説明

動物飼育室用空調設備及び動物飼育室用空調方法

【課題】省エネルギ化を達成しつつ、動物飼育室内を清浄に保つことができる動物飼育室用空調設備及び動物飼育室用空調方法を提供する。
【解決手段】動物が飼育される室1内の換気を行う動物飼育室用空調設備100であって、前記人の室1への入室及び前記室1からの退室を直接又は間接に検知するセンサ14と、室1内の換気を行う換気手段2,52と、を有し、センサ14が人の前記入室を検知したときには、所定の第1の風量で換気手段2が換気を行い、センサ14が人の前記退室を検知したときには、前記第1の風量よりも少ない風量である所定の第2の風量で換気手段2が換気を行うように構成されていることを特徴とする、動物飼育室用空調設備100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物飼育室用空調設備及び動物飼育室用空調方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子工学や医学分野で広く利用されているラット、マウス等の実験動物は、通常、温度及び湿度が管理され、塵埃や微生物等(以下、適宜「塵埃等」と言う。)の侵入が防止された室内で、ケージの中に入れて飼育される。このような動物の飼育室(動物飼育室)向けの空調設備には、例えば、(1)動物飼育室外部からの塵埃等によるコンタミネーションの防止、又は、動物飼育室内部から外部への微生物や遺伝子材料の拡散防止、(2)動物飼育室内の清浄度の維持、(3)温度及び湿度の維持、等の機能が通常要求される。
【0003】
例えば上記(1)に関しては、動物飼育室と前室との間や、動物飼育室と廊下との間で常に一定の静圧差を生じるように給気風量及び排気風量を制御して、室内圧力を制御することで上記要求を満たすことができる。また、上記(2)に関しては、給気風量を多く設定し(具体的には、動物飼育室内の空気を1時間あたり10回程度入れ替えることができる回数)、動物飼育室内に発生した塵埃等を迅速に排気することで上記要求を満たすことができる。さらに、上記(3)に関しては、年間を通して常に一定の温度及び湿度となるように空調を行うことで上記要求を満たすことができる。
【0004】
このような動物飼育室用の空調設備に関連する技術として、例えば特許文献1には、複数の動物飼育室と該動物飼育室に付属する少なくとも1つの支援室とからなり、全動物飼育室の風量制御装置を全て可変風量型定風量装置で構成し、各可変風量型定風量装置の稼働に連動させて給気ファンと排気ファンを制御するファン制御装置を設ける高度安全施設が記載されている。
【0005】
また、例えば特許文献2には、飼育室内に複数の実験用小動物飼育装置を配置し、該実験用小動物飼育装置に、飼育室内の空気を実験用小動物飼育装置を通して吸引すると共に、実験用小動物飼育装置で生じた臭気を脱臭して飼育室に循環する脱臭装置を設ける実験用小動物飼育室の空調システムが記載されている。
【0006】
さらに、例えば特許文献3には、動物飼育ラックおよび室内の空気を室外に排気する排気手段と、前記室内の圧力を検知する圧力センサを備え、前記圧力センサの測定値に基づいて、前記給気手段の給気量と前記排気手段の排気量を制御して前記室内の圧力を予め定めた設定値に維持する動物飼育室が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−23892号公報
【特許文献2】特開2003−180183号公報
【特許文献3】特開2010−81865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記文献に記載の動物飼育室用空調設備は、いずれも常に一定の給気風量で換気しつつ、動物飼育室内の圧力、温度及び湿度を維持している。そのため、このような制御では、省エネルギ化の観点から不経済となることがある。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、省エネルギ化を達成しつつ、動物飼育室内を清浄に保つことができる動物飼育室用空調設備及び動物飼育室用空調方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、動物飼育室にセンサを設け、当該センサの検出結果に応じた換気制御を行うことにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【発明の効果】
【0011】
本発明に拠れば、省エネルギ化を達成しつつ、動物飼育室内を清浄に保つことができる動物飼育室用空調設備及び動物飼育室用空調方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態に係る動物飼育室用空調設備を、動物飼育室とともに模式的に表す図である。
