説明

包帯

【課題】 皮膚表面等における菌の繁殖を防ぎ、容易に交換の必要性を感知できる包帯を提供する。
【解決手段】 表面の少なくとも一部に、カルボキシアルキル基の少なくとも一部が抗菌性金属カルボキシアルキル基で置換されているカルボキシアルキル化セルロース繊維を含んでなる包帯。包帯は、高圧蒸気滅菌後のL表色系によるLが+80〜+100、aが−10〜+10、bが−10〜+10であることが好ましく、また、高圧蒸気滅菌前後のL表色系による色差(ΔEab)が10以下であることが好ましい。また、カルボキシアルキル基の抗菌性金属カルボキシアルキル基による平均置換度が0.01〜0.3であることが好ましく、抗菌性金属が亜鉛であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野において治療や処置のために皮膚又はその他の体表面を被覆し、人体からの分泌液や滲出液等を処理したり、菌の増殖を抑制したりして、皮膚を衛生的な状態に保つ包帯に関する。特に、本発明は、ギプス、キャスト、スプリント、装具等の外固定材の下巻き用包帯として、又は手術部位の周りを覆うドレープとして使用する包帯に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、創傷や疾病の治療や処置に、所謂、ガーゼ包帯、布帛包帯、巻軸包帯、粘着包帯等の各種包帯が使用されている。包帯の基本的な機能としては、被覆(保護)、圧迫、固定、牽引、水分の吸収等があり、対象となる患部に直接又は間接的に当てて使用される。
包帯の適用に当たっては、患部への菌浸入を防止する必要があり、包帯の使用に際しては、包帯を適用する患部を消毒したり、包帯自体を滅菌したりする処置がなされている。
【0003】
包帯が皮膚に長期間適用される場合は、皮膚からの分泌液、滲出液、落屑等により皮膚表面に菌が増殖し易くなり、更に外部からの汚染の可能性も高まる。このような感染のリスク等を低減するため、患部の洗浄や包帯の交換が頻繁に行われる。
また、骨折、捻挫及び脱臼の治療や、四肢の機能の補助又は変形の予防等に使用されるギプス、キャスト、スプリント等のような外固定材を適用する場合、外固定材を装着する前に下巻き用包帯が皮膚に被覆されて、外固定材と皮膚との摩擦を緩衝し、人体からの分泌液、滲出液等を吸収する役割を果たす。この場合、皮膚上に閉鎖環境が作り出され、治療の必要性からそれが長期間続くことが多いが、上記のような患部の洗浄や包帯の交換を頻繁に行うことは不可能である。このため、汗や垢により皮膚表面で菌が繁殖し、また、臭いや痒みが発生し易いという問題がある。更に、皮膚に傷や術後創がある場合には、感染を引き起こす恐れがある。
【0004】
従って、患部の洗浄や包帯の交換の頻度を下げ、且つ、皮膚表面等における菌の繁殖を防ぎ、臭いやかゆみの発生を防ぐことができる包帯が求められている。
また、包帯の適用中に、分泌液、滲出液等の吸収や外部からの汚染等があった場合は、速やかに交換をする必要があるが、交換の必要時期を容易に感知することができる包帯が求められている。
また、手術の際に飛散する血液、体液、生理食塩水等の液体から術野周囲の汚染を防ぎ、患者への感染を予防する観点から、患者を被覆し、術野のみを露出させるドレープが用いられている。この場合にも、簡便な処置で菌の繁殖を防ぐことができ、容易に交換の必要性を感知できることが求められている。
【0005】
特許文献1には、疎水性繊維ウェブと活性炭粒子を含有するシートとを積層させ、疎水性繊維ウェブが活性炭粒子含有シートに貫入されている臭い吸収用ウェブが開示されている。この臭い吸収用ウェブは、ギプスの下巻き用として使用される。
この吸収用ウェブは、臭気に対しては良好な消臭効果を有するが、菌の繁殖を抑制することはできない。また、活性炭により黒い外観になるため、汚れの付着や、吸収した体液の色等を観察することが難しく、交換の必要性を容易に感知することができない。
