説明

化学ループ燃焼法用の新規な固形レドックス活性物質

【課題】任意の化学ループ燃焼法において使用可能な新種の固形レドックス物質を提供する。
【解決手段】CuO/Cu、Cu2O/Cu、NiO/Ni、Fe23/Fe34、FeO/Fe、Fe34/FeO、MnO2/Mn23、Mn23/Mn34、Mn34/MnO、MnO/Mn、Co34/CoO、CoO/Coからなる群の中から選択されたレドックス対またはレドックス対の組と、一般式CexZr1-x2において0.05<x<0.95、好ましくは0.5<x<0.9であるセリア−ジルコニア混合酸化物(Ce/Zr)の少なくとも1種を含有する結合剤を用いて化学ループ燃焼法に用いる固形酸化還元物質を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の分野は、特に石油工業、ガラス工業およびセメント工業向けのエネルギー生産(生産用装置)、ガスタービン、ボイラーおよび炉に関する。
【0002】
本発明の分野は、電力、熱およびスチームの発生のためのこれらの手段の使用にも関する。
【0003】
本発明の分野は、より具体的には、固形レドックス物質(酸化還元反応用の固体物質:redox mass)と称される固形活性物質(active mass)のレドックス反応を用いることによって、1種の炭化水素または炭化水素混合物から熱ガスを生成し、かつ生成した二酸化炭素が捕捉できるようにこれを単離することを可能にする装置および方法にもおよぶ。
【0004】
世界的に電力需要が増加していることから、新規の火力発電所が建設され、かつ環境に悪影響のある二酸化炭素の排出量が増加している。したがって、二酸化炭素を隔離するという観点で、これを捕捉することが差し迫った必要事項となっている。
【0005】
二酸化炭素の捕捉に使用できる方法の1つは、燃焼反応を2つの逐次反応に分割するために固形活性物質を使用することである。固形活性物質と酸化剤として働く空気またはガスとの第1の反応は、酸化反応の発熱性の結果として、熱ガスを得ることを可能にし、その熱を後で使用できる。こうして酸化された固形活性物質の還元ガスによる第2の反応は、再使用可能な固形活性物質と共に二酸化炭素と水を本質的に含む混合ガスを得ることを可能にする。
【0006】
この方法の1つの利点は、酸素および窒素をほとんど含まない混合ガスから二酸化炭素を簡単に単離できることである。
【0007】
以後、本明細書において記載する化学ループ燃焼法(chemical looping combustion process)は、酸化状態から還元状態へ、次に還元状態から始めの(元の)酸化状態へと逐次に進む、固形活性物質と称する固形レドックス物質を使用する方法である。
【0008】
以後、この方法を、短縮してCLC(化学ループ燃焼)と呼び、固形活性物質上でのループレドックス法を指すこととする。
【0009】
本発明は、かかる化学ループ燃焼法による水素生成の分野にも適用される。この用途では、炭化水素または炭化水素混合物は、主として一酸化炭素と水素の形に変換される。
【0010】
化学ループ燃焼の全面的な説明は仏国特許出願にあり、回転式(rotary version)については第02−14071号、擬似回転式(simulated rotary version)については第04−08549号にある。この方法はまた、100ミクロン程度の固形活性物質粒子を用いる、循環床形態によって実施することもできることは指摘してよい。
【背景技術】
【0011】
米国特許第5447024号は、その中で固形活性物質の還元反応を還元性ガスによって行う第1の還元反応器と、湿り空気を用いる酸化反応によって固形活性物質を酸化状態に復帰させる第2の酸化反応器を含むCLC法を記載している。
【0012】
酸化形態から還元形態へ、およびその逆を、交互に行き来する固形活性物質は、レドックスサイクルに従う。一般的には、酸化および還元という用語は、それぞれ固形活性物質の酸化状態または還元状態に関連して使用されると言うことができる。酸化反応器は、その中で固形レドックス物質が酸化される反応器であり、還元反応器は、その中で固形レドックス物質が還元される反応器である。
【0013】
これら2つの反応器からの気体流出物は、好ましくは発電所のガスタービン中に送り込まれる。この特許に記載の方法では、二酸化炭素を窒素との関係から隔離することが可能となり、したがって二酸化炭素の捕捉が容易となる。
【0014】
前記の特許は、固形活性物質の酸化状態から還元状態への連続的な変化を可能にする循環床技術を使用している。
【0015】
したがって、還元反応器では、固形活性物質(Mxy)が、まず炭化水素CnmによってMxy-2n+m/2の状態に還元され、Cnmは使用される比率によって相まって酸化され、反応式(1)に従ってCO2とH2Oになるか、あるいはCO+H2混合物になる。
