説明

加工性に優れた熱交換器用銅合金管

【課題】薄肉化および高強度化されていても熱交換器の伝熱管などに冷間加工が可能な、加工性に優れた熱交換器用銅合金管およびその製造方法を提供する。
【解決手段】特定組成のSn−P系銅合金管を、特定条件下で均質化熱処理および熱間押出を行って製造し、素材銅合金管の管軸に直角な断面組織における表面領域の、特定の大きさの介在物の数密度を規制して、介在物に起因する表面疵を少なくし、素材銅合金管が薄肉化および高強度化されても、熱交換器用伝熱管などへの加工性を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、HFC系フロンや二酸化炭素などを冷媒とした熱交換器用として好適な、高強度な熱交換器用銅合金管であって、薄肉化される加工が施されても、自身の介在物に起因する表面疵が少ない銅合金管に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、エアコンの熱交換器は、主として、ヘアピン状に曲げ加工したU字形銅管(以下、銅管という場合は銅合金管も含む)と、アルミニウム又はアルミニウム合金板からなるフィン(以下、アルミニウムフィンという)から構成される。より具体的には、熱交換器の伝熱部は、U字形に曲げ加工した銅管をアルミニウムフィンの貫通孔に通し、U字形銅管内に治具を挿入して拡管することにより、銅管とアルミニウムフィンとを密着させる。そして、更に、このU字形銅管の開放端を拡管(フレア加工)して、この拡管開放端部に、同じくU字形に曲げ加工したベンド銅管を挿入し、りん銅ろう等のろう材により、ベンド銅管を銅管の拡管開放端部にろう付けすることにより接続して、熱交換器とされる。
【0003】
このため、熱交換器に使用される銅管には、加工性(曲げ、拡管・フレア、縮管・絞りなど)及びろう付け性が良好であることが要求される。従って、これらの特性が良好であり、更に熱伝導率が良く、適切な強度を有するりん脱酸銅が広く使用されている。
【0004】
エアコン等の熱交換器に使用する冷媒には、HCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)系フロンが広く使用されてきたが、HCFCはオゾン破壊係数が大きいことから、地球環境保護の点より、その値が小さいHFC(ハイドロフルオロカーボン)系フロンが使用されるようになってきた。また、給湯器、自動車用空調機器又は自動販売機等に使用される熱交換器に自然冷媒であるCO2が使用されるようになってきた。熱交換器において、これらの冷媒が使用される圧力(熱交換器の伝熱管内を流れる圧力)は凝縮器(CO2においてはガスクーラー)において最大となり、例えば、HCFC系フロンのR22では1.8MPa、HFC系フロンのR410Aでは3MPa、またCO2冷媒では7乃至10MPa(超臨界状態)程度であり、新たに採用された冷媒の運転圧力は従来冷媒R22の1.6乃至6倍程度に増大している。
【0005】
伝熱管内を流れる冷媒の運転圧力をP、伝熱管の外径をD、伝熱管の引張り強さ(伝熱管長手方向)をσ、伝熱管の肉厚をt(内面溝付管の場合は底肉厚)とすると、これらの間には、P=2×σ×t/(D−0.8t)の関係がある。前記式を肉厚tに関して整理すると、t=(D×P)/(2×σ+0.8P)となり、伝熱管の引張り強さが大きいほど肉厚を薄くできることがわかる。実際に、伝熱管を選定する場合、前記のPに更に安全率S(通常2.5乃至4程度)を乗じた圧力に対して算出される引張り強さ及び肉厚の伝熱管を使用する。
【0006】
りん脱酸銅製伝熱管の場合、引張り強さが小さいことから、冷媒の運転圧力の増大に対応するには管の肉厚を厚くする必要がある。また、熱交換器の組立の際、ろう付け部は800℃以上の温度に数秒乃至数十秒間加熱されるため、ろう付け部及びその近傍ではその他の部分に比べて結晶粒が粗大化し、軟化により強度が低下した状態となってしまうことから、肉厚をより厚くする必要がある。このように、伝熱管としてりん脱酸銅を使用すると、熱交換器の質量が増大し、価格が上昇することから、引張り強さが高く、加工性が優れていて、良好な熱伝導率を有する伝熱管が強く要望されるようになってきた。
【0007】
このような伝熱管の薄肉化の要望に応えるべく、りん脱酸銅に替えて、りん脱酸銅よりも強度が高い、Co−P系あるいはSn−P系などの銅合金管が従来から種々提案されている。Sn−P系としては、Sn:0.1〜1.0%、P:0.005〜0.1%を含有し、OやHなどの不純物を規制し、Znを選択的に添加した組成からなり、更に平均結晶粒径が30μm以下であるような、熱交換器用銅合金管が提案されている(特許文献1、2、3、4参照)。
【0008】
一方、Sn−P系銅合金板における曲げなどの加工性を向上させる技術としては、集合組織制御する方法(特許文献5参照)や、破壊強度と引張強度比をりん脱酸銅よりも大きくする方法が提案されている(特許文献6参照)。
【0009】
また、プレス打ち抜き性や曲げ加工性を向上させる方法として、Sn−P系銅合金管ではないが、Cu−Sn−Zn系の銅合金板や、Cu−Ni−P系、Cu−Ni−Si系などの銅合金板において、直径5μm以上の介在物を10個/mm以下とすることが提案されている(特許文献7、8参照)。
【0010】
