説明

動物の繋留装置及び農地における動物の繋留構造

【課題】簡単な構造で作動の安定性を確保することが出来る、新規な構造の動物の繋留装置及び農地における動物の繋留構造を提供することを、目的とする。
【解決手段】動物繋留領域22の少なくとも3箇所に設置された位置決め具14の外周を取り囲む状態で地上に載置されることにより、地上での移動がそれら位置決め具14で制限される無端の環状線材16に対して、動物18が繋がれる移動リング22を外挿装着した。また、位置決め具14の内周側に遮蔽部材26を設けて、移動リング22に繋がれた動物18が位置決め具14の内周側を通って環状線材16の周方向へ移動することを阻止した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば農場の鳥獣被害対策等として犬等の動物を効果的に活用するために、犬等の動物を広範囲に移動可能な状態で繋ぎ留めることが出来る、新規な構造の動物の繋留装置および農地における動物の繋留構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、農産物の鳥獣による被害が深刻化しており、様々な対策が講じられている。例えば、所定の時間間隔で爆音を発する所謂爆音機を設置したり、光を反射する反射テープ等を農地に設置すること等が行われている。しかしながら、これらの対策は、鳥獣が危険でないことを学習することにより、次第に効果が薄れるという問題があった。
【0003】
そこで、鳥獣被害の防止効果を長期間に亘って発揮させるために、鳥獣の天敵として機能する動物を用いることが提案されている。採用する動物としては、人間に馴染み易く、調教がし易い等の観点から、例えば犬が検討されている。
【0004】
そこにおいて、鳥獣を犬で威嚇する場合、犬を紐や鎖等で杭に繋ぎ留めただけでは、鳥獣が犬の行動範囲を学習することにより、威嚇効果がなくなってしまうおそれがある。一方、犬を放しておくことは、人への安全や、農作物への悪影響、農作業への支障などの問題が懸念される。それ故、犬を用いて効果的に鳥獣防止策を講ずるには、犬を特定の広範囲で動ける状態で繋留しておく必要がある。
【0005】
そこで、特許文献1(特開2007−151485号公報)に記載されているように、鋼材等からなるレールを敷設して、このレールに沿って移動可能とされたローラにより犬を移動可能に繋留することが考えられる。しかしながら、レール自体が鋼材等の重量物であることに加えて、レールを支持するために高強度な支柱が多数必要になり、構造が大掛かりで設置に必要な労力とコストが大きいという問題があった。また、敷設したレールが農作業の邪魔になり易いという問題もあった。しかも、敷設したレールは移設が極めて困難であるという問題もあった。
【0006】
なお、特許文献2(特開2003−304766号公報)や特許文献3(特開2007−295810号公報)には、上記レールに代えて、簡易なワイヤやロープを用いる構造が提案されている。しかしながら、ワイヤ等を周上の複数箇所で吊り上げて位置決め支持することが必須とされている。それ故、ワイヤ等に係止された繋留具を、かかる支持部を通過してワイヤ上で移動可能な構造を実現するために、複雑な構造の繋留具が必要になる。そのために、製造が難しくなり、製造コストがかかるといった問題があった。また、複雑な構造の繋留具では、ワイヤ上での移動作動の安定性や信頼性を確保することが難しいという問題もあった。
【0007】
【特許文献1】特開2007−151485号公報
【特許文献2】特開2003−304766号公報
【特許文献3】特開2007−295810号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、特定の広範囲で犬等を移動可能に繋留することが可能であって、簡単な構造で移動作動の安定性を確保することが出来る、新規な構造の動物の繋留装置及び農地における動物の繋留構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0010】
