説明

加工糖質米

【課題】高血糖や肥満の予防又は抑制に有効で且つ食味にも優れた米及びそれを含む食品を提供する。
【解決手段】食物繊維を1.6〜4.3質量%、ショ糖を2〜5質量%含有するように搗精した糖質米。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特殊米及びそれを含む食品に関する。より具体的には、本発明は、高血糖や肥満の予防又は抑制に有効で且つ食味にも優れた加工された糖質米及びそれを含む食品に関する。
【背景技術】
【0002】
肥満は生活習慣病の罹患率を増加させる一因と言われている。日本肥満学会ではBMI(Body Mass Index) 25以上の人を「肥満」と定義しており、わが国では、男性で30代以降の3人に1人、女性で50代以降の4人に1人が肥満であり、その割合は年々増加傾向にある。
【0003】
また、3大栄養素別摂取構成比でみた日本人のエネルギー摂取状況は、1960年に、蛋白質13.3%、脂質10.6%、糖質76.1%(総カロリー2096 kcal)であったのに対して、2000年には、蛋白質15.9%、脂質26.5%、糖質57.5%(総カロリー1948 kcal)と変化しており、食の欧米化に伴い、これら脂質エネルギー比の増加及び糖質(澱粉)エネルギー比の減少に並行する形で現代の日本人には肥満・糖尿病が増加している。
【0004】
肥満の増加は栄養過多等食生活の変化が主な原因と言われ、適度な運動とともに食生活の改善が、健康の視点から重要性を増している。これまでにも、肥満を防ぐために食事療法、運動療法、薬物療法等が提案又は実施されてきた。しかしながら、食事療法は、栄養学的に正しい知識に基づく必要があり、個人や家庭で長期間継続して実施することは難しい。運動療法は、正しい知識に基づいて適度な運動量を決定する必要があり、疲労感の割にはエネルギー消費が少なく、かえって食欲を増し逆効果になる場合も少なくない。薬物療法は副作用が懸念される等の問題を抱えている。
【0005】
食事療法の中でも、食事量の調節、摂取カロリーの制限という方法として、個人や家庭で容易に行えるものとしては、食事の量を減らしたり、あるいは、高カロリーの食材の全部を又はその一部をより低カロリーの別の食材に置き換えたり、低カロリーの食材で摂取量自体を増やして満腹感を得る方法などがある。しかし、前述のように、正しい食事療法は栄養学的に正しい知識に基づく必要がある。また、見た目に明らかに食事量を減らした状態、代替的な食材に置き換えたことが外観的にも食味的にも明らかである状態での食事は満足感に乏しく、継続しにくい場合もある。
【0006】
従って、食事の量を減らす、あるいは明らかに外観や食味の異質な「混ぜもの」をして摂取量を増やすという方法ではなく、従来の食品同様に違和感無く摂取しながら抗肥満効果や抗血糖効果が得られるような食品は、従来の方法が有しているいくつかの問題を解決し得るかもしれない。
【0007】
このような状況において、本発明者等は、日本人の食生活における“量”の変化を“質(機能)”で補うべく、主要エネルギー源としての澱粉に着目し、高脂質を特徴とする現代食生活に相応しい糖質素材の探索を行った。具体的には、本発明者等は、抗肥満効果、血糖上昇抑制効果等の健康機能を有する米及びその用途について検討した。
【0008】
一般的にイネの栽培品種は、インディカ米とジャポニカ米に大別される。インディカ米は、籾が長粒で細長い形状(長粒種)、舌触りがパサパサとした食感、アミロース含量20〜30%を有し、世界の米生産量の80%を占める。一方、日本人に好まれるジャポニカ米は、短粒で丸みを帯びた形状(短粒種)、粘り気のある食感、アミロース含量17〜22%を有し、世界の米生産量の15%を占める。米の食感、食味等の特徴は、含まれる澱粉の特性によって異なる。
【0009】
米の主成分である澱粉はアミロースとアミロペクチンの2種のグルコース重合体からなる。アミロースは、α1→4グルコシド結合からなる直鎖澱粉で、熱水に溶解するが放置するとアミロース分子間で水素結合して重合体を形成しやすい性質をもつ。一方、アミロペクチンは、α1→4結合のグルコース残基にα1→6結合した分岐構造を持ち、水素結合をし難く熱水で膨潤し粘り気を示す性質をもつ。
【0010】
さらに、米のアミロース含量と健康機能効果、おいしさの一般的な関係に関する知見では、米のアミロース含量と難消化性澱粉含量には正の相関関係があることが知られている。アミロース含量の多い高アミロース米は、特に多くの難消化性澱粉を含むことが報告されており、この難消化性澱粉が食物繊維と類似の機能性を備えているので、アミロース含量が多くなるほど血糖上昇・肥満抑制効果が高まることが知られている(非特許文献1)。
