説明

化合物および膜形成用組成物

【課題】光学材料用としての利用が可能な新規な化合物、および該化合物を含有する膜形成用材料を提供する。
【解決手段】下記一般式[式中、Zはメルカプト基または水酸基であり;R11〜R17は炭素数1〜10のアルキル基または芳香族炭化水素基であり;g、jは1以上の整数であり、k、qは0以上の整数であり;bは1以上の整数であり、l、mは0以上の整数であり;cは1以上の整数であり、n、oは0以上の整数であり;pは0または1であり;Aは芳香族環式基、脂肪族環式基又はアルキレン基である。]で表される化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学材料用としての利用が可能な化合物、および該化合物を含有する膜形成用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ用パネル、カラーフィルター、眼鏡レンズ、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、薄膜トランジスタ(TFT)用のプリズムレンズシート、非球面レンズ、光ディスク、光ファイバー、光導波路、光学フィルター、ホログラム等の様々な光学部品には、光透過性を有する種々の光学材料(ガラス、光透過性プラスチック等)が用いられている。
近年、かかる用途に用いられる光学材料として、高い屈折率を有するプラスチック材料が盛んに検討されている。
従来、このようなプラスチック材料としては、主にポリカーボネート系の樹脂が用いられており、たとえば特許文献1には、エチレングリコールビスアリルカーボネートをラジカル重合させた樹脂が開示されている。この樹脂は、耐熱性が高く、屈折率が高く、収縮性が低く、離型性に優れているとされている。
【0003】
一方、高屈折率の光学材料の用途の1つとして、光学多層膜が検討されている。光学多層膜は、光学的性質の異なる複数の層を積層した膜であり、たとえば特許文献2には、ガラス基板上に、金属層と、低屈折率層と、高屈折率の光導波層とが積層された光導波路が開示されている。
【特許文献1】特開昭61−28513号公報
【特許文献2】特開平7−35934号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような高屈折率の層を形成するために用いられる光学材料には、たとえば、波長589nmの光の屈折率として1.60以上程度の高い屈折率の達成が望まれる。
しかしながら、このような高屈折率を達成できる光学材料はいまだ少ないのが現状である。たとえば特許文献1記載の樹脂は、たとえば波長589nmの光の屈折率(n)がおよそ1.51〜1.53程度と小さい。
さらに、高屈折率の樹脂は、一般に、透明性が充分ではない等の問題を有しており、光学材料としての実用には適さないという問題がある。
そのため、光学材料として実際に利用できる新規な材料に対する要求が高まっている。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、光学材料用としての利用が可能な新規な化合物、および該化合物を含有する膜形成用材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する本発明の第一の態様は、下記一般式(I)で表される化合物である。
【0006】
【化1】

[式(I)中、Zはメルカプト基または水酸基であって、複数のZはそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、複数のZのうちの少なくとも1つはメルカプト基であり;R11〜R17はそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基または芳香族炭化水素基であって、その構造中にヘテロ原子を含んでもよく;g、jはそれぞれ独立に1以上の整数であり、k、qは0以上の整数であり、かつg+j+k+qが5以下であり;bは1以上の整数であり、l、mはそれぞれ独立に0以上の整数であり、かつb+l+mが4以下であり;cは1以上の整数であり、n、oはそれぞれ独立に0以上の整数であり、かつc+n+oが4以下であり;pは0または1であり;Aは芳香族環式基、脂肪族環式基又はアルキレン基である。]
【0007】
また、本発明の第二の態様は、下記一般式(I)で表される化合物を有機溶剤に溶解してなる膜形成用組成物である。
【0008】
【化2】

