説明

制音体付空気入りタイヤ

【課題】製造コストの上昇を抑制しつつ、タイヤの転がり抵抗性能を向上させる。
【解決手段】トレッド部2に路面と接地するトレッドゴム9が配された空気入りタイヤ1と、該空気入りタイヤ1の内腔面Nに固着されかつタイヤ周方向にのびる比重が0.016〜0.035のスポンジ材からなる制音体10とを具えた制音体付空気入りタイヤTである。前記トレッドゴム9は、損失正接tanδが、0.13〜0.18である。タイヤ回転軸を含む子午線断面において、前記制音体10は、タイヤ内腔面Nに沿った長さWが、タイヤ内腔面Nと直角な厚さtよりも大きい横長状である。しかも制音体10は、前記トレッド部2の接地端Teを通るタイヤ半径方向線Cnを横切るようにトレッド部2のショルダー側に寄せて配される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造コストの上昇を抑制しつつ、タイヤの転がり抵抗性能を向上させた制音体付空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤの転がり抵抗性能を向上するために、トレッド部に配されたトレッドゴムに、損失正接tanδの小さいゴムを用いることやトレッドゴム自体の変形を小さくすることが知られている。
【0003】
しかしながら、トレッドゴムの損失正接tanδを小さくするためには、特殊なゴム材料やポリマー等を使用しなければならず、製造コストが上昇するという問題があった。また、トレッドゴム自体の変形を小さくするために、トレッド部に溝やサイピング等を設けることが効果的であるが、このような溝やサイピングが設けられたタイヤは、放熱効果が大きくなるため、トレッドゴムの温度が過度に低下する傾向がある。一般にゴムの損失正接tanδは、温度依存性を有し、温度が高いほど小さくなるため、このような低温のトレッドゴムでは、損失正接tanδが大きくなり、かえって、転がり抵抗が悪化するという問題があった。関連する技術としては、下記特許文献1、2がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−212524号公報
【特許文献2】特開2005−138760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、空気入りタイヤのタイヤ内腔面に固着されかつタイヤ周方向にのびる制音体の形状や配設位置を特定することを基本として、製造コストの上昇を抑制しつつ、タイヤの転がり抵抗性能を向上させた制音体付空気入りタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のうち請求項1記載の発明は、トレッド部に路面と接地するトレッドゴムが配された空気入りタイヤと、該空気入りタイヤの内腔面に固着されかつタイヤ周方向にのびる比重が0.016〜0.035のスポンジ材からなる制音体とを具えた制音体付空気入りタイヤであって、前記トレッドゴムは、損失正接tanδが、0.13〜0.18であり、タイヤ回転軸を含む子午線断面において、前記制音体は、タイヤ内腔面に沿った長さが、タイヤ内腔面と直角な厚さよりも大きい横長状であり、しかも制音体は、前記トレッド部の接地端を通るタイヤ半径方向線を横切るようにトレッド部のショルダー側に寄せて配されることを特徴とする。
【0007】
また請求項2記載の発明は、前記制音体のタイヤ軸方向の内端は、前記接地端からタイヤ軸方向内側にトレッド接地幅の17.5〜22.5%の位置にあり、前記制音体のタイヤ軸方向の外端は、ビードベースラインからタイヤ断面高さの70〜77%の位置にある請求項1記載の制音体付空気入りタイヤである。
【0008】
また請求項3記載の発明は、前記制音体の厚さは、5〜10mmである請求項1又は2に記載の制音体付空気入りタイヤである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の制音体付空気入りタイヤは、トレッド部に路面と接地するトレッドゴムが配された空気入りタイヤと、該空気入りタイヤの内腔面に固着されかつタイヤ周方向にのびる比重が0.016〜0.035のスポンジ材からなる制音体とを具える。このようなスポンジ材は、該スポンジ材が固着された部分のトレッドゴムの放熱を妨げることにより、ゴムの低温化を抑制する。従って、該トレッドゴムの損失正接tanδが小さくなり、転がり抵抗性能を向上させる。
【0010】
