説明

化学センサ及び検出方法

【課題】化学センサにおいて、被検出物質の安定した検出ができるようにする。
【解決手段】第1導電型のドレイン領域と第1導電型のソース領域との間に第2導電型のチャネル領域が形成された第1半導体領域と、第2導電型のチャネル領域上に形成された感応膜と、を含み、液体中の被検出物質を検出する感応素子と、第2導電型のチャネル領域の電位を制御し、且つフローティング化する制御機構と、を具備する。感応素子の第2導電型のチャネル領域を所定電位に接続した後フローティング化して、感応素子のドレイン電流を計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学センサ及び検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被検出物質を捉えて電気信号を出力する化学センサとして、電界効果トランジスタを応用したISFET(Ion Sensitive Field-Effect Transistor:イオン感応性電界効果トランジスタ)やCHEMFET(Chemical Field-Effect Transistor:化学的電界効果トランジスタ)が提案されている。これらの化学センサは、例えば、電界効果トランジスタのゲートに感応膜が形成されたものであり、被検出物質によって引き起こされるゲート電位の変化に応じたドレイン電流に基づいて、被検出物質を検出する。
【0003】
下記の特許文献1には、SOI(Silicon On Insulator)基板の埋め込み絶縁膜上に、ソース領域と、ドレイン領域と、イオンセンサ領域を含むチャネル領域とを形成したISFETが記載されている。このISFETにおいては、埋め込み絶縁膜によって、ソース領域、ドレイン領域及びチャネル・ボデイ領域(以下チャネル領域と記す)を他の素子と分離することにより、リーク電流の発生を防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−215974号公報(段落0056〜0060、図11、12)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1においては、チャネル・ボデイ領域がフローティング状態となっている。このような場合には、ヒストリー効果と呼ばれる現象が生じる。ヒストリー効果とは、ゲート、ドレイン、ソースに印加されていた電圧の履歴によって、チャネル領域における残留電荷が変化する結果、デバイス特性が変化してしまう現象である。
【0006】
本発明は、以上のような技術的課題に鑑みてなされたものである。本発明の幾つかの態様は、化学センサにおいて、被検出物質の安定した検出ができるようにすることに関連している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の幾つかの態様において、化学センサは、第1導電型のドレイン領域と第1導電型のソース領域との間に第2導電型のチャネル領域が形成された第1半導体領域と、第2導電型のチャネル領域上に形成された感応膜と、を含み、液体中の被検出物質を検出する感応素子と、第2導電型のチャネル領域の電位を制御し、且つフローティング化する制御機構と、を具備する。
この態様によれば、感応素子のチャネル領域に蓄積電荷がある場合でも、外部よりチャネル電位を任意の値に初期設定することができる。従って、同じ参照電位における感応膜の電位を一定にすることができるので、被検出物質の安定した検出ができる。
【0008】
上述の態様において、感応素子の第1半導体領域が絶縁層上に形成され、感応素子の第2導電型のチャネル領域は部分空乏化する不純物濃度及び膜厚で形成されていることが望ましい。
これによれば、感応素子の第1半導体領域が絶縁層上に形成されるので、チャネル領域の電位を他の領域と独立に制御することができる。
【0009】
上述の態様において、制御機構は、第2導電型のソース領域と、第2導電型のソース領域と感応素子の第2導電型のチャネル領域との間に形成された第1導電型のチャネル領域と、第1導電型のチャネル領域上に形成されたゲート絶縁膜と、ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極と、を含んでおり、第2導電型のソース領域は電源装置に電気的に接続されることが望ましい。
これによれば、制御機構がトランジスタを含むことにより、感応素子の第2導電型のチャネル領域の電位の制御及びフローティング化を簡易な構成で行うことができる。
