説明

動索用ワイヤロープ

【発明の詳細な説明】
〔産業上の利用分野〕
本発明はシーブで曲げられたり、ドラムに巻き付けられるロープなど耐疲労特性が要求される動索用ワイヤロープの改良に関する。
〔従来の技術及びその技術的課題〕
ワイヤロープの種類は非常に多く、使用に当たっては使用目的と使用場所に適合したものを選択しないとワイヤロープの持つ利点を十分生かすことができないことは周知の通りである。
ことにクレーン等に使用されるロープは、一般に第4図R>図のように、心ロープの外周に複数本の側ストランドを撚成した構造であり、ワイヤロープの心ロープには繊維芯・金心(ストランド心・ロープ心)が使用されている。しかし、この種の動索用ロープは、全長にわたり張力と曲げが作用する厳しい条件下で使用される。したがって、心ロープと側ストランドの接面に高い面圧が発生し、なおかつ曲げによる接面の摩擦により心ロープおよび側ストランドの摩擦が発生する。その結果、心ロープの直径が細くなり、これによりますます各側ストランド同士の面圧が増加し、各ストランドの接面摩耗が助長され、心ロープおよび側ストランドを構成するワイヤの損傷(断線)が発生する。この損傷は特に山切れ以外の断線つまり谷切れ、心接面切れ、内層切れ、心ロープ断線などの内部損傷であり、目視ではわからないため予期せぬ切断事故につながる危険がある。
かかる対策の一つとして、実公平1−7757号公報に、心ロープと側ストランドとの間の各空隙に、予め三角形状に類する断面形状をなしかつ内部に補強心を埋め込んだプラスチック製のフィラーを各空隙に装填して撚り込むことが提案されている。
しかし、この先行技術ではいちいち特殊なフィラーを別途作成しておかなけらばならず、撚成設備を特殊化しなければならない。さらに鏡板を通してボイスで同時撚り込みする際にフィラーがねじれると側ストランドの空隙にしっくりと収まらず、曲げられたり、折られたりする可能性が高い。このため、内部損傷防止効果にバラツキが多くなることを避けられなかった。
なお、心ロープを熱可塑性樹脂で被覆したワイヤロープとして、実公昭55−40233号公報や、特開昭54−30962号公報が知られている。しかしながら、それら先行技術における樹脂被覆はもっぱらワイヤロープの型崩れ防止や防錆を意図したもので、樹脂層が非常に厚くなっている。このため、ロープの特性である柔軟性が悪化し、特に動索として使用した場合には、シーブとの馴染みが悪くなって型崩れを起したり、樹脂層に亀裂が入って充填効果が減少したり、充填材が側ストランドから飛び出すなどのトラブルが発生しやすい。また、心ロープと各ストランド間の摩耗を改善する性能が乏しく内部断線を有効に防止できないという問題があった。
〔課題を解決するための手段〕
本発明は前記のような問題点を解消するために創案されたもので、その目的とするところは、所定の引張り強度と適度に曲げやすさを持ち型崩れしないなどの特性を備えしかも心ロープと側ストランドの摩耗による断線を有効に回避でき、製造も簡単かつ能率よく行える動索用ワイヤロープを提供することにある。
上記目的を達成するため本発明は、心ロープの外周に複数本の側ストランドを配してなるワイヤロープにおいて、該ワイヤロープが、心ロープと側ストランドとの空間に、降伏点応力90〜300kg/cm2を有し、ロープ全体の断面積に対する断面積比が6.0〜8.0%の薄い熱可塑性樹脂緩衝層を有している構造としたものである。
〔実施例〕
以下本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。
第1図と第2図は本発明による動索用ワイヤロープの一実施例を示している。1は心ロープであり、複数本(図面では7本)の心ストランド1aを撚成した7×7の構造となっている。2は側ストランドであり、この実施例では6本のストランドを心ロープ1の周りに配し互いに撚り合せている。
3は前記心ロープ1と側ストランド2により形成される空間に充填された熱可塑性樹脂緩衝層である。詳しくは、熱可塑性樹脂緩衝層3は、側ストランド2を撚り合せた状態で、側ストランド2と心ロープ1との接近する領域では極薄肉部分3aとして形成され、隣接する側ストランド2と心ロープ1とで囲まれた領域では厚肉部分3bとして形成され、各厚肉部分3bは、側ストランド同士のスペーサとなるように均等に分配されている。なお、厚肉部分3bは側ストランドの層心間円周(第2図のR)の領域まで到ってもよいし、そこまで到らず、隣接する側ストランド2,2の最も近接した領域に空隙3cが形成されていてもよい。
