説明

制電性ポリエステル混繊糸

【課題】優れた風合いと制電性・制電耐久性・染色品位を有するとともに、高次加工での工程通過性が良好で、操業安定性と品質安定性に優れた制電性ポリエステル混繊糸を提供する。
【解決手段】混繊糸を構成する少なくとも一成分糸が、特定のポリエーテルエステルアミドを制電剤として含むポリエステル混繊糸であり、ポリエーテルエステルアミドが繊維内で特定の粒子径とアスペクト比の粒子として存在する制電性ポリエステル混繊糸とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料用途ポリエステル繊維において優れた風合いと、優れた制電性能有するポリエステル混繊糸に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは優れた生産性と製品の低価格であることなどの製造上の優位性に限らず、布帛加工、染色性、縫製品の着心地、衣類製品の取り扱い性、洗濯しやすさと速乾性などにも他合成繊維に比べ優位な点が多く、合成繊維のなかでは最も広く利用されている。またポリエステルは優れた成型加工性から、取り扱い性や布帛製品の商品価値を高める為に他繊維や異なる性質の繊維と混繊複合した混繊複合糸について広く検討されている。
【0003】
旧来衣料用途に用いられる混繊複合糸が目指したのは、天然繊維対比冷たく硬い触感や人工的な均一さによる布帛の無機質感で、他方混繊複合以外の技術でも検討されてきたが、特に混繊複合糸が目指したところである。これらの代表的技術として特開平2−19528号公報、特開2002−249941号公報等があり、熱収縮率が異なる繊維を複合することにより、布帛形成時に独特のフクラミ感を付与し天然繊維を用いた布帛に近い風合いが達成されていた。
【0004】
しかしながら、天然繊維様の柔らかな風合いを実現する為に熱収縮率の異なる混繊複合糸(以後、異収縮混繊糸という)の熱収縮率の低い側、つまり鞘側には手触りをよりソフトタッチにする為に単糸繊度の細い繊維が使用される事が多くなった。これにより肌に触れる繊維は細く、柔らかくなりより繊細な感触を提供できるようになったが、同時に単糸繊度の細繊度化により、繊維表面積が増大し単糸同士の摩擦が大きく、特に冬季など乾燥した環境下では静電気を発生させやすくなった。これらを解決する方法として、これまで種々の手段が提案されており、例えば、糸表面に後加工で帯電防止剤を塗布する方法、糸表面に親水性物質をグラフト重合する方法あるいは繊維成分に制電性物質を練り込む方法などが挙げられる。しかしながら、これらの方法はいずれもその耐久性・耐熱製糸安定性や織編物工程において品位欠点を引き起す問題があり、工業化に問題があった。
【0005】
例えば、糸表面に帯電防止剤を塗布する方法は、染色工程や洗濯によって帯電防止剤が消失しやすく、また布帛工程の最後に塗布する場合にも、同様に耐久性不足や風合いが硬くなる、あるいは他の後加工、具体的には撥水加工などとの併用ができないなど、種々の問題がある。また、糸表面に親水性物質をグラフト重合させる方法は洗濯による帯電防止剤の消失はかなり改善されるが、耐久性や風合いに問題があった。さらに、制電性物質を練り込む方法は、耐久性は向上するが、テキスタイル工程および着用時の白化現象が問題となる。この白化現象は、テキスタイル化工程において機械的ダメージをうけた部分が、布帛品位の欠点となったり、あるいは着用時に摩擦を受ける部分が白くなるという現象で、原因は練り込まれた制電剤物質とポリエステルとの界面で界面剥離が生じ、繊維表面においてフィブリル化が発生しやすく、布帛の品位低下は深刻な問題であった。
【0006】
又、特開昭63−282311号公報や特許第2906989号公報に提案されているように高分子量で耐熱性のあるポリマー型制電成分をブレンドした制電性ポリエステル繊維として、ブロックポリエーテルエステルアミド組成物とスルホン酸金属塩化合物を含有する制電性ポリエステル繊維の技術が提案されている。こうした制電性繊維を混繊糸の一成分として用いて制電性は得られるものの、しかしながら高い制電性能を得るためには多量の制電剤を使用せざるを得ず、中空割れや紡糸調子が悪化したり、制電剤とポリエステルとの界面剥離による白化現象が生じる等の問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開平2−19528号公報
【特許文献2】特開2002−249941号公報
【特許文献3】特開昭63−282311号公報