また、トレッドゴムには、損失正接tanδが、0.13〜0.18のゴムが用いられる。このように、損失正接tanδが0.18以下に特定されるため、走行時のヒステリシスロスを小さくでき、転がり抵抗が向上する。また、損失正接tanδが0.13以上に特定されるため、特殊なゴム材料等を使用することがなく、製造コストの上昇が抑制される。
【0011】
また、タイヤ回転軸を含む子午線断面において、前記制音体は、タイヤ内腔面に沿った長さが、タイヤ内腔面と直角な厚さよりも大きい横長状であるため、制音体の剛性が向上し、タイヤの振動や横揺れによる破断が抑制される。これにより、上述の転がり抵抗の向上効果が確実に発揮される。また、制音体は、前記トレッド部の接地端を通るタイヤ半径方向線を横切るようにトレッド部のショルダー側に寄せて配される。即ち、本発明の制音体は、接地領域が小さく放熱効果が大きい接地端の内方を含んだショルダー側に配されるため、トレッドゴムの温度を高く確保し、転がり抵抗をさらに向上することができる。従って、本発明の制音体付空気入りタイヤは、製造コストを抑制しつつ、タイヤの転がり抵抗を効果的に向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の制音体付空気入りタイヤの一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1の制音体付空気入りタイヤの周方向断面図である。
【図3】(a)乃至(d)は、比較例2乃至5の制音体付空気入りタイヤの右半分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本実施形態の制音体付空気入りタイヤTの断面図、図2は、制音体が配される部分の周方向断面図が示される。なお、図1の断面図は、正規リム(図示せず)にリム組みされかつ正規内圧が充填された無負荷の正規状態におけるタイヤ回転軸を含む子午線断面を表す。特に断りがない場合、タイヤ各部の寸法等は、この正規状態で測定された値である。
【0014】
前記「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めているリムであり、JATMAであれば"標準リム"、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim"となる。また、前記「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば"最高空気圧"、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" とするが、タイヤが乗用車用である場合には180kPaとする。
【0015】
前記制音体付空気入りタイヤTは、トロイド状をなす空気入りタイヤ(以下、単に「タイヤ」ということがある。)1と、このタイヤ1の内腔面Nに固着されかつタイヤ周方向にのびる制音体10とを含んで構成される。
【0016】
前記タイヤ1は、チューブレスタイヤであって、トレッド部2と、そのタイヤ軸方向両端からタイヤ半径方向内側にのびる一対のサイドウォール部3と、各サイドウォール部3のタイヤ半径方向内側に配されるビード部4とを具えるとともに、そのタイヤ内腔面Nは、空気不透過性ゴムからなるインナーライナゴム8で被覆される。このようなタイヤ1としては、その内部構造やカテゴリーに規制されることなく、種々のタイヤが適用できる。
【0017】
また、本実施形態のタイヤ1は、トレッド部2からサイドウォール部3をへてビード部4のビードコア5に至るカーカス6と、このカーカス6の半径方向外側かつトレッド部2の内部に配されるベルト層7とを具えている。なお、トレッド部2には、適宜排水用の溝Gが設けられている。
【0018】
前記カーカス6は、一対のビードコア5、5間をトロイド状に跨る本体部6aと、この本体部6aの両側に連なりかつ前記ビードコア5の回りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返された折返し部6bとを有する少なくとも1枚、本実施形態では1枚のカーカスプライ6Aからなる。
【0019】
前記ベルト層7は、少なくとも2枚、本実施形態では、タイヤ半径方向内、外2枚のベルトプライ7A、7Bから構成される。各ベルトプライ7A、7Bは、タイヤ赤道Cに対して15〜40°の角度で傾けられたスチールコード等の高弾性のベルトコードを有する。各ベルトプライ7A、7Bは、ベルトコードが互いに交差する向きに重ねられている。
【0020】
また、本実施形態のトレッド部2には、前記ベルト層7のタイヤ半径方向外側に、路面と接地するトレッドゴム9が配される。
【0021】