[式(I)中、Zはメルカプト基または水酸基であって、複数のZはそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、複数のZのうちの少なくとも1つはメルカプト基であり;R11〜R17はそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基または芳香族炭化水素基であって、その構造中にヘテロ原子を含んでもよく;g、jはそれぞれ独立に1以上の整数であり、k、qは0以上の整数であり、かつg+j+k+qが5以下であり;bは1以上の整数であり、l、mはそれぞれ独立に0以上の整数であり、かつb+l+mが4以下であり;cは1以上の整数であり、n、oはそれぞれ独立に0以上の整数であり、かつc+n+oが4以下であり;pは0または1であり;Aは芳香族環式基、脂肪族環式基又はアルキレン基である。]
【0009】
ここで、本特許請求の範囲及び明細書における「アルキル基」は、特に記載のない限り、直鎖状、分岐状および環状の1価の飽和炭化水素基を包含するものとする。
「アルキレン基」は、特に記載のない限り、直鎖状、分岐状および環状の2価の飽和炭化水素基を包含するものとする。
「脂肪族」とは、芳香族に対する相対的な概念であって、芳香族性を持たない基、化合物等を意味するものと定義する。
「脂肪族環式基」は、芳香族性を持たない単環式基または多環式基であることを示す。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、光学材料用としての利用が可能な新規な化合物、および該化合物を含有する膜形成用材料が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
≪化合物≫
本発明の化合物(以下、化合物(I)という。)は、上記一般式(I)で表される。
化合物(I)は、トリフェニルメタン骨格(1つの炭素原子(以下、中心炭素原子ということがある。)に3つのフェニル基が結合した構造)を有する化合物である。
すなわち、pが0である場合は、1つのトリフェニルメタン骨格を有する化合物であり、pが1である場合は2つのトリフェニルメタン骨格が2価の基Aを介して結合した構造を有する。
化合物(I)は、かかるトリフェニルメタン骨格を有することにより、後述するように、アモルファスな膜を形成可能となっており、この膜形成能は、当該骨格に結合した置換基(Z、R11〜R17、A)の種類や数による影響により損なわれることはない。
pは0または1であり、0および1のいずれであってもよい。
【0012】
式(I)中、Zはメルカプト基(SH基)または水酸基(OH基)であり、複数のZはそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。
本発明においては、複数のZのうちの少なくとも1つがSH基である必要がある。これにより、高屈折率を達成できる。
化合物(I)において、1分子中のSH基の数は、pが0である場合は1個以上が好ましく、1〜3個がより好ましく、1〜2個がさらに好ましい。また、pが1である場合は1個以上が好ましく、1〜6個がより好ましく、2〜6個がさらに好ましく、2〜4個が最も好ましい。SH基の数が多いほど屈折率が向上する。また、SH基の数が少ないほど、すなわちOH基の数が多いほど、化合物の結晶性が向上する。
化合物(I)において、SH基の割合、すなわち[Zの総数]に対する[メルカプト基であるZの数]の割合は、15〜100%が好ましく、30〜100%がより好ましい。
【0013】
11〜R17は、それぞれ独立に、炭素数1〜10の直鎖状、分岐状または環状のアルキル基、または芳香族炭化水素基である。
前記アルキル基としては、炭素数1〜5の直鎖状または分岐状の低級アルキル基、または炭素数5〜6の環状アルキル基が好ましい。前記低級アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基などの直鎖状または分岐状のアルキル基が挙げられ、これらの中でもメチル基が好ましい。前記環状アルキル基としてはシクロヘキシル基、シクロペンチル基等が挙げられ、シクロヘキシル基が好ましい。
前記芳香族炭化水素基としては、炭素数6〜15のものが好ましく、たとえばフェニル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、フェネチル基、ナフチル基などが挙げられる。
これらのアルキル基または芳香族炭化水素基は、その構造中に、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでもよい。
【0014】
11〜R17の結合位置は、特に限定されないが、合成のしやすさ等の点で、たとえば後述する一般式(I−1)に示すように、R11が、Zが結合した炭素原子に隣接する炭素原子の少なくとも一方に結合していることが好ましい。
【0015】
g、jはそれぞれ独立に1以上の整数であり、k、qはそれぞれ独立に0以上の整数であり、かつg+j+k+qが5以下である。
gおよびjは、1または2であることが好ましく、最も好ましくは1である。
kは、0〜2の整数であることが好ましく、0または1がより好ましく、最も好ましくは1である。
qは、0〜2の整数であることが好ましく、0または1がより好ましく、最も好ましくは0である。
【0016】
bは1以上の整数であり、l、mはそれぞれ独立に0以上の整数であり、かつb+l+mが4以下である。
bは、1または2であることが好ましく、最も好ましくは1である。
lおよびmは、0〜2の整数であることが好ましく、0または1がより好ましく、最も好ましくは0である。
【0017】
cは1以上の整数であり、n、oはそれぞれ独立に0以上の整数であり、かつc+n+oが4以下である。
cは、1または2であることが好ましく、最も好ましくは1である。
nおよびoは、0〜2の整数であることが好ましく、0または1がより好ましく、最も好ましくは0である。
【0018】
下付文字bまたはcを付したZの結合位置は、特に限定されない。特に、光学材料用として好適であること、合成しやすい等の利点を有することから、当該Zが、少なくとも、フェニル基の2位および/または6位(中心炭素原子の結合位置に対してオルト位)に結合していることが好ましい。
また、pが1である場合、下付文字bまたはcを付したZは、光学材料用として好適であること、合成しやすい等の利点を有することから、2価の基Aの結合位置に対してパラ位に結合していることが好ましい。
【0019】
下付文字gを付したZの結合位置は、特に限定されない。特に、光学材料用として好適であること、合成しやすい等の利点を有することから、当該Zが、少なくとも、フェニル基の4位(中心炭素原子の結合位置に対してパラ位)に結合していることが好ましい。
【0020】
Aは芳香族環式基、脂肪族環式基又はアルキレン基である。
Aの芳香族環式基としては、炭素数6〜15の芳香族環式化合物から2個の水素原子を除いたものが好ましく、当該芳香族環式化合物としては、たとえば、ベンゼン、ナフタレン、フェナントレン、アントラセンなどが挙げられる。
これらの芳香族環式化合物は、置換基を有していてもよく、該置換基としては、OH基、SH基、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数6〜15の芳香族炭化水素基等が挙げられ、該アルキル基および芳香族炭化水素基としては、R11〜R17において挙げたものと同様のものが挙げられる。
これらの芳香族環式化合物は、その構造中に、酸素原子、窒素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでもよい。
【0021】
Aの芳香族環式基としては、下記一般式(Ia)または(Ib)で表される基が好ましい。
【0022】
【化3】

