説明

動画を生じさせる装飾要素を備えた冊子

【課題】フィルムゲージと下絵を重ね合わせて相対スライドさせることで動画を生じさせる冊子を提供し、これにより、冊子類の販売促進効果を高める。
【解決手段】冊子を開いたとき隣接して連続する第1紙面20と第2紙面40に対して、第1紙面20から下絵フラップ21を立設するとともに、第2紙面40にフィルムゲージ45を保持する。立設された下絵フラップ21は、フィルムゲージ45の下面側に差し込まれている。第1紙面20と第2紙面40を相対的に回動させると、これと連動して下絵フラップ21がフィルムゲージ45に対して相対的にスライドし、これにより動画が生じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合画像で構成される下絵の上で、フィルムゲージをスライド移動させることで、絵が動いているかの如き視覚的効果を与える装飾要素を備えた冊子に関する。この冊子は、例えば、雑誌、カタログ、パンフレット、書籍として使用することができる。
【背景技術】
【0002】
「下絵」と「フィルムゲージ」を利用して、パラパラ漫画とよく似た原理で、あたかも絵が動いているかのような視覚的効果を与える技術は、従来から知られている(例えば、特許文献1、2)。その原理を簡単に説明すると、次の通りである。
【0003】
≪画素が2つの場合:図1、図2≫
図1は、「複合画像で構成される下絵」の作成原理を示している。ここでは、複合画像は、2つの画素から構成される。まず、画素1、2をそれぞれ等間隔“α”で間引いて、「残像」と「欠け」が繰り返す中間画素を作成する。次に、中間画像1の「欠け」部分に、中間画像2の「残像」部分が一致するようにして、両者を組み合わせて複合画像を作成する。
【0004】
一方、図2に示したフィルムゲージは、透明の基材上に「黒塗りの細長い帯状領域」を等間隔で印刷したものであって、「帯状領域の幅」と「各帯状領域間の間隔」とが等しい(共に“α”)。
このフィルムゲージを複合画像上に重ね合わせて、両者を相対的にスライドさせると、図2に示したように、中間画素1の「残像」がフィルムゲージ上の各帯状領域間の透明領域にきたときに星形模様が視認される(A)。
一方、中間画素2の「残像」がフィルムゲージ上の各帯状領域間の透明領域にきたときに丸形模様が視認される(B)。
【0005】
以上の相対スライド動作を適度な速度で行うと、人間の目には、あたかも星形模様と丸形模様が動的に変化しているかのように視認される。
【0006】
≪画素が3つの場合:図3、図4≫
以上に説明した画素が2つの場合は、(i)画素を間引く際の「残像」と「欠け」の幅寸法を等しくし(“α”)、かつ、(ii)フィルムゲージ上の「帯状領域の幅」および「各帯状領域間の間隔」を共にこの“α”と等しくしている。
【0007】
画素が3つの場合は、図3、図4に示したように、(i)画素を間引く際に、「欠け」の幅寸法“β”を「残像」の幅寸法“γ”の2倍とし、(ii)フィルムゲージ上における「帯状領域の幅」を「欠け」の幅寸法“β”に等しく、「各帯状領域間の間隔」を「残像」の幅寸法“γ”に等しくする。
「欠け」の幅寸法“β”が「残像」の幅寸法“γ”の2倍であるため、中間画素1の「欠け」部分に他の2つの中間画素2、3の「残像」を収めることができ、したがって、3つの画素からなる複合画像を作成することができる。
【0008】
そして、図4に示したように、中間画素1の「残像」がフィルムゲージ上の各帯状領域間の透明領域にきたときに星形模様が視認される(A)。中間画素2の「残像」がフィルムゲージ上の各帯状領域間の透明領域にきたときに丸形模様が視認される(B)。中間画素3の「残像」がフィルムゲージ上の各帯状領域間の透明領域にきたときに菱形模様が視認される(C)。
【0009】
同様の考え方で、画素が4つ、5つの場合にも、複合画像および対応するフィルムゲージを作成できる。
【0010】
以上に説明した例では、ストライプ状のフィルムゲージを使用しているが、格子状のフィルムゲージと、これと対応する下絵とを利用して、同様の視覚的効果を与える構成も知られている。
ストライプ状のフィルムゲージの場合には、視覚的効果を得るために「下絵」と「フィルムゲージ」を相対移動させる方向は、ストライプに直交する1方向に限られる。これに対して、格子状のフィルムゲージの場合には、タテ、ヨコ、ナナメのいずれの方向に相対移動させた場合であっても、視覚的効果を得ることができる。
