説明

劣化試験装置

【課題】 短時間に高精度の劣化試験を実施することができる劣化試験装置を提供する。
【解決手段】 本発明の劣化試験装置100は、液晶パネル15の耐光性評価のための劣化試験装置であって、前記液晶パネル15の劣化処理に用いるレーザ光LBを出力するレーザ光源10と、前記液晶パネル15の光学特性の評価に用いる観察光OBを出力する観察光源31と、前記液晶パネル15に照射した後の前記観察光OBを検出する観察光検出部34と、前記観察光検出部34に対して斜めに入射する前記観察光OBの位相差を補償する位相補償手段50とを備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、劣化試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、液晶パネルの信頼性評価の1つとして耐光性試験が行われている。例えば、液晶プロジェクタにおいてライトバルブとして用いられる液晶パネルは、強い光が長時間に渡って照射されて各構成要素(部品、部材)に劣化が生じやすいので、耐光性試験は所望の品質を確保する上で重要である。
【0003】
このような液晶パネルの耐光性においては、長い場合には数ヶ月といったオーダでの試験期間を要する場合がある。しかし、製品開発期間の短縮化が求められる状況ではこのような長期間の試験は許容しがたい。
【0004】
これに対して、評価期間を短縮する手法の1つとして、実際の使用状況よりも過酷な条件による負荷をかけて試験を行い、その結果から長期間の使用後における劣化を予測する、いわゆる加速試験が知られている。このような液晶パネルの耐光性評価に関する従来技術が、例えば特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開2001−4526号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の耐光性評価の方法では、メタルハイドロランプ、UHPランプあるいはハロゲンランプなどの光源を用いて液晶パネルに光を照射しているため、集光性が低く、高エネルギー密度が得られず、短時間で劣化現象を発現させることが難しかった。このため、液晶パネルの耐光性の評価に長時間を要することとなり、製品開発期間の短縮化の妨げとなっていた。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、短時間に高精度の劣化試験を実施することができる劣化試験装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明の劣化試験装置は、液晶パネルの耐光性評価のための劣化試験装置であって、前記液晶パネルの劣化処理に用いるレーザ光を出力するレーザ光源と、前記液晶パネルの光学特性の評価に用いる観察光を出力する観察光源と、前記液晶パネルに照射した後の前記観察光を検出する観察光検出部と、前記観察光検出部に対して斜めに入射する前記観察光の位相差を補償する位相補償手段とを備えたことを特徴とする。
この構成によれば、劣化処理用の光源としてレーザ光源を用いているので、レーザ光の強いエネルギーによって被検物である液晶パネルに対して短時間に十分な大きさの劣化を生じさせることができる。
また、観察光源と観察光検出部とを備えているので、液晶パネルの劣化処理と、劣化部位の検査(光学特性の検査)とを並行して行なうことができる。この際、観察光検出部に対して斜めに入射する観察光の位相差を位相補償手段によって補償しているので、より精度の高い耐光性評価が可能である。つまり、レーザ光の照射される領域(試験対象領域)は非常に小さいため、当該領域を観察する場合には観察光をレンズ等の拡大光学系によって拡大させてから観察する必要があるが、このようにすると、観察光のうちかなり大きな開き角を持つ光までが観察されてしまい、観察によって得られる光学特性の変化を正確に見積もることができない場合がある。例えば、光学特性としてコントラストを測定する場合には、液晶パネルの設計値よりも大きく異なったリタデーションを持つ光までが観測されてしまい、劣化された部分と劣化されない部分とのコントラストが低下して劣化の判断が的確に行なえなくなるが、本発明のように観察光検出部に斜めに入射される観察光を位相補償手段によって補償した場合には、このような入射角度によるリタデーションのずれが解消されるので、より正確な評価を行なうことができるようになる。
【0008】