【図2】第1実施形態に係る動物飼育室用空調設備における、塵埃数に対する運転モードの変更のタイミングの概要を表す図である。
【図3】第1実施形態に係る動物飼育室用空調設備における、塵埃数に応じて給気風量を変化させる際のフローチャートである。
【図4】第1実施形態に係る動物飼育室用空調設備における、運転モード変更時の給気風量の変化を表すグラフである。
【図5】第1実施形態に係る動物飼育室用空調設備における、動物飼育室内の作業者の有無に応じて給気風量を変化させる際のフローチャートである。
【図6】第2実施形態に係る動物飼育室用空調設備を、動物飼育室とともに模式的に表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は以下の実施形態に何ら限定されず、本発明の要旨を損なわない範囲で任意に変更して実施することができる。
【0014】
<構成>
図1は、第1実施形態に係る動物飼育室用空調設備100を、動物飼育室1とともに模式的に表す図である。図1に示すように、第1実施形態に係る動物飼育室用空調設備100は、動物飼育室(即ち、動物が飼育される室)1内の換気を行うようになっている。なお、図1中、細破線矢印は電気信号の授受方向を、太実線は配管(ダクト)を、白抜きの矢印は空気の流れを示している。
【0015】
動物飼育室用空調設備100は、動物飼育室1内の塵埃数を計測する塵埃センサ、並びに、動物飼育室1内の人としての作業者の存在を検知する人感センサのうちの少なくとも一方であるセンサ14と、動物飼育室1内の換気を行う第1換気手段2及び第2換気手段52(いずれも換気手段)と、を備えている。なお、図1においては、上記塵埃センサ及び人感センサのうちの少なくも一方を単独の「センサ14」として示している。
【0016】
また、動物飼育室用空調設備100は、動物飼育室1内の作業領域16及びラック領域17をそれぞれ独立して換気するようになっている。具体的には、図1に示すように、第1換気手段2が作業領域16の換気を、また、第2換気手段52がラック領域17の換気を行うようになっている。
【0017】
〔作業領域16〕
作業領域16は、動物飼育室1が間仕切り20により分割されて形成された空間であり、第1換気手段2により換気されるようになっている。作業領域16には作業台21が設けられ、作業者が作業台21上で作業可能になっている。第1換気手段2と作業領域16とは給気ダクト4を介して接続され、給気ダクト4の経路上には、第1換気手段2側からHEPAフィルタ(High Efficiency Particulate Air Filter;図示しない)、作業領域16への給気風量を調節するモータダンパ8、作業領域16への風量を測定する風量計9及び吹出口6がこの順で設けられている。そして、第1換気手段2からの清浄空気が、吹出口6を通じて作業領域16に供給されるようになっている。
【0018】
また、作業領域16には、塵埃等を含む空気を排気するための排気ファン3が、排気ダクト5を介して接続されている。排気ダクト5の経路上には、作業領域16側から吸込口7、HEPAフィルタ(図示しない)、作業領域16からの排気風量を調節するモータダンパ11がこの順で設けられている。そして、作業領域16からの塵埃等を含む空気が、吸込口7を通じて排気ファン3により外部へ排出されるようになっている。
【0019】
上記のように、作業領域16にはセンサ14(具体的には、センサ14に接続され、塵埃数若しくは作業者の存在を検知する検知部14a)が設けられ、図1に示す第1実施形態においては、センサ14は塵埃センサ及び人感センサの少なくとも一方である。
【0020】
センサ14としての塵埃センサは、作業領域16内の塵埃数を計測するものである。塵埃センサとしては公知の任意のセンサを用いることができ、例えばパーティクルカウンタ等である。そして、塵埃センサによって計測された作業領域16内の塵埃数が所定の値以上となった時に、動物飼育室1内の作業領域16の換気がより多く行われるようになっている。ちなみに、塵埃数の増加は、作業者の入室に拠るものである言っても過言ではない。なお、これらの動作についての詳細な説明は後述する。
【0021】
また、センサ14としての人感センサは、動物飼育室1内の作業領域16における作業者の存在を検知するものである。このような人感センサとしては公知の任意のものを用いることができ、例えば赤外線センサ、熱センサ、重量センサ等である。また、人感センサは接触式のものでもよく、非接触式のものでもよい。さらに、人感センサは必ずしも作業領域16内部に設けられる必要はなく、例えば作業領域16の入口(つまり動物飼育室1の入口)にICカードリーダ等を設け、このようなICカードリーダを用いた入退室管理に拠って作業領域16に作業者がいるか否かを判断するようにしてもよい。この場合、ICカードリーダが、作業者の存在を検知する「センサ14」となる。そして、作業領域16における作業者の存在を人感センサが検知すると、作業領域16の換気がより多く行われるようになっている。なお、これらの動作についての詳細な説明は後述する。
