorubicin)、エピルビシン)等のDNA合成を阻害する1つ又は複数のDNA損傷剤、アルキル化剤(ベンダムスチン、ブスルファン、カルボプラチン、カルマスティン、シスプラチン、クロラムブシル、シクロホスファミド、ダカルバジン、ヘキサメチルメラミン、イホスファミド、ロムスチン、メクロレタミン、メルファラン、ミトタン、マイトマイシン(mytomycin)、ピポブロマン、プロカルバジン、ストレプトゾシン、チオテパ、及びトリエチレンメラミン)、白金誘導体(シスプラチン、カルボプラチン、シスジアミンジクロロ白金(cis diamminedichloroplatinum))、テロメラーゼ、及びトポイソメラーゼ阻害剤(カンプトサール)、(2)タキサン(パクリタキセル、ドセタキセル、BAY59−8862)等のチューブリン解重合剤、(3)カペシタビン、クロロデオキシアデノシン、シタラビン(及びその活性化形態、ara−CMP)、サイトシンアラビノサイド、デカバジン(dacabazine)、フロクスウリジン、フルダラビン、5−フルオロウラシル、5−DFUR、ゲムシチビン(gemcitibine)、ヒドロキシ尿素、6−メルカプトプリン、メトトレキサート、ペントスタチン、トリメトレキサート、及び6−チオグアニン等の抗代謝剤、(4)抗血管新生剤(アバスチン、サリドマイド、スニチニブ、レナリドマイド)、血管破壊剤(フラボノイド/フラボン、DMXAA;CA4DP、ZD6126、AVE8062A等のコンブレタスタチン誘導体等)、(5)抗体又は抗体断片等の生物剤(ハーセプチン、アバスチン、パノレックス(Panorex)、リツキサン、ゼバリン、マイロターグ、キャンパス、ベキサール(Bexar)、エルビタックス、ルセンティス)、並びに(6)アロマターゼ阻害剤(4−ヒドロアンドロステンジオン(4-hydroandrostendione)、エキセメスタン、アミノグルテチミド(aminoglutehimide)、アナストロゾール、レトゾール(letozole))、抗エストロゲン剤(タモキシフェン、トレミフィン(Toremifine)、ラオキシフェン(Raoxifene)、ファスロデックス(Faslodex))、デキサメタゾン等のステロイド等の内分泌療薬、(7)免疫調節剤:IFNベータ及びIL2等のサイトカイン)、インテグリン、他の接着タンパク質、及びマトリックスメタロプロテアーゼの阻害剤)、(8)ヒストンデアセチラーゼ阻害剤、(9)イマチニブ(グリベック)のようなチロシンキナーゼ阻害剤等のシグナル伝達阻害剤、(10)ヒートショックタンパク質の阻害剤、(11)オールトランスレチノイン酸等のレチノイド、(12)成長因子受容体の阻害剤又は増殖因子自体、(13)ナベルビン、パクリタキセル、タキソテール、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシン、及びビノレルビン等の抗有系分裂化合物、(14)COX阻害剤等の抗炎症剤、並びに(15)チェックポイント調節因子及びテロメラーゼ阻害剤等の細胞周期調節因子。
【0091】
核酸には、DNA及びRNA、並びに天然リン酸ジエステル骨格の代わりにホスホチオラート骨格を使用するRNA分子又はDNA分子等、それらの構造的同等物が含まれる。DNA分子には、エピゾームDNA(宿主細胞染色体に位置していないか又はその一部でない)が含まれ、プラスミドDNA、コスミドDNA、バクテリオファージDNA、及び細菌人工染色体(BAC)が含まれる。DNA分子は、分子生物学のセントラルドグマにより記述されているように、タンパク質をコードする。従って、DNAは、天然又は合成の由来が任意のタンパク質をコードする。同様に、DNAは、宿主細胞機構により認識されて、前記コードされたタンパク質の発現を活性化する「プロモーター配列」を含有するように操作することができる。プロモーター配列は、細胞特異的、組織特異的、又は誘導因子特異的であり得る。誘導因子は、前記プロモーターの活性化を支援して前記タンパク質を産生する外因的に適用されるシグナルである。誘導因子は、性質が化学的であってもよく又は物理的であってもよい。多くのプロモーター系が当業者に公知であり、それらを機能的にする配列も公知である。好ましい原核生物発現配列には、これらに限定されないが、pRHA系、pBAD系、T7ポリメラーゼ系、pLac系及びその無数の誘導体、pTet系、並びにCI857ts系が含まれる。好ましい真核生物プロモーター系には、これらに限定されないが、CMVプロモーター、SV40プロモーター系、及びBGHプロモーター系が含まれる。RNAには、これらに限定されないが、メッセンジャーRNA(mRNA)、トランスファーRNA(tRNA)、及び核内低分子RNAが含まれる。アンチセンスRNAとして分類される多くのRNAには、これらに限定されないが、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子ヘアピンRNA(shRNA)、及び全長アンチセンスRNAが含まれる。ミクロRNAも含まれる。
【0092】
タンパク質はポリペプチドで構成されており、DNAによりコードされる。タンパク質は、酵素又はシグナル伝達タンパク質のように、生物学的に機能的であってもよい。タンパク質は、アクチン等の場合にそうであるように、構造的であってもよい。タンパク質は、免疫原として役立ってもよく、又は他の治療目的(標的細胞、組織、器官、又は動物の酵素の供給又は回復等)に役立ってもよい。タンパク質は、他の積荷タイプのエンドサイトーシス後の細胞内移動を支援することができる。例えば、リステリア・モノサイトゲネスに由来するリステリオリシンO等のタンパク質を使用して、ミニ細胞の積荷(複数可)が、標的細胞のエンドシトーシス区画(複数可)から標的細胞の細胞質ゾルまで移動するのを容易にすることができる。また、タンパク質は、プロドラッグ転換酵素であってもよい。
【0093】
ありとあらゆるこれら積荷タイプは、使用者の自由裁量で、組合せで又は単独で使用することができる。当業者であれば、どの組合せがどの目的に使用されるべきかを理解及び認識するだろう。
【0094】
10.LPSの毒性低減
リポ多糖(LPS)、一般的にエンドトキシンと呼ばれるミニ細胞外膜の構成成分の免疫原性及び発熱効果に関する安全性懸念に対して、有利になるように対処して、ミニ細胞に基づく標的送達組成物の商業的実行可能性を増進する。in vivo使用用のミニ細胞に基づく標的送達組成物が、生存可能なミニ細胞生産親細胞で汚染されている可能性があることを解決する安全性問題への取り組みに加えて、これら安全性懸念に対して有利になるように対処する。LPS分子(複数可)は、本質的に3つの部分で構成される。第1の部分は、該分子を外膜の外葉に係留する炭化水素鎖の対であり、該分子の「リピドA」部分と総称される。第2は、一般的に「内部コア(inner core)」と呼ばれる一連の糖残基である。内部コアは、属間で異なるが、属内のメンバーでは同一である。例えば、サルモネラ及びシゲラは、同じ属のメンバーではないため、異なる内部コア構造を有するが、サルモネラ・チフィ及びサルモネラ・チフィリウムは、両方ともサルモネラ属のメンバーであるため、同じ内部コア構造を共有する。一般的に「O抗原」と呼ばれるLPS分子の第三の成分は、一連の糖分子であり、その鎖長、分岐構造、配列、及び組成物は、属メンバーの中でさえ細菌により非常に異なる。リポ多糖合成に関与する遺伝子は多くが特定されており、配列が決定されている。例えば、rfa遺伝子群は、LPSコア合成の遺伝子の多くを含有しており、少なくとも17の遺伝子を含んでいる。
【0095】