一方、米のアミロース含量とおいしさの間には負の相関関係が認められ、アミロース含量の低い米が食味の点で好まれる傾向がある(非特許文献2)。
【0011】
これまでにも、高脂血症、高血圧、糖尿病などの疾患の予防、ダイエットなどの健康機能に着目した加工米に関する技術が各種報告されている。例えば、発芽処理した玄米を利用したもの(特許文献1)、生米の表面を水蒸気加熱によって一時的に糊化するなどしてレジスタントスターチ(難消化性澱粉)を生成させたもの(特許文献2及び特許文献3)、うるち米に顆粒状コンニャク等を配合したもの(特許文献4)、ならびに難消化性デキストリンなどの食物繊維を添加したもの(特許文献5)などが知られている。
【0012】
しかしながら、健康機能と食味を両立する米はいまだなく、生活習慣病予防・治療の観点から健康機能と食味を両立する米が望まれてきた。特に、日本人の主食である米について、健康機能と食味を両立する米及びその用途の開発が望まれてきた。
【0013】
【特許文献1】特開2003-9810号公報
【特許文献2】特開2003-102408号公報
【特許文献3】特開2003-210121号公報
【特許文献4】特開平10-28554号公報
【特許文献5】特開2001-57854号公報
【非特許文献1】「難消化性成分からみた北海道米の機能性解析」、北海道立中央農業試験場、平成14年度北海道農業研究成果情報
【非特許文献2】「新形質米胚乳澱粉の構造特性」、朝岡ら、応用糖質科学、41巻、1号、17−23頁(1994年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、高血糖や肥満の予防又は抑制に有効であり且つ食味にも優れた特殊米、及びそれを含有する食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、従来食用に供されていなかった糖質米を食物繊維とショ糖が特定量となるように搗精することにより、糖質米が、高血糖や肥満の予防又は抑制に有効であり、且つ食味にも優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、食物繊維を1.6〜4.3質量%、ショ糖を2〜5質量%含有するように搗精した糖質米および当該糖質米を含むことを特徴とする食品を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の糖質米は、従来米に比べて消化吸収されにくいうえに、血糖上昇抑制効果をもち、食味の点においても優れるため、高血糖や肥満の予防又は抑制のための食品として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本明細書で使用する「糖質米」とは、糖類の蓄積異常を示す変異体、すなわちシュガリー(Sugary)変異体からなる米品種を意味する。具体的には、糖質米は、フィトグリコーゲンを含む水溶性多糖を従来の食用米よりも多く含むことを特徴としている。好ましくは、本発明の糖質米の水溶性多糖含量(質量%)は乾燥重量あたり3%以上、より好ましくは7%以上、より好ましくは9%以上である。なお、非糖質米であるコシヒカリやシュランケン(shrunken)変異体における水溶性多糖含量はそれぞれ高々0.5%、2〜3%に過ぎない。
【0019】
前記シュガリー変異体には、1)澱粉はそれほど減少せず水溶性多糖(例えば、フィトグリコーゲン)含量がやや増加するもの(sugary-2)、2)澱粉含量が著しく減少し水溶性多糖が増加するが全糖量がそれほど増加しないもの(sugary-1)、3)水溶性多糖含量とともに全糖量が著しく増加するもの、が含まれる。本発明の糖質米には、このような変異体のいずれも含まれる。
【0020】
本発明で使用可能な糖質米の例としては、限定するものではないが、北陸169号(種苗登録申請:あゆのひかり)、EM5、EM41、EM273、EM75等を挙げることができる(日本農芸化学会誌68巻、11号、1557頁、1994年)。これらの品種のうち、北陸169号については北陸農業試験場(新潟県)によって入手可能である。また、本発明の糖質米のその他の例としては、北陸169号、EM5、EM41、EM273、EM75等を親株とし、他の品種と交配して得られる、本発明の糖質米の特徴を有する交配品種も挙げることができる。
【0021】
