説明

加圧水型原子炉

【課題】加圧水型原子炉の入口ノズル付近での流動の双安定事象の発生を抑制する。
【解決手段】加圧水型原子炉は、原子炉容器11と、原子炉容器11の内側面との間でダウンカマ13を形成する炉心槽12と、下部炉心支持板15と、複数の燃料集合体を収容する炉心16と、上部プレナム17と、原子炉容器11の冷却材出口ノズル22とを具備する。連絡部25は、ダウンカマ13を横切り上部プレナム17と冷却材出口ノズル22間の流路を構成する。仕切り部51は、ダウンカマ13内で連絡部25の外側に形成され、冷却材入口ノズル21から流入した冷却材のダウンカマ13における双安定流動の発生を抑制するためにダウンカマ13内の空間の一部を周方向に仕切る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、加圧水型原子炉の入口ノズル出口付近における冷却材の流動安定性確保に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的な加圧水型原子炉においては、入口ノズルより原子炉容器内に流入した冷却材が原子炉容器の内側面と炉心槽の間の環状流路部であるダウンカマを下降する。そして冷却材が下部プレナムに到達すると、ここで上昇流に転じ、下部炉心支持板を通過して炉心に流入し、昇温した状態にて上部プレナムを経て出口ノズルから原子炉容器外に流出する。
【0003】
入口ノズルから炉心に至る流路としては、通常、炉心内の各燃料集合体に入る冷却材の流量が一様となることを意図した流路設計がなされる。さらに、例えば下部プレナムに渦抑制板を設置するなど、渦や流れの衝突など流れの変動(不安定流動)を誘発する要因をできるだけ排除するように設計される。
【0004】
このような流量の一様化や不安定流動の抑制に関しては、これまでに特許文献1にて公開されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−163477号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】坂本ら、日本機械学会論文集(B編)70巻696号(2004年8月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
環状流路であるダウンカマには出口ノズルの貫通部があるが、これは環状流路を流れる流体にとって円柱状の構造物となる。ここで、出口ノズルの貫通部を挟んで隣接する2つの入口ノズルからダウンカマに入る流れは、実際にはこれら入口ノズルの上流側に備えられている1次冷却材ポンプや曲がりを持つ管路の影響により、内部の流れには偏りや旋回成分を持つことが想定される。
【0008】
そのような場合、上記の2つの各入口ノズルから環状流路に入る流れは、通常、対称性を失うこととなり、出口ノズル貫通部の上または下を通過する周方向流れが存在することが有り得る。
【0009】
ここで、一般に円柱状構造物を横切る流れは、その後流側での流れの剥離点が瞬時に変化するような2つの流れのモード、つまり双安定と呼ばれる現象を発生し得ることが非特許文献1に示されている。
【0010】
図8は、円柱構造物を通過する流れの2つのモードを示す概念図である。
【0011】
出口ノズル貫通部を挟んで隣接する入口ノズルから流入する冷却材の流れには周方向の成分が存在する。この非特許文献1の内容から考えると、出口ノズル貫通部の上または下を通過する周方向流れが存在する場合、その後流側では、図8(a)に示すような比較的長い間円柱表面に付着した流れとなるモードAと、図8(b)に示すような流れが円柱表面から早期に剥離するモードBとが瞬時に切り替わる双安定現象が発生する可能性があると言える。
【0012】
この流れのモードの切り替わりが一方の入口ノズルから環状流路に入る流れに作用すると、入口ノズルからダウンカマへの流入抵抗に変化が発生し、その結果、ノズルを通過する冷却材の流量が不連続に変化する可能性がある。このような冷却材流量の不連続な変化が発生したとしても、それが十分に小さければ原子炉の運転に対して安全上の問題が発生することは無いが、原子炉の設計時にはこのような不連続な変化を発生させる可能性のある要因はできるだけ排除することが望まれる。
【0013】