【0022】
そして、センサ14の検出結果をコントローラ10が取得し、取得された検出結果と風量計9により測定される給気風量との値に基づいてコントローラ10がモータダンパ8を制御して、給気風量を変化させるようになっている。即ち、作業者の動物飼育室1への入室又は動物飼育室1からの退室をセンサ14が検知した場合に、換気制御手段としてのコントローラ10が給気風量を変化させるようになっている。このように、モータダンパ8を制御して給気風量を変化させることにより、空調の対象となる空気の量を減らすことができることから、空調(温度や湿度等の調節)に要する電力を削減することができる。
【0023】
なお、センサ14としての塵埃センサ及び人感センサはいずれか一方のみが設けられてもよく、両方が設けられてもよい。ただし、より安価に入手でき、より広く普及しているという観点からは、人感センサを用いることが好ましい。
【0024】
さらに、作業領域16には、作業領域16内の圧力を測定する圧力計12が設けられている。より具体的には、圧力計12に接続されている検知部12aによって、作業領域16内の圧力が測定されるようになっている。そして、圧力計12により測定された圧力をコントローラ13が取得し、取得された圧力に基づいてコントローラ13がモータダンパ11を制御して、排気風量を変化させるようになっている。このようにして、作業領域16内の圧力を適切に制御することができる。
【0025】
動物飼育室用空調設備100が設置される動物飼育室1には、非清浄廊下、後室、清浄廊下(いずれも図示しない)等が併設されている。具体的には、非清浄廊下、後室、動物飼育室1、清浄廊下等の順番で配置されている。そして、各室は、扉を介して相互に入退室可能な構成となっている。
【0026】
作業者が動物飼育室1にて作業を行う際には、はじめに非清浄廊下から後室に入室し、後室にて着替え、身体の清浄等を行う。そして、作業者の身体が清浄なものになった後、動物飼育室1に入室して作業を行う。また、必要に応じて、動物飼育室1から清浄に保たれた清浄廊下を通り、図示しない別の動物飼育室に入室することも可能である。
【0027】
各室の圧力は、所定の関係となるように通常は保たれている。即ち、清浄廊下の圧力が最も高く、次いで動物飼育室1、後室、非清浄廊下の順で圧力が減少するようになっている。各室の圧力関係をこのように保つことで空気の流れが清浄廊下から非清浄廊下方向への一定方向となるため、例えば非清浄廊下から後室や動物飼育室1への塵埃等の自然流入を防止することができる。
【0028】
従って、動物飼育室1に圧力計12を設けることにより、過度に排気されることなく(即ち過度に減圧されることなく)、動物飼育室1と他の各室との圧力関係を適切に保つことができる。
【0029】
換気手段としての第1換気手段2は、冷却コイル2aと、加熱コイル2bと、加除湿ユニット2cと、給気ファン2dと、を備えてなる。冷却コイル2aと、加熱コイル2bと、加除湿ユニット2cと、により、外部からの空気が適切な温度及び湿度に制御された後、給気ファン2dによって当該空気が作業領域16に給気されるようになっている。作業領域16に供給される空気としては、23℃程度、相対湿度50%程度とすることが好ましい。
【0030】
また、給気ファン2dは、例えばインバータ制御を行うことで動物飼育室1への所望の給気風量に応じて回転速度を変化させることができる。そのため、インバータ制御されている給気ファン2dを用いることにより、給気風量が少ないときに給気ファン2dの回転速度を減少させることができるため、動物飼育室用空調設備100のエネルギ消費量をより削減させることができる。つまり、インバータ制御された給気ファン2dの駆動電力の削減に加えて、対象となる空気の空調(温度や湿度等の調節)に要する電力も削減することができる。
【0031】
具体的には、給気ファン2dの回転速度の減少に伴って、給気ファン2dからの風量自体を減少させることができるため、冷却コイル2a等による温度や湿度調整を行う対象となる空気量を減少させることができる。従って、対象となる空気量が減少した分、冷却コイル2a等の駆動量を減少させることができ、これらを駆動させる電力を削減することができる。
【0032】
さらには、インバータ制御されている給気ファン2dを用いる場合はモータダンパ8が不要であるため、モータダンパ8を駆動させる電力が不要となり、この点でも省エネルギ化を図ることができる。