前記トレッドゴム9は、損失正接tanδが0.13〜0.18のゴムとする必要がある。即ち、損失正接tanδが0.18を超えると、走行時のヒステリシスロスを小さくできず、転がり抵抗性能が悪化する。また、損失正接tanδが0.13未満では、ウェット性能を確保するため、特殊なゴム材料等を使用する必要があり、製造コストが上昇する。なお、転がり抵抗性能と製造コストとをさらにバランス良く向上すため、損失正接tanδは、好ましくは0.14以上が望ましく、また好ましくは0.17以下が望ましい。また、本明細書では、ゴムの損失正接は、粘弾性スペクトロメーターを用い、温度70℃、周波数10Hz、初期伸張歪10%、動歪の振幅±2%の条件で測定した値である。
【0022】
また、本実施形態のトレッドゴム9は、接地端Teの外側からタイヤ軸方向内側に連続してのびる。これにより、上述の作用がより効果的に発揮される。なお、トレッドゴム9が、例えばキャップゴムやベースゴム等の複数のゴム層からなる場合は、少なくとも路面と接する最外ゴム層のゴムが、上記損失正接tanδを満足すれば良い。
【0023】
なお、前記「接地端」Teは、前記正規状態のタイヤに、正規荷重を負荷してキャンバー角0度で平面に接地させたときの最もタイヤ軸方向外側の接地位置として定められる。そして、この接地端Te、Te間のタイヤ軸方向の距離がトレッド接地幅TWとして定められる。また、「正規荷重」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" であるが、タイヤが乗用車用の場合には前記荷重の88%に相当する荷重とする。
【0024】
また、前記制音体10は、海綿状の多孔構造体をなすスポンジ材からなり、本実施形態では例えば、ポリウレタンからなる連続気泡のスポンジ材が用いられる。このような制音体10は、該スポンジ材が固着された部分のゴム(本実施形態では、トレッドゴム9)の放熱を妨げることにより、ゴムの低温化を抑制する。従って、制音体10は、トレッドゴム9の損失正接tanδを小さくし、転がり抵抗性能を向上させる。
【0025】
また、本実施形態の制音体10は、比重が0.016〜0.035で構成される必要がある。即ち、比重が0.016よりも小さくなると、上述のゴムの放熱抑制効果を発揮できない他、制音体10の耐久性が悪化する。逆に、比重が0.035を超えると、製造コストの増加やタイヤの質量が大きくなる。なお、前記スポンジ材の比重は、JISK6400の「軟質ウレタンフォーム試験方法」に規定される第5項の「見掛け密度」に準拠して測定された見掛け密度を比重に換算することにより得られた値とする。
【0026】
また、制音体10は、前記タイヤ子午線断面において、タイヤ内腔面Nに沿った長さWが、タイヤ内腔面Nと直角な厚さtよりも大きい横長状をなす。このような制音体10は、剛性が向上し、タイヤの振動や横揺れによる破断が抑制される。これにより、上述の転がり抵抗性能の向上効果が長期間に亘って発揮される。なお、前記作用を効果的に発揮させるため、前記長さWと厚さtとの比t/Wは、0.05〜0.5が望ましい。
【0027】
また、前記厚さtが小さいと、転がり抵抗性能を向上することができないおそれがあり、逆に前記厚さtが大きいと、転がり抵抗性能の向上よりも製造コストが過度に上昇するおそれがある。このため、前記厚さtは、5〜10mmであるのが望ましい。
【0028】
また、制音体10は、トレッド部2の接地端Teを通るタイヤ半径方向線Cnを横切るようにトレッド部2のショルダー側に寄せて配される必要がある。即ち、本発明の制音体10は、接地領域が小さく放熱効果が大きい接地端Teの内方を含んだショルダー側に配されるため、トレッドゴム9の温度がさらに高く確保され、転がり抵抗性能を一層向上することができる。なお、本実施形態の制音体10は、図1に示されるように、左右夫々の接地端Teのタイヤ半径方向内側の内腔面Nに配された一対からなり、トレッドゴム9の温度がより一層高く確保される。
【0029】
また、このような制音体10のタイヤ軸方向の内端10iは、前記接地端Teからタイヤ軸方向内側にトレッド接地幅TWの17.5〜22.5%の位置にあるのが望ましい。即ち、前記内端10iが、接地端Teからタイヤ軸方内側に過度に遠くなると、トレッドゴム9の放熱抑制効果よりも製造コストの上昇が大きくなるおそれがある。逆に、前記内端10iがタイヤ軸方向外側に配されると、前記放熱抑制効果が発揮されないおそれがある。このため、前記内端10iは、より好ましくはトレッド接地幅TWの19%以上の位置にあるのが望ましく、また好ましくは21%以下の位置にあるのが望ましい。なお、接地端Teから前記内端10iまでのタイヤ軸方向距離がL1で示される。
