説明

前処理電着塗装装置及び前処理電着塗装装置の被処理物搬送方法

【課題】 従来に比べて稼働効率の高い前処理電着塗装装置及び稼働効率を従来よりも高めることができる前処理電着塗装装置の被処理物搬送方法を提供する。
【解決手段】 直列に配列された複数の処理槽の上方で処理槽配列の始点から終点へ向けて延在する1本の搬送レールと、搬送レールの延在方向に互いに間隔を隔てて搬送レールに係合する一対のトローリーと、トローリーに懸吊された台車桁と、搬送レールの延在方向に互いに間隔を隔てて台車桁に取り付けられた一対のホイストと、一対のホイストの昇降鎖の下端に懸吊されたハンガー枠と、ハンガー枠に取り付けられたハンガーと、トローリーとホイストとを制御する制御装置とを有するタクト式搬送装置を備え、タクト式搬送装置の制御装置は、処理槽配列の始点と終点の間で、各処理槽内及び各処理槽間を移動するハンガー枠が搬送方向の前方又は後方の何れか一方に所定角度で常時傾斜するように、ホイストを制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前処理電着塗装装置及び前処理電着塗装装置の被処理物搬送方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本願の出願人は、特許文献1において、直列に配列された複数の処理槽の上方で処理槽配列の始点から終点へ向けて延在する1本の搬送レールと、搬送レールの延在方向に互いに間隔を隔てて搬送レールに係合する一対のトローリーと、トローリーに懸吊された台車桁と、搬送レールの延在方向に互いに間隔を隔てて台車桁に取り付けられた一対のホイストと、一対のホイストの昇降鎖の下端に懸吊されたハンガー枠と、ハンガー枠に取り付けられたハンガーと、トローリーとホイストとを制御する制御装置とを有するタクト式搬送装置を備える前処理電着塗装装置であって、タクト式搬送装置のハンガーが、昇降鎖が繰り出された状態で走行・発停し、昇降し、搬送方向の前方又は後方に傾斜し又は前方と後方とに揺動し、或いはこれらの組み合わせ動作をする際に、ハンガーの不要な揺れを防止できる揺れ防止対策が講じられた前処理電着塗装装置を提案した。
特許文献1にも記載されているように、一般に前処理電着塗装装置のタクト式搬送装置においては、直列に配列された複数の処理槽から成る処理槽配列の始点から終点へ向けて、被処理物を搬送する際、処理槽内でハンガー枠を搬送方向の前方と後方とに揺動させている。また、処理槽から処理槽へ被処理部を搬送する際には、被処理物を水平に保持している。
【0003】
特許文献2等に、直列に配列された複数の処理槽の上方で処理槽配列の始点から終点へ向けて延在する1本の搬送レールと、搬送レールの延在方向に互いに間隔を隔てて搬送レールに係合するトローリーと、トローリーに懸吊されたハンガーとを有する連続式搬送装置を備える電着塗装装置が開示されている。
特許文献1等の連続式搬送装置を備える電着塗装装置や前処理電着塗装装置においては、従来、ハンガーは搬送レールに平行に保持されており、従って搬送レールが水平に延在する処理槽間の搬送行程、処理槽中央部の搬送行程においてはハンガーは水平に保持されている。
【特許文献1】特許第3539637号公報
【特許文献2】特開平7−113197号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の前処理電着塗装装置が備えるタクト式搬送装置には、処理槽内でハンガー枠を搬送方向の前方と後方とに揺動させ、また処理槽から処理槽への移動時にはハンガー枠を水平に保持していたので、搬送方向の前後に隣接する被処理物同士の干渉を防止するために、ハンガー枠の配設ピッチを広く設定する必要があり、前処理電着塗装装置の稼働効率を高められないという問題があり、従来の前処理電着塗装装置が備える連続式搬送装置には、ハンガーが搬送レールに対して平行に保持されていたので、搬送方向の前後に隣接する被処理物同士の干渉を防止するために、ハンガー枠の配設ピッチを広く設定する必要があり、前処理電着塗装装置の稼働効率を高められないという問題があった。