【特許文献4】特許第2906989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決し、優れた風合いと制電性・制電耐久性・染色品位を有するとともに、高次加工での工程通過性が良好で、操業安定性と品質安定性に優れた制電性ポリエステル混繊糸を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
混繊糸を構成する少なくとも一成分糸がポリエーテルエステルアミドと有機電解質を制電剤として含む制電性ポリエステル繊維であり、下記要件を満足する制電性ポリエステル混繊糸とする。
(1)ポリエーテルエステルアミドを制電性ポリエステル繊維全重量に対して3〜10重量%含むこと。
(2)ポリエーテルエステルアミドが、両末端にカルボキシル基を有する数平均分子量500〜5,000のポリアミド(a)と数平均分子量1,600〜3,000のビスフェノール類のエチレンオキシド付加物(b)から誘導され、相対粘度が1.5〜3.5(0.5重量%m−クレゾール溶液、25℃)、その相溶性パラメーターが基体となるポリエステルの相溶性パラメーターに対して±0.5(J/cm)^1/2の範囲であること。
(3)該制電性ポリエステル繊維の繊維軸方向に直交する断面におけるポリエーテルエステルアミドの平均粒子径Dが10〜40nmであること。
(4)該制電性ポリエステル繊維の繊維軸方向に平行する断面におけるポリエーテルエステルアミド粒子の繊維軸方向の平均長さLと上記Dの比、L/D(アスペクト比とも略称する場合がある)が100以上であること。
(5)該制電性ポリエステル混繊糸の摩擦帯電圧が2000V以下であること。
【発明の効果】
【0010】
本発明の通り、特定のポリエーテルエステルアミドを使用することでポリエステル繊維内での分散状態を制御し、優れた風合い、品位を有し、且つ耐久制電性、工程通過性の優れる制電性ポリエステル混繊糸を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の制電性ポリエステル混繊糸は二成分糸以上のポリエステル繊維からなる混繊糸であって、少なくとも一成分が制電性ポリエステル繊維からなり、該制電性ポリエステル繊維に用いる制電剤に特徴を有するものである。
即ち該制電性ポリエステル繊維にブレンドされている制電剤は、高分子量ビスフェノール類のエチレンオキシド付加物から誘導されるポリエーテルエステルアミドに有機電解質を所定量含有したポリエーテルエステルアミド系制電剤である。
【0012】
該有機電解質としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ノニルベンゼンスルホン酸、ヘキサデシルスルホン酸およびドデシルスルホン酸などのスルホン酸と、ナトリウム、カリウムおよびリチウムなどのアルカリ金属から形成されるスルホン酸のアルカリ金属塩、ジステアリルリン酸ソーダなどのリン酸のアルカリ金属塩などが挙げられ、なかでもアルキルスルホン酸ソーダなどのスルホン酸の金属塩が良好である。含有量は、0.05〜0.8wt%であり、0.05以下では、制電性が不十分であり、0.8以上では、均一に分散せず、会合状態を形成して分散性不良やそれに伴う白化現象を引き起こし好ましくない。
【0013】
本発明のポリエーテルエステルアミド(ポリエーテルエステルアミド(A)と略称する場合がある)は、両末端にカルボキシル基を有する数平均分子量500〜5000のポリアミド(a1)と数平均分子量1600〜3000のビスフェノール類のエチレンオキサイド付加物(a2)から誘導される。
【0014】
(a1)は、(1)ラクタム開環重合体、(2)アミノカルボン酸の重縮合体もしくは(3)ジカルボン酸とジアミンの重縮合体であり、(1)のラクタムとしては、カプロラクタム、エナントラクタム、ラウロラクタム、ウンデカノラクタム等が挙げられる。(2)のアミノカルボン酸としては、ω−アミノカプロン酸、ω−アミノエナント酸、ω−アミノペルゴン酸、ω−アミノカプリン酸,11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等が挙げられる。(3)のジカルボン酸としては、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン酸、ドデカンジ酸,イソフタル酸等が挙げられ、またジアミンとしては、ヘキサメチレンジアミン,ヘプタメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン等が挙げられる。上記アミド形成性モノマーとして例示したものは2種以上を併用してもよい。これらのうち好ましいものは、カプロラクタム,12−アミノドデカン酸およびアジピン酸−ヘキサメチレンジアミンであり、特に好ましいものは、カプロラクタムである。
