説明

前立腺癌バイオマーカー

本発明は、前立腺癌に関する。特に、本発明は、新規な前立腺バイオマーカーとしてのビリンに関する。更には、本発明は抗ビリン抗体を含む組成物、及び対象における前立腺癌の改良された検出のための当該組成物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前立腺癌に関する。特に、本発明は、新規な前立腺バイオマーカーであるビリン、及び前立腺癌の改良された検出のためにビリンを含んで成る組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
前立腺癌は、男性の最も一般的な種類の癌である。癌が前立腺に限定されている前立腺癌の早期発見は、根治的前立腺切除術(手術)が、治癒の可能性が最も高い。前立腺特異性抗原(PSA)は、有力な腫瘍マーカーと考えられており、ほとんどの意図と目的のために器官特異的である。しかしながら、PSAは癌特異的でない。前立腺癌をもつ男性と良性前立腺疾患をもつ男性のPSA濃度には、相当なオーバーラップがある。PSAは、器官非限定的前立腺癌をもつ男性(手術の恩恵をうけない男性)から、器官限定的前立腺癌をもつ男性(手術の恩恵をうける男性)を区別できないかもしれない。従って、PSAは、根治的前立腺切除術のための対象を選択する前立腺癌バイオマーカとしては有効ではなく、新規な前立腺癌バイオマーカーの同定が前立腺癌のより良好な診断、特徴づけ及び治療のために必要とされる。
【0003】
ビリンは、腸の微絨毛のアクチンと関係する主要タンパク質である。その存在は、消化系(食道、腸、胆汁系及びすい臓)の刷子縁と腎臓において示されている。それが、胃腸管と肺の神経内分泌腫瘍のバイオマーカーとして、転移性結腸癌をヒトの他の器官由来の癌と鑑別診断するために使われている。
【0004】
抗体マイクロアレイを使用するタンパク質プロファイルイングによって、前立腺癌血清中の潜在的なバイオマーカの同定を目的とする研究は、ビリンのレベルが前立腺癌の対象と対照の血清試料の間で有意に異なることを証明した (Miller JC, Zhou H, Kwekel J, Cavallo R, Burke J, Butler EB, Teh BS, Haab BB: Antibody microarray profiling of human prostate cancer sera: antibody screening and identification of potential biomarkers, Proteomics 2003, 3:56-63)。しかしながら、今のところ、ビリンも、前立腺と前立腺癌の組織においてビリンが存在することは証明されていない(Goldstein, NS. Immunophenotypic characterization of 225 prostate adenocarcinomas with intermediate or high Gleason scores. Am J Clin Pathol. 2002 Mar;117(3): 471-7; \[Hameed, O.\], Humphrey, PA. Immunohistochemistry in diagnostic surgical pathology of the prostate. Semin Diagn Pathol. 2005 Feb;22(1): 88-104; Paner GP, Luthringer DJ, Amin MB. Best practice in diagnostic immunohistochemistry: prostate carcinoma and its mimics in needle core biopsies. Arch Pathol Lab Med. 2008 Sep;132(9): 1388-96)。
【発明の概要】
【0005】
本発明は、対象における前立腺癌の存在をインビトロで決定する方法及びキットを提供する。本発明の方法は、固体組織と腫瘍の試料(すなわち、血液試料を除く、インビトロの対象から採取されたもの)のビリンの発現レベルを免疫化学的に決定することを含む。特に、本発明は前立腺組織及び前立腺腫瘍の試料におけるビリンの発現レベルの決定に関する。後者の試料でのビリンの発現レベルの決定は、診断医が癌または陰性(例えば、正常又は癌がない)の可能性の診断と関連づけることができる情報を提供する。