なお、位相補償手段としては、一般に液晶パネルの視覚補償フィルムとして用いられている公知の位相補償フィルムを採用することができるが、フィルム以外の他の形態を有する位相補償手段を採用することも可能である。係る位相補償手段は、劣化試験を行なう液晶パネルの液晶のモード、すなわちTN(Twisted Nematic)モード、VA(Vertical Aligned Nematic)モード、STN(Super Twisted Nematic)モード等の液晶のモードに従って、最も効果のあるタイプを選定することができる。
【0009】
本発明においては、前記液晶パネルから前記観察光検出部に至る前記観察光の光路上にレンズが設けられており、前記位相補償手段は、前記レンズに対して斜めに入射する前記観察光の位相差を補償するものとすることができる。
この構成によれば、観察光の光路上にレンズが設けられているので、より拡大した状態で液晶パネルの劣化部位を観察することができる。この際、レンズに斜めに入射する観察光の位相差は位相補償手段によって補償されるため、レンズのNA(開口数)が大きくても正確な光学特性の評価を行なうことが可能である。
【0010】
本発明においては、前記レーザ光の光路と前記観察光の光路とが、前記レンズを共用するように構成されているものとすることができる。
この構成によれば、レーザ光を液晶パネル上に集光することができる。すなわち、レーザ光のスポット径を絞ることによって、液晶パネルに対するレーザ光の照射領域(試験対象領域)を微小化できるため、例えば、液晶パネルに形成された特定の構造物を避けて所望の領域のみに選択的にレーザ光を照射するといったことも可能になる。例えば、ブラックマトリクス(遮光膜)を避けて画素内のみにレーザ光を照射することで、ブラックマトリクスの温度上昇による測定誤差の影響をなくすことが可能である。また、レーザ光の光路と観察光の光路とが1つのレンズを共用するので、試験対象領域と観察視野の中心とが一致し、観察を行ない易くなるという利点もある。
【0011】
本発明においては、前記位相補償手段は、前記観察光の光路に対して進退自在に構成されているものとすることができる。
観察光の光路とレーザ光の光路とがレンズの部分で重なるように構成されている場合には、位相補償手段を観察光の光路上(すなわちレーザ光の光路上)に固定してしまうと、レーザ光の強いエネルギーによって位相補償手段が劣化する可能性があるが、本発明のように位相補償手段を観察光の光路に対して進退自在に構成した場合には、例えば劣化処理中は当該光路から位相補償手段を退避させ、劣化部位を観察するときにのみ当該光路に挿入するようにすることで、このような問題を回避することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら本発明の劣化試験装置、及びそれを用いた劣化試験方法の実施の形態について説明する。以下の実施形態で説明する劣化試験方法は、被検物に対してレーザ光を照射し、これにより劣化された前記被検物の劣化部位を光学的に観察することによって、前記被検物の劣化度合いを評価するものである。ここでは、被検物として、一対の基板間に液晶層を挟持してなる液晶パネルを用いる。
【0013】
[第1の実施の形態]
[劣化試験装置]
図1は、本実施形態の劣化試験装置の概略構成を示す図である。
図1に示す劣化試験装置100は、レーザ光LBを出力するレーザ光源10と、観察光OBを出力する観察光源31との2つの光源を備えている。被検物である液晶パネル15は被検物支持部19に支持されており、光学系により導光されたレーザ光LBと観察光OBとは、いずれも液晶パネル15に導かれるようになっている。
【0014】
レーザ光源10は、例えば発振波長406nmの青紫レーザ光を出力するレーザ光源であり、レーザ光LBをその波長、照射エネルギー、及び照射時間のうち、少なくとも1つを可変パラメータとして出力可能なものとされる。本実施形態の劣化試験装置100は、レーザ光照射により液晶パネル15の配向膜等を劣化させ、液晶の配向性低下の程度を観測して液晶パネル15の耐光性を評価するものであるから、レーザ光源10には、液晶パネル15に対し短時間で所望の劣化を生じさせることができるものが用いられる。
【0015】
レーザ光源10から出力されたレーザ光LBは、NDフィルタ12により測定に必要な光量に絞られた後、ハーフミラー13により反射されて集光レンズ14に入射し、集光レンズ14により所定のスポット径に調整された後、液晶パネル15の試験対象領域(レーザ光照射領域)Pに照射される。
【0016】