【0015】
(a1)は、炭素数4〜20のジカルボン酸成分を分子量調整剤として使用し、これの存在下に上記アミド形成性モノマーを常法により開環重合あるいは重縮合させることによって得られる。炭素数4〜20のジカルボン酸としては、コハク酸、グルタル酸,アジピン酸,ピメリン酸,スベリン酸,アゼライン酸,セバシン酸、ウンデカジ酸,ドデカンジ酸等の脂肪酸ジカルボン酸; テレフタル酸,イソフタル酸,フタル酸,ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ジシクロヘキシル−4,4−ジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;3−スルホイソフタル酸ナトリウム,3−スルホイソフタル酸カリウム等の3−スルホイソフタル酸アルカリ金属塩などが挙げられる。これらのうち好ましいものは脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸および3−スルホイソフタル酸アルカリ金属塩である。上記(a1)の数平均分子量は、通常500〜5000、好ましくは500〜3000である。数平均分子量が500未満ではポリエーテルエステルアミド自体の耐熱性が低下し、5000を超えると反応性が低下するためポリエーテルエステルアミド(A)製造時に多大な時間を要する。
【0016】
ビスフェノール類のエチレンオキシド付加物(a2)のビスフェノール類としては、ビスフェノールA(4,4’−ジヒドロキシジフェニル−2,2−プロパン)、ビスフェノールF(4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン)、 ビスフェノールS(4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン)および4,4’−ジヒドロキシジフェニル−2,2ブタン等が挙げられ、これらのうちビスフェノールAが好ましい。(a2)はこれらのビスフェノール類にエチレンオキシドを常法により付加させることにより得られる。また、エチレンオキシドと共に他のアルキレンオキシド(プロピレンオキシド,1,2−ブチレンオキシド,1,4−ブチレンオキシド等)を併用することもできるが、他のアルキレンオキシドの量はエチレンオキシドの量に基づいて通常10重量以下である。
【0017】
ビスフェノール類を用いない場合はポリエーテルエステルアミドの相対粘度が低下し繊維内での粒子径(D)が小さくなり好ましくない。ビスフェノール類の使用量はポリエーテル成分中1〜数モル%含むことが望ましい。
上記(a2)の数平均分子量は、通常1600〜3000であり、特にエチレンオキシド付加モル数が32〜60のものを使用することが好ましい。数平均分子量が1600未満では、制電防止性が不十分となり、3000を超えると反応性が低下するためポリエーテルエステルアミド(A)製造時に多大な時間を要する。
【0018】
(a2)は、前記(a1)と(a2)の合計重量に基づいて20〜80重量%の範囲で用いられる。(a2)の量が20重量%未満ではポリエーテルエステルアミド(A)の帯電防止性が劣り、80重量%を超えると耐熱性が低下するために好ましくない。
又上記の本発明のポリエーテルエステルアミド(A)の組成は、基体となるポリエステルとの相溶性に極めて重要な要件である。相溶性は一般に相溶性パラメーター(溶解度パラメーターとも呼ぶ)が近いものほど親和性が増し界面剥離が生じにくくなる。
【0019】
従って本発明のポリエーテルエステルアミド(A)の相溶性パラメーターはポリエステルの相溶性パラメーター値に対して、±0.5(J/cm)^1/2の範囲内の制電剤ポリマー組成とすることが必要である。例えば、ポリエチレンテレフタレートの場合は、相溶性パラメーターが20.9(J/cm)^1/2であることから、ポリエーテルエステルアミドの相溶性パラメーターは20.4〜21.4の範囲であることが必要である。この範囲を超えると、ポリエステルと制電ポリマーの界面接着性が不十分なため、後加工工程および着用時の摩擦によって界面剥離による白化現象が起こる。好ましくは、ベースポリエステルに対して、±0.3(J/cm)^1/2以内がよい。
