説明

創傷被覆材

【課題】患部に貼付後ハイドロコロイド層の剥離や崩れが起こりにくい、ハイドロコロイド層を表層に配した創傷被覆材を提供する。
【解決手段】SEBS、マレイン酸変性SEBSから選択された樹脂を主成分とする素材からなるフィルムで裏打ちされたハイドロコロイド層6を表層として用いた創傷被覆材2であり、前記素材が、アクリル系粘着剤が配合されたマレイン酸変性SEBSである創傷被覆材である。またマレイン酸変性SEBSに対するアクリル系粘着剤の配合比率が1重量%以上、50重量%未満である前記創傷被覆材であり、マレイン酸変性SEBSに対するアクリル系粘着剤の配合比率が1重量%以上、15重量%以下である前記創傷被覆材であり、片面に粘着層を有する支持体の、該粘着層がわに前記創傷被覆材が積層されてなる救急絆創膏である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は創傷部に被覆して創傷治癒を促進するための、ハイドロコロイド層を表層に配した創傷被覆材に関する。
【背景技術】
【0002】
絆創膏の表層にハイドロコロイド層を配することにより、滲出した体液の吸収が有効になされることが知られている。
【0003】
この目的で造られた従来のハイドロコロイドドレッシング材は、支持体の片面にハイドロコロイド層を直接配しており、創傷部に貼付することで体液を吸収し、創傷の治療を行う。しかし、このハイドロコロイド層からなる吸収層は、滲出液を多量に吸収した際、支持体とハイドロコロイド層との投錨力が低下し、絆創膏を剥がしたときに皮膚にハイドロコロイド層が残留する可能性があり、このような投錨力低下を改善した絆創膏の開発が求められている。
【0004】
このため、ハイドロコロイド層に線状飽和ポリエステルフィルムやエラストマーからなる不織布を裏打ちして用いることが開示されている。(例えば、特許文献1参照)
【0005】
しかし、このようなフィルムは透湿性が乏しく、体液の水分の外部への放出を阻害して患部のむれを惹き起し、また、外力を受けた時にハイドロコロイド層の崩れをもたらしかねない。
【0006】
フィルムに替えて不織布のような布帛で裏打ちした場合には、透湿性の問題は起こりにくいが、布帛は厚さに限界があり、一般に低コストでフィルムのような薄い均一被膜を形成することはむつかしい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
[特許文献1] 特開2002−639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、患部に貼付後ハイドロコロイド層の剥離や崩れが起こりにくい、ハイドロコロイド層を表層に配した創傷被覆材を提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨とするところは、SEBS、マレイン酸変性SEBSから選択された樹脂を主成分とする素材からなるフィルムで裏打ちされたハイドロコロイド層を表層として用いた創傷被覆材であることにある。
【0010】
前記素材は、アクリル系粘着剤が配合されたマレイン酸変性SEBSであり得る。
【0011】
前記創傷被覆材においては、マレイン酸変性SEBSに対するアクリル系粘着剤の配合比率が1重量%以上、50重量%未満であり得る。
【0012】
前記創傷被覆材においては、マレイン酸変性SEBSに対するアクリル系粘着剤の配合比率が1重量%以上、15重量%以下であり得る。
【0013】
また、本発明の要旨とするところは、片面に粘着層を有する支持体の、該粘着層がわに前記創傷被覆材が積層されてなる救急絆創膏であることにある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、患部に貼付後ハイドロコロイド層の剥離や崩れが起こりにくい、ハイドロコロイド層を表層に配した創傷被覆材が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の創傷被覆材の態様を示す断面模式図である。
【図2】本発明の創傷被覆材を用いた創傷用絆創膏の構成を説明する断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の創傷被覆材の態様を説明する。図1に示すように、本発明の創傷被覆材2は、 SEBSを主成分とする素材からなる裏打ち材4で裏打ちされたハイドロコロイド層6を有する。創傷被覆材2が、図2に示すように、片面に粘着層8を有する基体シート11からなる支持体10の、粘着層8がわに積層されて救急絆創膏12が形成される。 創傷被覆材2は、通常、支持体10の中央部に積層される。
【0017】
SEBSフィルムは、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレン共重合体(SEBS)からなるフィルムである。SEBSフィルムを用いることにより、裏打ち材4を介してハイドロコロイド層6と支持体10とのあいだに強固な投錨力が得られる。このフィルムの厚みは3〜50μmであることが好ましい。
【0018】
ハイドロコロイド層6を構成するハイドロコロイドドレッシング材としては、例えば、エラストマーに、ペクチン、ゼラチン及びカルボキシメチルセルロースなどの水溶性又は水膨潤性のハイドロコロイド粉末を含有せしめたハイドロコロイド型粘着剤組成物のような公知のものを用いることができる。
