説明

加熱処理された動物性組織由来原料の検出試薬および検出方法

【課題】 熱変性した血清アルブミンを指標とした、試料中での加熱処理された動物性組織由来原料の存在を検出する検出試薬、及び該検出試薬を使用した検出方法の提供。
【解決手段】 動物性組織由来原料中の血清アルブミンに対する抗体またはその抗原結合性フラグメントが標識物質により標識された標識抗体(A)と前記試料とを、前記動物性組織由来原料中の血清アルブミンに対する抗体またはその抗原結合性フラグメントが固定された検出領域2を備えた担体(B)1の前記検出領域2に接触させ、前記検出領域2からの信号に基づいて、前記試料中の前記動物性組織由来原料の有無を判定する方法とそのための検出試薬10Aである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱処理された動物性組織由来原料の検出に関する。
【背景技術】
【0002】
牛、豚、鶏に代表される動物の組織由来のタンパク質等は、食品や家畜用飼料における重要な栄養源として広く用いられている。近年、食品の安全性に対する消費者の関心が急速に高まる中で、これら動物性組織由来原料の食品への混入を厳重に監視する必要が生じてきた。
なかでも、ウシ海綿状脳症(BSE)のヒトに対する感染のリスクは重大な問題であり、EU科学運営委員会は、「食物経由によるウシ海綿状脳症(BSE)へのヒトの曝露リスク(HER)に関する科学運営委員会の意見」(1999年12月10日採択)と題する報告の中で、「BSEと変異型クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)の関連を示す疫学的・病理学的・分子生物学的な確たる証拠を得ている。」とし、特に、BSE感染牛からの肉骨紛の家畜用飼料への使用について言及している。つまり、大半の可食部分を取り去った後の骨や、それに付着している少量の肉、筋等については、133℃以上の高温での加熱加圧で処理し、肉骨粉とした後に家畜用飼料等に再利用されてきており、一方で、BSE臨床徴候を発現した牛(潜伏期間の終わりの段階で)のBSE感染負荷のほとんどは、主に中枢神経系組織(脳、脊髄など)にあることが認められることから、当該肉骨粉の家畜用飼料への使用が重大な関心を集めていたのである。
これを受けて、EUでは、EU農相理事会特別会合において、域内では、2001年1月1日からの肉骨粉の家畜用飼料への使用禁止が合意されている。また、我が国でも、BSEの国内における確認を受けて、平成13年10月からは肉骨粉の輸入、国内における製造・出荷を一時全面停止した。これらを受けて、各自治体や関連業界等には、牛用飼料への動物由来タンパク質(肉骨粉を含む)の混入防止等に関する指針等が示され、肉骨粉等の家畜用飼料への混入の検査への関心が高まっている。
【0003】
また、近年、食品の安全性に対する消費者の関心の1つとして、食品アレルギーがあげられる。食品アレルギーとして代表的なものは、卵、牛乳、小麦、そば、落花生などであるが、牛、豚、鶏肉、或いは血清タンパク質に対するアレルギーも重要である。
【0004】
特許文献1は、このような食物アレルゲンの免疫学的検出について記載している。当該公開公報には、アレルギー患者からの血清プール内に、加熱卵抗原に対して反応する抗体と非加熱卵抗原に対して反応する抗体が存在していたことが記載され、これは、加熱性動物タンパク質を特異的なアレルゲンとするアレルギー患者が存在することを意味する。そして、当該公報は、ELISAなどの免疫学的手法において、加熱性動物タンパク質をも検出するための抗体の必要性を認め、120℃で30分間のオートクレーブ処理を行った卵のアレルゲン分画(オボアルブミン、オボムコイド、リゾチーム、トランスフェリンを含む混合物)を免疫原にして免疫した動物からの抗体が、非加熱卵抗原と加熱卵抗原を、ほぼ同等の感度で検出できることも示し、そのような高温加熱処理を行った変性タンパク質を免疫原にして得た抗体の使用が、非加熱および加熱タンパク質の両者の同時検出を可能にすることから、食品アレルゲンの検査に好ましいことを記述している。
【0005】
しかしながら、別の観点から見れば、当該公報では、加熱性動物タンパク質を免疫源として得た抗体が、当該加熱性動物タンパク質のみならず、非加熱性の動物タンパク質をも非特異的に認識してしまい得ること、すなわち、両者の間での高い交差反応性の存在を示しているのである。
【0006】
つまり、上記のような、加熱性動物タンパク質と非加熱性動物タンパク質とに対する抗体の交差反応性は、肉骨粉の混入や、加熱性動物タンパク質アレルギー患者のためのアレルゲンの免疫学的検査にとって好ましいものではない。すなわち、肉骨粉は、BSEとの関係等から、133℃以上の高温での加熱加圧で処理して用いられるので、そのように高温加熱処理された動物組織のみを特異的に検出して、当該肉骨粉の存在を正しく同定することが必要である。そうでないと、加熱性動物ンパク質と非加熱性動物タンパク質とに対する抗体の交差反応性は、当該抗体を用いた免疫学的手法による検査において、本来、検査の対象ではない非加熱動物組織、つまり肉骨紛ではない原料さえも検出して、検査の擬陽性判定を招き、ひいては、本来、排除する必要のない、肉骨粉を含まない飼料等をも不適格として、家畜用飼料業者や肥育家の損失を招く。
【0007】
また、加熱性動物タンパク質アレルゲンの免疫学的検査においても、それと同時に非加熱性動物タンパク質を検出したのでは、検査の擬陽性判定の結果として、本来、非加熱性動物タンパク質は摂取できる筈のアレルギー患者の食品選択の余地を不当に奪うことになるのである。
【特許文献1】特開2003−155297号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明は、加熱性動物タンパク質のみを特異的に認識し、非加熱性動物タンパク質には交差反応性を示さない抗体による、試料中の加熱処理された動物性組織由来原料の存在を検出するための、免疫学的手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、血清アルブミンを加熱して変性したタンパク質を免疫原として免疫した動物からの抗体が、加熱変性した血清アルブミンを特異的に認識し、非加熱の血清アルブミンに対しては交差反応性を示さないことを見出した。これは、加熱性動物タンパク質を免疫原として得た抗体が、当該加熱性動物タンパク質のみならず、非加熱性の動物タンパク質をも非特異的に認識してしまい得ること、すなわち、両者の間での高い交差反応性の存在を示す先行技術に照らして、驚嘆すべき結果であった。
【0010】
特に、本発明者らは、そのような抗体を、ポリクローナル抗体としても調製できることを見出した。理論に拘束されることは好まないが、これは、血清アルブミンの熱に対するハプテン提示等をも含み得る免疫学的挙動が、他の動物性タンパク質と異なることを示唆し、また、血清アルブミンにおいては、そのような加熱性動物タンパク質に対する特異的抗体の調製が容易であることを示している。