【0006】
特許文献2には、銀、銅又は亜鉛イオンを担持するゼオライトを含有する合成繊維を含む、ギプス下巻き用不織布が開示されている。しかしながら、ゼオライトのような粒体は、使用中にゼオライトが繊維から脱落する可能性があり、抗菌性の持続性に問題がある。
【0007】
【特許文献1】特公昭63−44373号公報
【特許文献2】特許第2557645号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような状況の下になされたものであって、長期間に亘って皮膚表面等における菌の繁殖を防ぐことができ、他方、交換の必要性を容易に感知できる包帯を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を進めた結果、特定の構造を有するカルボキシアルキル化セルロース繊維を含んでなる包帯を用いれば、上記目的が達成されることを見出し、この知見に基づいて更に検討を進めて、本発明を完成するに至った。
【0010】
かくして、本発明によれば、表面の少なくとも一部に、カルボキシアルキル基の少なくとも一部が抗菌性金属カルボキシアルキル基で置換されているカルボキシアルキル化セルロース繊維を含んでなる包帯が提供される。
本発明の包帯は、高圧蒸気滅菌後のL表色系によるLが+80〜+100、aが−10〜+10、bが−10〜+10であることが好ましく、白色であることが更に好ましい。
更に、本発明の包帯は、好適には、高圧蒸気滅菌前後のL表色系による色差(ΔEab)が10以下であり、また、高圧蒸気滅菌前後の色の変化が肉眼で識別できないものであることが好ましい。
本発明の包帯において、カルボキシアルキル基の抗菌性金属カルボキシアルキル基による平均置換度が0.01〜0.3であることが好ましい。
また、本発明の包帯において、抗菌性金属が亜鉛であることが好ましい。
また、本発明の包帯は、好適には、湿潤時の引張強度が10〜500N/50mmである。
本発明の包帯は、チューブ状であってもよい。
【0011】
本発明によれば、表面の少なくとも一部に、亜鉛カルボキシアルキル基によるカルボキシアルキル基の平均置換度が0.01〜0.3であるカルボキシアルキル化セルロース繊維を含んでなり、高圧蒸気滅菌後のL表色系によるLが+80〜+100、aが−10〜+10、bが−10〜+10であるチューブ状包帯が提供される。
また、本発明によれば、表面の少なくとも一部に、亜鉛カルボキシアルキル基によるカルボキシアルキル基の平均置換度が0.01〜0.3であるカルボキシアルキル化セルロース繊維を含んでなり、高圧蒸気滅菌前後のL表色系による色差(ΔEab)が10以下であるチューブ状包帯が提供される。
本発明の包帯は、滅菌処理を施したものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の包帯は、抗菌性に優れ、淡色であるので、感染のリスクを長期間に亘って低減することができ、交換の必要時期を容易に感知できる。
本発明の包帯は、外固定材の下巻き用の包帯として、また、手術部位の周りを覆うドレープとして、更には、その他の医療処置で長期間又は高度の衛生管理が求められる場合に患部の被覆や吸収等を行う汎用衛生材料として、有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の包帯は、カルボキシアルキル化セルロース繊維を含んでなる。
カルボキシアルキル化セルロース繊維は、セルロース繊維の有する水酸基をカルボキシアルキル化したものである。即ち、セルロース繊維の有する水酸基をカルボキシアルキル基に変換したものである。カルボキシアルキル基は、特に限定されないが、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基等を例示することができる。