動物の繋留装置に関する本発明は、(a)動物繋留領域の少なくとも3箇所に設置される位置決め具と、(b)それらの設置された位置決め具の外周を取り囲む状態で地上に載置されることにより、地上での移動がそれら位置決め具で制限される無端の環状線材と、(c)環状線材に対して移動可能に外挿装着されて、動物が繋がれる移動リングと、(d)位置決め具における内周側に設けられて、移動リングに繋がれた動物が位置決め具の内周側を通って環状線材の周方向へ移動することを阻止する遮蔽部材とを、有することを特徴とする。
【0011】
このような本発明に従う構造とされた動物の繋留装置においては、他の部材で直接に支持されることなく地上に載置された無端の環状線材に対して、移動リングが移動可能に外挿装着されている。これにより、移動リングを、環状線材の全周に亘って、略同じ条件で移動させることが出来る。
【0012】
要するに、前述の特許文献1に記載の従来構造におけるレールの支柱や、特許文献2,3に記載の従来構造におけるワイヤ等の吊り下げ支持部が不要となることから、それら支柱や吊り下げ支持部によって邪魔されることなく、移動リングが環状線材に沿って容易に且つ安定して移動可能とされるのである。しかも、移動リングが案内される環状線材には、引用文献1〜3に記載の支柱や吊り下げ支持部を設ける必要がないことから、環状線材の施工が容易となり、施工コストも安価で済む。
【0013】
また、本発明では、移動リングに繋がれた動物が位置決め具の内周側を通って環状線材の周方向に移動することが遮蔽部材で阻止される。これにより、動物が位置決め具の内周側を通過することに起因する不具合、例えば、犬等を移動リングに繋ぐ紐等が位置決め具に引っ掛かったり巻き付く等の問題が回避される。
【0014】
従って、本発明においては、環状線材上での移動リングの移動に基づく動物の環状線材に沿った全周での移動を、簡単な構造でもって、安定して実現することが出来る。
【0015】
なお、本発明において、位置決め具とは、移動リングを案内する環状線材の位置を制限的に設定するものである。従って、この位置決め具で環状線材ひいては移動リングの移動範囲が制限されることにより、移動リングに繋がれた動物が繋留状態で移動し得る領域が制限される。かかる位置決め具の具体的構造は限定されるものでなく、地上に位置固定に設置されて、地上における環状線材の移動を制限し得るものであれば良い。例えば、木や竹,金属,石,合成樹脂等の強度を有する材料で形成されて、一部が地中に埋設されて固設される杭や壁,柱等の他、地上に設置される重量ブロックや建造物等で、位置決め具を構成することも可能である。
【0016】
また、位置決め具は、環状線材の内周側に設けられて環状線材の内周側への移動を制限するものである。それ故、環状線材が飛び越えて内周側に移動してしまわない程度の高さや形状を有するものが採用されるが、具体的に限定されるものでない。より好適には、移動リングに対して紐等で繋がれた動物が飛び越えたり飛び乗ったり出来ない程度の高さの位置決め具が採用される。これにより、移動リングに動物を繋ぐ紐等が位置決め具に巻き付いたり絡まったりすることが一層効果的に防止される。
【0017】
また、本発明において、「地上に載置」とは、環状線材が単に置かれているだけであることをいう。即ち、前述のとおり環状線材は、他の支持材等で固定等されることなく、置かれている。位置決め具は、環状線材の内周側への移動を制限するだけのものであり、環状線材は位置決め具による制限内で、地上において部分的に変形して或いは全体として移動し得て良い。
【0018】
さらに、本発明において、環状線材の形成材料は、特に限定されるものではなく、例えば、天然繊維や合成繊維,金属材,合成樹脂材等が何れも採用可能であるが、長期間に亘る使用を考慮すれば、耐久性に優れた金属材からなるワイヤ等や、耐磨耗性に優れた樹脂繊維ロープ等を採用することが望ましい。また、環状線材は、ワイヤやロープ等のように、その変形が許容されることが望ましい。これにより、環状線材に対して移動リングや紐等で繋がれた犬等が引っ張った場合に、その引っ張った所定長さ部分だけが変形して地上で変位可能とされる。その結果、移動リングやそれに犬等を繋ぐ紐等が地上の石等に引っ掛かった場合でも容易に外れる。
【0019】