好ましい糖質米は、北陸169号である。この品種は、胚乳糖質突然変異品種EM5と多収穫品種奥羽311号(ふくひびき)との交配品種である。ここでEM5は、イネ(金南風)の開花受精直後の1細胞期受精胚にN-メチル-N-ニトロソウレア等を用いて処理する受精胚処理法によって澱粉以外の糖含量や水溶性多糖含量が改変されたものである。
【0022】
糖質米は、(1)イソアミラーゼ(枝きり酵素)が欠損した突然変異米である、(2)糖鎖が高度に分岐したフィトグリコーゲン(植物性グリコーゲンともいう)(通常澱粉に含まれるアミロペクチンは、クラスターと呼ばれる基本構造が多数連結され、分岐がクラスターの基部に集中しているのに対して、植物性グリコーゲンは、アミロペクチンと比較して、分岐がランダムに形成されており、分岐頻度はアミロペクチンより高い)を多く含む、(3)水溶性低分子糖を多く含む、及び(4)着色がある、等の特徴を有する。
【0023】
糖質米には、従来の米より食物繊維が多く含まれている。例えばコシヒカリ、ハクチョウモチ、夢十色、ミルキークイーンなどの従来米の食物繊維含量は、0.5〜0.9g/100gであるのに対し、糖質米である例えば北陸169号の食物繊維含量は4g/100gを超える(表1)。しかもこの食物繊維が高次構造を構築し、糖質の消化を阻害する。これは単に米と食物繊維を混合して食した場合には得られない効果である。
【0024】
一方、糖質米の表層部分には、低分子糖(ショ糖+直接還元糖)が多量に存在する(表1)。この低分子糖は、食味の点からはある程度含まれることが好ましいが、血糖上昇抑制の点からは除去されることが好ましい。
【0025】
従って、血糖上昇抑制効果と優れた食味を満足するためには、糖質米に含有する食物繊維量を1.6〜4.3質量%、ショ糖量を2〜5質量%となるよう搗精することが重要である。
【0026】
好ましくは、食物繊維量を3〜4.1質量%、ショ糖量を3.5〜4.5質量%となるように搗精した糖質米である。
【0027】
本発明にかかる糖質米は、玄米を歩留40%以上90%未満、好ましくは70%以上90%未満、より好ましくは75%〜85%、最も好ましくは80%〜85%の歩留となるように搗精することによって得られる。
【0028】
本発明では、後述の実施例2及び5に示すように、血糖上昇抑制作用及び消化性との関係についてみると、歩留40%以上90%未満、好ましくは70%以上90%未満、より好ましくは75%〜85%、最も好ましくは80%〜85%の糖質米が高い血糖上昇抑制作用及び消化抵抗性を示す。このことは、食用米としては通常行わないレベルで搗精し、食物繊維量を1.6〜4.3質量%、ショ糖量を2〜5質量%することが高血糖や肥満の予防又は抑制のために有用であることを示している。
【0029】
本発明の糖質米は、例えば以下のようにして製造することができる。
糖質米の玄米を、精米機、無洗米機等で搗精して玄米表層を除去し、重量換算で玄米に対し40%以上90%未満、好ましくは約70%以上90%未満、より好ましくは約75%〜約85%、最も好ましくは約80〜約85%の歩留となるまで搗精する。これによって、糖質米玄米の糠層〜胚乳表層に含有する着色成分及び不味成分が除去される。
本発明の糖質米の上記効果の評価は、次のようにして実施することができる。
【0030】
消化性の指標としての消化率は、実施例2に記載されるとおり、精白米1gあたり水1.5mLを添加し、120℃で10分間加熱することによりアルファ化(糊化)し、アミラーゼ(唾液)を添加して37℃で30秒間攪拌し、ペプシン(胃液)を添加して37℃で30分間加温し、パンクレアチン(膵液)、アミログルコシダーゼ(小腸)及びMg、Caを添加して40℃で16時間加温し、消化酵素処理を行った消化物を濾過し遊離グルコースレベルを測定することを含む方法によって求めることができる。
【0031】
糖質米炊飯直後の食味官能評価は、後述の実施例3に記載されるとおり、「外観」、「香り」、「味」、「粘り」、「硬さ」の5項目についてパネラーが総合評価し、「非常に良好」、「良好」、「普通」又は「良くない」で評価することにより実施することができる。
【0032】
血糖上昇抑制効果に対する評価は、後述の実施例4に記載されるとおり、本発明の糖質米をパネラーに摂取させた後、血糖値を測定することにより実施することができる。
【0033】
上記の評価に際して、対照として、うるち米であるコシヒカリ、高アミロース米である夢十色、モチ米であるハクチョウモチについても同様に血糖値を測定し、本発明の糖質米の結果と比較した。その結果、本発明の糖質米(例えば、北陸169号)は、消化率30〜56%であり、コシヒカリや夢十色に比べて消化吸収されにくく、コシヒカリ、夢十色及びハクチョウモチと比べて血糖上昇抑制の点において高い効果を有することが示された。