【0033】
給気風量の調節として、モータダンパ8を用いるかインバータ制御されている給気ファン2dを用いるかは、給気風量調節の頻度に応じて適宜決定すればよい。例えば給気風量調節を多く行う場合にはインバータ制御されている給気ファンが好適であるし、あまり調節を行わない場合にはモータダンパによる制御が好適である。
【0034】
〔ラック領域17〕
ラック領域17は、動物飼育室1が間仕切り20により区切られることにより形成される空間である。ラック領域17には動物が収容されるケージ18と、ケージ18が載置されるラック19が設けられている。ラック領域17は、上記のように換気手段としての第2換気手段52により換気されるようになっている。ただし、動物飼育室用空調設備100におけるラック領域17においては、センサ14(具体的には塵埃センサ及び人感センサのうちの少なくとも一方)の検出結果に関らず所定の給気風量で換気が行われるようになっている。
【0035】
第2換気手段52とラック領域17とは給気ダクト54を介して接続され、給気ダクト54の経路上には、第2換気手段52側からHEPAフィルタ(図示しない)、コントローラ60により制御され、ラック領域17への給気風量を調節するモータダンパ58、ラック領域17への給気風量を測定する風量計59及び吹出口56がこの順で設けられている。なお、第2換気手段52は、第1換気手段2と同様の構成を有するため、その詳細な説明を省略する。そして、第2換気手段52からの空気が、吹出口56を通じてラック領域17に供給されるようになっている。ラック領域17に供給される空気としては、23℃程度、相対湿度50%程度とすることが好ましい。
【0036】
また、ラック領域17には、塵埃等を含む空気を排気するための排気ファン53が、排気ダクト55を介して接続されている。排気ダクト55の経路上には、ラック領域17側から吸込口57、HEPAフィルタ(図示しない)、脱臭装置(図示しない)、コントローラ63により制御され、ラック領域17からの排気風量を調節するモータダンパ61がこの順で設けられている。そして、ラック領域17からの塵埃等を含む空気が、吸込口57を通じて排気ファン53により外部へ排出されるようになっている。
【0037】
さらに、ラック領域17には、ラック領域17内の圧力を測定する圧力計62が設けられている。より具体的には、圧力計62に接続されている検知部62aによって、ラック領域17内の圧力が測定されるようになっている。そして、測定されたラック領域17内の圧力に応じて、適切に排気が行われるようになっている。
【0038】
なお、ラック領域17への給気に関与するモータダンパ58、風量計59及びコントローラ60は、それぞれモータダンパ8、風量計9及びコントローラ10と同様の機能を有するため、その詳細な説明を省略する。また、ラック領域17からの排気に関与するモータダンパ61、圧力計62及びコントローラ63も、それぞれモータダンパ11、圧力計12及びコントローラ13と同様の機能を有するため、その詳細な説明を省略する。
【0039】
〔間仕切り20〕
間仕切り20は、作業領域16とラック領域17とを区切るものである。間仕切り20にはラック領域17からケージ18や飼育動物(図示しない)等を取り出し可能に扉(図示しない)が設けられている。間仕切り20は、例えば透明なアクリル板等で構成される。
【0040】
<動作>
次に、動物飼育室用空調設備100の動作について適宜図面を参照しながら説明する。はじめに、図1に示すセンサ14が塵埃センサの場合を例に、図2〜図4を参照しながら動物飼育室用空調設備100の動作を説明する。
【0041】
〔作業領域16内の換気〕
はじめに、動物飼育室1における作業領域16内の換気について説明する。
図2は、動物飼育室用空調設備100における、塵埃数に対する運転モードの変更のタイミングの概要を表す図である。図2に示すように、塵埃数Dが所定の最大値DH(第1の塵埃数)よりも小さいときには、所定の最小給気風量QL(第2の風量)で作業領域16の換気が行われている。そして、作業者が作業領域16に入室する等して塵埃数Dが増加し、塵埃数Dが所定の最大値DH以上になったときに、運転モードが「2」から「1」に切り替わる。その結果、給気風量が増加し、所定の最大給気風量QH(第1の風量)で作業領域16の換気が行われる(運転モード1)。なお、給気風量がQLからQHに増加する際には、所定の速度で給気風量が増加するようになっている(詳細は後述する)。
ちなみに、このような塵埃数Dの増加は、作業者の入室に拠るものである言っても過言ではない。
【0042】