[式中、Z’はSH基またはOH基であり;R18、R19、R20、R21はそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基または芳香族炭化水素基であって、その構造中にヘテロ原子を含んでもよく;r1、r2、r3はそれぞれ独立に0以上の整数であり、かつr1+r2+r3が4以下であり;y1、y2、y3、y4はそれぞれ独立に0以上の整数であり、かつy1+y2+y3+y4が6以下である。]
【0023】
式(Ia)および(Ib)中、Z’はSH基またはOH基であり、好ましくはSH基である。
r1またはy1+y2が2以上である場合、つまりZ’が複数存在する場合、複数のZ’はそれぞれ同じであっても異なっていてもよい。
18、R19、R20、R21のアルキル基または芳香族炭化水素基としては、上記R11〜R17のアルキル基または芳香族炭化水素基と同様のものが挙げられ、なかでも、本発明の効果に優れる点で、メチル基が好ましい。
r1、r2、r3は、それぞれ独立に、0以上の整数であり、かつr1+r2+r3が4以下である。なかでも、r1=1であり、かつr2+r3が1であることが好ましい。
y1、y2、y3、y4は、それぞれ独立に、0以上の整数であり、かつy1+y2+y3+y4が6以下である。なかでも、y1+y2+y3+y4=0であることが好ましい。
【0024】
Aの脂肪族環式基は、芳香性を有さず、かつその構造中に環を有する基である。
Aの脂肪族環式基は、置換基を有していてもよいし、有していなくてもよい。置換基としては、炭素数1〜5の低級アルキル基、フッ素原子、フッ素原子で置換された炭素数1〜5のフッ素化低級アルキル基、酸素原子(=O)等が挙げられる。
脂肪族環式基の、置換基を除いた基本の環の構造は、炭素および水素からなる基(炭化水素基)であることに限定はされないが、炭化水素基であることが好ましい。また、「炭化水素基」は飽和または不飽和のいずれでもよいが、通常は飽和であることが好ましい。好ましくは多環式基である。
このような脂肪族環式基の具体例としては、モノシクロアルカンから2個以上の水素原子を除いた基;ビシクロアルカン、トリシクロアルカン、テトラシクロアルカンなどのポリシクロアルカンから2個以上の水素原子を除いた基などを例示できる。具体的には、シクロペンタン、シクロヘキサン等のモノシクロアルカンから2個以上の水素原子を除いた基や、アダマンタン、ノルボルナン、イソボルナン、トリシクロデカン、テトラシクロドデカンなどのポリシクロアルカンから2個以上の水素原子を除いた基などが挙げられる。これらの基は、その水素原子の一部または全部が置換基(例えば低級アルキル基、フッ素原子またはフッ素化アルキル基)で置換されていてもよい。
Aの脂肪族環式基としては、炭素数が4〜15の脂肪族環式基が好ましく、アダマンタンから2個の水素原子を除いた基がより好ましく、特に、アダマンタンの1位および3位の水素原子を除いた基が好ましい。
【0025】
アルキレン基としては、炭素数が1〜5であることが好ましく、炭素数が1〜3であることがより好ましい。
また、アルキレン基は、直鎖状または分岐状であることが好ましく、特に直鎖状であることが好ましい。
アルキレン基として、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等が挙げられる。
本発明においては、これらの中でも、合成が容易である等の点で、メチレン基が最も好ましい。
【0026】
本発明の化合物(I)としては、特に、下記一般式(I−1)で表される化合物が、光学材料用として好適であるため好ましい。
【0027】
【化4】

