説明

加圧型及び非加圧型微粉炭燃焼を向上させるための非腐食性処理

【課題】 燃焼炉系における金属表面の腐食を抑制する方法及び組成物の提供。
【解決手段】 本発明の一つの態様では、銅イオン触媒/燃焼助剤の存在下で微粉炭を燃料として燃焼させる。これらの系において、2−アミノエタノールのような第一アミノアルコール、トリエタノールアミンのような第三アミノアルコール及びホウ酸又はその水溶性塩形態のブレンドを使用することにより腐食を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃焼炉と接する金属表面の腐食を抑制するための方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
銅その他の金属を使用して燃焼炉の操業性を向上させることは周知である。例えば、米国特許第6077325号(Morganら)の教示に従って、Zr、Cr、Mo、W、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Sn及びPbを始めとする金属化合物を、高炉などで燃料として燃焼させる微粉炭に添加することができる。微粉炭は、高炉での炭素による酸化鉄の還元を伴う製鉄においてコークスの一部の代用品として多用される。この代用により、コークスの一部が置き換えられるので公害が減るといわれており、また石炭はコークスより安価であるのでプロセスの経済性を高めることができる。
【0003】
典型的な高炉プロセスでは、鉄鉱石、焼結鉱、スクラップその他の鉄源を始めとする鉄含有材料を、燃料(一般にコークス)及びフラックス(石灰石又はドロマイト)と共に高炉にその頂部から装入する。高炉では、燃料の一部を燃焼させて鉄鉱石を溶融させる熱を発生させ、残りの燃料を利用して鉄及び鉄と炭素との組合せを還元する。典型的な炉の装入材料は、銑鉄生産量1トン当たり、鉱石その他の鉄含有材料が約1.7トン、コークスその他の燃料が0.5〜0.65トン、そして石灰石及び/又はドロマイトが約0.25トンである。さらに、このプロセスでは1.8〜2.0トンの空気を燃焼炉に吹き込む。
【0004】
実際には、鉄含有原料(焼結鉱、鉄鉱石、ペレットなど)、燃料(コークス)、及びフラックス(石灰石、ドロマイトなど)を炉の頂部に装入する。加熱空気(ブラスト)を炉底部の羽口といわれる開口を通して高炉内に吹き込む。羽口にはランスが取り付けられ、ランスを通して補充燃料(ガス、油及び微粉炭)が注入される。ブラスト空気は燃料を燃焼させ、鉄を生成する溶融化学反応を促進する。高炉からの燃焼ガスはスクラバー処理して粉塵その他の有毒ガスを除去してから、ブラスト空気の予熱又はその他の用途(例えばコークスオーブン、ボイラーなど)に用いられるストーブで燃焼させる。
【0005】
上述の通り、コークスの一部に代えて微粉炭を使用する場合、米国特許第6077325号に開示されているような金属を燃焼触媒又は助剤として使用できる。これは、炉で低品位の石炭を使用することができ、微粉炭によるコークスの置換量を増やすことができるという利点をもつ。また、「コールクラウド(coal cloud)」の抑制及びLOIの低減にも役立つ。スラグ含量の低減、粉塵排出量の低減及び鉄の品質向上も、これらの触媒又は助剤の使用に帰属し得る潜在的な効果である。
【0006】
銅系触媒又は燃焼助剤は普及しつつある。しかし、その結果、付随する腐食の問題が明らかとなった。この問題は、燃焼触媒/助剤を用いた燃焼炉系に存在する軟鋼表面で生成物が引き起こす腐食によって生じる。(本明細書で用いる「燃焼炉」及び「燃焼炉系」とは、オーブン、ボイラー、高炉、その他その内部で燃料が燃焼する囲いをいう。)
【0007】
燃焼炉系の金属製部材及び部品のこうした腐食の結果、燃焼炉設備自体が機能しなくなり、プロセス停止時間及び費用のかさむ交換に至る可能性がある。
【特許文献1】米国特許第6077325号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
今回、我々は、燃焼炉系の腐食を防止し、金属系の燃焼触媒/助剤、特にCuを活性成分として用いるものが使用できる技術を開発した。本発明の一つの態様では、本発明の腐食抑制処理剤を銅系燃焼触媒/助剤とブレンドして、燃焼炉の燃焼生成物と接する軟鋼表面に保護膜を形成する。
【0009】
腐食抑制処理剤は第一アミノアルコール(すなわち、第一アミノ官能基を有するもの)とホウ酸又はその水溶性塩とのブレンドからなる。第三アミノアルコール(すなわち、第三アミン官能基を有するもの)がブレンド中に存在していてもよい。ブレンドは、好ましくは微粉炭を燃焼炉に注入する前に水溶液の形態で微粉炭上に噴霧される。別法として、処理剤は、燃焼炉のいわゆる「炉端」又は「低温」端を始めとする燃焼炉系のいずれかの位置から噴霧形態で加えてもよい(米国特許第4458006号及び同第4224180号参照。これらは援用により本明細書の内容の一部をなす)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明では、第一アミノアルコールとホウ酸又はその水溶性塩とのブレンドからなる腐食抑制処理剤によって燃焼炉系の軟鋼表面のような金属表面を効果的に処理する。腐食抑制処理剤はさらに第三アミノアルコールを含んでいてもよい。好ましくは、第一アミノアルコールは2−アミノエタノールであり、第三アミノアルコールはトリエタノールアミンである。本発明は、特に銅触媒/燃焼助剤の存在下で微粉炭を燃料として燃焼させる燃焼炉系で効果的であることが明らかとなった。