LPS分子は全体として非常に発熱性であるが、上述の3つの成分に関しては、発熱性の主な要因はリピドA成分である。リピドA成分は、LPSがその古典的なメンバーである特定の病原体関連分子パターン(PAMP)の認識を支援する哺乳動物細胞表面に存在するシグナル伝達分子のファミリーであるToll様受容体に結合し活性化することが示されている。リピドAの強力な発熱効果は、炭化水素鎖の1つに結合されたミチスチン酸基を含むリピドA分子の特定の部分により媒介される。グラム陰性細菌では、このミチスチン酸基は、一般的にmsbBと呼ばれる単一の非必須遺伝子により付加される。msbB遺伝子を除去することにより、ミチスチン酸成分が除去され、LPS分子(複数可)の発熱性は劇的に低減される。この手法は、ヒト臨床試験で使用された実験的癌療法として、期せずして腫瘍内の低酸素領域でコロニー形成する弱毒化生菌サルモネラ血清型のLPSの毒性を低減するために使用された。同じmsbB遺伝子又はその機能的同等物は、親ミニ細胞生産菌株(複数可)から欠失されると、ミニ細胞に組み込まれるLPSの毒性低減に結び付く。LPSの毒性低減は、その結果として哺乳類宿主の炎症促進性免疫応答の低減をもたらすことが示されている。
【0096】
図7及び8に示されているように、msbB突然変異を内包する菌株から産生されたミニ細胞に接触させた培養マウスマクロファージによるTNF−αの産生により測定したところ、ミニ細胞生産サルモネラ菌株のmsbB欠失を成功させたことにより、野生型菌株から産生されたミニ細胞と比べて毒性低減を示すミニ細胞が生じた。
【0097】
11.遊離エンドトキシンの除去
【0098】
ほとんどのin vivo応用では、主に遊離LPSの形態のあらゆる遊離エンドトキシンを本組成物から除去することが望ましい。全般的に、エンドトキシン除去は、使用されるろ過技術及び方法により容易にすることができる。一例として、全量ろ過ステップは、ミニ細胞を捕捉し、LPS等のより小さな分子はろ過膜を通過させ、それにより大部分の遊離エンドトキシンを効果的に排除する。in vivo応用のためには、米国食品医薬品局(www.fda.gov)により義務化されているレベルの又はそのレベル未満のエンドトキシンレベルを達成することが望ましい。ろ過に基づくエンドトキシン除去の代わりに又は併せて使用することができる他の従来の十分に記述されている手法は、様々なクロマトグラフィー法、免疫クロマトグラフィー法、及び免疫沈降法である。免疫に基づく方法の場合、典型的な方法は、LPS分子のリピドA部分を特異的に認識及び結合する抗体又は他の部分を使用することである。LPS分子のこのセグメントを標的とすることの利点は2つある。第1の利点は、LPSがミニ細胞の外膜から放出される場合のみリピドAが露出され、従って完全なミニ細胞の除去と比べて、遊離エンドトキシンのみの除去に対する選択的バイアスが生じることである。第2に、多くの市販の抗リピドA抗体が利用可能である。カラム又は磁気ビーズ等の固体又は半固体マトリックスに抗体を結合することは、遊離エンドトキシンを直ちに及び選択的にマトリックスに吸収又は吸着して、ミニ細胞組成物からのエンドトキシン除去をより良好に促進することができるという点で更なる長所を有する。最終調製物のエンドトキシンレベルは、ミニ細胞をペレット化し、定量的リムルス変形細胞溶解(LAL)試験を使用して、上清のエンドトキシンレベルを分析することにより決定することができる。
【0099】
12.医薬組成物
本発明の別の態様は、医薬組成物を含むがそれに限定されない組成物に関する。本明細書で使用される「組成物」という用語は、少なくとも1つの担体、好ましくは生理学的に許容される担体、及び1つ又は複数のミニ細胞組成物を含む混合物を指す。本明細書で使用される「担体」という用語は、生物学的活性ペプチド(複数可)の、細胞又は組織への取り込みを阻害又は防止しない化学化合物を指す。担体は、典型的には、活性成分を、好適な剤形(例えば、丸剤、カプセル剤、ゲル剤、薄膜剤、錠剤、微粒子剤(例えば、ミクロスフェア)、液剤;軟膏;ペースト剤、噴霧剤、液滴剤、コロイド剤、又は乳剤等)に製剤化又は配合することを可能にする不活性物質である。「生理学的に許容される担体」は、化合物の生物学的活性及び特性を妨害(低減、阻害、防止)しない、生理学的条件下での使用に好適な担体である。例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)は、生物の細胞又は組織への多くの有機化合物の取り込みを容易にするような担体である。好ましくは、担体は、生理学的に許容される担体、好ましくは薬学的に又は獣医学的に許容される担体であり、そこにミニ細胞組成物が配置される。
【0100】
「医薬組成物」は、担体が薬学的に許容される担体である組成物を指し、「獣医学的組成物」は、担体が獣医学的に許容される担体である組成物を指す。本明細書で使用される「薬学的に許容される担体」又は「獣医学的に許容される担体」という用語は、生物学的に又は別様に望ましくないわけではない任意の媒質又は物質を含み、つまり、担体は、いかなる望ましくない生物学的効果も引き起こさずに、或いは複合体若しくはその成分のいずれか又は生物と有害な様式で相互作用をせずに、ミニ細胞組成物と共に生物に投与することができる。薬学的に許容される試薬の例は、The United States Pharmacopeia, The National Formulary, United States Pharmacopeial Convention, Inc., Rockville, Md.
1990に提供されており、これは本明細書で参照により本出願に組み込まれる。「治療上有効量」又は「薬学的有効量」という用語は、生物の標的細胞、組織、又は体内で測定可能な応答を誘導又は達成するのに十分な量を意味する。治療上有効量を構成するものは、様々な要因に依存し、知識の豊富な専門家であれば、所望の投与計画に到る際にそれらを考慮するだろう。
【0101】
組成物は、希釈剤及び賦形剤等の他の化学成分を更に含むことができる。「希釈剤」は、化合物が溶媒に溶解するのを容易にする、溶媒、好ましくは水性溶媒中に希釈された化学化合物であり、組成物又はその成分の1つ又は複数の生物学的活性型を安定させる役目を果たす場合もある。緩衝液中に溶解されている塩は、当技術分野で希釈剤として使用される。例えば、好ましい希釈剤は、1つ又は複数の異なる塩を含有する緩衝液である。好ましい緩衝液は、それがヒト血液の塩状態を模倣するため、リン酸緩衝生理食塩水である(特に、医薬品投与のための組成物と併用して)。緩衝塩は溶液のpHを低濃度で制御することができるため、緩衝化希釈剤が、生物的活性ペプチドの生物学的活性を修飾することはほとんどない。
【0102】
「賦形剤」は、好適な特性、例えば好適な一貫性を付与するために、又は薬物を形成するために組成物に添加することができる任意のほぼ不活性の物質である。好適な賦形剤及び担体には、特に、例えば、トウモロコシデンプン、小麦デンプン、米デンプン、寒天、ペクチン、キサンタンガム、グアーガム、ローカストビーンガム、ヒアルロン酸、カゼイン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル−セルロース、ポリアクリレート、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、及び/又はポリビニルピロリドン(PVP)等の、ラクトース、スクロース、マンニトール、又はソルビトールセルロース調製物を含む糖等の充填剤が含まれる。必要に応じて、架橋ポリビニルピロリドン、寒天、又はアルギン酸若しくはアルギン酸ナトリウム等のそれらの塩等の崩壊剤を含めることもできる。他の好適な賦形剤及び担体には、ヒドロゲル、ゲル化可能な親水コロイド、及びキトサンが含まれる。キトサンミクロスフェア及びマイクロカプセルを、担体として使用することができる。