説明

削孔方式選定方法

【課題】斜面に生えている立木類を残しながら地盤の安定化を図る斜面安定化工法において、より簡便に適切な削孔方式を選定し得る削孔方式の選定方法を提供する。
【解決手段】第1ステップS01では、立木類が存在するか否かを判断し、存在しない場合には対象外とする。第2ステップS02では、前記立木類の疎密度が予め定めた設定基準より密か疎かを判断し、疎の場合には対象外とする。第3ステップS03では、孔壁の不自立が明らかか否かを判断し、不自立が明らかな場合には二重管削孔方式を選定する。第4ステップS04では、前記孔壁の自立が明らかか否かを判断し、自立が明らかでない場合には自穿孔削孔方式を選定する。第5ステップS05では、削孔長が予め定めた設定値より長いか短いかを判断し、長い場合には自穿孔削孔方式を選定し、短い場合には単管削孔方式を選定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、斜面に生えている立木類を残しながら安定化を図る斜面安定化工法において適切な削孔方式をより簡便に選定し得るように開発した削孔選定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自然斜面や人工斜面に対する地盤安定化手段として、斜面に対してアンカー材を設置し、そのアンカー材を活用して更に安定化手段を施す工法は従来から広く知られている。このアンカー材の設置には、予め対象地盤に対して設置孔を形成するための削孔作業が必要とされるが、その削孔作業に使用する削孔方式の選定は、作業の難易にも大きく影響するため、きわめて重要であった。しかしながら、安定化の対象地盤における地質などの削孔条件は多様であり、当該対象地盤に形成した孔壁が果して自立し得るかどうかに関して明確な判断が下せない場合も少なくなく、当該対象地盤に適応し得る適切な削孔方式を選定することは簡単ではなかった。とりわけ、斜面に生えている立木類を残しながら安定化を図る斜面安定化工法において適切な削孔方式を選定するには困難が伴った。
【0003】
従来からアンカー材を用いて斜面の安定化を図る場合のアンカー材の配置や施工方法を決定する設計支援手段に関しては開示されたものもあるが(特許文献1参照)、削孔方式まで選定し得るものではなかった。
【特許文献1】特開2005−248501号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、以上のような従来の技術的状況に鑑みて開発したものであり、斜面に生えている立木類を残しながら地盤の安定化を図る斜面安定化工法において、より簡便に適切な削孔方式を選定し得る削孔方式の選定方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、請求項1の発明では、立木類が存在するか否かを判断し、存在する場合には次ステップに進み、存在しない場合には対象外とする第1ステップと、前記立木類の疎密度が予め定めた設定基準より密か疎かを判断し、密の場合には次ステップに進み、疎の場合には対象外とする第2ステップと、孔壁の不自立が明らかか否かを判断し、不自立が明らかな場合には二重管削孔方式を選定し、不自立が明らかでない場合には次ステップに進む第3ステップと、前記孔壁の自立が明らかか否かを判断し、自立が明らかでない場合には自穿孔削孔方式を選定し、自立が明らかな場合には次ステップに進む第4ステップと、削孔長が予め定めた設定値より長いか短いかを判断し、長い場合には自穿孔削孔方式を選定し、短い場合には単管削孔方式を選定する第5ステップを用いて削孔方式を選定するという選定方法を採用した。また、請求項2の発明では、前記第4ステップにおける選定対象として二重管削孔方式を加え、立木類が存在するか否かを判断し、存在する場合には次ステップに進み、存在しない場合には対象外とする第1ステップと、前記立木類の疎密度が予め定めた設定基準より密か疎かを判断し、密の場合には次ステップに進み、疎の場合には対象外とする第2ステップと、孔壁の不自立が明らかか否かを判断し、不自立が明らかな場合には二重管削孔方式を選定し、不自立が明らかでない場合には次ステップに進む第3ステップと、前記孔壁の自立が明らかか否かを判断し、自立が明らかでない場合には自穿孔削孔方式又は二重管削孔方式を選定し、自立が明らかな場合には次ステップに進む第4ステップと、削孔長が予め定めた設定値より長いか短いかを判断し、長い場合には自穿孔削孔方式を選定し、短い場合には単管削孔方式を選定する第5ステップを用いて削孔方式を選定するという選定方法を採用した。前記第5ステップにおける設定値は、請求項3のように例えば3mに設定される。なお、ここで、孔壁が不自立とは、削孔作業により形成される孔壁が自立しない状態を指す。また、自穿孔削孔方式とは単管の先端部に設けた掘削手段により掘削するとともにその単管自体をそのままアンカー材として使用する方式を指し、単管削孔方式とは自穿孔削孔方式以外の単管削孔方式を指す。