【0011】
腐食抑制処理剤は最も好ましくは水溶液の形態で提供される。本明細書で用いる「水溶液」という用語は、真の化学的溶液だけでなく、分散液、混合物及び懸濁液も含めて意味する。この溶液は、微粉炭1トン当たり約100ml〜1Lの水溶液の量で微粉炭上に直接噴霧し得る。さらに好ましい使用量は微粉炭1トン当たり水溶液約300ml〜1Lである。
【0012】
好ましくは、腐食抑制処理剤は2−アミノエタノール成分とトリエタノールアミン成分を共に含む。さらに、水溶性グルコン酸塩のような慣用の腐食抑制剤、好ましくはグルコン酸ナトリウムを腐食抑制処理剤に配合してもよい。触媒/燃焼助剤としての銅の存在下で微粉炭を燃焼させる場合、微粉炭上に噴霧する水溶液に銅イオン源を配合してもよい。
【0013】
本発明は、水溶液の形態で燃料に適用又は噴霧するのに適した腐食抑制処理剤組成物にも関する。本組成物において、2−アミノエタノール、トリエタノールアミン及びホウ酸又はその塩成分は水溶液に約1〜10wt%の量で存在し得る。グルコン酸ナトリウムも約1〜15wt%の量で水溶液中に存在し得る。水溶液中に銅イオン源も存在する場合、銅イオン源はCu++量が1〜20wt%となる量で存在し得る。
【0014】
2−アミノエタノール、トリエタノールアミン及びホウ酸塩の相乗性ブレンドは銅存在下では水溶性でない。しかし、このブレンドを公知の軟鋼腐食抑制剤であるグルコン酸ナトリウムと混合すると、グルコン酸塩/「ブレンド」混合物は銅存在下でも水に高い溶解性をもつようになる。
【0015】
本発明の代表的な組成物は以下の成分を含む。
アミノアルコール成分(1種以上)及びホウ酸又は塩 1〜10wt%
グルコン酸ナトリウム 1〜15wt%
銅(Cu++として) 0〜20wt%
水 残部。
【0016】
さらに好ましくは、本組成物は以下の成分を含む。
2−アミノエタノールとトリエタノールアミン及びホウ酸
又は塩のアミノアルコールブレンド 1〜10wt%
グルコン酸ナトリウム 1〜15wt%
銅(Cu++として) 1〜20wt%
銅化合物は水溶液中のCu++イオンの必要量が得られるように調整される。
【0017】
予備試験の結果に基づいて、微粉炭に噴霧するための単一の水溶液中で銅イオン源、グルコン酸ナトリウム、2−アミノエタノール、トリエタノールアミン及びホウ酸又は水溶性塩を調製するのが好ましい。代表的な銅イオン源は硫酸銅五水和物及びD−グルコン酸銅IIである。
【0018】
現段階で工業用途に好ましい製品は、2−アミノエタノールとトリエタノールアミンとホウ酸のブレンドからなる活性剤約3%、活性グルコン酸ナトリウム4%及び活性硫酸銅五水和物19%を、配合物の総重量が100%となる充分な水と共に含む。
【実施例】
【0019】
以下の実施例を参照して本発明をさらに説明するが、これらの実施例は本発明の例示であり、本発明を限定するものではない。
実施例1
腐食速度の対比のためのボトル試験法
実験手順
【0020】
腐食試験はすべてボトル試験法を用いて軟鋼試験片で行った。試験片は生成物溶液に暴露する前後にリン酸三ナトリウムと軽石で洗浄した。洗浄後イソプロピルアルコールを用いて試験片を濯いだ。各低炭素鋼試験片を、標記の原液から調製した1%(重量)銅溶液に24時間浸漬した。(ただし、例外として、以下の表の最後に示した2つでは、希釈していない原液に軟鋼試験片を浸漬した。)。試験溶液の総重量は100グラムであった。各試験は、40rpmで振盪した水浴中30℃で行った。腐食速度は、24時間で生じた減量によって求めた。すべての配合物について試験を2回行ったので、表示した腐食速度は2つの平均を表す。調製した各々の新しい原液について、EP9587のCu2+換算銅レベル(4.84%)を維持した。界面活性剤と水の割合(%)及び銅イオン源が操作した変量であった。すべてのブレンドは各成分の重量%を基準に調製した。加えて、2つの腐食ブレンドのうちの良い方で、希釈していない原液を用いて11日試験を行った。
【0021】
実験結果
銅系燃焼増強剤(CBCE)=19%硫酸銅五水和物(4.84%Cu2+、この銅レベルは試験した以下のすべての原液においても同じである。)/1.6%アルキルポリグルコシド界面活性剤(Triton BG−10)。
【0022】
腐食抑制剤ブレンド(CIB)=2−アミノエタノールとトリエタノールアミンとホウ酸(Maxhib AB−400)−Chemax,Rutgers Organics Corporation(米国サウスカロライナ州グリーンビル)から市販。
【0023】
以下の表1では、CBCE及びCIBとして上記に示した物質をその使用した適当な濃度と共に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【0026】
【表3】

