説明

加飾合成樹脂成形品

【課題】 本発明は、成形品に形成された彫刻様の図柄と塗膜や蒸着膜等による表面加飾方法を組み合わせて、より立体的で、高品位な質感を有する視覚効果を現出させるため構成を創出することを課題とするものである。
【解決手段】 透明性を有する合成樹脂製の基材の裏面の所定領域に、平坦部と、周辺にこの平坦部を残して彫刻状に形成された刻設凹部により図柄を形成し、所定領域の、刻設凹部を除いた平坦部に塗膜と蒸着膜から選ばれる少なくとも一層の膜からなる第1の加飾層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は彫刻様の図柄を形成した加飾合成樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料用向けの製品分野では、パッケージングにより高級感や差別化したアイキャッチ効果を付与するための加飾方法が求められている。
このような加飾方法の一つとして、成形品の表面にホットスタンプ法を用いて箔膜を形成し、金属光沢を有する図案が立体的に現出するような視覚効果を付与する加飾方法がある。また厚肉印刷などにより成形品表面に文字や図柄などを浮かび上がらせ、容器を高級感のある外観に仕上げる加飾方法もある。
【特許文献1】特開2001−058463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、従来のホットスタンプ法や厚肉印刷では、立体的な視覚効果が不十分である点や、高品位な質感と云う面でまだ不満足な点がある。
【0004】
本発明は、成形品に形成された彫刻様の図柄と塗膜や蒸着膜等による表面加飾方法を組み合わせて、より立体的で、高品位な質感を有する視覚効果を現出させるため構成を創出することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための本発明の加飾合成樹脂成形品に係る主たる構成は、
透明性を有する合成樹脂製の基材の裏面の所定領域に、平坦部と、周辺にこの平坦部を残して彫刻状に形成された刻設凹部により図柄を形成すること、
所定領域の、刻設凹部を除いた平坦部に塗膜と蒸着膜から選ばれる少なくとも一層の膜からなる第1の加飾層を形成すること、にある。
【0006】
上記構成により、平坦部と刻設凹部により形成される彫刻様の図柄と、刻設凹部を除いた平坦部にだけに選択的に形成される塗膜や蒸着膜からなる加飾層により、透明性を有する基材の光学的な効果も相俟って、図柄をより彫深く、立体的に現出させることができる。
ここで、上記構成中の塗膜には、一般的な塗装方法による膜の他に、印刷によるものも含む。
また第1の加飾層は単一の塗膜あるいは蒸着膜に限定されるものではなく、加飾目的に応じてたとえば蒸着膜に有色透明な塗膜を積層して有色の金属光沢を現出するものとすることもできる。
【0007】
本発明の他の構成は、上記主たる構成において、塗膜と蒸着膜から選ばれる少なくとも一層の膜を転写膜とすること、にある。
【0008】
塗膜と蒸着膜は、塗装、印刷、真空蒸着、転写膜を用いて形成することができるが、転写膜とすることにより、図柄が細かくて精細な場合にも刻設凹部を除く平坦部だけに、図柄に沿って高い精度で第1の加飾層を形成することができる。
【0009】
ここで、転写膜は、転写フィルムに積層されている塗膜や金属蒸着膜がホットスタンプ法や押圧ロール等を用いる方法により成形品の表面に転写されるものであるが、これらの方法は成形品の表面に押圧するようにして塗膜や蒸着膜を転写する方法であり、刻設凹部には押圧力が作用しないのでこれら膜や蒸着膜を、特に高精度な位置合わせをすることなく平坦部だけに図柄に沿って高い精度で加飾層を形成することができる。
【0010】
本発明のさらに他の構成は、第1の加飾層に重ねて、平坦部と刻設凹部を含む所定領域全体に、この平坦部と刻設凹部に係る凹凸形状に沿って塗膜と蒸着膜から選ばれる少なくとも一層の膜からなる第2の加飾層を積層形成すると云うものである。
【0011】
