説明

加圧水型原子炉

【課題】加圧水型原子炉において、燃料集合体への冷却材の供給の半径方向分布の偏りを減らす。
【解決手段】加圧水型原子炉は、原子炉圧力容器11と、原子炉圧力容器11内に設けられて原子炉圧力容器11の内側面との間で環状のダウンカマ14を形成する円筒状の炉心槽13と、炉心槽13内に配置された炉心と、炉心の下方で水平方向に広がるように設けられて多数の上向き流通孔80が形成された下部炉心支持板17と、下部プレナム16とダウンカマ14の底部とを区画して、ダウンカマ14の底部から下部プレナム16への流路となる複数の内向き流通孔83が形成された円筒状多孔板31と、を有する。内向き流通孔83は、下部プレナム16に開口する側で下部プレナム16に向かって上昇する向きに傾斜している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は加圧水型原子炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の一般的な加圧水型原子炉では、たとえば特許文献1に記載されているように、冷却材が、入口ノズルより原子炉圧力容器内に流入し、原子炉圧力容器の内側面と炉心槽の外面との間に構成される環状流路であるダウンカマを下降する。ダウンカマの下端に到達した冷却材は下部プレナム入口を通過し、下部プレナムにて上昇流に転じ、下部炉心支持板に開けられている多数の上向き流通孔を通過し、燃料集合体が設置されている炉心に到達する。炉心内を上昇しながら冷却材は昇温し、上部プレナムを経て出口ノズルより原子炉圧力容器の外に出る。出口ノズルから原子炉圧力容器の外に出た冷却材は蒸気発生器に導かれる。
【0003】
入口ノズルから炉心に至るまでの流路は、渦や流れの衝突などを発生させる要因を極力排除し、各燃料集合体に入る冷却材の流量が安定して一様となるように設計される。たとえば下部プレナムに渦抑制板が設置されているのもこの対策の一つである。
【0004】
従来の一般的な加圧水型原子炉における下部プレナム入口付近を図11に示し、冷却材の流れを説明する。図11は、従来の加圧水型原子炉の原子炉圧力容器の下部の立断面の左側部分のみを示す部分立断面図である。
【0005】
ダウンカマ14を下降する冷却材の流れ21は、下部プレナム入口15を通り、下部プレナム16内に流入する。下部プレナム入口15の流路が狭くなると下部プレナム16への流入流速は増加し、慣性が増大することになる。この慣性のため、下部プレナム16内の流れ22としては、図11に示すように、速度の速い流れが下部プレナム16の原子炉圧力容器の底部81の内壁面沿いに下降し、炉底部中央に向かう傾向を持つ。この流れの傾向により、下部炉心支持板17を上向きに通過する冷却材流量としては中央部23で多くなる分布が現れる。つまり、下部炉心支持板17の上方に配置される燃料集合体において、中央の燃料集合体に供給される冷却材流量が周辺部の燃料集合体に比べて多くなる傾向が現れやすい。
【0006】
このような炉心流量分布の非一様性を緩和するため、図12に示すように多数の内向き流通孔(半径方向貫通孔)83を有する円筒状多孔板31を下部プレナム入口15に設置することがある。通常、このような円筒状多孔板31は、原子炉圧力容器の底部81に対して支持部材33を介すなどして固定される。下部炉心支持板17と円筒状多孔板31の間には若干のすき間32が存在するが、すき間32入口の上部側の角部43とすき間32入口の下部側の角部44は半径位置が揃えられ、段差を持たないように構成される。
【0007】
この円筒状多孔板31を用いた場合、ダウンカマ14を下降する流れ21は、下部プレナム入口15にて半径方向内側に向きを変え、円筒状多孔板31の内向き流通孔83を通過し、下部プレナム16内に対し半径方向内側向きの流れ41となって流入する。円筒状多孔板31の内向き流通孔83を通過する時に流れが拡散すること、および、流れは下部炉心支持板17の下面至近を水平に流れることから、図11に示したような中央部23に収斂する流れ22は生じにくくなり、中央の燃料集合体を流れる冷却材流量が多くなるという前述の傾向は緩和される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−62372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