【0010】
上述の態様において、制御機構は、第2導電型のソース領域と第2導電型のドレイン領域との間に第1導電型のチャネル領域が形成された第2半導体領域と、第1導電型のチャネル領域上に形成されたゲート絶縁膜と、ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極と、を含んでおり、第2導電型のドレイン領域及び第2導電型のソース領域の内の一方は、感応素子の第2導電型のチャネル領域に電気的に接続され、第2ドレイン領域及び第2ソース領域の内の他方は、電源装置に電気的に接続されることが望ましい。
これによれば、制御機構がトランジスタを含むことにより、感応素子の第2導電型のチャネル領域の電位の制御及びフローティング化を簡易な構成で行うことができる。
【0011】
上述の態様において、化学センサは、被検出物質が含まれる液体の電位を制御する参照電極をさらに具備することが望ましい。
これによれば、感応膜における被検出物質の捕獲量を制御することができる。
【0012】
本発明の他の態様において、上述の化学センサを用いて参照電極と感応膜とに接触する液体中の被検出物質を検出する方法は、感応素子の第2導電型のチャネル領域を制御機構によって所定電位に接続するステップ(a)と、感応素子の第2導電型のチャネル領域を制御機構によってフローティング化するステップ(b)と、第2導電型のチャネル領域をフローティング化された状態で、参照電極の電位と感応素子のドレイン・ソース間電圧とが所定条件である場合の感応素子のドレイン電流を計測するステップ(c)と、を具備する。
これによれば、感応素子の第2導電型のチャネル領域を一定電位に調整し、この電位を保持できるので、被検出物質の安定した検出が可能となる
【0013】
上述の態様において、ステップ(b)の前に、第1導電型のソース領域の電位に対する感応膜の電位を参照電極によって所定電位に制御するステップ(d)をさらに具備し、ステップ(c)において、感応膜の電位を、参照電極によって上記所定電位より低下させるとともに、感応膜の電位の低下前後における感応素子のドレイン電流を計測することが望ましい。
これによれば、部分空乏化したチャネル領域がフローティング化されているので、電圧を逆スイープしたときのS値(サブスレッショルドスイング値)が小さく、急峻なI−Vカーブを描くため、被検出物質の検出感度を高めることができる。
【0014】
上述の態様において、ステップ(b)の前に、第1導電型のソース領域の電位に対する感応膜の電位を参照電極によって所定電位に制御するステップ(d)をさらに具備し、ステップ(c)において、感応膜の電位を、参照電極によって上記所定電位より上昇させるとともに、感応膜の電位の上昇前後における感応素子のドレイン電流を、第1導電型のソース領域と第1導電型のドレイン領域との間に1V以上の電圧を印加して計測することが望ましい。
これによれば、ドレイン電圧を1V以上としたことによってインパクトイオン化を生じさせ、大きなドレイン電流を得ることができるため、被検出物質の検出感度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る化学センサを示す平面模式図
【図2】図1のA−A線断面図及びB−B線断面図
【図3】本発明の第2の実施形態に係る化学センサを示す平面模式図
【図4】図3のIV−IV線断面図
【図5】上記化学センサを用いた第1の検出方法を説明する図
【図6】上記化学センサを用いた第2の検出方法を説明する図
【図7】インパクトイオン化について説明するグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。また同一の構成要素には同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0017】
<1.第1の実施形態の構成>
図1は、本発明の第1の実施形態に係る化学センサを示す平面模式図である。また、図2(A)は図1のA−A線断面図であり、図2(B)は図1のB−B線断面図である。図1に示す化学センサ1は、感応素子2と制御機構3とを具備している。
【0018】
<1−1.感応素子>
感応素子2は、図1に示すように、第1導電型(例えばN型)のドレイン領域21と、第1導電型(例えばN型)のソース領域22と、第1導電型のドレイン領域21と第1導電型のソース領域22との間に形成された第2導電型(例えばP型)のチャネル領域23とを含むISFETである。
