説明

加熱履歴確認用インジケータ

【課題】
目視できる色変化により、幅広い加熱温度の履歴を感度よく正確に確認でき、長期保存安定性が優れている安価で簡便な加熱履歴確認用インジケータを提供する。
【解決手段】
加熱履歴確認用インジケータ1は、無機金属化合物または重金属錯体化合物を含有する層12と、含硫黄化合物を含有する層14とが分離状態で保持されており、前記二層12・14を接触させることにより、加熱環境下で該無機金属化合物または重金属錯体化合物に反応して該含硫黄化合物が色変化するというものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定温度で所定時間加熱されたことを、明瞭で目視可能な色変化により確認するために用いられる、加熱履歴確認用インジケータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
医療品・医薬品や長期保存食品等には、滅菌・殺菌処理が施される。
【0003】
高圧蒸気滅菌処理、レトルト殺菌処理、ボイル殺菌処理のような加熱による滅菌・殺菌処理の完了を確認するために、加熱温度と加熱時間とに応じ色変化する安価なケミカルインジケータが汎用されている。
【0004】
特許文献1には、ケミカルインジケータとして、ビスマス化合物とチオ尿素化合物と合成ゴム系樹脂とからなる組成物で被覆されたものが開示されている。
【0005】
【特許文献1】特公平04−62746号公報
【0006】
このようなケミカルインジケータは、共存するビスマス化合物およびチオ尿素化合物が高温高圧条件下で反応することにより、色変化するという簡便なものである。しかし、これら化合物同士が共存していると、インジケータを長期間保管している途中で、確認すべき所定温度より低温でも反応が徐々に進行し、少しずつ色変化を引き起こしてしまう。ケミカルインジケータは、これら化合物の反応性が高いほど、確認すべき所定温度を低く設定できる反面、保存安定性が悪くなってしまうという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、目視できる色変化により、幅広い加熱温度の履歴を感度よく正確に確認でき、長期保存安定性が優れている安価で簡便な加熱履歴確認用インジケータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、無機金属化合物または重金属錯体化合物を含有する層と、含硫黄化合物を含有する層とが分離状態で保持されており、前記二層を接触させることにより、加熱環境下で該無機金属化合物または重金属錯体化合物に反応して該含硫黄化合物が色変化することを特徴とする加熱履歴確認用インジケータである。
【0009】
このインジケータは、二層を接触させなければ、反応を引起さず、色変化しないので安定である。
【0010】
この反応は不可逆である。そのため、インジケータは、一旦色変化した後に、元の色に戻らない。
【0011】
同じく請求項2に係る発明は、前記無機金属化合物が、ビスマス化合物、コバルト化合物、ニッケル化合物、クロム化合物、アルミニウム化合物、鉄化合物から選ばれる少なくとも1種類;前記重金属錯体化合物が、重金属−ヘキサメチレンテトラミン錯体化合物、重金属−リン酸錯体化合物、重金属−アンモニウム錯体化合物から選ばれる少なくとも1種類;前記含硫黄化合物が、チオウレア化合物、チウラム化合物、チアゾール化合物、含硫アミノ酸化合物、含硫蛋白質、含硫有機酸化合物から選ばれる少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1に記載の加熱履歴確認用インジケータである。
【0012】
無機金属化合物は、例えば、ビスマス化合物として、シュウ酸ビスマス、硫酸ビスマス、塩化ビスマス、酸化ビスマス、塩基性炭酸ビスマス、水酸化ビスマス、硝酸水酸化ビスマス、塩基性酢酸ビスマスが挙げられ、コバルト化合物として、硝酸コバルト6水和物、塩化コバルト6水和物、無水塩化コバルト、塩基性炭酸コバルト、炭酸コバルト、酸化コバルト、シュウ酸コバルト2水和物、硫酸コバルト7水和物が挙げられ、ニッケル化合物として、硝酸ニッケル6水和物、無水塩化ニッケル、塩化ニッケル6水和物、塩基性炭酸ニッケル、酢酸ニッケル4水和物、酸化ニッケル、硫酸ニッケル6水和物、硫酸ニッケル7水和物、シュウ酸ニッケル2水和物が挙げられ、クロム化合物として、硝酸クロム9水和物、塩化クロム6水和物、酸化クロム、硫酸クロムn水和物が挙げられ、アルミニウム化合物として、硝酸アルミニウム9水和物が挙げられ、鉄化合物として硝酸鉄9水和物が挙げられる。無機金属化合物は、これらの内の何れか1種類であっても複数種の混合物であってもよい。