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、従来に比べて稼働効率の高いタクト式搬送装置や連続式搬送装置を備える前処理電着塗装装置、並びに前処理電着塗装装置の稼働効率を従来よりも高めることができるタクト式搬送装置や連続式搬送装置を用いる前処理電着塗装装置の被処理物搬送方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明においては、直列に配列された複数の処理槽の上方で処理槽配列の始点から終点へ向けて延在する1本の搬送レールと、搬送レールの延在方向に互いに間隔を隔てて搬送レールに係合する一対のトローリーと、トローリーに懸吊された台車桁と、搬送レールの延在方向に互いに間隔を隔てて台車桁に取り付けられた一対のホイストと、一対のホイストの昇降鎖の下端に懸吊されたハンガー枠と、ハンガー枠に取り付けられたハンガーと、トローリーとホイストとを制御する制御装置とを有するタクト式搬送装置を備え、タクト式搬送装置の制御装置は、処理槽配列の始点と終点の間で、各処理槽内及び各処理槽間を移動するハンガー枠が搬送方向の前方又は後方の何れか一方に所定角度で常時傾斜するように、ホイストを制御することを特徴とする前処理電着塗装装置を提供する。
また本発明においては、直列に配列された複数の処理槽の上方で処理槽配列の始点から終点へ向けて延在する1本の搬送レールと、搬送レールの延在方向に互いに間隔を隔てて搬送レールに係合する一対のトローリーと、トローリーに懸吊された台車桁と、搬送レールの延在方向に互いに間隔を隔てて台車桁に取り付けられた一対のホイストと、一対のホイストの昇降鎖の下端に懸吊されたハンガー枠と、ハンガー枠に取り付けられたハンガーと、トローリーとホイストとを制御する制御装置とを備えるタクト式搬送装置を用いて、直列に配列された複数の処理槽に被処理物を順次浸漬する前処理電着塗装装置の被処理物搬送方法であって、処理槽配列の始点と終点の間で、各処理槽内及び各処理槽間を移動するハンガー枠を、搬送方向の前方又は後方の何れか一方に所定角度で常時傾斜させることを特徴とする前処理電着塗装装置の被処理物搬送方法を提供する。
本発明においては、処理槽配列の始点と終点の間で、各処理槽内及び各処理槽間を移動するハンガー枠を、搬送方向の前方又は後方の何れか一方に所定角度で常時傾斜させるので、処理槽内でハンガー枠を搬送方向の前方と後方とへ揺動させ、処理槽と処理槽の間でハンガー枠を水平に保持する場合に比べて、ハンガー枠の配設ピッチを狭くすることができる。この結果、単位時間当たりの処理数が増加し、前処理電着塗装装置の稼働効率が向上する。
【0006】
本発明においては、直列に配列された複数の処理槽の上方で処理槽配列の始点から終点へ向けて延在する1本の搬送レールと、搬送レールの延在方向に互いに間隔を隔てて搬送レールに係合するトローリーと、トローリーに懸吊されたハンガーとを有する連続式搬送装置を備え、処理槽配列の始点と終点の間で、各処理槽内及び各処理槽間を移動するハンガーが搬送レールに対して搬送方向の前方又は後方の何れか一方に常時傾斜することを特徴とする前処理電着塗装装置を提供する。
また本発明においては、直列に配列された複数の処理槽の上方で処理槽配列の始点から終点へ向けて延在する1本の搬送レールと、搬送レールの延在方向に互いに間隔を隔てて搬送レールに係合するトローリーと、トローリーに懸吊されたハンガーとを備える連続式搬送装置を用いて、直列に配列された複数の処理槽に被処理物を順次浸漬する前処理電着塗装装置の被処理物搬送方法であって、処理槽配列の始点と終点の間で、各処理槽内及び各処理槽間を移動するハンガーを、搬送レールに対して搬送方向の前方又は後方の何れか一方に常時傾斜させることを特徴とする前処理電着塗装装置の被処理物搬送方法を提供する。
本発明においては、処理槽配列の始点と終点の間で、各処理槽内及び各処理槽間を移動するハンガーを、搬送レールに対して搬送方向の前方又は後方の何れか一方に常時傾斜させるので、ハンガーを搬送レールに対して平行に保持する場合に比べて、ハンガーの配設ピッチを狭くすることができる。この結果、単位時間当たりの処理数が増加し、前処理電着塗装装置の稼働効率が向上する。