【0034】
さらにまた、本発明の糖質米は、25質量%未満のアミロース含量を有することが好ましい。この範囲のアミロース含量は、難消化性と食味のほどよいバランスを維持する。
本発明はさらに、本発明の糖質米を含むことを特徴とする食品を提供する。
【0035】
本発明の食品は、米飯食品、例えば炊飯米(いわゆる、ご飯)、リゾット、五目御飯、おかゆ、おにぎりなど、とともにアルファ米などの加工米も含むものである。食品は真空パック、滅菌パックなどの形態でもよい。アルファ米は、糖質米の表面をアルファ化したものであり、食前に熱湯を注ぐだけで食すことが可能になる。
【0036】
また、本発明の食品には、本発明の糖質米に普通うるち米を組み合わせて含有させることができる。これによって、味及びうまみをさらに向上させることができる。混合する場合、糖質米対普通うるち米の比は、非限定的に、好ましくは1:9〜5:5、より好ましくは1:9〜3:7である。
【0037】
また、本発明は、本発明の糖質米を普通うるち米と組み合わせて含むブレンド米を提供する。本発明のブレンド米は、糖質米対普通うるち米の比が好ましくは1:9〜5:5、より好ましくは1:9〜3:7である。
【0038】
本発明の食品及びブレンド米に添加される普通うるち米には、限定されないが、コシヒカリ、ササニシキ、秋田こまち、きららなどの食用米として汎用される種類の米が含まれる。
【0039】
本発明の糖質米、及びそれを含有する食品やブレンド米は、日常の食生活での摂取に適しており、高血糖や肥満の予防又は抑制等に使用することができる。
【0040】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0041】
糖質米の搗精
北陸169号玄米(北陸農業試験場、新潟県)をテストミルTM05((株)サタケ、金剛ロール#40、ロール回転数750rpm)で精米し、歩留93%、90%、82%、70%、65%、41%、40%の北陸169号を得た。比較例として歩留92%、90%のコシヒカリ、歩留91%、90%の夢十色、歩留91%のハクチョウモチ及び歩留91%のミルキークイーンの米を使用した。
【0042】
本実施例及び比較例の食物繊維は、プロスキー変法(酵素−重量法)(分析実務者が書いた五訂日本食品標準成分表 分析マニュアルの解説、編集者:財団法人 日本食品分析センター、発行者:中央法規出版(株)、2001年発行、66〜72頁)により定量分析し、ショ糖は下記測定法により定量分析し、表1に示した。
【0043】
米サンプル2〜2.5gに50容量%エタノール(和光純薬工業:残留・PCB試験用エタノール、超純水)を加え超音波抽出した。50mLに定容後、ろ過(ADVANTEC:No.5B)し、ろ液を濃縮乾固した。超純水添加後、メンブランフィルター(東ソー:水系フィルター(孔径0.45μm))にてろ過したろ液を試料溶液とし、クロマトグラフィーによりショ糖量を求めた。
【0044】
高速液体クロマトグラフ条件:
・インジェクション量:20μL
・機種:LC-10ADvp(島津製作所)
・検出器:示差屈折計 RID-10A(島津製作所)
・カラム:Wakosil 5NH2 φ4.6mm×250mm(和光純薬工業)
・容離液:アセトニトリル/超純水=75/25(v/v)(アセトニトリル:和光純薬工業HPLC用)
・ショ糖標準試薬:和光純薬工業、試薬特級
【0045】
【表1】

【0046】
また、本実施例及び比較例の精米サンプルの歩留に対する消化率及び食味(おいしさ)の測定結果を表2に示した。
【0047】
【表2】

【実施例2】
【0048】
消化性試験
実施例1で得られた米を用いて消化性試験を行った。
<方法> 消化性試験
米1gをふた付き遠沈管(50mL)に秤量しイオン交換水1.5mLを加えた。オートクレーブにより120℃、10分加圧加熱した。オートクレーブ終了後、室温にて一時間放冷した。37℃に加温した1.8mg/mLα-アミラーゼ溶液(和光純薬:015-03731)5mLを添加し(活性180U添加)30秒攪拌した。37℃に加温した5mg/mLペプシン(sigma: P-7012)を1mL添加、2M塩酸を加えpH1.5に調整し、37℃の恒温振とう機で30分間振とうした。その後pH5.0酢酸緩衝液10mL、1M水酸化ナトリウムを1mL、0.06M塩化マンガン125μL、0.3M塩化カルシウム125μL、4mg/mLパンクレアチン溶液(Sigma:P-1750)125μl、1.5mg/mLアミログルコシターゼ溶液(Sigma:A-7420)を1ml、イソプロパノールを100μl、37℃に加温した蒸留水5mlを加え攪拌し、40℃で16時間振とう攪拌した。反応液に60℃に加温した95%エタノール溶液200mlを添加し、1時間室温にて放冷した。ガラスフィルターにて濾過し、濾過液5mlをグラスチューブにとり、4℃,3000rpm,10分遠心分離し上清を採取し、GOD法(Miwa, I.: Clin. Chem. Acta., 37, p538-540 (1972) )によりグルコースを定量した。消化性は以下の計算式で行った。