セルロース繊維は、特に限定されず、その具体例としては、綿等の天然セルロース繊維;ビスコースレーヨン繊維、ポリノジック繊維や銅アンモニアレーヨン繊維、リヨセル繊維、モダル繊維等の再生セルロース繊維が挙げられる。
セルロース繊維は、包帯中に50〜100重量%含まれていることが好ましく、70〜100重量%含まれていることが更に好ましい。セルロース繊維の比率が上記範囲内にあることにより、包帯に良好な吸湿性、吸水性及び肌触りを付与することができる。
セルロース繊維のカルボキシアルキル化の程度は、セルロース繊維を構成するセルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシアルキル基のモル数(平均置換度)が、好ましくは0.01〜0.3、更に好ましくは0.01〜0.1となる範囲である。
セルロース繊維のカルボキシアルキル化は、従来公知の方法によればよく、特に限定されない。
【0014】
本発明において、カルボキシアルキル化セルロース繊維のカルボキシアルキル基の少なくとも一部が抗菌性金属カルボキシアルキル基で置換されていることが必要である。これにより、本発明の包帯は良好な抗菌・消臭機能を発揮する。
抗菌性金属カルボキシアルキル基は、カルボキシアルキル基のカルボキシ水素を抗菌性金属で置換したものである。
抗菌性金属は、特に限定されないが、高圧蒸気滅菌後の包帯の色が白色であることから、亜鉛が好ましい。
抗菌性金属カルボキシアルキル基の量は、セルロース繊維を構成するセルロースの無水グルコース単位当たりの抗菌性金属カルボキシアルキル基のモル数(平均置換度)が、好ましくは0.01〜0.3、更に好ましくは0.01〜0.1となる範囲である。
平均置換度が0.01〜0.3の範囲内であると、高圧蒸気滅菌による変色の度合いが少なく、また、高圧蒸気滅菌後も淡色であり、更に、肌接触材料としての風合いを維持し得るので好ましい。
【0015】
セルロース繊維の抗菌性金属カルボキシアルキル化は、セルロース繊維をアルカリ金属カルボキシアルキル化した後、金属イオン交換反応によって、アルカリ金属を抗菌性金属に変換することによって得ることができる。
セルロース繊維をアルカリ金属カルボキシアルキル化する方法は、従来公知の方法を採用すればよく、例えば、以下のようにして行うことが出来る。
セルロース繊維を、クロロ酢酸、ブロモ酢酸、ヨード酢酸、1−クロロプロピオン酸、2−クロロプロピオン酸、3−クロロプロピオン酸等の炭素数2〜3のハロゲノアルカン酸もしくはその塩(以下、両者を合わせて単に「ハロゲノアルカン酸等」という。)又はハロゲノアルカン酸等と水酸化アルカリ金属との混合溶液(以下、単に「浸漬液」という。)に浸漬する。浸漬は、浸漬液を入れた浴にカルボキシアルキル化処理前のセルロース繊維を漬けることによって行うことができる。ハロゲノアルカン酸としては、一般的にモノクロロ酢酸又はその塩が用いられ、水酸化アルカリ金属としては、好ましくは水酸化ナトリウムが用いられる。ハロゲノアルカン酸等又はこれと水酸化アルカリ金属との混合溶液を調製するために、溶媒としては水、アルコール等の有機溶媒、又は水と有機溶媒との混合溶媒が用いられる。又はロゲノアルカン酸等の濃度は、所望のカルボキシアルキル基平均置換度に応じて適宜決定すればよい。
【0016】
次に、カルボキシアルキル化処理前のセルロース繊維の浸漬液含浸量を、圧搾又は遠心脱水により調整した後、セルロース繊維を加熱処理する。加熱処理は、通常、熱風、電気ヒーター、赤外線ヒーター等の熱風循環式乾燥機等を用いて行えばよい。加熱処理の温度は、通常、100℃〜200℃で、加熱処理の時間は、通常、15秒ないし30分間程度である。この加熱処理によって、セルロース繊維中のセルロース分子がハロゲノアルカン酸等と又は更に水酸化アルカリ金属と反応して、セルロース分子の水酸基の水素原子がカルボキシアルキル基又はアルカリ金属カルボキシアルキル基と置換される。
