説明

加工装置および加工方法

【課題】 加工条件を自由に変更することが可能であって、火薬などを用いる場合より実施上の制約が少ない加工装置および加工方法を実現する。
【解決手段】 加工装置は、処理容器2と同軸電極1とパルスパワー源6と音速変更部材(加熱部材15、冷却部材16、温度測定部材17など)とを備える。処理容器2は、金型13上に配置された被加工材12と、被加工材12に接触するように配置された水11とを内部に保持する。同軸電極1は、処理容器2の内部において、水11と接触するように配置される。同軸電極1は放電を発生させるためのものである。パルスパワー源6は、放電を発生させるため、同軸電極1へ電力を供給する。加熱部材15、冷却部材16、温度測定部材17などの音速変更部材は、水11などの媒体における音速を変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、加工装置および加工方法に関し、より特定的には、電極での放電に起因する衝撃波を利用して加工対象物を塑性変形させる加工装置および加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム合金やマグネシウム合金などの材料を塑性加工する方法の1つとして、可燃性混合気や火薬を燃焼させることにより発生する爆轟圧やガス圧を利用して、速い歪速度(加工速度)で材料を加工(たとえば超組成加工)する加工方法が知られている(特許文献1および非特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5−329694号公報
【非特許文献1】渡辺博行、他2名、「マグネシウム合金の超塑性加工」、塑性と加工(日本塑性加工学会誌)、2003年、第44巻、第504号、p.10−14
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述の爆轟圧などを利用する場合、当該爆轟圧を発生させるために燃焼(爆発)させる火薬などの組成が決まれば、発生する爆轟圧により変形される材料の歪速度(加工速度)がほぼ決定される。このため、上述した加工方法では、材料の加工速度などの加工条件を自由に変更することが困難であった。また、火薬自体は危険物であるため、使用には所定の手続や安全対策など、さまざまな対応が事前に必要である。このため、通常の工場内で火薬を自由に使用することは難しく、上記加工方法を利用することはあまり現実的ではなかった。
【0004】
この発明は、上記のような課題を解決するために成されたものであり、この発明の目的は、加工条件を自由に変更することが可能であって、火薬などを用いる場合より実施上の制約が少ない加工装置および加工方法を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明に従った加工装置は、処理容器と電極と電力供給部と音速変更部材とを備える。処理容器は、金型上に配置された加工対象物と、加工対象物に接触するように配置された媒体とを内部に保持する。電極は、処理容器の内部において、媒体と接触するように配置される。電極は放電を発生させるためのものである。電力供給部は、放電を発生させるため、電極へ電力を供給する。音速変更部材は、媒体における音速を変更する。
【0006】
この発明に従った加工装置は、電極と、弾性体部材と、保持部材と、電力供給部とを備える。電極は放電を発生させるためのものである。弾性体部材は、電極と接触するように配置される媒体を介して、電極と対向して配置される。弾性体部材は媒体と接触する。保持部材は、加工対象物と接触する金型を保持する。加工対象物と接触する金型は、弾性体部材において、媒体と接触する表面とは反対側に位置する裏面側に配置される。電力供給部は、放電を発生させるため、電極へ電力を供給する。弾性体部材の裏面と金型との間において、弾性体部材の裏面と接触するように加工対象物は配置される。
【0007】
この発明に従った加工装置は、電極と、弾性体部材と、保持部材とを備える。電極は放電を発生させるためのものである。弾性体部材は、電極と接触するように配置される電極側媒体を介して、電極と対向して配置される。弾性体部材は電極側媒体と接触する。下部媒体は、弾性体部材において電極側媒体と接触する表面とは反対側に位置する裏面に接触するように配置される。保持部材は、当該下部媒体を介して弾性体部材と対向するように配置される。保持部材は、下部媒体と接触するように配置された加工対象物および加工対象物を支持する金型を保持する。
【0008】
この発明に従った加工方法では、以下の工程を実施する。すなわち、加工対象物を金型上に配置する工程、加工対象物と接触するように媒体を配置する工程、媒体に接触するように電極を配置する工程、媒体中の音速を変更する変更工程、変更工程により媒体中の音速の値が変更された状態で、電極において発生させた放電に起因する衝撃波を、媒体を介して加工対象物に作用させることにより、加工対象物を金型に沿うように塑性変形させる加工工程、を実施する。
【0009】
この発明に従った加工方法では、以下の工程を実施する。すなわち、加工対象物を金型上に配置する工程、加工対象物と接触するように加工対象物側媒体を配置する工程、加工対象物側媒体上に電極側媒体を配置する工程、電極側媒体に接触するように電極を配置する工程、電極において発生させた放電に起因する衝撃波を、電極側媒体および加工対象物側媒体を介して加工対象物に作用させることにより、加工対象物を金型に沿うように塑性変形させる加工工程、を実施する。
【発明の効果】
【0010】
このように、本発明によれば、加工において電極での放電に起因する衝撃波を伝える媒体の音速を変更することで、加工対象物に対して作用する衝撃波の作用速度を変更できる。この結果、加工対象物の加工条件を任意に変更することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0012】
(実施の形態1)
図1は、本発明による加工装置の実施の形態1を示す模式図である。図2は、図1に示した加工装置の同軸電極の断面模式図である。図3は、図1および図2に示した加工装置を用いた加工方法を示すフローチャートである。図1〜図3を参照して、本発明による加工装置および加工方法の実施の形態1を説明する。
【0013】
図1に示すように、加工装置は、処理容器2と、処理容器2の内部に挿入された同軸電極1と、同軸電極1に電力を供給するパルスパワー源6と、コントローラ30と、処理容器2の内部に保持される媒体としての水11の温度を測定するための温度測定部材17と、水11の温度を上昇させるための加熱部材15と、水11の温度を低下させるための冷却部材16とを備える。処理容器2の底壁上には、水11に浸漬された状態の金型13と被加工材12とが配置されている。被加工材12は板状である。金型13には、その中央部に平面形状が円形状の開口部が形成されている。金型13の当該開口部を塞ぐように、被加工材12が金型13上に重なるように配置されている。このため、金型13の開口部は、金型13の内壁面、被加工材12の下部表面および処理容器2の底壁に囲まれた空間14となっている。なお、この空間14の内部は空気が存在し、水11が浸入しないように構成されている。空間14への水11の浸入を防止する手段としては、たとえば、被加工材12と金型13との接合部を密着させることで空間14を密封する、あるいは金型13を先にビニールなどの軟質材からなる袋に入れて、当該袋を密封するなどの手法を用いることができる。
【0014】
処理容器2の外周側壁には、上述した加熱部材15および冷却部材16が配置されている。加熱部材15は処理容器2の底壁に比較的近い位置に配置することが好ましい。また、冷却部材16は、処理容器2の上部に近い位置に配置することが好ましい。この加熱部材15としては、たとえば抵抗発熱体など、任意の部材を用いることができる。また、冷却部材16としては、内部に冷却水を循環させるブラケットやペルチェ素子などの任意の部材を用いることができる。処理容器2の内周側壁には、その上端部に温度測定部材17が配置されている。温度測定部材17は、固定部材18によって処理容器2の内周側壁に固定されている。温度測定部材17としては、熱電対などの部材を用いることができる。加熱部材15、冷却部材16および温度測定部材17は、それぞれコントローラ30に接続されている。
【0015】
次に、同軸電極1の構造を説明する。同軸電極1は、円柱状の外観を有しており、図2に示すように、円柱状の中心電極20と、絶縁体21と、外周電極22とを含む。絶縁体21は、中心電極20の外周上であって、中心電極20を囲むように配置されている。外周電極22は、絶縁体21の外周上に、絶縁体21を囲むように配置されている。また、同軸電極1には、その後端部に接続部24(図1参照)が配置されている。接続部24には、パルスパワー源6と同軸電極1とを電気的に接続するための同軸ケーブル5の一方端部が接続されている。同軸ケーブル5の他方端部はパルスパワー源6の回路に接続されている。同軸電極1の中心電極20および外周電極22は、接続部24および同軸ケーブル5を介してパルスパワー源6に接続されている。
【0016】
パルスパワー源6は、ギャップスイッチ7、コンデンサ8および電源9などを含む回路を備える。また、パルスパワー源6には、コンデンサ8への電源9の接続、切断、さらにギャップスイッチ7のON/OFFの制御、コンデンサ8への電荷を供給する電源9の電圧の制御などを行なうため、コントローラ30が接続されている。なお、このコントローラ30は、パルスパワー源6と一体に配置されていてもよいし、図1に示したように接続線を介してパルスパワー源6に接続することにより、パルスパワー源6と別の場所に配置されていてもよい。
【0017】
図1および図2に示した加工装置では、加熱部材15および冷却部材16を備えるので、処理容器2に保持された水11の温度を任意に変更することができる。たとえば、水11中の音速は、1気圧温度が0℃という条件では1403m/秒であるが、温度が70℃という条件では1554m/秒という値にまで増加する。なお、水11の中の音速は、水の温度が70℃前後で最大となる。
【0018】
次に、図3を参照しながら、図1および図2に示した加工装置を用いた本発明による加工方法を説明する。図3に示すように、まず金型13へ加工対象物をセットする工程(S10)を実施する。金型13の空間14を構成する開口部を塞ぐように、板状の被加工材12を配置する。被加工材12と金型13との接触部は、空間14へ水11などが浸入しないように、気密性を維持できるようにたとえば接着剤やテープなどの接着用部材を用いて被加工材12と金型13とを接続した構造としてもよい。また、より簡便な方法として、金型13をポリエチレンなどの樹脂やその他の軟質の材料からなる袋、すなわち衝撃波の伝達を妨げないような袋状の物体の内部に入れてもよい。そして、当該袋状の物体の開口部(金型13を袋状の物体の内部に挿入した挿入口)を密閉した後、金型13上に被加工材12を配置するというような手法を用いてもよい。また、金型13の開口部の上方および下方をともにテープなどのシート状部材で塞ぐといった手法を用いてもよい。なお、被加工材12を構成する材料としては、たとえばマグネシウム合金やアルミニウム合金、その他任意の材料を用いることができる。
【0019】
次に、処理容器2内に金型13を配置する工程(S20)を実施する。このとき、金型13は処理容器2の底壁上に配置される。また、被加工材12は処理容器2の上部開口部に面するように配置される。
【0020】