また、本発明の態様は以下を含む:特定の治療(例えば根治的前立腺切除術または非侵襲性治療的処置)のための対象を選択する方法であって、前記選択は前記対象から採取された前立腺の試料のビリンの発現レベルをインビトロで免疫化学的に決定することに基づく方法。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】ビリン、前立腺特異性抗原(PSA)とCDX-2特異的抗体を有する前立腺癌組織試料の免疫組織化学的染色(IHC)の結果を示す。
【発明の詳細な説明】
【0007】
本発明は、ビリンを発現する前立腺癌細胞を予期せずして見いだしたことに関する。
【0008】
したがって、本発明の第1の態様は対象の前立腺癌を検出する方法であって、前記対象から採取された前立腺又は他の固体組織又は腫瘍の試料にビリンが存在することを免疫化学的にインビトロで決定することを含む方法に関する。
本願明細書において使用する「対象」は、健康、すなわち正常なヒトの雄個体であっても、又は病気の雄個体、すなわち患者であってもよい。
【0009】
「前立腺癌」は、特定の患者の範囲内で前立腺の腫瘍(例えば悪性新生物)に関係する。ここで、腫瘍は上皮起源のものである。非限定的に使用される「前立腺癌」なる用語は限局性及び転移性前立腺癌を含む。「前立腺癌」なる用語は、「限局性」又は「転移性」なる用語で、腫瘍の異なる種類を区別してもよく、「限局性」は起源の母腫瘍を指し、「転移性」は起源の母腫瘍から拡散した腫瘍を指す。ある実施態様において、本発明は、ヒトの体の組織及び前立腺以外の腫瘍の試料中に、前立腺癌起源の転移性癌細胞を検出したことに関する。
【0010】
多数の種類の前立腺癌があり、この状態は前立腺の多数の異なる部分にしばしば存在する。
前立腺癌の前駆体は、前立腺の上皮細胞間の新形成として知られており、更に、これは前立腺内の多数の異なる場所において見いだされる。多数の異なる種類の前立腺癌があるにもかかわらず、膨大な大多数(約95%)は腺癌として知られている種類のものである。
これが最も多く広まったため、腺癌が前立腺癌と同義になっている。したがって、ある実施態様において、本発明は、対象の前立腺腺癌の存在を決定することに関する。
【0011】
別の実施態様において、本発明は、対象の前立腺小細胞癌の存在を決定することにも関する。この種の癌は小円形細胞から構成され、典型的には神経細胞を形成する。小細胞癌は、本来は非常に侵攻性であり、前立腺特異性抗原を導かないので、腺癌を検出するよりもいくらか困難である。これは、通常、それが検出が高度な形態に達したことを意味する。
【0012】
別の実施態様において、本発明は、対象の前立腺扁平上皮癌の存在を決定することにも関する。これは非腺癌であり、小細胞癌のように、前立腺扁平上皮癌が存在する場合は、前立腺特異性抗原の増加はない。扁平上皮癌は、本来は非常に侵攻性である。
【0013】
本発明も、前立腺癌の他の(より珍しい)形態の検出に関する;これらは肉腫と移行上皮癌とを含む。後者は、めったに前立腺において発病せず、膀胱または尿道に存在する原発腫瘍に由来する。
【0014】
本発明はヒト・ビリン・タンパク質(分子量95,000のカルシウムで調整されたアクチン結合タンパク質)に関し、それは位置2q35−q36を有するビリン遺伝子(VIL)によってコードされている。胃腸と尿生殖路のいくつかの組織の単層上皮に非常に特異的に発現するタンパク質としてビリンは知られている。
【0015】
組織または腫瘍試料のビリンの発現レベルを決定することは、本発明によれば免疫化学的に行われ、すなわち抗ビリン抗体を利用する。
【0016】
「検出(detection)」、「検出(detect)」、「検出(detecting)」)は、本願明細書では「決定(determining)」、「決定(determination)」と交換可能に使用され、コントロールへの対象標準の有無にかかわらず定性的および/または定量的検出(測定レベル)を含んでおり、更にはコントロールへの対象標準の有無にかかわらず所与のタンパク質、特にビリンの存在、欠如または量の同定を意味する。「発現のレベル」は、分析した試料中に、タンパク質が発現していないOから、任意の検出可能な量までビリンが存在することを意味する。