給気風量QHで換気が行われると作業領域16内の塵埃数Dは減少する。そして、図2に示すように、作業領域16内の塵埃数Dが所定の最小値DL(第2の塵埃数)以下となったとき、運転モードが「1」から「2」に切り替わる。その結果、給気風量が減少して、給気風量QLで作業領域16の換気が行われる(運転モード2)。なお、給気風量がQHからQLに減少する際にも、所定の速度で給気風量が減少するようになっている(詳細は後述する)。その後は、作業領域16内の塵埃数Dが再びDHよりも大きくなるまで、給気風量QLで作業領域16の換気が行われる。
【0043】
上記のDL及びDHは、運転モードを切り替える制御の所謂閾値であるが、両者を同じ値とせずにヒステリシスを持たせることで、制御の安定化を図ることができる。
【0044】
なお、上記QL、QH、DL及びDHはユーザが任意に設定する値であるが、DL及びDHは、動物飼育に影響が出ない塵埃数である最大許容塵埃数DMAXよりも小さく設定される。また、第1実施形態に係る動物飼育室用空調設備においては、QLを1〜2回/時間、QHを6〜10回/時間程度となるように設定している。即ち、例えば風量QLで換気されている場合、1時間あたり、作業領域16内の空気が1〜2回程度第1換気手段2によって交換されるようになっている。
【0045】
以上の動作を、図3を参照しながらより詳細に説明する。図3は、動物飼育室用空調設備100における、塵埃数に応じて給気風量を変化させる際のフローチャートである。
【0046】
はじめに塵埃センサが作業領域16内の塵埃数Dを測定する。この測定の間隔は任意であるが、動物飼育室用空調設備100においては、所定の時間間隔で測定している。そして、塵埃センサにより測定される塵埃数Dが所定値DH以上となったとき(ステップS101のYes方向)、コントローラ10が風量計9により測定される現在の給気風量を取得する。そして、取得された現在の給気風量がQH以上である場合(ステップS102のYes方向)、給気風量を変更せずにそのまま作業領域16の換気が行われる。また、取得された現在の給気風量がQHよりも小さい場合(ステップS102のNo方向)、コントローラ10が所定の速度(後述する)で設定風量(即ち、給気風量の設定値)を増加させる(ステップS103)。そして、設定風量の変更に追随して、風量計9により測定される給気風量をコントローラ10が監視しながらモータダンパ8を制御し、作業領域16内の給気風量が所定値QH以上まで増加するようになっている。
【0047】
一方で、上記の動作が行われて塵埃センサにより測定された塵埃数DがDHよりも小さくなったとき、若しくは、塵埃センサがはじめて塵埃数を測定して塵埃数DがDHよりも小さかったとき、図3に示すステップS101のNo方向に制御される。その後、改めて塵埃センサが作業領域16内の塵埃数Dを測定し、測定された塵埃数Dが所定値DL以下であったとき(ステップS104のYes方向)、コントローラ10が風量計9により測定される現在の給気風量を取得する。そして、取得された現在の給気風量がQL以下である場合(ステップS105のYes方向)、給気風量を変更せずにそのまま作業領域16の換気が行われる。また、取得された現在の給気風量がQLよりも大きい場合(ステップS105のNo方向)、コントローラ10が所定の速度(後述する)で設定風量を減少させるようになっている(ステップS106)。なお、ステップS104において、塵埃数DがDLよりも大きかった場合には(ステップS104のNo方向)、給気風量の変更は行われず、そのままの風量で引き続き換気が行われる。
【0048】
このように、給気風量に対して、作業領域16内の塵埃数Dに応じたヒステリシス制御を行うことで、運転モードの頻繁な切り替えを避けることができ、例えばモータダンパ8等の動物飼育室用換気設備100の耐用年数を長期化させることができる。
【0049】
ここで、上記ステップS103及びステップS106における「所定の速度」について、図4を参照しながら説明する。図4は、動物飼育室用空調設備100における、時間に対する風量の変化を表すグラフであり、(a)は運転モード2から運転モード1への切り替え時を表すグラフ、(b)は運転モード1から運転モード2への切り替え時を表すグラフである。
【0050】
図4(a)に示すグラフにおいては、運転モード2(給気風量QL)で運転中、時刻t1になった時点で運転モード1への切り替えが行われ、時刻t2で給気風量QHの定常状態になっている。このグラフにおける時刻t1〜t2では、傾きが+C1(定数)の直線となっている。即ち、動物飼育室用換気設備100においては、給気風量はランプ関数の如く変化するようになっている。一方で、図4(b)に示すグラフにおいては、運転モード1(給気風量QH)で運転中、時刻t4になった時点で運転モード2への切り替えが行われ、時刻t5で給気風量QLの定常状態になっている。このグラフにおける時刻t4〜t5では、傾きが−C2(直線)となる直線となっている。即ち、給気風量が減少する際にも、給気風量がランプ関数の如く変化するようになっている。そして、このような給気風量のランプ関数様変化を、「所定の速度」での変化と言うものとする。
