説明

動物用飼料添加剤

【課題】 飼料添加剤として、カシュー殻液の有効成分を減少させず、またカブレを生じさせない。
【解決手段】 アナカルド酸を含有したカシューナッツ殻液にアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩を添加混合し、カシューナッツ殻液に含まれるアナカルド酸を選択的にアナカルド酸金属塩に改質する。使用方法によってはさらに、腑形剤および/または多孔質粉末を添加混合し固形化することでかぶれ低減と飼料を使用するさいのハンドリング性の向上を賦与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反芻動物用飼料の添加剤、さらに詳しくは、カブレを低減したカシューナッツ殻液を有効成分とする動物用飼料の添加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
カシューナッツ殻液は、動物用飼料の添加剤として効果があることが知られている(特許文献1参照)。さらに具体的な効果として、非特許文献1によれば、カシューナッツの殻から抽出した植物油などを家畜の餌となる飼料に混ぜると、地球温暖化をもたらす温室効果ガスの一つで、主に牛のげっぷとして排出されるメタンの発生量を9割減らせるという研究成果が報告され、さらに、飼料のエネルギー効率の高まりで飼料の削減や病気予防にも効果が期待できるという。
【0003】
この研究では、カシューナッツ殻液とヤシやオリーブなど数十種の植物性油を抽出、牛の胃液に当たるルーメン液をガラス容器に入れて 病原菌の増減を調べた結果について、カシューナッツの殻を砕いた植物油の抑制が強かったこと、植物の葉に生息するシュードザイマと呼ばれる酵母菌から分泌される液体も、同様の効果があったこと、ルーメン液のネバネバ感が和らぐことでガスの発生が抑制され、メタンの発生量はいずれも9割削減できたことなどを報告している。
【0004】
ところで、カシューナッツ殻液は、インド、ベトナム、ブラジル等の熱帯地域で収穫されるカシューナッツの殻から採取される液であり、ベンゼン環に水酸基と飽和もしくは不飽和脂肪酸が付加した化合物である。主成分であるアナカルド酸を熱処理により脱炭酸して熱的に安定なカルダノールを主成分とする工業用に加工される。
【0005】
カシューナッツ殻液は、いままで、自動車や鉄道車両のブレーキ用摩擦調整材、塗料などの原材料として多用されてきたが、前述のように、カシューナッツ殻液には、牛のげっぷとして排出されるメタンガス発生の抑制効果、飼料の削減や病気予防にも効果が期待されることから、家畜の餌となる飼料の添加剤として注目を浴びるようになってきた。特にカシューナッツ殻液の主成分であるアナカルド酸には、抗菌作用があることが知られており、とくにグラム陽性菌に対してその効果が期待できることもわかってきた。しかしながら、アナカルド酸を含んだカシューナッツ殻液を使用する場合には下記のような問題がある。
【0006】
すなわち、
(1)輸送中の温度変化の影響によりアナカルド酸のカルボキシル基が脱炭酸してカルダノールに変化し、有効成分であるアナカルド酸が減少したり、なくなったりする、
(2)脱炭酸に伴って炭酸ガスが発生し、発生した炭酸ガスのため、カシューナッツ殻液を収容した梱包容器の内圧が上昇し、容器の膨張、あるいは内容物の吐出や容器が爆発する危険がある、
(3)アナカルド酸を含んだカシューナッツ殻液を冷蔵もしくは冷凍状態で、輸送または保管することも出来るが、カシューナッツ殻液の温度を低く保つためのエネルギーが必要となって、コスト高となる。また、たとえカシューナッツ殻液を低温に保っていてもアナカルド酸のカルボキシル基の脱炭酸化反応は避けられず、脱炭酸が徐々に起こって長期の保存ができない、
(4)作業者の皮膚に付着するとひどいカブレを生じる危険がある、