【発明の効果】
【0007】
本発明においては、処理槽配列の始点と終点の間で、各処理槽内及び各処理槽間を移動するハンガー枠を、搬送方向の前方又は後方の何れか一方に所定角度で常時傾斜させるので、処理槽内でハンガー枠を搬送方向の前方と後方とへ揺動させ、処理槽と処理槽の間でハンガー枠を水平に保持する場合に比べて、ハンガー枠の配設ピッチを狭くすることができる。この結果、単位時間当たりの処理数が増加し、前処理電着塗装装置の稼働効率が向上する。従って、本発明により、従来に比べて稼働効率の高いタクト式搬送装置を備える前処理電着塗装装置、並びに前処理電着塗装装置の稼働効率を従来よりも高めることができるタクト式搬送装置を用いる前処理電着塗装装置の被処理物搬送方法が提供される。
また本発明においては、処理槽配列の始点と終点の間で、各処理槽内及び各処理槽間を移動するハンガーを、搬送レールに対して搬送方向の前方又は後方の何れか一方に常時傾斜させるので、ハンガーを搬送レールに対して平行に保持する場合に比べて、ハンガーの配設ピッチを狭くすることができる。この結果、単位時間当たりの処理数が増加し、前処理電着塗装装置の稼働効率が向上する。この結果、単位時間当たりの処理数が増加し、前処理電着塗装装置の稼働効率が向上する。従って、本発明により、従来に比べて稼働効率の高い連続式搬送装置を備える前処理電着塗装装置、並びに前処理電着塗装装置の稼働効率を従来よりも高めることができる連続式搬送装置を用いる前処理電着塗装装置の被処理物搬送方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0009】
本発明の第1実施例に係る前処理電着塗装装置、並びに前処理電着塗装装置の被処理物搬送方法を説明する。
【0010】
以下の説明において、図1乃至3の矢印I、II、III、IV、V、VIの方向をそれぞれ前方、後方、左方、右方、上方、下方と呼ぶ。
図1に示すように、前処理電着塗装装置Aは、後方から前方へ向けて順次直列に配列された、予備湯洗槽1、脱脂槽2、第1水洗槽3、表面調整槽4、化成槽5、第2水洗槽6、第3水洗槽7、第1純水水洗槽8、作業台9、電着塗装槽10、第1UF水洗槽11、第2UF水洗槽12、3UF水洗槽13、第2純水水洗槽14を備えている。予備湯洗槽1の後方に載貨ステージ15が配設され、第2純水水洗槽14の前方に降貨ステージ16が配設されている。
脱脂槽2、表面調整槽4、化成槽5、第2水洗槽6、第1純水水洗槽8、電着塗装槽10、第2UF水洗槽12、第2純水水洗槽14は浸漬槽として構成されている。
予備湯洗槽1、第1水洗槽3、第3水洗槽7、第1UF水洗槽11、第3UF水洗槽13は、スプレー処理された使用済の処理液の貯蔵循環槽として構成されている。
スキッドBに乗せられた自動車ボデーαは、図示しない台車に乗せられて図示しない溶接工場から前処理電着塗装装置Aまで搬送され、載貨ステージ15において台車から降ろされ、タクト式搬送装置Cのハンガー50に載貨される。自動車ボデーαは、タクト式搬送装置Cにより各槽に順次運ばれて処理された後、降貨ステージ16においてタクト式搬送装置Cのハンガー50から降貨され、図示しない台車に載せられて図示しない焼き付け乾燥装置へ搬送される。
【0011】
タクト式搬送装置Cの構成を、図2、3に基づいて説明する。
処理槽の上方に前後に水平に延在する1本の搬送レール20が配設されている。搬送レール20の左右両側に、搬送レール20と平行に延在する1対のガイドレール21a、21bが配設されている。一対のトローリー22a、22bが、前後に互いに間隔を隔てて搬送レール20に係合している。