【0011】
更に、血清アルブミンは、加熱加圧処理後でも不溶化しないことが判明し、これは、本発明に更なる利用性を与える。
【0012】
特に、血清アルブミンは、血清タンパク質として肉骨粉をも含む動物性組織由来原料に偏在しているものであるから、それは、極めて多種の形態の当該原料を網羅し得る。
【0013】
従って、本発明者らは、ここに、当該熱変性した血清アルブミンを指標とした、試料中での加熱処理された動物性組織由来原料の存在を検出する新規な検出試薬、及び該検出試薬を使用した新規な検出方法を提供する。
すなわち、本発明の検出試薬は、試料中に存在する100℃を超える温度で加熱処理された動物性組織由来原料を検出するための検出試薬であって、前記動物性組織由来原料中の血清アルブミンに対する抗体またはその抗原結合性フラグメントが、標識物質により標識された標識抗体(A)と、前記動物性組織由来原料中の血清アルブミンに対する抗体またはその抗原結合性フラグメントが固定された検出領域を備えた担体(B)とを有することを特徴とする。
ここで、以下の1)〜10)を本発明の検出試料に対する好ましい態様としている。
1)前記検出試薬の動物性組織由来の原料が120℃以上、または130℃以上の温度で加熱処理された原料であること。
2)前記1)の動物性組織由来原料が加熱処理と同時に加圧処理された原料であること。
3)前記2)の動物性組織由来の原料が肉骨粉であること。
4)前記1)〜2)の試料が缶詰食品であること。
5)前記3)の試料が家畜用飼料であること。
6)前記1)〜5)の抗体またはその抗原結合性フラグメントが120℃以上の温度で加熱処理した血清アルブミンに対しての抗体またはその抗原結合性フラグメントであること。
7)前記6)の抗体またはその抗原結合性フラグメントが加圧処理した血清アルブミンに対しての抗体またはその抗原結合性フラグメントであること。
8)前記1)〜7)の標識物質が有色微粒子であること。
9)前記1)〜8)の担体(B)がニトロセルロース膜、ナイロン膜、ポリビニリデンジフルオライド膜からなる群より選ばれる1種であること。
10)前記1)〜9)の検出試薬がキットの形態であること。
【0014】
また、本発明の検出方法は、試料中に存在する100℃を超える温度で加熱処理された動物性組織由来原料を検出する方法であって、前記動物性組織由来原料中の血清アルブミンに対する抗体またはその抗原結合性フラグメントが標識物質により標識された標識抗体(A)と前記試料とを、前記動物性組織由来原料中の血清アルブミンに対する抗体またはその抗原結合性フラグメントが固定された検出領域を備えた担体(B)の前記検出領域に接触させ、前記検出領域からの信号に基づいて、前記試料中の前記動物性組織由来原料の有無を判定することを特徴とする。
ここで、以下の11)〜19)を本発明の検出方法に対する好ましい態様としている。
11)前記検出試薬の動物性組織由来の原料が120℃以上、または130℃以上の温度で加熱処理された原料であること。
12)前記11)の動物性組織由来原料が加熱処理と同時に加圧処理された原料であること。
13)前記12)の動物性組織由来の原料が肉骨粉であること。
14)前記11)〜12)の試料が缶詰食品であること。
15)前記13)の試料が家畜用飼料であること。
16)前記11)〜15)の抗体またはその抗原結合性フラグメントが120℃以上の温度で加熱処理した血清アルブミンに対しての抗体またはその抗原結合性フラグメントであること。
17)前記16)の抗体またはその抗原結合性フラグメントが更に加圧処理した血清アルブミンに対しての抗体またはその抗原結合性フラグメントであること。
18)前記11)〜17)の標識物質が有色微粒子であること。
19)前記11)〜18)の担体がニトロセルロース膜、ナイロン膜、ポリビニリデンジフルオライド膜からなる群より選ばれる1種であること。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、加熱性動物タンパク質のみを特異的に認識し、非加熱性動物タンパク質には交差反応性を示さない抗体を使用することにより、試料中の100℃を超える温度で加熱処理された動物性組織由来原料の存在を確実に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書において、「動物性組織由来原料」の用語は、血清アルブミンを含有する任意の動物組織、例えば、筋肉や骨、皮膚組織、血液に由来する原料を含み得る。筋肉組織は、食品における主要な成分となり得ることから興味深く、また、肉骨粉も特に興味深い本発明の対象である。本発明の重要な側面の1つは、当該肉骨粉のような、高温で加熱処理された動物性組織由来原料を特異的に認識し、高温加熱処理されていない動物性組織由来原料をそれらと区別し得ることにある。従って、本明細書にいう高温加熱処理、あるいは高温での加熱処理とは、当該動物性組織を認識する抗体の特異性に影響を与え得る加熱条件による処理を意味し、100℃を超える加熱処理に代表される、食品の加熱加工や殺菌の際に適用されるような温度処理を指し、好適には120℃以上、さらに好適には130℃以上を指す。具体的には、例えば、適切な加圧処理を伴ってよい、缶詰食品等の殺菌時の処理条件である121℃や、肉骨粉製造時の133℃以上の温度があげられる。なお、当該動物性組織由来原料は、加熱処理以外の任意の追加処理を受けていてよく、例えば、破砕、粉砕、乾燥、各種酵素処理、塩への浸漬、防腐処理等の、食品或いは飼料製造時に用いられ得る任意の追加処理を単独でまたは組み合わせて施されていてよい。
【0017】
本発明における試料として好適なものの中には、前記動物性組織由来原料が意図的に配合され得る、或いは意図しないで混入し得る、食品、医薬、家畜用飼料があげられるが、これに限定されない。特に、家畜用飼料中の肉骨粉等の検出は、本発明の重要な課題の一つである。
【0018】
本発明では、血清アルブミンを100℃を超える温度で加熱して変性した熱変性タンパク質を抗体作製の際の免疫原として用いる。当該熱変性タンパク質を免疫原として用いて得た抗血清アルブミン抗体の典型的な利点は、先に述べた。各種の血清アルブミンが容易に入手可能であり、また多くのものについて市販されている。例えば、牛血清アルブミンは、利用可能な実験用試薬として、和光純薬工業(株)(例えば、Cat.No.014−15134)等から購入してよい。また、試薬として入手できない場合においても、血清アルブミンの血清からの調製方法自体は公知であり、当該公知のいかなる方法に基づいても、任意の動物由来の血清アルブミンを容易に自家調製し得る。
次いで、該血清アルブミンの加熱処理による変性は、実験室的に用い得る任意の加熱手段により達成できる。例えば、任意の加熱器により、各種動物由来の血清アルブミンを、乾式、或いは湿式で、100℃を超える温度まで昇温し、実質的な時間、該温度に保持すればよい。好ましくは、市販のオートクレーブを用いて、溶液状態の血清アルブミンを加熱処理または加熱加圧処理すればよく、例えば、121℃で40分、または135℃で30分間、オートクレーブ処理すればよい。