【0017】
加熱処理後、セルロース繊維に残存する未反応のハロゲノアルカン酸等、水酸化アルカリ金属及び副反応生成物を除去するために、セルロース繊維を洗浄する。洗浄には、水、アルコール等の有機溶媒、又は水とアルコール等の有機溶媒との混合溶媒が使用できる。また残存する水酸化アルカリ金属を中和するために、酢酸等の酸を混合することが好ましい。
【0018】
上記の方法により得られたアルカリ金属カルボキシアルキル化セルロース繊維を、抗菌性金属化合物の水溶液に浸漬する。これにより、金属イオン置換反応が起こり、アルカリ金属が抗菌性金属イオンに変換される。
抗菌性金属化合物は、水溶性の化合物であればよく、硫酸塩、塩酸塩、酢酸塩、硝酸塩等の塩;水酸化物;等を使用することができる。
水溶性の亜鉛化合物としては、硫酸亜鉛、塩化亜鉛及び酢酸亜鉛を例示することができるが、硫酸亜鉛が好ましい。
【0019】
抗菌性金属化合物による金属イオン置換反応後、反応に関与しないで残存している抗菌性金属化合物を除去するために、セルロース繊維を洗浄する。洗浄には、水、アルコール等の有機溶媒、又は水とアルコール等の有機溶媒との混合溶媒が使用できる。
【0020】
本発明の包帯は、セルロース繊維以外の繊維をその構成繊維として含んでいてもよい。セルロース以外の繊維の具体例としては、ポリエステル系繊維、アクリル系繊維、ポリアミド系繊維、アラミド繊維、ポリオレフィン系繊維、ビニロン繊維、ポリウレタン系繊維、ポリ塩化ビニル系繊維、ポリ塩化ビニリデン系繊維等の合成繊維を挙げることができる。
【0021】
本発明の包帯は、カルボキシアルキル化セルロース繊維を含んでなることが必須であるが、包帯中にカルボキシアルキル化セルロース繊維を導入する方法は、特に限定されない。
その具体例としては、セルロース繊維を含む包帯を形成した後、その包帯中のセルロース繊維に抗菌性金属カルボキシアルキル基を導入する方法、抗菌性金属カルボキシアルキル化したセルロース繊維を用いて包帯を形成する方法を示すことができる。
【0022】
本発明の包帯の布構造は、織布、編布及び不織布のいずれでもよく、その表面の少なくとも一部に、抗菌性金属カルボキシアルキル化セルロース繊維を有していれば、単層構造でも積層構造でもよい。
織布は、平織、綾織、朱子織等のいずれであってもよい。編布は、経編及び緯編の各種編組織が利用できる。
不織布は、フリース形成法として、乾式法、湿式法及びスパンボンド法のいずれを使用したものであってもよく、繊維結合が、スパンレース法、ニードルパンチ法、ケミカルボンド法、ポイントシール法、サーマルボンド法等のいずれの方法で形成されたものであってもよい。
包帯の布構造を形成する、フィラメント又は糸は特に限定されず、例えば、モノフィラメント、マルチフィラメント、カバードヤーン、コアヤーン、撚糸のいずれでもよく、また、伸縮加工や嵩高加工等の加工をされたものであってもよい。
【0023】
包帯の製品形態としては、矩形や円形等の定型の大きさを有するシート状に形成したもの、一定方向に連続した長さを有しロール状に形成したもの、チューブ状に形成したもの等が挙げられる。
特にチューブ状の製品形態は、粘着テープや包帯止め等を用いることなく、清潔さが求められる部分の周囲全面を簡便に被覆することができるので、衛生管理上非常に有利である。
【0024】
本発明の包帯の目付け量は、特に限定されないが、10〜500g/mであることが好ましい。
また、本発明の包帯は、好ましくは10〜500N/50mm、更に好ましくは20〜450N/50mmの湿潤時の引張強度を有する。
このような範囲の湿潤時強度を有することにより、本発明の包帯は、湿潤時に崩壊したり溶解したりせず、実質的に非湿潤時の形体を保持していることができる。