更に、耐力や疲労強度などが優れた熱交換器用Sn−P系銅合金管(平滑管や内面溝付管)の製造方法として、熱間押出の際の酸化物等の巻き込みを防止するために、、均熱温度や加熱温度を780乃至900℃の比較的低温として、熱間押出加工することも提案されている(特許文献9参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−199023号公報
【特許文献2】特許第3794971号公報
【特許文献3】特開2004−292917号公報
【特許文献4】特開2006−274313号公報
【特許文献5】特開2004−27331号公報
【特許文献6】特開2008−174785号公報
【特許文献7】特開2007−84920号公報
【特許文献8】特開2007−270269号公報
【特許文献9】特開2004−292917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところで、前記した伝熱管の薄肉化要求により、素材銅合金管の肉厚は、0.5mm以下の、例えば0.3mm程度にまで薄肉化される傾向にある。しかし、このように薄肉化された素材銅合金管は、厚肉の素材銅合金管に比して、加工性(冷間加工性)が低下する。このため、0.5mm以下に薄肉化された素材銅合金管は、熱交換器の伝熱管として加工される時に、不良が発生しやすいという新たな問題が発生する。具体的には、熱交換器の伝熱管に、曲げ加工される時のしわや割れ、拡管・フレア加工時の割れ、縮管・しぼり加工時の割れや剥離などの不良が発生しやすくなる。
【0013】
このため、前記Sn−P系などの高強度化された銅合金管を熱交換器の伝熱管に加工する際の不具合を抑制するためには、それなりの管肉厚が必要で、0.5mm以下に薄肉化することが難しかったのが実情である。
【0014】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、前記薄肉化および高強度化されていても熱交換器の伝熱管などに冷間加工が可能な、加工性に優れた熱交換器用銅合金管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的のために、本発明耐軟化性に優れた熱交換器用銅合金管の要旨は、Sn:0.1〜3.0質量%、P:0.005〜0.1質量%を含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる組成を有する銅合金管であって、この銅合金管の管軸に直角な断面組織において、この銅合金管外表面から10μmの深さまでの領域で観察される最大直径が300nm以上で3μm以下の範囲の介在物の個数が最大で50個/1000μm以下であることとする。
【0016】
ここで、前記銅合金管が、更に、Zn:0.01〜1.0質量%を含有しても良い。また、前記銅合金管が、更に、Fe、Ni、Mn、Mg、Cr、Ti及びAgからなる群から選択された1種または2種以上の元素を合計で0.07質量%未満(但し0%を含まず)含有しても良い。また、前記銅合金管が、素管の加工により肉厚が0.5mm以下に薄肉化されて使用されるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明者は、薄肉化および高強度化されたSn−P系銅合金管において、加工性を向上させるためには、割れなどの不具合の発生原因である介在物を制御すればよいとの着想の下で、介在物と加工性について種々研究した。その結果、熱交換器の伝熱管への曲げ加工、拡管・フレア加工、縮管・しぼり加工などの、加工性を劣化させるのは、銅合金管のごく外表面(管の外側の表面、管の外面)部分の組織に存在する介在物であることを知見した。
【0018】
一般的に、均質化処理後、熱間圧延を行うことによって得られるSn−P系銅合金管の外表面には、一連の銅合金管の製造工程の中で発生する介在物が多数存在する。この銅合金管外表面の介在物を起点として、銅合金管の製造工程における圧延や抽伸などの工程中で、銅合金管外表面に表面疵が生成する。銅合金管外表面に表面疵が生成する傾向は、Sn−P系銅合金管が高強度化するほど強くなる。
【0019】
従来のSn−P系銅合金管では、肉厚が大きく、また強度も低いため、このような表面の介在物に起因する表面疵が、前記銅合金管表面に存在しても、熱交換器の伝熱管など、最終製品への加工性にあまり大きな影響を及ぼさなかった。このため、従来は、前記銅合金管の表面の介在物や介在物起因の表面疵が大きな問題となることも無かった。
【0020】
しかし、本発明者は、Sn−P系銅合金管の前記薄肉化や高強度化が進むにつれ、このような銅合金管外表面の介在物に起因する表面疵は、前記熱交換器の伝熱管などへの加工時の割れの起点となり、加工性を劣化させ、加工費用の増大や歩留まり低下などの原因となり得ることを知見した。
【0021】
このため、本発明では、Sn−P系銅合金管外表面の介在物のサイズを制御する(抑制する)ことにより、これに起因する表面疵を抑制し、前記熱交換器の伝熱管などへの加工性を向上させる。本発明によれば、300nm以上の粗大な介在物を制御(抑制)することで、Sn−P系銅合金管の表面疵を低減することができる。このため、例えば引張強さが255MPa以上のSn−P系銅合金管であっても、前記熱交換器の伝熱管などへの良好な冷間加工性を兼備させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】銅合金管の表面疵を示す図面代用写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施の形態につき、本発明Sn−P系銅合金管の組織から、順に要件ごとに具体的に説明する。