また、本発明において、環状線材は常時無端である必要はなく、使用時に無端であれば良い。例えば、かしめ固定される連結筒金具等で離脱不能に両端が連結されて無端環状とされている他、両端に固着したボルトとナットでワイヤ等の線材の両端を離脱可能に連結して無端環状としたり、一端に固着した筒体に他端を内挿すると共に軸直角方向に貫通して連結ピンを装着することにより離脱可能に連結した無端環状とすること等も可能である。特に、ワイヤ等の線材の両端を離脱可能に連結した環状線材を採用すれば、農地等を取り囲むようにして環状線材を地上に設置したり、撤去することが一層容易となる。なお、かかる線材は、周方向で2本以上に分割された連結構造であっても良い。
【0020】
更にまた、本発明において、環状線材の周方向の全周長さは、複数の位置決め具を相互に直線的に繋いだ周長よりも大きく設定されることが望ましい。これにより、位置決め具の設置場所において、位置決め具と環状線材との離隔距離が大きく設定されて、環状線材上を周方向に滑動する移動リングが位置決め具で阻害されることが一層安定して回避される。要するに、環状線材の全長は、設置された位置決め具を結ぶことで形成される一つの閉じられた領域(閉鎖領域)の外周長よりも大きく設定されるが、かかる閉鎖領域の外周長の2.0倍よりも小さく設定されることが望ましい。即ち、環状線材の全長が閉鎖領域の外周長よりも短いと、環状線材と位置決め具の間に移動リングが移動するだけの隙間を確保することが難しく、移動リングひいては動物の周方向への移動に支障を及ぼすおそれがある。一方、環状線材の全長が閉鎖領域の外周長の2.0倍以上に大きくなると、環状線材を動物が引っ張ることで大きく移動してしまって、動物の移動可能領域を充分に制限し難くなり、農地内の作物等への被害が懸念される場合がある。
【0021】
更にまた、本発明では、移動リングの地上での移動や、環状線材が位置決め具に当接した状態での移動リングの移動を容易にするために、前述のとおり環状線材にある程度自由な変形が許容されることが望ましい。そこにおいて、自由な変形が許容される態様としては、(1)環状線材を変形可能な材料で形成したり、(2)環状線材を複数の連結片が屈曲可能に連結された構造とすることが考えられる。(1)の態様としては、天然繊維や合成繊維を撚った紐や縄,ロープ,ワイヤ,鋼線等が例示される。(2)の態様には、鎖やチェーン等が例示される。
【0022】
また、本発明において、移動リングの材質や形状は特に限定されない。金属リングやワイヤリング,ロープリング等が何れも採用可能である。所定長さの筒体形状のスリーブを移動リングとして採用することも可能であるが、石や砂等の噛み込みを回避する趣旨から、軸方向長さの短い環形状であることが望ましい。
【0023】
さらに、本発明において、移動リングに繋がれる動物は、特に限定されるものではない。そこにおいて、動物繋留領域が農地である場合には、農地で栽培される農産物に被害を及ぼす鳥獣の天敵となり得る動物が望ましい。多くの場合、犬が好適に採用されるが、複数の犬を一つの環状線材に対して、各別の移動リングを用いて、或いは共通の移動リングを用いて紐等で繋ぐようにしても良い。また、異なる動物を繋留しても良い。
【0024】
更にまた、本発明において、遮蔽部材は、移動リングに繋がれた動物が位置決め具の内側を通っての環状線材の周方向移動を阻止できるのであれば、その形状や大きさ(位置決め具の内周側への延出寸法や高さ寸法等)は、限定されない。特に好適には、繋留された動物が位置決め具の周囲を一周以上移動できないように、動物を繋ぐ紐の長さを考慮して、遮蔽部材の大きさが設定される。これにより、移動リングに動物を繋ぐ紐等が位置決め具に巻き付いてしまうことを一層効果的に防止できる。より好適には、移動リングに繋がれた動物が遮蔽部材をこえて環状部材の周方向に移動できないように、遮蔽部材の大きさが設定される。
【0025】
また、本発明において、遮蔽部材は位置決め具の内周側に設けられていれば良い。例えば、位置決め具と遮蔽部材を一体的に形成することで部品点数の減少と設置作業の容易化が図られる。また、位置決め具と遮蔽部材を別構造として設計自由度を大きくすることも可能である。その場合に、位置決め具と遮蔽部材の間には、移動リングに繋がれた動物が通れない程度の隙間があっても良い。
【0026】