【発明の効果】
【0006】
本発明に係る削孔方式選定方法によれば、当該安定化対象地盤に形成された削孔の孔壁が自立し得るのか、あるいは自立し得ないのかが明らかでない場合を含めて、その孔壁の自立、不自立に関して判っている状況に応じて、当該安定化対象地盤に適応し得る適切な削孔方式を簡便かつ的確に選定することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の前記第2ステップにおける立木類の疎密度に関する設定基準については種々の設定が可能である。この設定基準は、当該安定化対象地盤に生えている立木類の疎密状態が、削孔作業のための足場の設置を大きく制約することなく、例えば削孔径が90mmを超える従来の削孔装置が難なく適用できるような状態の場合には、対象外として本選定方法の適用から排除するように設定される。立木類の疎密度を表す具体的な表示方法としては種々のものがある。例えば、森林の閉鎖密度を示す樹冠投影面積の占める比率を用い、その比率が5/10以下の場合には「疎」、6/10〜8/10の場合には「中」、9/10以上の場合には「密」と区分表示するものがある。また、平均樹高に対する平均樹間距離の比率も立木類の疎密度の指標となり、相対幹距=10000/(H×√N)(ただし、H:平均樹高(m)、N:本数密度(本/ha))を用い、その相対幹距が25%以上の場合には「疎」、15%以上25%未満の場合には「中」、15%未満の場合には「密」と区分表示するものもある。さらに、収量比数(RY)を用い、そのRYが0.55未満の場合には「疎」、0.55以上0.7未満の場合には「中」、0.7以上の場合には「密」と区分表示するものもある。前記第2ステップにおける設定基準の設定に際しては、それらの立木類の疎密度を表す適宜の表示方法を活用して設定することも可能であり、単独の表示方法に基づく評価、あるいはそれらを組合わせて総合評価するようにしてもよい。なお、前記第2ステップの設定基準に関する設定では、立木類の疎密度が設定基準に等しい場合について、第3ステップへ進むように設定してもよいし、対象外となるように設定してもよい。同様に、前記第5ステップの設定値に関する設定では、削孔長が予め定めた設定値に等しい場合について、自穿孔削孔方式を選定するように設定してもよいし、単管削孔方式を選定するように設定してもよい。
【0008】
次に、図1を参照しながら請求項1の発明における削孔方式の選定フローに関して説明する。先ず、第1ステップS01では、当該安定化対象地盤に立木類が存在するか否かを判断し、存在する場合には第2ステップS02へ進む。当該安定化対象地盤に立木類が存在しない場合には本選定方法の対象外とする。次に、第2ステップS02では、前記立木類の疎密度が予め定めた設定基準より密か否かを判断する。この場合の設定基準は、前述のように当該安定化対象地盤に生えている立木類の疎密状態(樹間距離等)が、削孔作業のための足場の設置を大きく制約することなく、例えば削孔径が90mmを超える従来の削孔装置が難なく適用し得るような状態かどうかを判断するとの観点から予め設定される。そして、その設定基準より密の場合には第3ステップS03へ進み、当該対象地盤の立木類の疎密状態が前記設定基準より疎の場合には本選定方法の対象外とする。
【0009】
第3ステップS03では、孔壁の不自立が明らかか否かを判断し、不自立すなわち孔壁が自立しないことが明らかな場合には二重管削孔方式を選定する。この二重管削孔方式の選定により、孔壁が自立しなくても安定した削孔作業が可能となり、グラウト材がアンカー材の周囲に的確に充填された良好な定着状態が得られる。因みに、ここにいう二重管削孔方式としては、前記第2ステップS02における設定基準との関係から、例えば削孔径が90mmを超える削孔装置が難なく適用し得る場合は本選定方法の対象外と設定した場合には、削孔径が90mm以下の小口径用の二重管削孔装置が適用されることになる。なお、孔壁の不自立が明らかでない場合には第4ステップS04へ進む。
