説明

化学反応遷移状態探索システムとその方法とそのプログラム

【課題】合成しようとする反応生成物の分子構造が複雑になっても完全に目的TSを得ることが可能な化学反応遷移状態探索システムとその方法とそのプログラムを提供することである。
【解決手段】化学反応において目的とする遷移状態の化学的構造(以下、遷移状態の化学的構造を遷移状態構造又はTSといい、目的とする遷移状態構造を目的遷移状態構造又は目的TSという。)を求めるために、入力装置2と、演算処理装置3と、記憶装置5と、を有する化学反応遷移状態探索システム1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物を合成するための化学反応途中の遷移状態を探索するため化学反応遷移状態探索システムとその方法とそのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
有用な機能や反応性を持つ新たな分子を創製するにあたっては、それに先立ち合理的な分子設計や反応設計を行うことが重要である。反応設計を行う際には、一般的には、複数の合成経路から得られる利益の多少によって最適な経路を選択するが、その利益に係る最も大きな問題は、反応の容易さである。
この合成経路における反応の容易さ判断するためには、含まれる遷移状態を探索し、活性化エネルギーを評価することが最も単純かつ効果的な方法であるが、実際に遷移状態を探索することは分子構造が複雑化すればするほど困難となり、医薬品などの新規化合物の創製に対する高いハードルとなっていた。
【0003】
図25を参照しながら、遷移状態の探索方法に関する従来の技術について説明する。
図25の(a)は初期構造(IG)から遷移状態構造の候補構造(CG)を経て遷移状態構造(TS)を算出するまでの一般的な流れを示すフロー図であり、(b)は計算(予備)を用いてIGから目的TS(予備)を解析し、さらに、最適化計算を経て目的TSを求める流れを示すフロー図であり、(c)はIGから目的TSではなく、一旦中途TSを解析しておき、その後に目的TSを解析して求める流れを示すフロー図である。なお、計算(予備)、目的TS、中途TSについては、後述する。なお、本願においては、TSの後に(予備)とあるものは、計算(予備)の結果得られたTSという意味であり、後述する「単なる計算」によって得られた場合の単なるTSとして区別している。
図25において、(b)と(c)はそれぞれ(a)のCGとして、目的TS(予備)と中途TSを採用する場合を示している。図25において、まず、目的とする遷移状態構造(TS)を得るためには、遷移状態を求めるための計算を行う出発点となる構造を作成する必要がある(図25(a)左側)。これは一般的には初期構造(IG)と呼ばれ、このIGはしばしば、反応の反応物の構造と、生成物の構造の中間点の構造として作成する。
【0004】
遷移状態を求めるには、その遷移状態付近の構造が必ず必要となる。ここでこの遷移状態付近の構造を図25(a)の中央に示すとおり遷移状態構造の候補構造としてCGと呼ぶ。IGの作成後は、このCGを探索するための計算を行う。これをCG探索計算と呼ぶ。CG探索計算にはいくつかの計算手法が取られるが、例えば、ミニマムエネルギーパス法、SADDLE法、等高線図法などがある。ここでミニマムエネルギーパス法は、IGを基に、反応部位付近の構造を段階的に変化させた構造を発生させ、その構造のエネルギーを計算しながら、CGを探索する計算である。
CGが探索できたらその構造を基に、遷移状態構造(TS)を求めるために、TS最適化計算を行う(図25(a)右側)。これを行うことによりTSを求めることができる。尚、TSが求まったか否かは、機械的には、TSの振動解析を行うことで確認できる。虚の振動数を持つ基準振動が唯一存在すればTSである。
これらの遷移状態を求めるための解析は、量子化学計算によって行われるが、主として、
(1)半経験的分子軌道計算
(2)非経験的分子軌道計算
(3)密度汎関数理論計算
の3種類の計算方法を用いている。
【0005】
また、これらの計算方法は、単なる計算(精度の高い計算)と予備の計算(これを計算(予備)という。)の2通りがある。計算(予備)は、精度が単なる計算よりも低い計算を意味し、一般的には単なる計算よりも計算時間は短い。精度が低いというのは、計算結果と実測値との誤差が大きいことを意味し、精度が高いというのは、計算結果と実測値との誤差が小さいということを意味している。
上記の(1)〜(3)の計算のうち、半経験的分子軌道計算(AM1,PM3法など)やレベルの低い非経験的分子軌道計算(HF/STO−3G,HF/3−21Gなど)が精度の低い計算(予備)であり、密度汎関数理論計算(B3LYP/6−31G*,B3PW91/cc−cpVQZ)や、レベルの高い非経験的分子起動計算(MP2/6−311+G**,CASSCF/aug−cc−pVQZ)が精度の高い計算として用いられる。なお、本願では、レベルの高い非経験的分子起動計算とは、計算レベルがHF/6−31G以上の高精度の計算であり、レベルの低い経験的分子起動計算とは、計算レベルがHF/3−21Gを越えない低精度の計算をいう。
【0006】
図25(b)に示されるとおり、求めたいTS(目的TS)を求める際に、その計算時間を短縮するには、まず計算(予備)、つまり、CG探索計算(予備)及びTS最適化計算(予備)を行い、計算(予備)による目的TS(予備)を求める。但し、目的TS(予備)は精度が低いため、さらに精度を高くするためにTS最適化計算を行い、目的TSを求める。
一般に、目的TSはその分子構造が複雑になればなるほど、求めるのが困難となり、通常の方法では求まらないことも多々ある。そのような場合に対処するための従来法として、図25(c)に示すとおり、中途TSを経て目的TSを求める方法がある。この方法を用いると、CG探索計算及びTS最適化計算を行い、中途TSを経て、これに置換基を付加し目的TSを得ることができる。
【0007】
次に、図26乃至図28を参照しながら、具体的に遷移状態構造を解析する方法について説明を加える。