といった問題がある。このような問題を解消できれば、カシューナッツ殻液が動物用飼料の添加剤としてさらなる活用が期待される。
【特許文献1】特許公開2001−151675号公報
【非特許文献1】出光興産ニュースリリース 2007年度「牛のルーメン機能を改善する天然素材を北海道大学と共同で発見」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする課題は、カシューナッツ殻液を動物用飼料添加剤として用いるには、輸送中の温度変化の影響、脱炭酸に伴う炭酸ガスの発生、人体にカブレを生じさせるといった問題を解決しなければならないという点である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、カシューナッツ殻液に含まれるアナカルド酸を選択的にアナカルド酸金属塩に改質することによって、アナカルド酸のカルボキシル基はカルダノールに変化せず、したがって炭酸ガスは発生せず、その有効性を維持することを最大の特徴とする。あわせて、カブレの成分であるアナカルド酸は、カブレの生じにくいアナカルド酸金属塩に変化して人体に対するカブレを低減できる。
【0009】
さらに、改質されたアナカルド酸金属塩を含むカシュー殻液に腑形剤と多孔質の粉末とのうちの少なくとも一方もしくは両方を添加して上記カシューナッツ殻液を固体化すれば、カブレをさらに低減できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カシューナッツ殻液に含まれるアナカルド酸を1種類以上のアルカリ金属またはアルカリ土類金属と反応させて安定なアナカルド酸金属塩に改質するため、輸送および保管中の脱炭酸、炭酸ガスの噴出をなくして、輸送および保管の期間中、一定の品質を保ち、環境の変化によっても劣化せず、さらには、取扱者のカブレの恐れを低減することができる。したがって、改質されたアナカルド酸金属塩を含むカシューナッツ殻液をそのまま飼料に添加して動物に与えることができ、アナカルド酸金属塩は、動物の胃で分解されてアナカルド酸に再生され、動物の体内で、アナカルド酸の有する作用を発揮してメタンガス発生の抑制、病気予防の効果が得られ、飼料の削減の効果が得られる。さらに、改質されたアナカルド酸金属塩を含むカシューナッツ殻液を腑形剤と多孔質の粉末との内の少なくとも一方を添加して固形化することによって、動物の取扱者に対するカブレをさらに低減でき、飼料を使用するさいのハンドリング性の向上を図り、カシューナッツ殻液を飼料分野において大いに活用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、カシューナッツ殻液に、有効成分としてアナカルド酸金属塩を含む動物用飼料添加剤であって、前記アナカルド酸金属塩は、カシューナッツ殻液に1種類以上のアルカリ金属またはアルカリ土類金属を添加してカシューナッツ殻液に含まれるアナカルド酸が選択的に改質されたものである。
【0012】
本発明による動物用飼料添加剤に加工する処理の説明に先立ち、本発明に用いるアナカルド酸を含んだカシューナッツ殻液について、その概要を説明する。
まず、カシューナッツは、天然に存在する熱帯性植物の実であり、カシューナッツ殻液は、カシューナッツの実を採取する際、副生物として得られるカシューナッツの殻に含まれた油状の液体である。カシューナッツの実には、蛋白質と糖質などが含まれており、食用としてミックスナッツなどのスナックや料理に用いられる。
【0013】
カシューナッツ殻液には、アナカルド酸、カルドール、2−メチルカルドール、カルダノールなどの成分が含まれている。その含有量はカシューナッツの産地により若干の差があるが、アナカルド酸約75重量%、カルドール約20重量%、2−メチルカルドールおよびカルダノールを約5重量%である。
【0014】