国際公開第98/52547号パンフレットを参照されたい(胃を標的とする化合物のミクロスフェア製剤が記載されており、該製剤は、1つ又は複数の活性成分と、活性成分(複数可)の放出速度を制御する不水溶性ポリマー(例えば、エチルセルロース)で構成される膜と、生体接着性陽イオン性ポリマー、例えば、陽イオン性ポリサッカリド、陽イオン性タンパク質、及び/又は合成陽イオン性ポリマー;米国特許第4,895,724号明細書で構成される外側層とを含む内部コアを含有する(随意に、ゲル化親水コロイドを含む)。典型的には、キトサンは、好適な作用剤、例えば、グルタルアルデヒド、グリオキサール、エピクロロヒドリン、及びスクシンアルデヒドを使用して架橋される。キトサンを担体として使用する組成物は、丸剤、錠剤、微粒子剤、及びミクロスフェア剤を含む多様な剤形に製剤化することができ、それらには、活性成分(複数可)の放出制御を提供するものが含まれる。他の好適な生体接着性陽イオン性ポリマーには、酸性ゼラチン、ポリガラクトサミン;ポリリシン、ポリヒスチジン、ポリオルニチン等のポリアミノ酸、ポリ四級化合物、プロラミン、ポリイミン、ジエチルアミノエチルデキストラン(DEAE)、DEAE−イミン、DEAE−メタクリレート、DEAE−アクリルアミド、DEAE−デキストラン、DEAE‐セルロース、ポリ−p−アミノスチレン、ポリオキセタン、コポリメタクリレート、ポリアミドアミン、陽イオン性デンプン、ポリビニルピリジン、及びポリチオジエチルアミノメチルエチレンが含まれる。
【0103】
本組成物は、任意の好適な様式で製剤化することができる。ミニ細胞組成物は、担体中に均一に(均質的に)分散してもよく又は不均一に(不均質に)分散してもよい。好適な製剤には、乾燥製剤及び液体製剤が含まれる。乾燥製剤には、フリーズドライ及び凍結乾燥された散剤が含まれており、それは、特に、洞又は肺への噴霧送達に、又は長期保管後、投与に先立って好適な希釈剤に再構成するのによく適している。他の好ましい乾燥製剤には、本明細書で開示されている組成物が、経口投与に好適な錠剤又は丸剤形態に圧縮されているもの、又は徐放性製剤に配合されているものが含まれる。本組成物は、経口投与用に意図されているが、腸の上皮に送達される場合、製剤を腸溶コーティングで封入して製剤を保護し、その中に含まれているミニ細胞組成物の早期放出を防止することが好ましい。当業者であれば理解するように、本発明の組成物は、任意の好適な剤形の中に配置することができる。丸剤及び錠剤は、そのような剤形のうちの幾つかである。本組成物は、任意の好適なカプセル又は他のコーティング物質に、例えば、圧縮、浸漬、パンコーティング(pan coating)、噴霧乾燥等により封入することができる。好適なカプセル剤には、ゼラチン及びデンプンで作製されたものが含まれる。次いで、そのようなカプセル剤は、必要に応じて1つ又は複数の追加的な物質、例えば腸溶コーティングでコーティングすることができる。液体製剤には、水性製剤、ゲル剤、及び乳剤が含まれる。
【0104】
幾つかの好ましい実施形態は、生体接着性の、好ましくは粘膜接着性のコーティングを含む組成物に関する。「生体接着性コーティング」は、物質(例えば、ミニ細胞組成物)が、コーティングの非存在時に生じるより良好に、生物学的表面又は物質に接着することを可能にするコーティングである。「粘膜接着性コーティング」は、物質の、例えば組成物の粘膜への接着が、コーティングの非存在時に生じるより良好に生じることを可能にする好ましい生体接着性コーティングである。例えば、微粒子化された粒子(例えば、約5、10、25、50、又は100μmの平均直径を有する粒子)を、粘膜接着性物質でコーティングすることができる。その後、コーティングされた粒子を、生物への送達に好適な剤形に構築することができる。その後、好ましくは、及び標的とされる細胞表面輸送部分が発現される場所に応じて、剤形を別のコーティングでコーティングして、所望の場所に到着するまで製剤を保護し、粘膜接着性物質が製剤の保持を可能にする一方で、組成物は標的細胞表面輸送部分と相互作用する。
【0105】
本明細書に開示されている組成物は、任意の生物、好ましくは動物、好ましくは哺乳類、鳥、魚、昆虫、又はクモ類に投与することができる。好ましい哺乳動物には、ウシ、イヌ、ウマ、ネコ、ヒツジ、及びブタ動物、並びに非ヒト霊長類が含まれる。ヒトが特に好ましい。化合物を投与又は送達する技術は複数が当技術分野に存在し、これらに限定されないが、経口、直腸(例えば、浣腸又は坐剤)、噴霧(例えば、経鼻又は肺送達用)、非経口、及び局所投与が含まれる。好ましくは、十分な量の生物学的活性ペプチドが、意図されている効果を達成するために送達される。送達される組成物の特定の量は、達成すべき効果、組成物が送達される生物のタイプ、送達経路、投与計画、並びに生物の年齢、健康、及び性別を含む多くの要因に依存するだろう。そのため、所与の製剤に組み込まれる組成物の特定の用量は、当業者の裁量に委ねられる。
【0106】
当業者であれば、本発明の組成物が、治療又は保護効果(ワクチン接種を含む)が含まれていてもよい特定の所望の生物学的結果を達成するための作用剤として投与される場合、融合タンパク質を好適な医薬担体と組合せることが可能であり得ることを認識するだろう。医薬担体の選択、及び治療剤又は保護剤としての融合タンパク質の調製は、使用目的及び投与方法に依存するだろう。治療剤投与の好適な製剤及び方法には、経口、肺性、経鼻、バッカル、眼、皮膚、直腸、又は経腟送達用のものが含まれる。
【0107】
使用される送達方法に応じて、状況依存性の機能的実体は、様々な薬学的に許容される形態で送達することができる。例えば、状況依存性の機能的実体は、丸剤、カプセル剤、錠剤、坐剤、噴霧剤、液滴剤、又はスプレー剤に組み込まれた固形物、溶液、乳液、分散物、ミセル、及びリポソーム等の形態で送達することができる。丸剤、錠剤、坐剤、噴霧剤、散剤、液滴剤、及びスプレー剤は、複合多層構造を有していてもよく、広範囲のサイズを有してもよい。噴霧剤、散剤、液滴剤、及びスプレー剤は、サイズが小型(1ミクロン)から大型(200ミクロン)の範囲であってもよい。
【0108】
本明細書に開示されている医薬組成物は、固形物、凍結乾燥粉末、溶液、乳液、分散物、ミセル、及びリポソーム等の形態で使用することができ、その結果生じる組成物は、経腸又は非経口投与に好適な有機又は無機の担体又は賦形剤と混合された本発明の化合物の1つ又は複数を活性成分として含有する。活性成分は、例えば、錠剤、ペレット剤、カプセル剤、坐剤、液剤、乳剤、懸濁剤、及び使用に好適な任意の他の形態用の、通常の無毒な薬学的に許容される担体と共に配合することができる。使用することができる担体には、グルコース、ラクトース、マンノース、アラビアゴム、ゼラチン、マンニトール、デンプン糊、三ケイ酸マグネシウム、タルク、コーンスターチ、ケラチン、コロイドシリカ、ジャガイモデンプン、尿素、中鎖長トリグリセリド、デキストラン、及び固形、半固形、又は液体形態の調製物の製造における使用に好適な他の担体が含まれる。加えて、補助剤、安定化剤、増粘剤、及び着色剤、並びに芳香剤を使用してもよい。安定化乾燥剤の例には、好ましくは0.1%以上の濃度のトリウロースが含まれる(例えば、米国特許第5,314,695号明細書を参照)。活性化合物は、疾患の経過又は状態に対して所望の効果をもたらすのに十分な量で医薬組成物に含まれる。
【0109】
13.他の細胞に基づく生物剤の産生
【0110】
ここまでは、本開示は、生存可能な親細胞に対するミニ細胞の比率に関して、より良好なミニ細胞の精製についてであったが、これはもちろん本出願のみに限定されていない。加えて、本開示は、生存可能な産生細胞を除去する手段として、他の細胞に基づく生物剤の産生に使用することができる。非限定的な例では、本開示は、酵素及び他のタンパク質、核酸、細菌ゴースト(bacterial ghost)、脂質、生物膜、糖、及び低分子の産生及び調製に有用であり得る。