【0013】
重金属錯体化合物は、結晶水を含む水和物であってもよく、含水体であってもよい。重金属錯体化合物は、例えば重金属−ヘキサメチレンテトラミン錯体化合物として、硝酸コバルトとヘキサメチレンテトラミンとの錯体の10水和物または含水体、硝酸コバルトと硝酸ニッケルとヘキサメチレンテトラミンとの錯体の10水和物、硝酸ニッケルとヘキサメチレンテトラミンとの錯体の10水和物、酸化コバルトとヘキサメチレンテトラミンとの錯体の9水和物、塩化コバルトとヘキサメチレンテトラミンとの錯体の10水和物が挙げられ、重金属−リン酸錯体化合物として、リン酸コバルト8水和物、リン酸コバルトアンモニウム1水和物が挙げられ、重金属−アンモニウム錯体化合物として、塩化コバルトアンモニウム6水和物、硫酸コバルトアンモニウム6水和物、硫酸アンモニウムクロム12水和物が挙げられる。重金属錯体化合物は、これらの内の何れか1種類であっても複数種の混合物であってもよい。
【0014】
含硫黄化合物は例えば、チオウレア化合物として、チオ尿素、1,3−ジメチル−2−チオ尿素、1,3−ジエチル−2−チオ尿素、1,3−ジトリルチオ尿素、2,2’−ジトリルチオ尿素、1,3−ジフェニル−2−チオ尿素、1−フェニル−2−チオ尿素、アリルチオ尿素、1−アセチル−2−チオ尿素、エチレンチオ尿素、トリメチルチオ尿素、トリルチオ尿素、メチルチオ尿素、エチルチオ尿素、1−フェニル−3−チオセミカルバジド、4−フェニル−3−チオセミカルバジド、チオカルボヒドラジドが挙げられ、チウラム化合物として、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィドが挙げられ、チアゾール化合物として、2−アミノベンゾチアゾールが挙げられ、含硫アミノ酸化合物として、メチオニン、システイン、チアミン硝酸塩が挙げられ、含硫蛋白質として、前記の含硫アミノ酸化合物を含んでいる蛋白質が挙げられ、含硫有機酸化合物として、チオサリチル酸、チオグリコール酸、サッカリンが挙げられる。含硫黄化合物は、これらの内の何れか1種類であっても複数種の混合物であってもよい。含硫黄化合物は、チオウレア化合物、チウラム化合物、チアゾール化合物であるとなお好ましい。
【0015】
同じく請求項3に係る発明は、前記無機金属化合物または重金属錯体化合物を含有する層と、前記含硫黄化合物を含有する層との少なくとも何れかに、粘着剤または接着剤が含まれていることを特徴とする請求項1に記載の加熱履歴確認用インジケータである。
【0016】
無機金属化合物または重金属錯体化合物の含有層や、含硫黄化合物の含有層は、これら化合物に、必要に応じて、粘着剤・接着剤やバインダーのような樹脂、染料・顔料、分散剤のような添加剤、溶剤を混合し、印刷したり塗装したり噴霧したりして塗布したものであることが好ましい。
【0017】
この樹脂は、インキや塗料に一般的に用いられるバインダー樹脂、粘着剤樹脂、接着剤樹脂等の各種樹脂が用いられる。より具体的には、ビニル樹脂、シリコン樹脂、ロジン樹脂、テルペン樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、天然ゴムや合成ゴム、石油樹脂、エポキシ樹脂、ケトン樹脂、マレイン酸樹脂、クマリン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールが挙げられる。これらの内の何れか1種類であっても複数種の混合物であってもよい。
【0018】
無機金属化合物または重金属錯体化合物の含有層と、含硫黄化合物の含有層とを貼り合わせて接触させた時、瞬時に反応が開始してしまわないように、この樹脂は、適度な軟化点を有するものであることが好ましい。その軟化点が60℃以上であるとなお好ましい。
【0019】
同じく請求項4に係る発明は、無機金属化合物または重金属錯体化合物と、含硫黄化合物との量に応じ、加熱温度および加熱時間の加熱履歴に対応して前記色変化することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の加熱履歴確認用インジケータである。