【0024】
(銅合金管組織)
介在物:
本発明で言う介在物とは、通常の酸化物系介在物であり、後述するSEM−EDX分析装置によって、この酸化物系介在物の同定および前記最大直径(最大長さ)と前記個数とが測定可能である。
【0025】
本発明では、前記した通り、Sn−P系銅合金管外表面領域において、粗大な介在物を無くして、介在物を微細化させる。これによって、前記薄肉化や高強度化された銅合金管であっても、製造工程における圧延や抽伸などの工程中で、銅合金管表面に表面疵が生成するのを抑制する。具体的には、Sn−P系銅合金管の管軸に直角な断面組織において、この銅合金管外表面から10μmの深さまでの領域で観察される最大直径が300nm以上で3μm以下の範囲の介在物の個数が最大で50個/1000μm以下とする。ここで、前記管軸に直角な断面とは、この銅合金管の軸方向に対して直角な方向(横断面方向、銅合金管の径方向)の断面である。
【0026】
これによって、Sn−P系銅合金管の外表面に前記一連の製造工程中で必然的に発生する介在物が多数存在しても、また、Sn−P系銅合金管が前記薄肉化や高強度化されていても、圧延や抽伸などの製造工程中で、この介在物が表面疵の起点となることが無い。その結果、熱交換器の伝熱管への曲げ加工、拡管・フレア加工、縮管・しぼり加工などの、冷間加工性(加工性)が向上する。
【0027】
一方、前記銅合金管外表面領域の、前記最大直径が300nm以上の介在物の個数が最大で50個/1000μmを超えた場合には、Sn−P系銅合金管外表面領域において粗大な介在物が多数存在することとなる。このため、表面に存在するこれら粗大な介在物が、Sn−P系銅合金管が前記薄肉や高強度なほど、前記圧延や抽伸などの製造工程中で、表面疵の起点となる。その結果、熱交換器の伝熱管への曲げ加工、拡管・フレア加工、縮管・しぼり加工などの、冷間加工性(加工性)が低下する。
【0028】
前記した通り、肉厚が大きく、また強度も低いような、従来のSn−P系銅合金管では、前記表面の介在物に起因する表面疵は、熱交換器の伝熱管など、最終製品への加工性にあまり大きな影響を及ぼさなかった。しかし、Sn−P系銅合金管の前記薄肉化や高強度化が進むにつれ、前記介在物に起因する表面疵は、前記熱交換器の伝熱管などへの加工時の割れの起点となる。
【0029】
本発明では、前記規定し、かつ測定対象とする、介在物の大きさは、最大直径(最大長さ)が300nm以上、3μm以下の範囲としている。最大直径が300nm未満と、この範囲の下限から外れた微細な介在物は、例え多く存在していても加工性への影響が少なく、また、測定も煩雑となり、測定の正確性にも欠けるため、本規定や測定からは除外する。一方、前記最大直径が3μmを超えてこの範囲から外れる粗大な介在物の存在は、通常の製法では生じない稀な(例外的なあるいは異常な)存在である。しかも、このような粗大な介在物が管表面に存在しただけで、加工性以前の問題として、肉厚が0.5mm以下に薄肉化された銅合金管としての信頼性が無くなり、即不良品となる。したがって、本発明では、このような前記最大直径が3μmを超えた粗大な介在物が管表面に存在しないことを前提にする。また、このような粗大な介在物を仮に考慮すると、規定する数密度にとって大きな外乱となるため、敢えて無視する。
【0030】
なお、前記薄肉化された銅合金管としては、前記最大直径が3μmを超えた粗大な介在物の存在は、前記した表面領域だけでなく、より内部の領域など、銅合金管全体においても、信頼性を阻害するため、存在することはやはり許されない。本発明ではこのことも前提にするが、このような粗大な介在物が存在しないことを、銅合金管全体に亙って、非破壊にて測定することは、不可能で非常識である。したがって、実施例にて後述する通り、前記規定範囲の介在物測定の中で観察されず、銅合金管の特に強度や加工性の異常な低下が無いものは、銅合金管全体に亙って、最大直径が3μmを超える粗大な介在物は存在しないものと見なすことができる。
【0031】
介在物の測定:
前記銅合金管の管軸に直角な断面組織における表面領域の介在物測定は、SEM−EDX分析装置(走査型電子顕微鏡+エネルギー分散型X線分光器:Energy Dispersive X−ray Spectroscopy)にて行う。前記した通り、本発明で言う介在物は通常の酸化物系介在物であり、このSEM−EDX分析装置によって、前記最大直径(最大長さ)の範囲の介在物の同定、各最大直径、前記個数などが、正確に再現性良く測定可能である。
【0032】
介在物と表面疵との関係:
本発明者らは、このSEM−EDX分析装置によって、Sn−P系銅合金管の断面観察および介在物分析を行い、前記表面疵周囲に、酸化物系介在物が生成していることを確認して、前記表面疵が介在物に起因することを確認した。酸化物系介在物を起点に生成した表面疵は、圧延や抽伸加工プロセスにおいても、この表面疵は消滅せず、加工終了後の銅合金管製品にも深い表面疵となって残存する。このため、前記加工性を劣化させる表面疵の原因となるのは、この酸化物介在物に起因する比較的深い表面疵であると特定できる。また、Sn−P系銅合金銅管表面領域の介在物を制御することにより、前記した通り、この銅合金管が前記薄肉化や高強度化されていても、前記加工性が向上する。