図26は最も基本的な遷移状態の探索方法の従来技術を示すフロー図である。
図26において、ステップT1では、目的TSのIGを作成し、ステップT2ではIGを用いて、CGを求めるCG探索計算を実施する。このCG探索計算では、高精度の量子化学計算が実施される。さらに、その後ステップT3では、ステップT2で得られたCGを用いて、TS最適化計算を実施して目的TSを求める。ステップT4では、ステップT3で実行された計算で目的TSが求められたか否かを判断し、求められた場合には、ステップT5として目的TSを得て、求められていない場合には、解析を終了するというものである。
【0008】
次に、図27は図26に示される従来技術に比較して、計算時間を短縮するために、計算(予備)を用いる遷移状態の探索方法の従来技術を示すフロー図であり、図25(b)に示される方法をフロー図にまとめたものである。
図27において、計算(予備)を利用するため、ステップU1では目的TS(予備)を目指して、そのためのIGの作成を行う。その後、ステップU2において目的TS(予備)を求めるためのCG探索計算(予備)を実行し、CGが探索された後に、ステップU3でTS最適化計算(予備)を行い、ステップU4で目的TS(予備)が求まったかの判断を行い、目的TS(予備)を得る。ステップU4で目的TS(予備)が得られなかった場合は、解析は終了し目的TSも得られない。ステップU4において目的TS(予備)が得られた場合は、ステップU5でその構造を基にしてTS最適化計算を行い、ステップU6で目的TSが求まったかの判断を行い、ステップU7で目的TSを得る。しかし、ステップU6で目的TSが得られない場合もあり、その場合には解析を終了する。
図27に示す解析では、はじめに目的TS(予備)を求めるべく計算(予備)を採用するので計算時間が短縮されるという効果がある。しかし、その一方で複雑な分子構造を備えた反応生成物の目的TSは得られない場合が多いという課題があった。
【0009】
そこで、図28に示される従来技術は、複雑な分子構造を備えた反応生成物の目的TSを得るために開発された方法である。この従来技術では、計算(予備)を採用して中途TS(予備)を求めて、この中途TS(予備)を経由して目的TS(予備)を求め、さらに目的TSを求めるという方法を採っている。中途TSとは、目的TSの骨格構造(目的TSの構造の基礎となる部分で、置換基を除去して簡略化した構造をいう。)を保ったまま、目的TSの構造を簡素化した分子構造を備えたものである。
図28において、ステップV1では中途TSを求めることを目指し、まず、中途TS(予備)を求めるためのIGの作成を行う。その後、CG探索計算(予備)及び、TS最適化計算(予備)を行い(ステップV2,3)、中途TS(予備)が求まったかの判断をステップV4で行い、中途TS(予備)を得る(ステップV5)。
その後、中途TS(予備)が目的TS(予備)と同じ構造か否かを確認し(ステップV6)、構造が足りない場合には適当な置換基をその構造に付加し(ステップV7)、付加した置換基部位のみの構造最適化計算(予備)を行う(ステップV8)。
その後ステップV3に戻り、先程と同様にTS最適化計算(予備)を行う。中途TS(予備)と目的TS(予備)の構造が同じとなった場合は、予備ではないTS最適化計算を行い(ステップV9)、目的TSが求まったかの判断を行い(ステップV10)、目的TSを得る(ステップV11)。ステップV10で目的TSが求まらなかった場合には、解析を終了する。
本従来技術では、中途TS(予備)を介することである程度複雑な分子構造を持つものであっても、目的TSを求めることが可能となった。しかし、分子構造が複雑になればなるほど、この目的TSのTS最適化計算部分で目的TSを求めることが困難となり、求まらない場合も多々発生する可能性が残っていた。
なお、本従来技術については、非特許文献1,2にも紹介されている。
【非特許文献1】堀 憲次、山崎 鈴子、「計算化学実験」、丸善(1998)P33〜P49 P115〜P117
【非特許文献2】堀 憲次、山崎 鈴子、「情報化学・計算化学実験」、丸善(2006)P93〜P105
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで、本発明は、合成しようとする反応生成物の分子構造が複雑になってもほぼ完全に目的TSを得ることが可能な化学反応遷移状態探索システムとその方法とそのプログラムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明である化学反応遷移状態探索システムは、化学反応において目的とする遷移状態の化学的構造(以下、遷移状態の化学的構造を遷移状態構造又はTSといい、目的とする遷移状態構造を目的遷移状態構造又は目的TSという。)を求めるために、入力装置と、演算処理装置と、記憶装置と、を有する化学反応遷移状態探索システムであって、前記演算処理装置は、前記目的TSの前段階の中途遷移状態構造(以下、中途遷移状態構造を特に中途TSという。)の源構造の入力を受けて、この中途TS源構造から中途TSを求めるための出発点となる初期構造(以下、IGという。)を演算するIG作成部と、このIG作成部で作成されたIGから遷移状態付近の候補構造(以下、CGという。)を演算するCG探索計算部と、このCG探索計算部で演算されたCG又はこのCGから演算されたTSの源構造に対して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を演算することでTSを求め、得られたTSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真のTSであるかあるいはTSの源構造であるかを判断するTS最適化計算部と、前記TSの源構造の反応部位を固定する反応部位固定部と、前記TSの源構造に置換基を付加又は削除する置換基処理部と、前記TSの源構造を構成する分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を演算することで分子構造の最適化を演算する構造最適化計算部と、を備え、前記記憶装置は、前記IG,CG,TSの構造データ、反応部位データ及び置換基データを格納し、前記CG探索計算部、TS最適化計算部及び構造最適化計算部は、演算を行う関数モデルと、この関数モデルよりも低精度の演算を行う関数モデルのいずれも選択可能に備えるものである。
