説明

加工フィルムの巻取方法

【課題】 基材フィルムの表面に塗布物を全面塗布した加工フィルムのニア巻きにおいて、加工フィルムの厚みが30μm以上の巻取ロールの端部からの空気漏れを防止して、均一な空気層を保持し、巻きシワやキズの起こりにくい加工フィルムの巻取方法を提供する。
【解決手段】 基材フィルムの表面に塗布物を全面塗布した加工フィルムの巻取方法において、該加工フィルムの厚みが30μm以上であって、巻取ロールにおける該加工フィルムの少なくとも一箇所の角部を、弾性体から構成される抑え治具を押し当てて抑える加工フィルムの巻取方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工フィルムの巻取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材フィルムに塗布物を塗布する加工フィルムの製造工程では、基材フィルムの両端数十ミリ程度に塗布物を塗布しない耳部を有する製造方式が一般的である。これは、コーティング方式の特性や塗布物乾燥前の液だれによるロール汚れ防止及びフィルム搬送の安定性を確保するためである。一般的に、耳部は不要であるため、顧客へ出荷する段階では要求仕様から、除去されている必要がある。加工フィルムを次工程でスリット加工する場合は、耳部をそのまま巻き取り、スリット工程で除去できる。しかし、巻き取った巻取ロールが出荷製品となる場合は、耳部をそのまま巻き取ると、耳部を除去するための工程が必要となってしまう。そのため、生産効率や製造コストの観点から、基材フィルム全面に塗布物を塗布した加工フィルムの巻取ロールであることが望まれる。
【0003】
一方、巻取方式としては、巻取ロール直前に配置するタッチロールを巻取ロール表面にほぼ一定の押圧力で圧着するタッチ巻きや、タッチロールを該巻取ロールから離して一定量の空気を巻き込むニア巻きがある。巻取方式は、製品の種類や用途、顧客仕様によって決まる。特に、加工フィルム表面に凹凸がある場合や、加工フィルムを押圧することによるブロッキングの発生や、残留応力による歪みが問題となる場合は、ニア巻きを使用することで改善されることが多い。
【0004】
但し、ニア巻きで巻き取った場合、図4に示すように、巻取ロールの端部から層間空気が漏れて巻きシワが発生するという問題がある。また、加工フィルム厚みが30μm以上になると巻取ロール端部から層間空気が漏れやすくなり、この漏れによる巻きシワの程度は加工フィルムの厚みが厚いほど悪化する傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−179822
【特許文献2】特開2009−107792
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1には、ロールに帯電処理部を設けることで、端面ずれやシワのないフィルムロール体の製造方法が開示されている。一方、特許文献2には、フィルムロールの幅方向両端に押圧することで、巻きずれ防止をしながらシワ、帯電を生じず高品位なフィルムロールを製造する方法が開示されている。
【0007】
特許文献1は、帯電処理部を設けるので、塗布物を全面塗布した加工フィルムを巻取ロールとする場合、製品に適用できなくなる部位が生じてしまう。また、特許文献2は、フィルム厚みが0.5〜15μmと非常に薄く、十分な張力がかけられず巻きずれが起こり易いフィルムを対象とし、フィルムロール全幅の層間気体の排除手段を有することを特徴としているが、加工フィルムの厚みが30μm以上の巻取ロールにおいて、端部からの空気漏れを防止する手段としては適していない。
【0008】
本発明は、上記のような問題点を解決し、加工フィルムの厚みが30μm以上の巻取ロールにおいて巻きシワ、キズの起こりにくい加工フィルムの巻取方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、基材フィルムの表面に塗布物を全面塗布した加工フィルムの巻取方法において、該加工フィルムの厚みが30μm以上であって、巻取ロールにおける該加工フィルムの角部を、弾性体から構成される抑え治具を押し当てて抑える加工フィルムの巻取方法に関する。
また、弾性体から構成される抑え治具が、治具表面に低摩擦材を有する加工フィルムの巻取方法に関する。
また、弾性体から構成される抑え治具が、巻取ロール回転方向に対して巻取り開始位置から90°以下に配置され、巻取ロールにおける加工フィルムの角部を抑える加工フィルムの巻取方法に関する。
また、弾性体から構成される抑え治具が、巻取ロールにおける加工フィルムの角部に接触し、抑え治具の巻取ロール端面に対する接触角度が60°以下である加工フィルムの巻取方法に関する。
また、基材フィルムの表面に塗布物を全面塗布した加工フィルムを巻き芯上に巻取ロールとして巻き取る加工フィルムの巻取方法であって、該巻取ロールの表層に巻かれた該加工フィルムの角部を、弾性体から構成される抑え治具を押し当てて抑える該加工フィルムの巻取方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の巻取方法によれば、塗布物を全面塗布した加工フィルムのニア巻きにおいて、弾性体から構成される抑え治具を加工フィルム角部に押し当てることにより、巻取ロール端部からの空気漏れを防止し、均一な空気層を保持できるため、巻きシワやキズの起こりにくい構造の巻取ロールを得ることができる。