レーザ光源10とNDフィルタ12との間に設けられたシャッタ11は、レーザ光LBの光路に対し進退自在の遮光素子である。シャッタ11は、シャッタ11を駆動するシャッタ駆動部41を介して制御装置40に接続されている。制御装置40は、シャッタ駆動部41を介してシャッタ11の動作を制御することができ、かかるシャッタ11により任意のタイミングでレーザ光LBを遮断することで、液晶パネル15に入射させる光(レーザ光LB/観察光OB)を切り替えることができるようになっている。
【0017】
観察光源31は、例えば蛍光ランプ、タングステンランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、発光ダイオード等を用いた光源であり、液晶パネル15が搭載される実機(液晶表示装置、プロジェクタ)が備える光源と同種のものを用いることもできる。液晶パネル15の劣化状態を目視観察するには、観察光源31に白色光を出力する光源を用いると、実機での表示状態を再現しやすくなり、また目視観察も容易になる。
【0018】
観察光源31は、液晶パネル15を支持する被検物支持部19の背面側(集光レンズ14と反対側)に設けられており、観察光源31から出力された観察光OBは、同じく被検物支持部19の背面側に設けられた偏光板17を介して液晶パネル15に照射される。液晶パネル15に照射された観察光OBは、その一部が液晶パネル15を透過し、集光レンズ14及びハーフミラー13を介して、後述のCCDカメラ34によって検出される。この場合、集光レンズ14は、CCDカメラ34に設けられた図示略の結合レンズと共に、観察光OBを拡大する拡大光学系を構成する。すなわち、集光レンズ14は、レーザ光LBを液晶パネル15上に集光させる集光光学系として機能すると共に、観察光OBを拡大してCCD面上に結像させる拡大光学系としても機能する。レーザ光LBの光路と観察光OBの光路は、1つの集光レンズ14を共用するように構成されており、これにより試験対象領域Pと観察視野の中心とが一致するようになっている。
【0019】
ミラー33の外側(液晶パネル15と反対側)には、レーザ光LB及び観察光OBの光学系を一部共有するCCDカメラ34が設けられている。CCDカメラ34は、液晶パネル15の少なくとも表面の一部を撮像し、その撮像用光源としては観察光源31が使用される。液晶パネル15を透過した観察光OBの光量はCCDカメラ34によって検出可能であり、この点においてCCDカメラ34は、液晶パネル15に照射した後の観察光OBを検出する観察光検出手段として機能する。
【0020】
CCDカメラ34は、制御装置40と接続されている。CCDカメラ34で撮像された画像情報は、必要に応じて画像処理された後、制御装置40のモニタに表示される。CCDカメラ34及びモニタは、例えば、液晶パネル15の試験対象領域Pを目視観察するための画像観察手段、液晶パネル15,25上の試験対象領域Pとレーザ光LBの光軸との位置合わせをするための位置決め手段、及び前記試験対象領域Pと観察光OBとの位置合わせをするための位置決め手段等として用いられる。
【0021】
ハーフミラー13からCCDカメラ34に至る光路上には、偏光板36が設けられている。偏光板36は、液晶パネル15の背面側に設けられた偏光板17と対をなすものである。偏光板17及び偏光板36は、レーザ光LBを照射することによる液晶パネル15の劣化状態を、液晶パネル15の液晶層のΔn(屈折率;光学異方性)の変化として検出するために設けられるものである。すなわち、液晶パネル15の配向膜等が劣化されると、液晶の配向状態も変化するので、偏光板36を透過した観察光OBの光量を劣化処理の前後で比較すれば、液晶パネル15の劣化量を透過光量の変化量として容易に調べることができる。この場合、CCDカメラ34による撮像情報をコンピュータ等で解析すれば、劣化部位の光学的特性等を正確に評価することが可能になる。なお、液晶パネル15に予め偏光板が設けられている場合には、偏光板17及び偏光板36は省略することができる。
【0022】
液晶パネル15から集光レンズ14に至る観察光OBの光路上には、位相補償フィルム50が設けられている。位相補償フィルム50は、液晶パネル15中を斜めに通過した観察光OBの位相差を補償する位相補償手段である。
【0023】
前述のように、液晶パネル15を透過した観察光OBは、集光レンズを含む拡大光学系を通して結像させてからCCDカメラ34によって観察されるが、集光レンズ14にはNA(開口数)の高い顕微鏡レンズが使用されるため、液晶パネル15内を透過する観察光OBのうち、かなり大きな開き角を持つ光までが結像に寄与してしまい、観察によって得られる光学特性の変化を正確に見積もることができない場合がある。例えば、光学特性としてコントラストを測定する場合には、液晶パネル15の設計値よりも大きく異なったリタデーションを持つ光までが観測されてしまい、劣化された部分と劣化されない部分とのコントラストが低下して劣化の判断が的確に行なえなくなるが、本実施形態のように集光レンズ14に斜めに入射される観察光OBを位相補償フィルム50によって補償した場合には、このような入射角度によるリタデーションのずれが解消されるので、より正確な評価を行なうことができるようになる。