【0012】
また、請求項2記載の発明である化学反応遷移状態探索システムは、化学反応において目的とする遷移状態の化学的構造(以下、遷移状態の化学的構造を遷移状態構造又はTSといい、目的とする遷移状態構造を目的遷移状態構造又は目的TSという。)を求めるために、入力装置と、演算処理装置と、記憶装置と、を有する化学反応遷移状態探索システムであって、前記演算処理装置は、前記化学反応の生成物に関するデータの入力を受けて前記目的TSの前段階の中途遷移状態構造(以下、中途遷移状態構造を特に中途TSという。)の源構造を演算する中途TS設定部と、この中途TS設定部で設定された中途TS源構造から中途TSを求めるための出発点となる初期構造(以下、IGという。)を演算するIG作成部と、このIG作成部で作成されたIGから遷移状態付近の候補構造(以下、CGという。)を演算するCG探索計算部と、このCG探索計算部で演算されたCG又はこのCGから演算されたTSの源構造に対して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を演算することでTSを求め、得られたTSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真のTSであるかあるいはTSの源構造であるかを判断するTS最適化計算部と、前記TSの源構造の反応部位を固定する反応部位固定部と、前記TSの源構造に置換基を付加又は削除する置換基処理部と、前記TSの源構造を構成する分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を演算することで分子構造の最適化を演算する構造最適化計算部と、を備え、前記記憶装置は、前記IG,CG,TSの構造データ、反応部位データ及び置換基データを格納し、前記CG探索計算部、TS最適化計算部及び構造最適化計算部は、演算を行う関数モデルと、この関数モデルよりも低精度の演算を行う関数モデルのいずれも選択可能に備えるものである。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の化学反応遷移状態探索システムのTS最適化計算部において、真のTSであると判断されたTSに関する構造データを外部装置へ出力あるいは表示する出力装置を備えるものである。
【0014】
そして、請求項4に記載の発明は、化学反応において目的とする遷移状態の化学的構造(以下、遷移状態の化学的構造を遷移状態構造又はTSといい、目的とする遷移状態構造を目的遷移状態構造又は目的TSという。)を求めるための化学反応遷移状態探索方法であって、前記目的TSの前段階の中途遷移状態構造(以下、中途遷移状態構造を特に中途TSという。)の源構造から分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算して中途TS(以下、計算(予備)によって得られた中途TSを中途TS(予備)という。)を得て、この中途TS(予備)に対して置換基を付加して目的TS(予備)とした後、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して目的TSを得ることを特徴とすると共に、前記目的TSが得られない場合には前記中途TS(予備)から分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して中途TSを得て、この中途TSに対して置換基を付加して分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して目的TSを得るものである。
【0015】
そして、請求項5に記載の発明は、化学反応において目的とする遷移状態の化学的構造(以下、遷移状態の化学的構造を遷移状態構造又はTSといい、目的とする遷移状態構造を目的遷移状態構造又は目的TSという。)を求めるための化学反応遷移状態探索方法であって、前記目的TSの前段階の中途遷移状態構造(以下、中途遷移状態構造を特に中途TSという。)の源構造を演算し、この中途TSの源構造から分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算して中途TS(以下、計算(予備)によって得られた中途TSを中途TS(予備)という。)を得て、この中途TS(予備)に対して置換基を付加して目的TS(予備)とした後、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して目的TSを得ることを特徴とすると共に、前記目的TSが得られない場合には前記中途TS(予備)から分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して中途TSを得て、この中途TSに対して置換基を付加して分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して目的TSを得るものである。
【0016】