【0019】
なかでも、ハイドロコロイド層6を構成するハイドロコロイドドレッシング材としては、スチレン・イソプレン・スチレン(SIS)ブロック共重合体やスチレン・ブタジエン・スチレン(SBS)共重合体あるいは、これらスチレン系ポリマーに、ポリイソブチレン、ポリイソプレン等を配合したエラストマーなどの、スチレン骨格を有するエラストマーを含有するエラストマーに、ペクチン、ゼラチン及びカルボキシメチルセルロースなどの水溶性又は水膨潤性のハイドロコロイド粉末を含有せしめたハイドロコロイド型粘着剤組成物が、SEBSフィルムとの投錨性が良好で好ましい。
【0020】
支持体10としては例えば、ポリウレタンフイルム、ポリオレフィンフィルム、塩化ビニルフィルム、ポリエステルフィルム等のフィルム類、これらの不織布、前述の不織布のいずれかとウレタンフイルムまたはポリオレフィンフイルムとの積層品、クラフト紙類を用いることができるがこれらに限定されない。
【0021】
粘着層8を構成する粘着剤としては特に限定されず、例えば、天然ゴム系粘着剤、合成ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤などが使用される。また、溶剤系、エマルジョン系、水系のいずれであってもよい。
【0022】
本発明の創傷被覆材の他の態様にあっては、SEBSフィルムとしてマレイン酸変性されたSEBSを主成分とする素材からなるフィルムが裏打ち材4として用いられる。マレイン酸変性されたSEBSからなるフィルムは、マレイン酸変性されていないSEBSからなるフィルムよりタック性が小さいので、創傷被覆材2を製作工程における積層操作が容易となる。
【0023】
マレイン酸変性されたSEBSは、無水マレイン酸とポリ(エチレン−ブチレン)配列との反応によって得られるものであり、例えば、有機溶剤中に酸無水物、ラジカル発生剤、SEBSを加え加熱攪拌しながら反応する方法で得られる。
【0024】
本発明の創傷被覆材に用いるSEBSやマレイン酸変性されたSEBSには炭酸カルシウムなどのフィラーや着色剤などの添加剤が添加されていてもよい。
【0025】
本発明の創傷被覆材のさらに他の態様にあっては、SEBSあるいはマレイン酸変性されたSEBS、と、アクリル系粘着剤とからなる組成物から形成されたフィルムが裏打ち材4として用いられる。このような裏打ち材4を用いたことにより、裏打ち材4を介してハイドロコロイド層6と支持体10とのあいだに最も強固な投錨力が得られる。
【0026】
このアクリル系粘着剤としては、例えば、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステルを主成分とするアクリル系共重合体で構成された粘着剤が挙げられる。
【0027】
このアクリル系粘着剤は、SEBSあるいはマレイン酸変性されたSEBSに対して1重量%以上、50重量%未満の配合比率で配合されることが好ましい。1〜15重量%配合されることが裏打ち材4とハイドロコロイド層6との間の高い投錨力を得るうえで最も好ましい。
【0028】
また、アクリル系粘着剤の配合比率が50重量%以上であると、生理食塩水への浸漬により裏打ち材4とハイドロコロイド層6との間が剥離するという現象が起こり好ましくない。これは実際の使用時に滲出液を吸収して剥離する可能性があり、好ましくない。アクリル系粘着剤の配合比率が15重量%以下であれば、生理食塩水への浸漬後も裏打ち材4とハイドロコロイド層6との間は剥離しない。また、アクリル系粘着剤の配合比率が15重量%をこえるとこの剥離が一部領域で生ずる場合がある。
【0029】
従って、生理食塩水への浸漬による剥離のうえでは、SEBSあるいはマレイン酸変性されたSEBSに対するアクリル系粘着剤の配合比率は、50重量%未満であることが好ましく、15重量%以下であることが最も好ましい。
【0030】
これらのことから総合的にみて、SEBSあるいはマレイン酸変性されたSEBSに対するアクリル系粘着剤の配合比率は、1重量%以上50重量%未満であることが好ましく、1〜15重量%であることが最も好ましい。
【0031】
アクリル系粘着剤の配合比率と投錨力との関係は、以下の実験例(実施例を含む)で確認された。
【0032】
実験例1
図2に示すような救急絆創膏12を試作した。支持体10としてウレタン系フィルムの表面に粘着層8を設けた粘着テープを用いた。裏打ち材4として表2に示す配合比率でマレイン酸変性SEBS樹脂(Kraton社製:品番FG1901GT)にアクリル系粘着剤(2-エチルヘキシルアクリレートとアクリル酸の共重合)を配合した樹脂からなるフィルム(厚さ10μm)を用いた。
【0033】
フィルムは、マレイン酸変性SEBS樹脂をトルエン/酢酸エチル混合溶液に15wt%溶液になるように溶解し、各実験水準に応じた、マレイン酸変性SEBS樹脂に対するアクリル系粘着剤の配合比率(重量%)でアクリル系粘着剤を配合し、攪拌後、セパレータ上に塗工、乾燥させて作成した。このフィルムをハイドロコロイド層(厚さ 500μm 組成:表1)と貼り合わせて、裏打ち材4が積層されたハイドロコロイド層6からなる創傷被覆材2を得た。
【0034】
【表1】