【0024】
位相補償フィルム50としては、一般に液晶パネルの視覚補償フィルムとして用いられている公知の位相補償フィルムを採用することができる(例えば、特許第3342940号)。ただし、フィルム以外の他の形態を有する位相補償手段を採用することも可能である。係る位相補償手段は、劣化試験を行なう液晶パネルの液晶のモード、すなわちTN(Twisted Nematic)モード、VA(Vertical Aligned Nematic)モード、STN(Super Twisted Nematic)モード等の液晶のモードに従って、最も効果のあるタイプを選定することができる。
【0025】
被検物支持部19に支持された液晶パネル15は、制御装置40に接続されている。制御装置40は、液晶パネル15を駆動する図示略のパネル駆動部を介して液晶パネル15に任意の動作を行なわせることができるようになっている。このため、観察光OBを照射した状態で液晶パネル15を動作させれば、液晶パネル15の電気光学特性(電圧−透過率(V−T)特性)を容易に得ることができ、レーザ光LBの照射による劣化処理と並行して、あるいは劣化処理と交互に、電気光学特性の測定を行なうことができる。
【0026】
以上に説明した劣化試験装置100によれば、劣化処理用の光源としてレーザ光源10を用いているので、レーザ光の強いエネルギーによって液晶パネル15に対して短時間に十分な大きさの劣化を生じさせることができる。
【0027】
また、レーザ光源10と観察光源31の双方を備えているので、レーザ光LBを液晶パネル15に照射することによる劣化処理と、観察光OBを液晶パネル15に照射することによる液晶パネル15の劣化状態の検査とを1台の試験装置で行うことができる。特に、液晶パネル15の検査を、液晶パネル15を被検物支持部19に支持した状態で行なうことができることから、液晶パネル15の加速劣化試験を簡便且つ正確に実施することが可能である。
【0028】
また、液晶パネル15からCCDカメラ34に至る観察光OBの光路上に位相補償フィルム50を設けて、CCDカメラ34に対して斜めに入射する観察光の位相差を位相補償手段によって補償しているので、大きな開き角によって入射される観察光OBのリタデーションのずれを解消することができ、より精度の高い耐光性評価を行なうことが可能である。
【0029】
なお、図1に示すレーザ光LB及び観察光OBの光学系は、その主要部のみを簡略化して表示したものであり、試験装置の設計に応じた構成部材の変更/追加を妨げるものではない。例えば、液晶パネル15を支持する被検物支持部19には、液晶パネル15の温度制御を行なう温度制御部を設けることができる。かかる温度制御部により液晶パネル15を冷却ないし加熱し、試験中の液晶パネル15の温度を一定に保持するようにすることで、レーザ光照射での加熱に起因する液晶パネル15の劣化を抑制しつつ劣化試験を行なうことができるので、液晶パネル15の劣化因子から熱に起因する部分を排除し、光照射による液晶パネル15の劣化現象を正確に観測することが可能になる。
【0030】
[液晶パネル]
ここで、被検物である液晶パネルの構成について説明する。
図2(a)は液晶パネル15の一例を示す模式図である。図2(a)は、TNモードの液晶層を具備したTFTアクティブマトリクス型の液晶パネル15の部分断面構成図であるが、液晶パネル15はVAN(Vertical Aligned Nematic)モード、STN(Super Twisted Nematic)モード等の他の液晶モードのものであってもよく、その駆動形式(アクティブマトリクス型/パッシブマトリクス型)も限定されない。また液晶パネル15は、透過型に限らず、反射型、半透過反射型のものであってもよい。反射型の液晶パネルの劣化試験を行う場合にも、観察光の検出手段の配置を変更するのみで容易に対応できる。
【0031】
なお、図2では、3つの画素P1〜P3のみを示しているが、実際には画素P1〜P3と同様の構成の画素が平面視マトリクス状に配列形成された構成を備えている。また、各画素P1〜P3に対応して設けられるスイッチング素子であるTFT(薄膜トランジスタ)についての図示は省略している。