【0019】
本発明では、上記のような手法で熱変性した血清アルブミンを免疫原として、当該熱変性した血清アルブミンに対する抗血清或いは抗体を調製する。具体的に、当該免疫動物からの抗血清は、例えば、アジュバントを含む前記免疫原を免疫動物に皮下注射し、当該皮下投与を適当な間隔(例えば1週間)で所定の回数(例えば5回)繰り返し、最終免疫後に全血を採集して、これを分離することで得ることができる。そのような方法は、例えば、CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY、第2.4章(発行元:John Wiley & Sons, Inc., New York)等に記載されている。次いで、前記抗血清からのポリクローナル抗体の精製は、動物の免疫に用いた熱変性血清アルブミンまたはその部分ペプチドをクロマトグラフィー用の樹脂、例えば、CNBr活性化セファロースやHiTrap NHS−activated(ともにAmersham Pharmacia社製)に共有結合で固相化し、該固相化樹脂に上記抗血清を供して当該抗血清中の抗体を特異的に樹脂上に吸着させ、ついで、該樹脂上に吸着した抗体を適切な緩衝液やカオトロピックイオン等を用いて溶出させて回収することでも達成できるが、これに限定されない。
【0020】
また、本発明の抗体をモノクローナル抗体として得る場合は、当業者に既知の手法を用いて、熱変性血清アルブミンで免疫した実験動物、好ましくはマウス・ラット・ハムスターなどのげっ歯類動物の脾細胞とミエローマ細胞株等の細胞融合用のペアレントセルを融合させ、得られたハイブリドーマの中から好適なものを選択してクローン化し、次いで、その融合細胞を生体外または生体内で培養し、この培養混合物より特異性の高いモノクローナル抗体を採取する。
【0021】
また、本発明では、上記の抗体を酵素消化処理して得られるような当該抗体の抗原結合性フラグメントを用いてもよい。当該フラグメントの例には、Fabフラグメント、Fab’フラグメント、F(ab’)フラグメント、F(v)フラグメント、H鎖モノマー又はダイマー、L鎖モノマー又はダイマー、1個のH鎖および1個のL鎖からなるダイマー等が含まれる。該フラグメントは、例えばペプシンやパパイン等のプロテアーゼにより完全な抗体を消化するか、消化後、必要に応じて還元剤で処理することにより得ることができる。H鎖およびL鎖モノマーは、完全な抗体をジチオスレイトール等の還元剤で処理した後、精製した鎖状体を分離することにより得ることもできる。
【0022】
本発明による加熱処理された動物性組織由来原料の検出は、当該原料中の加熱変性された血清アルブミンの存在を指標として、上記抗体類による免疫学的手法に基づくアッセイにより達成される。
当該手法としては一般的なサンドイッチアッセイが例示され、本発明においては具体的に、イムノクロマト法(例えば、特開平11−125636号公報、特開2004−85425号公報を参照)、及びイムノフィルター法(例えば、特開平8−220099号公報、特開平9−61429号公報を参照)が好適である。
【0023】
なお、イムノアッセイ法の中にはELISA(Enzyme-linked immunosorbent assay)法があり、本発明の抗体類を用いて同様な検査を実施することが可能であると考えられるが、ELISA法は検査が完了するまでに3時間以上を必要とする。ところが、本発明で行われるイムノクロマト法やイムノフィルター法は短時間で試験の判定が完了する。さらに、ELISA法では、各検出試薬や試料の量、反応時間や反応温度の変化で、結果が大きく左右されるが、イムノクロマト法やイムノフィルター法では、操作上は規定量の試料を添加するだけであって、特別な機器や熟練技術者を必要とすることなく検出可能という優れた効果を有する。
特に本発明においては、検査方法が簡便に実施可能であるので、試料の採取現場において、簡単に、加熱された動物性組織由来原料を検出することが可能である。よって、本発明のように、イムノクロマト法やイムノフィルター法を100℃を超える温度で加熱処理された動物性組織由来原料の検出法に適用したことは、従来のイムノアッセイ法や他の検出法に比して、有利な効果を有することは明らかである。
【0024】
次に、本発明の検査試薬を構成する標識抗体(A)と、展開担体(B)について説明する。
なお、以下の説明において、100℃を超える温度で加熱処理された動物性組織由来原料のことを「検出対象物質」ということがある。
【0025】
[標識抗体(A)]
本発明において、標識抗体(A)とは、100℃を超える温度で加熱処理された動物性組織由来原料に含まれる血清アルブミンに対する抗体またはその抗原結合性フラグメントが標識物質により標識されたものを指す。
標識物質による標識は、アフィニティークロマト法において通常に用いられる方法によって行うことが出来る。標識に用いられる標識物質としては、通常には、微粒子が用いられる。また、以下の記載において、標識抗体(A)のうち、特に微粒子により標識されたものを「反応微粒子」ということがある。
微粒子は、検出対象物質の存在を肉眼で判定するための標識であり、肉眼判定を容易にするためには有色微粒子であることが好ましい。材質としては、例えばポリスチレンラテックス等の合成高分子、ゼラチン等の天然高分子からなる均質な球状粒子、又は金コロイド等の金属コロイド粒子等、水不溶性素材が上げられる。なお、金属コロイド粒子は、その本質的な色があるため敢えて着色する必要は無い。また、無色であるものは、色素を用いて適宜着色すればよい。微粒子の粒径は、担体(B)の孔径よりも小さくなければならないが、概ね0.01〜5μmの範囲で使用でき、0.05〜2μm程度が特に望ましい。
【0026】
標識物質を上述の抗体またはその抗原結合性フラグメントに固定する方法は、物理吸着法、化学結合(共有結合)法、その他いずれの公知の方法であってもよく、上述の抗体またはその抗原結合性フラグメントが、標識物質から脱離しない方法であれば、いかなる方法でもよい。
このようにして調製された標識抗体(A)は、懸濁液の状態や、グラスファイバー等の部材に浸潤させた状態で、乾燥条件下において保存することが可能である。
【0027】
[担体(B)]
本発明において用いられる担体(B)は、検出対象物質と、これと特異的に結合する上述の抗体またはその抗原結合性フラグメントとの結合を介して、標識物質を間接的に捕捉し、標識抗体(A)を固定化するものである。担体(B)としては、イムノクロマト法においては、クロマトグラフィー担体として水溶液中で対象物を展開することができるものが使用され、イムノフィルタ−法においては、未反応の標識抗体(A)を通過させることができるものが使用される。
【0028】