上記構成によれば、第1の加飾層と第2の加飾層を積層した平坦部と、第2の加飾層だけを積層した刻設凹部で図柄を形成することになるが、これらの積層態様の違いにより平坦部と刻設凹部の色合い、着色濃度、金属光沢、表面性状に係る質感を変化させて、彫刻様の図柄に繊細に陰影を付与したり、金属光沢を微妙に変化させることが可能となり、透明な基材の光学的効果が相俟って、さらに図柄をより彫深く、より立体的に現出させることができると共に、色合い、着色濃度、金属光沢あるいは質感を繊細に変化させて高品位な加飾を実現することができる。
【0012】
ここで、第2の加飾層も塗膜と蒸着膜とから選ばれる少なくとも1層の膜からなるものであり、第1の加飾層と同様に、単一の膜で形成する他にもたとえば塗膜+蒸着膜+塗膜というように複数の膜で形成することも選択でき、第1の加飾層の態様と組み合わせて平坦部と刻設凹部の加飾の違いをさまざまな態様で設定することが可能となる。
また、第1の加飾層と第2の加飾層を同色の塗膜で形成して平坦部と刻設凹部の着色濃度を微妙に変化させることもでき、また、同種の蒸着膜で形成して蒸着密度を変えて金属光沢を微妙に変化させることもできる。
【0013】
本発明のさらに他の構成は、反射面を有する加飾部材を用い、基材の裏面側に反射面を積重状に配設すると云う構成を付加するものである。
【0014】
上記構成によれば、基材の裏面側に積重状に配設した加飾部材の反射面からの反射光による光学的効果により、図柄をより立体的に、また複雑に現出させることができる。
なお、上記構成で、加飾部材の基材の裏面側への積重態様は、加飾部材を平坦部に形成された第1の加飾層あるいは第2の加飾層に密着させた態様に限定されず、第1の加飾層あるいは第2の加飾層との間に隙間を形成した態様とすることもできる。
【0015】
また、加飾部材は金属板片、金属薄膜片、表面に蒸着膜等の金属薄膜を形成した合成樹脂成形品等、さまざまな態様で用意することができる。
また、反射面は鏡面状に光を完全に反射させるものだけでなく、一部の光を通過する半反射性とすることもできる。
また反射面は、所定領域全域に積重させることも部分的に積重させることもできる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の加飾合成樹脂成形品は上記のような構成であり、以下に示す効果を奏する。
すなわち、主たる構成を有するものにあっては、平坦部と刻設凹部により形成される彫刻様の図柄と、刻設凹部を除いた平坦部にだけに選択的に形成される塗膜や蒸着膜からなる加飾層により、透明な基材の光学的効果も相俟って、図柄をより彫深く立体的に現出させることができる。
【0017】
塗膜と蒸着膜を転写膜とするものにあっては、図柄が細かくて精細な場合にも刻設凹部を除く平坦部だけに図柄に沿って高い精度で加飾層を形成することができる。
【0018】
第2の加飾層を形成するものにあっては、図柄をより彫深くより立体的に現出させることができると共に、色合い、着色濃度、金属光沢あるいは質感を繊細に変化させて高品位な加飾を実現することができる。
【0019】
基材の裏面側に反射面を配設するものにあっては、この反射面からの反射光による光学的効果により、図柄をより立体的に、また複雑に現出させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を実施例に沿って図面を参照しながら説明する。
図1、2には本発明の加飾合成樹脂成形品の一実施例である表面処理を施した化粧料用容器1を示す。この化粧料用容器1は合成樹脂成形品で、容器本体2と蓋体3をヒンジ結合した構成である。蓋体3は透明な合成樹脂製であり、裏面に文字を図案化した図柄5が形成されており、透明な基材11を通して表側からこの図柄5を見えるようにしている。
【0021】
図3に蓋体3の図柄5近傍の断面図を示す。この蓋体3では、基本的な形状を形成する透明な基材11の裏面に、周辺に平坦部12を残して彫刻状に形成された刻設凹部13により「A」と云う図柄5が形成されている。
【0022】