前記熱可塑性樹脂緩衝層3は心ロープ1の外周面に予め被覆され、この熱可塑性樹脂緩衝層3の上に側ストランド2が撚合される際の圧縮による変形で上記のような極薄肉部分3aと厚肉部分3bとが創成される。
本発明において使用する熱可塑性樹脂は、ポリプロピレン、ポリエチレンなどであり、このうち特に降伏点応力が90〜300kg/cm2、より好ましくは130〜300kg/cm2の特性を備えているものを使用する。これは本発明者の知見によるもので、降伏点応力が90kg/cm2を下回る場合にはロープの撚り合せ時に、樹脂皮膜が切れ、側ストランド2と心ロープ1との接近する極薄肉部分3aが形成されず、緩衝効果がなくなる。300kg/cm2を上回る場合には樹脂皮膜の変形能が小さくなり、側ストランドが所定の位置におさまらず、ロープ径オーバーや型崩れを起すため好ましくない。
しかも、本発明は、この降伏点応力条件を満たした上で、熱可塑性樹脂緩衝層3の量を所定範囲にするもので、これも本発明者の知見に基づく。その被覆量は、ワイヤロープ長手方向と直角に切断したロープ全体の断面積に対して断面積比で6.0〜8.0%である。断面積比が6.0%以下の場合には、上記降伏点応力の範囲内であっても、動索として使用中に、心ロープ1と側ストランド2間に働く接面圧により膜状の極薄肉部分3aが切れ、それによりワイヤ同士が接触しあって摩耗が発生し、充填効果が薄れる。しかし、断面積比で8.0%を超える場合には、相対的に心ロープ1の径が細くなるため、有効断面積が少なくなり強度的に不利となる。しかも心ロープ1と側ストランド2とのバランスが悪くなり、ロープ剛性が高くなりすぎることによりシーブとの馴染みが悪化し、型崩れ等の不具合が生ずるため不適当である。
なお、熱可塑性樹脂の他の性質としては、表面硬度30〜100(JISA)、引張り強さ200〜400kg/cm2、圧縮永久歪30〜100%(70℃×22hr)の性質を有していることが推奨される。
本発明によるワイヤロープを得る方法は、第3図に示すように、まず、心ロープ1を熱可塑性樹脂Lを溶融して加圧押出しできる押出し機5の出口側に配したダイス6中を通過させることにより、心ロープ1の外周面に熱可塑性樹脂を被覆する。この熱可塑性樹脂緩衝層3′は外周面がほぼ円形となるよう連続成形され、所定範囲内の被覆量をもった被覆心ロープ3″を得る。
次いで、該心ロープ3″を中心に、その外周に側ストランド2,2を撚り合せてロープ形成する。この際、第3a図のように撚り合せ口に配したボイス8でロープの中心方向の圧縮力を付与する。これにより、心ロープを被覆した被覆層は塑性変形し、極薄肉部分3aと側ストランドの谷間を充填する厚肉部分3bが形成され、目的のワイヤロープ7となる。
なお、図示するものでは側ストランド2は6本であるが、これに限定されるものではなく、8ストランドあるいはそれ以外でもよいことは勿論である。
次に本発明の具体例を示す。
I.本発明によりIWRC6×Fi(29)0/0 22mmの構成のワイヤロープを作った。
心ロープは7×7のロープ(径:7.96mm)、被覆材は密度0.91g/cm2、降伏点応力265kg/cm2、引張り強さ330kg/cm2、表面硬度86(JISA)、圧縮永久歪45%(70℃×22hr)、破断時伸度>200%、軟化点103℃の特性を持つポリプロピレンを使用し、これをロープ全体の断面積に対し断面積比で6.9%となるように被覆した。
側ストランドの径は7.25mmであり、6本を前記被覆心ロープの外周に配し撚りピッチ137で撚成し、径23.6mmのワイヤロープを得た。その断面を拡大して示すと第2図R>図の通りである。
II.このワイヤロープを用い、繰返し曲げ疲労試験を行った。該疲労試験は様々な使用態様を考慮し、■S曲げ(D/d=25)安全率(SF)=11,■S曲げ(D/d=17)安全率(SF)=6,■U曲げ(D/d=17.2)安全率(SF)=5.8の3種で行った。比較のため、IWRC6×Fi(29)0/0 22mm構成を基準として、5種の供試材を用い、II.の条件で繰返し曲げ疲労試験を行った。その結果を第1表に示す。
なお、通常品は心ロープ径:8.95mm、側ストランド径7.25mm、ワイヤロープ径23.2mmである。また、比較品の1は心ロープ径:8.95mm、側ストランド径7.25mm、フィラーとして材質ポリプロピレンで一辺が2.43mmのほぼ三角形断面をなし中心に径0.58mmの鋼線を埋め込んだもの6本を心ロープと側ストランドの間の空隙に配したものである。
比較品の2は、I.において、心ロープ径を7.96mmとし、ポリプロピレン被覆量をロープ全体の断面積比で8.3%としたものであり、比較品3,4,5は樹脂緩衝層の厚さと樹脂の降伏応力とを変えたものである。