上下方向に見て矩形の枠組から成る台車枠23がトローリー22a、22bに懸吊されている。搬送レール20の左右両側で台車枠23に取り付けられた一対のガイドローラー24a、24bがそれぞれガイドレール21a、21bに係合している。ロッド部材を介してトローリー22a、22bに連結された衝突防止用のフロントトローリー22c、リアトローリー22dが、それぞれトローリー22aの前方、トローリー22bの後方で搬送レール20に係合している。一対のホイスト25a、25bが、前後に互いに間隔を隔てて台車枠23に取り付けられている。トローリー22a、22b、ホイスト25a、25bを制御するシーケンスコントローラ26が台車枠23に取り付けられている。
【0012】
搬送レール20の右側で台車枠23の下方に、左右方向に見てX字状に交差する2本の同一長さのビーム30a、30bが配設され、ビーム30a、30bの下方に、左右方向に見てX字状に交差する2本の同一長さのビーム30c、30dが配設されている。
左右に延在するシャフト31、32の右端が、それぞれビーム30aと30bの交差部、ビーム30cと30dの交差部、を摺動回転のみ可能に貫通している。左右に延在するシャフト33、34の右端が、それぞれビーム30aの下端とビーム30dの上端、ビーム30bの下端とビーム30cの上端、を摺動回転のみ可能に貫通している。左右に延在するシャフト35の右端近傍部がビーム30aの上端を摺動回転のみ可能に貫通している。シャフト35の右端は、台車枠23の前方下部に、所定領域内でのみ前後に移動可能に連結されている。左右に延在するシャフト36の右端近傍部がビーム30bの上端を摺動回転のみ可能に貫通している。シャフト36の右端は、台車枠23の後端下部に連結されている。左右に延在するシャフト37の右端近傍部がビーム30dの下端を摺動回転のみ可能に貫通している。シャフト37の右端は、上下方向に見て矩形の枠組から成り、台車枠23と平行に配設された下端枠39の前方上部に、所定領域内でのみ前後に移動可能に連結されている。左右に延在するシャフト38の右端近傍部がビーム30cの下端を摺動回転のみ可能に貫通している。シャフト38の右端は、下端枠39の後端上部に連結されている。
【0013】
搬送レール20の左側で台車枠23の下方に、ビーム30a〜30dと面対称にビーム40a〜40dが配設されている。ビーム40a〜40dは、シャフト31〜38の左端部分によりビーム30a〜30dと同様に貫通され、ビーム30a〜30dと同様に台車枠23と下端枠39とに連結されている。
【0014】
上記説明から分かるごとく、ビーム30a〜30d、40a〜40dは、関節継手を有し、左右方向に見て上部に菱形の下半分、中央に菱形、下部に菱形の上半分を形成する伸縮可能な一対の枠組、すなわち上下に伸縮可能な一対のパンタグラフ30、40を構成している。パンタグラフ30、40の上端は関節継手を介して台車枠23に連結され、パンタグラフ30、40の下端は関節継手を介して台車枠23に平行に配設された下端枠39に連結されている。パンタグラフ30、40の関節継手と、パンタグラフ30、40の上端と下端とをそれぞれ台車枠23と下端枠39とに連結する関節継手とは、左右に延在する軸線回りの回動のみを許容する。パンタグラフ30と40の対峙する関節継手は、相対変位を規制する態様でシャフト31〜34によって連結されている。
【0015】
上下方向に見て矩形の枠組から成る第1傾斜ハンガー枠41の後端が、左右に延在する軸線回りの回動のみを許容する関節継手を介して、下端枠39の後方下部に連結されている。上下方向に見て矩形の枠組から成る第2傾斜ハンガー枠42の前端が、左右に延在する軸線回りの回動のみを許容する関節継手を介して、第1傾斜ハンガー枠41の前端下部に連結されている。ホイスト25aの昇降鎖25a’の下端は、第2傾斜ハンガー枠42の前方部に、ホイスト25bの昇降鎖25b’の下端は第2傾斜ハンガー枠42の後方部に、それぞれ連結されている。
【0016】
前後に間隔を隔てて配設された一対の門形のビーム50a、50bと、前端と後端がそれぞれ左右に延在する軸線回りの回動のみを許容する関節継手を介して門形ビーム50aの右側の足元と門形ビーム50bの右側の足元に連結されたビーム50cと、前端と後端がそれぞれ左右に延在する軸線回りの回動のみを許容する関節継手を介して門形ビーム50aの左側の足元と門形ビーム50bの左側の足元に連結されたビーム50dとから成るハンガー50が、左右に延在する軸線回りの回動のみを許容する関節継手を介して、第2傾斜ハンガー枠42に懸吊されている。