そして、裏面の全領域の刻設凹部13を除く平坦部12には塗膜31による第1の加飾層21が形成され、さらにこの第1の加飾層21に積層して、平坦部12と刻設凹部13を含む全領域に、この平坦部12と刻設凹部13に係る凹凸に沿って、蒸着膜32による第2の加飾層22が積層している。
ここで、第1の加飾層21を形成する塗膜31は、ホットスタンプ法により転写フィルムに積層されている塗膜を転写した転写膜24であり、第2の加飾層22を形成する蒸着膜32は真空蒸着法により形成されたものである。
【0023】
ここで、一例として第1の加飾層21を透明有色系の塗膜31により形成して、この蓋体3を表側から見ると、第2の加飾層22を形成する蒸着膜32により刻設凹部13を含めた全体から金属光沢が現出する中で、図柄5である「A」の部分だけが有色となり、透明な基材11による光の屈折効果も相俟って、この有色の図柄5である「A」が浮かび上がっているような視覚効果が発揮される。
また、蒸着膜32による第2の加飾層22は刻設凹部13にも形成されているので、蓋体3を横から見た場合にも、刻設凹部13の金属光沢により立体的効果が効果的に現出する。
【0024】
また、第1の加飾層21を形成する塗膜31は、上記したようにホットスタンプ法による転写膜24で、基材11に加熱押圧状に転写したものであり、刻設凹部13には押圧力が作用しないので、図柄5がさらに繊細な場合にも、特に高精度な位置合わせをすることなく、刻設凹部13との境界に沿ってずれることなく、平坦部12だけに高い精度で第1の加飾層を形成することができる。
【0025】
なお、図3に示すような第1の加飾層21と第2の加飾層22からなる加飾層の構成は上記実施例の他にも、加飾の態様をさまざまに構成することができる。
第1の加飾層21および第2の加飾層22はそれぞれ、塗膜31であっても蒸着膜32であってもよいし、加飾目的に応じてさらにそれぞれを蒸着膜32と塗膜31を積層したもの、あるいは2種の塗膜31を積層したもの等で形成することもできる。
また、第1の加飾層21と第2の加飾層22を同色の塗膜で形成して平坦部12と刻設凹部13の着色濃度を微妙に変化させることもでき、また同種の蒸着膜32で形成して蒸着密度を変えて金属光沢を微妙に変化させることもできる。
【0026】
次に、図4は本発明の加飾合成樹脂成形品の、他の加飾態様を示す縦断面図であり、透明な合成樹脂製の基材11の裏面の刻設凹部13を除く平坦部12に塗膜31による第1の加飾層21を形成したものである。
この例は、図3の加飾層の構成が第1の加飾層21と第2の加飾層22を組合わせたものに対して、第1の加飾層21だけから構成されるものではあるが、平坦部12と刻設凹部13により形成される彫刻様の図柄と、平坦部にだけに選択的に形成される塗膜31からなる第1の加飾層21により、透明性を有する基材11の光学的な効果も相俟って、彫刻様の図柄を彫深く、より立体的に現出させることができる。
【0027】
次に、図5(a)、(b)は本発明の加飾合成樹脂成形品の、さらに他の加飾態様を示す縦断面図であり、図4の加飾態様に加えて、基材11の裏面側に反射面を有する薄板状の加飾部材25を積重した例である。
この加飾部材25は透明な合成樹脂製のシート25aの片面に蒸着膜25bを積層して反射面としたものであり、この反射面からの反射光による光学的効果が相俟って、図柄5をより立体的に現出させることができる。
【0028】
図5(a)の例ではシート加飾部材25を蒸着膜25bが下になるようにして、第1の加飾層21に密着状にして基材11に積重し、反射面と第1の加飾層21との間にシート25aによる透明な隙間を形成し、さらなる光学的効果が発揮されるようにしている。
また、図5(b)は加飾部材25を蒸着膜25bが上になるようにして、加飾部材25自体を、基材11との間に隙間26を形成した状態で積重した例である。
勿論、図5(a)、(b)においてシート25aと蒸着膜25bの上下位置は逆にすることもできる。
【0029】
ここで、反射面を有する加飾部材25の構成あるいはその積重態様は上記実施例に限定されずさまざまなバリエーションの中から選択することができる。