本発明は上述した課題を解決するためになされたものであり、加圧水型原子炉の入口ノズル付近での流動の双安定事象の発生を抑制もしくは防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述の目的を達成するため、本発明の実施形態に係る加圧水型原子炉は、鉛直方向を軸とする円筒状の原子炉容器と、前記原子炉容器内に設けられて該原子炉容器の内側面との間で環状流路部であるダウンカマを形成する筒状の炉心槽と、複数の燃料集合体を収容する炉心と、前記炉心の上方に配置された上部プレナムと、前記原子炉容器の側壁に互いに間隔をあけて水平に並んで形成された冷却材出口ノズルと、前記ダウンカマを横切り前記上部プレナムと前記冷却材出口ノズル間の流路を構成する連絡部と、前記ダウンカマ内で前記連絡部の外側に形成され、前記冷却材入口ノズルから流入した冷却材の前記ダウンカマにおける双安定流動の発生を抑制するために前記ダウンカマ内の空間の一部を周方向に仕切る仕切り部と、を具備する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の実施形態によれば、加圧水型原子炉の入口ノズル付近での流動の双安定事象が発生する可能性を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る加圧水型原子炉の第1の実施形態における加圧水型原子炉の全体構成を示す立断面図である。
【図2】本発明に係る加圧水型原子炉の第1の実施形態の構成を示した図1のII−II線矢視水平断面図である。
【図3】本発明に係る加圧水型原子炉の第1の実施形態における冷却材入口ノズルと冷却材出口ノズル近傍を示す斜視図である。
【図4】本発明に係る加圧水型原子炉の第2の実施形態を示す斜視図である。
【図5】本発明に係る加圧水型原子炉の第3の実施形態を示す斜視図である。
【図6】本発明に係る加圧水型原子炉の第4の実施形態を示す斜視図である。
【図7】本発明に係る加圧水型原子炉の第4の実施形態を示す平面図である。
【図8】円柱構造物を通過する流れの2つのモードを示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明に係る加圧水型原子炉の実施形態について説明する。ここで、同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0018】
〔第1の実施形態〕
図1は、本発明に係る加圧水型原子炉の第1の実施形態における加圧水型原子炉の全体構成を示す立断面図である。
【0019】
本実施形態による加圧水型原子炉は、鉛直方向を軸とする円筒状の原子炉容器11、原子炉容器11に設けられた冷却材入口ノズル21、冷却材出口ノズル22および原子炉容器11内の構造物を備える。
【0020】
冷却材入口ノズル21、冷却材出口ノズル22は、原子炉容器11の側壁に互いに間隔をあけて水平に並んで形成されている。
【0021】
図2は、本実施形態の構成を示した図1のII−II線矢視水平断面図である。
【0022】
冷却材入口ノズル21は、原子炉容器11の周方向に等間隔、すなわち中心角90°ごとに4か所設置されている。これら冷却材入口ノズル21は、周方向に第1から第4の冷却材入口ノズル21a、21b、21c、21dの順に並んでいる。
【0023】
冷却材出口ノズル22は、冷却材出口ノズル22aが、隣接する第1と第4の冷却材入口ノズル21a、21d間の中央に、また冷却材出口ノズル22bが原子炉容器11中心を挟んでその反対側すなわち第2と第3の冷却材入口ノズル21b、21c間の中央にと計2か所設置されている。
【0024】
原子炉容器11内には、炉心16、炉心16の周囲に設置された筒状の炉心槽12、下部炉心支持板15が設置されている。
【0025】
炉心槽12の外側面と原子炉容器11の内側面との間でダウンカマ13を形成する。
【0026】
炉心16上部の上部プレナム17と冷却材出口ノズル22a、22bとは、原子炉容器11の半径方向に延びる連絡部25a、25bによって連結されている。このため、炉心16を出て上部プレナム17に流入した高温の冷却材101は、冷却材入口ノズル21から流入した低温の冷却材101と混合せずに冷却材出口ノズル22から外部に導出される。
【0027】
また、原子炉出力の制御および緊急時の原子炉での反応の停止のために、炉心16の上部から、制御棒を挿入するための制御棒駆動機構18が設置されている。