【0017】
一対のトローリー22a、22b乃至ハンガー50により構成される多数の搬送ユニットが、所定のピッチで搬送レール20に係合している。
【0018】
上記構成を有するタクト式搬送装置Cにおいては、台車枠23を懸吊するトローリー22a、22bがシーケンスコントローラ26によって制御されることにより、台車枠23に連結されて下方に延びる一対のパンタグラフ30、40と、パンタグラフの下端に連結された下端枠39と、下端枠39に連結された第1傾斜ハンガー枠41と、第1傾斜ハンガー枠41に連結された第2傾斜ハンガー枠42とから構成される立体トラスが搬送レール20に沿って走行し、発停し、これに伴って第2傾斜ハンガー枠42に連結されたハンガー50が搬送レール20に沿って走行し、発停する。
【0019】
ホイスト25a、25bがシーケンスコントローラ26によって同時且つ同一に制御され、昇降鎖25a’、25b’が同時に繰り出され或いは引き上げられることにより、台車枠23と下端枠39との間の垂直距離が最小となる収縮位置と、台車枠23と下端枠39との間の垂直距離が最大となる最大伸長位置との間で、下端枠39を台車枠23に対して平行に保ちつつ、パンタグラフ30、40が上下に伸縮し、これに伴って、ハンガー50が水平状態を維持しつつ昇降する。
【0020】
シーケンスコントローラ26によってホイスト25aの昇降鎖25a’のみが繰り出されると、図2に実線で示すように、第2傾斜ハンガー枠42が第1傾斜ハンガー枠41と一体となって、第1傾斜ハンガー枠41と下端枠39とを連結する関節継手の回りに回動し、第2傾斜ハンガー枠42の前端が下降する。他方、シーケンスコントローラ26によってホイスト25bの昇降鎖25b’のみが繰り出されると、図2に二点鎖線で示すように、第2傾斜ハンガー枠42のみが、第1傾斜ハンガー枠41と第2傾斜ハンガー枠42とを連結する関節継手の回りに回動し、第2傾斜ハンガー枠42の後端が下降する。従って、ホイスト25aと25bとがシーケンスコントローラ26によって個別に制御され、昇降鎖25a’と25b’とが個別に繰り出されることにより、第2傾斜ハンガー枠42、ひいてはハンガー50が前後に傾斜する。
【0021】
前処理電着塗装装置Aの作動を説明する。
台車枠23に取り付けられたシーケンスコントローラ26により、各ハンガー50は単独に自動走行、昇降する。
図1に示すように、載貨ステージ15において、パンタグラフ30、40は、下端枠39を台車枠23に対して平行に保ちつつ、最大伸長位置まで伸びており、ハンガー50は前後何れにも傾斜しておらず水平に位置決めされている。水平に位置決めされたハンガー50に、図示しない台車に乗せられて図示しない溶接工場から前処理電着塗装装置Aまで搬送された、自動車ボデーαを乗せたスキッドBが載貨される。
ハンガー50に自動車ボデーαを乗せたスキッドBが載貨された後、パンタグラフ30、40は、下端枠39を台車枠23に対して平行に保ちつつ、収縮位置まで縮む。ホイスト25aの昇降鎖25a’のみが所定量繰り出され、第2傾斜ハンガー枠42、ひいてはハンガー50が前方に傾斜する。第2傾斜ハンガー枠42、ひいてはハンガー50は、浸漬槽内の処理液に浸漬された自動車ボデーαにエアポケットができず、また処理槽から出槽する際に自動車ボデーαの表面に付着して持ち出される処理液が最少となる所定角度で、傾斜する。
前記所定角度で前方に傾斜した状態で、ハンガー50は、前方への走行を開始する。
【0022】
浸漬槽として構成された脱脂槽2、表面調整槽4、化成槽5、第2水洗槽6、第1純水水洗槽8、電着塗装槽10、第2UF水洗槽12、第2純水水洗槽14の上方でハンガー50は走行を停止し、前記所定角度で前方に傾斜したまま槽内に下降し、自動車ボデーαが処理液中に浸漬されて処理される。長い浸漬処理時間を要求される脱脂槽2、電着塗装槽10では、自動車ボデーαを浸漬させた状態で且つ前記所定角度で前方に傾斜した状態でハンガー50は前進する。次いでハンガー50は、前記所定角度で前方に傾斜したまま上昇し、浸漬槽から出槽する。