【0033】
なお、従来でも、前記特許文献7、8のように、Sn−P系銅合金管ではなく、別合金種の銅合金板ではあるが、プレス打ち抜き性や曲げ加工性を向上させる方法として、加工性を劣化させる粗大な介在物を低減することが公知である。しかも、銅合金管に限らず、粗大な介在物が加工性に悪影響を与えること自体は元々公知である。ただ、前記薄肉化や高強度化されたSn−P系銅合金銅管において、特に表面領域の介在物が前記表面疵の原因となり、しかも、この表面疵が前記加工性に悪影響を与えることは一切不明であった。
【0034】
銅合金管外表面の表面疵自体は、前記表面の介在物に起因するものだけではなく、銅合金管の製造工程において、外部から加工によって付与されるものの方が圧倒的に多く、しかも、この外部から加工によって付与される表面疵の方が常識的である。また、前記した通り、肉厚が大きく強度も低いような、従来のSn−P系銅合金管では、前記表面の介在物に起因する表面疵は、前記加工性にあまり大きな影響を及ぼさなかった。したがって、銅合金管表面の疵が前記加工性に悪影響を与えることが例え分かっても、その表面疵が、外部から加工によって付与されたものでは無く、前記表面の介在物に由来するものか否かは、その観点や視点をもって調査しない限りは知見できない。
【0035】
(銅合金銅管の成分組成)
次に、本発明Sn−P系銅合金銅管の銅合金成分組成につき、以下に説明する。本発明では、銅合金の成分組成を、熱交換器用銅管としての要求特性を満たし、生産性も高いSn−P系銅合金とする。熱交換器用銅管の要求特性としては、熱伝導率が高い、熱交換器製作時の曲げ加工性及びろう付け性が良好、強度や耐食性なども高い、などを満たす必要がある。また、生産性としては、シャフト炉造塊や熱間押出が可能である必要がある。
【0036】
このために、本発明銅合金の成分組成は、Sn:0.1〜3.0質量%、P:0.005〜0.1質量%以下を含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる組成とする。これに、更に、選択的に、Zn:0.01〜1.0質量%を含有しても、Fe、Ni、Mn、Mg、Cr、Ti及びAgからなる群から選択された1種または2種以上の元素を合計で0.07質量%未満含有してもよい。以下に、これら銅合金成分組成の各元素の成分含有理由及び限定理由について説明する。
【0037】
Sn:0.1乃至3.0質量%
Snは、銅合金管の引張り強さを向上させ、結晶粒の粗大化を抑制させる効果を有し、りん脱酸銅管に比べて、管の肉厚を薄くすることが可能になる。しかし、Snの添加量が多く、銅合金管のSn含有量が3.0質量%を超えると、鋳塊における凝固偏析が激しくなり、通常の熱間押出及び/又は加工熱処理により偏析が完全に解消しないことがあり、銅合金管の金属組織、機械的性質、曲げ加工性、ろう付け後の組織及び機械的性質が不均一となる。また、押出圧力が高くなり、Sn含有量が3.0質量%以下の銅合金と同一の押出圧力で押出成形するためには、押出温度を上げることが必要になり、それにより押出材の表面酸化が増加し、生産性の低下及び銅合金管の表面欠陥が増加する。一方、Snが少なく0.1質量%未満であると、前記した十分な引張強さ及び細かい結晶粒径を得ることができなくなる。よってSnは0.1から3.0%の範囲、好ましくは0.1〜1.5の範囲とする。
【0038】
P:0.005乃至0.1質量%
PはSnと同様、銅合金管の引張り強さを向上させ、結晶粒の粗大化を抑制させる効果を有し、りん脱酸銅管に比べて管の肉厚を薄くすることが可能になる。銅合金管のP含有量が多く0.1質量%を超えると、熱間押出時に割れが生じやすくなり、応力腐食割れ感受性が高くなると共に、熱伝導率の低下が大きくなる。P含有量が少なく0.005質量%未満であると、脱酸不足により酸素量が増加してPの酸化物が発生し、鋳塊の健全性が低下し、銅合金管として曲げ加工性が低下する。また、Pが0.005質量%未満であると、前記した十分な引張強さを得ることができなくなる。このため、Pは0.005〜0.1%の範囲、好ましくは0.01〜0.07の範囲とする。
【0039】
Zn:0.01乃至1.0質量%
Znを含有することにより、銅合金管の熱伝導率を大きく低下させることなく、強度、耐熱性及び疲れ強さを向上させることができる。また、Znの含有により、冷間圧延、抽伸及び転造等に用いる工具の磨耗を低減させることができ、抽伸プラグ及び溝付プラグ等の寿命を延命させる効果があり、生産コストの低減に寄与する。Znの含有量が0.01質量%未満であると、上述の効果が十分得られなくなる。一方、Znの含有量が1.0質量%を超えると、管の長手方向や管円周方向の引張強さが却って低下し、破壊強度に低下する。また、応力腐食割れ感受性が高くなる。従って、選択的に含有させる場合のZnの含有量は0.001乃至1.0質量%とすることが必要である。
【0040】
Fe、Ni、Mn、Mg、Cr、Ti及びAgからなる群から選択された1種または2種以上の元素を合計0.07質量%未満