【0028】
図3は、本実施形態における冷却材入口ノズルと冷却材出口ノズル近傍を示す斜視図である。
【0029】
同図に示すように、本実施形態ではさらに、環状流路部すなわちダウンカマ13内に、冷却材入口ノズル21から流入した冷却材101のダウンカマ13の下部における流れの均一化のために仕切り板51が設置されている。
【0030】
仕切り板51は、ダウンカマ13を炉心16中心から半径方向に貫通する連絡部25の外側に形成され、ダウンカマ13の空間の一部を周方向に仕切っている。
【0031】
具体的には、連絡部25の上端から上方および連絡部25の下端から下方に鉛直方向に延び、原子炉容器11の半径方向に拡がる板状である。
【0032】
冷却材101は、原子炉容器11の外部の配管(図示せず。)から冷却材入口ノズル21を経由して原子炉容器11の内部に流入する。原子炉容器11内に流入した冷却材101は、ダウンカマ13を下方向に流れ、下部炉心支持板15を経由して炉心16に流入する。
【0033】
炉心16で生じた熱により温度が上昇した冷却材101は、炉心16から上部に流出し、冷却材入口ノズル21と同一レベルに設置された冷却材出口ノズル22を経由して、原子炉容器11の外部の配管(図示せず。)に流出する。
【0034】
冷却材入口ノズル21から流入した冷却材101は、まず、正面の炉心槽12の外壁面に衝突し、上下左右に拡がる。ここで、左右の方向には、連絡部25が存在する。
【0035】
仕切り板51が存在しなければ、連絡部25は環状の障害物であり、このような環状の障害物を横切る流れには前述のように、流動の双安定事象が発生する可能性がある。
【0036】
しかしながら、本実施形態においては、仕切り板51が存在することにより、連絡部25方向の流れが制限され、ダウンカマ13下方への流れが促進される上に、環状障害物ではなくなることから、流動の双安定事象の発生が抑制される。
【0037】
以上のように、本実施形態によれば、ダウンカマ13において、上部プレナム17と冷却材出口ノズル22間の連絡部25に前記のような仕切り板51を設置することにより、流動の双安定事象が発生する可能性を低減することができる。
【0038】
〔第2の実施形態〕
図4は、本発明に係る加圧水型原子炉の第2の実施形態を示す斜視図である。
【0039】
図4に示すように、本実施形態における冷却材入口ノズルは、原子炉容器11の中心軸に向かう方向で、かつ水平方向より下向きの角度で、原子炉容器11に接続された傾斜型入口ノズル52である。
【0040】
冷却材101は、傾斜型入口ノズル52からダウンカマ13に流入する際に、流れが水平方向より斜め下向きとなっている。
【0041】
このように、傾斜型入口ノズル52からダウンカマ13に斜め下向きに流入することにより、隣接する連絡部25に向かっての流れ成分が減少し、流動の双安定事象が発生する可能性を低減することができる。
【0042】
〔第3の実施形態〕
図5は、本発明に係る加圧水型原子炉の第3の実施形態を示す斜視図である。
【0043】
本実施形態においては、外側に仕切り部を形成する連絡部53を有し、ダウンカマ13を貫通する連絡部53は、両側面に鉛直面を有する、直方体を屈曲させたような形状である。
【0044】
すなわち、連絡部53は、その内側は、連絡部として上部プレナムと冷却材出口ノズル間の流路を形成する機能とともに、その外側は、ダウンカマ内の周方向の仕切り部としての機能という、2つの機能を有している。さらに、ダウンカマ13において、連絡部53は冷却材出口ノズル22よりも大きく、その上方の流路を狭くしている。これにより、冷却材出口ノズル22の上側に沿って流れる冷却材流量を抑え、流動の双安定事象を起こりにくくしている。
【0045】
以上のように構成された本実施形態における連絡部53の外側側面は、第1の実施形態における仕切り部51と同様にダウンカマ13内の一部を周方向に仕切る機能を有する。
【0046】
以上のように、本実施形態によれば、ダウンカマ13において、上部プレナム17と冷却材出口ノズル22間の連絡部53が鉛直側面を有することにより、流動の双安定事象が発生する可能性を低減することができる。
【0047】