【0023】
予備湯洗槽1、第1水洗槽3、第3水洗槽7、第1UF水洗槽11、第3UF水洗槽13の上方でハンガー50は走行を停止し、前記所定角度で前方に傾斜したまま槽内に下降し、自動車ボデーαにスプレーを介して処理液が吹き付けられる。使用済の処理液は下方の処理液槽に流入し循環再使用される。尚これらの処理液には前段の処理用に順送りされるものもある。
【0024】
各処理槽の間では、ハンガー50は前記所定角度で前方へ傾斜したまま移動する。
ハンガー50が第2純水水洗槽14から出槽し、降貨ステージ16に到達すると、ホイスト25aの昇降鎖25a’のみが所定量引き上げられ、前方に傾斜していたハンガー50が、水平状態に復帰する。
パンタグラフ30、40は、下端枠39を台車枠23に対して平行に保ちつつ、最大伸長位置まで伸びる。水平に位置決めされたハンガー50から自動車ボデーαを乗せたスキッドBが降貨される。自動車ボデーαを乗せたスキッドBは、図示しない台車に乗せられて、図示しない焼き付け乾燥装置へ搬送される。スキッドBが取り除かれたハンガー50は、載貨ステージ15へ回送され、該位置で自動車ボデーαを乗せたスキッドBがハンガー50に載貨される。
【0025】
タクト式搬送装置Cにおいては、処理槽配列の始点である載貨ステージ15と処理槽配列の終点である降貨ステージ16との間で、第2傾斜ハンガー枠42、ひいてはハンガー50を、搬送方向前方に所定角度で常時傾斜させているので、処理槽内で第2傾斜ハンガー枠42ひいてはハンガー50を搬送方向前方と後方とへ揺動させ、処理槽と処理槽の間で第2傾斜ハンガー枠42ひいてはハンガー50を水平に保持する場合に比べて、第2傾斜ハンガー枠42ひいてはハンガー50の配設ピッチを狭くすることができる。この結果、単位時間当たりに搬送される自動車ボデーαの数が増加し、前処理電着塗装装置Aの稼働効率が向上する。また前記所定角度は処理槽から出槽する際に自動車ボデーαの表面に付着して持ち出される処理液を最少とする角度なので、各処理槽で液切れ時間が短縮され、前処理電着塗装装置Aの稼働効率が更に向上する。
【0026】
タクト式搬送装置Cにおいては、浸漬槽内の処理液に浸漬された自動車ボデーαにエアポケットができない角度で、第2傾斜ハンガー枠42ひいてはハンガー50を傾斜させているので、自動車ボデーαの表面には未処理箇所は残らない。
【0027】
第2傾斜ハンガー枠42、ひいてはハンガー50を、搬送方向前方に常時傾斜させるのに代えて、第2傾斜ハンガー枠42、ひいてはハンガー50を、搬送方向後方に、浸漬槽内の処理液に浸漬された自動車ボデーαにエアポケットができず、また処理槽から出槽する際に自動車ボデーαの表面に付着して持ち出される処理液が最少となる所定角度で常時傾斜させても良い。
【0028】
処理槽を、図1に示す直線状に配列するのに代えて、環状に配列しても良い。
搬送レール20は、処理槽配列の終点である降貨ステージ16まで移動したトローリー22a、22bを処理槽配列の始点である載貨ステージ15まで戻すために、環状に形成される。従って、環状の搬送レール20に沿って処理槽を環状に配列すれば、処理槽建屋の長さを短縮でき、前処理電着塗装装置Aを小型化できる。
【0029】
タクト式搬送装置は、タクト式搬送装置Cに限定されない。図4、5に示すような、処理槽の上方に配設された1本の搬送レール100と、搬送レール100の延在方向に互いに間隔を隔てて搬送レール100に係合する一対のトローリー101と、トローリー101に懸吊された台車桁102と、搬送レール100の延在方向に互いに間隔を隔てて台車桁102に取り付けられた一対のホイスト103と、一対のホイスト103の昇降鎖104の下端に懸吊されたハンガー枠105と、ハンガー枠105に取り付けられたハンガー106と、トローリー101とホイスト103とを制御する図示しない制御装置とを備える一般的なタクト式搬送装置でも良い。
【0030】