担体(B)の形態は、通常、膜である。材質としては、有孔の三次元構造膜、例えばナイロン膜、ニトロセルロース膜、ポリビニリデンジフルオライド膜等が挙げられ、合成または天然高分子膜のいずれでもよい。また、膜の孔径は標識抗体(A)が目詰まりを起こさないサイズであればよいが、0.2〜8μmの範囲であることが、特に望ましい。
【0029】
担体(B)には、検出領域が形成されている。検出領域は、担体(B)上の特定の領域に、検出対象物質に対して特異的に結合する上述の抗体またはその抗原結合性フラグメントが固定されて形成されたものであって、試料中に100℃を超える温度で加熱処理された動物性組織由来原料が存在しているかどうかを判定するための領域である。
すなわち、試料中の100℃を超える温度で加熱処理された動物性組織由来原料は、標識抗体(A)と結合するとともに、検出領域に固定された上述の抗体またはその抗原結合性フラグメントとも結合する。よって、具体的には後述するように、試料と標識抗体(A)とが検出領域に接触することにより、検出対象物質が標識抗体(A)と検出領域に固定されている抗体またはその抗原結合性フラグメントとの間にサンドイッチされた状態となり、検出領域に固定される。その結果、試料中に検出対象物質が存在する場合には、標識物質が間接的に検出領域に固定されることとなり、一方、試料中に検出対象物質が存在しない場合には、標識物質は検出領域に固定されない。よって、検出領域に標識物質が固定されているかどうかが信号となり、検出対象物質の存在の有無を肉眼で判定することができる。
【0030】
検出領域を形成するために、担体(B)に上述の抗体またはその抗原結合性フラグメントを固定する方法としては、物理吸着法、化学結合(共有結合)法、その他いずれの公知の方法であってもよく、抗体またはその抗原結合性フラグメントが担体(B)から脱離しない方法であれば、いかなる方法でもよい。
なお、こうして検出領域が形成された担体(B)には、検出対象物質や、上述の抗体またはその抗原結合性フラグメントとの非特異的な吸着を防止するために、ビニル系水溶性ポリマーを使用してブロッキング処理を行い、乾燥条件下で保存することが好ましい。なかでも、ビニル系水溶性ポリマーとしては、ポリビニルピロリドン、またはポリビニルアルコール等を使用すると良好なブロッキング効果が得られるのでより好ましい。
【0031】
次に、標識抗体(A)と試料とを、担体(B)に形成された検出領域に接触させ、検出領域からの信号に基づいて、試料中の動物性組織由来原料の有無を判定する本発明の検出方法として、好適な実施形態例であるイムノクロマト法およびイムノフィルター法について、具体的に説明する。
[イムノクロマト法]
イムノクロマト法では、担体(B)において展開液が展開する。展開液は、水または緩衝液等に希釈されたものを例示できる。また、試料が液体であって微量のものでない場合には、試料自体を展開液として利用することができる。
【0032】
イムノクロマト法に基づく検出試薬の構成は、通常のアフィニティークロマト法に用いられる試薬において採用されるものと同様でよい。
例えば、標識抗体(A)(コンジュゲートとも呼ばれる場合がある。)を展開液に含ませるための部材(コンジュゲートパッド)を設けることが挙げられる。
コンジュゲートパッドは、コンジュゲートの性質に応じて、適宜作製することができる。例えば、コンジュゲートが反応微粒子の場合には、以下のようにしてコンジュゲートパッドを作製できる。反応微粒子は、コロイド化学的安定性及び反応微粒子の特異結合活性を保持させるため、0.05〜10%(w/w)程度のポリエチレングリコール等の水溶性高分子、その他の安定剤及び防腐剤を含有した緩衝液に懸濁され、冷所で保管されることが好ましい。コンジュゲートパッドとする際には、保管していた反応微粒子をコロイド化学的安定性を保持するために、0.05〜10%(w/w)程度のポリエチレングリコールなどの水溶性高分子、0.05〜10%(w/w)程度の界面活性剤及び0.05〜10%(w/w)程度の糖類などを含有した緩衝液に懸濁し、グラスファイバーなどに染み込ませ乾燥させ、短冊状にする。
【0033】
また、反応時のpHを調整するための緩衝液を含んで乾燥され、試料を吸収した時点でそのpHを調節するためのサンプルパッドや、展開液が検出領域を通過した後で余分な水分を吸収するための吸収パッドなどのパッド類を設けてもよい。これら吸収材には、吸収した試料や展開液の担体(B)上の移動速度が変動しない材質が使用されることが好ましく、そのような材質としては、綿、ろ紙、多孔性プラスチック等を好適なものとして例示できる。吸収材の大きさは、上述の目的を果たすかぎり制限はない。
【0034】
サンプルパッドおよびコンジュゲートパッドの配置については、いずれを上流に配置してもよい。なお、上流とは、展開液の流れ方向について言うものである。サンプルパッドをコンジュゲートパッドの上流に配置した場合には、サンプルパッドに適用された試料自体や、試料に追加して適用された展開液が下流に展開し、コンジュゲートパッドを通過することによりコンジュゲートを含むこととなる。サンプルパッドへの試料や液体の適用、すなわち吸収させるための具体的方法は、これらをパッドへ滴下する方法や、パットへこれらを浸漬する方法が挙げられる。
【0035】
サンプルパッドをコンジュゲートパッドの下流に配置した場合には、コンジュゲートパッドの上流に展開液適用部を設ける。この場合、サンプルパッドに試料を滴下し、展開液適用部に試料を含まない展開液を供給することにより、展開液適用部に供給された展開液は、まずコンジュゲートパッドを通過してコンジュゲートを含み、ついでサンプルパッドを通過して試料を含む。
試料が液体であって微量のものでない場合には、試料自体を展開液として用いることができるので、サンプルパッドを上流に配置する方が、構成が単純となって有利である。
【0036】
サンプルパッドを試料等に浸漬する態様においては、コンジュゲートパッドが試料等に誤って浸漬され、コンジュゲートが試料等に拡散してしまうことを防ぐため、サンプルパッドの下流部からコンジュゲートパッドにかけての部分を非液体透過性の材料で覆うことが好ましい。非液体透過性材料は、試料等の浸漬が外部から目視で確認できるように透明であることが好ましい。
また、担体(B)の検出領域の下流には、コンジュゲートを捕捉する物質を固定した参照領域を設けることもできる。特に参照領域に、少なくとも100℃を超える温度で加熱処理された動物性組織由来原料に含まれる血清アルブミンを固定することにより、展開液が確実に目的通りに展開され、検出操作が終了したことやコンジュゲートの検出物質との反応性についても、参照領域の着色などの信号により確認できる。
【0037】
イムノクロマト法による検出試薬は、公知のイムノクロマト法の検出試薬の場合と同様にして製造できる。