(1)Cnm+Mxy→nCO2+m/2H2O+Mxy-2n+m/2
酸化反応器では、固形活性物質が空気と接触すると反応式(2)に従って酸化状態(Mxy)に戻り、その後第1の反応器中に送り返される。
(2)Mxy-2n+m/2+(n+m/4)O2→Mxy
同特許は、固形活性物質として、レドックス対NiO/Niの単独または結合剤YSZ(イットリウムによって安定化されたジルコニアによって定義され、イットリア化ジルコニアとも呼ばれる)と合わせた使用を特許請求している。
【0016】
このような用途での結合剤の利点は、粒子の力学的強度を高めることであり、NiO/Ni単独では循環床で使用するには弱すぎる。
【0017】
イットリア化ジルコニアはさらに、使用温度においてO2-イオンに対するイオン伝導体であり、NiO/Ni/YSZ系の反応性は向上する。
【0018】
文献では、上に述べたイットリア化ジルコニア(YSZ)の他にも多くの種類の結合剤が、YSZよりも安いコストで粒子の力学的強度を高めるために研究されてきた。それらの例は、アルミナ、スピネル構造金属アルミン酸塩(metal aluminate spinels)、二酸化チタン、シリカ、ジルコニア、カオリンである。
【0019】
しかし、概して言えば、YSZは、前述のイオン伝導性の故に、依然として最も効率的と考えられている結合剤である。
【0020】
さらに、米国特許第6605264号では、セリア−ジルコニア型の混合酸化物が、酸素の貯蔵/放出をめざす自動車の燃焼後の用途において記載されており、それらも、イットリア化ジルコニウムと同様に、O2-イオンに対してイオン伝導体である。
【0021】
それらは一般には、貴金属の担体として使用され、三元触媒に対する排ガス中の酸素濃度の調節を可能にする。それらはまた、触媒担体としても、一般に他の酸化物と混合されて登場する。
【特許文献1】仏国特許出願第02−14071号明細書
【特許文献2】仏国特許出願第04−08549号明細書
【特許文献3】米国特許第6605264号明細書
【特許文献4】米国特許第5447024号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
したがって、本発明は、これらのセリア−ジルコニア型混合酸化物の、固形レドックス活性物質を使用する方法の分野における新規用途、すなわちそれらがO2の貯蔵−放出における酸化物捕捉部としても、また力学的強度を増す結合剤としても、両方の働きをする新規用途を構成し、この用途は循環床で使用する固形活性物質の場合に特に興味深いものである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明は特に化学ループ燃焼法向けの固形レドックス活性物質であって、前記固形物質が、一方では、CuO/Cu、Cu2O/Cu、NiO/Ni、Fe23/Fe34、FeO/Fe、Fe34/FeO、MnO2/Mn23、Mn23/Mn34、Mn34/MnO、MnO/Mn、Co34/CoO、CoO/Coからなる群の中から選択されたレドックス対またはレドックス対の組と、他方では、一般式CexZr1-x2において0.05<x<0.95、好ましくは0.5<x<0.9であるセリア−ジルコニア混合酸化物(Ce/Zr)の少なくとも1種を含有する結合剤を含むことを特徴とする固形レドックス活性物質に関する。
【0024】
固形レドックス物質は、粉末、球、押出成形物、またはモノリス型基材(monolith type substrate)上に堆積した薄め塗膜(堆積膜)の形態とし得る。
【0025】
固形レドックス物質中の結合剤の比率は、10重量%〜95重量%、好ましくは20重量%〜80重量%、より好ましくは30重量%〜70重量%の範囲でよい。
【0026】
結合剤としては、セリア−ジルコニア単独でも、あるいはアルミナ、スピネル型アルミナ(spinel type aluminates)、シリカ、酸化チタン、カオリン、YSZ、ペロブスカイトなど他の種類の結合剤の少なくとも1種と混合して使用することも可能である。
【0027】
本発明による固形レドックス物質は、そこに使用する結合剤が少なくとも一定の比率のセリア−ジルコニアを含有し、この比率は0.1〜1、好ましくは0.5〜1の範囲、すなわち結合剤中のセリア−ジルコニアの割合を10重量%〜100重量%、好ましくは50重量%〜100重量%とすることができることを特徴とする。
【0028】
したがって、本発明による新種の固形レドックス物質は、セリア−ジルコニアを含有する結合剤の使用、およびレドックス対がNiO/Ni、CuO/Cu、Fe23/Fe34、Mn34/MnO、CoO/Coからなるサブグループの中から選択することができることを特徴とする。