【0032】
図2(a)に示す液晶パネル15は、液晶層155を挟持して対向する一対の基板151,152を備えている。基板151,152は、石英、ガラス、プラスチック等の透明基板であり、両基板の対向面に介在させた図示略のスペーサにより所定の間隔に離間されている。基板151の内面側(液晶層155側)に、複数の画素電極156と、画素電極156を覆う配向膜153とが形成されている。基板152の内面側に、遮光膜(ブラックマトリクス)158と、対向電極157と、配向膜154とが積層形成されている。
【0033】
液晶層155は、ネマチック液晶を主体としてなり、配向膜153、154の配向規制力によって、基板151,152間でツイスト配向している。配向膜153,154は、ポリイミド膜や酸化シリコン膜により形成することができ、ポリイミド膜を用いる場合には、液晶を所望の方向に配向させるためのラビング処理を施される。また、酸化シリコン膜を用いる場合には、斜方蒸着法等によって膜面に凹凸形状を付与し、かかる形状に起因する配向規制力により液晶を配向させる。
【0034】
画素電極156は、各画素ごとに形成されて、当該領域内の液晶層155に駆動電圧を印加する。画素電極156は、例えばITO(インジウム錫酸化物)などの透明導電膜を基板151上に成膜し、パターニングすることによって形成できる。そして、各画素電極156には、図示しないTFT(スイッチング素子)が電気的に接続され、かかるTFTのスイッチング動作に基づき画像信号に応じた電圧が書き込まれるようになっている。対向電極157は、上記の各画素電極156と共に液晶層155に電圧を印加するものであり、基板152上の略全面に形成されている。この対向電極157は、各画素に共用される共通電極となっており、接地電位等の所定電位に接続される。対向電極157についても、ITO等の透明導電膜により形成することができる。
【0035】
遮光膜158は、各画素の境界を覆い、当該領域における漏れ光を遮断するためのものであり、基板152上に形成されている。この遮光膜158には、低反射の金属材料(例えばクロム)が用いられ、各画素に対応する領域に開口部を有する平面視略格子状に形成されている。
【0036】
[劣化試験方法]
次に、液晶パネル15における劣化試験方法について説明する。
この劣化試験方法では、液晶パネル15に対して波長、照射時間等の条件を種々に設定してレーザ光を照射して劣化を生じさせ、この劣化処理と並行して、観察光OBを液晶パネル15に照射し、その透過光をモニタすることにより液晶パネル15の耐光性を評価する。具体的には、液晶パネル15に照射した観察光OBの透過率変化を観測することにより劣化に至るΔnの変化を観測する検査と、パネル駆動部により液晶パネル15を駆動して電気光学特性(V−T特性)の変化を観測する検査と、CCDカメラ34により液晶パネル15を撮影することで液晶パネル15を目視観察する検査とを行なうことができる。
【0037】
例えば、液晶パネル15に照射した観察光OBの透過率変化を観測する検査では、レーザ光の照射時間を横軸にとり、液晶パネル15を通過する光の強度(透過率)を縦軸にとったグラフをプロットすることにより、液晶パネルの耐光性の評価が可能である。かかる評価結果から加速係数を算出することにより、液晶パネル15の耐用時間を推定することができる。以下、この試験方法について図面を参照して説明する。
【0038】
まず、図2(b)に示すように、レーザ光源10から射出したレーザ光LBをその波長、照射エネルギー又は照射時間のうち少なくとも1つを可変パラメータとして設定して、液晶パネル15の試験対象領域に照射する(第1工程)。試験対象領域は任意に設定可能であり、例えば図示の場合では液晶パネル15の1画素P2に対応する領域を設定している。レーザ光LBを用いて比較的高いエネルギーを液晶パネル15に与えることにより、液晶パネル15の画素P2に含まれる各部材(例えば配向膜や液晶分子等)に劣化が生じる。このとき、液晶パネル15の劣化量は、レーザ光LBの可変パラメータの設定内容によって異なることとなる。本実施形態では、主として、レーザ光LBの照射によって画素P2内の配向膜を変質させ、液晶分子の配向性を局所的に低下させるという態様の劣化を想定する。レーザ光LBを連続波(CW)とすることにより、エネルギーをより効率よく与えることが可能である。
【0039】