図12に示しているように、上述した従来の円筒状多孔板31においては、上部の内向き流通孔83から吐出した流れ42は、下部炉心支持板17の周辺部24の上向き流通孔80の下端至近を横切る流れとなる。この場合、周辺部24の上向き流通孔80下端にはベンチュリ効果による吸出し方向、つまり上向き流通孔80内の流体を下向きに移動させる方向の作用が働くことになる。このように、円筒状多孔板31は周辺部の燃料集合体への冷却材供給を減少させる新たな作用を持ち、この点が課題であった。
【0010】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、加圧水型原子炉において、燃料集合体への冷却材の供給の半径方向分布の偏りを減らすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の実施形態に係る加圧水型原子炉の一つの態様は、下方に凸形状に形成された容器底部を有して側面に入口ノズルが形成され上下方向に延びる軸を有する筒状の原子炉圧力容器と、前記原子炉圧力容器内に設けられて該原子炉圧力容器の内側面との間で環状のダウンカマを形成する筒状の炉心槽と、前記炉心槽内に配置された炉心と、前記炉心の下方で前記炉心槽の下部を横断して水平方向に広がるように設けられて多数の上向き流通孔が形成された下部炉心支持板と、前記容器底部に接する下部プレナムと前記ダウンカマの底部とを区画するように配置されて、前記ダウンカマの底部から前記下部プレナムへの流路を構成する複数の内向き流通孔が形成された筒状多孔板と、を有し、前記複数の内向き流通孔の少なくとも一部は、少なくとも前記下部プレナムに開口する側で下部プレナムに向かって上昇する向きに傾斜していること、を特徴とする。
【0012】
また、本発明の実施形態に係る加圧水型原子炉の他の一つの態様は、下方に凸形状に形成された容器底部を有して側面に入口ノズルが形成され上下方向に延びる軸を有する筒状の原子炉圧力容器と、前記原子炉圧力容器内に設けられて該原子炉圧力容器の内側面との間で環状のダウンカマを形成する筒状の炉心槽と、前記炉心槽内に配置された炉心と、前記炉心の下方で前記炉心槽の下部を横断して水平方向に広がるように設けられて多数の上向き流通孔が形成された下部炉心支持板と、前記容器底部に接する下部プレナムと前記ダウンカマの底部とを区画するように配置されて、前記ダウンカマの底部から前記下部プレナムへの流路を構成する複数の内向き流通孔が形成された筒状多孔板と、を有し、前記筒状多孔板の下部に、前記ダウンカマ側に突出して周方向に延びる段差が形成されていること、を特徴とする。
【0013】
また、本発明の実施形態に係る加圧水型原子炉の他の一つの態様は、下方に凸形状に形成された容器底部を有して側面に入口ノズルが形成され上下方向に延びる軸を有する筒状の原子炉圧力容器と、前記原子炉圧力容器内に設けられて該原子炉圧力容器の内側面との間で環状のダウンカマを形成する筒状の炉心槽と、前記炉心槽内に配置された炉心と、前記炉心の下方で前記炉心槽の下部を横断して水平方向に広がるように設けられて多数の上向き流通孔が形成された下部炉心支持板と、前記容器底部に接する下部プレナムと前記ダウンカマの底部とを区画するように配置されて、前記ダウンカマの底部から前記下部プレナムへの流路を構成する複数の内向き流通孔が形成された筒状多孔板と、を有し、前記下部炉心支持板と前記筒状多孔板の上端部との間に、前記ダウンカマの底部から前記下部プレナムへの流路を構成する水平に延びた環状のすき間が形成され、前記すき間の少なくとも前記下部プレナム側が前記下部プレナムに向かって上昇する向きに傾斜していること、を特徴とする。