トローリー101とホイスト103とが制御されて、自動車ボデーαを乗せたスキッドBを載貨したハンガー106が搬送レール100に沿って走行し、発停する。一対のホイスト103を同時に作動させて一対の昇降鎖104を同時に繰り出し或いは引き上げると、ハンガー106が水平状態を保ちつつ昇降する。何れか一方のホイスト103を作動させて何れか一方の昇降鎖104を繰り出すと、ハンガー106が進行方向前方又は後方に傾斜する。
【0031】
処理槽配列の始点である載貨ステージ15と処理槽配列の終点である降貨ステージ16との間で、ハンガー106を、搬送方向前方又は後方に常時傾斜させることにより、ハンガー106の配設ピッチを狭くすることができる。この結果、単位時間当たりに搬送される自動車ボデーαの数が増加し、前処理電着塗装装置Aの稼働効率が向上する。
【実施例2】
【0032】
本発明の第2実施例に係る前処理電着塗装装置、並びに前処理電着塗装装置の被処理物搬送方法を説明する。
【0033】
以下の説明において、図6の矢印I、II、III、IVの方向をそれぞれ前方、後方、上方、下方と呼ぶ。
図6に示すように、前処理電着塗装装置A’は、後方から前方へ向けて順次直列に配列された、予備湯洗槽61、脱脂槽62、第1水洗槽63、表面調整槽64、化成槽65、第2水洗槽66、第1純水水洗槽67、作業台68、電着塗槽69、UF水洗槽70、第2純水水洗槽71を備えている。予備湯洗槽61の後方に図示しない載貨ステージが配設され、第2純水水洗槽71の前方に図示しない降貨ステージが配設されている。各処理槽は浸漬槽として構成されている。
処理槽の上方に前後に延在する1本の搬送レール80が配設されている。搬送レール80は、処理槽間では水平に延在し、処理槽上方では下方の処理槽へ向けて下方へ湾曲している。搬送レール80の延在方向に互いに間隔を隔てて配設され図示しない無端チェーンにより駆動される多数のトローリーが搬送レール80に係合し、各トローリーにハンガー81が懸吊されている。ハンガー81は、搬送レール80に対して搬送方向後方に常時傾斜した状態で、トローリーに懸吊されている。搬送レール80と、トローリーと、無端チェーンと、無端チェーンの駆動装置と、ハンガー81とにより、連続式搬送装置C’が構成されている。
【0034】
スキッドB’に乗せられた自動車ボデーαは、図示しない台車に乗せられて図示しない溶接工場から前処理電着塗装装置A’まで搬送され、載貨ステージで台車から降ろされて連続式搬送装置C’のハンガー81に載貨される。自動車ボデーαは、連続式搬送装置C’により各処理槽へ順次運ばれて浸漬処理或いはスプレー処理された後、降貨ステージにおいて連続式搬送装置C’のハンガー81から降貨され、図示しない台車に載せられて図示しない焼き付け乾燥装置へ搬送される。
前処理電着塗装装置A’においては、処理槽配列の始点と終点の間で、各処理槽内及び各処理槽間を移動するハンガー81を、搬送レール80に対して搬送方向後方に常時傾斜させるので、ハンガーを搬送レールに対して平行に保持する場合に比べて、ハンガーの配設ピッチを狭くすることができる。この結果、単位時間当たりの処理数が増加し、前処理電着塗装装置の稼働効率が向上する。
ハンガー81を、搬送レール80に対して搬送方向後方に常時傾斜させるのに代えて、ハンガー51を、搬送レール80に対して搬送方向前方に常時傾斜させても良い。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、タクト式搬送装置や連続式搬送装置を備える前処理電着塗装装置、並びにタクト式搬送装置や連続式搬送装置を用いる前処理電着塗装装置の被処理物搬送方法に広く利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1実施例に係る前処理電着塗装装置の全体配置を示す図である。
【図2】本発明の第1実施例に前処理電着塗装装置が備えるタクト式搬送装置の側面図である。
【図3】図2のX−X矢視図である。
【図4】タクト式搬送装置の変形例の側面図である。
【図5】図4のY−Y矢視図である。
【図6】本発明の第2実施例に係る前処理電着塗装装置の全体配置を示す図である。
【符号の説明】
【0037】