【0028】
式(I−1)中、Z、R11〜R12、p、Aは上記と同様である。
b’は1〜4の整数であり、1または2が好ましく、1が最も好ましい。
c’は1〜4の整数であり、1または2が好ましく、1が最も好ましい。
下付き文字b’またはc’を付したZの結合位置は、特に限定されないが、合成のしやすさ等の点で、少なくとも、フェニル基の4位(中心炭素原子の結合位置に対してパラ位)またはフェニル基の2位および/または6位(中心炭素原子の結合位置に対してオルト位)が好ましい。
12の結合位置は、特に限定されないが、合成のしやすさ等の点で、Zの結合位置に対して、オルト位(R11のメタ位)またはメタ位(R11のパラ位)が好ましく、特にR11のパラ位が好ましい。
Aの結合位置は、特に限定されないが、合成のしやすさ等の点で、フェニル基の3位または5位(中心炭素原子の結合位置に対してメタ位)が好ましい。
【0029】
化合物(I)としては、特に、下記一般式(I−2)、(I−3)または(I−4)で表される化合物が好ましい。
【0030】
【化5】

[式中、Z、R11〜R12およびAは上記と同様である。]
【0031】
これらの一般式(I−2)〜(I〜4)で表される化合物の具体例を以下に示す。
【0032】
【化6】

【0033】
【化7】

【0034】
【化8】

【0035】
化合物(I)は、当該化合物(I)と有機溶剤とのみを用いて、スピンコート法によりアモルファス(非晶質)な膜を形成しうる材料である。ここで、アモルファスな膜とは、結晶化しない光学的に透明な膜を意味する。スピンコート法は、一般的に用いられている薄膜形成手法の1つである。
当該化合物がスピンコート法によりアモルファスな膜を形成しうる材料であるかどうかは、例えば、シリコンウェーハ上にスピンコート法により形成した塗膜が全面透明であるか否かにより判別できる。より具体的には、例えば以下のようにして判別できる。
まず、当該化合物を、有機溶剤を用いて溶解する。例えばプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を、当該化合物の濃度が6質量%となるよう溶解し、超音波洗浄器を用いて超音波処理(溶解処理)を施して溶解させる。
次に、得られた溶液を、ウェーハ上に2000rpmにてスピンコートし、任意に乾燥のためのベーク処理を90℃、90秒の条件で施し、この状態で、目視にて、膜が透明かどうかを判定することにより、アモルファスな膜が形成されているかどうかを確認する。なお、透明でない曇った膜はアモルファスな膜ではない。
本発明において、化合物(I)は、上述のようにして形成されたアモルファスな膜の安定性が良好であることが好ましく、例えば上記ベーク処理後、室温環境下で2週間放置した後でも、アモルファスな状態が維持されていることが好ましい。
【0036】
本発明において、化合物(I)は、分子量が300〜2000の範囲内であることが好ましく、300〜1500がより好ましく、300〜1200がさらに好ましい。
【0037】
化合物(I)の製造は、従来公知の方法を用いて行うことができ、たとえば、第一の原料化合物として、置換基(たとえばSH基、OH基等)を有していてもよいサリチルアルデヒド[pが0である場合]、または2個のサリチルアルデヒド(置換基を有していてもよい)が前記Aを介して結合してなるビスサリチルアルデヒド誘導体[pが1である場合]を用い、当該第一の原料化合物と、置換基を有するチオフェノール化合物(OH基を有していてもよい)とを、酸性条件下で反応させることにより製造できる。
【0038】
より具体的には、たとえば、下記一般式(I’)で表される化合物(以下、化合物(I’)という。)と、下記一般式(I”)で表される化合物(以下、化合物(I”)という。)とを、酸性条件下で反応させる。これにより、化合物(I’)のホルミル基(−CHO)と化合物(I”)とが反応して化合物(I)が生成する。
【0039】
【化9】