【0011】
【特許文献1】特表2007−526500号
【特許文献2】実用新案登録第3095265号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の第1の目的は、上記視覚的効果によって得られる動画を利用した冊子を提供して、これにより、冊子類の販売促進効果を高めることである。
【0013】
また、「フィルムゲージ」と「下絵」を重ね合わせて相対スライドさせることで動画を生じさせる場合、相対スライドする「フィルムゲージ」および「下絵」は、適度に密着していることが好ましい。両者の隙間が大きいと、視覚的効果として得られる動画もボヤケたものとなってしまう。
したがって、本発明の第2の目的は、冊子に設けた「フィルムゲージ」と「下絵」の適度な密着性を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の冊子は、「複合画像で構成される下絵が表示された下絵フラップ」と「当該下絵に対応するフィルムゲージ」とを重ね、両者を相対的にスライド移動させることで、動画を生じさせる装飾要素を備える。
当該冊子を開いた場合に隣接して連続する第1紙面と第2紙面に対して、第1紙面から下絵フラップが立設されるとともに、第2紙面にフィルムゲージが保持される。第1紙面に立設された下絵フラップは、第2紙面に保持されたフィルムゲージの下面側に差し込まれている。
第1紙面と第2紙面を相対的に回動させると、これと連動して下絵フラップがフィルムゲージに対して相対的にスライドし、これにより上記動画が生じる。
【0015】
「下絵」は、例えば図1〜4で説明したような「残像」と「欠け」で構成される複数の画素から作成される複合画像である。また、下絵に「対応するフィルムゲージ」とは、複合画像の「残像」および「欠け」に対応した「透明領域」および「不透明領域」を含み、相対スライドによって動画を生じさせるフィルムゲージを意味する。
また、フィルムゲージは、ストライプ状および格子状のいずれであってもよく、対応する下絵(複合画像)と相対スライドすることで動画を生じさせる。
【発明の効果】
【0016】
上記構成を備えた本発明の冊子において、「フィルムゲージ」および「下絵」による上述の視覚的効果で得られる動画を、「冊子の内容と関連する」もの、あるいは人気キャラクターとすることで、宣伝効果あるいは販売促進効果を高めることができる。
【0017】
「冊子の内容と関連する」とは、当該冊子の内容に直接関連するものに限られず、出版社その他に関連するものでもよく、広い意味で、何らかの関連があればよい。
【0018】
また、本発明の冊子においては、下絵フラップは、第1紙面において、第1紙面と第2紙面との境界線から一定距離だけ離れた位置から立ち上がるよう立設された上で、フィルムゲージの下面側に差し込まれていることが好ましい。
これにより、「フィルムゲージ」と「下絵フラップ」が適度に密着するので、相対スライドにより得られる動画がクリアなものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明の実施形態を添付の図面を参照して以下に詳細に説明する。図5(a)は、一実施形態に係る冊子を閉じた状態で示す斜視図で、図5(b)は、これを開いた状態で示している。
【0020】
本発明においては、冊子を開いた場合に隣接して連続する第1紙面および第2紙面に対して、下絵フラップとフィルムゲージで構成される装飾要素を設ける。図5の実施形態では、表紙11の裏面が第1紙面20を構成し、これに隣接する次ページが第2紙面40を構成している。
【0021】
図6は、この冊子10の作成工程の一例を示している。この例では、“無線綴じ”で製本済みの冊子土台10’に対して、要素A、Bを接着固定している。すなわち、要素Aは、第1紙面20を構成する矩形の紙片20と、折罫aを介して連設された下絵フラップ21とを備えていて、冊子土台10’の対応する紙面20’に紙片20が接着固定される。
下絵フラップ21上には、複合画像26が表示される。複合画像26は、下絵フラップ21上に直接印刷されていても、別のシート片に印刷したものを貼り付けてもよい。
【0022】