そこにおいて、遮蔽部材は、位置決め具の内周側に設けられた塀状部材によって構成されていることが望ましい。これにより、移動リングに繋がれた動物が遮蔽部材を飛び越えないようにすることが容易に可能となる。
【0027】
なお、本発明において、塀状部材とは、移動リングに繋がれた動物が飛び越えることが出来ない程度の高さを有していれば、特に限定されるものではない。例えば、網や柵,壁,レンガやコンクリートブロックを積み上げたもの等であっても良い。
【0028】
また、農地における動物の繋留構造に関する本発明は、農地の少なくとも3箇所に位置決め具を設置すると共に、それら位置決め具の外周を取り囲む状態で無端の環状線材を地上に載置して、環状線材の地上での移動をそれら位置決め具で制限する一方、環状線材に移動リングを外挿装着して、移動リングに対して動物を紐状部材で繋ぐことにより、環状線材上での移動リングの移動に基づいて動物の環状線材に沿った全周での移動が許容されるようにしたことを、特徴とする。
【0029】
このような本発明に従う構造とされた農地における動物の繋留構造においては、農地の適当な任意位置に設置した位置決め具で環状線材の配設位置を設定して、かかる環状部材に沿った周上で移動可能に犬等の動物を繋留することが出来る。
【0030】
本発明は、前述の本発明に従う構造とされた動物の繋留装置を用いることで容易に実現可能である。それによって、農地で栽培される農産物の鳥獣による被害を、移動リングに繋がれた動物によって防止することが可能となる。
【0031】
なお、本発明における各構成は、前述の動物の繋留装置に係る発明において各対応する構成と同様に解釈される。
【0032】
また、農地における動物の繋留構造に係る本発明においては、農地における耕作領域を取り囲むように、環状線材が設置されていることが望ましい。これにより、耕作領域で栽培される野菜や果物等の農産物に被害を加える鳥獣を農産物に近づけないようにすることが出来る。なお、本発明において、耕作領域とは、農産物が栽培される場所をいい、田畑だけでなく、果樹園等も含む。
【0033】
また、農地における動物の繋留構造に係る本発明においては、紐状部材で移動リングに繋がれた動物の行動範囲が、農地における耕作領域を外れた領域に制限されていることが望ましい。これにより、鳥獣を追い払うための動物が耕作領域を荒らしてしまう不具合を回避することが出来る。なお、動物の行動範囲を制限する方法には、環状線材の移動可能領域を位置決め具で適当に設定して制限したり、紐状部材の長さを適当に設定して制限したりするだけでなく、耕作領域の周囲に柵等を設けることも含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0035】
図1及び図2には、本発明の一実施形態としての農地における動物の繋留構造10が示されている。この繋留構造10は、本発明の一実施形態としての動物の繋留装置12を用いることで実現されている。かかる動物の繋留装置12は、少なくとも3箇所に設置された位置決め具としての杭14の外周を取り囲む状態で地上に載置される環状線材としての環状ワイヤ16に対して、動物としての犬18が繋がれる移動リングとしてのリング金具20が移動可能に外挿装着された構造とされている。そして、環状ワイヤ16上でのリング金具20の移動に基づいて、犬18の環状ワイヤ16に沿った全周での移動が許容されている。
【0036】
より詳細には、杭14は、動物繋留領域(農地)としての蜜柑園22に打ち込まれることで設置される。特に本実施形態では、蜜柑園22における耕作領域としての果樹が植えられた果樹植設領域24を外周側で取り囲むようにして、果樹植設領域24の外周線上で適当に離隔して複数(図面上は4本)の杭14が打ち込まれている。即ち、4本の杭14で囲まれた領域内に果樹植設領域24が位置している。
【0037】
なお、各杭14の地面からの突出高さは、環状ワイヤ16の移動を確実に阻止し得るように50cm以上が望ましい。より好適には、繋留状態の犬18が飛び越えないように1m以上の高さとすることが望ましい。
【0038】