【0111】
この目的を達成するために、本開示はこの必要性に取り組み、以前に記述されていない制御された遺伝子自殺機序を使用することにより、生存可能な親細胞の染色体を修復不能に損傷可能な方法を提供する。
【0112】
14.合成生物学におけるMSM系の使用
本発明の別の態様は、合成生物学の分野におけるMSM系の使用に関する。本明細書で使用される場合、「合成生物学」は、複製可能な核酸、「合成ゲノム」、又は「合成染色体」の構築及び使用を含み、前記核酸は、限定培地中での持続的増殖に必要な最小限の遺伝子セットを含む。合成ゲノムは、最小限の遺伝子セットを構成するのに必要とされる1つ又は複数の遺伝子を含んでいてもよく、それらのいずれか又は全ては、自然界において一緒に見出されてもよく又は見出されなくてもよい。合成ゲノムは、トランスポゾン媒介性サブトラクティブ手法(transposon-mediated subtractive approach)を使用して生成してもよく、開始ゲノムは、トランスポゾン媒介性破壊及び相同組換えの組合せにより除去又は置換されたその非必須遺伝子を有する。相同組換えは、自然に生じてもよく、又はこれらに限定されないが、Redリコンビナーゼ系、loxP系、及びcreリコンビナーゼ系無数等を含む無数の組換え系より促進されてもよい。或いは、合成ゲノムは、前記合成ゲノムが合理的に設計され、de novo構築される付加的手法を使用して生成してもよい。付加的de novo手法を使用して構築される合成ゲノムは、in silicoでまず構築されてもよいが、必ずしもそうである必要はない。その結果として別々の所望の表現型がもたらされる遺伝子又は一組の遺伝子を更に含む合成ゲノムを有することが望ましい。例えば、炭化水素を代謝して、水素、エタノール、又はバイオディーゼル等のバイオ燃料を産生することができる新規な生物を、前記代謝が可能な遺伝子又は一組の遺伝子を含有する合成ゲノムを代用微生物に導入することにより、生成及び商業化することができる。他の例には、これらに限定されないが、大気から二酸化炭素を直接固定することができる微生物の生成、産業上関連のある副産物又はそれらの前駆物質(例えば、硫酸を生産するための亜硫酸塩)を産生する微生物の生成、又は有益な分子を付加可能か若しくは環境から毒性分子を除去可能な微生物の生成が含まれる。
【0113】
合成ゲノムは、構築されると、標準的形質転換技術を使用して、細菌を含むがこれに限定されない微生物に由来する細胞に導入することができ、そこでは合成ゲノムが代用微生物の元々のゲノムを置換する。合成ゲノムが元々のゲノムを置換したことを保証する1つの方法は、抗生物質耐性遺伝子を含むがこれに限定されない選択的遺伝子マーカーを組み込み、安定的形質転換体を選択することによる。当業者に公知の他の選択方法が容易に認識され、代替的な選択戦略として応用可能だろう。選択戦略は、単独で又は複数で適用することができる。選択の順序は、全く使用者の裁量に委ねられており、任意の順序、温度、及び増殖条件で授けることができる。
【0114】
代用微生物から元々のゲノムが除去されるのを保証するために、前記代用微生物の染色体は、合成ゲノムの形質転換中に幾つかの箇所で破壊されるか又は修復不能に損傷されることが好ましい。好ましくは、染色体の修復不能な破壊は誘導可能であり、代用微生物への合成ゲノムの導入に先立って生じるだろう。本明細書に記載のMSM系は、細菌の染色体の誘導可能で修復不能な破壊を促進し、合成ゲノムの導入に先立って代用細胞の元々の染色体を破壊する機序として容易に使用される。MSM系のモジュール的性質は、これらに限定されないが、表1に列挙されているものを含む細菌の多数の菌株で、該系を使用可能にするため有利である。
【0115】
15.合成生物学における細菌ミニ細胞の使用
本発明の別の態様は、MSM系により修復不能に損傷された染色体を有する細菌の代わりに、合成生物学的応用において細菌ミニ細胞を代用細胞として使用することに関する。ミニ細胞は、親細菌細胞に直接由来する無核細胞である。細菌細胞は、真核細胞と比較して区画化されていないため、合成ゲノムを複製するのに必要なDNA合成及び複製機構は全てミニ細胞内にも存在する。その利点は、ミニ細胞が、定義の通り、親染色体を既に「失っている」ということである。ミニ細胞は、全細胞細菌と同様に、当業者により直ちに認識される標準的形質転換及び選択手順を使用して、合成ゲノム及び他の核酸タイプで形質転換することができる。形質転換体の選択は、上述のように実施することができる。
【0116】
ミニ細胞形成を誘導する前に、DNA合成及び複製機構タンパク質をミニ細胞生産親細胞により過剰発現させることは、ミニ細胞に分配するための大量の前記成分を提供することにより、合成ゲノムが形質転換の際にミニ細胞により直ちに合成されることを保証するだろう。従って、前記ミニ細胞は、形質転換前にDNA合成及び複製機構を多く含んでいる。例えば、大腸菌では、染色体の複製に関与する遺伝子には、これらに限定されないが、dnaA、dnaB、dnaC、ssb、dnaG、polA、dnaE、dnaQ、hole、dnaX、dnaN、dnaX、holA、holB、holC、hold、lig、gyrA、及びgyrBが含まれる。これら遺伝子及びそれらの機能的同等物は、ミニ細胞表現型の誘導前にミニ細胞生産親細胞により過剰発現させることができ、そのためそれらはミニ細胞に封入される。複製及び合成遺伝子は、任意の組合せで過剰発現させることができ、親細胞系統の染色体に存在してもよく、又はプラスミド、コスミド、及びBAC等などのエピゾーム核酸エレメントに存在してもよい。
【0117】
同様に、染色体分割、分配、及び細胞分裂それ自体に関与する遺伝子を過剰発現させ、ミニ細胞にパッケージングすることができ、そのため前記ミニ細胞は、合成生物の構築を完了する際の最終的必要条件としての染色体分割、分配、及び細胞分裂が可能なミニ細胞である。
【0118】
合成ゲノムの合成には、アデノシン三リン酸(ATP)分子の形態のエネルギー及び遊離ヌクレオチド(例えば、アデニン、シトシン、グアニン、チミン、及びウラシル、又は任意のそれらのヌクレオシド若しくはヌクレオチド誘導体)が必要である。これら分子は、細菌ミニ細胞の脂質二分子膜を横切って受動的に拡散し、形質転換されたミニ細胞を補完するために、合成ゲノムが安定化され独立して複製するまで添加しなおすことができる。新しく導入されたものに由来するポリペプチドの産生には、遊離アミノ酸が新生ポリペプチド鎖に組み込まれることが必要である。新しく形質転換されたミニ細胞に遊離アミノ酸を添加しなおして、合成ゲノムに由来する新生タンパク質合成を支援する等のために、前記ミニ細胞を十分な遊離アミノ酸で補完する。十分なレベルの代謝タンパク質が、新しく形質転換されたミニ細胞により合成ゲノムから合成されると、前記ミニ細胞は、今や自身によるタンパク質合成用アミノ酸の蓄積を産生可能であるため、アミノ酸は除去されてもよい。
【0119】
任意の原核生物供給源に由来するミニ細胞は、本明細書に記載の方法を使用して合成生物の構築用に使用することができる。
【0120】
16.ミニ細胞調製
【0121】