【0017】
本発明によれば、対象から取得された組織試料のビリンの存在はその組織試料が前立腺癌細胞を含むこと;試料中のビリンの欠如は、試料には前立腺癌細胞がないことを示唆する。
【0018】
「抗体」なる用語は、本願明細書において使われる場合、免疫グロブリンまたはその部分を指し、出所、産生の方法及び他の特性を問わず、抗原結合部位を含む任意のポリペチドを含む。この用語は、例えば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、単一特異性抗体、多特異性抗体、ヒト化抗体、一本鎖抗体、キメラ抗体、合成抗体、組換え抗体、ハイブリッド抗体、突然変異抗体、及びCDR移植抗体を含む。抗体の部分は、抗原結合することができる任意の断片、例えばFab、F(ab’)2、Fv、scFvを含むことができる。抗体の起源は、産生の方法にかかわりなくゲノム配列によって定義される。
【0019】
ビリンの免疫学的検出は、上記の検出用の公知技術の任意の適切な方法を利用することによって行うことができる。例えば、イムノブロッティング、ELISA、免疫組織化学(IHC)である。ある実施態様において、ビリンの発現はIHCによって検出される。別の実施態様において、ビリンの発現は、例えば固体組織の細胞を含まない試料中で、例えば組織ホモジェネート、該ホモジェネートの細胞上清またはタンパク分画、あるいは上清中で、イムノブロッティングまたはELISAによって検出される。
【0020】
抗ビリン抗体は、当該分野の周知の手順に従って、産生することができるか、または抗体製品を購入することができる。選択された検出用アッセイの条件で、本発明のビリンに特異的に結合性することができる任意の市販の抗体、例えばマウス抗ビリン・モノクローナル抗体(Abcam社のクローン12)、またはマウス抗ビリン・モノクローナル抗体(非コンジュゲート、BIOCARE MEDICAL社のクローン1D2C3)が、本発明のために使用することができる。ある実施態様において、本発明は、マウス抗ビリン・モノクローナル抗体(DAKO社のクローン1D2C3)に関する。
【0021】
抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、組換え抗体またはそのビリン結合性断片であってもよい。
【0022】
抗体を産生するためのさまざまな技術は、Kohler and Milstein, (1975) Nature 256:495; Harlow and Lane, Antibodies: a Laboratory Manual, (1988) Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, NY) に記載されており、引用により本願明細書に組み込まれる。組換え抗体分子の調製用の技術は、上記の文献、更には例えばEP 0623679;EP 0368684;及びEP 0436597に記載されている。抗体は、組換えにより又は合成的に産生されることができる。
抗体をコードする核酸は、cDNAライブラリーからの分離されてもよい。抗体をコードする核酸は、ファージ・ライブラリーから単離されてもよい(参照、例えば McCafferty et al. 1990, Nature 348:552, Kang et al. 1991, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:4363; EP0589877B1)。抗体をコードする核酸は、公知配列の遺伝子シャフリングによって得ることができる (Mark et al. 1992, Bio/Technol. 10:779)。抗体をコードする核酸は、インビボの組換えによって単離することができる (Waterhouse et al. 1993, Nucl. Acid Res. 21: 2265)。
【0023】