【0020】
ポリエーテルエステルアミド(A)の相溶性パラメーターを調整するためにはポリアミド成分量とポリエーテル成分量の構成比等を調整することにより行える。
ポリエーテルエステルアミド(A)の製法としては、下記製法1または製法2が例示されるが、特に限定されるものではない。
製法1:アミド形成性モノマーおよびジカルボン酸を反応させて(a1)を形成せしめ、これに(a2)を加えて、高温、減圧下で重合反応を行う方法。
製法2:アミド形成性モノマーおよびジカルボン酸と(a2)を同時に反応槽に仕込み、水の存在下または非存在下に、高温で加圧反応させることによって中間体として(a1)を生成させ、その後減圧下で(a1)と(a2)との重合反応を行う方法。
【0021】
また、上記の重合反応には、公知のエステル化触媒が通常使用される。該触媒としては、例えば三酸化アンチモンなどのアンチモン系触媒、モノブチルスズオキシドなどのスズ系触媒、テトラブチルチタネートなどのチタン系触媒、テトラブチルジルコネートなどのジルコニウム系触媒,酢酸亜鉛などの酢酸金属塩系触媒などが挙げられる。触媒の使用量は、(a1)と(a2)の合計重量に対して通常0.1〜5重量%である。
【0022】
ポリエーテルエステルアミド(A)の相対粘度は、1.5〜3.5(0.5重量%m−クレゾール溶液、25℃)、好ましくは、1.5.0〜3.0である。1.5未満では、制電剤の分散粒径が小さくなり制電性が不足する。また、3.5を超える範囲では、製糸段階での断糸原因となる。
【0023】
ポリエーテルエステルアミド(A)のポリエステルへの添加量は、3〜10重量%であることが必要である。好ましくは、6〜9重量%の範囲である。3重量%未満では、制電性が不足であり、10重量%を超える場合は、製糸工程調子の悪化や強度低下、また熱セット性の低下により品位低下を招く。
【0024】
本発明に用いるポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートに代表されるポリアルキレンテレフタレート,ポリアルキレンフタレート等が挙げられるが、中でも前者のテレフタル酸を主たる酸成分とし、炭素数2〜6のアルキレングリコール成分、即ちエチレングリコール、トリメチレングリコール,テトラメチレングリコール、ペンタメチレングリコール及びヘキサメチレングリコールから選ばれた少なくとも一種のグリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルを対象とする。かかるポリエステルは任意の方法で製造されたものでよく、例えばポリエチレンテレフタレートについて説明すれば、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸ジメチルの如きテレフタル酸の低級アルキルエステルとエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、又はテレフタル酸とエチレンオキサイドとを反応させるなどして、テレフタル酸のグリコールエステル及び/又はその低重合度を生成させ、次いでこの生成物を減圧下加熱して所望の重合度になるまで重縮合反応させることによって製造される。
【0025】
尚、上記ポリエステルはそのテレフタル酸成分の一部を他の二官能性カルボン酸成分で置き換えてもよい。かかるカルボン酸としては、例えば、イソフタル酸、フタル酸、ジブロモテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルカルボン酸、ジフェキシエタンジカルボン酸、β−オキシエトキシ安息香酸の如き二官能性芳香族カルボン酸、セバシン酸、アジピン酸、シュウ酸の如き二官能性脂肪族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等を挙げることができる。また上記グリコール成分の一部を他のグリコール成分で置き換えてもよく、かかるグリコール成分としては例えばシクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ネオペンチルグリコール,ビスフェノールA,ビスフェノールS、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−(2−ハイドロキシエトキシ)フェニル)プロパンの如き脂肪族、脂環族、芳香族のジオールが挙げられる。更に、上述のポリエステルに必要に応じて他のポリマーを少量ブレンド溶融したもの、ペンタエリスリオトール、トリメチロールプロパン、トリメリット酸等の鎖分岐剤を少割合使用したものであってもよい。このほか本発明のポリエステルは通常のポリエステルと同様に酸化チタン、カーボンブラック等の顔料他、従来公知の抗酸化剤、着色防止剤が添加されていても勿論良い。