包帯を長期間皮膚に適用した場合には、人体からの多量の分泌液や滲出液と接触することになるが、本発明の包帯は、そのような状況でも実質的に包帯の構造が崩壊することなく、その製品形体を保持し得る程度の強度を有している。これにより、長期間使用した後、患部の処置や包帯の交換のために、包帯を引っ張ったり、引き剥がしたりしても、包帯が千切れたり、患部に繊維の一部が残ったりすることがほとんどなく、容易に患部から取り除くことができる。このような取り扱いの簡便性により、短時間での処置が可能となるので、煩雑な処置にともなう感染のリスクを低減することができる。
【0025】
また、本発明の包帯は、好ましくは、150〜1,600%の吸水率を有する。
吸水率がこの範囲内であれば、分泌液や滲出液等の液体を好適に吸収し、また、蒸れや過剰な水分による皮膚への不快感を好適に軽減することができる。
【0026】
本発明の包帯は、高圧蒸気滅菌後に、L表色系によるLが+80〜+100、aが−10〜+10、bが−10〜+10であることが好ましい。本発明の包帯は、好ましくは白色である。これにより、体液の滲出や汚れの付着などを容易に認識し易く、また、清潔感がある。
また、本発明の包帯は、高圧蒸気滅菌前後のL表色系による色差(ΔEab)が好ましくは10以下、更に好ましくは5以下である。これにより、高圧蒸気滅菌処理をしても着色の度合いが少ないので、体液の滲出や汚れの付着などを容易に認識し易く、また、清潔感がある。
【0027】
また、本発明の包帯は、包帯の縦方向(包帯の製造方向に平行な方向)又は横方向(縦方向に直交する方向)のうち、より伸長する方向において、その伸長率が30〜500%であることが好ましい。この範囲の伸長率を有することにより、患部に装着し易く、また、体の動きや皮膚の伸展に対して容易に追従するため、装着時の違和感が軽減される。
【0028】
本発明の包帯は、長期間使用した場合でも十分な抗菌性を発揮するために、殺菌活性値が0以上であることが好ましく、2以上であることが更に好ましく、4以上であることが特に好ましい。
【実施例】
【0029】
以下に、実施例により本発明を説明する。なお、各例中の部及び%は特に断りのない限り、質量基準である。
また、包帯の各特性の評価方法は、以下のとおりである。
【0030】
(アルカリ金属カルボキシルアルキル基置換度)
アルカリ金属カルボキシルメチル基を有するセルロース繊維を含んでなる包帯を、酸を添加した、水とアルコールとの混合溶媒中で処理して、アルカリ金属カルボキシメチル基:−CHCOOM(但し、Mは、アルカリ金属である。)をカルボキシメチル基:−CHCOOHに変換する。次に、水とアルコールとの混合溶媒で洗浄後、乾燥し、秤量してその質量(Xg)を求める。包帯に非セルロース繊維が含まれている場合には、包帯におけるセルロース繊維と非セルロース繊維との比率から、セルロース繊維の質量を算出する。
乾燥後の包帯を容器中に入れ、一定量の水酸化ナトリウム水溶液で溶解する。フェノールフタレイン指示薬を添加した後、過剰の水酸化ナトリウムを規定度Nの塩酸で中和滴定して、その使用量をSmlとする。一方、包帯を酸処理しないで同様の操作を行い、塩酸の使用量をBmlとする。
平均置換度は、下記式で求められる。
A=N×(B−S)/X
置換度=0.162A/(1−0.058A)
【0031】
(消臭率)
10cm×10cmに切断した包帯を5Lテドラーバック(東京硝子器械社製)に入れ、100〜150ppmの濃度に調整したアンモニアガスを3.5L混入する。検知管を用いて、初期ガス濃度(ppm)と、2時間後の残存ガス濃度(ppm)を測定し、消臭率を下式により算出する。この値が大きいほど消臭性に優れている。
消臭率(%)=[(初期ガス濃度−残存ガス濃度)/初期ガス濃度]×100
【0032】
(抗菌性)