ある実施態様において、抗体は、例えば、標識、すなわち検出可能な基質、又はハプテン、及び/又はポリマー(例えば、デキストランポリマー)をコンジュゲートして、誘導体化することができる。また、上記の誘導体化さえた抗体は、上記の生産者から市販されている。あるいは、抗体は、従来技術において周知の手順に従って、処理されて、標識または高分子をコンジュゲートされてもよい (参照、例えば Harlow E. and Lane D., Using Antibodies: A Laboratory Manual. (1999) Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, NY)。
【0024】
IHCによる抗原の検出に適している多数の製品は、EnvisionTM+(Dako)、Powervision(登録商標)(Immunovision)、NBATMキット(Zymed Laboratories Inc.)、HistoFine(登録商標)(ニチレイ社)である。
【0025】
固体組織または腫瘍(例えば前立腺)の試料は、生の生検試料であってもよい。保存組織、例えばホルマリン固定されパラフィンに包埋された組織であってもよい。「試料」なる用語は、前立腺癌の有無にかかわらず対象から得られた様々な試料種類を含む。開示の方法で役立つ典型的な試料は、固体の組織試料であって、生検標本又は組織培養又はそれに由来する細胞、及びその継代、細胞上清、細胞ライセートなどを含むが、それらに限定されるものではない。
【0026】
特定であるが、非限定な例は、前立腺生検および/または前立腺切除組織、又は前立腺細胞試料(例えば、前立腺のマッサージによって、尿中で、または細針吸引液で収集することができる)である。上記のように、試料は新しいものであるか、(例えば、保存を目的として)採取後、処置されたものであってもよい。いくつかの例において、処置された試料は固定され(例えば、ホルマリン固定)および/または、ロウ(例えばパラフィン)に埋め込まれてもよい。マウントした細胞と組織調製のための固定液は当該分野でよく知られており、95%アルコール・ブアン固定液; 95%アルコール固定液; B5固定液、ブアン固定液、ホルマリン固定液、カルノフスキー固定液(グルタールアルデヒド))、ハートマン固定液、Hollande固定液、オース溶液(2クロム酸固定液)、及びツェンケル固定液(参照、例えばCarson, Histotechology: A Self-Instructional Text, Chicago:ASCP Press, 1997))が挙げられるが、これに限定されるものではない。いくつかの例において、試料(又はその分画)は、固体支持体に存在する。
【0027】
開示の方法において役立つ固体支持体は、生物学的試料を支えるだけでなく、場合により、しかし有利には、試料中の関心のタンパク質を検出するために便利である必要がある。
例示的な支持体には、顕微鏡用スライド(例えば、ガラスの顕微鏡用スライドまたはプラスチックの顕微鏡用スライド)、カバーグラス(例えば、ガラス・カバーグラスまたはプラスチック・カバーグラス)、組織培養用のシャーレ、マルチ・ウェルプレート、メンブレン(例えば、ニトロセルロースまたはポリフッ化ビニリデン(PVDF))またはBIACORE(登録商標)チップが含まれる。
【0028】
組織試料は、当業者に知られている標準的方法に従って、対象から得ることができる。
【0029】
したがって、ある実施態様において、本発明は、対象から得られた前立腺組織試料中のビリンの発現をインビトロ免疫化学的に検出することを含む、前記対象の原発性前立腺癌を診断する方法に関する。別の実施態様において、本発明は、前記対象から得られた固体組織または腫瘍の試料のビリンの発現をインビトロ免疫化学的に検出することを含んで成る、前記対象の前立腺起源のの転移癌を診断する方法に関する。
【0030】
本発明の別の態様は、根治的前立腺切除術か又は非侵襲性治療的処置かについて、対象に関して選択する方法であって、彼らの前立腺試料の細胞におけるビリンの発現のレベルによって分類し、前記発現レベルは、インビトロで免疫化学的に決定される方法に関する。
ビリンの発現レベルに関する情報(例えば前立腺試料のビリンの欠如または存在)は、腫瘍のタイプが、例えばそこのものか転移癌であるか、癌のタイプ、疾患の段階を同定することの助けになり、したがって対象を治療する方法を決定することの助けとなる。