[式(I’),(I”)中、Zはメルカプト基または水酸基であって、式(I’)および(I”)中の複数のZのうちの少なくとも1つはメルカプト基であり;R11〜R17、g、j、k、q、b、l、m、c、n、o、p、Aは上記と同様である。]
【0040】
具体的には、例えば、化合物(I’)をメタノール等の有機溶剤に溶解し、該溶液中に、化合物(I”)を添加し、該溶液中に塩酸等の酸を添加することにより反応させることができる。
化合物(I”)の添加量は、使用する化合物(I’)に対して約[(p+1)×2]当量倍が好ましい。すなわち、pが0である場合は化合物(I’)の約2倍量、pが1である場合は化合物(I’)の約4倍量を添加することが、収率よく化合物(I)を得られるため好ましい。
このとき使用する酸としては、化合物(I’)と化合物(I”)とが反応するものであれば特に制限はない。好ましくは塩酸、硫酸、無水硫酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、シュウ酸、ギ酸、リン酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等を好ましい具体例として挙げることができる。特に、塩酸が好ましく用いられる。これらの酸は、いずれか1種を単独で用いてもよく、2種類以上混合して用いてもよい。
酸の添加量は、化合物(I’)と化合物(I”)との反応を生じさせる量であれば特に制限はなく、使用する酸の種類等に応じて適宜決定すればよい。例えば、35質量%塩酸の場合は、化合物(I’)100質量部に対して、好ましくは1〜700質量部の範囲で用いられる。
反応温度は、20〜80℃が好ましく、30〜65℃がより好ましい。
反応時間は、2〜96時間が好ましく、5〜72時間がより好ましい。
反応終了後、反応液に水酸化ナトリウム等の塩基を添加して、反応液中の酸を中和する。
このようにして得られる反応液中には、化合物(I)が溶解している。該化合物(I)は、たとえば、水/酢酸エチル等による抽出処理、カラムクロマトグラフィー等による精製処理等を行うことにより、当該反応液から回収できる。
【0041】
上記本発明の化合物(I)は、光学材料用として好適なものである。
すなわち、本発明の化合物(I)は、上述したように、アモルファスな膜を形成できる化合物であり、化合物(I)を用いて得られる材料(たとえば後述する膜形成用材料を用いて形成される膜)は、可視光に対して高い屈折率を有するものであり、たとえば波長589nmの光に対して1.6以上の高い屈折率を達成可能である。
かかる高屈折率の材料は、種々の光学部品に用いられる光学材料として有用である。特に、光学多層膜(特定の波長の光を反射する選択反射膜、特定の波長の光を透過する選択透過膜等)における高屈折率層等の、高い屈折率が要求されるものに有用である。
【0042】
また、光学材料の性質を示す指標の1つとしてアッベ数がある。
アッベ数は、ガラスなどの透明媒質の光の分散に関する性質を規定するものであり、フラウンホーファー線のC線(波長656nm),D線(589nm),d線(587nm),F線(486nm)に対する屈折率をそれぞれN,N,N,Nとして、下記式で定義されるνまたはνが用いられる。
ν=(N−1)/(N−N
ν=(N−1)/(N−N
アッベ数は、一般に色収差の評価に用いられ、アッベ数が大きいほど、屈折率の分散が小さく、色収差が小さいことを意味し、アッベ数が小さいほど、屈折率の分散が大きく、色収差が大きいことを意味する。
アッベ数は、当該材料が使用される用途によって好ましい範囲が異なっており、その用途に応じて、好ましいアッベ数を有する材料が選択してされる。
【0043】
上記本発明の化合物(I)が用いられる光学材料の用途としては、特に制限はなく、従来、ガラスや光透過性プラスチックが用いられている任意の用途、たとえば液晶ディスプレイ用パネル、カラーフィルター、眼鏡レンズ、フレネルレンズ、レンチキュラーレンズ、TFT用のプリズムレンズシート、非球面レンズ、光ディスク、光ファイバー、光導波路、光学フィルター、ホログラム等の様々な光学部品に使用できる。
【0044】
本発明の化合物(I)は、たとえば後述するように、有機溶剤を添加して膜形成用組成物とし、支持体上に塗布し、ベークして有機溶剤を除去する等により膜(光学材料)とすることができる。
【0045】
また、本発明の化合物(I)は、一般的に膜の形成のために用いられている樹脂と混合して用いることもできる。化合物(I)をかかる添加剤として用いることにより、当該樹脂を用いて形成される膜の屈折率を向上させることができる。したがって、本発明の化合物(I)は、屈折率向上剤としても有用である。