なお、上述したように、連絡部53が冷却材出口ノズル22よりも高位置であれば効果は見込まれ、本実施形態のような直方体を屈曲させた形状でなくともよい。例えば、冷却材出口ノズル22の軸方向に垂直な断面が多角形、楕円形等であってもよい。
【0048】
〔第4の実施形態〕
図6は、本発明に係る加圧水型原子炉の第4の実施形態を示す斜視図である。また、図7は、本実施形態を示す平面図である。
【0049】
本実施形態は、ダウンカマ13において、冷却材入口ノズル21の高さ位置より下部に、周方向に間隔をあけて複数の縦長構造物54を有する。また、この構造物は、材料など中性子を照射する供試体のホルダとしての機能を併せ持っている。
【0050】
このような縦長構造物54を複数設置することにより、ダウンカマ13内において連絡部25の上部または下部を通過して隣接入口ノズル側に向かう流れがあっても、その下部でダウンマカ13下方への流れを形成させることにより、流動の双安定事象の発生の可能性を低減することができる。
【0051】
〔その他の実施形態〕
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
【0052】
また、第1の実施形態の特徴に他の実施形態の特徴を組み合わせることもできる。
【0053】
さらに、これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形には、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0054】
11・・・原子炉容器
12・・・炉心槽
13・・・ダウンカマ(環状流路部)
14・・・下部プレナム
15・・・下部炉心支持板
16・・・炉心
17・・・上部プレナム
18・・・制御棒駆動機構
21、21a〜21d・・・冷却材入口ノズル
22、22a、22b・・・冷却材出口ノズル
25、25a、25b・・・連絡部
51・・・仕切り板(仕切り部)
52・・・傾斜型入口ノズル
53・・・連絡部
54・・・縦長構造物
101・・・冷却材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向を軸とする円筒状の原子炉容器と、
前記原子炉容器内に設けられて該原子炉容器の内側面との間で環状流路部であるダウンカマを形成する筒状の炉心槽と、
複数の燃料集合体を収容する炉心と、
前記炉心の上方に配置された上部プレナムと、
前記原子炉容器の側壁に互いに間隔をあけて形成された冷却材出口ノズルと、
前記ダウンカマを横切り前記上部プレナムと前記冷却材出口ノズル間の流路を構成する連絡部と、
前記ダウンカマ内で前記連絡部の外側に形成され、前記ダウンカマ内の空間の一部を周方向に仕切る仕切り部と、
を具備することを特徴とする加圧水型原子炉。
【請求項2】
前記仕切り部は、前記連絡部の上端から上方および下端から下方に鉛直方向に延び、前記原子炉容器の半径方向に拡がる板状である、
ことを特徴とする請求項1に記載の加圧水型原子炉。
【請求項3】
前記連絡部は、その鉛直上方端部が前記冷却材出口ノズルよりも高位置であり、その側面が前記ダウンカマの一部を周方向に仕切ることにより前記仕切り部を兼用する、
ことを特徴とする請求項1に記載の加圧水型原子炉。
【請求項4】
前記冷却材入口ノズルは、前記原子炉容器の中心軸に向かう方向で、かつ水平方向より下向きの角度で、前記原子炉容器に接続されている、
ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の加圧水型原子炉。
【請求項5】
前記仕切り部は、前記冷却材入口ノズルの下方であって、前記ダウンカマ内に互いに間隔をあけて周方向に並んでいて鉛直方向に長く、中性子照射試験用の供試体を保持可能な複数の縦長構造物を、
さらに備えることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の加圧水型原子炉。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−50372(P2013−50372A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188175(P2011−188175)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)