本発明は、カシューナッツ殻液を動物用飼料添加剤に使用するに際し、採取したカシューナッツ殻液を炭酸ガスの発生による危険の除去とアナカルド酸の減少を回避することによって、品質の安定を図り、併せてかぶれのおそれを低減するため、カシューナッツ殻液に含まれるアナカルド酸を選択的アナカルド酸金属塩に改質するものである。改質処理は、アナカルド酸を含有したカシューナッツ殻液に1種類以上のアルカリ金属又はアルカリ土類金属を添加し、アナカルド酸をアルカリ金属又はアルカリ土類金属と反応させてアナカルド酸金属塩を生成させる処理である。
【0015】
アナカルド酸とアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、リン酸水素塩の少なくとも一種類とを室温のもとで、数時間反応させると、アナカルド酸金属塩が合成される。使用するアルカリ金属、アルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、リン酸水素塩としては水酸化カルシウム、水酸化カリウム等が使用できるが、コスト面、安全面では、特に水酸化カルシウムが好ましい。
【0016】
アナカルド酸を金属塩化する際の水酸化カルシウムの仕込み比率は、原料であるアナカルド酸を含んだカシューナッツ殻液に対し、0.1〜2.0モル、好ましくは0.3〜1.5モルである。水酸化カルシウムなどが0.1モル未満であるとアナカルド酸の金属塩化反応が十分に進行しない可能性があり、一方、2.0モルを超えると未反応の水酸化カルシウムなどが残存しコスト高となる可能性があるので好ましくない。
【0017】
改質処理において、アナカルド酸をアルカリ金属又はアルカリ土類金属と反応させてアナカルド酸金属塩を生成させた後、さらに選択処理として、アナカルド酸金属塩以外の物質であるカシューナッツ殻液に含まれるカルダノール、カルドールおよび2−メチルカルドールの3種類の内、少なくとも1種類以上を分離除去する。これによって、アナカルド酸金属塩の濃度が上がり、後の再生処理において、工業的に分離・精製が困難なアナカルド酸を比較的高濃度で分離再生することができる。
【0018】
なお、カシューナッツ殻液の液中にアナカルド酸金属塩を生成する際、および/またはカシューナッツ殻液中からアナカルド酸金属塩を分離するに際し、粘度が高いと混合攪拌不足や、ろ過の際の歩留まり低下等の不具合が生じる可能性がある。このような問題を解消するため、改質処理において、その粘度上昇を抑えるための溶剤を添加することが望ましい。カシューナッツ殻液の粘度の上昇を抑えることによって改質処理の作業性を向上できる。使用する溶媒には、特に指定はないが、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒が挙げられる。そのなかでも、特にコスト面でイソプロピルアルコールが適している。
【0019】
アナカルド酸金属塩化の際の反応温度は脱炭酸以下の温度に限定されるが、通常10〜100℃、好ましくは、20〜80℃である。反応温度が10℃未満であると、アナカルド酸を含んだカシューナッツ殻液の粘性が上がり、一方、100℃を越えると、脱炭酸のおそれがある。
【0020】
次にカシューナッツ殻液のカブレについてその発生機構を説明する。カシューナッツ殻液によるカブレは、アレルギー性の接触性皮膚炎である。アレルギーは免疫反応の作用機序からI型からIV型に分類され、カシューナッツ殻液によるカブレはIV型に分類される。IV型は細胞性免疫が関係するアレルギー反応で、表皮中のランゲルハンス細胞が異物を認識し、この物質と結合し自身がリンパ管に移動することにより免疫機構が始動する形態をとる。
【0021】
カシュー殻液成分によるカブレは、ランゲルハンス細胞がカシュー成分を異物(アレルゲン)と認識し、カシューナッツ殻液成分とランゲルハンス細胞が結合しリンパ内に移動することにより引き起こされる。したがって、カシューナッツ殻液成分の皮膚内への浸透を防ぎ、ランゲルハンス細胞との結合を阻害できれば、カブレを防ぐことが可能である。