次に、媒体(水11)を処理容器2内へ配置する工程(S30)を実施する。この結果、被加工材12をセットされた金型13は、処理容器2内において水11に浸漬された状態となる。つまり、被加工材12は水11と直接接触するように配置された状態となる。そして、上述のように金型13と被加工材12とにより囲まれる空間14には水などが浸入しないような処置がなされているため、金型13が水11に浸漬された状態であっても空間14には水11は浸入せず空気が存在する。なお、空間14が金型13と被加工材12とにより完全に周囲から独立した空間とできる場合には、空間14の内部の気圧を下げ(もしくはいわゆる真空状態にして)、被加工材12と金型13とを真空吸着することにより互いに固定しておいてもよい。この場合には、空間14には空気はほとんど存在しないことになる。なお、ここでは金型を配置する工程(S20)の後に媒体としての水11を処理容器2内へ配置する工程(S30)を実施したが、処理容器2内に金型を配置する工程(S20)に先立って媒体としての水11を処理容器2内へ配置する工程(S30)を実施してもよい。
【0021】
次に、電極を所定位置へセットする工程(S40)を実施する。この工程(S40)では、電極としての同軸電極1の先端部(放電が発生する部分)を水11に浸漬した状態で、同軸電極1を保持する。同軸電極1の保持方法としては、たとえば処理容器2の上部開口部を塞ぐような蓋を準備し、当該蓋に同軸電極1の接続部24に近い部分を絶縁した状態で固定するといった方法を用いることができる。次に媒体としての水11の温度を調整する工程(S50)を実施する。この工程(S50)においては、加熱部材15および冷却部材16をコントローラ30により制御することにより、水11の温度を任意に変更する。
【0022】
次に、同軸電極1へ投入するエネルギーのうち、放電を発生させるための条件を調整する条件調整工程(S60)を実施する。この工程(S60)では、たとえばコンデンサ8に電荷を蓄積するための充電電圧の設定値などを変更する。また、充電電圧の設定値などの放電条件の変更が終了した後、コンデンサ8へ電源9を接続することにより、コンデンサ8に所定量の電荷を蓄積する。
【0023】
次に、放電工程(S70)を実施する。この工程(S70)では、パルスパワー源6のギャップスイッチ7を閉にする。そして、ギャップスイッチ7が閉じられたことにより、コンデンサ8に蓄えられた電荷が同軸電極1に導入される。この結果、同軸電極1の先端部において、中心電極20の端部と外周電極22の端部との間で放電が発生し、アークが形成される。そして、放電に起因する衝撃波が水11を介して加工対象物(被加工材12)へと伝わる。このため、当該衝撃波により被加工材12の上部表面に圧力が加えられる。その結果、被加工材12が金型13の開口部の形状に沿って塑性変形する。具体的には、金型13の開口部の上端から空間14の内部に凸となったドーム状に被加工材12の一部が変形する。あるいは、金型13の開口部の上端に沿って被加工材12の一部が除去(打抜き)されることにより、貫通孔が形成される。なお、この衝撃波による被加工材12の歪み速度(加工速度)は極めて速く、コンデンサ8の静電容量やコンデンサ8の充電電圧、さらに同軸ケーブル5などのインダクタンスを調整することで、爆薬などを用いた爆発成形法による加工速度と同等以上の加工速度を実現することができる。
【0024】
次に、加工対象物を取出す工程(S80)を実施する。具体的には、同軸電極1を処理容器2の内部から取出した後、処理容器2の内部から金型13と被加工材12とを取出す。この結果、金型13の開口部の形状に沿って塑性変形した被加工材12を得ることができる。以上のように、本発明による加工方法は実施される。なお、ここでは金型13として開口部が形成された金型13を用いたが、金型として凸形状となった表面を有する金型を用い、当該凸形状となった表面に被加工材12を衝撃波により押圧することで、被加工材12を塑性変形させるようにしてもよい。
【0025】
図4は、図1および図2に示した本発明による加工装置の実施の形態1の変形例を示す模式図である。図5は、図4に示した加工装置の同軸電極の断面模式図である。図4および図5を参照して、本発明による加工装置および加工方法の実施の形態1の変形例を説明する。
【0026】
図4に示した加工装置は、基本的には図1に示した加工装置と同様の構造を備えるが、同軸電極1の構造が図1に示した加工装置と異なる。すなわち、図4に示した加工装置では、同軸電極1の外周電極22が複数の外周電極部分25a〜25eにより構成されている。また、同軸電極1の先端部には、図5からもわかるように、中心電極20と電気的に接続された先端電極部分26が配置されている。先端電極部分26および外周電極部分25a〜25eは、同軸電極1が延びる方向(中心電極20の中心軸の延びる方向)において互いに間隔を隔てて配置されている。先端電極部分26および外周電極部分25a〜25eの間の間隙では、絶縁体21の外周表面が露出した状態となっている。このような同軸電極1は、複数の間隙(ギャップ)を有するため、以下マルチギャッププローブとも呼ぶ。
【0027】
このように同軸電極1において複数のギャップが形成されているので、同軸電極1に電力を投入すると、当該複数のギャップにおいてそれぞれ放電が発生する。つまり、複数箇所でほぼ同時に放電を発生させることができる。このため、より効率的に放電に起因する衝撃波を形成できる。その結果、図1に示した加工装置の場合より、同軸電極1に投入されるエネルギーのうち、放電に用いられるエネルギーの割合(すなわち衝撃波として被加工材12の塑性変形に寄与するエネルギーの割合)を高くすることができる。
【0028】
次に、図4および図5に示した加工装置を用いた加工方法を説明する。図4および図5に示した加工装置を用いた加工方法は、基本的に図3に示した加工方法と同様である。ただし、上述のように同軸電極1としてマルチギャッププローブを用いるので、放電工程(S70)においては同軸電極1の複数箇所で放電が発生する。そのため、同軸電極1に投入する電力をより効率的に放電のエネルギー(衝撃波を形成するためのエネルギー)として利用することができる。
【0029】
(実施の形態2)
図6は、本発明による加工装置の実施の形態2を示す模式図である。図7は、図6に示した加工装置を用いた加工方法を示すフローチャートである。図6および図7を参照して、本発明による加工装置および加工方法の実施の形態2を説明する。
【0030】
図6に示した加工装置は、基本的には図1に示した加工装置と同様の構造を備えるが、処理容器2を囲むように配置された圧力容器39を備えている点、および図1に示したような加熱部材15、冷却部材16および温度測定部材17を備えていない点が異なる。図6に示した加工装置は、処理容器2を囲むように圧力容器本体38と圧力容器蓋35とからなる圧力容器39が配置されている。この圧力容器本体38の上部にはフランジ部41が形成されている。このフランジ部41は、圧力容器本体38の上部開口部の端部から、この圧力容器本体38の外周面側(外側)に張り出すように形成されている。また、圧力容器蓋35の端部にも、圧力容器本体38のフランジ部41と対向するようにフランジ部40が形成されている。フランジ部40の内周側の端部には、Oリング43を配置するための溝部42が形成されている。そして、このフランジ部40、41が重なるように、圧力容器本体38上に圧力容器蓋35を配置する。このフランジ部40、41の外周側の端部には、圧力容器本体38と圧力容器蓋35とを接続固定するための固定部材44が設置されている。この固定部材44は、フランジ部40、41の端部を挟むように配置されている。
【0031】
圧力容器蓋35の中央部には、同軸電極1とパルスパワー源6とを接続するための同軸ケーブル5を通す開口部36が形成されている。そして、この開口部36には、開口部36に同軸ケーブル5を挿入した状態で、この圧力容器39内と外部とを分離するためのパッキング部材37が配置されている。この結果、圧力容器39の外部から圧力容器39の内部の雰囲気56を隔離(密閉)することができる。
【0032】
圧力容器本体38には、給気口配管45が形成されている。この給気口配管45には、弁47aおよび所定の雰囲気ガスを圧力容器39内へ供給するためのポンプ48aが設置されている。そして、この給気口配管45は、所定の雰囲気ガスを貯蔵したタンク(図示せず)へと接続されている。なお、この給気口配管45を介して圧力容器39の内部へと外部の空気を供給する場合には、特に雰囲気ガス用のタンクなどを必要とせず、外部の空間に給気口配管45の端部が開放されていてもよい。
【0033】
また、圧力容器本体38には、排気口配管46が形成されている。この排気口配管46には、弁47bおよび圧力容器39の内部の雰囲気ガスを外部へと排出するためのポンプ48bが設置されている。また、圧力容器本体38には、計測用配管55を介して圧力計49が接続されている。そして、この弁47a、47b、ポンプ48a、48bおよび圧力計49は、それぞれコントローラ30に接続されている。
【0034】
このような構造とすることにより、加工装置の処理容器2の内部において放電を発生させる際の雰囲気圧力(圧力容器39内部において水11と接触する雰囲気の圧力)を任意に変更することができる。具体的には、処理時の圧力容器39内部の圧力を上げることが可能になる。たとえば、圧力容器39内部の圧力を136気圧にすれば、媒体としての水11の温度が70℃という条件下で、この水11内の音速を1581m/秒という値にまで増加させることができる。
【0035】
次に、図7を参照しながら、図6に示した加工装置を用いた本発明による加工方法を説明する。図7に示した加工方法は、金型へ加工対象物をセットする工程(S10)、処理容器内に金型を配置する工程(S20)、媒体を処理容器内へ配置する工程(S30)、電極を所定位置へセットする工程(S40)までは、図3に示した加工方法と同様である。そして、電極を所定位置へセットする工程(S40)を実施した後、圧力容器を密封する工程(S210)を実施する。具体的には、処理容器2を圧力容器本体38の内部に配置するとともに、同軸ケーブル5が開口部36に挿入された圧力容器蓋35を圧力容器本体38上に配置する。そして、圧力容器本体38と圧力容器蓋35とのフランジ部40、41を挟むように固定部材44を設置する。この結果、圧力容器39の内部の空間を圧力容器39の外部から隔離することができる。
【0036】
次に、圧力容器39内の圧力を調整する工程(S220)を実施する。具体的には、圧力容器39の内部の圧力を所定の圧力(たとえば通常の大気圧よりも高い136気圧といった圧力)へと調整するため、弁47a、47bおよびポンプ48a、48bをコントローラ30を用いて制御する。この結果、圧力容器39内の圧力を所定の圧力に設定することができる。
【0037】
この後、図3に示した加工方法と同様に、条件調整工程(S60)、放電工程(S70)、加工対象物を取出す工程(S80)を実施する。このようにして、図6に示した加工装置を用いて、処理容器2の周囲の雰囲気圧力を任意の圧力に設定した状態で本発明による加工方法を実施することができる。
【0038】
図8は、図6に示した本発明による加工装置の実施の形態2の第1の変形例を示す模式図である。図8を参照して、本発明による加工装置の実施の形態2の第1の変形例を説明する。
【0039】
図8に示した加工装置は、基本的には図6に示した加工装置と同様の構造を備えるが、同軸電極1の構造が異なっている。すなわち、図8に示した加工装置における同軸電極1は、図4および図5に示した同軸電極1と同様に複数の間隙を有するマルチギャッププローブである。このような構造の加工装置によれば、図6に示した加工装置により得られる効果に加えて、図4および図5に示した加工装置によって得られる効果と同様の効果を得ることができる。
【0040】