A A’前処理電着塗装装置
C タクト式搬送装置
C’連続式搬送装置
20、100、80 搬送レール
21a、21b ガイドレール
22a、22b、101 トローリー
23、102 台車枠
24a、24b ガイドローラー
25a、25b、103 ホイスト
25a’、25b’、104 昇降鎖
26 シーケンスコントローラ
30a、30b、30c、30d ビーム
40a、40b、40c、40d ビーム
30、40 パンタグラフ
31、32、33、34、35、36、37、38 シャフト
39 下端枠
41 第1傾斜ハンガー枠
42 第2傾斜ハンガー枠
50、106、81 ハンガー
105 ハンガー枠

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列に配列された複数の処理槽の上方で処理槽配列の始点から終点へ向けて延在する1本の搬送レールと、搬送レールの延在方向に互いに間隔を隔てて搬送レールに係合する一対のトローリーと、トローリーに懸吊された台車桁と、搬送レールの延在方向に互いに間隔を隔てて台車桁に取り付けられた一対のホイストと、一対のホイストの昇降鎖の下端に懸吊されたハンガー枠と、ハンガー枠に取り付けられたハンガーと、トローリーとホイストとを制御する制御装置とを有するタクト式搬送装置を備え、タクト式搬送装置の制御装置は、処理槽配列の始点と終点の間で、各処理槽内及び各処理槽間を移動するハンガー枠が搬送方向の前方又は後方の何れか一方に所定角度で常時傾斜するように、ホイストを制御することを特徴とする前処理電着塗装装置。
【請求項2】
直列に配列された複数の処理槽の上方で処理槽配列の始点から終点へ向けて延在する1本の搬送レールと、搬送レールの延在方向に互いに間隔を隔てて搬送レールに係合する一対のトローリーと、トローリーに懸吊された台車桁と、搬送レールの延在方向に互いに間隔を隔てて台車桁に取り付けられた一対のホイストと、一対のホイストの昇降鎖の下端に懸吊されたハンガー枠と、ハンガー枠に取り付けられたハンガーと、トローリーとホイストとを制御する制御装置とを備えるタクト式搬送装置を用いて、直列に配列された複数の処理槽に被処理物を順次浸漬する前処理電着塗装装置の被処理物搬送方法であって、処理槽配列の始点と終点の間で、各処理槽内及び各処理槽間を移動するハンガー枠を、搬送方向の前方又は後方の何れか一方に所定角度で常時傾斜させることを特徴とする前処理電着塗装装置の被処理物搬送方法。
【請求項3】
直列に配列された複数の処理槽の上方で処理槽配列の始点から終点へ向けて延在する1本の搬送レールと、搬送レールの延在方向に互いに間隔を隔てて搬送レールに係合するトローリーと、トローリーに懸吊されたハンガーとを有する連続式搬送装置を備え、処理槽配列の始点と終点の間で、各処理槽内及び各処理槽間を移動するハンガーが搬送レールに対して搬送方向の前方又は後方の何れか一方に常時傾斜することを特徴とする前処理電着塗装装置。
【請求項4】
直列に配列された複数の処理槽の上方で処理槽配列の始点から終点へ向けて延在する1本の搬送レールと、搬送レールの延在方向に互いに間隔を隔てて搬送レールに係合するトローリーと、トローリーに懸吊されたハンガーとを備える連続式搬送装置を用いて、直列に配列された複数の処理槽に被処理物を順次浸漬する前処理電着塗装装置の被処理物搬送方法であって、処理槽配列の始点と終点の間で、各処理槽内及び各処理槽間を移動するハンガーを、搬送レールに対して搬送方向の前方又は後方の何れか一方に常時傾斜させることを特徴とする前処理電着塗装装置の被処理物搬送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−77477(P2007−77477A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−269525(P2005−269525)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(391022658)パーカーエンジニアリング株式会社 (21)