幾つかの実施形態は、投与される感染性粒子の数に関する、in vivo送達応用用のミニ細胞調製物の安全性を向上させるために、生存可能な真正細菌ミニ細胞生産親細胞の数を低減させる方法を提供する。幾つかの実施形態は、誘導可能な原核生物発現シグナルに作用可能に連結されたミニ細胞生産遺伝子(例えば、ftsZ)をコードする核酸と、誘導可能な原核生物発現シグナル(例えば、CI857ts)に作用可能に連結された、親細胞を溶解しない自殺遺伝子(例えば、ホーミングエンドヌクレアーゼI−CeuI)をコードする遺伝子を含む第2の核酸とを含有するグラム陰性又はグラム陽性細菌菌株を含む。ミニ細胞生産遺伝子及び自殺遺伝子に連結された原核生物発現シグナルは、同じ原核生物発現シグナルの制御下にあってもよく、又は異なる原核生物発現シグナルの制御下にあってもよい。更に、ミニ細胞生産遺伝子及び自殺遺伝子は、細胞内の同一核酸に位置していてもよく又は異なる核酸に位置していてもよく、そのうちの1つはエピゾーム核酸(例えば、プラスミド)であってもよい。更にまた、ミニ細胞生産遺伝子及び自殺遺伝子は、転写融合体に作用可能に連結され(つまり、同一のmRNA転写物にある)、共通の誘導可能な原核生物発現シグナルの制御下にあってもよい。ミニ細胞生産遺伝子及び自殺遺伝子は両方とも、1細胞当たり複数の遺伝子コピーに位置してもよい。MSM系を含有する真正細菌菌株は、(i)高収量のミニ細胞を産生し(通常の振とうフラスコで増殖された100mLの培養当たり109個を超える、図3)、(ii)細胞を溶解しない修復不能な細胞損傷を導入し(図1〜2及び5〜6)、及び(iii)不可逆的繊維状表現型になる能力を有する(図4)。
【0122】
in vivo送達応用に使用するためのミニ細胞は、前記制御されたMSM遺伝子自殺機序を含有する真正細菌菌株から産生される。前記応用に必要な所望の数のミニ細胞が産生されれば、遺伝子自殺機序(MSM)は、公知の刺激、好ましくは温度変化への曝露により活性化され、前記細胞の染色体に修復不能な損傷を導入するための十分な時間がもたらされ、それにより前記細胞を生存不能にする。
【0123】
本発明の幾つかの実施形態は、好ましくは、これらに限定されないが、治療用の又は有害な遺伝子又は遺伝子産物をコードするDNA分子を含有する腸内細菌科由来の真正細菌ミニ細胞生産菌株から、MSM系を使用してミニ細胞生産表現型を誘導することに関し、そのためその結果生じるミニ細胞は、封入化により前記DNA分子を含有する。所与の培養及び状態から所望量のミニ細胞を産生させた後、遺伝子自殺機序の活性化は、前記培養又は細胞を公知のシグナルと接触させた後で刺激されることになる。該シグナルは、最終調製物中の生存細胞を最大限に死滅させることを保証するために、精製工程の各ステップで適用されるだろう。
【0124】
本発明の幾つかの実施形態は、これらに限定されないが、siRNA、アンチセンスRNA、リボザイム、shRNA、及びmiRNAを含む任意のサブクラスのRNAを含有する腸内細菌科に由来するが、それに限定されない最適化された真正細菌ミニ細胞生産菌株からミニ細胞生産表現型を誘導することに関し、そのためその結果生じるミニ細胞は、封入化により濃縮された量の前記RNA分子を含有する。前記培養及び状態から所望量のミニ細胞を産生させた後、遺伝子自殺機序(MSM)の活性化は、前記培養又は細胞を公知のシグナルと接触させた後で刺激されることになる。該シグナルは、最終調製物中の生存細胞を最大限に死滅させることを保証するために、精製工程の各ステップで適用されるだろう。
【0125】
本発明の幾つかの実施形態は、タンパク質分子を含む腸内細菌科に由来するが、それに限定されない最適化された真正細菌ミニ細胞生産菌株からミニ細胞生産表現型を誘導することに関し、そのためその結果生じるミニ細胞は、封入化により前記タンパク質分子を含有する。所与の培養及び状態から所望量のミニ細胞を産生させた後、遺伝子自殺機序の活性化は、前記培養又は細胞を公知のシグナルと接触させた後で刺激されることになる。該シグナルは、最終調製物中の生存細胞を最大限に死滅させることを保証するために、精製工程の各ステップで適用されるだろう。
【0126】
本発明の幾つかの実施形態は、治療用の又は有害な遺伝子又は遺伝子産物をコードするDNA分子、任意のサブクラスのRNA、及び/又はタンパク質の所定の意図的な組合せを含有する腸内細菌科に由来するが、それに限定されない最適化された真正細菌ミニ細胞生産菌株からミニ細胞生産表現型を誘導することに関し、そのためその結果生じるミニ細胞は、封入化により分子の前記組合せを含有する。所与の培養及び状態から所望量のミニ細胞を産生させた後、遺伝子自殺機序の活性化は、前記培養又は細胞を公知のシグナルと接触させた後で刺激されることになる。該シグナルは、最終調製物中の生存細胞を最大限に死滅させることを保証するために、精製工程の各ステップで適用されるだろう。
【0127】
本発明の幾つかの実施形態は、腸内細菌科に由来するがそれに限定されない最適化された真正細菌ミニ細胞生産菌株からミニ細胞生産表現型を誘導することに関し、そのためミニ細胞は、精製後に、薬物、プロドラッグ、又はホルモンを含むがこれらに限定されない低分子で「負荷」することができる。所与の培養及び状態から所望量の「空」ミニ細胞を産生させた後、遺伝子自殺機序の活性化は、前記培養又は細胞を公知のシグナルと接触させた後で刺激されることになる。該シグナルは、最終調製物中の生存細胞を最大限に死滅させることを保証するために、精製工程の各ステップで適用されるだろう。精製後、ミニ細胞は、4〜65℃の範囲の温度、高濃度の前記低分子中でインキュベーションすることにより、前記低分子(複数可)で「負荷」されるだろう。
【0128】
本発明の幾つかの実施形態は、治療用の又は有害な遺伝子又は遺伝子産物をコードするDNA分子を含有するバチルス科に由来するが、それに限定されない最適化された真正細菌ミニ細胞生産菌株からミニ細胞生産表現型を誘導することに関し、そのためその結果生じるミニ細胞は、封入化により前記DNA分子を含有する。所与の培養及び状態から所望量のミニ細胞を産生させた後、遺伝子自殺機序の活性化は、前記培養又は細胞を公知のシグナルと接触させた後で刺激されることになる。該シグナルは、最終調製物中の生存細胞を最大限に死滅させることを保証するために、精製工程の各ステップで適用されるだろう。
【0129】
本発明の幾つかの実施形態は、これらに限定されないが、siRNA、アンチセンスRNA、リボザイム、shRNA、及びmiRNAを含む任意のサブクラスのRNAを含有するバチルス科に由来するが、それに限定されない最適化された真正細菌ミニ細胞生産菌株からミニ細胞生産表現型を誘導することに関し、そのためその結果生じるミニ細胞は、封入化により、濃縮された量の前記RNA分子を含有する。前記培養及び状態から所望量のミニ細胞を産生させた後、遺伝子自殺機序の活性化は、前記培養又は細胞を公知のシグナルと接触させた後で刺激されることになる。該シグナルは、最終調製物中の生存細胞を最大限に死滅させることを保証するために、精製工程の各ステップで適用されるだろう。
【0130】
本発明の幾つかの実施形態は、タンパク質分子を含有するバチルス科に由来するが、それに限定されない最適化された真正細菌ミニ細胞生産菌株からミニ細胞生産表現型を誘導することに関し、そのためその結果生じるミニ細胞は、封入化により前記タンパク質分子を含有する。所与の培養及び状態から所望量のミニ細胞を産生させた後、遺伝子自殺機序の活性化は、前記培養又は細胞を公知のシグナルと接触させた後で刺激されることになる。該シグナルは、最終調製物中の生存細胞を最大限に死滅させることを保証するために、精製工程の各ステップで適用されるだろう。
【0131】
本発明の幾つかの実施形態は、治療用の又は有害な遺伝子又は遺伝子産物をコードするDNA分子、任意のサブクラスのRNA、及び/又はタンパク質の所定の意図的な組合せを含有するバチルス科に由来するが、それに限定されない最適化された真正細菌ミニ細胞生産菌株からミニ細胞生産表現型を誘導することに関し、そのためその結果生じるミニ細胞は、封入化により分子の前記組合せを含有する。所与の培養及び状態から所望量のミニ細胞を産生させた後、遺伝子自殺機序の活性化は、前記培養又は細胞を公知のシグナルと接触させた後で刺激されることになる。該シグナルは、最終調製物中の生存細胞を最大限に死滅させることを保証するために、精製工程の各ステップで適用されるだろう。
【0132】