【0030】
また、同様の観点より、制音体10のタイヤ軸方向の外端10eは、好ましくはビードベースラインBLからタイヤ断面高さTHの70%以上、より好ましくは72%以上の位置にあるのが望ましく、また好ましくは77%以下、より好ましくは75%以下の位置にあるのが望ましい。なお、ビードベースラインBLから前記外端10eまでのタイヤ半径方向距離がL2で示される。
【0031】
また、本実施形態の制音体10は、転がり抵抗性能を確保するために、実質的に同一の断面形状でタイヤ周方向にのびるのが望ましい。なお「実質的」とは、タイヤ周方向の全部に亘り同一の断面形状を含むのは勿論、図2に示されるように、制音具の周方向の両端部10u、10uの断面形状が、テーパ状である場合を含む。
【0032】
以上、本発明の空気入りタイヤについて詳細に説明したが、本発明は上記の具体的な実施形態に限定されることなく種々の態様に変更して実施しうるのはいうまでもない。
【実施例】
【0033】
図1に示されるトレッド部の基本構成を形成するサイズが175/65R15の制音付空気入りタイヤが表1の仕様に基づき試作されるとともに、各試供タイヤのノイズ性能及び排水性能がテストされた。比較例1のタイヤには、制音体が付されていない。また、共通仕様は以下の通りである。
トレッド接地幅TW:148mm
タイヤ断面高さTH:115mm
スポンジの比重:0.025
テスト方法は、次の通りである。
【0034】
<転がり抵抗性能>
転がり抵抗試験機を用い、下記の条件での転がり抵抗を測定した。結果は、比較例1を100とする指数で表した。数値が小さいほど転がり抵抗が小さく良好である。
室温:25℃
内圧:210kPa
荷重:3.92kN
速度:80km/h
【0035】
<ショルダー部の表面温度>
上記転がり抵抗試験において、試験終了直前のタイヤ表面の温度が、非接触式の表面温度計により測定された。測定個所は、接地端からタイヤ軸方向内側に15mmの接地面、及び接地端からタイヤ軸方向外方に10mmのバットレス面の2か所である。結果は、前記2か所の平均値が表され、数値が大きいほど転がり抵抗性能が良い。
【0036】
<製造コスト>
タイヤ1本を製造するのに要した製造コストが比較例1を100とする指数で表示されている。数値が小さいほど製造コストが小さく良好である。
【0037】
【表1】


【0038】
テストの結果、実施例のタイヤは、比較例のタイヤに比べて、転がり抵抗性能及び製造コストがバランス良く向上していることが確認できる。また、スポンジの比重を0.016〜0.035まで変化させて実験を行ったが、同じ結果となった。
【符号の説明】
【0039】
1 空気入りタイヤ
2 トレッド部
9 トレッドゴム
10 制音体
N タイヤ内腔面
Te 接地端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部に路面と接地するトレッドゴムが配された空気入りタイヤと、該空気入りタイヤの内腔面に固着されかつタイヤ周方向にのびる比重が0.016〜0.035のスポンジ材からなる制音体とを具えた制音体付空気入りタイヤであって、
前記トレッドゴムは、損失正接tanδが、0.13〜0.18であり、
タイヤ回転軸を含む子午線断面において、
前記制音体は、タイヤ内腔面に沿った長さが、タイヤ内腔面と直角な厚さよりも大きい横長状であり、
しかも制音体は、前記トレッド部の接地端を通るタイヤ半径方向線を横切るようにトレッド部のショルダー側に寄せて配されることを特徴とする制音体付空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記制音体のタイヤ軸方向の内端は、前記接地端からタイヤ軸方向内側にトレッド接地幅の17.5〜22.5%の位置にあり、
前記制音体のタイヤ軸方向の外端は、ビードベースラインからタイヤ断面高さの70〜77%の位置にある請求項1記載の制音体付空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記制音体の厚さは、5〜10mmである請求項1又は2に記載の制音体付空気入りタイヤ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−112062(P2013−112062A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258007(P2011−258007)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)