なお、第1表において、Aはロープ破断荷重(tf)、Bは破断時伸び(%)、C■は前記疲労試験■における1ピッチ間10%断線が発生するまでの回数(サイクル)、D■は前記疲労試験■における1ピッチ間10%断線発生時の断線状況を指し、d−1は総断線本数、d−2は山切れ(%)、d−3は内部断線(%)、d−4は心ローブ断線(%)である。
この第1表から明らかなように、本発明は被覆量と降伏点応力が適正であるため、ロープ切断荷重の低下もなく、柔軟性が損なわれず、曲げ疲労性が、D/d=25とさらにこれよりも厳しいD/d=17の2種のS曲げ、D/d=17.2のU曲げいずれにおいても良好であり、また、樹脂量と降伏点応力が適正であるため接面の摩耗を軽減し摩耗を押える効果が高く、断線本数が少なく、山切れの割合が高く、内部損傷や心ロープ断線割合を著しく低くすることができている。
これに対して、比較例2と比較例5は使用樹脂の降伏応力は適正でも被覆量が不適切であるため、ロープ切断荷重が低下し、また、曲げ疲労性が本発明の実施例に比較して大幅に劣り、かつまた断線状況も内部損傷や心ロープ断線の割合が高くなっている。
〔発明の効果〕
以上説明した本発明によれば、心ロープの外周に複数本の側ストランドを配してなる動索用ワイヤロープにおいて、該ワイヤロープが、心ロープ側ストランドとの空間に熱可塑性樹脂緩衝層を有しており、しかもその熱可塑性樹脂緩衝層が、降伏点応力90〜300kg/cm2を有しロープ全体の断面積に対する断面積比が6〜8%の薄いものであるため、良好な引張り強度と適度な曲げやすさを持ち型崩れしない特性と、心ロープと側ストランドの接面の摩擦を軽減し、摩耗による内部断線を有効に回避することができるという特性を同時に実現することができ、しかも製造も簡単かつ能率よく行えるというすぐれた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
第1は本発明による動索用ワイヤロープの一実施例を模式的に示す断面図、第2図は本発明による実際のワイヤロープの断面図、第3図は本発明によるワイヤロープの製造工程における被覆段階を示す説明図、第3a図は撚合段階を示す説明図、第4図は従来の動索用ワイヤロープの模式的断面図である。
1……心ロープ、2……側ストランド、3……熱可塑性樹脂緩衝層、3a……極薄肉部、3b……厚肉部

【特許請求の範囲】
【請求項1】心ロープの外周に複数本の側ストランドを配してなる動索用ワイヤロープにおいて、該ワイヤロープが、心ロープと側ストランドとの空間に、降伏点応力90〜300kg/cm2を有しロープ全体の断面積に対する断面積比が6.0〜8.0%の薄い熱可塑性樹脂緩衝層を有していることを特徴とする動索用ワイヤロープ。

【第1図】
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【第2図】
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【第3a図】
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【第4図】
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【第3図】
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【特許番号】第2876140号
【登録日】平成11年(1999)1月22日
【発行日】平成11年(1999)3月31日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平2−44616
【出願日】平成2年(1990)2月27日
【公開番号】特開平3−249288
【公開日】平成3年(1991)11月7日
【審査請求日】平成8年(1996)9月4日
【出願人】(999999999)東京製綱株式会社
【参考文献】
【文献】特開 昭59−76986(JP,A)
【文献】特開 昭57−121682(JP,A)
【文献】特開 昭54−30962(JP,A)
【文献】実公 平1−7757(JP,Y2)
【文献】実公 昭55−40233(JP,Y2)