【0014】
また、本発明の実施形態に係る加圧水型原子炉の他の一つの態様は、下方に凸形状に形成された容器底部を有して側面に入口ノズルが形成され上下方向に延びる軸を有する筒状の原子炉圧力容器と、前記原子炉圧力容器内に設けられて該原子炉圧力容器の内側面との間で環状のダウンカマを形成する筒状の炉心槽と、前記炉心槽内に配置された炉心と、前記炉心の下方で前記炉心槽の下部を横断して水平方向に広がるように設けられて多数の上向き流通孔が形成された下部炉心支持板と、前記容器底部に接する下部プレナムと前記ダウンカマの底部とを区画するように配置されて、前記ダウンカマの底部から前記下部プレナムへの流路を構成する複数の内向き流通孔が形成された筒状多孔板と、を有し、前記下部炉心支持板と前記筒状多孔板の上端部との間に、前記ダウンカマの底部から前記下部プレナムへの流路を構成する水平に延びた環状のすき間が形成され、前記筒状多孔板の上端部外周が、前記下部炉心支持板の下端部外周よりも外側に突出していること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、加圧水型原子炉において、燃料集合体への冷却材の供給の半径方向分布の偏りを減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る加圧水型原子炉の第1の実施形態の原子炉圧力容器の下部の立断面の左側部分のみを示す部分立断面図である。
【図2】本発明に係る加圧水型原子炉の第1の実施形態の原子炉圧力容器の内部を示す立断面図である。
【図3】図1の円筒状多孔板の立断面の左側部分のみを示す拡大立断面図である。
【図4】本発明に係る加圧水型原子炉の第2の実施形態の原子炉圧力容器の下部の立断面の左側部分のみを示す部分立断面図である。
【図5】図4の円筒状多孔板の立断面の左側部分のみを示す拡大立断面図である。
【図6】本発明に係る加圧水型原子炉の第3の実施形態の円筒状多孔板の立断面の左側部分のみを示す拡大立断面図である。
【図7】本発明に係る加圧水型原子炉の第4の実施形態の原子炉圧力容器の下部の立断面の左側部分のみを示す部分立断面図である。
【図8】図7の円筒状多孔板の立断面の左側部分のみを示す拡大立断面図である。
【図9】本発明に係る加圧水型原子炉の第5の実施形態の原子炉圧力容器の下部の立断面の左側部分のみを示す部分立断面図である。
【図10】本発明に係る加圧水型原子炉の第6の実施形態の円筒状多孔板の付近の立断面の左側部分のみを示す部分立断面図である。
【図11】従来の加圧水型原子炉の原子炉圧力容器の下部の立断面の左側部分のみを示す部分立断面図である。
【図12】従来の加圧水型原子炉の原子炉圧力容器の下部の立断面の左側部分のみを示す部分立断面図であって、図11に示すものと異なる例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る加圧水型原子炉の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0018】
(第1の実施形態)
図1は、本発明に係る加圧水型原子炉の第1の実施形態の原子炉圧力容器の下部の立断面の左側部分のみを示す部分立断面図である。図2は、本発明に係る加圧水型原子炉の第1の実施形態の原子炉圧力容器の内部を示す立断面図である。図3は、図1の円筒状多孔板の立断面の左側部分のみを示す拡大立断面図である。
【0019】
この第1の実施形態に係る加圧水型原子炉は、原子炉圧力容器11と、この原子炉圧力容器11内に収容された炉心槽13と、炉心槽13内に配置された炉心18とを備えている。炉心18には複数の燃料集合体が収容されている。
【0020】
原子炉圧力容器11は、軸を鉛直方向とする円筒状の容器である。原子炉圧力容器11の底部81は半球状に下方に突出していてその内側に下部プレナム16が形成されている。原子炉圧力容器11の頂部は開閉可能な蓋88が取り付けられている。
【0021】