さらに、請求項6に記載の発明は、化学反応において目的とする遷移状態の化学的構造(以下、遷移状態の化学的構造を遷移状態構造又はTSといい、目的とする遷移状態構造を目的遷移状態構造又は目的TSという。)を求めるための化学反応遷移状態探索方法であって、前記目的TSの前段階の中途遷移状態構造(以下、中途遷移状態構造を特に中途TSという。)の源構造の入力を受けて、この中途TS源構造から中途TSを求めるための出発点となる初期構造(以下、IGという。)を演算するIG作成工程(S1)と、このIG作成工程で作成されたIGから遷移状態付近の候補構造(以下、CGという。)を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によってCG(以下、計算(予備)によって得られたCGをCG(予備)という。)を演算するCG探索計算工程(S2)と、このCG探索計算工程で演算されたCG(予備)に対して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算して中途TS(以下、計算(予備)によって得られた中途TSを中途TS(予備)という。)を得る中途TS(予備)最適化計算工程(S3)と、得られた中途TS(予備)に対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の中途TS(予備)であるかあるいは中途TS(予備)の源構造であるかを判断する中途TS(予備)判断工程(S4)と、この中途TS(予備)判断工程において中途TS(予備)であると判断された場合に得られた中途TS(予備)を記憶装置へ読み出し可能に書き込む書込み工程(S5)と、前記中途TS(予備)が目的TS(予備)の源構造に一致しているか否かを判断する目的TS(予備)判断工程(S6)と、前記中途TS(予備)が目的TS(予備)の源構造に一致している場合に、この目的TS(予備)の反応部位を固定して、前記目的TS(予備)を構成する分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算することで分子構造の最適化を演算する目的TS(予備)構造最適化計算工程(S9)と、前記分子構造が最適化された目的TS(予備)の前記反応部位の固定を解除して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を前記計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して目的TSを得る目的TS最適化計算工程(S10)と、前記目的TS(予備)判断工程(S6)において、前記中途TS(予備)が目的TS(予備)の源構造に一致していない場合に、前記中途TS(予備)に置換基を付加する第1の置換基付加工程(S7)と、この付加された置換基部位のみに対して分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算することで置換基の分子構造の最適化を演算した後に、これを新たな中途TS(予備)として、前記中途TS(予備)最適化計算工程(S3)へ編入させる第1の置換基構造最適化計算工程(S8)と、を有し、前記目的TS最適化計算工程(S10)において得られた目的TSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の目的TSであるかあるいは目的TSの源構造であるかを判断する第1の目的TS判断工程(S11)と、この第1の目的TS判断工程(S11)において目的TSの源構造であると判断された場合に、前記書込み工程(S5)において記憶装置に書き込まれた前記中途TS(予備)を読み出して(S13)、この中途TS(予備)の反応部位を固定して、前記中途TS(予備)を構成する分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算することで分子構造の最適化を演算する中途TS構造最適化計算工程(S14)と、前記分子構造が最適化された中途TSの前記反応部位の固定を解除して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して中途TSを得る第1の中途TS最適化計算工程(S15)と、得られた中途TSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の中途TSであるかあるいは中途TSの源構造であるかを判断し、中途TSの源構造であると判断された場合に、前記記憶装置に書き込まれた前記中途TS(予備)の前に書き込まれた中途TS(予備)を読み出す工程(S13)に編入する第1の中途TS判断工程(S16)と、前記第1の中途TS判断工程(S16)において、真の中途TSであると判断された場合(S17)に、中途TSが目的TSに一致しているか否かを判断する第2の目的TS判断工程(S18)と、この第2の目的TS判断工程(S18)において、前記中途TSが目的TSに一致していない場合に、前記中途TSに置換基を付加する第2の置換基付加工程(S19)と、この付加された置換基部位のみに対して分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算することで置換基の分子構造の最適化を演算する第2の置換基構造最適化計算工程(S20)と、この第2の置換基構造最適化計算工程において最適化された中途TSを新たな中途TSとして、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して中途TSを得る第2の中途TS最適化計算工程(S21)と、前記第2の中途TS最適化計算工程(S21)において得られた中途TSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の中途TSであるかあるいは中途TSの源構造であるかを判断し、真の中途TSであると判断された場合に、前記第2の目的TS判断工程(S18)へ編入させる第2の中途TS判断工程(S22)と、を有するものである。
【0017】