消化率(%)=(遊離Glu量g)×100/(米重量g)
【0049】
<結果> 歩留90%コシヒカリ(新潟)、歩留90%夢十色(千葉)の消化性がそれぞれ77%、72.3%と7割以上消化されたのに対し、歩留82%、65%、41%の北陸169号(新潟)では、それぞれ31%、39%、56%に留まった(上記表2参照)。この結果、糖質米はコシヒカリ、夢十色にくらべ消化吸収されにくい米であることがわかった。
【実施例3】
【0050】
食味官能評価試験
実施例1で得られた米を用いて食味官能試験を行った。
<方法> 食味官能試験はパネラー5名(20〜40代)を対象に実施した。炊飯方法は、米300gを3回水洗し、399g(精米の1.33倍)の水を加えて1時間浸漬し、東芝炊飯器RC-5Xで炊飯した。炊飯直後の食味官能評価を、「外観」、「香り」、「味」、「粘り」、「硬さ」の5項目を総合評価し、「非常に良好」を◎、「良好」を○、「普通」を△、「良くない」を×で評価した。5名の平均値を上記表2に示した。
<結果> この結果、糖質米は歩留82〜41%の間で食味は良好であった。
【実施例4】
【0051】
血糖上昇抑制試験
<方法> 40代健常男性2名を対象に、無洗米精米機BT-AE05(象印マホービン(株))にて搗精した歩留91%コシヒカリ(新潟)、歩留90%夢十色(千葉)、歩留91%ハクチョウモチ(北海道)及びテストミルTM05((株)サタケ、金剛ロール#40、ロール回転数750rpm)にて搗精した歩留82%の北陸169号を摂食した後の血糖値を評価した。
【0052】
試験当日午前10時を0時とし、試験炊飯米150gを水200mL(サントリー天然水)と一緒に−5分〜0分の間に摂取した。空腹時血糖(−10分)、15、30、45、60、90、120、180、240分に採血を行い血糖値を測定した。採血及び血糖値測定は、エースレット、ウルトラファインセット30G(三和化学研究所)、グルコガードダイアメーターα(アベンティスファーマ(株))で行った。
【0053】
炊飯方法は、精米300gを3回水洗し399g(精米の1.33倍)の水を加えて1時間浸漬した。炊飯器は、東芝炊飯器RC-5Xで炊飯した。
【0054】
試験前日は、午後10時までに全ての飲食を済ませ、試験当日は終了するまで試験食以外の飲食物(水、お茶含む)の摂取及び喫煙を禁止し、なるべく安静な状態を保った。
【0055】
<結果> 図1に血糖値を示した。摂取後30分まで血糖値が上昇し、その後北陸169号は空腹時血糖値に徐々に近づいたが、コシヒカリ及び夢十色は食後120分で再度血糖上昇が見られた。120分における血糖値は、北陸169号はコシヒカリ及び夢十色より低い値を示した。
【0056】
図2に食後120分までの血糖曲線下面積を示した。コシヒカリ、北陸169号、夢十色及びハクチョウモチの血糖曲線下面積はそれぞれ3045、1740、2250及び3195mg/dL・minとなり、北陸169号の血糖曲線下面積が最も低かった。
【0057】
以上より、北陸169号はコシヒカリ、夢十色及びハクチョウモチに比較し、血糖上昇抑制作用が認められた。また血糖上昇抑制効果が高いことからインシュリン分泌抑制効果も期待されるので肥満抑制効果も期待できる。
【実施例5】
【0058】
糖質米の精米度の血糖値への影響評価試験
<方法> 40代健常男性2名を対象に、テストミルTM05((株)サタケ、金剛ロール#40、ロール回転数750rpm)にて搗精した歩留92%、82%、72%の北陸169号を摂食した後の血糖値を評価した。
【0059】
試験当日午前10時を0時とし、試験炊飯米150gを水200mL(サントリー天然水)と一緒に−5分〜0分の間に摂取した。空腹時血糖(−10分)、15、30、45、60、90、120、180、240分に採血を行い、血糖値を測定した。採血および血糖値測定は、エースレット、ウルトラファインセット30G(三和化学研究所)、グルコガードダイアメーターα(アベンティスファーマ(株))で行った。