炉心槽13は軸を鉛直方向とする円筒状であって、炉心槽13の外壁と原子炉圧力容器11の内壁との間に環状のダウンカマ14が形成されている。
【0022】
原子炉圧力容器11の側面には入口ノズル12と出口ノズル50が設けられている。炉心槽13の上部には上部プレナム19が形成されている。炉心槽13の下端部には、炉心槽13の下端部を覆うように水平に広がる円板状の下部炉心支持板17が取り付けられている。下部炉心支持板17には、多数の上向き流通孔80が形成されている。
【0023】
下部プレナム16内には、下部炉心支持板17の上向き流通孔80を流れて燃料集合体に流入する冷却材の流れを安定させて均一化させるための渦抑制板51が配置されている。なお、図1では、図2に示す渦抑制板51の図示は省略している。
【0024】
ダウンカマ14の底部はダウンカマ14を下降した冷却材が下部プレナム16に流入する下部プレナム入口15となっていて、この下部プレナム入口15に、円筒状多孔板31が配置されている。円筒状多孔板31は、円環状の支持部材33を介して原子炉圧力容器11の底部81で支持されている。円筒状多孔板31は、下部炉心支持板17の外周に沿ってその下方に配置され、多数の内向き流通孔83が形成されている。
【0025】
下部炉心支持板17の外周近くの下面と円筒状多孔板31の上端との間には環状のすき間32が形成されている。
【0026】
内向き流通孔83は途中に曲がり部があって、ダウンカマ14側(外側、流入側)と下部プレナム16側(内側、流出側)とで、傾斜が異なっている。図3に示す例では、内向き流通孔83は、ダウンカマ14側では水平であり、下部プレナム16側では下部プレナム16に向かって角度θだけ上向きになっている。
【0027】
以上説明した構成の第1の実施形態で、冷却材は、入口ノズル12より原子炉圧力容器11内に流入し、ダウンカマ14を下降する。ダウンカマ下端に到達した冷却材は、下部プレナム入口15で、円筒状多孔板31の内向き流通孔83および環状のすき間32を通過して下部プレナム16内に流入する。その後、冷却材の流れは、下部プレナム16にて上昇流に転じ、下部炉心支持板17の上向き流通孔80を通過し、炉心18に到達する。炉心18内を上昇しながら冷却材は昇温し、上部プレナム19を経て出口ノズル50より原子炉圧力容器11の外に出る。出口ノズル50から原子炉圧力容器外に出た冷却材は図示しない蒸気発生器に導かれる。
【0028】
本実施形態によれば、加圧水型原子炉において、燃料集合体への冷却材の供給の半径方向分布の偏りを減らすことができる。
【0029】
この実施形態では、円筒状多孔板31の内向き流通孔83は、流出側すなわち下部プレナム16側で角度θだけ上向きになっている。そのため、内向き流通孔83を流出した冷却材の下部プレナム16内の流れは上向きでかつ下部プレナム16の中央へ向かう流れとなる。したがって、周辺部24の上向き流通孔80に流入しやすい流れとなり、前述のベンチュリ効果を発生させずに周辺部の燃料集合体に対する冷却材の供給減少を改善することが可能となる。
【0030】
また、この実施形態では、円筒状多孔板31の内向き流通孔83は、流入側すなわちダウンカマ14側では水平となっているので、内向き流通孔83の全体で下部プレナム16に向かって上向きである場合に比べて流入側での流れが滑らかになり、圧力損失を小さくすることができる。
【0031】
なお、円筒状多孔板31の製作にあたっては、円筒状構造材に対して孔開けを行なう際、外側(図3では左方)からは水平方向にドリルを挿入し、内側(図3では右方)からは斜め上方からドリルを挿入し、それぞれ板厚の半分程度まで孔開けを行ない、貫通させれば良い。このように本実施形態は簡易に製作が可能である。
【0032】
(第2の実施形態)
図4は、本発明に係る加圧水型原子炉の第2の実施形態の原子炉圧力容器の下部の立断面の左側部分のみを示す部分立断面図である。図5は、図4の円筒状多孔板の立断面の左側部分のみを示す拡大立断面図である。ここで、第1の実施形態と同一または類似の部分には共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0033】