図9は、図6に示した本発明による加工装置の実施の形態2の第2の変形例を示す模式図である。図9を参照して、本発明による加工装置の実施の形態2の第2の変形例を説明する。
【0041】
図9に示した加工装置は、放電を発生させる際の水11が接触する雰囲気の圧力を変更可能とするという点については、図6に示した加工装置と同様であるが、当該雰囲気の圧力を変更するための装置構成が異なる。具体的には、図9に示した加工装置では、図6に示した圧力容器39を用いず、処理容器2の上部の開口部を塞ぐような処理容器蓋50を設置することにより、処理容器2と処理容器蓋50とによって囲まれた内部における空間57を処理容器2の外部の空間から分離している。そして、処理容器蓋50に、図6に示した加工装置における圧力容器本体38に設置された圧力計49、給気口配管45および排気口配管46などを設置している。以下具体的に説明する。
【0042】
図9に示した加工装置では、処理容器2の上部の開口部の外縁から、処理容器2の側面から見て外側へ延在するようにフランジ部51が形成されている。また、処理容器蓋50においても、この処理容器蓋50を処理容器2上に配置したときに、処理容器2のフランジ部51と対向するように延びるフランジ部52がその外周部に形成されている。そして、処理容器蓋50を処理容器2上へと配置した状態で、フランジ部51、52をその端部において挟み込むように固定部材44が配置されている。そして、処理容器蓋50のほぼ中央部には、同軸電極1を挿入するための開口部31が形成されている。そして、この開口部31には、同軸電極1と開口部31の側壁との間の隙間を埋めて気密性を確保するためのパッキング部材37が配置されている。なお、パッキング部材37は絶縁性の材料を用いることで、同軸電極1と処理容器蓋50との間の電気的な絶縁も行なっている。また、処理容器蓋50には、給気口配管45が設置されている。この給気口配管45には、弁47aおよびポンプ48aが設置されている。また、処理容器蓋50には、排気口配管46が設置されている。排気口配管46には、弁47bおよびポンプ48bが設置されている。また、処理容器蓋50には、計測用配管55を介して圧力計49が設置されている。この圧力計49、弁47a、47bおよびポンプ48a、48bは、図6に示した加工装置と同様にコントローラ30に接続されている。
【0043】
図9に示した加工装置においては、圧力計49、弁47a、47bおよびポンプ48a、48bをコントローラ30によって制御することにより、空間57の圧力(すなわち水11と接触する雰囲気の圧力)を任意に変更することができる。この結果、図6および図8に示した加工装置と同様に、任意の圧力下で本発明による加工方法を実施することができる。
【0044】
なお、図8および図9に示した加工装置では、同軸電極1としていわゆるマルチギャッププローブを用いているが、このようなマルチギャッププローブに代えて同軸電極1として図6または図1に示したような同軸電極1を用いてもよい。
【0045】
(実施の形態3)
図10は、本発明による加工装置の実施の形態3を示す模式図である。図11は、図10に示した加工装置を用いた加工方法を示すフローチャートである。図10および図11を参照して、本発明による加工装置および加工方法の実施の形態3を説明する。
【0046】
図10に示した加工装置は、基本的には図1に示した加工装置と同様の構造を備えるが、処理容器2の内部に保持された媒体64に添加物66を添加するためのタンク61、弁62および配管67を備える一方、図1に示したような加熱部材15、冷却部材16および温度測定部材17を備えていない点が異なる。タンク61の内部には、媒体64に添加する添加物が保持されている。添加物としては、たとえば塩や糖などを用いることができる。なお、添加物としては、媒体64に溶解するもののみではなく、媒体64に溶解しないが媒体64中に分散配置する、あるいは被加工材12または同軸電極1の近傍に集中的に配置することにより、結果的に同軸電極1から被加工材12までの経路の音速を変更できるものを利用できる。このタンク61に接続された配管67には、添加物66の流通を制御することができる弁62が配置されている。この弁62はコントローラ30に接続されている。
【0047】
このようにすれば、媒体64に添加物66を添加することにより、媒体64中での音速を変えることができる。たとえば、媒体64として、30質量%の蔗糖溶液を用いれば、当該媒体中における音速を1600m/秒とすることができる。また、添加物66として塩化カルシウムを用い、媒体64として飽和塩化カルシウム溶液を用いる場合には、当該媒体64中での音速を1720m/秒とすることができる。硫酸リチウム(Li2SO4)を用いた場合には、媒体64中の音速を1862m/秒とすることができる。このように、媒体64へ任意の添加物66を加えることで媒体64の組成を変更することにより、媒体64中の音速を変えることができる。この結果、図1に示した加工装置と同様の効果を得ることができる。
【0048】
次に、図11を参照しながら、図10に示した加工装置を用いた本発明による加工方法を説明する。図11に示すように、図10に示した加工装置を用いた加工方法では、図3に示した加工方法と同様に金型へ加工対象物をセットする工程(S10)、処理容器内に金型を配置する工程(S20)、媒体を処理容器内へ配置する工程(S30)を実施する。その後、弁62を開状態に制御することにより、タンク61内の添加物66を媒体64中へ添加する工程(すなわち媒体添加物を加える工程(S310))を実施する。コントローラ30によって弁62の開閉を制御することにより、所定量の添加物66を媒体64に添加する。この結果、媒体64を任意の添加物濃度を有する溶液とすることができる。ここで、媒体64としては、添加物66を溶かすことができる液体であればどのようなものを用いてもよい。たとえば、媒体64として始めに水を処理容器2の内部に配置しておいてもよい。また、媒体64中に添加物66を溶解せずに用いる(たとえば添加物66を分散配置させる)場合であれば、添加物66を溶解しないような液体、ゲル状物質、粒状物など任意の物質を用いてもよい。
【0049】
次に、図3に示した加工方法と同様に、電極を所定位置へセットする工程(S40)、条件調整工程(S60)、放電工程(S70)、加工対象物を取出す工程(S80)を実施する。このようにして、図10に示した加工装置を用いた加工方法を行なうことができる。
【0050】
図12は、図10に示した本発明による加工装置の実施の形態3の変形例を示す模式図である。図12を参照して、本発明による加工装置の実施の形態3の変形例を説明する。
【0051】
図12に示した加工装置は、基本的には図10に示した加工装置と同様の構造を備えるが、同軸電極1の構造が異なる。すなわち、図12に示した加工装置では、同軸電極1として図4などに示した同軸電極1と同様に、複数の間隙が外周電極によって形成されたマルチギャッププローブを用いる。このようにすれば、図10に示した加工装置による効果に加えて、図4に示した加工装置による効果も得ることができる。
【0052】
(実施の形態4)
図13は、本発明による加工装置の実施の形態4を示す模式図である。図14は、図13に示した加工装置を用いた加工方法を示すフローチャートである。図13および図14を参照して、本発明による加工装置および加工方法の実施の形態4を説明する。
【0053】
図13に示した加工装置は、基本的には図10に示した加工装置と同様の構造を備えるが、処理容器2の内部に複数種類の媒体を供給するための媒体供給系統と、処理容器2の内部から媒体を排出するための排出配管65、弁62eおよびポンプ63dを備えている点が異なる。すなわち、図13に示した加工装置では、媒体供給系統として、その内部に異なる種類の媒体を保持するためのタンク61a〜61cと、それぞれのタンク61a〜61cから処理容器2の内部へと媒体を供給するための配管60a〜60cとを備える。この配管60a〜60cの途中にはポンプ63a〜63cおよび弁62a〜62cが設置されている。なお、ポンプ63a〜63dおよび弁62a〜62c、62eはそれぞれコントローラ30に接続されている。また、タンク61dから配管60dを介して添加物を処理容器2の内部の媒体64へ供給する添加物供給系統においては、図10に示した加工装置と同様に配管60dの途中に弁62dが設置されている。この弁62dもコントローラ30に接続されている。
【0054】
このようにすれば、タンク61a〜61cに蓄積された、異なる種類の媒体を処理容器2の内部に任意に供給できる。この結果、媒体64の種類を変えることにより、媒体中の音速の値を変更することができる。たとえば、異なる種類の媒体の1つとしてグリセリンを用いる場合、グリセリン中の音速は1923m/秒(温度条件が20℃の場合)となる。
【0055】
次に、図14を参照しながら、図13に示した加工装置を用いた本発明による加工方法を説明する。図14に示した加工方法では、図3に示した加工方法と同様に、金型へ加工対象物をセットする工程(S10)および処理容器内に金型を配置する工程(S20)を実施する。次に、上述した媒体供給系統を制御することにより、選択した媒体を処理容器2の内部へ配置する工程(S410)を実施する。次に、媒体64へ添加物をタンク61dから供給することにより、媒体の音速を適宜調整するため、媒体へ添加物を加える工程(S310)を実施する。次に、図3に示した加工方法と同様に、電極を所定位置へセットする工程(S40)、条件調整工程(S60)、放電工程(S70)、および加工対象物を取出す工程(S80)を実施する。このようにしても、図3に示した加工方法と同様に放電による圧力波を利用して加工対象物を塑性加工することができる。
【0056】
図15は、図13に示した本発明による加工装置の実施の形態4の変形例を示す模式図である。図15を参照して、本発明による加工装置の実施の形態4の変形例を説明する。
【0057】
図15に示した加工装置は、基本的には図13に示した加工装置と同様の構造を備えるが、同軸電極1がいわゆるマルチギャッププローブである点が異なる。この結果、図13に示した加工装置によって得られる効果に加えて、図4に示した加工装置によって得られる効果と同様の効果を得ることができる。
【0058】
なお、上述のように媒体64の種類を変更することにより媒体中の音速を変更することが可能であるが、本発明による加工方法においては媒体中の音速を向上させるばかりでなく、媒体の種類や条件によっては当該媒体中の音速を下げることも可能である。そして、加工対象物や加工条件によっては媒体中の音速を下げるほうが加工には有利な場合も考えられるため、このような場合において本発明による加工方法および加工装置によれば、最適な加工条件を得ることができる。たとえば、媒体中の音速を低下させたい場合には、媒体64としてエチルアルコールやシリコン油などを用いることもできる。上述したエチルアルコールを媒体64として用いた場合には、たとえばその温度を50℃とした場合のエチルアルコール中の音速は1067m/秒となり、媒体64としてシリコン油を用いた場合には、そのシリコン油中の音速は987m/秒となる。
【0059】
(実施の形態5)
図16は、本発明による加工装置の実施の形態5を示す模式図である。図17は、図16に示した加工装置を用いた加工方法を示すフローチャートである。図16および図17を参照して、本発明による加工装置および加工方法の実施の形態5を説明する。
【0060】