また、抑え治具を加工フィルム角部に押し当てるため、巻取ロール全幅を製品とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の加工フィルムの巻取方法の一実施例を示す概略側面図である。
【図2】本発明の加工フィルムの巻取方法の一実施例を示す概略正面図である。
【図3】本発明の加工フィルムの巻取方法の一実施例を示す概略平面図である。
【図4】抑え治具未使用時の巻きシワ発生箇所を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の加工フィルムの巻取方法は、弾性体から構成される抑え治具を、巻取ロールにおける加工フィルムの角部に押し当てる。該抑え治具を用いることにより、塗布物を全面塗布した加工フィルムの巻取において、巻きシワの起こりにくい巻取ロールを製造することができる巻取方法となる。以下、本発明の実施例を示す図面を参照しながら、本発明を説明する。
【0013】
図1は本発明の一実施例である加工フィルムの巻取方法の概略側面図、図2はその概略正面図、図3はその概略平面図、図4は抑え治具未使用時の巻きシワ発生箇所説明図である。
【0014】
まず、抑え治具について説明する。本発明において、抑え治具とは、塗布物を全面塗布した加工フィルムの巻取ロール角部に押し当て、該巻取ロールの層間空気漏れを抑止するものである。
【0015】
図1に示す抑え治具1が、加工フィルム2を巻き芯4に巻き取った巻取ロール3に接触する場所の回転方向位置は、巻取開始位置9の直後に配置することが最も好ましいが、タッチロール5やその他本体設備との干渉から配置が難しいことが多い。図1において、巻取開始位置9を0°(始点)、巻取ロール3の中心を回転軸とした場合、巻取ロール3の回転方向に、巻取開始位置9から抑え治具1と巻取ロール3の接触部の中心まで回転した角度を、抑え治具回転方向角度αと定義する。このとき、抑え治具回転方向角度αは、0〜90°とすれば十分機能を満たすことができるため、90°以下とすることが好ましい。また、抑え治具回転方向角度αが90°を超えると抑え治具を押し当てる前に層間の空気が漏れてしまい巻きシワが発生する可能性がある。
【0016】
抑え治具1の幅方向位置は、巻取ロール角部11に押し当てるように配置する。図1において、抑え治具1を巻取ロール角部11に当てた時の、巻取ロール端部10に対する角度を抑え治具接触角度βと定義する。抑え治具接触角度βは、60°以下が好ましい。また、45°以下にすることで層間の空気の密閉性がより安定する。60°を超えると、加工フィルム2の角部に立てられるエッジの角度の不足による層間の空気の漏れが発生し、巻きシワが発生する可能性がある。
【0017】
抑え治具1の巻取ロール角部11への押圧は、抑え治具がハンチングしない程度の圧力が伝わればよい。押圧力については、加工フィルムの特性、搬送条件、空気の巻き込み量等に合わせた設定が必要である。例えば、ポリプロピレンフィルムの場合、0.1MPa程度の押圧力で層間の空気の漏れを防ぐことができる。押圧力の制御方法としては、金属板、ばね、エアーシリンダー、ねじ等が挙げられる。一定の押圧力、接触角度で押し当てたい場合は、エアーシリンダーが好ましい。押圧力、接触角度の変化に影響を受けない場合は、簡易性、コスト面の観点から金属板が好ましい。
【0018】
次に、弾性体について説明する。本発明において、弾性体とは、巻取ロール角部11に接触する抑え治具1に備える緩衝材である。
【0019】
弾性体の材質は、振動吸収やフィット性、加工フィルムのキズ防止の観点から、ゴムやプラスチックが好適である。
【0020】
次に、低摩擦材について説明する。本発明において、低摩擦材とは、弾性体の表面に被覆し巻取ロール角部11との接触時のハンチングを防止するものである。
【0021】
低摩擦材の材質としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等のフッ素樹脂やDLC(ダイヤモンドライクカーボン)等が挙げられる。緩衝材の被覆用途としてはPTFEが好ましい。また、簡易的に被覆する場合は、PTFEテープを貼り付けることもできる。
【0022】
また、本発明の加工フィルムの巻取方法において、加工フィルム2の厚みは30μm以上である。一般的に厚みが厚いほどフィルムは硬くなることから、ニア巻きで巻き取った場合の層間の空気が漏れやすくなり、巻きシワが発生しやすくなる。また、厚みが30μm未満の加工フィルム2に抑え治具1を押し当てると、巻取ロール端部10が歪んだり、折れ曲がってしまい、逆に巻きシワが発生してしまう可能性がある。
【0023】
さらに、本発明における塗布物とは、樹脂等を主成分とした粘着性を有するものであり、巻取時の加工フィルムの状態は、該塗布物を基材フィルムに塗布した後、乾燥炉等で溶媒成分を揮発させた状態である。
【実施例】
【0024】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0025】
本発明の加工フィルムの巻取方法を用いて巻取ロール3を製造した結果を説明する。図1、図2及び図3に示す巻取方法を用いた。塗布物を全面塗布した加工フィルム2の総厚みが80μm、幅が1.5mであり、基材フィルムはポリプロピレンを使用した。加工フィルム2の巻取速度を60m/分、巻取張力を150N/mに設定し、巻取ロール3は、1000mの巻長で巻き取った。