また、各杭14には、遮蔽部材(塀状部材)としての金網26が設けられている。この金網26は、剛性の周囲枠体内に針金を編んで形成されたものである。そして、金網26は、図面上では明示されていないが、矩形の周囲枠体の一つの縦辺部分が杭14に対して針金や紐等で括り付けられている。これにより、金網26が、杭14の内周側、即ち、4本の杭14で囲まれた領域の内周側に向かって杭14から延び出して設けられている。なお、杭14と金網26の間には、犬18が通れる程の隙間は存在していない。
【0039】
また、金網26の地面からの高さは、犬18が飛び越えられない高さに設定されていることが望ましい。これにより、金網26の杭14への固定用の辺長を十分に確保し、且つ犬18が金網26を飛び越えてしまう不具合を回避することが出来る。
【0040】
また、杭14から内周側に突出する金網26の突出寸法は、後述する犬用紐40の長さに応じて設定される。好適には、犬18を繋留する犬用紐40の長さと略同じかそれよりも短い寸法をもって、杭14から内周側への金網26の突出寸法が設定される。これにより、犬18が杭14の内周側を、金網26の内側から周方向に向かって杭14を超えて移動することを防止して、犬用紐40の杭14への巻きつき等の不具合を防止できる。
【0041】
一方、環状ワイヤ16は、亜鉛メッキ鋼線やその縒り線から形成されており、略円形の一定断面で全周に亘って延びている。そこにおいて、本実施形態では、図3に示されているように、長手方向一端に設けられた連結フック28と長手方向他端に設けられた連結リング30が連結されることで、無端の環状ワイヤ16が形成されている。
【0042】
具体的には、連結フック28は、略C字形状を呈するフック本体32に対して、開口部を閉鎖する閉鎖部34が組み付けられている。このフック本体32の開口部から連結リング30が差し入れられて、閉鎖部34で開口部を閉鎖することにより、連結フック28に対して連結リング30が係止されている。なお、ワイヤ16の一端部と連結フック28の接続部分には、リング金具20が引っ掛からないで移動できるようにテーパ状の固定片36が設けられている。また、ワイヤ16の他端部と連結リング30との間にも、同様に、テーパ状の固定片38が設けられている。
【0043】
なお、環状ワイヤ16の全長は、環状ワイヤ16と全ての杭14との間にリング金具20が通過可能な程度の隙間が容易に形成される長さであることが望ましい。具体的には、環状ワイヤ16の全長は、4本の杭14で囲まれた領域の周方向長さよりも長く、4本の杭14で囲まれた領域の周方向長さの2倍の長さよりも短いことが望ましい。より好適には、環状ワイヤ16の周長は、4本の杭14の各杭間を直線で連結した周長の1.5倍以下の長さに設定される。
【0044】
蓋し、環状ワイヤ16の周長が、4本の杭14の各杭間を直線で連結した周長と同じ程度であると、杭14と環状ワイヤ16との間に、リング金具20の移動用の隙間を確保することが難しくなる。一方、環状ワイヤ16の周長が大きすぎると、リング金具20に繋がれた犬18の行動範囲が必要以上に大きくなってしまうと共に、環状ワイヤ16が杭14の内周側に離脱してしまい易くなる。
【0045】
さらに、環状ワイヤ16は、容易に撓む。これにより、環状ワイヤ16を部分的に地面から離隔させることが容易に出来る。その結果、犬18が後述する犬用紐40を介してリング金具20を引っ張った際に、リング金具20に挿通された環状ワイヤ16の所定長さ部分だけが容易に変形するようになっている。
【0046】
また、環状ワイヤ16が変形可能であることにより、環状ワイヤ16は、リング金具20に挿通された部分においてだけ、図4に示されているように、地面から浮いた状態とされる。そして、地面に沿ってリング金具20が移動すると、環状ワイヤ16においてそれまで地面に接していた部分がリング金具20によって地面から強制的に浮かされて、地面から浮いた領域が周方向に移動するように変化する。このような環状ワイヤ16の変形は、環状ワイヤ16が容易に撓むことで実現され得るものであり、かかる環状ワイヤ16の特性によって、地上でのリング金具20の移動が容易に、小さな抵抗で実現され得る。なお、図4では、後述する犬用紐40の図示は省略している。
【0047】