チャネル領域23に隣接する位置には、チャネル領域23より第2導電型の不純物濃度の高い第2導電型のコンタクト領域27が形成されている。
【0019】
図2に示すように、第1導電型のドレイン領域21、第1導電型のソース領域22、第2導電型のチャネル領域23、及び、第2導電型のコンタクト領域27は、基板層10上に形成されている。基板層10は、半導体基板11上に絶縁層12が形成されたものである。第2導電型のチャネル領域23上には、感応膜25が成膜されている。
【0020】
半導体基板11、第1導電型のドレイン領域21、第1導電型のソース領域22、第2導電型のチャネル領域23、第2導電型のコンタクト領域27は、例えば単結晶シリコンによって形成されている。これらのうち、チャネル領域23は、部分空乏化する不純物濃度及び膜厚で形成されている。
絶縁層12は、例えば酸化シリコン膜によって形成されている。
第1導電型のドレイン領域21及び第1導電型のソース領域22の周辺には、素子分離膜120が形成されている。また、ドレイン領域21及びソース領域22の上面側には、パシベーション膜16が形成されている。
【0021】
感応膜25は、検出しようとする物質(被検出物質)に応じて、例えば次に示すものを用いることができる。
【0022】
検出するイオンを水素イオン(H)とするならば、窒化シリコン(Si)や酸化タンタル(Ta)を用いることができる。検出するイオンをカリウムイオン(K)とするならば、バリノマイシンを用いることができる。検出するイオンをナトリウムイオン(Na)とするならば、ビスクラウンエーテル誘導体を用いることができる。検出するイオンをカルシウムイオン(Ca2+)とするならば、非環状ポリエーテルアミド誘導体を用いることができる。検出するイオンをアンモニウムイオン(NH)とするならば、ノナクチンや塩化テトラセチルアンモニウムを用いることができる。
【0023】
また、検出するイオンをフッ素イオン(F)とするならば、フッ化ランタン(LaF)を用いることができる。検出するイオンを銀イオン(Ag)や鉛イオン(Pb2+)とするならば、カリックスアレンなどを用いることができる。また、感応膜25を液膜型イオンセンサ溶媒とすることもでき、その場合は、ニトロベンゼンやニトロフェニルオチルエーテルなどを用いることができる。
また、種々の蛋白質やDNA(deoxyribonucleic acid)などの生体分子検出では、シリコン酸化膜(SiO)の表面を感応化処理した膜を用いることができる。
【0024】
半導体基板11には、参照電極40が形成されていても良い。参照電極40は、白金(Pt)等の導電性材料で形成され、図示しない外部電極に接続される。これにより、被検出物質が含まれる液体の電位を制御し、感応膜25における被検出物質の捕獲感度を制御することができる。また、参照電極40は、半導体基板11とは別体に設けられても良い。
【0025】
第1ドレイン領域21は所定の電位(例えば正電位)に接続される。第1ソース領域22は、第1ドレイン領域21と異なる所定の電位(例えば接地電位)に接続される。
【0026】
以上説明した感応素子2において、イオンなどの被検出物質が感応膜25に捕獲されたとき、感応膜25に電荷が蓄積される。感応膜25に例えば正の電荷が蓄積されると、第2導電型のチャネル領域23に存在する正孔が感応膜25から離れる方向に移動し、電子が感応膜25側に移動する。これにより、第2導電型のチャネル領域23に、感応膜25における電荷量に応じたチャネルが形成され、第1ドレイン領域21と第1ソース領域22との間の電気抵抗が変化し、ドレイン電流が変化する。これにより、被検出物質が検出される。
【0027】
<1−2.制御機構>
制御機構3は、トランジスタ30を含んでいる。トランジスタ30は、ソース領域及びドレイン領域がコンタクト領域27と同一の導電型を有するMOSトランジスタである。トランジスタ30のドレイン領域は、コンタクト領域27を介して感応素子2のチャネル領域23に接続されている。トランジスタ30のソース領域は、可変電源装置38に接続されている。トランジスタ30のゲート電極は、トランジスタ30のON/OFFを制御する制御信号の出力端子に接続される。
【0028】
なお、本実施形態において、第1導電型をN型、第2導電型をP型とする例を示したが、第1導電型をP型、第2導電型をN型としても良い。