例えば、ニトロセルロース膜、ナイロン膜、ポリビニリデンジフルオライド膜などからなる担体(B)の上に、上述の抗体またはその抗原結合性フラグメントをライン状に固定して検出領域とするとともに、好適には、少なくとも100℃を超える温度で加熱処理された動物性組織由来原料に含まれる血清アルブミンに代表されるような検出対象物質競合物質を担体(B)上にライン状に固定して参照領域とし、さらに、コンジュゲートパッド、サンプルパッド、吸収パッドを作製し、これらを組み合わせて台紙などの支持体に貼り付け大きな短冊とする。そして、これを端から細く切断し、スティック状にすることにより、図1に示すような検出試薬10Aとすることができる。図1中、符号1が膜からなる担体(B)、符号2が検出領域、符号3が参照領域、符号4がサンプルパッド、符号5がコンジュゲートパッド、符号6が吸収パッドであり、支持体の図示は略している。
この場合、台紙などの支持体を吸収パッド6の位置よりも延長させておくことができ、この延長部分は、スティック状にしたときに検出試薬10Aのハンドル部として用いることができる。
【0038】
次に、図1の検出試薬10Aを用いたイムノクロマト法による検出方法を具体的に説明する。
まず、検出対象物質を含む試料を、例えば10倍量の0.5%Tween20、20mM2−メルカプトエタノール溶液、150mM塩化ナトリウム溶液、および1mg/mlオボアルブミン溶液を含む20mMトリス塩酸緩衝液pH7.4で抽出して抽出液を作製し、これを適当な大きさの容器に移す。そして、この中に、図1の検出試薬10Aのサンプルパッド4側の一端を浸漬させる。すると、ペーパークロマトグラフィーの場合と同様に、展開液が担体(B)1上を展開し、抽出液がコンジュゲートパッド5に到達する。ここで、コンジュゲートパッド5中の標識抗体(A)と、抽出液中の検出対象物質との免疫複合体が形成される。
すると、該免疫複合体は、コンジュゲートパッド5が浸潤状態になったことにより該部材内部を移動可能となり、検出領域2に移動する。そして、この検出領域2において、免疫複合体を構成している検出対象物質は、検出領域2に固定されている抗体またはその抗原結合性フラグメントとも結合する。その結果、検出対象物質がサンドイッチされた状態で検出領域2に固定される。このように固定されたことは、標識物質による検出領域2の着色が信号となり肉眼で確認でき、検出対象物質が試料中に存在していること、すなわち陽性であることを判定できる。一方、抽出液中に検出対象物質が存在しない場合は、上述のような免疫複合体が形成されないため、検出領域2には着色は認められず、陰性であると判定できる。
【0039】
また、免疫複合体の形成に関与しなかった標識抗体(A)は、更に下流に位置する参照領域3に移動する。参照領域3には、少なくとも100℃を超える温度で加熱処理された動物性組織由来原料に含まれる血清アルブミンなどがあらかじめ固定されているので、ここで該血清アルブミンなどと標識抗体(A)との複合体が形成される。その結果、参照領域3において、標識抗体(A)中の標識物質による着色が肉眼で確認でき、展開液が確実に担体(B)1上を展開し、検出が終了したことを確認できる。
なお、図2は、本発明のイムノクロマト法に基づく検出方法の原理を示すものであって、図3は、陽性、陰性の各場合における検出領域2および参照領域3の着色の様子を示すものである。
【0040】
このようなイムノクロマト法による検出試薬10Aおよび検出方法によれば、検出対象物質を含む試料を検出試薬10Aに浸漬するなどして供給した後、一定時間経過した時点で、検出領域2に着色が認められた場合は陽性と判定され、着色が認められなかった場合は陰性と判定される。このような方法によれば、浸漬から着色有無の判定までを短時間で行うことが可能であり、その操作はわずか1ステップであって、しかも、判定は検出領域2の着色の有無を調べるのみであることから、特別な機器または専門家の判定を必要とせず、初心者でも簡単に実施できる。
【0041】
[イムノフィルター法]
本発明におけるイムノフィルター法による検出試薬は、標識抗体(A)と、上述の抗体またはその抗原結合性フラグメントが固定され、検出領域が形成された膜からなる担体(B)とを有し、さらに必要に応じて、反応容器と、試料希釈用の溶液と、洗浄液とを含んで構成される。
標識抗体(A)は、コロイド化学的安定性及び標識抗体(A)の特異結合活性を保持させるため、0.05〜10%(w/w)程度のポリエチレングリコ−ル等の水溶性高分子、その他の安定剤、及び防腐剤を含有した緩衝液等に懸濁し、冷所で保管する。また、長期間保管するために懸濁液を凍結乾燥し、検査時に蒸留水等で溶解して使用することもできる。
一方、検出領域が形成された担体(B)は、検出対象物質や標識抗体(A)との非特異的な吸着を防止するため、0.05〜5%(w/w)程度のポリビニルピロリドン等でブロッキング処理を行い、乾燥条件下で保存する。
【0042】
本発明のイムノフィルター法による検出試薬は、検出に関与する各成分の流速、流量等が安定し、かつ使用が容易であることが好ましいため、反応容器を備えた形態とされることが好ましい。具体的には図4に示すように、蓋体11aと容器本体11bとからなるプラスチック製などの反応容器11が使用され、蓋体11aには試料や標識抗体(A)を内部に滴下するため窓12が例えば孔状に形成され、反応容器11の内部には下から吸収材13、検出領域が形成された膜からなる担体(B)14が順次配置され、反応容器11内で移動しないように固定された形態の検出試薬10Bが挙げられる。なお、この際、窓12の位置と担体(B)14における検出領域の位置とは対応するように配置する。また、吸収材13と担体(B)14との間には、これらの接触を完全なものとするため、ティッシュペーパー、メッシュ等を挟んでもよいし、試料や標識抗体(A)の吸収速度の調節のための濾紙等を挟んでもよい。
また、吸収材13には、滴下される試料や標識抗体(A)を十分に吸収でき、かつ、その吸収速度が変動しないような素材が使用されることが望ましい。そのような素材として、綿、不織布、濾紙、多孔性プラスチック等が挙げられる。また、吸収材13の大きさは、上述の目的を果たすかぎり制限はない。
【0043】
検出を実施する場合、試料を希釈せずに直接使用してもよいが、半定量的な検査を行う場合や、標識抗体(A)や担体(B)14の材質、製造法、各種性質に応じて必要と判断された場合には、試料を希釈する。この場合に用いる試料希釈液としては、生理食塩水、各種緩衝液、またはこれらの液に0.05〜3%(w/w)程度の界面活性剤を添加した液を適宜使用できる。
また、検出後には、必要に応じて洗浄液を使用してもよく、洗浄液としても試料希釈液で例示したものを適宜使用できる。
【0044】
次に、図4の検出試薬10Bを用いたイムノフィルター法による検出方法を具体的に説明する。