【0026】
本発明のポリエーテルエステルアミド(A)の制電性ポリエステル繊維内での分散状態は重要な発明要件であり下記要件を満足する必要がある。
(1)繊維軸に直交する断面でのポリエーテルエステルアミド(A)の平均粒径Dが10〜40nmの範囲であることが必要である。好ましくは、10〜30nmの範囲である。10未満の場合は、摩擦帯電圧は2500を超えて、制電性が不足し、一方40nmを越える大きさの場合は、各フィラメントの太さ斑が発生しやすく、紡糸・延伸加工断糸などが多発し生産性が悪くなる。
(2)繊維軸に平行する断面でのポリエーテルエステルアミド(A)粒子の繊維軸方向の平均長さLとしたとき、L(繊維軸方向の粒子の平均長さ)/D(繊維軸に直交する断面での平均粒子径)が100以上必要である。制電性付与には、制電剤が繊維内で、長く連なった状態であり電荷が移動しやすい場を提供することが重要である。そのため、剤の繊維軸方向の長さは長いほど好ましい。好ましくは、200〜400である。L/Dは、後述するように溶融紡糸時の剪断速度や紡糸ドラフト率により、容易に調整することができる。
【0027】
上述の制電性ポリエステル繊維を混繊糸の一成分に使用するが、該制電性ポリエステル繊維の制電性能としては、摩擦帯電圧が1500V以下であることが好ましい。好ましくは、1000V以下である。1500Vを超える場合は、混繊糸としたとき2000V以下の制電性が得られず、衣服にした時、衣服のまとわりつきや静電気の発生が起こる場合があり好ましくない。
【0028】
また、単糸繊度とフィラメント数も同様に機能面および布帛風合いにおいて商品価値を高める重要な用件であり、本発明の制電性ポリエステル混繊糸を構成する繊維糸条の単糸繊度は、10dtex以下であることが好ましい。10dtexを超える場合は、風合いが硬くなり好ましくない。また、軽量化(薄地化)のニーズに対応するため、フィラメント数も12本などの低フィラメント化も重要であるが、12未満では絶対強力の不足により紡糸張力に耐え難く生産上好ましくない。
【0029】
又制電性ポリエステル繊維内のポリエーテルエステルアミド(A)の分散状態を決定する要件として、製造方法における紡糸工程での口金内での剪断および口金吐出後の紡糸ドラフトが重要である。これは、制電剤の粒径と長さをある範囲内に設定することにより制電性と品位を達成するために必要な要件である。すなわち、吐出孔内での剪断速度(式1)が400〜9000の範囲になるように、口金孔径と吐出量を設定する必要がある。
剪断速度:Vs(sec−1)=4Q(cm/sec)/πr(cm)^3・・・式1
Q:吐出孔1孔あたりのポリマー吐出量(cm/sec)
r:吐出孔の半径(cm
【0030】
吐出量に対して、孔径が大きすぎると吐出孔内での制電剤の分散(粒径細化)作用が小さいために、粒径のばらつきが大きく、断糸の原因となりやすい。一方、吐出孔径を小さくしすぎて、分散作用が大きすぎると、粒径が小さくなり、制電効果が未達である。従って、剪断速度400〜9000の範囲が必要であり、このましくは、600〜8000の範囲である。また、吐出孔からの押し出し速度V1と引き取りローラー速度V2の比である紡糸ドラフト率=V2/V1が、200〜2000までの範囲であることが必要である。これは、吐出されたブレンドポリマー流内ではある範囲の粒径をもった丸から楕円状をした形状をもっており、その中でポリマー流全体は冷却を受けながら徐々に引き伸ばされ加速し、ガラス転移温度になった時点で引き取り速度V2に達している。その間の加速度dV/dxが紡糸ドラフトを大きくすると大きくなり、ポリマー流は大変形をうけることになる。従って、制電剤を引き伸ばすには、ドラフトを大きい範囲、すなわち200〜2000とする必要がある。ここで、200未満の場合は、剤の伸長が不十分でありL/Dが130未満となり制電性が不足である。一方で、2000を超える場合には、大変形作用が過剰であり紡糸断糸の問題があり不十分である。
【0031】
混繊糸工程について次に説明する。