次に、図2(c)に示すように、観察光OBを液晶パネル15に照射し、当該液晶パネル15を通過した当該観察光OBの状態を図1に示したCCDカメラ34により検出する(第2工程)。本実施形態では、検出対象とする観察光OBの状態(光学的特性)として光量(光強度)を想定しているが、これに限定されず、偏光状態、分光特性など種々のものが考えられる。すなわち、観察光OBの状態として検出したい内容に応じて観察光OBを出力する光源と、その検出手段を用意すれば、種々の検出対象について測定が可能になる。検出対象(光量、偏光状態、分光特性等)を変更したとしても、液晶パネル15の試験対象領域に劣化が生じていれば、レーザ光LBを照射する前後で異なる光学的特性が検出されるので、液晶パネル15の劣化量を観測することができる。
【0040】
ここで、図3は、上記第2工程で、液晶パネル15を透過する観察光OBの光量を検出対象として測定を行なう場合の説明図であり、図3(a)は、レーザ光LBを照射する前(劣化しない状態)の液晶パネル15について上記第2工程を実施する場合について示す図であり、図3(b)は、レーザ光LBを照射した後(液晶パネル15を劣化させた後)の液晶パネル15について上記第2工程を実施する場合について示す図である。
【0041】
図3(a)に示すように、液晶パネル15の光入射側及び光射出側には、それぞれ偏光板17,36が配置されている。偏光板17と偏光板36とは、互いの透過軸が略直交するように配置されており、光入射側の偏光板17の透過軸は、液晶パネル15の基板151側における液晶分子の平均的配向方向(ダイレクタ)と略平行となるように配置されている。また、偏光板36の透過軸は、液晶パネル15の基板152側における前記ダイレクタと略平行となるように配置されている。
【0042】
観察光源31から出力されて偏光板17に入射した観察光OBは、当該偏光板17の光学的主軸に沿った振動成分のみが通過し、直線偏光となる。この直線偏光となった観察光OBは、液晶層155を透過する際に、液晶層155の旋光作用によりその偏光方向が90度回転されて液晶層155から射出される。その後、観察光OBの偏光方向と平行な透過軸を有する偏光板36を透過し、CCDカメラ34にて光量検出される。
【0043】
一方、図3(b)に示す場合では、図2(c)に示したように、レーザ光LBの照射によって配向膜153,154に劣化を生じているので、画素P2においては配向膜153,154の配向規制力低下に起因する液晶の配向乱れが生じている。そしてこれに伴って入射光に対する偏光変換作用が低下するため、液晶層155を透過した後の観察光OBの偏光状態は、例えば図示のように楕円偏光となり、図3(a)に示したものと異なった状態となる。そのため、観察光OBのうち偏光板36を透過できる偏光成分が減少し、CCDカメラ34で検出される光量も低下する。
【0044】
図4は、図3(a)において観察光OBを検出する様子を示す模式図である。
図4のように試験対象領域PをCCDカメラ34で観察する場合には、試験対象領域Pが微小であるため、観察光源31から射出された観察光OBのうち、かなり大きな開き角を持つ光OB1までが結像に寄与する。一般に、液晶中の1点を通る光束であっても、光軸に対する傾き角が異なれば液晶の屈折率楕円体を切る角度が異なるため、リタデーションは異なったものとなる。集光レンズ14で用いるような顕微鏡レンズの飲込みθは通常25°程度あるので、リタデーションは20nm程度変化することになる。そのため、結像されたCCD上のイメージは種々のリタデーションを持った光束の積分となり、コントラストが低下する。例えば、劣化が生じていない図3(a)のような場合であっても、位相補償フィルム50を設けなければ、斜め方向から入射したリタデーションのずれた光OB1が結像に寄与する結果、黒は完全な黒とはならず、若干の白を含んだものとなる。劣化を生じている図3(b)のような場合にも同様の現象が生じ、位相補償フィルム50を設けなければ、実際の光学特性の変化よりも大きな変化が検出されることになる。
【0045】
一方、図4のように液晶パネル15の光射出側に位相補償フィルム50を設けた場合には、リタデーションのずれた観察光OB1は、位相補償によってリタデーションを正しい状態に修正されるため、位相補償フィルム50を透過した状態の観察光OB2については、黒は略完全に近い黒となり、誤差を含まない状態とすることができる。図3(b)の場合についても同様であり、位相補償フィルム50を透過させることで、誤差の少ない正確な劣化量を見積もることが可能になる。
【0046】
[位相補償フィルム]
ここで、位相補償フィルムの構成について説明する。
図5は、位相補償フィルム50の一例として、TNモードで採用される位相補償フィルムの概略構造を模式的に示す斜視図である。
【0047】