図16に示した加工装置は、基本的には図1に示した加工装置と同様の構造を備えるが、処理容器70の構造が図1に示した加工装置とは異なる。すなわち、図16に示した加工装置では、処理容器70の底壁にはゴムなどの弾性体からなる中間部材71が配置されている。そして、この中間部材71の下に、中間部材71の下部表面に接触するように被加工材12が配置されている。この被加工材12下には金型13が配置されている。そして、この金型13下にはベース部材72が配置されている。なお、処理容器70の内部には水などの媒体73が配置されている。そして、この媒体73に先端部が浸漬された状態で、同軸電極1が配置されている。
【0061】
ここで、中間部材71の材料として、ゴムなどの衝撃波を伝達しやすい物質を持ち入れば、当該中間部材71を介して衝撃波を被加工材12へと伝達することができる。なお、中間部材71の材料としてゴムを用いた場合には、このゴム中の音速は水の中の音速とほぼ同程度であるため、媒体としての水の中に被加工材12を配置した場合と同様の加工を行なうことができる。なお、中間部材71を構成する材料としては、上述したゴム以外であって、媒体73から衝撃波を効率よく被加工材12へ伝達できる物質であればどのような材料を用いてもよい。
【0062】
このようにすれば、被加工材12を水などの媒体73に接触させることなく加工することができる。したがって、被加工材12のハンドリングが容易になる。また、媒体73と被加工材12とが直接接触することはないので、被加工材12に対して腐食性を有するような液体であっても、媒体73として利用することができる。また、被加工材12および金型13が媒体73と接触しないので、金型13の内周側の空間14へ媒体73が侵入することを防止するための処置(金型13を袋のなかに入れてその袋を密封するなどの処置)を行なう必要が無い。
【0063】
次に図17を参照しながら、図16に示した加工装置を用いた本発明による加工方法を説明する。
【0064】
図17に示した加工方法では、まず図3に示した加工方法と同様に、金型へ加工対象物をセットする工程(S10)を実施する。次に、ベース部材72上に金型を配置する工程(S510)を実施する。この工程(S510)では、被加工材12が配置された金型13をベース部材72上に配置する。
【0065】
次に、金型上に中間部材71と処理容器70とを配置する工程(S520)を実施する。なお、この工程(S520)においては、加工対象物である被加工材12がセットされた金型13上に、被加工材12と接触するように中間部材71を配置し、この中間部材71上に処理容器70を配置するというように、独立した部材である中間部材71と処理容器70とを順番に配置してもよい。また、この工程(S520)においては、予め処理容器70の底面を塞ぐように中間部材71が接続された処理容器70と中間部材71とからなるユニットを準備し、このユニットを被加工材12上に配置するようにしてもよい。
【0066】
次に、図3に示した工程と同様に、媒体73を処理容器70内へ配置する工程(S30)、電極を所定位置へセットする工程(S40)、条件調整工程(S60)、放電工程(S70)および加工対象物を取出す工程(S80)を実施する。なお、加工対象物を取出す工程(S80)においては、塑性加工された後の被加工材12上から中間部材71および処理容器70を取外すことで、容易に加工済みの被加工材12を取出すことができる。上述のような加工方法によっても、図3に示した加工方法と同様の効果を得ることができる。
【0067】
図18は、図16に示した本発明による加工装置の実施の形態5の変形例を示す模式図である。図18を参照して、本発明による加工装置の実施の形態5の変形例を説明する。図18に示した加工装置は、基本的には図16に示した加工装置と同様の構造を備えるが、同軸電極1の構造および処理容器70の構成が異なる。すなわち、図18に示した加工装置において用いられる同軸電極1は、図4などに示したいわゆるマルチギャッププローブである。この結果、図18に示した加工装置によって、図16に示した加工装置と同様の効果が得られるとともに、同軸電極1において複数の放電を同時に発生させることができるので、効率的に被加工材12の加工を行なうことができる。また、図18に示した加工装置では、図1に示した加工装置と同様に、処理容器70に加熱部材15、冷却部材16および温度測定部材17が設置されている。この結果、図1に示した加工装置と同様に、媒体73の温度を任意に変更できるので、媒体73中の音速を容易に変更できる。
【0068】
なお、媒体73の音速を変更するための構成として、図18に示したような加熱部材15、冷却部材16および温度測定部材17に代えて(あるいはこれらの加熱部材15などに加えて)、本発明の実施の形態2〜実施の形態4に示した構成を適用しても良い。また、媒体73と同様に、中間部材71の温度や材質などを適宜変更することにより、中間部材71における音速を変更するようにしてもよい。
【0069】
(実施の形態6)
図19は、本発明による加工装置の実施の形態6を示す模式図である。図19を参照して、本発明による加工装置の実施の形態6を説明する。図19に示した加工装置は、基本的には図16に示した加工装置と同様の構造を備えるが、中間部材71の形状が異なる。図19に示した加工装置では、中間部材71の下部表面に凸部75が形成されている。この凸部75は被加工材12の上部表面に接触する。さらに、凸部75の形状は、金型13の内部に形成された空間14の形状に沿った形状になっている。このように、中間部材71の形状を変更し、被加工材12と接触する部分の面積を変える、あるいは被加工材12における、被加工材12と中間部材71との接触部の位置を変更することにより、衝撃波の被加工材12に対する入射部分や被加工材12の加工後の形状をより精度よく制御することができる。たとえば、図19に示した構成においては、中間部材71の凸部75が接触している被加工材12の中央部にのみ衝撃波を集中的に印加することができる。なお、図19に示した加工装置を用いた本発明による加工方法には、基本的には図17に示した加工方法と同様の工程を適用することができる。
【0070】
図20は、図19に示した本発明による加工装置の実施の形態6の変形例を示す模式図である。図20を参照して、本発明による加工装置の実施の形態6の変形例を説明する。
【0071】
図20に示した加工装置は、基本的には図19に示した加工装置と同様の構造を備えるが、同軸電極1の構造および処理容器70の構成が異なる。すなわち、図20に示した加工装置においては、同軸電極1としていわゆるマルチギャッププローブを用いている。このようにすれば、図19に示した加工装置による効果に加えて、図4に示した加工装置と同様の効果を得ることができる。また、図20に示した加工装置では、図1に示した加工装置と同様に、処理容器70に加熱部材15、冷却部材16および温度測定部材17が設置されている。この結果、図1に示した加工装置と同様に、媒体73の温度を任意に変更できるので、媒体73中の音速を容易に変更できる。
【0072】
なお、媒体73の音速を変更するための構成として、図20に示したような加熱部材15、冷却部材16および温度測定部材17に代えて(あるいはこれらの加熱部材15などに加えて)、本発明の実施の形態2〜実施の形態4に示した構成を適用しても良い。また、媒体73と同様に、中間部材71の温度や材質などを適宜変更することにより、中間部材71における音速を変更するようにしてもよい。
【0073】
(実施の形態7)
図21は、本発明による加工装置の実施の形態7を示す模式図である。図22は、図21に示した加工装置を用いた本発明による加工方法を示すフローチャートである。図21および図22を参照して、本発明による加工装置および加工方法の実施の形態7を説明する。
【0074】
図21に示した加工装置は、基本的には図16に示した加工装置と同様の構造を備えるが、処理容器の構造が異なる。すなわち、図21に示した加工装置においては、処理容器が、同軸電極1を配置する上層部と、被加工材12が設置された金型13を保持する下層とに中間部材71によって分割されている点が異なる。図21に示した加工装置では、上部処理容器80の下部の開口部を塞ぐように弾性体からなる中間部材71が配置されている。この中間部材71の下部表面に接触するように、下部処理容器81が設置されている。上部処理容器80の内部には媒体73が配置されている。媒体73に接触するように、同軸電極1が配置されている。また、下部処理容器81の内部には、下部媒体82が保持されている。下部媒体82は、中間部材71の下部表面と接触するように、下部処理容器81の内部に充填された状態となっている。そして、この下部処理容器81の底壁上には、被加工材12がセットされた金型13が配置されている。
【0075】
このような構造の加工装置によれば、同軸電極1における放電に起因にして発生する衝撃波を、媒体73、中間部材71および下部媒体82を介して被加工材12へと印加することができるので、図1などに示した本発明による加工装置と同様に被加工材12を塑性加工することができる。また、同軸電極1が接触する媒体73と、被加工材12が接触する下部媒体82とが中間部材71により分離されているので、たとえば放電のたびに同軸電極1から発生するゴミなどに被加工材12が汚染される可能性をなくすことができる。
【0076】
また、媒体73と下部媒体82とは同一の媒体であってもよいが、異なる材質からなる媒体を用いてもよい。すなわち、媒体73および下部媒体82として互いに異なる材料からなる液体を用いれば、加工条件を調整する際の自由度をより大きくすることができる。たとえば、媒体中の音速を変えるために媒体の材質を変更するとき、図1のように単一の媒体である水11中に同軸電極1と被加工材12が設置された金型13とが配置されるような構造の場合には、水11をすべて交換する必要がある。しかし、使用する媒体が高価であってコストの増加が問題となる場合には、図21に示した加工装置であれば被加工材12に接触する下部媒体82のみを上述した別の高価な媒体に変更するといったような対応が可能となる。また、使用する媒体が同軸電極1での放電によって変質しやすいような物質である場合にも、そのような物質からなる媒体を下部媒体82として用い、同軸電極1に接触する媒体73としては、同軸電極1での放電に対して変質し難いような安定した物質を用いるといったことが可能になる。
【0077】
次に、図22を参照しながら、図21に示した加工装置を用いた本発明による加工方法を説明する。図22に示した加工方法では、まず図3に示した加工方法と同様に金型13へ加工対象物である被加工材12をセットする工程(S10)を実施する。その後、下部処理容器81を準備し、当該下部処理容器81内に金型を配置する工程(S710)を実施する。次に、下部媒体82を下部処理容器81内へ配置する工程(S720)を実施する。この結果、下部処理容器81内には下部媒体82が満たされた状態となる。次に、下部処理容器81上へ中間部材71および上部処理容器80を配置する工程(S730)を実施する。このとき、中間部材71は、予め上部処理容器80の下部開口部を塞ぐように上部処理容器80に接続されていてもよい。あるいは、下部処理容器81上に中間部材71を配置した後、当該中間部材71上に上部処理容器80を配置するようにしてもよい。
【0078】
次に、媒体73を上部処理容器80内へ配置する工程(S740)を実施する。次に、図3に示した加工法と同様に、電極を所定位置へセットする工程(S40)、条件調整工程(S60)、放電工程(S70)、および加工対象物を取出す工程(S80)を実施する。このようにすれば、被加工材12を放電に伴って発生する衝撃波により容易に加工することができる。
【0079】