Fe、Ni、Mn、Mg、Cr、Ti、Zr及びAgはいずれも本発明の銅合金の強度、耐圧破壊強度、及び耐熱性を向上させ、結晶粒を微細化して曲げ加工性を改善する。ただ、前記元素の中から選択する1種または2種以上の元素の含有量が0.07質量%を超えると、押出圧力が上昇するため、これらの元素を添加しないものと同一の押出力で押出を行おうとすると、熱間押出温度を上げることが必要になる。これにより、押出材の表面酸化が多くなるため、本発明の銅合金管において表面欠陥が多発し、特に薄肉化されたSn−P系などの銅合金管の伝熱管としての破壊強度を向上できない。このため、選択的に含有させる場合には、Fe、Ni、Mn、Mg、Cr、Ti、Zr及びAgからなる群から選択された1種または2種以上の元素を合計0.07質量%未満とすることが望ましい。前記含有量は、0.05質量%未満とすることがより望ましく、0.03質量%未満とすることが更に望ましい。
【0041】
不純物:
その他の元素は不純物であり、特に薄肉化されたSn−P系などの銅合金管の伝熱管としての破壊強度を向上させるために、含有量は極力少ない方が好ましい。しかし、これら不純物を低減するためのコストとの関係もあり、以下に、代表的な不純物元素の現実的な許容量(上限量)を示す。
【0042】
S:
銅合金管のSは、Cuと化合物を形成して母相中に存在する。原料として用いる低品位銅地金、スクラップ等の配合割合が増加すると、Sの含有量が増える。Sは鋳塊時の鋳塊割れや熱間押出割れを助長する。また、押出材を冷間圧延したり、抽伸加工すると、Cu-S化合物が管の軸方向に伸張し、銅合金母相とCu-S化合物の界面で割れが発生しやすくなる。このため、加工中の半製品及び加工後の製品において、表面疵や割れ等になりやすく、特に薄肉化されたSn-P系銅合金管の伝熱管としての破壊強度を低下させる。また、管の曲げ加工を行う際、割れ発生の起点となり、曲げ部で割れが発生する頻度が高くなる。したがって、S含有量は0.005質量%以下、望ましくは0.003質量%以下、更に望ましくは0.0015質量%以下にする。S含有量を減らすためには、低品位のCu地金及びスクラップの使用量を少なくし、溶解雰囲気のSOxガスを低減し、適正な炉材を選定し、Mg及びCa等のSと親和性が強い元素を溶湯に微量添加する等の対策が有効である。
【0043】
As、Bi、Sb、Pb、Se、Te等
S以外の不純物元素As、Bi、Sb、Pb、Se、Te等についても同様に、鋳塊、熱間押出材、及び冷間加工材の健全性を低下させ、特に薄肉化されたSn-P系などの銅合金管の伝熱管としての破壊強度を低下させる。したがって、これらの元素の合計含有量(総量)は0.0015質量%以下、望ましくは0.0010質量%以下、更に望ましくは0.0005質量%以下とすることが好ましい。
【0044】
O:
銅合金管において、Oの含有量が0.005質量%を超えると、Cu又はSnの酸化物が鋳塊に巻き込まれ、鋳塊の健全性が低下し、特に薄肉化されたSn-P系などの銅合金管の伝熱管としての破壊強度を低下させる。このため、Oの含有量は好ましくは0.005質量%以下とすることが好ましい。曲げ加工性をより改善するには、Oの含有量を0.003質量%以下とすることが望ましく、0.0015質量%以下とすることが更に望ましい。
【0045】
H:
溶解鋳造時に溶湯に取り込まれる水素(H)が多くなると、凝固時に固溶量が減少した水素が鋳塊の粒界に析出し、多数のピンホールを形成し、熱間押出時に割れを発生させる。また、押出後も圧延及び抽伸加工した銅合金管を焼鈍すると、焼鈍時にHが粒界に濃縮し、これに起因して膨れが発生しやすくなり、特に薄肉化されたSn-P系などの銅合金管の伝熱管としての破壊強度を低下させる。このため、Hの含有量を0.0002質量%以下とすることが好ましい。製品歩留りも含めて、破壊強度をより向上させるには、Hの含有量を0.0001質量%以下とすることが望ましい。なお、Hの含有量を低減するには、溶解鋳造時の原料の乾燥、溶湯被覆木炭の赤熱、溶湯と接触する雰囲気の露点の低下、りん添加前の溶湯を酸化気味にする等の対策が有効である。
【0046】
(銅合金管の製造方法)
次に、本発明銅合金管の製造方法について、平滑管の場合を例として以下に説明する。本発明の銅合金管は、工程自体は常法により製造可能であるが、銅合金管の介在物を前記した本発明規定内とするためには、鋳造後の均質化熱処理および熱間押出工程を特に制御する必要がある。
【0047】
先ず、原料の電気銅を木炭被覆の状態で溶解し、銅が溶解した後、Sn及びZnを所定量添加し、更に、脱酸を兼ねてCu−15質量%P中間合金としてPを添加する。このとき、Sn及びCu−P母合金の替わりに、Cu−Sn−Pの母合金を使用することもできる。成分調整が終了した後、半連続鋳造により所定の寸法のビレットを作製する。
【0048】
均熱処理:
そして、ビレットの偏析を改善するために、得られたビレットを加熱炉で加熱し、均質化熱処理(均熱処理)を行なう。このとき、均熱処理温度Tは次式の範囲内とする。750℃≦T≦988−480×[P]−95×[Sn]。但し[P]、[Sn]は各元素の含有量(質量%)である。
【0049】