JIS Z 1902に記載の方法に準拠し、黄色ブドウ球菌を用いて試験を行う。包帯から、試験片0.4gを切り出し、その試験片に菌液0.2mlを滴下し、滴下直後の生菌数(個)、及び37℃で18時間放置した後の生菌数(個)を測定し、下式により殺菌活性値を算出する。この値が正で大きいほど殺菌活性が優れている。
殺菌活性値=標準布(非抗菌布)の試験菌接種直後の生菌数の常用対数値−抗菌加工試料の18時間培養後の生菌数の常用対数値
【0033】
(包帯の色及び色差)
高圧蒸気滅菌前と滅菌後の試料のそれぞれについて、自記分光光度計(日本電色工業社製、NF333積分球使用。測定面積8mmφ、測長間隔20mm、視野角2°)を用いて、表色法としてL系を用い、L、a及びbのそれぞれの値を測定する。また、次の色差式により色差(ΔEab)を求める。
ΔEab=〔(ΔL+(Δa+(Δb1/2
ここで、ΔLは滅菌前と滅菌後の包帯のL値の差であり、Δaは滅菌前と滅菌後の包帯のa値の差であり、Δbは滅菌前と滅菌後の包帯のb値の差である。
また、高圧蒸気滅菌前後の包帯の色を肉眼で確認し、記録する。
【0034】
(吸水率)
5cm×5cmに裁断した包帯を105℃で2時間乾燥し、その乾燥重量を測定した後、生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム水溶液)中に浸漬する。3分間浸漬した後、取り出し、1分間吊るし、余分な水を滴下させた後、重量(吸水後重量)を計量し、吸水率を下記式により算出する。
吸水率(%)=[(吸水後重量−乾燥重量)/乾燥重量]×100
【0035】
(肌触り官能評価)
包帯の表面を手で触り、そのときの感触を、「非常に柔らかい」、「柔らかい」及び「硬い」の3段階で評価する。
【0036】
(伸長率)
包帯から、200mm×100mmの試験片を、縦方向及び横方向のそれぞれから採取する。
試験片の長辺側(200mmの側)に長辺の固定ジグを取り付け、そのジグに1分間2Kg荷重を加え包帯を伸長させる。伸長後の、試験片の長さを測定し、下記式により伸長率を求め、縦方向又は横方向の伸長率のうち、より伸張する方を伸長率として記録する。
伸張率(%)=[(伸張後の試験片の長さ−伸長前の試験片長さ100mm)/伸長前の試験片の長さ100mm]×100
【0037】
(湿潤強度)
包帯から、幅50mmで、つかみ間隔を200mmにできる長さ(例えば300mm)の試験片を、包帯の縦方向及び横方向につき、各5枚採取する。試験片を生理食塩水(0.9%塩化ナトリウム水溶液)に入れ、試験片が自重で沈下するまで放置するか、又は10分間生理食塩水中に静止状態で沈めておく。生理食塩水から試験片を取り出し、試験片を、弛みが生じない程度に引っ張った状態で引張試験機(インストロン社製、商品名「INSTRON5564」、ロードセルに型式2525−808 10N+を使用)に掴み間隔200±1mmで取り付け、100±10mmの引張速度で、試験片が切断するまで荷重を加える。このときの最大荷重を測定する。縦方向と横方向についてそれぞれ測定し、より高い方を、湿潤時の引張り強度(単位 N/50mm)として記録する。
【0038】
(実施例1)
綿糸30/2(30番手、双糸)を用いて丸編で作製したチューブ状の包帯を、モノクロロ酢酸ナトリウム及び水酸化ナトリウム両試薬を溶解させた水溶液に浸漬した後、適当な脱水率にて包帯を脱水し、その後絶乾状態になるまで乾燥させ、包帯中のセルロース繊維をナトリウムカルボキシメチル化セルロース繊維に変換して、ナトリウムカルボキシメチル化した包帯とした。その後、ナトリウムカルボキシメチル化した包帯を、硫酸亜鉛七水和物、酢酸及び酢酸ナトリウムを溶解させた水溶液に浸漬し、ナトリウムカルボキシメチル化包帯を中和すると同時に、ナトリウムカルボキシメチル化セルロース繊維を亜鉛カルボキシメチル化セルロース繊維へ変換させた。その後、水洗により残存する硫酸亜鉛、酢酸及び酢酸ナトリウムを除去した後、乾燥させ、亜鉛カルボキシメチル化包帯を得た。この包帯について、各特性を評価した。結果を表1に示す。