また、請求項7に記載の発明は、化学反応において目的とする遷移状態の化学的構造(以下、遷移状態の化学的構造を遷移状態構造又はTSといい、目的とする遷移状態構造を目的遷移状態構造又は目的TSという。)を求めるための化学反応遷移状態探索方法であって、前記目的TSの前段階の中途遷移状態構造(以下、中途遷移状態構造を特に中途TSという。)の源構造を演算する中途TS設定工程(S0)と、この中途TS設定工程(S0)で設定された中途TS源構造から中途TSを求めるための出発点となる初期構造(以下、IGという。)を演算するIG作成工程(S1)と、このIG作成工程で作成されたIGから遷移状態付近の候補構造(以下、CGという。)を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によってCG(以下、計算(予備)によって得られたCGをCG(予備)という。)を演算するCG探索計算工程(S2)と、このCG探索計算工程で演算されたCG(予備)に対して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算して中途TS(以下、計算(予備)によって得られた中途TSを中途TS(予備)という。)を得る中途TS(予備)最適化計算工程(S3)と、得られた中途TS(予備)に対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の中途TS(予備)であるかあるいは中途TS(予備)の源構造であるかを判断する中途TS(予備)判断工程(S4)と、この中途TS(予備)判断工程において中途TS(予備)であると判断された場合に得られた中途TS(予備)を記憶装置へ読み出し可能に書き込む書込み工程(S5)と、前記中途TS(予備)が目的TS(予備)の源構造に一致しているか否かを判断する目的TS(予備)判断工程(S6)と、前記中途TS(予備)が目的TS(予備)の源構造に一致している場合に、この目的TS(予備)の反応部位を固定して、前記目的TS(予備)を構成する分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算することで分子構造の最適化を演算する目的TS(予備)構造最適化計算工程(S9)と、前記分子構造が最適化された目的TS(予備)の前記反応部位の固定を解除して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を前記計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して目的TSを得る目的TS最適化計算工程(S10)と、前記目的TS(予備)判断工程(S6)において、前記中途TS(予備)が目的TS(予備)の源構造に一致していない場合に、前記中途TS(予備)に置換基を付加する第1の置換基付加工程(S7)と、この付加された置換基部位のみに対して分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算することで置換基の分子構造の最適化を演算した後に、これを新たな中途TS(予備)として、前記中途TS(予備)最適化計算工程(S3)へ編入させる第1の置換基構造最適化計算工程(S8)と、を有し、前記目的TS最適化計算工程(S10)において得られた目的TSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の目的TSであるかあるいは目的TSの源構造であるかを判断する第1の目的TS判断工程(S11)と、この第1の目的TS判断工程(S11)において目的TSの源構造であると判断された場合に、前記書込み工程(S5)において記憶装置に書き込まれた前記中途TS(予備)を読み出して(S13)、この中途TS(予備)の反応部位を固定して、前記中途TS(予備)を構成する分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算することで分子構造の最適化を演算する中途TS構造最適化計算工程(S14)と、前記分子構造が最適化された中途TSの前記反応部位の固定を解除して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して中途TSを得る第1の中途TS最適化計算工程(S15)と、得られた中途TSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の中途TSであるかあるいは中途TSの源構造であるかを判断し、中途TSの源構造であると判断された場合に、前記記憶装置に書き込まれた前記中途TS(予備)の前に書き込まれた中途TS(予備)を読み出す工程(S13)に編入する第1の中途TS判断工程(S16)と、前記第1の中途TS判断工程(S16)において、真の中途TSであると判断された場合(S17)に、中途TSが目的TSに一致しているか否かを判断する第2の目的TS判断工程(S18)と、この第2の目的TS判断工程(S18)において、前記中途TSが目的TSに一致していない場合に、前記中途TSに置換基を付加する第2の置換基付加工程(S19)と、この付加された置換基部位のみに対して分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算することで置換基の分子構造の最適化を演算する第2の置換基構造最適化計算工程(S20)と、この第2の置換基構造最適化計算工程において最適化された中途TSを新たな中途TSとして、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して中途TSを得る第2の中途TS最適化計算工程(S21)と、前記第2の中途TS最適化計算工程(S21)において得られた中途TSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の中途TSであるかあるいは中途TSの源構造であるかを判断し、真の中途TSであると判断された場合に、前記第2の目的TS判断工程(S18)へ編入させる第2の中途TS判断工程(S22)と、を有するものである。
【0018】