【0031】
本発明のビリンの発現を検出する方法は、マニュアルで行われてもよいし、または一つ以上の自動ステップを含んでもよい。
【0032】
本発明は、また、前立腺癌バイオマーカー・パネルのメンバーとしてのビリンの使用に関し、前記パネルは、ビリンと以下のタンパク質のうちの少なくとも1つを備えている:前立腺特異的抗原(PSA)、前立腺特異的酸性ホスファターゼ(PSAP)、p63、α-メチルアシル-コエンザイム-Aラセマーゼ(AMACR)、P504S、サイトケラチン5/6(CK5/6)、高分子量サイトケラチン34βE12(34bE−12)、クロモグラニン、CDX−2、サイトケラチン7(CK7)及びサイトケラチン20(CK20)。ある実施態様において、パネルは、少なくとも3つのバイオマーカーを含み、第1のバイオマーカーはビリンであると、第2はPSAである。ある実施態様において、パネルは、ビリン、PSA、PSAP及びAMACRを含む少なくとも4つの前立腺癌バイオマーカーを含む。ある実施態様において、パネルは、ビリン、PSA、PSAP、AMACR及びP504Sを含む少なくとも5つの前立腺癌バイオマーカーを含む。
【0033】
基底細胞関連マーカーp63又は高分子量サイトケラチン34βE12又はサイトケラチン5/6、あるいはp63と高分子量サイトケラチン34βE12又はサイトケラチン5/6と前立腺癌特異的マーカーα−メチルアシル−コエンザイム−A(coA)ラセマーゼとを含有するカクテルは、単独でまたは組合わせて、診断上の又は定性的又は定量的特徴を欠いているか、又は変わった形態パターン(例えば、偽過形成、萎縮性の))を有するか、又は治療前において、前立腺癌を確認するために有用な補助的手段である。基底細胞関連マーカーの陰性染色とα-メチルアシル-コエンザイム−A(coA)ラセマーゼの陽性の組合せは、適切な形態的状況において、悪性の診断を支持する。抗体カクテル中の二重クロモゲン基底細胞関連マーカー(p63[核]と高分子量サイトケラチン34βE12/サイトケラチン5/6[細胞質])とα−メチルアシルcoAラセマーゼは、染色が1つのスライドで実施できるので、評価を簡便にし、興味の病巣部分の表示のロスを最小限にして、基底細胞層についてより高い感受性を提供する。治療後において、パンサイトケラチンは、微妙に治療された癌細胞の検出を容易にする。前立腺特異的抗原と前立腺酸性ホスファターゼ・マーカーは、前立腺を含む第2の悪性病変(例えば尿路上皮癌)を除外する際に有用であり、場合により非前立腺の良性の模倣物(例えば腎性腺腫、中腎腺過形成とクーパー腺)を除外する際に有用である。したがって、ビリンを含む前立腺癌同定用のバイオマーカーのパネルは、癌診断において、特に前立腺癌診断法において、例えば原発性前立腺腫瘍と転移性前立腺腫瘍を区別するために、悪性前立腺腫瘍と良性前立腺腫瘍を区別するために、前立腺癌の段階および/または変異体を検出するために、非常に有利である。したがって、ある実施態様において、本発明は、種類および/または腫瘍変異体によって、前立腺癌の対象を分類する方法に関する。
【0034】
本発明の別の態様は、対象の前立腺癌の同定に、及び/又は前立腺癌変異体の検出に、及び/又はビリンの発現レベルと、場合により前立腺癌の他のタンパク質バイオマーカーの発現レベルと、場合により正常な前立腺細胞又は両性前立腺腫瘍(すなわち、非癌性)細胞のタンパク質バイオマーカーの発現レベルの検出による段階づけに役に立つ診断キットに関連する。本発明のキットは、ビリンに対する少なくとも一つの抗体及び場合により以下のタンパク質に対する少なくとも一つの抗体を含む:PSA、PSAP、AMACR、p63、P504S、CK5/6、34βE−12、クロモグラニン、CDX−2、CK7及びCK20。ある実施態様において、キットは、抗ビリン、PSA及びCDX−2またはCK20抗体を含む。別の実施態様において、キットは、抗ビリン、PSAP及びCDX−2またはCK20を含む。ある実施態様において、キットは、抗ビリン、AMACR及びCDX−2またはCK20を含んでもよい。いくつかの実施態様において、後者のキットは、p63および/またはP504Sを更に含んでもよい。
【0035】