図23は、図21に示した本発明による加工装置の実施の形態7の変形例を示す模式図である。図23を参照して、本発明による加工装置の実施の形態7の変形例を説明する。図23に示した加工装置は、基本的には図21に示した加工装置と同様の構成を備える。ただし、図23に示した加工装置は、同軸電極1の構造、上部処理容器80および下部処理容器81の構成が図21に示した加工装置と異なっている。図23に示した加工装置の同軸電極1はいわゆるマルチギャッププローブとなっている。このため、一緒に複数の箇所で放電を発生させることができるので、図4に示した加工装置と同様により効率的に被加工材12の塑性加工を行なうことができる。また、図23に示した加工装置では、図1に示した加工装置と同様に、上部処理容器80に加熱部材15、冷却部材16および温度測定部材17が設置されている。さらに、図23に示した加工装置では、下部処理容器81に加熱部材85、冷却部材86および温度測定部材87が設置されている。この結果、図1に示した加工装置と同様に、媒体73および下部媒体82の温度を任意に変更できるので、媒体73および下部媒体82中の音速を容易に変更できる。
【0080】
なお、媒体73および下部媒体82の音速を変更するための構成として、図23に示したような加熱部材15、85、冷却部材16、86および温度測定部材17、87に代えて(あるいはこれらの加熱部材15などに加えて)、本発明の実施の形態2〜実施の形態4に示した構成を適用しても良い。また、上部処理容器80および下部処理容器81のいずれか一方のみに加熱部材15などの音速を変更するための部材を設置してもよい。また、媒体73や下部媒体82と同様に、中間部材71の温度や材質などを適宜変更することにより、中間部材71における音速を変更するようにしてもよい。
【0081】
また、本発明の上述した実施の形態において示した加工装置の構成は適宜組合せることができる。たとえば、図1に示した加熱部材15、冷却部材16および温度測定部材17といった構成を、他の本発明に従った加工装置の実施の形態2〜実施の形態7のそれぞれに適用してもよい。また、他の実施の形態における特徴的な構成も、その他の実施の形態に適用することができる。また、複数の実施の形態の構成を1つの加工装置に適用してもよい。
【0082】
以下、上述した説明と一部重複する部分もあるが、上述した本発明による加工装置および加工方法の特徴的な構成を網羅的に列挙する。
【0083】
この発明に従った加工装置は、図1などに示すように、処理容器2と電極としての同軸電極1と電力供給部としてのパルスパワー源6と音速変更部材(加熱部材15、冷却部材16、温度測定部材17など)とを備える。処理容器2は、金型13上に配置された加工対象物としての被加工材12と、被加工材12に接触するように配置された媒体としての水11または媒体64とを内部に保持する。同軸電極1は、処理容器2の内部において、水11と接触するように配置される。同軸電極1は放電を発生させるためのものである。パルスパワー源6は、放電を発生させるため、同軸電極1へ電力を供給する。加熱部材15、冷却部材16、温度測定部材17などの音速変更部材は、水11や媒体64などの媒体における音速を変更する。
【0084】
このようにすれば、放電に起因する衝撃波により、通常の機械加工の場合よりも速い加工速度で、被加工材12を金型13に沿うように容易に塑性変形させることができる。また、同軸電極1に供給する電力の条件などを変更することにより放電の発生状況を変化させることに加えて、媒体としての水11や媒体64中の音速を変更することにより、被加工材12への放電による衝撃波の作用速度を変化させることができる。このため、放電に起因する衝撃波による被加工材12の歪速度(加工速度)を任意に変更することができる(超塑性状態の発現程度の制御範囲を大きくすることができる)。
【0085】
また、同軸電極1での放電に起因する衝撃波を利用するので、火薬などを利用して爆轟圧を発生させる場合に比べて、各種の制限に対する対応や安全対策などの処置にかかる手間を少なくすることができる。また、同軸電極1自体は放電を一度発生させた程度では破損しないため、同じ同軸電極1を用いて連続的に放電を発生させることができる。このため、連続的かつ効率的に被加工材12の加工を行なうことができる。
【0086】
また、プレス加工などに用いる金型は通常雄型と雌型との2つの部品が必要になるが、本発明による加工装置を用いた加工方法では、金型13として上記雌型(あるいは雄型)のいずれか一方のみを用いる。つまり、本発明による加工装置では、放電による衝撃波により被加工材12を当該金型13(雌型または雄型のいずれか)に押圧することにより塑性加工を行なう。このため、金型13として1つの部品(金型)だけを準備すればよく、従来より金型13に要するコストを低減できる。このため、被加工材12の加工コストを低減できる。また、金型が雄型と雌型という2つの部品から構成される場合には、当該雄型と雌型との間隙(クリアランス)の寸法精度を管理する必要があったが、本発明による加工装置ではそのようなクリアランスの寸法精度を考慮する必要もない。この点からも、金型13の製造コストを低減できる。
【0087】
加工装置は、図16、図18〜図20に示すように、電極としての同軸電極1と、弾性体部材としての中間部材71と、保持部材としてのベース部材72と、電力供給部としてのパルスパワー源6とを備える。同軸電極1は放電を発生させるためのものである。中間部材71は、同軸電極1と接触するように配置される媒体73を介して、同軸電極1と対向して配置される。中間部材71は媒体73と接触する。ベース部材72は、被加工材12と接触する金型13を保持する。被加工材12と接触する金型13は、中間部材71において、媒体73と接触する表面とは反対側に位置する裏面側に配置される。パルスパワー源6は、放電を発生させるため、同軸電極1へ電力を供給する。中間部材71の裏面と金型13との間において、中間部材71の裏面と接触するように被加工材12は配置される。
【0088】
このようにすれば、放電に起因する衝撃波を媒体73および中間部材71を介して被加工材12に伝えることができる。そのため、当該衝撃波により、通常の機械加工の場合よりも速い加工速度で、被加工材12を金型13に沿うように容易に塑性変形させることができる。また、同軸電極1に供給する電力の条件などを変更することによって放電の発生状況を変化させることにより、被加工材12への放電による衝撃波の作用速度を変化させることができる。このため、放電に起因する衝撃波による被加工材12の歪速度(加工速度)を任意に変更することができる(超塑性状態の発現程度の制御範囲を大きくすることができる)。
【0089】
また、媒体73および中間部材71を介して衝撃波を被加工材12へ伝えるので、被加工材12と媒体73とが直接接触することはない。そのため、被加工材12を構成する材料と反応するような媒体73(たとえば被加工材12を腐食させる、あるいは溶解するような媒体)を利用することができる。このため、媒体73として用いる材料の選択の自由度を大きくする事ができる。また、被加工材12を媒体73に接触させないため、被加工材12を加工装置へセットする、あるいは加工対象物から取外す際に、被加工材12の表面に付着した媒体73を除去するといった工程を省略できる。このため、被加工材12のハンドリングが容易になる。また、被加工材12と媒体73とが直接接触しないので、放電に伴い電極から発生するごみなどの異物が媒体73中を移動して被加工材12に付着するといった問題の発生を抑制できる。
【0090】
また、同軸電極1での放電に起因する衝撃波を利用するので、火薬などを利用して爆轟圧を発生させる場合に比べて、各種の制限に対する対応や安全対策などの処置にかかる手間を少なくすることができる。また、同軸電極1自体は放電を一度発生させた程度では破損しないため、同じ同軸電極1を用いて連続的に放電を発生させることができる。このため、連続的かつ効率的に被加工材12の加工を行なうことができる。
【0091】
また、プレス加工などに用いる金型13は通常雄型と雌型との2つの部品が必要になるが、本発明による加工方法では、金型13として上記雌型(あるいは雄型)のいずれか一方のみを用いる。このため、金型13として1つの部品(金型)だけを準備すればよく、従来より金型13に要するコストを低減できる。このため、被加工材12の加工コストを低減できる。また、金型13が雄型と雌型という2つの部品から構成される場合には、当該雄型と雌型との間隙(クリアランス)の寸法精度を管理する必要があったが、本発明による加工装置ではそのようなクリアランスの寸法精度を考慮する必要もない。この点からも、金型13の製造コストを低減できる。
【0092】
上記加工装置では、図19および図20に示すように、弾性体部材として中間部材71の裏面には段差部としての凸部75が形成されていてもよい。中間部材71の凸部75は、被加工材12の表面の一部と接触してもよい。この場合、被加工材12の表面において中間部材71の凸部75が接触する部分を適宜変更することで、被加工材12の表面において放電に起因する衝撃波が作用する部分の位置を任意に変更できる。このため、たとえば被加工材12の一部のみを変形させたいような場合に、効果的に被加工材12の加工を行なうことができる。
【0093】
上記加工装置では、中間部材71の裏面に形成された段差部としての凸部75は、中間部材71の裏面から被加工材12側に突出する凸形状部であってもよい。この場合、中間部材71の裏面に凸形状部を形成するという比較的簡単な構成で、被加工材12における衝撃波の印加位置を変更できる。
【0094】
上記加工装置は、媒体としての媒体73における音速を変更するための音速変更部材(加熱部材15、冷却部材16、温度測定部材17など)を備えていてもよい。この場合、媒体73における音速を変更することにより、媒体73および中間部材71を介した被加工材12への衝撃波の作用速度を容易に変更できる。この結果、超塑性状態の発現程度の制御を容易に行なうことができる。
【0095】
上記加工装置において、音速変更部材は、媒体(水11、媒体64、73)の温度を変更する温度調節部材としての加熱部材15、冷却部材16、温度測定部材17を含んでいてもよい。この場合、媒体中の音速は媒体の温度により変化するので、媒体(水11、媒体64、73)の温度を変更することにより容易に媒体(水11、媒体64、73)中の音速を変更できる。このため、媒体を介した被加工材12への衝撃波の作用速度を容易に変更できる。この結果、超塑性状態の発現程度の制御を容易に行なうことができる。
【0096】
上記加工装置において、音速変更部材は、媒体(水11、媒体64、73)に加えられる圧力を変更する圧力調節部材(図6および図8に示した圧力容器39、弁47a、47b、ポンプ48a、48b、または図9に示した処理容器蓋50、弁47a、47b、ポンプ48a、48b)を含んでいてもよい。この場合、媒体中の音速は媒体に加えられる圧力によっても変化するので、当該圧力を変更することにより容易に媒体中の音速を変更できる。このため、水11などの媒体を介した被加工材12への衝撃波の作用速度を容易に変更できる。
【0097】
上記加工装置において、音速変更部材は、図10および図12に示すように、媒体64に添加物66を混入するための添加物混入部材としてのタンク61および弁62を含んでいてもよい。この場合、媒体64中の音速は媒体64に添加物を混入することによっても変化するので、当該添加物66を媒体64中に混入することにより容易に媒体64中の音速を変更できる。このため、媒体64を介した被加工材12への衝撃波の作用速度を容易に変更できる。
【0098】
上記加工装置において、音速変更部材は、図13および図15に示すように、媒体64として、複数種類の媒体から任意の媒体を処理容器2の内部へ供給する媒体供給部材としての配管60a〜60c、タンク61a〜61c、弁62a〜62c、ポンプ63a〜63cを含んでいてもよい。この場合、媒体64中の音速は媒体の種類によっても変化するので、複数種類の媒体から任意の媒体を選択して当該媒体を処理容器2の内部へ供給することにより、結果的に異なる音速の媒体を利用することができる。このため、媒体64を介した被加工材12への衝撃波の作用速度を容易に変更できる。