【0010】
第4ステップS04では、前記孔壁の自立が明らかか否かを判断し、自立が明らかでない場合には単管の先端部に設けた掘削手段により掘削するとともにその単管自体をそのまま残してアンカー材として使用する自穿孔削孔方式を選定する。孔壁の自立が明らかな場合には第5ステップS05へ進み、削孔長が予め定めた設定値、例えば3m以下か否かを判断し、削孔長が3m以下の場合には単管削孔方式を選定し、それより長い場合には自穿孔削孔方式を選定する。すなわち、削孔長が設定値より長い場合には、単管をアンカー材としてそのまま残し、単管の引抜き作業を伴わない自穿孔削孔方式が選定されることになる。
【0011】
図2は請求項2の発明における削孔方式の選定フローを示したものである。図示のように、この請求項2に係る発明の実施形態は、前記請求項1に係る実施形態と比べ、第4ステップS04において孔壁の自立が明らかでない場合に選定される削孔方式として前記自穿孔削孔方式に二重管削孔方式を加え、場合に応じてそれらのいずれか一方の削孔方式を選択できるようにした点で相違する。他の点では異なるところはなく、同様の選定機能を奏する。因みに、以上の図1あるいは図2の選定フローにおいて、第1ステップS01の上流側、第5ステップS05の下流側、あるいは各ステップ相互間に他のステップを追加することは可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】請求項1の発明における削孔方式の選定フローを示したフロー図である。
【図2】請求項2の発明における削孔方式の選定フローを示したフロー図である。
【符号の説明】
【0013】
S01…第1ステップ、S02…第2ステップ、S03…第3ステップ、S04…第4ステップ、S05…第5ステップ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
立木類が存在するか否かを判断し、存在する場合には次ステップに進み、存在しない場合には対象外とする第1ステップと、前記立木類の疎密度が予め定めた設定基準より密か疎かを判断し、密の場合には次ステップに進み、疎の場合には対象外とする第2ステップと、孔壁の不自立が明らかか否かを判断し、不自立が明らかな場合には二重管削孔方式を選定し、不自立が明らかでない場合には次ステップに進む第3ステップと、前記孔壁の自立が明らかか否かを判断し、自立が明らかでない場合には自穿孔削孔方式を選定し、自立が明らかな場合には次ステップに進む第4ステップと、削孔長が予め定めた設定値より長いか短いかを判断し、長い場合には自穿孔削孔方式を選定し、短い場合には単管削孔方式を選定する第5ステップとを含むことを特徴とする削孔方式選定方法。
【請求項2】
立木類が存在するか否かを判断し、存在する場合には次ステップに進み、存在しない場合には対象外とする第1ステップと、前記立木類の疎密度が予め定めた設定基準より密か疎かを判断し、密の場合には次ステップに進み、疎の場合には対象外とする第2ステップと、孔壁の不自立が明らかか否かを判断し、不自立が明らかな場合には二重管削孔方式を選定し、不自立が明らかでない場合には次ステップに進む第3ステップと、前記孔壁の自立が明らかか否かを判断し、自立が明らかでない場合には自穿孔削孔方式又は二重管削孔方式を選定し、自立が明らかな場合には次ステップに進む第4ステップと、削孔長が予め定めた設定値より長いか短いかを判断し、長い場合には自穿孔削孔方式を選定し、短い場合には単管削孔方式を選定する第5ステップとを含むことを特徴とする削孔方式選定方法。
【請求項3】
前記設定値を3mに設定した請求項1又は2に記載の削孔方式選定方法。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−191879(P2007−191879A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−9239(P2006−9239)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)
【出願人】(000006839)日鐵住金建材株式会社 (371)
【Fターム(参考)】