【0046】
<膜形成用材料>
本発明の膜形成用材料は、上記本発明の化合物(I)を有機溶剤に溶解してなるものである。
有機溶剤としては、化合物(I)を溶解し、均一な溶液とすることができるものであればよい。
膜形成用材料に用いられる有機溶剤としては、たとえば、
γ−ブチロラクトン等のラクトン類;
アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチル−n−アミルケトン、メチルイソアミルケトン、2−ヘプタノンなどのケトン類;
エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどの多価アルコール類及びその誘導体;
エチレングリコールモノアセテート、ジエチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、またはジプロピレングリコールモノアセテート等のエステル結合を有する化合物、前記多価アルコール類または前記エステル結合を有する化合物のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノプロピルエーテル、モノブチルエーテル等のモノアルキルエーテルまたはモノフェニルエーテル等のエーテル結合を有する化合物等の多価アルコール類の誘導体;
ジオキサンのような環式エーテル類や、乳酸メチル、乳酸エチル(EL)、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸エチルなどのエステル類;
アニソール、エチルベンジルエーテル、クレジルメチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、フェネトール、ブチルフェニルエーテル、エチルベンゼン、ジエチルベンゼンン、アミルベンゼン、イソプロピルベンゼン、トルエン、キシレン、シメン、メシチレン等の芳香族系有機溶剤などを挙げることができる。
これらの有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上の混合溶剤として用いてもよい。
【0047】
有機溶剤の使用量は、支持体等に塗布可能な濃度であればよく、塗布膜厚に応じて適宜設定される。一般的には、固形分濃度が2〜20質量%、好ましくは5〜15質量%の範囲内となるように用いられる。
【0048】
膜形成用材料には、さらに所望により、任意の成分、例えば、塗布性を向上させるための界面活性剤などを適宜、添加含有させることができる。
【0049】
上記膜形成用材料を用いた膜の形成は、たとえば、支持体上に、上記膜形成用材料をスピンナーなどで塗布して塗膜を形成し、任意にベーク処理を施して塗膜中の有機溶剤を除去する等により実施できる。
これらの工程は周知の手法を用いて行うことができる。操作条件等は、使用する膜形成用材料の組成や特性(化合物(I)の種類、任意成分、固形分濃度等)に応じて適宜設定すればよい。
【0050】
支持体としては、ガラス基板、シリコン基板、銅基板、クロム基板、鉄基板、アルミニウム基板等の基板;基板上に他の層が積層された積層体等が挙げられる。
積層体における他の層としては、特に制限はなく、たとえば当該膜形成用材料を用いて形成される膜よりも屈折率が低い低屈折率層、金属層等が挙げられる。
【0051】
本発明の膜形成用材料を用いて形成される膜の膜厚は、特に限定されず、当該膜が用いられる用途において、当該膜に必要とされる性質(可視光に対する透明性等)に応じて適宜設定される。
【実施例】
【0052】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
合成例1(化合物(1)の合成)
4.63gのメチレンビスサリチルアルデヒドを30gのメタノール(MeOH)に溶かし、10gの2,5−ジメチルチオフェノールを加え、そこへ10gの35質量%塩化水素水溶液(HClaq.)を加え、60℃で3日間反応させた。
反応終了後、反応液を室温に戻し、水酸化ナトリウムで中和(pH試験紙で中性を確認)し、水/酢酸エチル(質量比1:1)にて抽出し、酢酸エチル溶液を硫酸ナトリウムにて乾燥後、カラムクロマトグラフィ(充填剤としてSiO、展開溶剤としてヘプタン:酢酸エチル=3:1(質量比)を使用。)を行い、目的とするフラクションを減圧濃縮して、8.1gの化合物(1)を得た。
【0053】
【化10】