図5に示す位相補償フィルム50は、トリアセチルセルロース(TAC)等からなる支持体51上に配向膜(不図示)を設け、その配向膜上にトリフェニレン誘導体等のディスコティック化合物層52を形成したものである。なお、配向膜はポリビニルアルコール(PVA)等からなり、その表面にはラビング等が施されて、液晶分子の配向方向を規制しうるようになっている。一方、ディスコティック化合物層52は、負の一軸性を示す誘電体であるディスコティック化合物50aの光軸50bの傾斜角度が厚み方向に連続的に変化した光学的構造を有するものである。このようなハイブリッド配向構造は、支持体51上に前記一軸性の誘電体である液晶性ディスコティック化合物(ディスコティック液晶)50aを塗布し、一定温度に加熱してディスコティックネマチック相(N相)を形成した後、硬化させることによって得ることができる。なおディスコティック液晶50aは、支持体51側で最小のチルト角θmin(例えば0°〜15°)を示し、その反対側である空気界面側で最大のチルト角θmax(例えば20°〜60°)を示す。なお、ディスコティック液晶50aの配向規制方向53をX軸方向と定義する。このX軸方向は、位相補償フィルムを法線方向から見た場合の進相軸方向である。このような位相補償フィルム50として、具体的には富士写真フィルム製のWVフィルムを採用することが可能である。
【0048】
図6は、位相補償の説明図である。
液晶パネル15に封入されたネマチック液晶155aは、光学的に正の一軸性を示すものである。すなわち、光軸155b方向の屈折率が他の方向の屈折率より大きく、屈折率楕円体ではラグビーボール型となる。そして、液晶パネル15の液晶層155に選択電圧を印加すると、液晶層155の厚さ方向中央部から端部にかけて液晶分子が垂直配向する。ここで、ラグビーボール型の屈折率楕円体は、斜め方向から観察すると楕円になり、その長軸と短軸との差が複屈折となる。この斜め方向から観察した場合の位相差が、黒表示における光漏れの原因となり、液晶パネルのコントラスト比を低下させて、視角特性を悪化させることになる。
【0049】
これに対して、位相補償フィルム50を構成するディスコティック液晶50aは、光学的に負の一軸性を示すものである。すなわち、光軸50b方向の屈折率が他の方向の屈折率より小さく、屈折率楕円体では円盤型となる。ここで、位相補償フィルム50における円盤型の屈折率楕円体50aの光軸50bを、液晶パネル15におけるラグビーボール型の屈折率楕円体155aの光軸155bと平行に配置すれば、光学的な正負が逆になって、屈折率楕円体155aの複屈折効果を打ち消すことができる。そこで、位相補償フィルム50における配向膜の配向規制方向53が、液晶パネル15における配向膜の配向規制方向と略一致するように、位相補償フィルム50を配置する。また図6に示すように、位相補償フィルム50における液晶(ディスコティック化合物)50aの光軸50bと位相補償フィルム50の法線とのなす角度が大きい方の面が、液晶パネル15と対向するように、位相補償フィルム50を配置する。これにより、図6に矢印で対応関係を示すように、液晶パネル15の光入射領域に位置する液晶155a(即ち、正の屈折率楕円体)の光軸155bに対して、位相補償フィルム50を構成する負の屈折率楕円体50aの光軸50bが平行に配置される。そのため、液晶パネル15の光入射側領域に生じる光学的な位相差を3次元的に補償することが可能になる。
【0050】
図2及び図3に戻る。以上のようにして液晶パネル15にレーザ光LBを照射する前後においてそれぞれ液晶パネル15を透過する観察光OBの光量を検出したら、レーザ光LBの可変パラメータの設定内容に応じた観察光OBの状態の差異に基づいて液晶パネルの耐光性を評価する(第3工程)。例えば、レーザ光LBの照射時間の長短による観察光OBの状態の差異を比較することにより経時劣化を評価することができる。また、レーザ光LBの照射エネルギーの大小による観察光OBの状態の差異を比較することにより、光強度に対する耐性を評価することができる。
【0051】
以上説明した劣化試験方法は、上述の劣化試験装置100を用いて行なわれるものである。すなわち、CCDカメラ34に対して斜めに入射する観察光OBの位相差を補償しつつ液晶パネル15の試験対象領域Pを観察することにより、液晶パネル15の劣化量を評価するものである。この方法においては、レーザ光の強いエネルギーによって被検物である液晶パネル15に対して短期間に十分な大きさの劣化を生じさせることができる。このため、従来のようにハロゲンランプ等を用いて試験を行なう場合に比べて、試験期間を大幅に短縮することが可能である。また、劣化部位の光学特性を行なう際に、大きな開き角を有する観察光OBのリタデーションを補償しているので、精度の高い光学特性の評価が可能となっている。さらに、レーザ光LBの照射中、あるいはレーザ光LBの照射を一時的に停止した状態で観察光OBを液晶パネルに照射することができ、レーザ光LBにより劣化処理した液晶パネルの劣化量の検査を簡便にかつ迅速に行なうことができる。