【0051】
さらに、上記のように時刻t1〜t2及びt4〜t5においては、所定の速度で徐々に給気風量を変化させているが、このように徐々に給気風量を変化させることにより、動物飼育室1内の圧力が大きく変化することを防止することができる。そのため、急激な圧力変化による塵埃等の飛散をより確実に防止することができる。
【0052】
上記のC1及びC2の値は、動物飼育室1の圧力、給気風量、動物飼育室1の室容積、給気ダクト4及び排気ダクト5の径及び長さ、モータダンパ8,11、給気ファン2d及び排気ファン3の応答性等に拠って異なるため一概には言えない。ただし、通常はモータダンパの開度変化は数秒〜数十秒の時間をかけて行われる。そして、その結果、動物飼育室内の圧力が安定するまでに、通常は数十秒〜数分を要する。従って、動物飼育室用空調設備100においては、それよりも長い数分〜十数分程度の時間をかけて開度を変化させている。このようにすることで、動物飼育室1内の圧力を維持しつつ運転モードを切り替えることができる。
【0053】
つまり、このように給気風量を所定の速度で変化させることにより、動物飼育室1(具体的には作業領域16)内の圧力を一定若しくは略一定に維持したまま、運転モードを切り替えることができる。従って、動物飼育室1内の圧力の急激な変化を防止することができ、上記各室間の瞬間的な圧力関係の逆転を確実に防止でき、例えば後室から動物飼育室への塵埃等の侵入をより確実に防止することができる。
【0054】
なお、時刻t3については、後述する人感センサを設けた場合のフローチャートで説明する。
【0055】
次に、センサ14が人感センサの場合を、図4及び図5を参照しながら動物飼育室用空調設備100の動作を説明する。図5は、動物飼育室用空調設備100における、動物飼育室1内の作業者の有無に応じて風量を変化させる際のフローチャートである。
【0056】
図5に示すように、はじめに、人感センサによって作業領域16における作業者の有無が確認される(ステップS201)。人感センサが作業者の存在を検知するタイミングはいつでもよい。即ち、作業領域16を常に監視し続けてもよいし、所定間隔で監視し作業者の有無を検知するようにしてもよい。そして、人感センサが作業者の存在を検知した場合(ステップS201のON方向)、ステップS202へと進む。ステップS202及びステップS203は、上記のステップS102及びステップS103と同様であるため、その説明を省略する。
【0057】
一方、作業者が動物飼育室1(具体的には作業領域16)から退室し、人感センサがオフになった場合(ステップS201のOFF方向)、コントローラ10が所定の時間経過したか否かを判断する(ステップS204)。この時点では、直前まで作業領域16に作業者が存在していたため、運転モードは「1」(即ち給気風量がQH)となっている。従って、コントローラ10は、給気風量がQHの状態で、作業者の退室後所定時間が経過したか否かを判断する。所定時間が経過した場合(ステップS204のYes方向)、ステップS205に進む。この「所定時間」とは、図4(b)における、時刻t3〜t4を表す。なお、ステップS205及びステップS206は、上記のステップS105及びステップS106と同様であるため、その説明を省略する。
【0058】
このように、動物飼育室用空調設備100においては、「所定時間が経過したか否か」を判断するステップS204を設ける、つまり、図4(b)において時刻t3に作業者が退室後、時刻t4で運転モードの切り替えを行うことにようにする。これにより、例えば作業者が動物飼育室1から退室した直後に再び入室した場合等における頻繁な運転モードの切り替えを避けることができる。従って、例えばモータダンパ8等の動物飼育室用空調設備100の耐用年数を長期化することができる。
【0059】
また、通常は、作業者が退室した場合でも、暫くの間は作業領域16内に塵埃等が大量に存在する状態である。従って、作業者が退室した後でも、所定時間が経過するまで運転モードを変更しない、即ち、給気風量を作業者が存在するときの同程度に維持することで、このような大量の塵埃等を迅速に外部へ排出することができる。
【0060】
なお、動物飼育室用空調設備100においては、ステップS204に加えて、給気風量の変更を所定の速度で行っている。つまり、運転モードが例えば「1」から「2」に切り替わっても給気風量が急激に変化することはない。従って、図4(b)に示す時刻t4〜t5の間で、例えば作業者が動物飼育室1から退出した後でも暫くの間は大風量で換気することができ、発生した塵埃等をより確実かつ迅速に外部に排出することができる。