【0029】
本発明による固形レドックス物質中で使用される結合剤は、酸化反応器と還元反応器の間の酸素移送能力を少なくとも10%、好ましくは少なくとも15%高めることを可能にする。
【0030】
本発明による固形レドックス物質は、仏国特許出願第02−14071号明細書および第04−088549号明細書に記載の循環床用途、回転式反応器または模擬回転式反応器(simulated rotary reactor)の用途に従って使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明は、新規な種類の固形活性物質のCLC型法における使用に関する。これらの方法は、一般に、2つの異なる反応器を必要とし、一方の還元反応器と呼ばれる反応器では、炭化水素、より一般的には還元ガス(reducing gas)による固形活性物質の還元を行うのと相まってエネルギーを保有する高温流出物を生成させ、他方の酸化反応器と呼ばれる反応器では炭化水素の燃焼によって固形活性物質のその酸化状態への復帰を行い、通常はスチームと混合している生成したCO2を隔離する。
【0032】
固形レドックス活性物質は、CuO/Cu、Cu2O/Cu、NiO/Ni、Fe23/Fe34、FeO/Fe、Fe34/FeO、MnO2/Mn23、Mn23/Mn34、Mn34/MnO、MnO/Mn、Co34/CoO、CoO/Coからなる群の中から選択されたレドックス対(またはこのレドックス対を与える金属または金属酸化物)と呼ばれる第1の要素、ならびにセリア−ジルコニア混合酸化物および好ましくはセリア−ジルコニア固溶体の少なくとも1種を、場合によっては他の種類の結合剤と混合されて含む、本発明の範囲内で結合剤と呼ばれる第2の要素で構成される。
【0033】
第1の要素は、前記の群の金属酸化物のいかなる混合物からなるものでもよい。すなわち、上記のレドックス対(またはこのレドックス対を与える金属または金属酸化物)の1以上を用いることができる。固形レドックス物質中の結合剤の比率は10重量%〜95重量%、好ましくは20重量%〜80重量%、より好ましくは30重量%〜70重量%の範囲である。
【0034】
還元反応器は、通常500℃〜1000℃の範囲の温度で操作し、金属酸化物は炭化水素によって反応(1)に従って還元され、セリア−ジルコニア固溶体は反応(3)に従って反応する。
【0035】
(3)2CeO2+CnHm→Ce23+xCO2+yH2
YSZ結合剤と比較して、本発明の結合剤は、等量の金属酸化物を含みながら、より多くの酸素を酸化反応器から還元反応器へ運ぶ。
【実施例1】
【0036】
比較例
この例では、先行技術による固形レドックス物質と本発明による固形レドックス物質の性能を比較する。
【0037】
先行技術による固形レドックス物質は、以下のように調製されたイットリア化ジルコニアを結合剤として使用する酸化ニッケルNiOである。
【0038】
Ni(NO32、Y(NO33およびZrO(NO32を水溶液中で混合し、次にこの混合物を周囲温度で25%アンモニア溶液に加える。12時間撹拌後、混合物をろ過し、乾燥し、次に600℃で2時間か焼して、NiO35質量%、ならびにジルコニア84質量%およびイットリア16質量%を含有する(すなわちジルコニアの9モル%がY23にイットリア化された)イットリウム安定化ジルコニア固溶体(X線回折により確認)を含む材料を得る。
【0039】
本発明による固形レドックス物質は、同じ金属酸化物NiOと共に、結合剤としては以下のように調製されたセリア−ジルコニア固溶体を使用する。
【0040】
Ni(NO32、Ce(NO33およびZrO(NO32を水溶液中で混合し、次にこの混合物を周囲温度で25%アンモニア溶液に加える。12時間撹拌後、混合物をろ過し、乾燥し、次に600℃、空気流中で2時間か焼して、NiO27質量%、ならびにセリア69質量%およびジルコニア31質量%を含有するセリア−ジルコニア固溶体(X線回折により確認)を含む材料を得る。
【0041】
これら2つの固形レドックス物質を、電気加熱炉中に入れた石英反応器中の固定床で試験した。この固定床は、シリコンカーバイド5g中に均一に分散させた固形レドックス物質125mgを含む。シリコンカーバイドは、関係する反応に対しては不活性であり、その機能は試験反応器内の固形レドックス物質を希釈することだけである。
【0042】
メタンのパルス(CH45%に含有窒素50Nl/h)の次に酸素パルスを120秒の一定時間間隔で繰り返し注入することによって還元/酸化サイクルをシミュレートした。酸化および還元の温度は850℃である。
【0043】
この比較試験に使用した固形レドックス物質粒子のサイズは、40〜100ミクロンの範囲であり、平均サイズは70ミクロンである。