請求項8に記載の発明は、コンピュータによって、化学反応において目的とする遷移状態の化学的構造(以下、遷移状態の化学的構造を遷移状態構造又はTSといい、目的とする遷移状態構造を目的遷移状態構造又は目的TSという。)を求めるために実行される化学反応遷移状態探索プログラムであって、コンピュータに、前記目的TSの前段階の中途遷移状態構造(以下、中途遷移状態構造を特に中途TSという。)の源構造の入力を受けて、この中途TS源構造から中途TSを求めるための出発点となる初期構造(以下、IGという。)を演算するIG作成工程(S1)と、このIG作成工程で作成されたIGから遷移状態付近の候補構造(以下、CGという。)を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によってCG(以下、計算(予備)によって得られたCGをCG(予備)という。)を演算するCG探索計算工程(S2)と、このCG探索計算工程で演算されたCG(予備)に対して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算して中途TS(以下、計算(予備)によって得られた中途TSを中途TS(予備)という。)を得る中途TS(予備)最適化計算工程(S3)と、得られた中途TS(予備)に対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の中途TS(予備)であるかあるいは中途TS(予備)の源構造であるかを判断する中途TS(予備)判断工程(S4)と、この中途TS(予備)判断工程において中途TS(予備)であると判断された場合に得られた中途TS(予備)を記憶装置へ読み出し可能に書き込む書込み工程(S5)と、前記中途TS(予備)が目的TS(予備)の源構造に一致しているか否かを判断する目的TS(予備)判断工程(S6)と、前記中途TS(予備)が目的TS(予備)の源構造に一致している場合に、この目的TS(予備)の反応部位を固定して、前記目的TS(予備)を構成する分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算することで分子構造の最適化を演算する目的TS(予備)構造最適化計算工程(S9)と、前記分子構造が最適化された目的TS(予備)の前記反応部位の固定を解除して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を前記計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して目的TSを得る目的TS最適化計算工程(S10)と、前記目的TS(予備)判断工程(S6)において、前記中途TS(予備)が目的TS(予備)の源構造に一致していない場合に、前記中途TS(予備)に置換基を付加する第1の置換基付加工程(S7)と、この付加された置換基部位のみに対して分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算することで置換基の分子構造の最適化を演算した後に、これを新たな中途TS(予備)として、前記中途TS(予備)最適化計算工程(S3)へ編入させる第1の置換基構造最適化計算工程(S8)と、を有し、前記目的TS最適化計算工程(S10)において得られた目的TSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の目的TSであるかあるいは目的TSの源構造であるかを判断する第1の目的TS判断工程(S11)と、この第1の目的TS判断工程(S11)において目的TSの源構造であると判断された場合に、前記書込み工程(S5)において記憶装置に書き込まれた前記中途TS(予備)を読み出して(S13)、この中途TS(予備)の反応部位を固定して、前記中途TS(予備)を構成する分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算することで分子構造の最適化を演算する中途TS構造最適化計算工程(S14)と、前記分子構造が最適化された中途TSの前記反応部位の固定を解除して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して中途TSを得る第1の中途TS最適化計算工程(S15)と、得られた中途TSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の中途TSであるかあるいは中途TSの源構造であるかを判断し、中途TSの源構造であると判断された場合に、前記記憶装置に書き込まれた前記中途TS(予備)の前に書き込まれた中途TS(予備)を読み出す工程(S13)に編入する第1の中途TS判断工程(S16)と、前記第1の中途TS判断工程(S16)において、真の中途TSであると判断された場合(S17)に、中途TSが目的TSに一致しているか否かを判断する第2の目的TS判断工程(S18)と、この第2の目的TS判断工程(S18)において、前記中途TSが目的TSに一致していない場合に、前記中途TSに置換基を付加する第2の置換基付加工程(S19)と、この付加された置換基部位のみに対して分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算することで置換基の分子構造の最適化を演算する第2の置換基構造最適化計算工程(S20)と、この第2の置換基構造最適化計算工程において最適化された中途TSを新たな中途TSとして、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して中途TSを得る第2の中途TS最適化計算工程(S21)と、前記第2の中途TS最適化計算工程(S21)において得られた中途TSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の中途TSであるかあるいは中途TSの源構造であるかを判断し、真の中途TSであると判断された場合に、前記第2の目的TS判断工程(S18)へ編入させる第2の中途TS判断工程(S22)と、を実行させるものである。
【0019】