まず、検出対象物質を含む試料を、例えば10倍量の0.5%Tween20、20mM2−メルカプトエタノール溶液、150mM塩化ナトリウム溶液、および1mg/mlオボアルブミン溶液を含む20mMトリス塩酸緩衝液pH7.4で抽出して抽出液を作製し、これを、反応容器11の窓12に滴下し、完全に吸収材13に吸収させた後、標識抗体(A)を含む懸濁液を滴下し、同様に吸収材13に吸収させることで、これらを担体(B)の検出領域で接触させ、肉眼で担体(B)14上の着色の有無を観察する。ここで、試料中に検出対象物質が含まれると、図5および図6に示すように、検出対象物質は検出領域において標識抗体(A)と結合するとともに、検出領域に固定されている抗体またはその抗原結合性フラグメントとも結合するために着色を呈し、陽性であると判定できる。一方、試料中に検出対象物質が含まれない場合には着色が認められず、陰性であると判定できる。
【0045】
このようなイムノフィルター法による検出試薬10Bおよび検出方法によれば、検出対象物質を含む抽出液の滴下から着色有無の判定までを、約30秒〜10分という短時間で行うことが可能であり、その操作はわずか2ステップである。さらに、判定は担体(B)上の着色の有無を調べるのみであることから、特別な機器または専門家の判定を必要とせず、初心者でも簡単に実施できる。
なお、検出対象物質を含む抽出液の滴下後、または、標識抗体(A)を含む懸濁液の滴下後に、洗浄液を滴下してもよい。
また、判定後の担体(B)上の着色は、乾燥後に色調が変化することなく、長期間保存可能である。
【0046】
イムノクロマト法やイムノフィルター法に基づく本発明の検出試薬は、検出対象物質の検出を使用者が簡便に行えるように、1つの包装内にまとめられたキットの形態とされてもよい。具体例としては、1包装内に、標識抗体(A)を含む懸濁液、検出領域が少なくとも形成された担体(B)の他、必要に応じて、使用説明書、担体(B)を収容する反応容器、試料希釈液、洗浄液などを、任意の測定回数分収納した検出キットとする。
【0047】
以上、イムノクロマト法とイムノフィルター法を例示して説明したように、加熱性動物タンパク質のみを特異的に認識し、非加熱性動物タンパク質には交差反応性を示さない抗体を使用した本発明によれば、試料中の100℃を超える温度で加熱処理された動物性組織由来原料の存在を確実かつ容易に検出できる。
【実施例】
【0048】
次に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
<イムノクロマト法>
(1)検出領域と参照領域が形成された担体(膜)の調製
ニトロセルロース膜(ミリポア社製)について、横300mm×縦30mmに裁断し、長辺の一端(以下、これを上端とする。)から18mmの位置に、少なくとも100℃を超える温度で加熱処理した血清アルブミンに対する抗体(1mg/ml)を塗布機(IVEK社製)を用いて塗布して検出領域とした。なお、この抗体は、次のようにして得た。まず、牛血清アルブミン(和光純薬工業(株)製、カタログ番号014−15134)を水に1%になるように溶解し、135℃で30分間、オートクレーブ処理したものを免疫源として、CURRENT PROTOCOLS IN IMMUNOLOGY(カレント・プロトコール・イン・イムノロジー)、第2.4章、発行元:John Wiley&Sons,Inc.,New Yorkのプロトコールに準じて、ウサギに免疫し、抗血清を得た。同様のオートクレーブ処理をした牛血清アルブミンを樹脂に固相化してカラムに充填し、これに対し、先ほど得た抗血清を通して熱変性牛血清アルブミンに対する抗体を吸着させた。150mM塩化ナトリウムを含む10mMリン酸緩衝液(pH7.2)で充分に洗浄した後、0.1Mグリシン−塩酸緩衝液(pH2.3)で溶出し、高温加熱処理熱変性牛血清アルブミンに対する特異抗体を溶出した。溶出したフラクションは直ちにトリス塩酸緩衝液(pH8.6)を用いて中和した。
次に、上端から8mmの位置に、少なくとも100℃を超える温度で加熱処理された動物性組織由来原料に含まれる血清アルブミン(1mg/ml)を塗布して参照領域とした。
膜を十分に乾燥し、さらに非特異的な吸着を回避するために、ブロッキングバッファー(0.5%ポリビニルピロリドン溶液)によりブロッキングを行い、さらに十分に乾燥して、検出領域と参照領域とが形成された膜を調製した。
【0049】
(2)標識抗体の調製
標識物質で標識され、少なくとも100℃を超える温度で加熱処理した血清アルブミンに対する抗体の溶液(着色ラテックス粒子懸濁液)を次のようにして調製した。
少なくとも100℃を超える温度で加熱処理した血清アルブミンに対する抗体を、10mMホウ酸緩衝液(pH8.0)にて透析した。
次に、カルボキシ変性ラテックス粒子(JSR製)を10mMホウ酸緩衝液(pH8.0)に固形分濃度5%(w/v)になるように分散し、5%(w/v)ラテックス分散液1mlに、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(シグマ社製)が50mg/mlとなるように10mMホウ酸緩衝液溶液で調整した溶液2mlを加え、2〜10℃で10分間撹拌した。遠心分離(15,000回転、10分間)により上清を除き、10mMホウ酸緩衝液に分散した。
これに、透析済みの少なくとも100℃を超える温度で加熱処理した血清アルブミンに対する抗体溶液を蛋白量換算で5mg添加し、室温で16時間以上撹拌しながら反応させた。遠心分離(15,000回転、10分間)により上清を除き、10mMホウ酸緩衝液に分散し、さらに、遠心操作を繰り返して、10mMホウ酸緩衝液にて洗浄して、0.1%オボアルブミン、及び0.05%アジ化ナトリウムを含む10mMホウ酸緩衝液に分散して着色ラテックス粒子懸濁液を調製した。
【0050】
(3)検出試薬の組立て
前記(1)で調製した担体(膜)を、幅85mm、長さ300mmのプラスチック板(支持体)に接着して固定した。この際、担体(膜)の短辺がプラスチック板の短辺とそれぞれ一致し、かつ、担体(膜)がプラスチック板の中央に位置するようにした。
そして、担体(膜)が固定されたプラスチック板の一端(長辺側)に、試料を染み込ませるための幅20mm、長さ300mmの吸収体を装着した。
次いで、前記(2)で調製した着色ラテックス粒子懸濁液をグラスファイバー板に染み込ませ乾燥させ、幅15mm、長さ300mmに切断した短冊状のグラスファイバー板を用意し、これを装着された吸収体とプラスチック板との間に約半分ほど(7〜8mm程度)挟み込んだ。一方、短冊状のグラスファイバー板の残りの部分がプラスチック板との間に担体(膜)を挟み込むようにするとともに、この短冊状のグラスファイバー板を保護するように粘着テープで覆った。さらに、別の吸収体を幅35mm、長さ300mmに裁断して、担体(膜)のもう一方の端(長辺側)にかかるように載置し、プラスチック板と接着して組み立て、イムノクロマト法による検出試薬を製造した。
【0051】
(4)試験方法
試料として牛肉骨粉を、10倍量の0.5%Tween20、20mM2−メルカプトエタノール溶液、150mM塩化ナトリウム溶液、および1mg/mlオボアルブミン溶液を含む20mMトリス塩酸緩衝液pH7.4で抽出して抽出液を作製した。