第1紙面20を構成する紙片20、および冊子土台10’上の対応する紙面20’の両方には矩形開口23、23’が形成されていて、要素Aを冊子土台10’に貼り付けたとき、両者が重なって1つの開口23を構成する。この開口23は窓として機能し、図5(a)に示したように、冊子を閉じた場合でも、冊子内のフィルムゲージ45を外部から視認することが可能となる。
【0023】
一方、要素Bは、第2紙面40を構成する矩形の紙片40と、折罫bを介して連設された固定紙片41とを備えていて、冊子土台10’上の対応する紙面40’に固定紙片41が接着固定される。
第2紙面40を構成する矩形紙片40には、矩形の開口44が形成されていて、この開口44を塞ぐようにして、フィルムゲージ45が貼り付けられる。冊子土台10’の紙面40’上に固定紙片41を貼り付けた後、第1紙面20から立設された下絵フラップ21を固定紙面41上に沿わせ、その上から、フィルムゲージ45を保持した矩形紙片40を重ねて固定する。矩形紙片40は、その両端領域40aにおいて、固定紙片41に接着固定される。
【0024】
下絵フラップ21は、最終的には、要素Bの紙片40、41の間に挟まれた状態で、フィルムゲージ45の下方側に延在するが、「第1紙面20から立設する下絵フラップ21を、第2紙面40に保持されたフィルムゲージ45の下面側に差し込んだもの」として把握することができる。
ただし、各構成要素の具体的な形状は、図示のものに限られず、適宜の形態を採用することが可能である。
【0025】
図7は、組み立てた冊子10と、生じる動画との関係を示している。第1紙面20を閉じたり開いたりする動作に伴って、下絵フラップ21がフィルムゲージ45に対して相対的にスライド移動し、これによって、視覚的効果を利用した動画が現れる。図7では、3つの画素から構成される動画の一例を示しているが、具体的な図柄や画素の数は、任意に設定することができる。
生じる動画を、当該冊子の内容あるいは出版社と関連付けたものとすることで、宣伝効果あるいは販売促進効果を高めることができる。
【0026】
なお、表紙に設けた窓23は、必ずしも必要ではなく、省略することも可能である。しかし、窓23が存在すると、冊子の表紙を開いたり、閉じたりする動作に伴って、より広範な角度からフィルムゲージの上に生じる動画を視認することができるというメリットがある。この構成は、特に冊子の陳列状態において、動画装飾要素の存在をアピールして、販売促進効果が期待できるという点で有利である。
【0027】
≪格子状のフィルムゲージ≫
本発明においては、ストライプ状のフィルムゲージ45に限らず、格子状のフィルムゲージ45’を採用することも可能である(図6中の円内)。勿論、その場合には、下絵26は、これに対応して動画を生じさせるものが採用される。
ストライプ状のフィルムゲージ45の場合、一方向の相対スライドによって動画が生じるが、格子状のフィルムゲージ45’の場合、タテ、ヨコ、ナナメのいずれの方向に相対スライドした場合でも動画が生じる。これは、要素A、Bの貼付け精度が高くなく、相対スライド方向が予定の一方向から逸れた場合でも動画に変化が生じるという点で有効である。
【0028】
≪下絵フラップとフィルムゲージとの密着性を高めるための構成:図8≫
下絵フラップ21とフィルムゲージ45を重ねて相対スライドさせることで動画を生じさせる場合、両者の隙間が大きいと、動画がボヤケて見えることがある。動画をクリアにするためには、下絵フラップ21とフィルムゲージ45を、適度に圧接させることが好ましい。
そのため、図示の例では、下絵フラップ21が、第1紙面20において、第1紙面20と第2紙面20との境界線“c”から一定距離“L”だけオフセットした位置から立ち上がるよう構成している。すなわち、図8中に部分的に拡大して示したように、第1紙面20から立ち上がる下絵フラップ21の根元21aは、境界線“c”から上方に距離“L”だけ離されている(オフセットされている)。これにより、下絵フラップ21をフィルムゲージ45に対して圧接させる力が生じる。つまり、下絵フラップ21とフィルムゲージ45が適度に密着して、クリアな動画を得ることができる。
【0029】
≪無線綴じ、中綴じ、平綴じ、との関係≫
図示の例では、冊子10は、一般に知られた“無線綴じ”という手法で製本されている。そして、対向して貼り付けられた要素A、B(図6参照)の境界線“c”に対して、下絵フラップ21が距離“L”だけオフセットして配置されている。