【0026】
巻き芯4は、ABS樹脂製で、内径が76.2mm、外径が92.2mm、長さが1.505mの円筒形状のものを使用した。タッチロール5は、表面に15mmのウレタンゴムを被膜した。タッチロール5と巻取ロール3の間に1〜2mmの隙間を設け、空気を巻き込ませるニア巻方式にて加工フィルム2を巻き取った。
【0027】
次に抑え治具1を図1、図2及び図3の通り巻取ロール3の幅方向両端部の角部に押し当てるように配置した。抑え治具1は、厚みが1mmの鋼板を、本体フレーム7に固定した抑え治具ブラケット6に固定した。弾性体は、厚みが10mm、幅が50mmのポリウレタン材を用い、鋼板を包むように取り付けた。また、弾性体の表面に低摩擦材としてPTFEシートを被膜した。
【0028】
巻取ロールの品質評価を○、△、×で評価した。巻きシワについては、発生なしが○、巻取ロール端部10から5mm未満を△、5mm以上を×とした。キズについては、加工フィルムにキズが無い場合が○、ある場合は×とした。
【0029】
[実施例1]
上記の加工フィルムの巻取方法にて、抑え治具1の回転方向角度αが45°、接触角度βが30°になるように配置して得られた巻取ロール3の結果を表1に示す。これにより得られた巻取ロール3は、巻き込んだ空気が漏れる前に巻取ロール角部11が密閉され層間の空気が保持されることから、巻きシワ、キズの無い良好なものが得られた。
【0030】
[実施例2]
実施例1の加工フィルムの巻取方法に対して、抑え治具1の回転方向角度αを180°に配置して得られた巻取ロール3の結果を表1に示す。抑え治具1の巻取ロール角部11への接触部の中心までが、巻き取り開始の位置から半周(180°)になることで、層間の空気が密閉される前に少量漏れて、巻取ロール3の端部に巻きシワが発生したが、その幅は5mm未満であった。また、加工フィルム2にキズは認められなかった。
【0031】
[実施例3]
実施例1の加工フィルムの巻取方法に対して、抑え治具1の接触角度βを75°に配置して得られた巻取ロール3の結果を表1に示す。抑え治具接触角度βが75°になることで、加工フィルム2の角部に立てられるエッジの角度が浅くなり、層間の空気が少量漏れて、巻取ロール3の端部に巻きシワが発生したが、その幅は5mm未満であった。また、加工フィルム2にキズは認められなかった。
【0032】
[比較例1]
実施例1の加工フィルムの巻取方法に対して、抑え治具1に弾性体を備えない状態で得られた巻取ロール3の結果を表1に示す。結果、巻取ロール3の端部に5mm未満の巻きシワが発生し、加工フィルム2の端部に微小なキズが確認された。弾性体を備えないことで巻取ロール3から伝わる振動を吸収できず抑え治具1自体がハンチングしていることが確認された。また、直接金属が巻取ロール3に接触することでキズがついてしまった。
【0033】
[比較例2]
実施例1の加工フィルムの巻取方法に対して、抑え治具1を備えない状態で得られた巻取ロール3の結果を表1に示す。結果、層間の空気を密閉する手段を持たないため、5mm以上の巻きシワが発生した。
【0034】
【表1】

【符号の説明】
【0035】
1 抑え治具
2 加工フィルム
3 巻取ロール
4 巻き芯
5 タッチロール
6 抑え治具ブラケット
7 本体フレーム
8 押圧力付与手段
9 巻取開始位置
10 巻取ロール端部
11 巻取ロール角部
α 抑え治具回転方向角度
β 抑え治具接触角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの表面に塗布物を全面塗布した加工フィルムの巻取方法において、該加工フィルムの厚みが30μm以上であって、巻取ロールにおける該加工フィルムの少なくとも一箇所の角部を、弾性体から構成される抑え治具を押し当てて抑える加工フィルムの巻取方法。
【請求項2】
弾性体から構成される抑え治具が、治具表面に低摩擦材を有する請求項1に記載の加工フィルムの巻取方法。
【請求項3】
弾性体から構成される抑え治具が、巻取ロール回転方向に対して巻取り開始位置から90°以下に配置され、巻取ロールにおける加工フィルムの角部を抑える請求項1または2に記載の加工フィルムの巻取方法。
【請求項4】
弾性体から構成される抑え治具が、巻取ロールにおける加工フィルムの角部に接触し、抑え治具の巻取ロール端面に対する接触角度が60°以下である請求項1〜3の何れか一項に記載の加工フィルムの巻取方法。
【請求項5】
基材フィルムの表面に塗布物を全面塗布した加工フィルムを巻き芯上に巻取ロールとして巻き取る加工フィルムの巻取方法であって、該巻取ロールの表層に巻かれた該加工フィルムの角部を、弾性体から構成される抑え治具を押し当てて抑える請求項1〜4の何れか一項に記載の加工フィルムの巻取方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−23326(P2013−23326A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158881(P2011−158881)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】