また、本実施形態において、制御機構3としてトランジスタ30を可変電源装置38に接続した例を示したが、トランジスタ30の代わりに、他のスイッチング素子を用いても良い。
【0029】
化学センサ1は、制御機構3のトランジスタ30をONにすることにより、感応素子2のチャネル領域23の電位を制御し、制御機構3のトランジスタ30をOFFにすることにより、感応素子2のチャネル領域23をフローティング化することができる。
【0030】
上述の構成によれば、感応素子2のチャネル領域23の電位を制御し、且つフローティング化できるようにすることにより、チャネル領域23の蓄積電荷量を制御することができる。従って、仮に化学センサ1の使用時にチャネル領域23に電荷が蓄積したとしても、その蓄積電荷量を制御することにより、再現性のある初期値設定が可能になり、被検出物質の安定した検出ができる。
また、制御機構3がトランジスタ30を含むことにより、感応素子2のチャネル領域23の電位の制御及びフローティング化を簡易な構成で行うことができる。
【0031】
<2.第2の実施形態の構成>
図3は、本発明の第2の実施形態に係る化学センサを示す平面模式図である。また、図4は図3のIV−IV線断面図である。図3のA−A線断面図は、図2(A)と同様であるので省略している。
図3に示す化学センサ1aは、感応素子2と制御機構3aとを具備している。
【0032】
制御機構3aは、図3に示すように、第2導電型(チャネル領域23と同じ導電型)のソース領域32と、第2導電型のソース領域32と第2導電型のチャネル領域23との間に形成された第1導電型(ドレイン領域21及びソース領域22と同じ導電型)のチャネル領域33と、を有するトランジスタを含んでいる。
制御機構3aにおけるトランジスタのドレイン領域は、感応素子2のチャネル領域23によって構成されている。ソース領域32は、上述の可変電源装置の出力電極に接続される。
【0033】
図4に示すように、ソース領域32及びチャネル領域33は、基板層10上に形成されている。また、チャネル領域33上には、ゲート絶縁膜34を介してゲート電極35が形成されている。
第2導電型のソース領域32及び第1導電型のチャネル領域33の周辺には、素子分離膜120が形成されている。
【0034】
図3に示すように、化学センサ1aは、感応素子2のドレイン・ソース間のチャネルにおける電荷の移動方向(A−A方向)に対して、トランジスタのドレイン・ソース間のチャネルにおける電荷の移動方向(IV−IV方向)が直交するように配置されている。
他の点については第1の実施形態において説明した通りである。
【0035】
<3.第1の検出方法>
図5は、上記化学センサを用いた第1の検出方法を説明する図である。第1の検出方法においては、感応素子2のチャネル領域23を所定電位に初期設定した後、チャネル領域23をフローティング化する。そして、第1の検出方法においては、チャネル領域23をフローティング化した状態で、参照電極40の参照電位Vrefを高電位から0に低下させながら、感応素子2のドレイン電流を計測する。
【0036】
まず、被検出物質を含む液体に参照電極40及び感応膜25を接触させた状態で、図5(A)に示すように、トランジスタ30をONにして、感応素子2のチャネル領域23を所定電位(例えば接地電位)に接続する。これにより、チャネル領域23の電位Vcが上記所定電位に調整される。このとき、参照電位Vrefを例えば正電位に設定すると、感応素子2のソース電位に対して液体の電位が高くなるので、正電荷をもつ被検出物質がより多く感応膜25に蓄積される。被検出物質の蓄積量は、液体における被検出物質の濃度に依存する。
次に、図5(B)に示すように、トランジスタ30をOFFにして、感応素子2のチャネル領域23をフローティング化する。これにより、チャネル領域23に蓄積していた電荷をほぼ0にした状態でフローティング化することができる。
【0037】
次に、図5(C)に示すように、ドレイン電位Vdを正の一定電位に、ソース電位Vsを接地電位にそれぞれ接続し、感応素子2のドレイン電流を計測する。ここで、ドレイン電位Vdは0.8V以下であることが望ましい。ドレイン電位Vdを0.8V以下とすることにより、チャネル領域23におけるインパクトイオン化を抑制することができる。
このとき、参照電位Vrefを例えば高電位から0に掃引変化させながらドレイン電流を計測すると、参照電位Vrefが低下するにつれて、正電荷をもつ被検出物質が感応膜25から離脱し、それに応じてドレイン電流が変化する。
【0038】