【0099】
加工装置は、図21および図23に示すように、同軸電極1と、弾性体部材としての中間部材71と、保持部材としての下部処理容器81とを備える。同軸電極1は放電を発生させるためのものである。中間部材71は、同軸電極1と接触するように配置される電極側媒体としての媒体73を介して、同軸電極1と対向して配置される。中間部材71は媒体73と接触する。下部媒体82は、中間部材71において媒体73と接触する表面とは反対側に位置する裏面に接触するように配置される。下部処理容器81は、当該下部媒体82を介して中間部材71と対向するように配置される。下部処理容器81は、下部媒体82と接触するように配置された被加工材12および被加工材12を支持する金型13を保持する。このようにすれば、放電に起因する衝撃波を媒体73、中間部材71および下部媒体82を介して被加工材12に伝えることができる。そのため、当該衝撃波により、通常の機械加工の場合よりも速い加工速度で、被加工材12を金型に沿うように容易に塑性変形させることができる。また、電極に供給する電力の条件などを変更することによって放電の発生状況を変化させることにより、被加工材12への放電による衝撃波の作用速度を変化させることができる。このため、放電に起因する衝撃波による加工対象物の歪速度(加工速度)を任意に変更することができる。
【0100】
また、媒体73、中間部材71および下部媒体82を介して衝撃波を被加工材12へ伝えるので、被加工材12と媒体73とが直接接触することはない。そのため、被加工材12を構成する材料と反応するような媒体73(たとえば被加工材12を腐食させる、あるいは溶解するような媒体)を利用することができる。このため、媒体73として用いる材料の選択の自由度を大きくする事ができる。また、被加工材12と媒体73とが直接接触しないので、放電に伴い同軸電極1から発生するごみなどの異物が媒体73中を移動して被加工材12に付着するといった問題の発生を抑制できる。また、下部媒体82と同軸電極1とが直接接触することもないので、同軸電極1での放電により変質するような物質であっても、下部媒体82として利用できる。このため、下部媒体82についても材料選択の自由度を大きくすることができる。
【0101】
また、同軸電極1での放電に起因する衝撃波を利用するので、火薬などを利用して爆轟圧を発生させる場合に比べて、各種の制限に対する対応や安全対策などの処置にかかる手間を少なくすることができる。また、同軸電極1自体は放電を一度発生させた程度では破損しないため、同じ同軸電極1を用いて連続的に放電を発生させることができる。このため、連続的かつ効率的に被加工材12の加工を行なうことができる。
【0102】
また、プレス加工などに用いる金型は通常雄型と雌型との2つの部品が必要になるが、本発明による加工方法では、金型13として上記雌型(あるいは雄型)のいずれか一方のみを用いればよい。このため、従来より金型13に要するコストを低減できる。そのため、被加工材12の加工コストを低減できる。また、金型13が雄型と雌型という2つの部品から構成される場合には、当該雄型と雌型との間隙(クリアランス)の寸法精度を管理する必要があったが、本発明による加工装置ではそのようなクリアランスの寸法精度を考慮する必要もない。この点からも、金型13の製造コストを低減できる。
【0103】
上記加工装置において、保持部材は、下部媒体82、加工対象物としての被加工材12および金型13を内部に保持する下部容器としての下部処理容器81であってもよい。また、下部処理容器81は、下部媒体82、被加工材12および金型13を内部に配置する凹部を有し(すなわち、下部処理容器81は図21に示すような底面を有する筒状であり)、当該凹部の上端部(下部処理容器81の開放端の縁部)が弾性体部材としての中間部材71の裏面に接触するように配置されている。下部媒体82は下部処理容器81の凹部(内周側)を満たすことにより中間部材71の裏面に接触する。この場合、中間部材71の裏面側に下部処理容器81を配置し、当該下部処理容器81の凹部に被加工材12および金型13を配置するという比較的簡単な構成で、本発明による加工装置での中間部材71の裏面側における構造を実現できる。
【0104】
上記加工装置は、図23に示すように、電極側媒体としての媒体73および下部媒体82の少なくともいずれか一方における音速を変更するための音速変更部材(加熱部材15、85、冷却部材16、86など)を備えていてもよい。この場合、媒体73または下部媒体82における音速を変更することにより、電極側の媒体73、中間部材71および下部媒体82を介した被加工材12への衝撃波の作用速度を容易に変更できる。この結果、超塑性状態の発現程度の制御を容易に行なうことができる。
【0105】
上記加工装置において、音速変更部材は、電極側の媒体73または下部媒体82の温度を変更する温度調節部材(加熱部材15、85、冷却部材16、86)を含んでいてもよい。なお、図23においては、媒体73と下部媒体82とのそれぞれに対して、加熱部材15、85、冷却部材16、86を配置したが、媒体73の温度調節を行なう加熱部材15および冷却部材16のみを設置してもよいし、下部媒体82の温度調節を行なう加熱部材85および冷却部材86のみを設置してもよい。この場合、電極側の媒体73中または下部媒体82中の音速は、当該媒体73または下部媒体82の温度により変化するので、媒体73または下部媒体82の温度を変更することにより容易に媒体73中または下部媒体82中の音速を変更できる。このため、媒体73および下部媒体82を介した被加工材12への衝撃波の作用速度を容易に変更できる。
【0106】
上記加工装置において、音速変更部材は、電極側の媒体73または下部媒体82に加えられる圧力を変更する圧力調節部材を含んでいてもよい。圧力調節部材としては、たとえば図6に示したような圧力容器39や弁47a、47b、ポンプ48a、48bなどを用いることができる。また、下部媒体82に加えられる圧力を変更する圧力調節部材として、たとえば下部処理容器81の内部に繋がる配管を形成し、当該配管中に下部媒体82を充填するとともに、内部の圧力を変更可能なチャンバを別に準備する。そして、当該チャンバに上記配管を接続する。チャンバの内部の圧力を任意に制御することで、配管中の下部媒体82を介して下部処理容器81中の下部媒体82に所定の圧力を加えるようにしてもよい。この場合、電極側の媒体73中または下部媒体82中の音速は媒体に加えられる圧力によっても変化するので、当該圧力を変更することにより容易に媒体73中または下部媒体82中の音速を変更できる。このため、媒体73または下部媒体82を介した被加工材12への衝撃波の作用速度を容易に変更できる。
【0107】
上記加工装置において、音速変更部材は、電極側の媒体73または下部媒体82に添加物を混入するための添加物混入部材(たとえば、図10に示すタンク61、弁62、配管67など)を含んでいてもよい。たとえば、媒体73に対して添加物を添加する機構としては図10に示したような媒体64に対して添加物66を添加するための機構を流用できる。また、下部媒体82に対して添加物を添加する機構としては、任意の機構を用いることができる。たとえば、下部媒体82に添加物を添加するため、下部処理容器81に添加物を添加するための配管を接続し、当該配管を介して添加物を下部処理容器81内に導入してもよい。この場合、媒体73中または下部媒体82中の音速は媒体73または下部媒体82に添加物を混入することによっても変化するので、当該添加物を媒体73中または下部媒体82中に混入することにより容易に媒体73中または下部媒体82中の音速を変更できる。このため、媒体73および下部媒体82を介した被加工材12への衝撃波の作用速度を容易に変更できる。
【0108】
上記加工装置において、音速変更部材は、複数種類の媒体から任意の媒体を電極側の媒体73または下部媒体82として供給する媒体供給部材(たとえば、図13に示したタンク61a〜61c、配管60a〜60c、弁62a〜62c、ポンプ63a〜63c、排出配管65、ポンプ63d、弁62eなど)を含んでいてもよい。たとえば、図21および図23に示す媒体73として複数種類の媒体から任意の媒体を供給するための媒体供給部材としては、図13に示した機構を流用できる。また、下部媒体82として複数種類の媒体から任意の媒体を供給する機構としては、たとえば下部処理容器81に複数の配管を接続し、当該配管を介して複数種類の媒体のうちのいずれかを下部処理容器81内に導入するようなものを用いてもよい。この場合、媒体73中または下部媒体82中の音速は、媒体73または下部媒体82を構成する材料の種類によっても変化するので、複数種類の媒体から任意の媒体を選択して当該媒体を媒体73または下部媒体82として供給することにより、結果的に異なる音速の媒体を利用することができる。このため、媒体73および下部媒体82を介した被加工材12への衝撃波の作用速度を容易に変更できる。
【0109】
上記加工装置において、図4、図8、図9、図12、図15、図18、図20、図23に示すように、同軸電極1は、中心導電体としての中心電極20と、絶縁部材としての絶縁体21と、外周導電体としての外周電極22とを含んでいてもよい。中心電極20は中心軸に沿って延在し、外周面を有する。絶縁体21は中心電極20の外周面上に配置される。外周電極22は絶縁体21を囲むように配置される。外周電極22は、中心軸の延びる方向において互いに間隔を隔てて配置された複数の外周導電体部分としての外周電極部分25a〜25eを含んでいてもよい。この場合、複数の外周電極部分25a〜25eの間で放電を発生させることができ、また、同軸電極1の先端部において中心電極20(または先端電極部分26)と外周電極22との間においても放電を発生させることができる。このため、図2に示すような、外周電極22が単一の構造材である同軸電極を用いて、同軸電極の先端部(中心電極20と外周電極22との間)のみで放電を発生させる場合より、放電を発生させる場所の数を増やすことができる(つまり、一度に複数の放電を発生させることができる)。このように放電が起きる個所の数を増やすことにより、同軸電極1に投入する電流値を一定にした場合において、従来より放電抵抗を増加させることができる。ここで、放電により消費されるエネルギー(衝撃波となって加工対象物の塑性加工に利用されるエネルギー)は放電抵抗に比例する。したがって、加工に利用されるエネルギーを大きくできる。この結果、同軸電極1での放電による衝撃波の加工能力を増大させることができる。
【0110】
この発明に従った加工方法では、以下の工程を実施する。すなわち、加工対象物を金型上に配置する工程としての金型へ加工対象物をセットする工程(S10)、加工対象物と接触するように媒体を配置する工程としての処理容器内に金型を配置する工程(S20)および媒体を処理容器内へ配置する工程(S30)、媒体に接触するように電極を配置する工程としての電極を所定位置へセットする工程(S40)、媒体中の音速を変更する変更工程としての媒体の温度を調整する工程(S50)圧力容器内の圧力を調整する工程(S220)、媒体へ添加物を加える工程(S310)、選択した媒体を処理容器内へ配置する工程(S410)、変更工程により媒体中の音速の値が変更された状態で、電極において発生させた放電に起因する衝撃波を、媒体を介して加工対象物に作用させることにより、加工対象物を金型に沿うように塑性変形させる加工工程としての放電工程(S70)、を実施する。
【0111】