【0035】
各創傷被覆材について、投錨力としての180°ピール強力をJIS Z 0237に準じて測定した結果を表2に示す。
【0036】
ピール強力は、救急絆創膏12から支持体10を引き剥がす強力(支持体10と裏打ち材4との間の投錨力)と、救急絆創膏12からハイドロコロイド層6を引き剥がす強力(裏打ち材4とハイドロコロイド層6との間の投錨力)について測定した。
【0037】
【表2】

【0038】
表2から、粘着テープ(支持体10)と裏打ち材4との間の投錨力は、裏打ち材4であるマレイン酸変性SEBSフィルムにおけるアクリル系粘着剤の含有率に依存せず、充分高いことがわかった。
【0039】
また、裏打ち材4とハイドロコロイド層6との間の投錨力は、マレイン酸変性SEBSにアクリル系粘着剤を含有させることによって向上することがわかった。とくに、アクリル系粘着剤の含有率(マレイン酸変性SEBS樹脂に対するアクリル系粘着剤の配合比率(重量%))が1重量%以上であると裏打ち材4とハイドロコロイド層6との間の投錨力が大幅に向上する。また、アクリル系粘着剤の含有率が50重量%のものは、フィルムにタックが見られた。このタックは創傷被覆材2の製造工程における裏打ち材4の取り扱い操作のうえで支障となるもので、好ましくないものであった。
【0040】
実験例2
【0041】
裏打ち材4として以下の各種フィルムを用いたほかは実験例1と同様にしてフィルムの種類と投錨力との関係を調べた。結果を表3に示す。
L−1:実験例1で用いたアクリル系粘着剤の配合比率5重量%のフィルム(SEBS5と略記)
L−2:実験例1で用いたアクリル系粘着剤の配合比率0重量%のフィルム(SEBS0と略記)
L−3:SEBSフィルム(Kraton社製、品番G1650MU);厚さ10μm(SEBS00と略記)
L−4:ポリプロピレンフィルム(厚さ20μm)(PPと略記)
L−5:ポリエチレンフィルム(厚さ60μm)(PEと略記)
L−6:ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ25μm)(PETと略記)
L−7:エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂フィルム(タマポリ社製、SB−5、厚さ30μm)(EVAと略記)
L−8:ポリウレタン系樹脂フィルム(日清紡ケミカル社製:MF−30T−TB、厚さ30μm)(PUと略記)
【0042】
【表3】