本発明の幾つかの実施形態は、バチルス科に由来するがそれに限定されない最適化された真正細菌ミニ細胞生産菌株からミニ細胞生産表現型を誘導することに関し、そのためミニ細胞を、精製後に、薬物、プロドラッグ、又はホルモンを含むがそれらに限定されない低分子で「負荷」することができる。所与の培養及び状態から所望量の「空」ミニ細胞を産生させた後、遺伝子自殺機序の活性化は、前記培養又は細胞を公知のシグナルと接触させることにより刺激されることになる。該シグナルは、最終調製物中の生存細胞を最大限に死滅させることを保証するために、精製工程の各ステップで適用されるだろう。精製後、ミニ細胞は、所定の温度、高濃度の前記低分子中でインキュベーションすることにより、前記低分子(複数可)で「負荷」されるだろう。
【0133】
1つの実施形態では、ミニ細胞生産親細胞の夾雑のレベルは、107個のミニ細胞のうち1個である。
【0134】
別の実施形態では、ミニ細胞生産親細胞の夾雑のレベルは、108個のミニ細胞のうち1個である。
【0135】
別の実施形態では、ミニ細胞生産親細胞の夾雑のレベルは、109個のミニ細胞のうち1個である。
【0136】
別の実施形態では、ミニ細胞生産親細胞の夾雑のレベルは、1010個のミニ細胞のうち1個である。
【0137】
別の実施形態では、ミニ細胞生産親細胞の夾雑のレベルは、1011個のミニ細胞のうち1個である。
【0138】
別の実施形態では、ミニ細胞生産親細胞の夾雑のレベルは、1012個のミニ細胞のうち1個である。
【0139】
別の実施形態では、ミニ細胞生産親細胞の夾雑のレベルは、1013個のミニ細胞のうち1個である。
【0140】
別の実施形態では、ミニ細胞生産親細胞の夾雑のレベルは、1014個のミニ細胞のうち1個である。
【0141】
別の実施形態では、ミニ細胞生産親細胞の夾雑のレベルは、1015個のミニ細胞のうち1個である。
【0142】
別の実施形態では、ミニ細胞生産親細胞の夾雑のレベルは、1016個のミニ細胞のうち1個である。
【0143】
別様に定義されない限り、本明細書で使用される技術的及び科学的用語は全て、当業者により一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本発明は、実施形態及び例を参照して記述されているが、本発明の趣旨から逸脱せずに、種々の改変をなすことができると理解されるべきである。本明細書に引用された参考文献は全て、参照によりそれらの全体が明示的に本明細書に組み込まれる。
(実施例)
【0144】
実施例1
大腸菌の増殖に対するI−CeuIの効果
大腸菌TOP10細胞を、pVX−55発現ベクター(配列番号6)で形質転換した。pVX−55発現ベクターは、ラムノースで誘導可能なpRHAプロモーター系の制御下にI−CeuI遺伝子を含有する。形質転換された大腸菌細胞培養を、カナマイシン(50μg/ml)で補完されたLB培地で増殖させた。0時にグルコース(0.2%)を細胞培養に添加し、2.22時及びODが0.3時にラムノース(10mM)を細胞培養に添加した。細菌の増殖は、600nmの吸光度を測定することによりモニターした。図1は、大腸菌細胞培養の増殖が、I−CeuIホーミングエンドヌクレアーゼの誘導により著しく低減されたことを示す。
【0145】
実施例2
大腸菌の生存能に対するI−CeuIの効果
大腸菌TOP10細胞を、pVX−55発現ベクターで形質転換した。pVX−55発現ベクターは、ラムノースで誘導可能なpRHAプロモーター系の制御下にI−CeuI遺伝子を含有する。大腸菌細胞を、グルコース(0.2%)又はラムノース(10mM)で補完されたカナマイシン(50μg/ml)を有するLB培地で培養させ、その後LB寒天プレートでコロニーを形成させた。生存可能細胞集団(CFU/ml)は、LB寒天プレートのコロニーを計数することにより決定した。コロニーの回復は観察されなかった。図2は、生存可能な大腸菌細胞の数が、I−CeuIホーミングエンドヌクレアーゼの誘導により著しく低減されたことを示す。
【0146】
実施例3
ftsZの過剰発現及びI−CeuI(MSM)の誘導を同時に行うことは、より高いミニ細胞収量に結び付く
IPTGで誘導可能なftsZ及びminCDE欠失突然変異を含有する大腸菌菌株を、LB培地で増殖させた。ftsZ構築体(Ptac::ftsZ)、及び熱誘導可能なI−CeuIに基づく自殺系を有するftsZ構築体(Ptac::ftsZΩCI857ts::I−CeuI)を、ミニ細胞生産大腸菌細胞の染色体のattBλ部位にそれぞれ組み込んだ。Ptac::ftsZ菌株のミニ細胞生産を37℃で実施し、Ptac::ftsZΩCI857ts::I−CeuI菌株のミニ細胞生産を42℃で実施して、I−CeuIに基づく自殺系を誘導した。ミニ細胞を分別精製(differential purification)により精製した。図3Aは、ミニ細胞生産に使用されたLB培養の各1mlから精製されたミニ細胞の数を示す。図3Bは、minCDE菌株に対する、IPTGで誘導可能なftsZ菌株のミニ細胞収量の比率を示す。図3A及び3Bは、ftsZ及びI−CeuIが、ミニ細胞生産細胞中で同時に過剰発現された際に、産生されたミニ細胞の数が、minCDE菌株と比較して36倍増加し、ftsZ単独の過剰発現と比較して10倍増加したことを実証する。
【0147】
実施例4
ftsZの過剰発現及びI−CeuI基づく自殺系(MSM)の誘導は、細胞繊維化を引き起こした
誘導可能なftsZミニ細胞生産系を有する大腸菌株VAX8I3、及び熱誘導可能なI−CeuI自殺系(pVX−66(配列番号5);Ptac::ftsZΩCI857ts::ICeuI)を、LB培地で増殖させた。O.D.A600が0.1の時に、温度を42℃に上昇させることにより、FtsZ及びI−CeuIタンパク質産生を誘導した。誘導の24時間後、細胞をグラム染色した。図4Aは、I−CeuI及びftsZの過剰発現を抑制するために、グルコース(0.2%)の存在下、30℃で増殖させた大腸菌株を示す。図4Bでは、IPTG(20μg/ml)を添加してftsZを過剰発現させたが、I−CeuIの発現は、30℃でインキュベートすることにより抑制された。図4Cでは、I−CeuIの発現は、42℃で誘導されたが、ftsZの過剰発現はグルコースにより抑制された。図4Dは、ftsZの過剰発現及びI−CeuIの誘導を同時に行うことが、図4BのftsZ過剰発現及び図4CのI−CeuI発現誘導のみと比較して、細胞のより広範な繊維化を引き起こすことを示す。従って、ミニ細胞を高収量で生成することに加えて、ftsZ及びI−CeuIの同時過剰発現は、ミニ細胞生産親細胞が均一に繊維状になることを可能にすることという利点を有し、これは、ろ過に基づくミニ細胞精製スキームを容易にすることができる。
【0148】
実施例5
I−CeuIに基づく自殺系(MSM)の誘導は、二重鎖染色体破損を示すTUNEL標識3’OH DNA末端を有する細胞の蓄積を引き起こした
CI857ts及びpTacプロモーター系の制御下にMSM系を含有する大腸菌株VAX8I3(pVX−66;Ptac::ftsZΩCI857ts::I−CeuI、I−CeuIとftsZの発現を各々制御する)を、30℃又は42℃のいずれかで、IPTGで補完されたLB培地で24時間増殖させた。表示されている時点で細胞をTUNEL(FITC)染色した。比較対照として、細胞をFM−464(全ての細胞を染色する)でも対比染色して、全集団中のTUNEL陽性細胞の割合を、FACSにより定量化した。図5は、I−CeuIに基づく自殺系が、ミニ細胞生産親細胞への修復不能な二本鎖染色体破損の導入に成功し、その結果としてI−CeuIの誘導後12時間以内に細胞集団の70%を超える死滅をもたらしたことを示す。
【0149】
実施例6
I−CeuIに基づく自殺系は、精製されたミニ細胞中の親細胞夾雑物を低減した