第2の実施形態では、円筒状多孔板31の内向き流通孔83の下部プレナム16側(内側)の傾斜角度を高さ位置に応じて変化させる。すなわち、最上部の円筒状多孔板31の内側での傾斜角度はθ1であり、位置が下がるに連れてθ2、θ3、と角度は小さくなり、最下部の内向き流通孔83では傾斜角度ゼロとしたものである。その他の構成は第1の実施形態と同様である。
【0034】
このように構成された第2の実施形態においては、図4で流れ41として示したように、円筒状多孔板31の上部の内向き流通孔83を通過した冷却材は周辺部24の上向き流通孔80下端に流入しやすくなるとともに、下部の内向き流通孔83を通過した冷却材はより遠くの中央部23の上向き流通孔80に向かう流れとすることができる。このように各内向き流通孔83の角度を調整することにより、周辺部の燃料集合体への冷却材の供給減少を改善するとともに、炉心入口流量分布全体の均一化を図ることが可能となる。
【0035】
(第3の実施形態)
図6は、本発明に係る加圧水型原子炉の第3の実施形態の円筒状多孔板の立断面の左側部分のみを示す拡大立断面図である。この実施形態は第2の実施形態の変形であって、第2の実施形態と同一または類似の部分には共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0036】
第3の実施形態では、円筒状多孔板31のダウンカマ14側すなわち外側の面に高さが略一定面となる段差面91を設けたものである。図の例では、最上段の内向き流通孔83の下端高さと段差面91の高さを同一とした。他の構成は第2の実施形態と同様である。
【0037】
このように構成された本実施形態において、図中に流線92に示すように、ダウンカマ14内を下降する流れの一部がこの突き出した段差面91に衝突すると、この衝突した流れは最上段の内向き流通孔83に導かれる。このように、最上段の内向き流通孔83の下端高さと段差面91の高さを同一としたことにより、流れは円滑に最上段の内向き流通孔83に導かれる。このように、段差面91を持つことにより、段差面91が無いときに比べ、より多くの冷却材を内向き流通孔83に導くことができる。
【0038】
段差面91の幅は大きいほど内向き流通孔83に導く冷却材を増加させる効果が大きいが、内向き流通孔83の孔径の2割を下回ると効果は限定的であることがわかっている。このため、段差面の幅は孔径の20%以上とするのが好ましい。
【0039】
また、この実施形態で、内向き流通孔83の孔形状に関しては第2の実施形態と同様としたが、これにより、周辺の燃料集合体の冷却材増加に限らず、狙った半径方向位置の冷却材流量を自在に増減させることが可能となる。
【0040】
(第4の実施形態)
図7は、本発明に係る加圧水型原子炉の第4の実施形態の原子炉圧力容器の下部の立断面の左側部分のみを示す部分立断面図である。図8は、図7の円筒状多孔板の立断面の左側部分のみを示す拡大立断面図である。第4の実施形態の説明で、第1ないし第3の実施形態と同一または類似の部分には共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0041】
本実施形態では、下部炉心支持板17の外周近くで下方に突出した環状突起85を設ける。円筒状多孔板31の上端面72は、環状のすき間32を隔てて環状突起85の下端面と対向している。円筒状多孔板31の上端面72の下部プレナム16寄りの部分は下部プレナム16側に向かって上昇するような傾斜が設けられている。また、これに対向する環状突起85の下端面の下部プレナム16寄りの部分も、下部プレナム16側に向かって上昇するような傾斜が設けられていて、すき間32がほぼ一定間隔になっている。
【0042】
この実施形態では、円筒状多孔板31の内向き流通孔83の構成は、図12に示した従来技術と同様に、水平方向で直線状となっている。
【0043】