該抽出液を種々の希釈倍率にて前記緩衝液を用いて希釈し、その希釈液100μlをプラスチック製の容器に採取し、前記検出試薬の吸収体の一端に浸漬し、15分間そのまま放置した。
次いで、参照領域が着色していることを確認した後、検出領域の着色の有無を確認した。
その結果、全ての試料において、参照領域は着色し、試料は担体(膜)上を展開していることが確認された。なお、検出領域に着色があったものは、少なくとも100℃を超える温度で加熱処理された動物性組織由来原料が存在すると判定されたものであり、陽性(+)として表1に示し、一方、着色が無かったものは、少なくとも100℃を超える温度で加熱処理された動物性組織由来原料が存在しないと判定されたものであり、陰性(−)として表1に示した。
表1から明らかなとおり、ブランク、及び抽出液を10000倍に希釈した場合では、検出領域には何ら変化が無く、着色は認められなかったことから、陰性と判定された。
一方、抽出液が5000倍以下の希釈までは、検出領域に着色が認められ、陽性と判定された。なお、試料の浸漬から判定までに要した時間は15分間であった。
【0052】
【表1】

【0053】
[実施例2]
<イムノクロマト法>
試料に配混合飼料、及び配混合飼料原料を用いて、実施例1と同様に製造した検出試薬により試験を行った。
(1)被検試料
a)検体番号1〜5:重量比で牛肉骨粉を0%〜0.4%含有する豚用配混合飼料(添加試験)
b)検体番号6〜15:植物質性混合飼料(原料)
c)検体番号16〜19:動物質性配混合飼料(原料)
d)検体番号20〜25:肉用牛肥育用配混合飼料
(2)試験方法
実施例1と同様にして、試験を行った。また、同じ被検試料について、本実施例の検出試薬に使用した抗体と同様の抗体類を用いて、ELISA(Enzyme-linked immunosorbent assay)法でも試験を行った。
【0054】
(3)試験結果
本試験の結果を表2に示す。判定は、実施例1と同様に、検出領域の着色の有無により行った。
表2から明らかなように、本実施例では、豚用配混合飼料に牛肉骨粉を重量比で0.05%添加した場合は、陽性・陰性の判定が困難であったが、0.1%以上添加した場合は膜上の検出領域において着色が観察された。また、乳用牛飼育用配混合飼料では陰性の判定であったが、その他の肉用牛肥育用配混合飼料では陽性となり、植物質性混合飼料(原料)及び動物質性配混合飼料(原料)では、いずれも陰性の判定結果が得られた。なお、イムノクロマト法での検査時間は、試料調製後、試験開始(キットへの試料添加)から判定まで、15分であった。
また、ELISA法においても、イムノクロマト法と同様の結果が得られたが、ELISA法では試験開始から判定までに約3時間を要した。
【0055】
【表2】

【0056】
[実施例3]
<イムノフィルター法>
(1)検出領域が形成された担体(膜)の調製
孔径5μmのニトロセルロース膜(ミリポア社製)上に、少なくとも100℃を超える温度で加熱処理した血清アルブミンに対する抗体溶液(1mg/ml)をマイクロピペットを用いて1μl点着し、十分に乾燥させた。なお、この抗体は実施例1と同様にして製造したのものである。次いで、非特異的な吸着を回避するために、ブロッキングバッファー(0.5%ポリビニルピロリドン溶液)によりブロッキングを行い、十分に乾燥して、少なくとも100℃を超える温度で加熱処理した血清アルブミンに対する抗体が固定され、検出領域が形成された担体(膜)を調製した。
【0057】
(2)標識抗体の調製
標識物質で標識され、少なくとも100℃を超える温度で加熱処理した血清アルブミンに対する抗体の溶液(着色ラテックス粒子懸濁液)を次のようにして調製した。
少なくとも100℃を超える温度で加熱処理した血清アルブミンに対する抗体を、10mMホウ酸緩衝液(pH8.0)にて透析した。次に、カルボキシ変性ラテックス粒子(JSR製)を10mMホウ酸緩衝液(pH8.0)に固形分濃度5%(w/v)になるように分散し、5%(w/v)ラテックス分散液1mlに、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(シグマ社製)が50mg/mlとなるように10mMホウ酸緩衝液溶液で調整した溶液2mlを加え、2〜10℃で10分間撹拌した。遠心分離(15,000回転、10分間)により上清を除き、10mMホウ酸緩衝液に分散した。
これに、透析済みの少なくとも100℃を超える温度で加熱処理した血清アルブミンに対する抗体溶液を蛋白量換算で5mg添加し、室温で16時間以上撹拌しながら反応させた。遠心分離(15,000回転、10分間)により上清を除き、10mMホウ酸緩衝液に分散し、さらに、遠心操作を繰り返して、10mMほう酸緩衝液にて洗浄して、5%グリセリン、0.1%オボアルブミン、0.7%ポリビニルピロリドン、及び0.05%アジ化ナトリウムを含む20mMトリス塩酸緩衝液に分散して着色ラテックス粒子懸濁液を調製した。
【0058】
(3)検出試薬の組立て
プラスチック製の反応容器(蓋体と容器本体からなる。)の容器本体に、適当な大きさに切り出した吸収材(日本バイリーン社製)を組み入れ、その上に10mm四方に裁断したグラスファイバー(ワットマン社製)と、10mm四方に裁断した前記(1)で調製した検出領域が形成された担体(膜)を順次載置し、蓋体で蓋をして固定し、イムノフィルター法による検出試薬を製造した。なお、蓋体には試料などを滴下するための窓が、検出領域に対応する位置に穿設されたものを使用した。
【0059】
(4)試験方法
試料として牛肉骨粉を、10倍量の0.5%Tween20、20mM2−メルカプトエタノール溶液、150mM塩化ナトリウム溶液、および1mg/mlオボアルブミン溶液を含む20mMトリス塩酸緩衝液pH7.4で抽出して抽出液を作製した。
該抽出液を種々の希釈倍率にて前記緩衝液を用いて希釈し、その希釈液200μlをマイクロピペットで採取し、それぞれ別個の反応容器内に窓から滴下した。希釈液が完全に吸収された後に、前記(2)で調製した着色ラテックス粒子懸濁液200μlをそれぞれの反応容器内に窓から滴下し、完全に吸収された後、直ちに肉眼で着色の有無を確認した。判定は実施例1と同様に行った。表3に結果を示す。
表3から明らかなように、抽出液を10000倍に希釈した場合では、検出領域には何ら変化が無く、着色は認められなかったことから、陰性と判定された。
一方、抽出液が5000倍以下の希釈までは、検出領域に着色が認められ、陽性と判定された。なお、試料の滴下から判定までに要した時間は5分間であった。
【0060】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明は、変性した血清アルブミンを指標とした、試料中での加熱処理された動物性組織由来原料の存在を検出する新規な検出試薬、及び該検出試薬を使用した新規な検出方法を提供するものであり、本発明によって奏される効果は次のとおりである。