たとえば、加飾部材は金属板片、金属薄膜片、表面に真空蒸着やホットスタンプによる金属薄膜層を形成した合成樹脂成形品等、さまざまな態様で用意することができる。
また反射面は、鏡面状に光を完全に反射させるものだけでなく一部の光を通過する半反射性とすることもでき、所定領域全域に積重させることも部分的に積重させることもできる。
【0030】
以上、本発明の加飾合成樹脂成形品について、その実施の形態を実施例に沿って説明したが、本発明の実施の形態は上記実施例に限定されるものではない。
たとえば、図柄は文字「A」のようなものに限るものではなく、さまざまな形状の図案や、模様とすることができる。また基材となる成形品は半透明性のものでも使用することができる。
【0031】
また、前述したように第1の加飾層や第2の加飾層は、たとえば塗膜+蒸着膜というように複数の膜で形成することも選択できるので、実施例にある組み合わせに限定されることなく、加飾目的に応じて第1の加飾層と第2の加飾層の組み合わせをさまざまな態様で選択でき、平坦部と刻設凹部との色合いや、質感の変化を多くのバリエーションの中から選択することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上説明したように、本発明の加飾合成樹脂成形品は、成形品に形成された彫刻様の図柄と、塗装や蒸着等による加飾層を組み合わせて、より立体的で高品位な質感を有する視覚効果を現出させるものであり、化粧料用容器等の分野での幅広い展開が期待される。

【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の加飾合成樹脂成形品の一実施例である化粧料用容器の斜視図である。
【図2】図1の化粧料用容器の蓋体を開いた状態の斜視図である。
【図3】図1中のA−A線に沿って示す蓋体の図柄近傍の縦断面図である。
【図4】本発明の加飾合成樹脂成形品の他の加飾態様を示す縦断面図である。
【図5】本発明の加飾合成樹脂成形品のさらに他の加飾態様を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 ;化粧料用容器
2 ;容器本体
3 ;蓋体
5 ;図柄
11;基材
12;平坦部
13;刻設凹部
21;第1の加飾層
22;第2の加飾層
24;転写膜
25;加飾部材
25a;シート
25b;蒸着膜
26;隙間
31;塗膜
32;蒸着膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明性を有する合成樹脂製の基材(11)の裏面の所定領域に、平坦部(12)と、周辺に該平坦部(12)を残して彫刻状に形成された刻設凹部(13)により図柄(5)を形成し、前記所定領域の、刻設凹部(13)を除いた平坦部(12)に塗膜(31)と蒸着膜(32)から選ばれる少なくとも一層の膜からなる第1の加飾層(21)を形成したことを特徴とする加飾合成樹脂成形品。
【請求項2】
塗膜(31)と蒸着膜(32)から選ばれる少なくとも一層の膜を転写膜(24)とした請求項1記載の加飾合成樹脂成形品。
【請求項3】
第1の加飾層(21)に重ねて、平坦部(12)と刻設凹部(13)を含む所定領域全体に、該平坦部(12)と刻設凹部(13)に係る凹凸形状に沿って塗膜(31)と蒸着膜(32)から選ばれる少なくとも一層の膜からなる第2の加飾層(22)を積層形成した請求項1または2記載の加飾合成樹脂成形品。
【請求項4】
反射面を有する加飾部材(25)を用い、基材(11)の裏面側に前記反射面を積重状に配設した請求項1、2または3記載の加飾合成樹脂成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−154462(P2009−154462A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−336975(P2007−336975)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000006909)株式会社吉野工業所 (2,913)