【0043】
表3から、裏打ち材4としてマレイン酸変性SEBSフィルム、アクリル系粘着剤配合のマレイン酸変性SEBSフィルム、SEBSフィルムを用いた場合、いずれも、その他のフィルム(L−4〜L−8)を用いた場合より、裏打ち材4とハイドロコロイド層6との間の投錨力が高いことがわかった。また、表2、3からアクリル系粘着剤配合のマレイン酸変性SEBSフィルムを用いた場合、他のフィルム(L−2〜L−8)を用いた場合より、裏打ち材4とハイドロコロイド層6との間の投錨力が格段に高くなることがわかった。
【0044】
実験例3
裏打ち材4として、マレイン酸変性SEBSフィルム、アクリル系粘着剤配合のマレイン酸変性SEBSフィルムを用い、実験例1で得られた各救急絆創膏を主体とする試料について、生理食塩水(0.9wt%NaCl水溶液)に24時間浸漬後の裏打ち材4とハイドロコロイド層6との結合の状態(剥離状態)を観察した。結果を表4に示す。
【0045】
【表4】

【0046】
表4では、マレイン酸変性SEBS樹脂に対するアクリル系粘着剤の配合比率が30重量%以下の裏打ち材については生理食塩水浸漬後もハイドロコロイド層から完全には剥離しない。また、配合比率が15重量%以下の裏打ち材は生理食塩水浸漬後もハイドロコロイド層から全く剥離しないことがわかった。配合比率が50重量%の裏打ち材は生理食塩水浸漬によりハイドロコロイド層から剥離した。
【0047】
実験例4
実験例2で得られた救急絆創膏12の一部について、生理食塩水に24時間浸漬後の裏打ち材4とハイドロコロイド層6との結合の状態(剥離状態)を観察した。結果を表5に示す。
【0048】
【表5】

【0049】
表5より、裏打ち材4としてマレイン酸変性SEBSフィルム、SEBSフィルムを用いた場合、いずれも生理食塩水浸漬後もハイドロコロイド層から全く剥離しないことがわかった。他のフィルム((L−4〜L−8))を用いた場合、いずれも生理食塩水浸漬によりハイドロコロイド層から剥離した。
【0050】
その他、本発明は、主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々なる改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は創傷治療剤、瘢痕拘縮防止剤、創傷被覆剤及び止血剤の分野に広く適用できる。
【符号の説明】
【0052】
2:創傷被覆剤
4:裏打ち材
6:ハイドロコロイド層
8:粘着剤
10:支持体
11:基体シート
12:救急絆創膏

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・ブチレン・スチレン共重合体(SEBS)、マレイン酸変性SEBSから選択された樹脂を主成分とする素材からなるフィルムで裏打ちされたハイドロコロイド層を表層として用いた創傷被覆材。
【請求項2】
前記素材が、アクリル系粘着剤が配合されたマレイン酸変性SEBSである請求項1に記載の創傷被覆材。
【請求項3】
マレイン酸変性SEBSに対するアクリル系粘着剤の配合比率が1重量%以上、50重量%未満である請求項2に記載の創傷被覆材。
【請求項4】
マレイン酸変性SEBSに対するアクリル系粘着剤の配合比率が1重量%以上、15重量%以下である請求項3に記載の創傷被覆材。
【請求項5】
片面に粘着層を有する支持体の、該粘着層がわに請求項1から4のいずれか1項に記載の創傷被覆材が積層されてなる救急絆創膏。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−100735(P2012−100735A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−249496(P2010−249496)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(591069570)東洋化学株式会社 (4)