この実施形態では、すき間32の下部プレナム16寄りの部分が下部プレナム16側に向かって上昇するような傾斜をもっているので、下部炉心支持板17の周辺部24の上向き流路80への冷却材の流れ71が円滑になる。さらに、下部炉心支持板17に環状突起85を設けたことにより、すき間32の高さ位置が、下部炉心支持板17の上向き流路80の入口部すなわち下端部から下方に離れるので、すき間32を通って下部プレナム16内に流入した冷却材の横方向流れによる前記ベンチュリ効果が緩和される。これにより、下部炉心支持板17の周辺部24の上向き流路80への冷却材の流れが促進される。
【0044】
(第5の実施形態)
図9は、本発明に係る加圧水型原子炉の第5の実施形態の原子炉圧力容器の下部の立断面の左側部分のみを示す部分立断面図である。
【0045】
第5の実施形態は第4の実施形態の変形であって、第4の実施形態と同一または類似の部分には共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0046】
上記第1ないし第4の実施形態では円筒状多孔板31は、支持部材33を介して原子炉圧力容器11の底部81で支持されているものとした。この第5の実施形態では、円筒状多孔板31の上面を下部炉心支持板17の下面に固定し、垂下させる構造をとる。固定は、円筒状多孔板31の上端面を周方向に離散的に数ヶ所、すき間32の高さ分、上方に延長し、下部炉心支持板17と接するところで開先溶接などにより接合する。
【0047】
このように構成された本実施形態では、すき間32の高さに関する不確かさが小さくなるため、第4の実施形態に示した周辺部の燃料集合体に対する冷却材の供給減少を改善する効果をより確実にすることが可能となる。
【0048】
(第6の実施形態)
図10は、本発明に係る加圧水型原子炉の第6の実施形態の円筒状多孔板の付近の立断面の左側部分のみを示す部分立断面図である。
【0049】
第6の実施形態は第4の実施形態の変形であって、第4の実施形態と同一または類似の部分には共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0050】
本実施形態は、すき間32の入口の上部の角部43よりもすき間入口の下部の角部44をダウンカマ14側(半径方向外側)に突出させることにより、すき間32の流入側に高さが略一定面となる突き出し部74を設けたものである。その他の構成は第4の実施形態と同様である。
【0051】
このように構成された本実施形態によれば、ダウンカマ14を下降する流れ21の一部がこの突き出し部74に衝突し、この衝突した流れはすき間32に導かれる。このため、突き出し部が無いときに比べてより多くの冷却材をすき間32に導くことができる。また、第4の実施形態と同様の効果も合わせて得られる。
【0052】
なお、突き出し幅は大きいほど効果が大きいが、すき間高さに比べて20%を下回ると効果は限定的であることがわかっている。このため、突き出し幅はすき間高さの20%以上とするのが良い。設計時に突き出し幅を調整することにより、周辺の燃料集合体に供給する流量を適正化することが可能となる。
【0053】
(他の実施形態)
第1の実施形態(図3)で、円筒状多孔板31の内向き流通孔83のダウンカマ14側は水平であるとしたが、下部プレナム16側の傾斜よりも小さければ、ダウンカマ14側は下部プレナム16に向かって上昇する傾斜を持っていてもよい。さらに、内向き流通孔83のダウンカマ14側が下部プレナム16に向かって下降する傾斜を持っていてもよい。
【0054】
また、第1の実施形態で、内向き流通孔83が下部プレナム16に向かって上昇する傾斜を持っていれば、途中で折れ曲がっていなくてもよい。
【0055】
第3の実施形態(図6)で、段差は最上段の内向き流通孔83に対してのみ設けるものとしたが、最上段の内向き流通孔83に対するものに限らず、他の位置に同様の段差を設けてもよい。また、複数の高さ位置に段差を設けてもよい。
【0056】