【0060】
炊飯方法は、精米300gを3回水洗し399g(精米の1.33倍)の水を加えて1時間浸漬した。炊飯器は、東芝炊飯器RC-5Xで炊飯した。
【0061】
試験前日は、午後10時までに全ての飲食を済ませ、試験当日は終了するまで試験食以外の飲食物(水、お茶含む)の摂取及び喫煙を禁止し、なるべく安静な状態を保った。
【0062】
<結果> 図3に血糖値を示した。いずれの米も摂取30分後に血糖値ピークを示し、その後徐々に血糖値が低下した。歩留82%は他の米に比べ速やかに空腹時血糖値に近づいた。
【0063】
図4に血糖曲線下面積を示した。歩留92%、82%、72%の血糖曲線下面積はそれぞれ3086、1740、2456mg/dL・minとなり、歩留82%で血糖曲線下面積が最も低かった。
上記の結果より、北陸169号は歩留82%において、より高い血糖上昇抑制作用が認められた。
【実施例6】
【0064】
糖質米とコシヒカリとのブレンド比と遊離グルコースとの関係
歩留72%の北陸169号、歩留90%コシヒカリ(新潟)、ならびに該北陸169号対該コシヒカリのブレンド比7:3、5:5及び3:7のブレンド米の各々について、実施例2に記載される方法にしたがって消化率(%)を測定した。
【0065】
その結果、消化率(%)値は、北陸169号(72%)で44%、北陸169号(72%):コシヒカリのブレンド比7:3で53%、5:5で59%、3:7で68%、さらにコシヒカリで73%であった。北陸169号(72%):コシヒカリのブレンド比が5以下:5以上、特に3:7程度であれば、味がさらによくなることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の糖質米、食品及びブレンド米は、血糖上昇抑制効果及び消化吸収抵抗性又は体重上昇抑制作用等の健康機能特性を有するとともに、食用としての味も問題がないため、健康米として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】パネラーによる試験において、コシヒカリ(歩留91%)、北陸169号(歩留82%)、夢十色(歩留90%)、ハクチョウモチ(歩留91%)の各々を摂取したときの血糖値(mg/dL)を食後経過時間(分)に対して表した図である。
【図2】パネラーによる試験において、コシヒカリ(歩留91%)、北陸169号(歩留82%)、夢十色(歩留90%)、ハクチョウモチ(歩留91%)の各々を摂取したときの摂取後120分までの血糖値曲線下面積(AUC)を比較した図である。
【図3】パネラーによる試験において、北陸169号(歩留92%)、北陸169号(歩留82%)、北陸169号(歩留72%)の各々を摂取したときの血糖値(mg/dL)を食後経過時間(分)に対して表した図である。
【図4】パネラーによる試験において、北陸169号(歩留92%)、北陸169号(歩留82%)、北陸169号(歩留72%)の各々を摂取したときの摂取後120分までの血糖値曲線下面積(AUC)を比較した図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食物繊維を1.6〜4.3質量%、ショ糖を2〜5質量%含有するように搗精した糖質米。
【請求項2】
歩留が40%以上90%未満である請求項1記載の糖質米。
【請求項3】
水溶性多糖の含量が乾燥重量あたり3質量%以上である請求項1又は2記載の糖質米。
【請求項4】
アミロース含量が25質量%未満である請求項1〜3のいずれか1項記載の糖質米。
【請求項5】
消化率が30〜56%である請求項1〜4のいずれか1項記載の糖質米。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載の糖質米を含む食品。
【請求項7】
うるち米をさらに含む請求項6記載の食品。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項記載の糖質米をうるち米と組み合わせて含むブレンド米。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−151446(P2007−151446A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−349661(P2005−349661)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【Fターム(参考)】