ある態様では、本発明は、免疫化学的に少なくとも2つの前立腺癌特異的なバイオマーカーの発現を検出することを含んで成り、前立腺腫瘍が転移であるか良性であるかどうかを決定することに関し、少なくとも2つのバイオマーカーの第1はビリンであり、第2はPSA、PSAPまたはAMACRであり、後者のタンパク質に対する一次抗体を含んでいるキットを用いて前記腫瘍の試料中で検出することを含む。
【0036】
したがって、本発明は、少なくとも2つの異なる一次抗体含んでなり、1つの抗体がビリンに特異的結合できる抗体である、数多くの異なるキットに関する。本発明のキットは、さまざまな免疫学的な適用(例えばIHC、イムノブロッティング、ELISAなど)に適している抗体を含んでもよい。キットは、本発明のために役立つ付加的な試薬、例えば標識された抗体、ポリマー抗体コンジュゲート、第2抗体、バッファー等を場合により含むことができる。
【実施例】
【0037】
以下は、本発明の例示的、非限定的実施例である。前立腺腫瘍の組織試料の免疫組織化学的染色。
【0038】
器材:ダコ・オートステイナー・プラス及びPTモジュール。
【0039】
標本:良性前立腺過形成(8症例)及び前立腺腺癌(14症例)
【0040】
試薬
1. 抗体−ビリン、CDX−2、PSA、クロモグラニン−A、CK7、CK20、CK5/6、HMWCK(34βE12)及びP504s(全てダコ製);ビリン(クローンCWWB1、Vector Laboratoies, Inc., CA)。
2. 抗原回復液(ダコ、Cat. No. S2367);抗体希釈剤(ダコ、Cat. No. S0809)、ペルオキシダーゼ阻害試薬(ダコ、Cat. No. S2001);二重内因性酵素ブロック(ダコ、Cat. No.2009)。
【0041】
IHCプロトコル:
- PTモジュールにおける抗原回復
- 65から97℃で15分(暖める時間)
- 97℃で20分
- 82℃に20分冷却
- 65℃に15分冷却
- オートステイナー・プラスのプロトコル:
- ペルオキシダーゼ・ブロック5分
- 一次抗体20分
- 視覚化システム- フレックス 20分
- クロモゲンDAB+ 10分
-ヘマトキシリン 5分
【0042】
実験設計:
前立腺腺癌の14症例と良性前立腺過形成(BPH)の8症例の試料は、ダコ内部の組織バンクから選択された。組織切片はPTリンク・モジュールにおいて97℃でダコの標的回収溶液に供して、IHC解析はダコ・オートステイナー・プラス機器においてダコRTUと混合した抗体を使用して実施した。ビリン、クロモグラニンA、及び34βE12とCK5/6とP504S抗体との混合を使用した免疫組織化学テストを、全22症例で実施した。
全てのビリンが陽性のケースでは、PSA、CDX−2、CK7及びCK20からなるバイオマーカーのディファレンシャル・パネルを、次に新生細胞が転移性結腸腺癌のものか、前立腺起源かを決定するために使用した。
【0043】
結果:
陽性のビリン染色(クローン1D2 C3、ダコ 、Cat. No.3637)は、前立腺腺癌由来の全ての腫瘍細胞において観察された。また、これらの腫瘍細胞もPSAとP504Sのための陽性の免疫染色を示したが、それらはCDX−2、CK7、CK20、34βE12、CK5/6とクロモグラニンAが陰性だった。また、少数の陽性のビリン細胞は、(8症例の)3症例のBPHで正常及び過形成腺域において観察された。
【0044】
また、別のビリン抗体(クローンCWWB1、Vector Laboratories)を使用しているIHC染色は、この研究で使用した前立腺癌試料ではビリンが陽性だった。ビリン、CDX-2及びPSAのためのIHC染色の結果は、図1に示される。
【0045】
考察と結論:
ビリンは、前立腺腺癌で発現する。ビリンが着色された細胞における陽性PSA染色は、ビリンが染色された腫瘍細胞の前立腺起源を確認するものであり、その細胞が転移性結腸癌起源であることを除外する;これはCDX-2とCK20の陰性染色によっても確認される。前立腺癌におけるビリンの発現の状態は、診断上の目的又は治療的な目的のために、前立腺癌の対象をビリン陽性群及び陰性群に分類してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象から採取された固体組織または腫瘍の試料における前立腺癌細胞の有無を決定する方法であって、前記試料におけるビリンの発現のレベルを免疫化学的にインビトロで決定すること含む方法。