【0054】
化合物(1)について、H−NMRおよびIRによる分析を行った。
H−NMR(重ジメチルスルホキシド(DMSO−d6)、400MHz、内部標準:テトラメチルシラン):δ(ppm)=9.71 s H,6.65−7.41 m 14H H,5.96 s 2H H,3.68 s 2H H,2.18 s 12H H,2.14 s 12H H
IR:3523cm−1,2974cm−1,2920cm−1,1604cm−1,1488cm−1,1438cm−1
上記の結果から、化合物(1)が下記に示す構造を有することが確認できた。
【0055】
【化11】

【0056】
実施例1
合成例1で得た化合物(1)100質量部とPGMEA1560質量部とを混合、溶解して膜形成用組成物を調製した。
得られた膜形成用組成物を用いて以下の評価を行った。
<屈折率、k値およびアッベ数>
膜形成用組成物を、シリコンウェーハの上に、スピンナーを用いて均一に塗布し、90℃にて90秒間ベーク処理を行って膜(膜厚150nm)を形成した。
得られた膜について、分光エリプソメータVUV−VASE UV−302(J.A.WOOLAM社製)を用いて、波長486nmの屈折率N486、波長589nmの屈折率N589および波長656nmの屈折率N656と、波長656nmにおけるk値(633nm)を測定した。
ここで、k値(消衰係数)は、当該波長の光の吸光の度合いを示す値であり、k値が大きいほど、その波長の光を吸収する、つまりその波長の光の透明性が低いことを意味し、k値がゼロに近いほど、その波長の光の透明性が高いことを意味する。
また、測定した屈折率から、下記式により、アッベ数νを算出した。
ν=(N589−1)/(N486−N656
これらの結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
上記結果から明らかなように、本発明の化合物(I)に相当する化合物(1)を用いた実施例1の膜形成用材料により、486nm、589nmおよび656nmのいずれの波長においても1.6以上の高い屈折率を有する膜が形成できた。また、k値は、限りなくゼロに近いレベルであり、633nmの光に対する透明性が非常に高いことが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物。
【化1】

[式(I)中、Zはメルカプト基または水酸基であって、複数のZはそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、複数のZのうちの少なくとも1つはメルカプト基であり;R11〜R17はそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基または芳香族炭化水素基であって、その構造中にヘテロ原子を含んでもよく;g、jはそれぞれ独立に1以上の整数であり、k、qは0以上の整数であり、かつg+j+k+qが5以下であり;bは1以上の整数であり、l、mはそれぞれ独立に0以上の整数であり、かつb+l+mが4以下であり;cは1以上の整数であり、n、oはそれぞれ独立に0以上の整数であり、かつc+n+oが4以下であり;pは0または1であり;Aは芳香族環式基、脂肪族環式基又はアルキレン基である。]
【請求項2】
下記一般式(I−1)で表される請求項1記載の化合物。
【化2】

[式(I−1)中、Zはメルカプト基または水酸基であって、複数のZはそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、複数のZのうちの少なくとも1つはメルカプト基であり;R11〜R12はそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基または芳香族炭化水素基であって、その構造中にヘテロ原子を含んでもよく;b’は1〜4の整数であり;c’は1〜4の整数であり;Aは芳香族環式基、脂肪族環式基又はアルキレン基である。]
【請求項3】
光学材料用である請求項1または2記載の化合物。
【請求項4】
下記一般式(I)で表される化合物を有機溶剤に溶解してなる膜形成用組成物。
【化3】

[式(I)中、Zはメルカプト基または水酸基であって、複数のZはそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、複数のZのうちの少なくとも1つはメルカプト基であり;R11〜R17はそれぞれ独立に炭素数1〜10のアルキル基または芳香族炭化水素基であって、その構造中にヘテロ原子を含んでもよく;g、jはそれぞれ独立に1以上の整数であり、k、qは0以上の整数であり、かつg+j+k+qが5以下であり;bは1以上の整数であり、l、mはそれぞれ独立に0以上の整数であり、かつb+l+mが4以下であり;cは1以上の整数であり、n、oはそれぞれ独立に0以上の整数であり、かつc+n+oが4以下であり;pは0または1であり;Aは芳香族環式基、脂肪族環式基又はアルキレン基である。]


【公開番号】特開2007−262011(P2007−262011A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−90755(P2006−90755)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000220239)東京応化工業株式会社 (1,407)
【Fターム(参考)】