また、上述の如き環状ワイヤ16の特性(可撓性)は、環状ワイヤ16が杭14に当接している場合においても、効果を発揮する。即ち、図5(a)に示されているように、環状ワイヤ16において杭14に当接している部分が、リング金具20の通過に際して、図5(b)に示されているように、杭14から容易に引き離されるようになっている。従って、環状ワイヤ16が杭14に当接していても、リング金具20の移動は妨げられない。
【0048】
このような環状ワイヤ16は、4本の杭14の外周を取り囲む状態で地面に載置される。これにより、環状ワイヤ16が地面に沿って移動した場合に、4本の杭14の何れかに引っ掛かることで、環状ワイヤ16の地上での移動が制限される。なお、環状ワイヤ16によって4本の杭14の外周を取り囲む方法としては、連結リング30と連結フック28が連結される前の環状ワイヤ16(1本のワイヤ)の一端を持って4本の杭14で囲まれた領域を一周する方法等がある。
【0049】
また一方、リング金具20は、ステンレス鋼等の耐蝕性材料(本発明においては金属に限定されるものでない)で形成されており、例えば円環形状とされている。なお、リング金具20の内径寸法は、環状ワイヤ16の直径よりも十分に大きく、特に本実施形態では、連結リング30の外径寸法や連結フック28の最大幅寸法(図3の上下方向の寸法)よりも大きくされている。これにより、連結フック28と連結リング30による連結部分をリング金具20が容易に通過できる。
【0050】
このようなリング金具20は、連結フック28と連結リング30が連結される前の環状ワイヤ16(1本のワイヤ)に外挿されて組み付けられる。その後、連結フック28と連結リング30が連結されることで、無端の環状ワイヤ16にリング金具20が移動可能に外挿装着されることになる。
【0051】
また、リング金具20には、紐状部材としての犬用紐40の一端が取り付けられている。そして、この犬用紐40の他端には、犬18が装着している首輪が取り付けられている。即ち、犬18は、犬用紐40を介して、リング金具20に繋がれている。なお、犬用紐40は、従来から公知のものが何れも採用可能である。
【0052】
そこにおいて、本実施形態では、犬用紐40と環状ワイヤ16の長さ、更には、金網26の幅寸法が適当に設定されていることにより、犬18は、図6に示されているように、金網26の他端に到達できない。即ち、犬18が金網26の他端よりも更に内側を通ろうとすると、環状ワイヤ16が杭14に当接して張った状態となる。この状態で、犬用紐40の長さが足りないことから、犬18が金網26の他端に到達できない。その結果、犬18が杭14を一周してしまうことにより、犬用紐40が杭14に巻き付く不具合を回避することが出来る。
【0053】
また、本実施形態では、犬用紐40と環状ワイヤ16の長さが適当に設定されていることにより、犬18は、図7に示されているように、果樹植設領域24に植えられた果樹に到達できない。即ち、犬18が果樹植設領域24に植えられた果樹に近づこうとすると、環状ワイヤ16が杭14に当接して張った状態となる。この状態で、犬用紐40の長さが足りないことから、犬18が果樹に到達できない。その結果、犬18が果樹に成る蜜柑に被害を与える等といった不具合を回避することが出来る。
【0054】
このような繋留構造10においては、犬18が環状ワイヤ16の周方向に移動する際の可動部分が環状ワイヤ16に外挿されたリング金具20だけとされている特定構造の繋留装置12を用いたので、環状ワイヤ16の何れの部分においても、リング金具20を略同じ条件で通過させることが出来る。これにより、犬18の周回移動が容易に実現され得ることとなる。
【0055】
従って、果樹に成る蜜柑を食べようとする烏や猿等の鳥獣が蜜柑に近づこうとしても、犬18がこれらの鳥獣を追い払い易くなる。
【0056】
また、レールを敷設する従来の構造に比して、設置作業を容易にすることが出来る。加えて、構造が簡単であることから、製造コストも抑えることが可能となる。
【0057】
さらに、本実施形態では、連結フック28と連結リング30によって長手方向一端と他端が連結されることで、無端の環状ワイヤ16が形成されていることから、環状ワイヤ16の載置作業を容易にすることが出来る。
【0058】
以上、本発明の一実施形態について詳述してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0059】