混繊糸としては一成分糸として上記の制電性ポリエステル糸条を含むことにより混繊糸として制電性は十分得られるが、芯鞘構造の芯糸に制電性ポリエステル糸条が配置されることが制電性能を持続させる点からより好ましい。
【0032】
鞘糸の繊度は20から150dtexでその時のフィラメント数は10から150フィラメントが好ましい。この範囲よりも鞘部繊維の繊度が細いと、布帛形成時に芯糸が露出し品位が低下しやすく、また太いと混繊糸の取扱い性の点で実用に耐えない。またフィラメント数は実用に耐える範囲であればよいが、鞘部繊維よりも単糸繊度が細い事が好ましい。
【0033】
芯糸の繊度は、制電性能発現の点から20から110dtexでその時のフィラメント数は5から48フィラメントが好ましい。極端に繊度が細いと布帛での性能発現が不十分で、また単糸繊度が細くても同様な不具合を生じる。
【0034】
本発明の代表的な工程を添付図面(図1)により説明する。高配向ポリエステル未延伸糸条(A)と制電性ポリエステル糸条(B)とを、引き揃えて供給ローラー(1)に供給し、その後交絡用空気噴射ノズルにて糸を交絡させた後、予熱ローラー(2)にて予熱し引き取りローラー(4)にて所定の倍率に延伸する。この時、予熱ローラーと引き取りローラーの間に設けたセットヒーター(5)により、これら混繊糸条を熱セットする。また引き取りローラーにて引き取られた糸条は、後方に配された捲取装置に連続して捲き取られ、目的とする混繊糸パッケージ(6)となる。
【0035】
ポリエステル繊維を製織する方法や、製織組織については特に制限はないが、混繊されたポリエステル糸による外観の特徴や、混繊によるふくらみと風合いを生かせる製織方法、組織を選ぶことが好ましい。このような混繊糸のふくらみ感や風合い等の特徴を効果的に発現する為には、該糸を布帛とした後、常法に従いボイルオフ、プレセット、染色、ファイナルセットを行うことにより熱収縮差等を利用することが好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、具体的な実施例を用いて本発明を詳細に説明する。
各測定方法は以下の要領で実施する。
(1)制電剤の粒径およびL/D測定
本発明のポリエステル繊維の厚さ100nmの繊維に直交する断面切片を作製し、透過型電子顕微鏡にて測定するために観察し、繊維断面内の粒子の直径をn=100にて測定し、平均値を算出する。
(2)制電剤のL/Dの測定
本発明のポリエステル繊維を透過型電子顕微鏡にて測定するために、厚さ100nmの繊維軸方向切片を作製し、観察する。この時、繊維軸方向の制電剤粒子の長さをn=5
0にて測定し、平均値を算出する。その平均L値と(1)の平均D値の比を算出して、L/D値を求める。
(3)摩擦帯電圧測定
試料混繊糸を用いて丸編みとし、JIS L 1094 摩擦帯電圧測定法に準じて測定し、摩擦開始から60秒後の帯電圧(V)を測定し混繊糸の摩擦帯電圧とする。測定は、温度20±1℃、相対湿度40±2%の状態の試験室中で実施した。タテ糸方向ヨコ糸方向各n=5にて測定し、摩擦布にはJIS L 0803に規定の綿添付白布を用いた。
(4)白化テスト
染色工程を終えた試験布を準備する。150±5℃にあらかじめ加熱した電気アイロンを用いて試験布上を毎秒2cmの速さで6回(3往復)スライドさせる。尚、温度は電気アイロン底面中央部の表面温度である。次に高温のアルカリ水溶液に用いて15%減量を行う。これら二段階にわたって外部から負荷を与えた試験布(L1)と、外部から負荷を与えていない試験布(L0) のL値(白化度)の測色n=2を行い、次の式で求めた色差値を白化性とする。白化性=L1−L0
白化性は1.0以下を合格とする。
【0037】
[実施例1〜4]
表1に記載のポリエーテルエステルアミド(イオン性物質として、アルキルスルホン酸Naを0.8%含む)を80℃で乾燥したものを、160℃で乾燥した高収縮性のポリエチレンテレフタレートチップ(全酸成分イソフタル酸を10mol%共重合、IV=0.64、相溶性パラメーター20.9)とブレンドして溶融温度295℃にて溶融後、400Mフィルターを口金上部に配置してなるパックを通して、表1に記載の通り、口金孔径・ホール数条件および添加量を変化させて、ポリマーを吐出し巻き取った。その原糸を用いて、予熱温度90℃のローラーおよびセット温度170℃のスリットヒーターにて延伸熱セットし、温水収縮率が16%の制電性ポリエステル糸条を作製した。