【0022】
カシューナッツ殻液によるカブレは、カシューナッツ殻液を固形化し、表皮中に浸透しにくい形状にすることにより回避することができる。カシューナッツ殻液を固形化するには、カシューナッツ殻液を粉体と混ぜ合わすのが容易で、簡単である。固体化のための粉体としては、腑形剤、多孔質材が好適である。腑形剤としては、乳糖、セルロース類、小麦粉、コーンスターチ、ふすま、糠等が挙げられる。多孔質材としては、ゼオライト、シリカゲル、珪藻土、炭などが挙げられる。腑形剤、多孔質材は、それぞれ単独でカシューナッツ殻液に混ぜ合わせても、あるいは、両者を併用してもよい。すなわち、腑形剤または前記多孔質の粉末のうちの少なくとも1種類を任意に選定してこれをカシューナッツ殻液に選択的に添加混合することによって固形化できる。
【0023】
腑形剤および/または多孔質材の配合量は、カシューナッツ殻液100重量部に対して30〜1000重量部であり、好ましくは50〜800重量部である。配合量が30重量部より少ないと液状のものが残存し、カシューナッツ殻液成分の皮膚内への浸透を防ぎきれずにカブレが発生する恐れがある。
【0024】
以上の処理によって得られたアナカルド酸金属塩を有効成分として含むカシューナッツ殻液をそのままあるいは、腑形剤と多孔質の粉末とのうちの少なくとも一方を添加してカシューナッツ殻液を固体化して飼料に添加する。動物がその飼料を食べると、カシューナッツ殻液に含まれるアナカルド酸金属塩は、動物の胃の中で分解されてアナカルド酸に再生され、動物の体内で、アナカルド酸の有する作用が発揮され、牛に与えたときには、げっぷとして排出されるメタンの発生が抑制され、さらに、飼料のエネルギー効率を高め、飼料を削減し、病気予防を図ることができる。
【実施例】
【0025】
以下に本発明の実施例を説明する。以下の実験では、カシューナッツ殻液に含まれるアナカルド酸をアナカルド酸カルシウムに合成し、カシューナッツ殻液に含まれるアナカルド酸カルシウムの有効性、保存性を確認するため、アナカルド酸カルシウムをもとのアナカルド酸に再生し、改質処理後のカシューナッツ殻液と、再生処理後のカシューナッツ殻液とのカルボン酸の吸収強度を比較し、カシューナッツ殻液中に含まれるアナカルド酸の変化の有無を検証した。
【0026】
[実施例1]
(アナカルド酸カルシウム含有カシューナッツ殻液の合成)
ベトナム産ローカシューナッツの実と殻を分離し、殻を圧搾機で搾りアナカルド酸を含んだカシューナッツ殻液を抽出した。磁性乳鉢に抽出したアナカルド酸を含んだカシューナッツ殻液500gと水酸化カルシウム50gと蒸留水50gを仕込みラボミルにセットし室温で約1時間攪拌混合し、アナカルド酸カルシウム含有カシューナッツ殻液を得た。
【0027】
(保存試験)
前記(アナカルド酸カルシウム含有カシューナッツ殻液の合成)によって得たアナカルド酸カルシウム含有カシューナッツ殻液を150℃で1時間加熱処理した。
(アナカルド酸含有カシューナッツ殻液の再生)
温度計、攪拌装置、冷却缶を備えた内容積10リットルの3つ口フラスコに、前記保存試験で処理を行ったアナカルド酸カルシウム含有カシューナッツ殻液400gとn−ヘキサン3000gを入れた後、1%塩酸水溶液2000gを徐々に滴下した。その後、室温、常圧下で約60分混合した。得られた反応液を分液ロートに仕込み水層を除去した。次いでエバポレーターに反応液を仕込み、3mmHgの減圧下、常温でn−ヘキサンを蒸留させ再生したアナカルド酸含有カシューナッツ殻液を得た。
【0028】
(有効性試験)
その後、処理前のカシューナッツ殻液と再生したアナカルド酸含有カシューナッツ殻液をフーリエ変換型赤外線分光光度計で分析し、3100cm−1と1650cm−1付近のカルボン酸の吸収強度を比較し、変化の無い事を確認した。