【発明の効果】
【0020】
本発明の加熱履歴確認用インジケータは、加熱履歴を確認するのに使用するまで無機金属化合物または重金属錯体化合物の含有層と含硫黄化合物含有層とを分離させておくので、使用前に長期間保存しても変色を起こさず、品質が低下しない。
【0021】
このインジケータは、無機金属化合物または重金属錯体化合物の含有層と、含硫黄化合物の含有層とを貼り合わせた後、加熱すると、両層の化合物同士の化学反応により目視可能で明瞭な色変化が引起され、加熱履歴を感度よく正確に表示する。何れかの層に粘着剤または接着剤が含まれていると、反応性が一層高まる。
【0022】
さらに、インジケータは、色変化し加熱履歴を確認した後に、元の色へ戻らず、また脱色しないので、所定の加熱履歴を経た証拠として長期間保管できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の加熱履歴確認用インジケータについて、その実施の一例を示す図1を参照しながら詳細に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0024】
図1は、加熱履歴確認用インジケータの使用途中を示す断面図である。
【0025】
加熱履歴確認用インジケータ1は、ポリエチレンテレフタレート(PET)製のシート11と、PET製のラベルである透明フィルム15とからなる。
【0026】
シート11の表面上に、無機金属化合物、バインダー樹脂、添加剤、溶剤を含むインキ組成物で印刷されたインキ層12が、形成されている。
【0027】
ラベル15の表面上に、含硫黄化合物、粘着剤、添加剤、溶剤を含む粘着剤組成物で塗布された粘着層14が、形成されている。粘着層14には剥離紙13が付されている。
【0028】
この加熱履歴確認用インジケータ1は、以下のようにして使用される。
【0029】
先ず、ラベル15の粘着層14に付された剥離紙13を剥ぐ。露出した粘着層14を、シート11上のインキ層12に貼り付ける。その後、所定の温度に加熱する。
【0030】
すると、各層の樹脂が軟化し、インキ層12に含有された無機金属化合物の分子と、粘着層14に含有された含硫黄化合物の分子とが、活発に分子運動するようになり遂には接触して反応し含硫黄化合物の変色を引起こす結果、インジケータは加熱温度や加熱時間に応じ、色変化する。
【0031】
透明なラベル15を通して、目視により色変化が観察されると、所定の加熱履歴を経たと確認できる。
【0032】
なお、シート11にインキ層12を付し、ラベル15に粘着層14を付したインジケータの例を示したが、シート11に粘着層を付し、ラベル15にインキ層を付したものであってもよい。
【0033】
無機金属化合物に代えて重金属錯体化合を用いてもよい。無機金属化合物または重金属錯体化合物、含硫黄化合物、樹脂、添加剤、溶媒の量を適宜調整することにより、確認すべき加熱温度、加熱されて色変化するまでの時間、色変化の程度を調節することができる。シート11やラベル15は一方を透明とし、例えばポリプロピレン(PP)のようなプラスチック、紙、または金属でできていてもよい。シート11に代えて容器、蓋、筒を用いてもよい。ラベル15に代えてシートであってもよい。インジケータ1には、色変化前後の色見本が付されていてもよい。印刷は、スクリーン印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷等の任意の方法により行われる。
【実施例】
【0034】
本発明を適用する加熱履歴確認用インジケータを試作して、その性能を評価した。
【0035】
先ず、シート11またはラベル15に前記の層12・15を形成させるために用いられる、インキ組成物を表1に記載の組成比で調製した。
【0036】
【表1】

【0037】
次に、シート11やラベル15に前記の層12・14を形成させるために用いられる、粘着剤組成物を表1に記載の組成比で調製した。
【0038】
【表2】

【0039】
得られたインキ組成物と粘着剤組成物とを用いて、本発明を適用する加熱履歴確認用インジケータを試作した例を実施例1〜6に示し、本発明を適用外のインジケータを試作した例を比較例に示す。
【0040】
(実施例1〜6)