別にポリエチレンテレフタレートを常法によって、144孔を有する口金より吐出し70デシテックスの表1に示す高配向未延伸糸を作製した後、先の制電性ポリエステル糸条と引き揃え、空気交絡法によって混繊糸を作製した。混繊糸の摩擦帯電圧は表に示す通りである。
【0038】
尚この混繊糸を20Gの筒編み機にて丸編み状態とし、80℃にて精錬を行い水洗乾燥後、布重量換算で4%の染料を用いて120℃にて高圧染色し乾燥した。得られた布帛は制電性ポリエステル糸条が収縮して芯糸に、相手方のポリエチレンテレフタレート糸条が鞘糸に位置するフクラミ感が良好な芯鞘混繊糸布帛であった。
実施例1,2,3,4は、ポリエーテルエステルアミド(以下PEEA)の量が適正で相溶性パラメーターが範囲内のものであり、口金内剪断速度およびドラフトなどの製糸条件が本発明の範囲内にあることから、制電剤の粒径・繊維軸方向長さを満足し、混繊糸の摩擦帯電圧、白化現象も良好で、性能と品位に優れた制電性ポリエステル混繊糸となっている。
【0039】
[比較例1〜7]
比較例1〜7では表に示す通り、紡糸準備段階までは実施例と同様に行い、紡糸段階で吐出量、制電剤ブレンド率についてそれぞれ変更して行った。比較例1は、PEEAの添加量が少ない為に、制電性が不十分であり、一方比較例2においては、PEEAの添加量が多すぎるために、紡糸における断糸が頻発し、本発明を満足するものではない。比較例3は、参考までにPEEAを添加しないものであり混繊糸の摩擦帯電圧が高く、比較例4は相対粘度が高く発明外のものであり紡糸調子が悪く又白化が見られ、比較例5はビスフェノールAを含有しないポリエーテルエステルアミドであり、粘度が低く繊維内での粒径が小さく理由は定かでないが混繊糸の摩擦帯電圧は高いものとなった。比較例6、7は相溶性パラメーターが低い制電剤、高い制電剤でいずれも白化と混繊糸の摩擦帯電圧が満足しない。
【0040】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の制電性ポリエステル混繊糸は優れた風合いと共に制電性、制電耐久性を有するので紳士婦人衣料用途に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本願実施例の制電性ポリエステル混繊糸の製造方法に関する説明図である。
【符号の説明】
【0043】
1:原糸供給ローラー
2:予熱ローラー
3:圧縮空気交絡装置
4:引き取りローラー
5:セットヒーター
6:製品
A:鞘糸 高配向ポリエステル未延伸糸条
B:芯糸 制電性ポリエステル糸条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混繊糸を構成する少なくとも一成分糸がポリエーテルエステルアミドを制電剤として含む制電性ポリエステル繊維であり、下記要件を満足することを特徴とする制電性ポリエステル混繊糸。
(1)ポリエーテルエステルアミドを制電性ポリエステル繊維全重量に対して3〜10重量%含むこと。
(2)ポリエーテルエステルアミドが、両末端にカルボキシル基を有する数平均分子量500〜5,000のポリアミド(a)と数平均分子量1,600〜3,000のビスフェノール類のエチレンオキシド付加物(b)から誘導され、相対粘度が1.5〜3.5(0.5重量%m−クレゾール溶液、25℃)、その相溶性パラメーターが基体となるポリエステルの相溶性パラメーターに対して±0.5(J/cm)^1/2の範囲であること。
(3)該制電性ポリエステル繊維の繊維軸方向に直交する断面におけるポリエーテルエステルアミドの平均粒子径Dが10〜40nmであること。
(4)該制電性ポリエステル繊維の繊維軸方向に平行する断面におけるポリエーテルエステルアミド粒子の繊維軸方向の平均長さLと上記Dの比、L/D(アスペクト比とも略称する場合がある)が100以上であること。
(5)該制電性ポリエステル混繊糸の摩擦帯電圧が2000V以下であること。
【請求項2】
請求項1の制電性ポリエステル混繊糸を含む繊維製品。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−19287(P2009−19287A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−180825(P2007−180825)
【出願日】平成19年7月10日(2007.7.10)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】