以上のようにして得られた参照電位Vrefとドレイン電流との間の関係に基づいて、目的とするイオンや生体分子を検出することができる。また、水には水素イオン(H)や水酸化物イオン(OH)が含まれるので、何れかのイオンを検出することによって水分の検出もできる。
また、以上のようにして得られた参照電位Vrefとドレイン電流との間の関係を、別途得られた基礎データと比較することにより、目的とするイオン又は生体分子の濃度を測定することができる。また、水素イオン(H)又は水酸化物イオン(OH)の濃度から、水溶液やコンクリートのpHを測定することもできる。
【0039】
上述のように、第1の検出方法においては、参照電位Vrefを高電位から0に掃引変化させながらドレイン電流を計測する。このとき、チャネル領域23がフローティング化されているので、参照電位Vrefを逆スイープしたときのS値(サブスレッショルドスイング値)が小さく、急峻なI−V特性を示す。従って、感応膜25におけるイオン量の変化に対してドレイン電流の大きな変化が得られるので、高感度な化学センサになるとともに、低電圧での動作が可能となるので消費電力が低減される。
【0040】
<4.第2の検出方法>
図6は、上記化学センサを用いた第2の検出方法を説明する図である。第2の検出方法においても、第1の検出方法と同様に、感応素子2のチャネル領域23を所定電位に初期設定した後、チャネル領域23をフローティング化する。そして、第2の検出方法においては、チャネル領域23をフローティング化した状態で、参照電極40の参照電位Vrefを0から高電位に上昇させながら、感応素子2のドレイン電流を計測する。
【0041】
まず、被検出物質を含む液体に参照電極40及び感応膜25を接触させた状態で、図6(A)に示すように、トランジスタ30をONにして、感応素子2のチャネル領域23を所定電位(例えば接地電位)に接続する。これにより、チャネル領域23の電位Vcが上記所定電位に調整される。このとき、参照電位Vrefを例えば0(接地電位)に設定すると、感応素子2の感応膜25の電位が0となる。
次に、図6(B)に示すように、トランジスタ30をOFFにして、感応素子2のチャネル領域23をフローティング化する。これにより、チャネル・ボデイ領域23の電位をほぼ0にした状態でフローティング化することができる。
【0042】
次に、図6(C)に示すように、ドレイン電位Vdを正の一定電位に、ソース電位Vsを接地電位にそれぞれ接続し、感応素子2のドレイン電流を計測する。ここで、ドレイン電位Vdは1V以上であることが望ましい。ドレイン電位Vdを1V以上とすることにより、チャネル領域23におけるインパクトイオン化を生じさせることができる。
このとき、参照電位Vrefを例えば0から正電位に掃引変化させながらドレイン電流を計測すると、参照電位Vrefが上昇するにつれて、正電荷をもつ被検出物質が感応膜25に捕獲され、それに応じてドレイン電流が変化する。
【0043】
以上のようにして得られた参照電位Vrefとドレイン電流との間の関係に基づいて、目的とするイオンや生体分子を検出することができる。また、水には水素イオン(H)や水酸化物イオン(OH)が含まれるので、何れかのイオンを検出することによって水分の検出もできる。
また、以上のようにして得られた参照電位Vrefとドレイン電流との間の関係を、別途得られた基礎データと比較することにより、目的とするイオン又は生体分子の濃度を測定することができる。また、水素イオン(H)又は水酸化物イオン(OH)の濃度から、水溶液やコンクリートのpHを測定することもできる。
【0044】
図7は、インパクトイオン化について説明するグラフである。
上述のように、第2の検出方法においては、ドレイン電位Vdを1V以上とした状態で、参照電位Vrefを0から正電位に掃引変化させながらドレイン電流を計測する。このとき、ドレイン電位Vdによってチャネル領域23に大きな電位差が生じているため、電子がシリコン原子に衝突したエネルギーによって、シリコン原子が電子を放出する。これにより、新たな電子と正孔の組が発生して、正孔がフローテイング状態のチャネル・ボデイ領域に蓄積する。このため、閾値電圧が低下し、ドレイン電流値が飛躍的に増加する。
このようなインパクトイオン化により、感応膜25におけるイオン量の変化に対してドレイン電流の大きな変化が得られるので、高感度な化学センサとなるとともに、低電圧での動作が可能となるので消費電力が低減される。
【符号の説明】
【0045】