ここで、均熱処理温度Tが低すぎ、前記式の下限である750℃未満の温度とすると、偏析改善のための均質化処理に長時間を有するため、生産性に悪影響を及ぼす。一方、均熱処理温度Tが高温すぎると、ビレットに偏在するSnやP濃化相が部分溶融し、SnやPの濃化を助長してしまい、特にビレット表面領域に酸化物系介在物が生成してしまう。このため、この介在物を起因に、熱間押出〜圧延〜抽伸工程などの加工時に、管の表面に疵が生成し、前記加工性が悪化してしまう。本発明者らは、状態図計算ソフトを用い固相線温度を計算することにより、988−480×[P]−95×[Sn]℃以下の温度であれば、介在物が生成しない温度範囲であることを見出した。これは、後述する熱間押出終了温度でも同様である。このため、均質化処理は前記式を満たす温度範囲にて、好ましくは2hrから5hrの時間、処理する。
【0050】
因みに、一般的には、均熱処理温度(均熱温度)Tや、熱間押出温度(熱間押出終了温度T)は、処理時間短縮や押出速度アップなどの生産性を高めるために、常識的には比較的高温で実施される。例えば、前記特許文献6では、Sn−P系銅合金組成によらず、均熱処理温度や熱間押出開始温度を950℃の高温で実施している。このため、必然的に本発明よりも介在物の個数が多くなる。また、前記特許文献9では、熱間押出の際の酸化物等の巻き込みを防止するために、Sn−P系銅合金管の均熱温度や加熱温度を780乃至900℃の比較的低温としているものの、均熱時間は2時間未満と、前記好適な均熱時間に比して短過ぎる。このため、必然的に本発明よりも介在物の個数が多くなる。
【0051】
熱間押出:
この均熱処理後、ビレットにピアシングによる穿孔加工を行い、熱間押出を行い押出素管を制作する。ここで熱間押出時には加工発熱するために、熱間押出開始温度よりも終了温度のほうが高温となる。このため熱間押出終了温度Tは、前記均熱処理温度Tと同様に、次式の範囲内とする。750℃≦T≦988−480×[P]−95×[Sn]但し[P]、[Sn]は各元素の含有量(質量%)である。
【0052】
ここで、熱間押出終了温度Tが低すぎ、前記式の下限である750℃未満の温度とすると、熱間押出時の変形抵抗が大きくなり、熱間押出工程の生産性が極端に低下する。一方、熱間押出終了温度Tが高温すぎると、やはり、押出中のビレットや押出素管に偏在するSnやP濃化相が部分溶融し、SnやPの濃化を助長してしまい、特に、ビレットや押出素管の表面領域に酸化物系介在物が生成してしまう。このため、この介在物を起因に、熱間押出、圧延、抽伸工程などの加工時に、銅合金管の表面に疵が生成し、前記加工性が悪化してしまう。
【0053】
また、本発明の銅合金管が前記熱交換器用などとして、前記基本的な要求特性を満足するように製造するには、Snの偏析解消及び製品管における組織の微細化の達成が前提として必要である。そのためには、熱間押出による次式の断面減少率Dを88%以上、望ましくは93%以上とする。ここで、前記断面減少率D(%)は[穿孔されたビレットのドーナツ状断面の断面積(mm)−熱間押出後の素管の断面積(mm)]/[穿孔されたビレットのドーナツ状断面の断面積(mm)]×100の式で計算されたものとする。前記断面減少率Dが小さすぎると、Snの偏析解消ができず、製品管における組織の微細化も達成できない可能性が高い。
【0054】
圧延加工:
次に、押出素管に圧延加工を行ない、外径と肉厚を低減させる。このときの圧延加工率を、好ましくは断面減少率で92%以下とすることにより、圧延時の製品不良を低減できる。また、圧延素管に抽伸加工を行なって所定の寸法の抽伸素管を製造する。通常、抽伸加工は複数台の抽伸機を用いて行うが、各抽伸機による加工率(断面減少率)は好ましくは35%以下にすることにより、抽伸素管における表面欠陥及び内部割れを低減できる。
【0055】
最終焼鈍処理:
その後、需要家において管に曲げ加工を行う場合及び抽伸素管を使用して内面溝付管を製造する場合等には、前記抽伸素管に最終の焼鈍処理を行い、調質種別でO材とする。本発明の銅合金管を連続的に焼鈍するには、銅管コイル等の焼鈍に通常使用されるローラーハース炉、又は高周波誘導コイルに通電しながら抽伸素管を前記コイル内に通す、高周波誘導コイルによる加熱を利用することができる。
【0056】
ローラーハース炉によって、本発明の銅合金管を製造するには、抽伸素管の実体温度が400乃至700℃となり、その温度で抽伸素管が1分乃至120分間程度加熱されるように焼鈍することが望ましい。
【0057】
抽伸素管の実体温度が400℃より低いと完全な再結晶組織にならず、繊維状の加工組織が残存し、需要家における曲げ加工が困難になる。また、700℃を超える温度では、結晶粒が粗大化し、管の曲げ加工性が却って低下してしまう。したがって、抽伸管の実体温度が400乃至700℃の範囲で焼鈍することが望ましい。
【0058】
また、この温度範囲における加熱時間が1分より短いと、完全な再結晶組織にならないため、前記した問題が発生する。また、120分を超えて焼鈍を行っても、結晶粒径に変化がなく、焼鈍の効果は飽和してしまうため、効率が悪い。このため、前記温度範囲における加熱時間は1分乃至120分が適当である。
【0059】