このようにすれば、放電に起因する衝撃波により、通常の機械加工の場合よりも速い加工速度で、加工対象物(被加工材12)を金型13に沿うように容易に塑性変形させることができる。また、電極(同軸電極1)に供給する電力の条件などを変更することにより放電の発生状況を変化させることに加えて、変更工程において媒体中の音速を変更することにより、被加工材12への放電による衝撃波の作用速度を変化させることができる。このため、放電に起因する衝撃波による被加工材12の歪速度(加工速度)を任意に変更することができる(超塑性状態の発現程度の制御範囲を大きくすることができる)。
【0112】
また、同軸電極1での放電に起因する衝撃波を利用するので、火薬などを利用して爆轟圧を発生させる場合に比べて、各種の制限に対する対応や安全対策などの処置にかかる手間を少なくすることができる。また、同軸電極1自体は放電を一度発生させた程度では破損しないため、同じ同軸電極1を用いて連続的に放電を発生させることができる。このため、連続的かつ効率的に被加工材12の加工を行なうことができる。
【0113】
また、プレス加工などに用いる金型は通常雄型と雌型との2つの部品が必要になるが、本発明による加工方法では、金型13として上記雌型(あるいは雄型)のいずれか一方のみを用いる。つまり、本発明による加工装置では、放電による衝撃波により被加工材12を当該金型13(雌型または雄型のいずれか)に押圧することにより塑性加工を行なうことができる。このため、金型13として1つの部品(金型)だけを準備すればよく、従来より金型13に要するコストを低減できる。このため、被加工材12の加工コストを低減できる。また、金型が雄型と雌型という2つの部品から構成される場合には、当該雄型と雌型との間隙(クリアランス)の寸法精度を管理する必要があったが、本発明による加工方法ではそのようなクリアランスの寸法精度を考慮する必要もない。この点からも、金型13の製造コストを低減できる。
【0114】
上記加工方法において、変更工程は、媒体の温度を変更する工程(図3に示した媒体の温度を調整する工程(S50))を含んでいてもよい。この場合、水11などの媒体中の音速は当該媒体の温度により変化するので、媒体の温度を変更することにより容易に媒体中の音速を変更できる。このため、媒体を介した加工対象物への衝撃波の作用速度を容易に変更できる。
【0115】
上記加工方法において、変更工程は、媒体の圧力を変更する工程(図7に示した圧力容器内の圧力を調整する工程(S220))を含んでいてもよい。この場合、水11などの媒体中の音速は媒体に加えられる圧力によっても変化するので、当該圧力を変更することにより容易に媒体中の音速を変更できる。このため、媒体を介した被加工材12への衝撃波の作用速度を容易に変更できる。
【0116】
上記加工方法において、変更工程は媒体に添加物を混入する工程(図11に示した媒体に添加物を加える工程(S310))を含んでいてもよい。この場合、媒体64(図10参照)中の音速は媒体に添加物66を混入することによっても変化するので、当該添加物66を媒体64中に混入することにより容易に媒体64中の音速を変更できる。このため、媒体64を介した被加工材12への衝撃波の作用速度を容易に変更できる。
【0117】
上記加工方法において、変更工程は、媒体を複数種類の媒体の間で切換えること(図14に示した、選択した媒体を処理容器内へ配置する工程(S410))を含んでいてもよい。この場合、媒体64中の音速は媒体の種類の違い(たとえば媒体における組成や密度などの物理特性の違い)によっても変化するので、複数種類の媒体から任意の媒体を選択して当該媒体を処理容器2の内部へ供給することにより、結果的に異なる音速の媒体64を利用することができる。このため、媒体64を介した被加工材12への衝撃波の作用速度を容易に変更できる。
【0118】
この発明に従った加工方法では、以下の工程を実施する。すなわち、加工対象物を金型上に配置する工程(金型へ加工対象物をセットする工程(S10))、加工対象物と接触するように加工対象物側媒体を配置する工程(図17に示した金型上に中間部材と処理容器とを配置する工程(S520)または図22に示した下部媒体を下部処理容器内へ配置する工程(S720))、加工対象物側媒体上に電極側媒体を配置する工程(図17に示した媒体を処理容器内へ配置する工程(S30)または図22に示した媒体を上部処理容器内へ配置する工程(S740))、電極側媒体に接触するように電極を配置する工程(図17および図22に示した、電極を所定位置へセットする工程(S40))、電極において発生させた放電に起因する衝撃波を、電極側媒体および加工対象物側媒体を介して加工対象物に作用させることにより、加工対象物を金型に沿うように塑性変形させる加工工程(図17および図22に示した、放電工程(S70))、を実施する。このようにすれば、放電に起因する衝撃波を電極側媒体(媒体73)および加工対象物側媒体(中間部材71(図16、図18〜図20参照)または中間部材71および下部媒体82(図21および図23参照)を介して加工対象物(被加工材12)に伝えることができる。そのため、当該衝撃波により、通常の機械加工の場合よりも速い加工速度で、被加工材12を金型13に沿うように容易に塑性変形させることができる。また、電極(同軸電極1)に供給する電力の条件などを変更することによって放電の発生状況を変化させることにより、被加工材12への放電による衝撃波の作用速度を変化させることができる。このため、放電に起因する衝撃波による被加工材12の歪速度(加工速度)を任意に変更することができる(すなわち、超塑性状態の発現程度の制御範囲を大きくすることができる)。
【0119】
また、媒体73および中間部材71を介して(図16、図18〜図20参照)、または媒体73、中間部材71および下部媒体82を介して(図21および図23参照)衝撃波を被加工材12へ伝えるので、被加工材12と媒体73とが直接接触することはない。そのため、被加工材12を構成する材料と反応するような媒体(たとえば被加工材12を腐食させる、あるいは被加工材12を溶解するような媒体)を媒体73として利用することができる。このため、媒体73として用いる材料の選択の自由度を大きくする事ができる。また、被加工材12を媒体73に接触させないため、被加工材12を加工装置へセットする、あるいは被加工材12を取外す際に、被加工材12の表面に付着した媒体を除去するといった工程を省略できる。このため、被加工材12のハンドリングが容易になる。また、被加工材12と媒体73とが直接接触しないので、放電に伴い同軸電極1から発生するごみなどの異物が媒体73中を移動して被加工材12に付着するといった問題の発生を抑制できる。
【0120】
また、同軸電極1での放電に起因する衝撃波を利用するので、火薬などを利用して爆轟圧を発生させる場合に比べて、各種の制限に対する対応や安全対策などの処置にかかる手間を少なくすることができる。また、同軸電極1自体は放電を一度発生させた程度では破損しないため、同じ同軸電極1を用いて連続的に放電を発生させることができる。このため、連続的かつ効率的に被加工材12の加工を行なうことができる。
【0121】
また、プレス加工などに用いる金型は通常雄型と雌型との2つの部品が必要になるが、本発明による加工方法では、金型13として上記雌型(あるいは雄型)のいずれか一方のみを用いる。このため、金型13として1つの部品(金型)だけを準備すればよく、従来より金型に要するコストを低減できる。また、金型が雄型と雌型という2つの部品から構成される場合には、当該雄型と雌型との間隙(クリアランス)の寸法精度を管理する必要があったが、本発明による加工方法ではそのようなクリアランスの寸法精度を考慮する必要もない。この点からも、金型13の製造コストを低減できる。
【0122】
上記加工方法において、図16、図18〜図20に示すように、加工対象物側媒体は弾性体部材としての中間部材71により構成されていてもよい。この場合、被加工材12には弾性体部材としての中間部材71が接触する。つまり、媒体73と被加工材12とが直接接触することはない。そのため、被加工材12を構成する材料と反応するような媒体73を利用することができる。このため、媒体73として用いる材料の選択の自由度を大きくする事ができる。また、被加工材12を中間部材71と接触させるので、本発明による加工方法を実施する加工装置へ被加工材12をセットする、あるいは加工装置からから被加工材12を取外す際に、被加工材12の表面に付着した媒体73を除去するといった工程が不要になる。このため、被加工材12のハンドリングが容易になる。また、被加工材12と媒体73とが直接接触しないので、放電に伴い同軸電極1から発生するごみなどの異物が媒体73中を移動して被加工材12に付着するといった問題の発生を抑制できる。
【0123】
上記加工方法では、図19および図20に示すように、弾性体部材としての中間部材71において加工対象物としての被加工材12と接触する表面には段差部が形成されていてもよい。段差部とは、被加工材12の表面のうちの一部と中間部材71の表面とが接触可能であれば、どのような形状を採用していもよい。たとえば、段差部の形状を図19などに示すような凸形状としてもよい。また、被加工材12の外縁部のみに中間部材71を接触させたい場合には、中間部材71に、被加工材12の表面積よりその平面積が小さい凹部を形成してもよい。そして、中間部材71表面の当該凹部が形成された部分を被加工材12に接触させれば、凹部が形成された部分では中間部材71と被加工材12の表面とは接触しない一方、凹部の周囲に位置する中間部材71の表面部分のみが被加工材12の表面に接触する。この場合、被加工材12の表面において中間部材71の段差部が接触する部分の位置を適宜変更することで、被加工材12の表面において放電に起因する衝撃波が作用する部分の位置を任意に変更できる。
【0124】
上記加工方法において、図19および図20に示すように、段差部は、弾性体部材としての中間部材71の表面から被加工材12側に突出する凸形状部としての凸部75であってもよい。この場合、中間部材71の裏面に凸部75を形成するという比較的簡単な構成で、被加工材12における衝撃波の印加位置を変更できる。また、凸部75において被加工材12に接触する面の平面形状を適宜変更すれば、被加工材12において衝撃波が印加される領域の平面形状を任意に変更することができる。また、凸部75において被加工材12に接触する面の形状(平面形状を含む立体的な形状)を、被加工材12の下側に配置されている金型13の形状に応じて決定してもよい。
【0125】
上記加工方法において、加工対象物側媒体は、図21および図23に示すように、下部媒体82と隔離部材としての中間部材71とを含む。隔離部材としての中間部材71は弾性体により構成されていてもよい。下部媒体82は被加工材12と接触してもよい。中間部材71は、下部媒体82と電極側媒体としての媒体73とを隔離するとともに衝撃波を伝播させることができる。この場合、下部媒体82は、同軸電極1が接触する媒体73とは中間部材71により分離された状態になる。そのため、下部媒体82が同軸電極1での放電による影響を直接的に受ける可能性を低減できる。したがって、下部媒体82として、同軸電極1での放電により変質しやすい物質などを用いることができる。このため、下部媒体82について材料の選択の自由度を大きくすることができる。この結果、加工方法における加工条件の設定可能範囲を広げることができる。
【0126】
上記加工方法は、電極側媒体(媒体73)および加工対象物側媒体(図21の中間部材71または図23の中間部材71および下部媒体82)の少なくともいずれか一方における音速を変更する変更工程をさらに備えていてもよい。この場合、媒体73または下部媒体82などにおける音速を変更することにより、媒体73および下部媒体82などを介した被加工材12への衝撃波の作用速度を容易に変更できる。