例えば、位置決め具は5つ以上であっても良い。また、遮蔽部材(塀状部材)は、位置決め具から自立して設けられていても良い。更に、製造時に無端とされた環状線材を採用することも、勿論可能である。
【0060】
因みに、本発明の効果を確認するために、略矩形状を呈する試験用みかん園の四隅に杭を立設し、その外周を取り囲むように全周略100mの環状ワイヤを載置した。そして、この環状ワイヤに外挿したリング金具に対して犬用紐でゴールデンレトリバー(犬)を繋留して、その運動状況を観察した。その結果、ゴールデンレトリバーは、環状ワイヤの全周に亘って周回状の移動を行い、4つの何れの辺部分にも大きな差異なく滞在するような行動を示した。この結果から、少なくとも、簡単な構造によって周回運動可能に犬を繋留できることを確認し得た。
【0061】
また、本発明に従う構造とされた動物の繋留装置は、農作物の鳥獣被害防止等の目的で農地への犬等の繋留に際して好適に採用されるものであるが、それに限定されるものではなく、例えば家庭用ペットとしての動物の繋留にも利用することが可能であり、それによって、飼い主の負担を軽減しつつペットの運動不足を効果的に解消できる等の効果を発揮し得る。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施形態としての農地における動物の繋留構造を概略的に示す平面図。
【図2】同繋留構造を概略的に示す俯瞰図。
【図3】環状ワイヤの連結部分を拡大して示す平面図。
【図4】地面に載置された環状ワイヤにおいてリング金具の内側に位置する部分の状態を説明する側面図。
【図5】リング金具の通過に際して環状ワイヤが杭から離れる状態を説明するための平面図。
【図6】犬が金網の向こう側へ行けないことを示す平面図。
【図7】犬が果樹に到達できないことを示す平面図。
【符号の説明】
【0063】
10:繋留構造,12:繋留装置,14:杭,16:環状ワイヤ,18:犬,20:リング金具,22:蜜柑園,24:果樹植設領域,26:金網,40:犬用紐

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物繋留領域の少なくとも3箇所に設置される位置決め具と、
それらの設置された位置決め具の外周を取り囲む状態で地上に載置されることにより、地上での移動がそれら位置決め具で制限される無端の環状線材と、
該環状線材に対して移動可能に外挿装着されて、動物が繋がれる移動リングと、
前記位置決め具における内周側に設けられて、前記移動リングに繋がれた動物が該位置決め具の内周側を通って前記環状線材の周方向へ移動することを阻止する遮蔽部材と
を、有することを特徴とする動物の繋留装置。
【請求項2】
前記遮蔽部材が、前記位置決め具の内周側に設けられた塀状部材によって構成されている請求項1に記載の動物の繋留装置。
【請求項3】
農地の少なくとも3箇所に位置決め具を設置すると共に、それら位置決め具の外周を取り囲む状態で無端の環状線材を地上に載置して、該環状線材の地上での移動をそれら位置決め具で制限する一方、該環状線材に移動リングを外挿装着して、該移動リングに対して動物を紐状部材で繋ぐことにより、該環状線材上での該移動リングの移動に基づいて該動物の該環状線材に沿った全周での移動が許容されるようにしたことを特徴とする農地における動物の繋留構造。
【請求項4】
前記農地における耕作領域を取り囲むように、前記環状線材が設置されている請求項3に記載の農地における動物の繋留構造。
【請求項5】
前記紐状部材で前記移動リングに繋がれた動物の行動範囲が、前記農地における耕作領域を外れた領域に制限されている請求項3又は4に記載の農地における動物の繋留構造。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−136634(P2010−136634A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313426(P2008−313426)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(594156880)三重県 (58)