以上が平滑管の製造方法であるが、このように焼鈍した平滑管に、必要に応じて各種加工率の抽伸加工を行い、引張り強さを向上させた加工管としてもよい。また、内面溝付管の場合は、焼鈍した平滑管に溝付転造加工を行う。このようにして、内面溝付管を製造した後、通常更に焼鈍を行う。また、このように焼鈍した内面溝付に、必要に応じて軽加工率の抽伸加工を行い、引張り強さを向上させてもよい。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の実施例について説明する。表1に示すように種々の化学組成や製造条件として、組織中の介在物を異ならせた種々のSn−P系銅合金管(平滑管)を製造した。そして、これら銅合金管の管軸に直角な断面(組織)の外表面領域で観察される介在物の数密度や、表面の疵の数密度を測定し、これら銅合金管の引張強度、加工性についても測定、評価した。これらの結果を表2に示す。これらSn−P系銅合金管(平滑管)の具体的な製造方法や測定、評価方法は以下の通りである。
【0061】
(平滑管の製造条件)
(a)電気銅を原料として、溶湯中に所定のSnを添加し、更に必要に応じて、Znを添加した後、Cu−P母合金を添加することにより、所定組成の溶湯を作製した。これら溶製した銅合金の成分組成を、銅合金管の成分組成として、表1に示す。表1において、記載元素以外の残部はCuおよび不可避的不純物である。この不純物の含有量として、各例とも共通して、Sは0.0015質量%以下、As、Bi、Sb、Pb、Se、Teの合計含有量(総量)は0.0005質量%以下、Oは0.0015質量%以下、Hは0.0001質量%以下であった。
【0062】
(b)前記所定組成の溶湯を、鋳造温度1200℃で、直径300mm×長さ6500mmの鋳塊を半連続鋳造し、得られた鋳造ビレットから、長さ450mmの短尺ビレットを切り出した。
【0063】
(c)この短尺ビレットをビレットヒーターで一旦650℃に加熱した後、更に加熱炉(インダクションヒーター)で、表1に示す種々の均熱処理温度Tに加熱し、目標温度に到達した後2hr経過(保持)後、この加熱炉から取り出す均熱処理を行った。表1には、前記温度Tの範囲を示す前記式のうちの上限側の式(988−480×[P]−95×[Sn])から求めた上限値も併せて示す。
【0064】
(d)前記加熱炉から取り出した短尺ビレットを、熱間押出機で、ビレット中心に直径80mmのピアシング加工を施した。その後、表1に示す種々の開始温度、終了温度Tにて熱間押出を行い、各例とも共通して、外径96mm、肉厚9.5mmの押出素管を作製した(断面減少率:96.6%)。この熱間押出後の押出素管の300℃までの平均冷却速度は40℃/秒として急冷した。
【0065】
(e)各例とも共通して、この押出素管を圧延して、断面減少率92%以下で、外径35mm、肉厚2.3mmの圧延素管を作製した。また、引き続き、この圧延素管を、抽伸工程におけるパス1回当たりの断面減少率が35%以下になるように、引き抜き抽伸加工を繰り返した。更に、押出素管から抽伸素管までの肉厚減少率は、圧延加工と抽伸加工との合計で96%以上とした。
【0066】
(f)この抽伸素管を最終焼鈍処理して、外径9.52mm、肉厚0.3mmの薄肉化された銅合金管−O材を得た。この最終焼鈍条件は、焼鈍炉にて、還元性ガス雰囲気中で、前記抽伸素管を450乃至580℃に加熱し(平均昇温速度12℃/分)、この温度に30乃至120分保持し、冷却帯を通過させて室温まで徐冷した。そして、この最終焼鈍処理した抽伸素管を供試材とした。
【0067】
(介在物測定)
前記供試材について、前記最終焼鈍処理した抽伸素管の先端側と後端側の2箇所から介在物測定用の試料(リング状の管全周試料)を採取した。これら2個の試料の採取位置は、押出素管の先端側と後端側からの距離が、素管全長に対してそれぞれ10%の長さに相当する位置とした。この採取試料1個当たり、円周方向に亘って90°づつ間隔をあけた任意の3箇所について、前記2個の採取試料の合計では6箇所について、銅合金管の管軸に直角な断面(組織)を、前記SEM−EDX分析装置にて観察した。観察にあたっては、銅管表面から10μmまでの表面領域を5000倍の倍率で観察し、10μm(厚み方向の長さ)×100μm(周長:周方向の長さ)=1000μmの範囲の管軸に直角な断面(組織)で観察される介在物の数密度(個/1000μm)を測定した。ここで介在物は最大直径(最大長さ)が300nm以上で3μm以下の介在物の数密度を測定した。これら観察した6箇所の領域のうち、最も数密度が多いもの(介在物の最大数密度)を、本発明の規定する「介在物の最大個数」として、表2に記載している。
なお、各発明例および介在物を測定できた比較例では、これらの測定において、最大直径(最大長さ)が3μmを超える粗大な介在物は観察されず、かつ前記供試材銅合金管の特に強度や加工性の異常な低下は無かった。したがって、これら発明例および比較例では、表面領域だけでなく、銅合金管全体に亙って、最大直径が3μmを超える粗大な介在物は存在しないものと推測される。
【0068】
(表面疵観察)
銅合金管の外表面に存在する表面疵が少ないほど、前記加工性が良好と推測されるので、前記加工性の参考データとして、介在物に起因する銅管の外表面の表面疵を測定した。ここで銅管の介在物に起因する表面疵は、前記供試材の押出素管全長の先端および後端から、素管全長に対してそれぞれ10%の長さに相当する部位(計2箇所)について、断面を前記SEM−EDX分析装置にて1000倍の倍率で周方向に1周観察して、介在物に起因する表面疵の個数を測定し、平均の疵数密度(個/周:管全周当たりの個数)を求めた。
【0069】