請求項9に記載の発明は、コンピュータによって、化学反応において目的とする遷移状態の化学的構造(以下、遷移状態の化学的構造を遷移状態構造又はTSといい、目的とする遷移状態構造を目的遷移状態構造又は目的TSという。)を求めるために実行される化学反応遷移状態探索プログラムであって、コンピュータに、前記目的TSの前段階の中途遷移状態構造(以下、中途遷移状態構造を特に中途TSという。)の源構造を演算する中途TS設定工程(S0)と、この中途TS設定工程(S0)で設定された中途TS源構造から中途TSを求めるための出発点となる初期構造(以下、IGという。)を演算するIG作成工程(S1)と、このIG作成工程で作成されたIGから遷移状態付近の候補構造(以下、CGという。)を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によってCG(以下、計算(予備)によって得られたCGをCG(予備)という。)を演算するCG探索計算工程(S2)と、このCG探索計算工程で演算されたCG(予備)に対して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算して中途TS(以下、計算(予備)によって得られた中途TSを中途TS(予備)という。)を得る中途TS(予備)最適化計算工程(S3)と、得られた中途TS(予備)に対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の中途TS(予備)であるかあるいは中途TS(予備)の源構造であるかを判断する中途TS(予備)判断工程(S4)と、この中途TS(予備)判断工程において中途TS(予備)であると判断された場合に得られた中途TS(予備)を記憶装置へ読み出し可能に書き込む書込み工程(S5)と、前記中途TS(予備)が目的TS(予備)の源構造に一致しているか否かを判断する目的TS(予備)判断工程(S6)と、前記中途TS(予備)が目的TS(予備)の源構造に一致している場合に、この目的TS(予備)の反応部位を固定して、前記目的TS(予備)を構成する分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算することで分子構造の最適化を演算する目的TS(予備)構造最適化計算工程(S9)と、前記分子構造が最適化された目的TS(予備)の前記反応部位の固定を解除して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を前記計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して目的TSを得る目的TS最適化計算工程(S10)と、前記目的TS(予備)判断工程(S6)において、前記中途TS(予備)が目的TS(予備)の源構造に一致していない場合に、前記中途TS(予備)に置換基を付加する第1の置換基付加工程(S7)と、この付加された置換基部位のみに対して分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算することで置換基の分子構造の最適化を演算した後に、これを新たな中途TS(予備)として、前記中途TS(予備)最適化計算工程(S3)へ編入させる第1の置換基構造最適化計算工程(S8)と、を有し、前記目的TS最適化計算工程(S10)において得られた目的TSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の目的TSであるかあるいは目的TSの源構造であるかを判断する第1の目的TS判断工程(S11)と、この第1の目的TS判断工程(S11)において目的TSの源構造であると判断された場合に、前記書込み工程(S5)において記憶装置に書き込まれた前記中途TS(予備)を読み出して(S13)、この中途TS(予備)の反応部位を固定して、前記中途TS(予備)を構成する分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算することで分子構造の最適化を演算する中途TS構造最適化計算工程(S14)と、前記分子構造が最適化された中途TSの前記反応部位の固定を解除して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して中途TSを得る第1の中途TS最適化計算工程(S15)と、得られた中途TSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の中途TSであるかあるいは中途TSの源構造であるかを判断し、中途TSの源構造であると判断された場合に、前記記憶装置に書き込まれた前記中途TS(予備)の前に書き込まれた中途TS(予備)を読み出す工程(S13)に編入する第1の中途TS判断工程(S16)と、前記第1の中途TS判断工程(S16)において、真の中途TSであると判断された場合(S17)に、中途TSが目的TSに一致しているか否かを判断する第2の目的TS判断工程(S18)と、この第2の目的TS判断工程(S18)において、前記中途TSが目的TSに一致していない場合に、前記中途TSに置換基を付加する第2の置換基付加工程(S19)と、この付加された置換基部位のみに対して分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算することで置換基の分子構造の最適化を演算する第2の置換基構造最適化計算工程(S20)と、この第2の置換基構造最適化計算工程において最適化された中途TSを新たな中途TSとして、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して中途TSを得る第2の中途TS最適化計算工程(S21)と、前記第2の中途TS最適化計算工程(S21)において得られた中途TSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の中途TSであるかあるいは中途TSの源構造であるかを判断し、真の中途TSであると判断された場合に、前記第2の目的TS判断工程(S18)へ編入させる第2の中途TS判断工程(S22)と、を実行させるものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明においては、精度の低い計算(予備)を用いながら、目的TSのよりも前段階である中途TS(予備)を求めることで、まず中途TSまでの計算時間を短縮化することが可能である。また、この中途TS(予備)から置換基を追加するなどしながら、精度の低い計算(予備)を用いて目的TS(予備)を求め、目的TS(予備)が求まってはじめて精度の高い計算を行って目的TSを求めるので、ここでも計算時間を短縮化することが可能である。