【0127】
上記加工方法において、変更工程は、媒体73または中間部材71(図19参照)、下部媒体82(図23参照)または中間部材71の少なくともいずれか1つの温度を変更する工程を含んでいてもよい。この場合、媒体73中、中間部材71中または下部媒体82中の音速は、媒体73、中間部材71または下部媒体82の温度により変化するので、媒体73などのの温度を変更することにより容易に媒体73などでの音速を変更できる。このため、媒体73、中間部材71または下部媒体82を介した被加工材12への衝撃波の作用速度を容易に変更できる。
【0128】
上記加工方法において、変更工程は、電極側媒体(媒体73)または加工対象物側媒体(図21および図23に示す下部媒体82)の圧力を変更する工程を含んでいてもよい。この場合、媒体73中または下部媒体82中の音速は当該媒体に加えられる圧力によっても変化するので、当該圧力を変更することにより容易に媒体73中または下部媒体82中の音速を変更できる。このため、媒体73および下部媒体82を介した被加工材12への衝撃波の作用速度を容易に変更できる。
【0129】
上記加工方法において、変更工程は電極側媒体(媒体73)または加工対象物側媒体(下部媒体82)に添加物を混入する工程を含んでいてもよい。この場合、媒体73中または下部媒体82中の音速は当該媒体に添加物を混入することによっても変化するので、当該添加物を媒体73中または下部媒体82中に混入することにより、容易に媒体73中または下部媒体82中の音速を変更できる。このため、媒体73および下部媒体82を介した被加工材12への衝撃波の作用速度を容易に変更できる。
【0130】
上記加工方法において、変更工程は、電極側媒体(媒体73)および加工対象物側媒体(下部媒体82および中間部材71の少なくともいずれか一方)の少なくともいずれか一方を複数種類の媒体の間で切換えることを含んでいてもよい。この場合、媒体73中、中間部材71中または下部媒体82中の音速は媒体の種類によっても変化するので、複数種類の媒体から任意の媒体を選択して、選択した当該媒体を媒体73、中間部材71または電極側媒体または下部媒体82として加工装置へ供給することにより、結果的に異なる音速の媒体を利用することができる。このため、媒体を介した被加工材12への衝撃波の作用速度を容易に変更できる。
【0131】
上記加工方法において、電極としての同軸電極1は、中心導電体としての中心電極20と、絶縁部材としての絶縁体21と、外周導電体としての外周電極22とを含む。中心電極20は、中心軸に沿って延在し、外周面を有していてもよい。絶縁体21は中心電極20の外周面上に配置されていてもよい。外周電極22は、絶縁体21を囲むように配置されていてもよい。外周電極22は複数の外周導電体部分としての外周電極部分25a〜25eを含んでいてもよい。複数の外周電極部分25a〜25eは、中心軸の延びる方向において互いに間隔を隔てて配置されている。加工工程では、同軸電極1の複数の外周電極部分25a〜25eの間においてそれぞれ放電が発生してもよい。この場合、加工工程では複数の外周電極部分25a〜25eの間で放電を発生させることができ、また、同軸電極1の先端部において中心電極20(図4では中心電極20に電気的に接続された先端電極部分26と外周電極22との間においても放電を発生させることができる。このため、外周電極22が図1に示すように単一の構造材である電極を用いて、電極の先端部(中心電極20と外周電極22との間)のみで放電を発生させる場合より、放電を発生させる場所の数を増やすことができる。このように放電が起きる個所の数を増やすことにより、同軸電極1に投入する電流値を一定にした場合において、従来より放電抵抗を増加させることができる。ここで、すでに述べたように衝撃波となって被加工材12の塑性加工に利用されるエネルギーは放電抵抗に比例する。したがって、同軸電極1での放電による衝撃波の加工能力を増大させることができる。
【0132】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】本発明による加工装置の実施の形態1を示す模式図である。
【図2】図1に示した加工装置の同軸電極の断面模式図である。
【図3】図1および図2に示した加工装置を用いた加工方法を示すフローチャートである。
【図4】図1および図2に示した本発明による加工装置の実施の形態1の変形例を示す模式図である。
【図5】図4に示した加工装置の同軸電極の断面模式図である。
【図6】本発明による加工装置の実施の形態2を示す模式図である。
【図7】図6に示した加工装置を用いた加工方法を示すフローチャートである。
【図8】図6に示した本発明による加工装置の実施の形態2の第1の変形例を示す模式図である。
【図9】図6に示した本発明による加工装置の実施の形態2の第2の変形例を示す模式図である。
【図10】本発明による加工装置の実施の形態3を示す模式図である。
【図11】図10に示した加工装置を用いた加工方法を示すフローチャートである。
【図12】図10に示した本発明による加工装置の実施の形態3の変形例を示す模式図である。
【図13】本発明による加工装置の実施の形態4を示す模式図である。
【図14】図13に示した加工装置を用いた加工方法を示すフローチャートである。
【図15】図13に示した本発明による加工装置の実施の形態4の変形例を示す模式図である。
【図16】本発明による加工装置の実施の形態5を示す模式図である。
【図17】図16に示した加工装置を用いた加工方法を示すフローチャートである。
【図18】図16に示した本発明による加工装置の実施の形態5の変形例を示す模式図である。
【図19】本発明による加工装置の実施の形態6を示す模式図である。
【図20】図19に示した本発明による加工装置の実施の形態6の変形例を示す模式図である。
【図21】本発明による加工装置の実施の形態7を示す模式図である。
【図22】図21に示した加工装置を用いた本発明による加工方法を示すフローチャートである。
【図23】図21に示した本発明による加工装置の実施の形態7の変形例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0134】
1 同軸電極、2,70 処理容器、5 同軸ケーブル、6 パルスパワー源、7 ギャップスイッチ、8 コンデンサ、9 電源、11 水、12 被加工材、13 金型、14,57 空間、15,85 加熱部材、16,86 冷却部材、17,87 温度測定部材、18 固定部材、20 中心電極、21 絶縁体、22 外周電極、24 接続部、25a〜25e 外周電極部分、26 先端電極部分、30 コントローラ、31,36 開口部、35 圧力容器蓋、37 パッキング部材、38 圧力容器本体、39 圧力容器、40,41,51,52 フランジ部、42 溝部、43 Oリング、44 固定部材、45 給気口配管、46 排気口配管、47a,47b,62,62a〜62e 弁、48a,48b,63a〜63d ポンプ、49 圧力計、50 処理容器蓋、55 計測用配管、56 雰囲気、60a〜60d,67 配管、61,61a〜61d タンク、64,73 媒体、65 排出配管、66 添加物、71 中間部材、72 ベース部材、75 凸部、80 上部処理容器、81 下部処理容器、82 下部媒体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型上に配置された加工対象物と、前記加工対象物に接触するように配置された媒体とを内部に保持する処理容器と、
前記処理容器の内部において、前記媒体と接触するように配置され、放電を発生させるための電極と、
放電を発生させるため、前記電極へ電力を供給する電力供給部と、
前記媒体における音速を変更するための音速変更部材とを備える、加工装置。
【請求項2】
放電を発生させるための電極と、
前記電極と接触するように配置される媒体を介して、前記電極と対向して配置されるとともに、前記媒体と接触する弾性体部材と、
前記弾性体部材において、前記媒体と接触する表面とは反対側に位置する裏面側に配置され、加工対象物と接触する金型を保持する保持部材と、
放電を発生させるため、前記電極へ電力を供給する電力供給部とを備え、
前記弾性体部材の裏面と前記金型との間において、前記弾性体部材の裏面と接触するように前記加工対象物は配置される、加工装置。
【請求項3】
前記弾性体部材の裏面には段差部が形成され、
前記弾性体部材の段差部は、前記加工対象物の表面の一部と接触する、請求項2に記載の加工装置。
【請求項4】
放電を発生させるための電極と、
前記電極と接触するように配置される電極側媒体を介して、前記電極と対向して配置されるとともに、前記電極側媒体と接触する弾性体部材と、
前記弾性体部材において前記電極側媒体と接触する表面とは反対側に位置する裏面に接触するように配置される下部媒体を介して、前記弾性体部材と対向して配置される保持部材とを備え、
前記保持部材は、前記下部媒体と接触するように配置された加工対象物および前記加工対象物を支持する金型を保持する、加工装置。
【請求項5】
前記電極は、
中心軸に沿って延在し、外周面を有する中心導電体と、
前記中心導電体の外周面上に配置された絶縁部材と、
前記絶縁部材を囲むように配置された外周導電体とを含み、
前記外周導電体は、前記中心軸の延びる方向において互いに間隔を隔てて配置された複数の外周導電体部分を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の加工装置。
【請求項6】
加工対象物を金型上に配置する工程と、
前記加工対象物と接触するように媒体を配置する工程と、
前記媒体に接触するように電極を配置する工程と、
前記媒体中の音速を変更する変更工程と、
前記変更工程により前記媒体中の音速の値が変更された状態で、前記電極において発生させた放電に起因する衝撃波を、前記媒体を介して前記加工対象物に作用させることにより、前記加工対象物を前記金型に沿うように塑性変形させる加工工程とを備える、加工方法。
【請求項7】
加工対象物を金型上に配置する工程と、
前記加工対象物と接触するように加工対象物側媒体を配置する工程と、
前記加工対象物側媒体上に電極側媒体を配置する工程と、
前記電極側媒体に接触するように電極を配置する工程と、
前記電極において発生させた放電に起因する衝撃波を、前記電極側媒体および加工対象物側媒体を介して前記加工対象物に作用させることにより、前記加工対象物を前記金型に沿うように塑性変形させる加工工程とを備える、加工方法。
【請求項8】
前記加工対象物側媒体は、
前記加工対象物と接触する下部媒体と、
前記下部媒体と前記電極側媒体とを隔離するとともに衝撃波を伝播させることができる隔離部材とを含む、請求項7に記載の加工方法。
【請求項9】
前記電極側媒体および前記加工対象物側媒体の少なくともいずれか一方における音速を変更する変更工程をさらに備える、請求項7または8に記載の加工方法。
【請求項10】
前記電極は、
中心軸に沿って延在し、外周面を有する中心導電体と、
前記中心導電体の外周面上に配置された絶縁部材と、
前記絶縁部材を囲むように配置された外周導電体とを含み、
前記外周導電体は、前記中心軸の延びる方向において互いに間隔を隔てて配置された複数の外周導電体部分を含み、
前記加工工程では、前記電極の複数の外周導電体部分の間においてそれぞれ放電が発生する、請求項6〜9のいずれか1項に記載の加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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