【0029】
[実施例2]
(アナカルド酸カルシウムの合成)
ベトナム産ローカシューナッツの実と殻を分離し、殻を圧搾機で搾りアナカルド酸を含んだカシューナッツ殻液を抽出した。温度計、攪拌装置、冷却缶を備えた内容積10リットルの3つ口フラスコに、抽出したアナカルド酸を含んだカシューナッツ殻液810gとイソプロピルアルコール3690gを入れた後、水酸化カルシウム100gと蒸留水100gを仕込んだ。その後、60℃に昇温し、4時間還流させつつ攪拌を継続し、アナカルド酸カルシウム含有カシューナッツ殻液を生成した。次に得られた生成物を濾過し濾布上の残渣を60℃で1時間乾燥し、アナカルド酸カルシウムを得た。
【0030】
(保存試験)
前記(アナカルド酸カルシウムの合成)によって得たアナカルド酸カルシウム含有カシューナッツ殻液を150℃で1時間加熱処理した。
(アナカルド酸の再生)
温度計、攪拌装置、冷却缶を備えた内容積10リットルの3つ口フラスコに、前記保存試験で処理を行ったアナカルド酸カルシウム400gとn−ヘキサン3000gを入れた後、1%塩酸水溶液2000gを徐々に滴下した。その後、室温、常圧下で約60分混合した。得られた反応液を分液ロートに仕込み水層を除去した。次いでエバポレーターに反応液を仕込み、3mmHgの減圧下、常温でn−ヘキサンを蒸留させ再生したアナカルド酸を得た。
【0031】
(有効性試験)
その後、処理前のカシューナッツ殻液と再生したアナカルド酸をフーリエ変換型赤外線分光光度計で分析し、3100cm−1と1650cm−1付近のカルボン酸の吸収強度を比較し、変化の無い事を確認した。
【0032】
[比較例1]
実施例1でベトナム産ローカシューナッツから抽出したアナカルド酸を含んだカシューナッツ殻液を150℃で1時間加熱処理した。その後、処理前後のカシューナッツ殻液をフーリエ変換型赤外線分光光度計で分析し、3100cm−1と1650cm−1付近のカルボン酸の吸収強度を比較し、熱処理後のカシューナッツ殻液ではカルボン酸の吸収が消滅していることを確認した。
以上、実施例1,2に明らかなとおり、改質処理によってカシューナッツ殻液に含まれる有効成分としてのアナカルド酸は変化、変質せず、その働きが低下しないことが明らかになった。
【0033】
[実施例3]
(カブレ性の試験)
(1)実験の概要
カシューナッツ殻液を実験例1,2の処理を行なったものに対し、以下に示す接触試験(以下パッチテストという)を行った。比較のため、比較例1,2の処理によって得られたカシューナッツ殻液を用いて同様にパッチテストを行った。
【0034】
(実験例1)ベトナム産ローカシューナッツの実と殻を分離し、殻を圧搾機で搾りアナカルド酸を含んだカシューナッツ殻液を抽出した。磁性乳鉢にアナカルド酸を含んだカシューナッツ殻液100gと水酸化カルシウム10gの蒸留水10gの混合液を仕込みラボミルにセットし、室温で約1時間攪拌混合した。アナカルド酸金属塩を含有するカシューナッツ殻液を得た。
【0035】
(実験例2)実験例1で得たアナカルド酸金属塩を含有するカシューナッツ殻液100gに、小麦粉500gを5回に分けて添加した。その後、粉末状になるまで室温で約1時間攪拌を継続し生成物を得た。
【0036】
(比較例1)ベトナム産ローカシューナッツの実と殻を分離し、殻を圧搾機で搾りアナカルド酸を含んだカシューナッツ殻液を抽出した。
(比較例2)比較例1のアナカルド酸を含んだカシューナッツ殻液を脱炭酸のため180℃で1時間処理し、アナカルド酸を含まないカシューナッツ殻液を得た。
【0037】
(2)パッチテストの要領