【0044】
唯一の図(図1)は、使用した粒子の質量との関係において粒子の還元中に放出された酸素当量数(縦座標)をレドックスサイクルの回数(横座標)の関数として示す。
【0045】
2の当量数(amount of O2 equivalent)は反応中に生成したCO2,COおよびH2Oの量から計算する。すなわち1モルのCO2は消費されたO21モルに対応し、1モルのCOは消費されたO21/2モルに対応し、1モルのH2Oは消費されたO21/2モルに対応する。上記の当量性に基づいて燃焼流出物の分析から得られるCO2やO2の質量はレドックス粒子の質量に関連する。
【0046】
本発明による固形レドックス物質中のNiOの比率が大幅に低い(本発明による粒子については27%、先行技術による粒子については35%)にもかかわらず、本発明の固形レドックス物質によって与えられる酸素の量は、先行技術による固形レドックス物質を用いて得られる量よりも多い。
【0047】
したがって、セリア−ジルコニアは、酸化反応器での酸素貯蔵目的および還元反応器での酸素放出目的を満たす。
【0048】
本発明による固形レドックス物質(セリア−ジルコニア)の酸素移送能力は、先行技術による固形レドックス物質(イットリア化ジルコニア)の酸素移送能力よりも15%高い。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】酸化還元サイクル数に対するO2当量の質量%による酸素移動を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方では、CuO/Cu、Cu2O/Cu、NiO/Ni、Fe23/Fe34、FeO/Fe、Fe34/FeO、MnO2/Mn23、Mn23/Mn34、Mn34/MnO、MnO/Mn、Co34/CoO、CoO/Coからなる群の中から選択されたレドックス対またはレドックス対の組と、他方では、一般式CexZr1-x2において0.05<x<0.95、好ましくは0.5<x<0.9であるセリア−ジルコニア混合酸化物(Ce/Zr)の少なくとも1種を含有する結合剤とを含むことを特徴とする、化学ループ燃焼法向けの固形レドックス物質。
【請求項2】
前記固形レドックス物質中の結合剤の比率が、10重量%〜95重量%、好ましくは20重量%〜80重量%、より好ましくは30重量%〜70重量%の範囲である請求項1に記載の固形レドックス物質。
【請求項3】
レドックス対またはレドックス対の組が、NiO/Ni、CuO/Cu、Fe23/Fe34、Mn34/MnO、CoO/Coからなる小群の中から選択される、請求項1または2に記載の固形レドックス物質。
【請求項4】
結合剤が、酸化反応器と還元反応器の間の酸素移送能力を少なくとも10%、好ましくは少なくとも15%高めることを可能にする、請求項1から3のいずれか一項に記載の固形レドックス物質。
【請求項5】
結合剤中のセリア−ジルコニアの比率が、0.1〜1、好ましくは0.5〜1の範囲であり、結合剤の他の成分はアルミナ、アルミン酸塩、YSZおよびペロブスカイトからなる群から選択される請求項1から4のいずれか一項に記載の固形レドックス物質。
【請求項6】
粉末、球、押出成形物、またはモノリス型基材上に堆積した薄め塗膜からなることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の固形レドックス物質。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の固形レドックス物質の、いずれも循環床を用いて操作される酸化反応器および還元反応器を使用するレドックス法への適用。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項に記載の固形レドックス物質の、回転式反応器を使用するレドックス法への適用。
【請求項9】
請求項1から6のいずれか一項に記載の固形レドックス物質の、擬似回転式反応器を使用するレドックス法への適用。

【図1】
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【公開番号】特開2007−39327(P2007−39327A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−208545(P2006−208545)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(591007826)アンスティテュ フランセ デュ ペトロール (261)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT FRANCAIS DU PETROL
【Fターム(参考)】