【0061】
〔ラック領域17内の換気〕
次に、動物飼育室1内のラック領域17内の換気について説明する。
上記のように、作業領域16においては、作業領域16内の塵埃数や作業者の有無によって、給気風量を制御している。しかしながら、動物飼育室用空調設備100におけるラック領域17では、給気風量が常に一定量(好ましくは例えば上記のQHと同程度)となるように制御される。
【0062】
その理由は、ラック領域17には動物が飼育されており、例えば動物の排泄物に由来するアンモニア等のにおい成分が発生するため、悪臭防止のためこのようなにおい成分を迅速に外部へ排出することが特に好ましいためである。また、動物の呼吸に伴う十分な酸素の供給及び二酸化炭素の排出等を行う必要もあるため、十分な換気をラック領域17に対して行うことが特に好ましいためでもある。さらには、動物が飼育されるために好適な温度及び湿度を維持するため、ラック領域17内での過度の温度分布の偏り及び過度の湿度分布の偏りが発生しにくいように、できるだけ大風量で換気することが特に好ましいためでもある。
【0063】
<効果>
本発明者らの検討によると、例えば340個のケージを設置した動物飼育室の場合、動物飼育室内で作業者が作業をする時間は1週間あたり5時間〜10時間程度、また、900個のケージを設置した動物飼育室の場合、1週間あたり10時間〜15時間程度であることがわかった。即ち、動物飼育室内で作業者が実際に作業を行う時間は1週間あたり10%程度以下であり、残りの90%以上の時間は動物飼育室内に作業者がいない状態、即ち作業者に起因する塵埃等が発生していない状態である。さらに、本発明者らの検討によると、動物飼育室内で発生する塵埃等の多くは作業者による作業に起因するものであることもわかった。従って、塵埃等が発生していない時間帯においても、塵埃等を発生させる作業者が作業をしている時間帯と同程度の給気風量とすることは、エネルギ消費量が過剰なものとなる。
【0064】
しかしながら、動物飼育施設用空調設備100においては、動物飼育室1内の作業領域16では所定の条件を満たすときに給気風量を変更して換気を行うように制御するとともに、ラック領域17では常に一定の給気風量で換気を行うように制御している。従って、作業者に起因して発生する塵埃等を迅速に外部へ排出できるとともに、作業者が不在の時間帯には給気風量を減少させることにより省エネルギ化を図ることができる。
【0065】
具体的には、作業領域への給気風量を減少させることができるため、例えば冷却コイル2a、加熱コイル2b、加除湿ユニット2c等の利用頻度を低減することができるため、これらが要するエネルギを削減し、以って動物飼育室用空調設備100全体の省エネルギ化を図ることができる。また、このような制御を作業領域16で行う一方でラック領域17では常に一定の給気風量で換気が行われているため、好適に動物を飼育することができる。
【0066】
<変更例>
以上、本実施形態に係る動物飼育室用空調設備及び動物飼育室用空調方法を具体例を挙げて説明したが、本実施形態に係る動物飼育室用空調設備は、本発明の要旨を損なわない範囲で任意に変更して実施可能である。
【0067】
例えば、動物飼育室用空調設備100は、換気手段として第1換気手段1及び第2換気手段52が備えられる構成としているが、例えば図6に示すように、単独の換気手段によって動物飼育室1が換気される構成としてもよい。図6は、第2実施形態に係る動物飼育室用空調設備としての動物飼育室用空調設備200を示す図である。図6において、図1と同様の符号を付すものは図1と同様のものを表すものとし、その詳細な説明を省略する。
【0068】
動物飼育室用空調設備200は、第2換気手段52等を備えておらず、代わりに、第1換気手段2からラック領域17への給気を制御するモータダンパ64及び圧力計65が設けられている。そして、モータダンパ64及び圧力計65は、第1換気手段2とラック領域17とを連通する給気ダクト4の途中に設けられている。
【0069】
動物飼育室用空調設備200においても、動物飼育室用空調設備100における制御方法において説明した方法と同様の方法で換気制御される。具体的には、第1換気手段2から給気される給気風量をモータダンパ64によって制御することにより行われる。一台の換気手段のみで動物飼育室1全体の換気を行うため、第1換気手段2が給気可能な空気量(つまり、給気ファン2dの運転量)に余裕がある場合には換気手段を一台のみ設ければよいため、動物飼育室用空調設備の建設時の低コスト化及びメンテナンスが簡便になるという利点がある。