【0052】
[第2の実施の形態]
図7は、本発明の第2の実施形態に係る劣化試験装置の要部を示す概略図である。なお、第1実施形態の劣化試験装置100と共通する構成要素については同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0053】
本実施形態の劣化試験装置200の基本構成は第1実施形態の劣化試験装置100と同じである。異なるのは、位相補償フィルム50を観察光OBの光路に対して進退自在に設けた点のみである。このため、図7では、位相補償フィルム50の近傍の構成のみを示し、他を省略している。
【0054】
図7に示す劣化試験装置200は、位相補償フィルム50を観察光OBの光路に対して進退自在に移動させる移動手段(図示略)が設けられている。この移動手段は、例えば図1に示した制御装置40に接続されており、制御装置40によって、劣化処理(レーザ照射)を行なっている最中は当該光路から位相補償フィルム50を退避させ、劣化処理を中断して劣化部位(試験対象領域P)を観察する場合には当該光路に挿入するように駆動されるようになっている。
【0055】
前述のように、観察光OBの光路とレーザ光LBの光路とは集光レンズ14の部分で重なるため、第1実施形態のように位相補償フィルム50を観察光OBの光路、すなわちレーザ光LBの光路に固定してしまうと、位相補償フィルム50は劣化処理の間中ずっとレーザ光LBに曝されることになるため、長時間使用していると、レーザ光の強いエネルギーによって位相補償フィルム50は劣化する可能性がある。一方、図7のように位相補償フィルム50に移動機構を設け、劣化処理中は位相補償フィルム50を当該光路から退避させるようにすれば、位相補償フィルム50の性能を長期間にわたって維持することが可能になる。
【0056】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施の形態例について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】第1実施形態に係る劣化試験装置の概略構成を示す模式図である。
【図2】被検物の一例である液晶パネルの断面構造を示す模式図である。
【図3】劣化試験方法の一例を示す模式図である。
【図4】位相補償フィルムの作用を説明するための模式図である。
【図5】位相補償フィルムの構成の一例を示す模式図である。
【図6】位相補償フィルムによる位相補償を説明するための模式図である。
【図7】第2実施形態に係る劣化試験装置の概略構成を示す模式図である。
【符号の説明】
【0058】
10…レーザ光源、14…集光レンズ、15…液晶パネル、31…観察光源、34…CCDカメラ(観察光検出部)、50…位相補償フィルム(位相補償手段)、100,200…劣化試験装置、LB…レーザ光、OB…観察光、P…試験対象領域


【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶パネルの耐光性評価のための劣化試験装置であって、
前記液晶パネルの劣化処理に用いるレーザ光を出力するレーザ光源と、
前記液晶パネルの光学特性の評価に用いる観察光を出力する観察光源と、
前記液晶パネルに照射した後の前記観察光を検出する観察光検出部と、
前記観察光検出部に対して斜めに入射する前記観察光の位相差を補償する位相補償手段とを備えたことを特徴とする劣化試験装置。
【請求項2】
前記液晶パネルから前記観察光検出部に至る前記観察光の光路上にレンズが設けられており、前記位相補償手段は、前記レンズに対して斜めに入射する前記観察光の位相差を補償することを特徴とする請求項1記載の劣化試験装置。
【請求項3】
前記レーザ光の光路と前記観察光の光路とが、前記レンズを共用するように構成されていることを特徴とする請求項2記載の劣化試験装置。
【請求項4】
前記位相補償手段は、前記観察光の光路に対して進退自在に構成されていることを特徴とする請求項3記載の劣化試験装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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