しかし、本発明においては、“無線綴じ”に限らず、“中綴じ”、“平綴じ”等の任意の綴じ方を採用できる。これらは、いずれも一般的に知られた手法であるので、ここでは説明を省略する。
なお、具体的な綴じ方に応じて、要素A、Bは、製本前に各紙面間に挟み込んでおく場合や、図6に示したように製本済の冊子土台に対して後から貼り付け固定する場合等があり、具体的な作成工程は、適宜設定することができる。
また、いずれの綴じ方を採用した場合であっても、境界線“c”とは、冊子を開いた場合に、要素A、Bの対向端縁により形成される両者の実質的な境界線を意味する。
【0030】
≪他の構成≫
図示の例では、冊子10の表紙11側に下絵フラップ21を設け、それに続く次ページにフィルムゲージ45を保持しているが、逆の構成を採用してもよい。
その場合には、図6において、要素Aを冊子土台10’の紙面40’に接着し、要素Bを冊子土台10’の紙面20’に接着すればよい。この場合、表紙11の裏面が第2紙面で、それに続く次ページが第1紙面であると考えることができる。また、冊子表紙の窓23は省略されることとなる。
【0031】
さらに、図示していないが、本発明では、表紙を開いた時に露出する連続2ページに限らず、開いた時に隣接して連続する冊子中程の任意の2ページに対して、動画を生じさせる装飾要素を設けることができる。
また、図示したように要素A、Bを個別に冊子に貼り付ける他に、予め要素A、Bを連結してユニット化しておき、これを製本前に各紙面中に挟み込んでその後製本したり、あるいは製本後の冊子土台に貼り付けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】2つの画素から動画を生じさせる原理を示す説明図。
【図2】2つの画素から動画を生じさせる原理を示す説明図。
【図3】3つの画素から動画を生じさせる原理を示す説明図。
【図4】3つの画素から動画を生じさせる原理を示す説明図。
【図5】本発明の一実施形態に係る冊子を説明する斜視図。
【図6】図5の冊子を作成する工程の一例を説明する図。
【図7】図5の冊子と生じる動画との関係を説明する図。
【図8】下絵フラップとフィルムゲージの密着性を高めるための構成を示す部分拡大図。
【符号の説明】
【0033】
10 冊子
10’ 冊子土台
11 表紙
20 第1紙面
21 下絵フラップ
26 複合画像
23 開口(窓)
40 第2紙面
41 固定紙片
44 開口
45 フィルムゲージ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合画像(26)で構成される下絵が表示された下絵フラップ(21)と、当該下絵に対応するフィルムゲージ(45)とを重ね、両者を相対的にスライド移動させることで、動画を生じさせる装飾要素を備えた冊子であって、
当該冊子を開いた場合に隣接して連続する第1紙面(20)と第2紙面(40)に対して、第1紙面(20)から下絵フラップ(21)が立設されるとともに、第2紙面(40)にフィルムゲージ(45)が保持され、かつ、立設された下絵フラップ(21)は、フィルムゲージ(45)の下面側に差し込まれていて、
第1紙面(20)と第2紙面(40)を相対的に回動させると、これと連動して下絵フラップ(21)がフィルムゲージ(45)に対して相対的にスライドし、これにより上記動画が生じることを特徴とする、冊子。
【請求項2】
上記第1紙面(20)が冊子の表紙裏面であって、
当該表紙には、冊子を閉じたときでもフィルムゲージを外部から視認することを許容する開口(23)が形成されていることを特徴とする、請求項1記載の冊子。
【請求項3】
上記下絵フラップ(21)は、第1紙面(20)において、第1紙面と第2紙面との境界線(c)から一定距離(L)離れた位置から立ち上がるよう立設された上で、フィルムゲージ(45)の下面側に差し込まれ、これにより、下絵フラップ(21)のフィルムゲージ(45)に対する密着性を高めていることを特徴とする、請求項1または2に記載の冊子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−82805(P2010−82805A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−250895(P2008−250895)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】