【0027】
【表4】

【0028】
【表5】

【0029】
実施例2
実施例1に記載した手順を比較処理剤及び本発明の処理剤について再び実施した。結果を表2に示す。
【0030】
【表6】

【0031】
【表7】

【0032】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭を燃料として燃焼させる燃焼炉において金属表面の腐食を抑制する方法であって、アミノアルコールを含む腐食抑制処理剤の存在下で石炭を燃焼させることを含んでなる方法。
【請求項2】
前記腐食抑制処理剤がさらにホウ酸又はホウ酸の水溶性塩を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
石炭が微粉化されており、前記処理剤を水溶液の形態で微粉炭上に加える、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記処理剤を水溶液の形態で燃焼炉内に噴霧する、請求項2記載の方法。
【請求項5】
アミノアルコールが第一アミン官能基を有する第一アミノアルコールからなる、請求項2記載の方法。
【請求項6】
アミノアルコールがさらに、第三アミン官能基を有する第三アミノアルコールを含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
アミノアルコールがさらに2−アミノエタノールを含む、請求項5記載の方法。
【請求項8】
第三アミノアルコールがトリエタノールアミンである、請求項6記載の方法。
【請求項9】
石炭を銅の存在下で燃焼させる、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記水溶液を、微粉炭1トン当たり約100ml〜1Lの水溶液の量で微粉炭上に噴霧する、請求項3記載の方法。
【請求項11】
前記水溶液を、微粉炭1トン当たり約300ml〜1Lの量で微粉炭上に噴霧する、請求項10記載の方法。
【請求項12】
2−アミノエタノール、トリエタノールアミン及びホウ酸又はその塩が合計約1〜10wt%の量で水溶液中に存在する、請求項8記載の方法。
【請求項13】
前記水溶液にさらにグルコン酸ナトリウムが含まれており、グルコン酸ナトリウムが約1〜10wt%の量で水溶液中に存在する、請求項12記載の方法。
【請求項14】
燃焼炉の操業性を向上させるため銅の存在下で微粉炭を燃料として燃焼炉内で燃焼させる方法であって、2−アミノエタノール、トリエタノールアミン及びホウ酸又はその水溶性塩を含んでなる腐食抑制処理剤の共存下で微粉炭を燃焼させることを改良点とする方法。
【請求項15】
銅と腐食抑制処理剤を共に単一の水溶液の形態で石炭上に噴霧する、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記腐食抑制処理剤がさらにグルコン酸又はその水溶性塩を含む、請求項14記載の方法。
【請求項17】
前記腐食抑制処理剤がグルコン酸ナトリウムを含む、請求項16記載の方法。
【請求項18】
2−アミノエタノール、トリエタノールアミン及びホウ酸又はその塩が合計約1〜約10wt%の量で水溶液中に存在し、グルコン酸ナトリウムが約1〜15wt%の量で水溶液中に存在し、銅がCu++として約1〜20wt%の量で水溶液中に存在し、約100ml〜1Lの水溶液を微粉炭上に噴霧する、請求項17記載の方法。
【請求項19】
(a)2−アミノエタノール、
(b)トリエタノールアミン、及び
(c)ホウ酸又は水溶性塩形態
を含む水溶液を含んでなる腐食抑制組成物。
【請求項20】
さらに(d)グルコン酸ナトリウムを含む、請求項19記載の腐食抑制組成物。
【請求項21】
さらに(e)銅イオン源を含む、請求項20記載の腐食抑制組成物。
【請求項22】
銅イオン源が硫酸銅五水和物又はD−グルコン酸銅(II)である、請求項21記載の腐食抑制組成物。
【請求項23】
(a)、(b)及び(c)が合計約1〜10wt%の量で水溶液中に存在し、(d)が約1〜15wt%の量で水溶液中に存在し、銅イオン源(e)が水溶液中で約1〜20wt%のCu++イオンを与えるのに充分な量で存在する、請求項21記載の腐食抑制組成物。

【公表番号】特表2006−518419(P2006−518419A)
【公表日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−503005(P2006−503005)
【出願日】平成16年1月26日(2004.1.26)
【国際出願番号】PCT/US2004/002051
【国際公開番号】WO2004/074548
【国際公開日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】