通常、カシューナッツ殻液によるカブレは、カシューナッツ殻液に接触した後、数時間から遅くとも24時間以内に人体に赤斑や水泡、潰瘍となって現われ、接触部位やその周辺だけでなく、場合によっては全身に発症することもある。これは、個人差・個体の体調の違いによっても発症の程度に差があって、全くカブレない者もいる。そこで、実際の試験では最長148時間(1週間)行なって治癒効果も確認したが、以下の実施例では24時間後の発症状態の結果のみを記載する。
【0038】
カシューナッツ殻液のパッチテストは、人体の上腕若しくは前腕の内側の皮膚に直接カシューナッツ殻液を直径5mm程度の大きさに3分間静置した後、布で拭き取り、エチルアルコールで更に拭き取ったのち、石ケン水で洗浄した。
【0039】
(3)カブレ発症状態の判定方法
カブレ発症状態の判定は24時間後に次の基準に従って目視で判定した。発症なしを0、赤斑の軽度を1、やや軽度を2、やや重症を3、重症を4、水泡の軽度を5、重症を6、潰瘍を7として判断し記録した。被験者はアルファベットで区別した。
【0040】
(4)パッチテストの結果
パッチテストの結果を表1に示す。
【表1】

【0041】
以上表1に明らかなように、実験例2によれば、全員が赤斑の軽度1以下に抑えられた。また、実験例1では、被験者A、Dにやや軽度の発症が見られたが、被験者Bにはいずれの実験例のものでも全く発症は見られなかった。これに対して比較例では、全員が発症し、特に被験者Dは、比較例1に対して重症の反応を示し、比較例2に対してはやや重症の反応を示した。
【0042】
この実験例では、被験者Bがカシューナッツ殻液に対する耐性が最も高く、被験者Dが最も低いと判断されるが、カシュー殻液の主要成分であるアナカルド酸をアナカルド酸金属塩にしたことによってその効果がみられ、さらに固形化することによりカブレ性を低減又は消失できることが明らかになった。以上、実験にはゼオライト粉末を用いたが、ゼオライト粉末に限らず、シリカゲル、珪藻土、炭などの多孔質材であっても、さらには乳糖、セルロース類、小麦粉、コーンスターチ、ふすま、糠等の腑形剤であっても同様の効果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0043】
輸送や保存の際の危険性が無くなり、品質、安定性に優れ、かつ作業者がカブレの危険性から開放されることから、今後飼料分野での活発な利用が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物用飼料の有効成分としてアナカルド酸金属塩を含むことを特徴とする動物用飼料添加剤。
【請求項2】
動物用飼料の有効成分としてアナカルド酸金属塩を含む動物用飼料添加剤であって、
前記アナカルド酸金属塩は、カシューナッツ殻液に含まれるアナカルド酸が選択的に改質されたものであることを特徴とする動物用飼料添加剤。
【請求項3】
前記アナカルド酸金属塩は、カシューナッツ殻液に1種類以上のアルカリ金属またはアルカリ土類金属が添加されてカシューナッツ殻液中に合成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の動物用飼料添加剤。
【請求項4】
前記カシューナッツ殻液中から前記アナカルド酸金属塩以外の物質は除去されていることを特徴とする請求項1に記載の動物用飼料添加剤。
【請求項5】
前記アナカルド酸金属塩を含むカシューナッツ殻液は、腑形剤と多孔質の粉末とのうちの少なくとも一方が添加されて固体化されているものであることを特徴とする請求項1又は3のいずれか一に記載の動物用飼料添加剤。

【公開番号】特開2010−88363(P2010−88363A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262436(P2008−262436)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(000221959)東北化工株式会社 (17)
【Fターム(参考)】