上記各実施形態の特徴を種々に組み合わせることもできる。
【0057】
たとえば、第3の実施形態(図6)で、円筒状多孔板31の内向き流通孔83の下部プレナム16側(内側)の傾斜角度については、第2の実施形態(図5)と同様に高さ位置に応じて変化させるものとしたが、第1の実施形態(図3)と同様に、円筒状多孔板31の内向き流通孔83の下部プレナム16側の傾斜角度を、高さ位置によらず一定としてもよい。さらに、円筒状多孔板31の内向き流通孔83の下部プレナム16側の傾斜角度については、従来技術と同様に水平としてもよい。
【0058】
第4ないし第6の実施形態で、円筒状多孔板83は従来技術(図12)と同様に水平向きとしたが、第1ないし第3の実施形態のいずれかと同様に傾斜させれば、さらに効果がある。
【0059】
上記各実施形態で、円筒状多孔板31および原子炉圧力容器11は円筒状としたが、これらは円筒状に限らず、たとえば横断面が楕円の筒状でもよい。
【0060】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0061】
11…原子炉圧力容器
12…入口ノズル
13…炉心槽
14…ダウンカマ
15…下部プレナム入口
16…下部プレナム
17…下部炉心支持板
18…炉心
19…上部プレナム
23…中央部
24…周辺部
31…円筒状多孔板
32…すき間
33…支持部材
43…角部
44…角部
50…出口ノズル
51…渦抑制板
72…上端面
74…突き出し部
80…上向き流通孔
81…底部
83…内向き流通孔
85…環状突起
88…蓋
91…段差面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下方に凸形状に形成された容器底部を有して側面に入口ノズルが形成され上下方向に延びる軸を有する筒状の原子炉圧力容器と、
前記原子炉圧力容器内に設けられて該原子炉圧力容器の内側面との間で環状のダウンカマを形成する筒状の炉心槽と、
前記炉心槽内に配置された炉心と、
前記炉心の下方で前記炉心槽の下部を横断して水平方向に広がるように設けられて多数の上向き流通孔が形成された下部炉心支持板と、
前記容器底部に接する下部プレナムと前記ダウンカマの底部とを区画するように配置されて、前記ダウンカマの底部から前記下部プレナムへの流路を構成する複数の内向き流通孔が形成された筒状多孔板と、
を有し、
前記複数の内向き流通孔の少なくとも一部は、少なくとも前記下部プレナムに開口する側で下部プレナムに向かって上昇する向きに傾斜していること、を特徴とする加圧水型原子炉。
【請求項2】
前記複数の内向き流通孔の少なくとも一部は途中で傾斜が変わっていて、前記ダウンカマ側よりも前記下部プレナムに開口する側で、下部プレナムに向かって大きく上昇する向きに傾斜していること、を特徴とする請求項1に記載の加圧水型原子炉。
【請求項3】
前記複数の内向き流通孔の前記筒状多孔板での位置が高いほど当該内向き流通孔の前記下部プレナムに開口する側での傾斜が大きいこと、を特徴とする請求項1または請求項2に記載の加圧水型原子炉。
【請求項4】
前記筒状多孔板の下部に、前記ダウンカマ側に突出して周方向に延びる段差が形成されていること、を特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の加圧水型原子炉。
【請求項5】
下方に凸形状に形成された容器底部を有して側面に入口ノズルが形成され上下方向に延びる軸を有する筒状の原子炉圧力容器と、
前記原子炉圧力容器内に設けられて該原子炉圧力容器の内側面との間で環状のダウンカマを形成する筒状の炉心槽と、
前記炉心槽内に配置された炉心と、
前記炉心の下方で前記炉心槽の下部を横断して水平方向に広がるように設けられて多数の上向き流通孔が形成された下部炉心支持板と、
前記容器底部に接する下部プレナムと前記ダウンカマの底部とを区画するように配置されて、前記ダウンカマの底部から前記下部プレナムへの流路を構成する複数の内向き流通孔が形成された筒状多孔板と、