【0070】
また、例えば、図1に示す動物飼育室用空調設備100を適用している動物飼育室1は間仕切り20で分割されたもののとなっているが、動物飼育室1は間仕切りで必ずしも分割されていなくてもよい。即ち、ラック領域17が、例えば透明な樹脂板からなるケース等にケージ18等が収容されて形成されてもよい。そして、このケース(つまりラック領域17)に吹出口及び吸込口が設けられることにより、間仕切り20で動物飼育室1を分割することなく、第1実施形態に係る動物飼育室用空調設備と同様に、好適に動物を飼育することができる。
【0071】
さらに、例えば、作業台12付近で作業者が作業を行うことが多いため、塵埃等の発生量が作業台12付近で特に多いことに鑑み、作業領域16に設けられる吸込口7の他にも、作業台21にも吸込口を設けてもよい。このようにして、作業領域16内に存在する塵埃等をより確実に外部に排出することができる。
【0072】
また、例えば、吸込口7から排気された空気から塵埃等を除去した空気を、給気ダクト4を流れる空気に合流させて循環させてもよい。このようにすることで、既に温度や湿度が調整された空気を用いるため改めて調整する必要が必ずしも無く、よりいっそうの省エネルギ化を図ることができる。
【符号の説明】
【0073】
1 動物飼育室(室)
2 第1換気手段(換気手段)
14 センサ(塵埃センサ及び/又は人感センサ)
16 作業領域
17 ラック領域
18 ケージ
19 ラック
52 第2換気手段(換気手段)
100 動物飼育室用空調設備
200 動物飼育室用空調設備

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物が飼育される室内の換気を行う動物飼育室用空調設備であって、
人の前記室への入室及び前記室からの退室を直接又は間接に検知するセンサと、
前記室内の換気を行う換気手段と、
前記センサが人の前記入室を検知したときには、所定の第1の風量で前記換気手段が換気を行い、
前記センサが人の前記退室を検知したときには、前記第1の風量よりも少ない風量である所定の第2の風量で前記換気手段が換気を行う換気制御手段と、
を備える
ことを特徴とする、動物飼育室用空調設備。
【請求項2】
前記センサは少なくとも、前記室内の人の存在を検知する人感センサである
ことを特徴とする、請求項1に記載の動物飼育室用空調設備。
【請求項3】
前記センサは少なくとも、前記室内の塵埃数を測定する塵埃センサであり、
前記塵埃数が所定の第1の塵埃数以上となった場合に、前記入室を検知した時の前記第1の風量で前記換気手段が換気を行い、
前記塵埃数が前記第1の塵埃数以下の所定の第2の塵埃数を下回った場合に、前記退室を検知した時の前記第2の風量で前記換気手段が換気を行うように構成されている
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の動物飼育室用空調設備。
【請求項4】
前記第1の風量から前記第2の風量まで、若しくは、前記第2の風量から前記第1の風量まで、給気風量を所定の速度で変化させるように構成されている
ことを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の動物飼育用空調設備。
【請求項5】
前記人が作業を行う作業領域と、前記動物が収容されるケージが設置されるラック領域と、に区画されている前記室内において、
前記作業領域と前記ラック領域とは独立して換気が可能になるように換気手段を備え、
前記作業領域においては、前記センサの検出結果に基づいて換気が行われ、
前記ラック領域においては、前記センサの検出結果に関らず所定の給気風量で換気が行われるように構成されている
ことを特徴とする、請求項1〜4の何れか1項に記載の動物飼育室用空調設備。
【請求項6】
動物が飼育される室内における動物飼育室用空調方法であって、
人の前記室への入室及び前記室からの退室を直接又は間接に検知するセンサと、前記室内の換気を行う換気手段と、を備え、
前記センサが人の前記入室を検知したときには、所定の第1の風量で前記換気手段が換気を行い、
前記センサが人の前記退室を検知したときには、前記第1の風量よりも少ない風量である所定の第2の風量で前記換気手段が換気を行う
ことを特徴とする、動物飼育室用空調方法。
【請求項7】
前記第1の風量から前記第2の風量まで、若しくは、前記第2の風量から前記第1の風量まで、給気風量を所定の速度で変化させる
ことを特徴とする、請求項6に記載の動物飼育用空調方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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