IPTGで誘導可能なftsZを大腸菌染色体のattBλ部位に組み込んで、ftsZの過剰発現によるミニ細胞生産大腸菌株(Ptac::ftsZ)を作製した。また、熱誘導可能なI−CeuIに基づく自殺系を、組み込みプラスミドpVX−66(pVX−66;Ptac::ftsZΩCI857ts::I−CeuI)を使用して、IPTGで誘導可能なftsZと一緒にattBλ部位に組み込み、自殺性ミニ細胞生産大腸菌株(Ptac::ftsZΩCI857ts::I−CeuI)を作製した。42℃でインキュベートすることにより、I−CeuI自殺系を活性化した。IPTGで補完されたLB培地でミニ細胞を産生し、分別精製により精製した。精製されたミニ細胞を、グルコース(0.2%)で補完されたLB寒天プレートに薄く塗り広げて、生菌親大腸菌細胞の存在を検査した。30℃で48時間インキュベーションした後、コロニーを計数し、夾雑親細胞の濃度を、1010個のミニ細胞中でのコロニー形成単位(CFU)として計算した。図6は、I−CeuIに基づく自殺系の活性化が、800倍を超えて親細胞夾雑物を低減させたことを示す。
【0150】
実施例7
S.ティフィムリウムのmsbB欠失は、LPS特性を変更した
野生型msbBを有するS.ティフィムリウム菌株(WT)、及びmsbBを欠失したS.ティフィムリウム菌株(msbB−)から、LPSを精製した。msbBの欠失は、λRedリコンビナーゼ系(Red Swap)を用いて、msbBをFRT−cat−FRTに置換することより実施した。アセトン乾燥細胞を、まずDNaseI及びRNaseAで処理し、その後プロテイナーゼKで処理した。その後、熱水−フェノール抽出によりLPSを抽出した。水に対して透析することによりLPSを精製した。精製されたLPSを、SDS−PAGEゲル電気泳動法で分離し、銀染色した。MsbB突然変異体のLPSは、ミリストイル基を有していないリピドAを有する。ミリストイル基の欠如は分子量を低減させ、LPSバンドパターンの変化により視覚化することができる。図7は、msbB遺伝子の欠失が、野生型S.ティフィムリウム菌株と比較して、S.ティフィムリウム突然変異株においてLPS特性の変更をその結果としてもたらしたことを示す。
【0151】
実施例8
msbBの欠失は、J774.A1マウスマクロファージ様細胞に、S.ティフィムリウムLPSと比べて、より少量の腫瘍壊死因子α(TNFα)を産生させる
野生型msbBを有するS.ティフィムリウム菌株(WT)、及びmsbB欠失突然変異を内包するS.ティフィムリウム菌株から、LPSを精製した。J774.A1マウスマクロファージ様細胞(106個の細胞)を、0.1ngの各タイプの精製LPSと共に12時間インキュベートした。TNFαの濃度を、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)により決定した。図8は、培養マウスマクロファージによるTNF−αの産生により測定したところ、ミニ細胞生産サルモネラ菌株のmsbB欠失が、毒性の低減されたミニ細胞を生じさせたことを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミニ細胞生産細菌であって、
隔壁形成、二分裂、及び染色体分配の1つ又は複数を調節するミニ細胞生産遺伝子産物をコードする発現可能な遺伝子;および、
エンドヌクレアーゼをコードする発現可能な遺伝子を含み、
前記ミニ細胞生産細菌の染色体が、前記エンドヌクレアーゼの1つ又は複数の認識部位を含む、
ミニ細胞生産細菌。
【請求項2】
前記ミニ細胞生産遺伝子が導入遺伝子である、請求項1に記載のミニ細胞生産細菌。
【請求項3】
前記エンドヌクレアーゼ遺伝子が導入遺伝子である、請求項1に記載のミニ細胞生産細菌。
【請求項4】
前記ミニ細胞生産遺伝子が細胞分裂遺伝子である、請求項1に記載のミニ細胞生産細菌。
【請求項5】
前記細胞分裂遺伝子が、ftsZ、sulA、ccdB、及びsfiCからなる群から選択される、請求項4に記載のミニ細胞生産細菌。
【請求項6】
前記細胞分裂遺伝子がftsZである、請求項5に記載のミニ細胞生産細菌。
【請求項7】
前記ftsZが、配列番号3の核酸配列を含む、請求項6に記載のミニ細胞生産細菌。
【請求項8】
前記ミニ細胞生産遺伝子が、誘導可能なプロモーターの制御下で発現される、請求項1に記載のミニ細胞生産細菌。
【請求項9】
前記プロモーターが、温度感受性プロモーターである、請求項8に記載のミニ細胞生産細菌。
【請求項10】
前記プロモーターが、1つ又は複数の化学化合物の存在により誘導可能である、請求項8に記載のミニ細胞生産細菌。
【請求項11】
前記エンドヌクレアーゼ遺伝子が、前記ミニ細胞生産細菌の染色体に位置している、請求項1に記載のミニ細胞生産細菌。
【請求項12】
前記エンドヌクレアーゼが、ホーミングエンドヌクレアーゼである、請求項1に記載のミニ細胞生産細菌。
【請求項13】
前記エンドヌクレアーゼが、I−CeuI、PI−SceI、I−ChuI、I−CpaI、I−SceIII、I−CreI、I−MsoI、I−SceII、I−SceIV、I−CsmI、I−DmoI、I−PorI、PI−TliI、PI−TliII、及びPI−ScpIからなる群から選択される、請求項12に記載のミニ細胞生産細菌。
【請求項14】
前記エンドヌクレアーゼがI−CeuIである、請求項13に記載のミニ細胞生産細菌。
【請求項15】
前記I−CeuIが、配列番号4のアミノ酸配列を含む、請求項14に記載のミニ細胞生産細菌。
【請求項16】
前記エンドヌクレアーゼが、誘導可能なプロモーターの制御下で発現される、請求項1に記載のミニ細胞生産細菌。
【請求項17】
前記プロモーターが、温度感受性プロモーターである、請求項16に記載のミニ細胞生産細菌。
【請求項18】
前記プロモーターが、1つ又は複数の化学化合物の存在により誘導可能である、請求項16に記載のミニ細胞生産細菌。
【請求項19】
前記ミニ細胞生産細菌がグラム陰性細菌である、請求項1に記載のミニ細胞生産細菌。
【請求項20】
前記グラム陰性細菌が、カンピロバクター・ジェジュニ、ラクトバチルス種、ナイセリア・ゴノレア、レジュネラ・ニューモフィラ、サルモネラ種、シゲラ種、シュードモナス・エルギノーサ、及び大腸菌からなる群から選択される、請求項19に記載のミニ細胞生産細菌。
【請求項21】
リポ多糖合成に関与する遺伝子産物をコードする遺伝子を含み、前記遺伝子が、対応する野生型遺伝子と比較して、遺伝子組換えされている請求項19に記載のミニ細胞生産細菌。
【請求項22】
前記遺伝子が、対応する野生型細菌のリピドA分子と比較して変更されたリピドA分子を前記細菌に産生させる遺伝子産物をコードするmsbB遺伝子である、請求項21に記載のミニ細胞生産細菌。
【請求項23】
前記変更されたリピドA分子が、対応する野生型細菌のリピドA分子と比較して、前記リポ多糖分子の前記リピドA部分へのミチスチン酸の付加に関して欠損している、請求項22に記載のミニ細胞生産細菌。
【請求項24】
前記ミニ細胞生産細菌がグラム陽性細菌である、請求項1に記載のミニ細胞生産細菌。
【請求項25】
前記グラム陽性細菌が、スタフィロコッカス種、ストレプトコッカス種、バチルス・スブチリス、及びバチルス・セレウスからなる群から選択される、請求項24に記載のミニ細胞生産細菌。
【請求項26】
相同組換えに関与する遺伝子を含み、前記遺伝子が、対応する野生型遺伝子と比較して遺伝子組換えされており、前記ミニ細胞生産細菌が、DNA損傷修復を欠損している、請求項1に記載のミニ細胞生産細菌。
【請求項27】
ミニ細胞を作製する方法であって、
請求項1に記載のミニ細胞生産細菌を培養すること;及び、
前記ミニ細胞生産親細胞からミニ細胞を実質的に分離し、それによりミニ細胞を含む組成物を生成することを含む、ミニ細胞を作製する方法。