(1)本発明の検出試薬は、特別な機器や熟練技術者を必要とすることなく、試料(検体)の採取現場において簡単に加熱処理された動物性組織由来原料を検出できる。
(2)加熱処理された動物性組織由来原料の検出が1〜2ステップで完了し、従来に比して顕著に検出時間を短縮できる。
(3)缶詰等の高温加熱処理食品や、肉骨粉等の混入を検査すべく家畜用飼料において、殆ど擬陽性判定を与えず、極めて信頼性の高い検出法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の検出試薬の一例を示す概略図である。
【図2】図1の検出試薬を使用した際の検出原理を説明する説明図である。
【図3】図1の検出試薬を使用した後の検出領域および参照領域の着色の様子を示す説明図である。
【図4】本発明の検出試薬の他の一例を示す概略図であって、(a)平面図と、(b)(a)のX−X’線に沿う断面図である。
【図5】図4の検出試薬を使用した後の検出領域の着色の様子を示す説明図である。
【図6】図4の検出試薬を使用した際の検出原理を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0063】
1,14 担体(B)
2 検出領域
10A,10B 検出試薬


【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中に存在する100℃を超える温度で加熱処理された動物性組織由来原料を検出するための検出試薬であって、
前記動物性組織由来原料中の血清アルブミンに対する抗体またはその抗原結合性フラグメントが、標識物質により標識された標識抗体(A)と、
前記動物性組織由来原料中の血清アルブミンに対する抗体またはその抗原結合性フラグメントが固定された検出領域を備えた担体(B)とを有することを特徴とする検出試薬。
【請求項2】
前記動物性組織由来原料は、120℃以上の温度で前記加熱処理されたものであることを特徴とする請求項1に記載の検出試薬。
【請求項3】
前記動物性組織由来原料は、130℃以上の温度で前記加熱処理されたものであることを特徴とする請求項1に記載の検出試薬。
【請求項4】
前記動物性組織由来原料は、前記加熱処理とともに加圧処理されたものであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の検出試薬。
【請求項5】
前記動物性組織由来原料は、肉骨粉であることを特徴とする請求項4に記載の検出試薬。
【請求項6】
前記試料は、缶詰食品であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の検出試薬。
【請求項7】
前記試料は、家畜用飼料であることを特徴とする請求項5に記載の検出試薬。
【請求項8】
前記抗体またはその抗原結合性フラグメントは、120℃以上の温度で前記加熱処理された血清アルブミンに対しての抗体またはその抗原結合性フラグメントであることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の検出試薬。
【請求項9】
前記抗体またはその抗原結合性フラグメントは、加圧処理された血清アルブミンに対しての抗体またはその抗原結合性フラグメントであることを特徴とする請求項8に記載の検出試薬。
【請求項10】
前記標識物質は、有色微粒子であることを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の検出試薬。
【請求項11】
前記担体(B)は、ニトロセルロース膜、ナイロン膜、ポリビニリデンジフルオライド膜からなる群より選ばれる1種であることを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の検出試薬。
【請求項12】
キットの形態であることを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載の検出試薬。
【請求項13】
試料中に存在する100℃を超える温度で加熱処理された動物性組織由来原料を検出する方法であって、
前記動物性組織由来原料中の血清アルブミンに対する抗体またはその抗原結合性フラグメントが標識物質により標識された標識抗体(A)と前記試料とを、前記動物性組織由来原料中の血清アルブミンに対する抗体またはその抗原結合性フラグメントが固定された検出領域を備えた担体(B)の前記検出領域に接触させ、前記検出領域からの信号に基づいて、前記試料中の前記動物性組織由来原料の有無を判定することを特徴とする検出方法。
【請求項14】
前記動物性組織由来原料は、120℃以上の温度で前記加熱処理されたものであることを特徴とする請求項13に記載の検出方法。
【請求項15】
前記動物性組織由来原料は、130℃以上の温度で前記加熱処理されたものであることを特徴とする請求項13に記載の検出方法。
【請求項16】
前記動物性組織由来原料は、前記加熱処理とともに加圧処理されたものであることを特徴とする請求項13ないし15のいずれかに記載の検出方法。
【請求項17】
前記動物性組織由来原料は、肉骨粉であることを特徴とする請求項16に記載の検出方法。
【請求項18】
前記試料は、缶詰食品であることを特徴とする請求項13ないし16のいずれかに記載の検出方法。
【請求項19】
前記試料は、家畜用飼料であることを特徴とする請求項17に記載の検出方法。
【請求項20】
前記抗体またはその抗原結合性フラグメントは、120℃以上の温度で前記加熱処理された血清アルブミンに対しての抗体またはその抗原結合性フラグメントであることを特徴とする請求項13ないし19のいずれかに記載の検出方法。
【請求項21】
前記抗体またはその抗原結合性フラグメントは、加圧処理された血清アルブミンに対しての抗体またはその抗原結合性フラグメントであることを特徴とする請求項20に記載の検出方法。
【請求項22】
前記標識物質は、有色微粒子であることを特徴とする請求項13ないし21のいずれかに記載の検出方法。
【請求項23】
前記担体(B)は、ニトロセルロース膜、ナイロン膜、ポリビニリデンジフルオライド膜からなる群より選ばれる1種であることを特徴とする請求項13ないし22のいずれかに記載の検出方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−317226(P2006−317226A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−138688(P2005−138688)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【出願人】(000006116)森永製菓株式会社 (130)
【出願人】(501463719)独立行政法人肥飼料検査所 (2)
【出願人】(000006127)森永乳業株式会社 (269)