を有し、
前記筒状多孔板の下部に、前記ダウンカマ側に突出して周方向に延びる段差が形成されていること、を特徴とする加圧水型原子炉。
【請求項6】
前記段差よりも上方と下方の両方に複数の前記内向き流通孔が形成されていること、を特徴とする請求項4または請求項5に記載の加圧水型原子炉。
【請求項7】
前記段差の高さと同じ高さに前記複数の内向き流通孔の少なくとも一部の内向き流通孔が形成されていること、を特徴とする請求項4ないし請求項6のいずれか一項に記載の加圧水型原子炉。
【請求項8】
前記下部炉心支持板と前記筒状多孔板の上端部との間に、前記ダウンカマの底部から前記下部プレナムへの流路を構成する水平に延びた環状のすき間が形成され、
前記すき間の少なくとも前記下部プレナム側が前記下部プレナムに向かって上昇する向きに傾斜していること、を特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の加圧水型原子炉。
【請求項9】
下方に凸形状に形成された容器底部を有して側面に入口ノズルが形成され上下方向に延びる軸を有する筒状の原子炉圧力容器と、
前記原子炉圧力容器内に設けられて該原子炉圧力容器の内側面との間で環状のダウンカマを形成する筒状の炉心槽と、
前記炉心槽内に配置された炉心と、
前記炉心の下方で前記炉心槽の下部を横断して水平方向に広がるように設けられて多数の上向き流通孔が形成された下部炉心支持板と、
前記容器底部に接する下部プレナムと前記ダウンカマの底部とを区画するように配置されて、前記ダウンカマの底部から前記下部プレナムへの流路を構成する複数の内向き流通孔が形成された筒状多孔板と、
を有し、
前記下部炉心支持板と前記筒状多孔板の上端部との間に、前記ダウンカマの底部から前記下部プレナムへの流路を構成する水平に延びた環状のすき間が形成され、
前記すき間の少なくとも前記下部プレナム側が前記下部プレナムに向かって上昇する向きに傾斜していること、を特徴とする加圧水型原子炉。
【請求項10】
前記下部炉心支持板には、前記筒状多孔板の上端部に向かって下方に突出する環状突出部が形成されていること、を特徴とする請求項8または請求項9に記載の加圧水型原子炉。
【請求項11】
前記筒状多孔板は前記下部炉心支持板に支持されていることを特徴とする請求項8ないし請求項10のいずれか一項に記載の加圧水型原子炉。
【請求項12】
前記筒状多孔板の上端部外周が、前記下部炉心支持板の下端部外周よりも外側に突出していること、を特徴とする請求項8ないし請求項11のいずれか一項に記載の加圧水型原子炉。
【請求項13】
下方に凸形状に形成された容器底部を有して側面に入口ノズルが形成され上下方向に延びる軸を有する筒状の原子炉圧力容器と、
前記原子炉圧力容器内に設けられて該原子炉圧力容器の内側面との間で環状のダウンカマを形成する筒状の炉心槽と、
前記炉心槽内に配置された炉心と、
前記炉心の下方で前記炉心槽の下部を横断して水平方向に広がるように設けられて多数の上向き流通孔が形成された下部炉心支持板と、
前記容器底部に接する下部プレナムと前記ダウンカマの底部とを区画するように配置されて、前記ダウンカマの底部から前記下部プレナムへの流路を構成する複数の内向き流通孔が形成された筒状多孔板と、
を有し、
前記下部炉心支持板と前記筒状多孔板の上端部との間に、前記ダウンカマの底部から前記下部プレナムへの流路を構成する水平に延びた環状のすき間が形成され、
前記筒状多孔板の上端部外周が、前記下部炉心支持板の下端部外周よりも外側に突出していること、を特徴とする加圧水型原子炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−149996(P2012−149996A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8688(P2011−8688)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)