表3に記載のとおり、シート11とラベル15との一方に、前記のとおり調製したインキ組成物を塗布してインキ層を形成させ、他方に前記のとおり調製した粘着剤組成物を塗布して粘着層を形成させて、互いの層が分離している加熱履歴確認用インジケータを得た。インキ層と粘着層とを貼り付けた加熱履歴確認用インジケータを、直ちに所定温度の湯浴に浸漬して所定時間加熱した後、色変化を目視により確認した。
【0041】
一方、未使用で互いの層が分離している同種の加熱履歴確認用インジケータについて、40℃の恒温槽に1ヶ月保存するという長期苛酷試験を行い、色変化を目視により確認した。
【0042】
その結果を表3に示す。
【0043】
(比較例)
無機金属化合物を含むインキ組成物と含硫黄化合物を含むインキ組成物とを混合し、PET製シートに塗布して、インジケータを得た。実施例と同様にして色変化を観察した。その結果を表3に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
表3から明らかなとおり、実施例1〜6の加熱履歴確認用インジケータは、数分から数日の所定期間、所定温度で加熱されると色変化し、所定の加熱履歴を経たことが、目視により簡便かつ正確に確認できた。また、未使用の加熱履歴確認用インジケータは、長期間安定して保存できることが分った。一方比較例のインジケータは、加熱履歴を表示することができるが、未使用のままで長期間保存できないことが分った。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の加熱履歴確認用インジケータによれば、加熱温度や加熱時間の履歴を簡易かつ正確に表示できる。そのため、このインジケータは、医療器・医薬品の高圧蒸気滅菌の工程管理、長期保存食品・レトルト食品のボイル殺菌の工程管理、熱湯を注ぐカップ麺や加熱すべきインスタント食品の食べ頃表示をするために、使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明を適用する加熱履歴確認用インジケータの使用途中を示す断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1は加熱履歴確認用インジケータ、11はシート、12はインキ層、13は剥離紙、14は粘着層、15は透明フィルムまたはシートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機金属化合物または重金属錯体化合物を含有する層と、含硫黄化合物を含有する層とが分離状態で保持されており、前記二層を接触させることにより、加熱環境下で該無機金属化合物または重金属錯体化合物に反応して該含硫黄化合物が色変化することを特徴とする加熱履歴確認用インジケータ。
【請求項2】
前記無機金属化合物が、ビスマス化合物、コバルト化合物、ニッケル化合物、クロム化合物、アルミニウム化合物、鉄化合物から選ばれる少なくとも1種類;前記重金属錯体化合物が、重金属−ヘキサメチレンテトラミン錯体化合物、重金属−リン酸錯体化合物、重金属−アンモニウム錯体化合物から選ばれる少なくとも1種類;前記含硫黄化合物が、チオウレア化合物、チウラム化合物、チアゾール化合物、含硫アミノ酸化合物、含硫蛋白質、含硫有機酸化合物から選ばれる少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1に記載の加熱履歴確認用インジケータ。
【請求項3】
前記無機金属化合物または重金属錯体化合物を含有する層と、前記含硫黄化合物を含有する層との少なくとも何れかに、粘着剤または接着剤が含まれていることを特徴とする請求項1に記載の加熱履歴確認用インジケータ。
【請求項4】
無機金属化合物または重金属錯体化合物と、含硫黄化合物との量に応じ、加熱温度および加熱時間の加熱履歴に対応して前記色変化することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の加熱履歴確認用インジケータ。

【図1】
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【公開番号】特開2006−3274(P2006−3274A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−181545(P2004−181545)
【出願日】平成16年6月18日(2004.6.18)
【出願人】(000232922)日油技研工業株式会社 (67)
【Fターム(参考)】