【請求項28】
前記ミニ細胞生産親細胞からミニ細胞形成を誘導することを更に含む、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記エンドヌクレアーゼをコードする遺伝子の発現を誘導することを更に含む、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
ミニ細胞形成が、イソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)、ラムノース、アラビノース、キシロース、フルクトース、メリビオース、及びテトラサイクリンからなる群から選択される1つ又は複数の化学化合物の存在により誘導される、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記エンドヌクレアーゼをコードする遺伝子の発現が、温度の変化により誘導される、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
前記組成物から前記ミニ細胞を精製することを更に含む、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
前記ミニ細胞が、遠心分離、超遠心分離、密度勾配、免疫親和性、及び免疫沈降からなる群から選択される工程により、前記親細胞から実質的に分離される、請求項27に記載の方法。
【請求項34】
請求項21に記載のミニ細胞生産細菌を培養すること、及び前記ミニ細胞生産親細胞から前記ミニ細胞を実質的に分離し、それによりミニ細胞を含む組成物を生成することを含むミニ細胞を作製する方法。
【請求項35】
前記ミニ細胞生産親細胞からミニ細胞形成を誘導することを更に含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記エンドヌクレアーゼをコードする遺伝子の発現を誘導することを更に含む、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
ミニ細胞形成が、イソプロピルβ−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)、ラムノース、アラビノース、キシロース、フルクトース、メリビオース、及びテトラサイクリンからなる群から選択される1つ又は複数の化学化合物の存在により誘導される、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記エンドヌクレアーゼをコードする遺伝子の発現が、温度の変化により誘導される、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
前記組成物から前記ミニ細胞を精製することを更に含む、請求項35に記載の方法。
【請求項40】
前記ミニ細胞が、遠心分離、超遠心分離、密度勾配、免疫親和性、及び免疫沈降からなる群から選択される工程により、前記親細胞から実質的に分離される、請求項34に記載の方法。
【請求項41】
外膜を含み、前記外膜がミチスチン酸部分を有していないリピドA分子を含む真正細菌ミニ細胞。
【請求項42】
前記外膜が、対応する野生型細菌に由来する真正細菌ミニ細胞の外膜と比較して、哺乳動物宿主において炎症促進性免疫応答の低減をその結果としてもたらす組成物を有する、請求項41に記載の真正細菌ミニ細胞。
【請求項43】
1つ又は複数の生物学的活性化合物を更に含む、請求項41に記載の真正細菌ミニ細胞。
【請求項44】
前記生物学的活性化合物の少なくとも1つが、放射性同位元素、ポリペプチド、核酸、及び低分子からなる群から選択される、請求項43に記載の真正細菌ミニ細胞。
【請求項45】
前記生物学的活性化合物の少なくとも1つが低分子薬物である、請求項43に記載の真正細菌ミニ細胞。
【請求項46】
前記生物学的活性化合物の少なくとも1つが低分子造影剤である、請求項43に記載の真正細菌ミニ細胞。
【請求項47】
前記生物学的活性化合物の少なくとも1つが化学療法剤である、請求項43に記載の真正細菌ミニ細胞。
【請求項48】
前記生物学的活性化合物の少なくとも1つが核酸である、請求項43に記載の真正細菌ミニ細胞。
【請求項49】
前記生物学的活性化合物の少なくとも1つがポリペプチドである、請求項43に記載の真正細菌ミニ細胞。
【請求項50】
前記生物学的活性化合物の少なくとも1つがプロドラッグ変換酵素である、請求項43に記載の真正細菌ミニ細胞。
【請求項51】
前記生物学的活性化合物の少なくとも1つが、核酸及び低分子の組合せである、請求項43に記載の真正細菌ミニ細胞。
【請求項52】
前記生物学的活性化合物の少なくとも1つが、低分子造影剤及び低分子薬物の組合せである、請求項43に記載の真正細菌ミニ細胞。
【請求項53】
前記生物学的活性化合物の少なくとも1つが、低分子薬物、低分子造影剤、及び核酸の組合せである、請求項43に記載の真正細菌ミニ細胞。
【請求項54】
前記生物学的活性化合物の少なくとも1つが、核酸及びポリペプチドの組合せである、請求項43に記載の真正細菌ミニ細胞。
【請求項55】
細胞表面局在化標的化部分を更に含む、請求項43に記載の真正細菌ミニ細胞。
【請求項56】
前記細胞表面局在化標的化部分が、融合タンパク質であり、前記融合タンパク質が、真正細菌外膜アンカー型ドメインと抗体断片との融合体である、請求項55に記載の真正細菌ミニ細胞。
【請求項57】
前記細胞表面局在化標的化部分が融合タンパク質であり、前記融合タンパク質が、ナイセリア・ゴノレアIgAPと、哺乳動物細胞表面抗原を認識する抗体断片との融合体である、請求項56に記載の真正細菌ミニ細胞。
【請求項58】
前記哺乳動物細胞表面抗原が、アディポフィリン、AIM−2、BCLX(L)、BING−4、CPSF、サイクリンD1、DKK1、ENAH、Ep−CAM、EphA3、FGF5、G250/MN/CAIX、HER−2/neu、IL−13Rアルファ2、腸管カルボキシエステラーゼ、アルファ−フェトプロテイン、M−CSF、MCSP、mdm−2、MMP−2、MUC−1、p53、PBF、PRAME、PSMA、RAGE−1、RGS5、RNF43、RU2AS、secernin1、SOX10、STEAP1、サバイビン、テロメラーゼ、WT1、Cdc27、CDK4、CDKN2a、BCR−ABL、BAGE−1、GAGE1〜8、GnTV、HERV−K−MEL、KK−LC−1、KM−HN−1、LAGE−1、MAGE−A1、MAGE−A2、MAGE−A3、MAGE−A4、MAGE−A6、MAGE−A9、MAGE−A9、ムチン、NA−88、NY−ESO−1、LAGE−2、SAGE、Sp17、SSX−2、SSX−4、TRAG−3、CD−166、及びTRP2−INT2からなる群から選択される、請求項57に記載の真正細菌ミニ細胞。
【請求項59】
請求項34に記載の方法により産生される真正細菌ミニ細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2011−525813(P2011−525813A)
【公表日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516548(P2011−516548)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【国際出願番号】PCT/US2009/048339
【国際公開番号】WO2009/158364
【国際公開日】平成21年12月30日(2009.12.30)
【出願人】(511001448)バキシオン セラピューティクス,インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】