ここで、介在物に起因する外表面の表面疵とは、銅合金管の介在物に起因する実際の表面疵を図1(図面代用写真)に示す通り、前記SEM−EDX分析装置によって表面疵周囲に酸化物系介在物が生成していることが確認でき、管表面から管内部に亙って延在する表面疵である。そして、管の深さ方向乃至周方向に向けた表面疵の最大長さが10μm以上のものである。なお、この図1は前記SEM−EDX分析装置にて5000倍の倍率で観察した銅合金管の管軸に直角な断面の前記した銅合金管表面から10μmの深さまでの表面領域を含む組織写真である。
【0070】
言い換えると、前記最大長さが10μm未満の表面疵は、表面疵周囲に酸化物系介在物が生成していることが確認できても、前記加工性への影響が少なく、測定も煩雑となるために、無視した。また、表面疵周囲に酸化物系介在物の存在が確認できない疵は、介在物に起因するものではないため、前記最大長さが10μm以上であっても、無視した。
【0071】
(引張試験)
前記供試材の引張試験は、JIS11号試験片を用いて、5882型インストロン社製万能試験機により、室温、試験速度10.0mm/min、GL=50mmの条件で、引張強さ(MPa)を測定した。同一条件の試験片を3本試験し、それらの平均値を採用した。
【0072】
(加工性評価)
JIS-H-3320に記載の押広げ試験に準じた押広げ試験により、前記供試材の冷間加工性を評価した。このとき、従来以上の厳しい加工性を評価するため、押し込み量を1.4倍まで大きくした。具体的には、前記供試材の端から切り取った試験片の一端に、頂角60度の円錐形の鋼製治具を押し込み、外形9.52mmから13.3mmまで押し広げ試験を行った。このとき、n=5にて試験を行い、割れが発生しなかった試料を○、割れが発生した試料を×として評価した。
【0073】
(発明例)
表1、2に示す通り、発明例1〜16は、化学組成および製造条件が本発明範囲内で適正であるので、介在物量(数密度)は最大でも50個以下に制御されている。この結果、引張強さ255MPa超の高強度であっても、銅管表面疵の数密度が50個/周以下に抑制されている。このため、各発明例は前記押広げ試験による加工性評価に優れている。
【0074】
ただ、前記発明例の中でも、介在物量が比較的多い発明例4、5、7〜16は、介在物量がより少ない発明例1〜3、6と比較すると、銅管の表面疵が比較的多くなっている。このため、前記押広げ試験による加工性評価において、割れが観察されないために同じ○の評価ではあるが、押広げの加工性自体は発明例1〜3、6よりもやや低下していた。
【0075】
(比較例)
一方、比較例17〜19は、本発明組成範囲内の合金であるにもかかわらず、均熱処理温度Tまたは押出終了温度Tが、前記式から外れて不適当であるため、介在物量が多くなり、前記押し広げ試験時に割れが生成している。
【0076】
比較例20、23はSn、P含有量が規定範囲よりも多すぎるため、押出が出来ない(押出不可能)または押出時に割れが発生している。また、比較例21、22はSn、P含有量が規定範囲よりも少なすぎるため、熱交換器用などとしては引張強さが低くすぎる。
【0077】
また、比較例24、25は、均熱処理時間が短すぎる。このため、十分に偏析が解消されておらず、前記発明例よりも介在物の個数が多くなって、前記押し広げ試験時に割れが生成している。
【0078】
以上の結果から、熱交換器用などとして、0.5mm以下に薄肉化され、かつ引張強さ255MPa超に高強度化された場合の、素材Sn−P系銅合金管の加工性を優れさせるための、本発明における各要件の臨界的な意義が裏付けられる。また、これらの要件を得るための好ましい製造条件の意義も裏付けられる。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0081】
以上説明したように、本発明によれば、加工性に優れた、薄肉化および高強度化された素材Sn−P系銅合金管およびその製造方法を提供できる。この結果、この素材Sn−P系銅合金管を冷間加工して用いる熱交換器用伝熱管などに好適に適用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sn:0.1〜3.0質量%、P:0.005〜0.1質量%を含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる組成を有する銅合金管であって、この銅合金管の管軸に直角な断面組織において、この銅合金管外表面から10μmの深さまでの領域で観察される最大直径が300nm以上で3μm以下の範囲の介在物の個数が最大で50個/1000μm以下である、加工性に優れた熱交換器用銅合金管。
【請求項2】
前記銅合金管が、更に、Zn:0.01〜1.0質量%を含有する請求項1に記載の加工性に優れた熱交換器用銅合金管。
【請求項3】
前記銅合金管が、更に、Fe、Ni、Mn、Mg、Cr、Ti及びAgからなる群から選択された1種または2種以上の元素を合計で0.07質量%未満(但し0%を含まず)含有する請求項1または2に記載の加工性に優れた熱交換器用銅合金管。
【請求項4】
前記銅合金管が、素管の加工により肉厚が0.5mm以下に薄肉化されて使用されるものである請求項1乃至3のいずれか1項に記載の加工性に優れた熱交換器用銅合金管。

【図1】
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