【請求項2】
組織試料は前立腺組織または腫瘍試料である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ビリンの発現レベルは免疫組織化学によって決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
ビリンの発現レベルはイムノブロッティングまたはELISAによって決定される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
試料におけるビリンの存在が対象に前立腺癌細胞が存在することを示唆し、試料におけるビリンの欠如が対象に前立腺癌細胞が存在しないことを示唆する、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前立腺特異的抗原(PSA)、前立腺特異的酸性ホスファターゼ(PSAP)、p63、α-メチルアシル-コエンザイム−Aラセマーゼ(AMACR)、P504S、サイトケラチン5/6(CK5/6)、高分子量サイトケラチン34βE12(34bE−12)、クロモグラニン、CDX−2、サイトケラチン7(CK7)及びサイトケラチン20(CK20)のタンパク質のうちの少なくとも1つの発現レベルを決定することを更に含む、請求項1から5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
PSA、PSAPおよび/またはAMACRの発現レベルが決定される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
CDX-2の発現レベルが決定される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
根治的前立腺切除術又は非侵襲性治療的処置について前立腺腫瘍を有する対象を分類する方法であって、請求項1から8の何れか一項に記載の前記対象から採取された前立腺の試料においてビリンの発現のレベルをインビトロで決定することを含む、方法。
【請求項10】
ビリンを含む前立腺癌バイオマーカーのパネル。
【請求項11】
PSA、PSAPおよび/またはAMACRを更に含む、請求項10に記載の前立腺バイオマーカーのパネル。
【請求項12】
組織試料における前立腺癌細胞の存在を決定するための抗ビリン抗体を含む診断用キット。
【請求項13】
前立腺特異的抗原(PSA)、前立腺特異的酸性ホスファターゼ(PSAP)、p63、α−メチルアシル−コエンザイム−Aラセマーゼ(AMACR)、P504S、サイトケラチン5/6(CK5/6)、高分子量サイトケラチン34βE12(34bE−12)、クロモグラニン、CDX−2、サイトケラチン7(CK7)及びサイトケラチン20(CK20)の1又は複数のタンパク質に対する1又は複数の別の一次抗体を更に含む、請求項12に記載の診断用キット。
【請求項14】
タンパク質がPSA、PSAPおよび/またはAMACRである、請求項13に記載の診断用キット。
【請求項15】
CDX-2またはCK20に対する抗体を更に含む、請求項14に記載の診断用キット。

【図1】
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【公表番号】特表2012−502283(P2012−502283A)
【公表日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−526371(P2011−526371)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際出願番号】PCT/DK2009/000202
【国際公開番号】WO2010/028646
【国際公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(399126008)
【住所又は居所原語表記】Produktionsvej 42 DK−2600 Glostrup Denmark
【Fターム(参考)】