【0039】
(実施例2)
モノクロロ酢酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムを変量するほかは実施例1と同様にして、平均置換度を変えた亜鉛カルボキシメチル化包帯を得た。この包帯について、各特性を評価した。結果を表1に示す。
【0040】
(実施例3及び4)
包帯の製品形態を銅アンモニアレーヨンからなるシート状の不織布包帯に変更し、また、モノクロロ酢酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムを変量したほかは実施例1と同様にして、平均置換度を変えた亜鉛カルボキシメチル化包帯を得た。この包帯について、各特性を評価した。結果を表1に示す。
【0041】
(比較例)
実施例1で作製したチューブ状の包帯の未処理品を比較例とした。この包帯について、各特性を評価した。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1から分かるように、本発明の包帯は、抗菌性金属カルボキシアルキル基を有していない包帯に比べ非常に高い抗菌性を示す。また、本発明の包帯は、抗菌処理をしても、衛生管理を行う上で重要な、滅菌前後の色、湿潤強度、吸水性、肌触り及び伸長性のような特性においても好適な結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の少なくとも一部に、カルボキシアルキル基の少なくとも一部が抗菌性金属カルボキシアルキル基で置換されているカルボキシアルキル化セルロース繊維を含んでなる包帯。
【請求項2】
高圧蒸気滅菌後のL表色系によるLが+80〜+100、aが−10〜+10、bが−10〜+10である請求項1に記載の包帯。
【請求項3】
高圧蒸気滅菌後に白色である請求項2に記載の包帯。
【請求項4】
高圧蒸気滅菌前後のL表色系による色差(ΔEab)が10以下である請求項1〜3のいずれかに記載の包帯。
【請求項5】
高圧蒸気滅菌前後の色の変化が肉眼で識別できないものである請求項1〜3のいずれかに記載の包帯。
【請求項6】
カルボキシアルキル基の抗菌性金属カルボキシアルキル基による平均置換度が0.01〜0.3である請求項1〜5のいずれかに記載の包帯。
【請求項7】
抗菌性金属が亜鉛である請求項1〜6のいずれかに記載の包帯。
【請求項8】
湿潤時の引張強度が10〜500N/50mmである請求項1〜7のいずれかに記載の包帯。
【請求項9】
チューブ状である請求項1〜8のいずれかに記載の包帯。
【請求項10】
表面の少なくとも一部に、亜鉛カルボキシアルキル基によるカルボキシアルキル基の平均置換度が0.01〜0.3であるカルボキシアルキル化セルロース繊維を含んでなり、高圧蒸気滅菌後のL表色系によるLが+80〜+100、aが−10〜+10、bが−10〜+10であるチューブ状包帯。
【請求項11】
表面の少なくとも一部に、亜鉛カルボキシアルキル基によるカルボキシアルキル基の平均置換度が0.01〜0.3であるカルボキシアルキル化セルロース繊維を含んでなり、高圧蒸気滅菌前後のL表色系による色差(ΔEab)が10以下であるチューブ状包帯。
【請求項12】
滅菌処理を施したものである請求項1〜11のいずれかに記載の包帯。

【公開番号】特開2007−44174(P2007−44174A)
【公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−230356(P2005−230356)
【出願日】平成17年8月9日(2005.8.9)
【出願人】(000151380)アルケア株式会社 (88)