1、1a…化学センサ、2…感応素子、3、3a…制御機構、10…基板層、11…半導体基板、12…絶縁層、16…パシベーション膜、21…ドレイン領域、22…ソース領域、23…チャネル領域、25…感応膜、27…コンタクト領域、30…トランジスタ、32…ソース領域、33…チャネル領域、34…ゲート絶縁膜、35…ゲート電極、38…可変電源装置、40…参照電極、120…素子分離膜、Vc…チャネル領域の電位、Vd…ドレイン電位、Vref…参照電位、Vs…ソース電位

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型のドレイン領域と第1導電型のソース領域との間に第2導電型のチャネル領域が形成された第1半導体領域と、前記第2導電型のチャネル領域上に形成された感応膜と、を含み、液体中の被検出物質を検出する感応素子と、
前記第2導電型のチャネル領域の電位を制御し、且つフローティング化する制御機構と、
を具備する化学センサ。
【請求項2】
請求項1において、
前記感応素子の第1半導体領域が絶縁層上に形成され、前記感応素子の第2導電型のチャネル領域は部分空乏化する不純物濃度及び膜厚で形成されている化学センサ。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記制御機構は、第2導電型のソース領域と、前記第2導電型のソース領域と前記感応素子の第2導電型のチャネル領域との間に形成された第1導電型のチャネル領域と、前記第1導電型のチャネル領域上に形成されたゲート絶縁膜と、前記ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極と、を含み、
前記第2導電型のソース領域は電源装置に電気的に接続された化学センサ。
【請求項4】
請求項1又は2において、
前記制御機構は、第2導電型のソース領域と第2導電型のドレイン領域との間に第1導電型のチャネル領域が形成された第2半導体領域と、前記第1導電型のチャネル領域上に形成されたゲート絶縁膜と、前記ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極と、を含み、
前記第2導電型のドレイン領域及び前記第2導電型のソース領域の内の一方は、前記感応素子の第2導電型のチャネル領域に電気的に接続され、前記第2ドレイン領域及び第2ソース領域の内の他方は、電源装置に電気的に接続された化学センサ。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか一項において、
前記被検出物質が含まれる液体の電位を制御する参照電極をさらに具備する化学センサ。
【請求項6】
請求項5記載の化学センサを用いて、前記参照電極と前記感応膜とに接触する液体中の被検出物質を検出する方法において、
前記感応素子の第2導電型のチャネル領域を前記制御機構によって所定電位に接続するステップ(a)と、
前記感応素子の第2導電型のチャネル領域を前記制御機構によってフローティング化するステップ(b)と、
前記第2導電型のチャネル領域がフローティング化された状態で、前記参照電極の電位と前記感応素子のドレイン・ソース間電圧とが所定条件である場合の前記感応素子のドレイン電流を計測するステップ(c)と、
を具備する検出方法。
【請求項7】
請求項6において、
ステップ(b)の前に、前記第1導電型のソース領域の電位に対する前記感応膜の電位を前記参照電極によって所定電位に制御するステップ(d)をさらに具備し、
ステップ(c)において、前記感応膜の電位を、前記参照電極によって前記所定電位より低下させるとともに、前記感応膜の電位の低下前後における前記感応素子のドレイン電流を計測する検出方法。
【請求項8】
請求項6において、
ステップ(b)の前に、前記第1導電型のソース領域の電位に対する前記感応膜の電位を前記参照電極によって所定電位に制御するステップ(d)をさらに具備し、
ステップ(c)において、前記感応膜の電位を、前記参照電極によって前記所定電位より上昇させるとともに、前記感応膜の電位の上昇前後における前記感応素子のドレイン電流を、前記第1導電型のソース領域と前記第1導電型のドレイン領域との間に1V以上の電圧を印加して計測する検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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