さらに、目的TS(予備)から精度の高い計算を行って目的TSが求められなかった場合には、一旦中途TS(予備)まで戻り、中途TS(予備)を用いて、精度の高い計算を実施して中途TSを求め、この中途TSに対して置換基などを追加しながら、精度の高い計算を用いて目的TSを求める。このように、目的TS(予備)まで求めた後に精度の高い計算を用いて目的TSが得られなかった場合に、最初から計算を行うのでは計算時間の短縮が図れないので、中途TS(予備)まで戻り、これから、今度は目的TS(予備)ではなく、精度の高い計算を行うことで中途TSを求めるので、それまでの計算方法とは異なるアプローチ方法を実行することができ、目的TSをより高確率で求めることが可能である。
また、以上のことから、複雑な分子構造を備える反応生成物の遷移状態の構造であっても時間を短縮しながら、ほぼ確実に求めることが可能である。
さらに、特に請求項1乃至請求項3及び請求項6乃至請求項9に記載の発明においては、TS最適化に関する演算を実施する際に、まず、反応部位を固定して全エネルギーが極小となる構造の最適化を図った後、その反応部位の固定を解除した上で、全エネルギーが極大となるTSの最適化に関する演算を実施するので、演算を効率的かつ高精度に実行することが可能である。
特に、請求項2、請求項5、請求項7及び請求項9に記載の発明においては、生成物に関するデータを入力することで、中途TSの源構造を演算可能であるため、より容易に目的TSを求めることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明の最良の実施の形態に係る化学反応遷移状態探索システム、化学反応遷移状態探索方法及び化学反応遷移状態探索プログラムを図1乃至図24を参照しながら説明する。
図1は、本実施の形態に係る化学反応遷移状態探索システム1の構成図である。図1において、本実施の形態に係る化学反応遷移状態探索システム1は、入力装置2、演算処理装置3、出力装置4、記憶装置5から構成される。
まず、入力装置2より様々なデータが入力され、データは演算処理装置3において処理され、一時的な記憶及び恒常的な記憶を実現する記憶装置(データベース)5に格納される。格納されたデータも演算処理装置3の各部によって読み出されて処理される。演算処理装置3によって処理が行われた結果得られたデータは出力装置4により表示されたり、あるいは外部装置へ出力される。
入力装置2としては、具体的にはキーボード、マウス、ペンタブレット、光学式又は磁気式の読み取り装置あるいはコンピュータ等の解析装置や計測機器等から通信回線を介してデータを受信する受信装置など複数種類の装置のいずれか1つ又は組み合わせから構成されるものである。
演算処理装置3は、データ入力部6、IG作成部7、CG探索計算部8、TS構造最適化計算部9、反応部位固定部10、置換基付加部11、構造最適化計算部12、データ出力部13及び中途TS設定部14から構成されている。
また、記憶装置5は、計算モデル20、計算(予備)モデル21、振動解析関数モデル22、IGデータ25、CGデータ26、置換基データ27、反応部位データ28、中途TS(予備)履歴データ29、中途TSデータ30、目的TSデータ31を格納する記憶装置である。
出力装置4としては、具体的にはCRT、液晶、プラズマあるいは有機ELなどによるディスプレイ装置、あるいはプリンタ装置などの表示装置、さらには外部装置への伝送を行うためのトランスミッタなどの発信装置などが考えられる。
なお、データ入力部6は入力装置2とのインターフェースとして機能するものであり、データ出力部13は出力装置4とのインターフェースとして機能するものである。
出力装置4は、記憶装置5に格納される計算モデル20、計算(予備)モデル21、振動解析関数モデル22に関するデータ及び、IGデータ25、CGデータ26、置換基データ27、反応部位データ28、中途TS(予備)履歴データ29、中途TSデータ30、目的TSデータ31などのデータ、さらには、演算処理装置3における演算経過や演算結果を、データ出力部13を介して表示可能であったり、外部に伝送可能であったりするものである。
【0022】
次に、図1に加えて、図2乃至図24を参照しながら、演算処理装置3の機能及び演算処理装置3によって処理されるデータの流れについて説明する。
図2は、本実施の形態に係る化学反応遷移状態探索システム、化学反応遷移状態探索方法及び化学反応遷移状態探索プログラムにおけるデータ処理手順を示すフロー図である。本実施の形態においては、2-(2-isocyanatophenylthio)thiophene (2-(2-イソチアナートフェニルチオ)チオフェン)を合成するCurtius(クルチウス)転移反応に関する遷移状態(TS)の計算を行いながら説明する。なお、以下の説明においては、かっこ書きで図2に示されるステップについて追記する。
【0023】
図3は、2-(thiophen-2-ylthio)benzoyl azide (2-(チオフェン-2-イルチオ)ベンゾイルアジド)41から2-(2-isocyanatophenylthio)thiophene (2-(2-イソチアナートフェニルチオ)チオフェン)42を合成してN(窒素)43を放出するCurtius(クルチウス)転移反応を示す化学式であり、図4は、図3に示される化学反応における目的TSを求める前に、中途TSを概念するために選択された化学式である。具体的には、反応物のformyl azide(フォルミルアジド)44からisocyanic acid (イソシアン酸)45及びN(窒素)46が生成されている。この化学式におけるTSを中途TSとして設定する。
このような中途TSの設定は、図1において、入力装置2から反応生成物に関するデータ(図示せず)を入力する。反応生成物データは演算処理装置3のデータ入力部6を介して中途TS設定部14に入力される。中途TS設定部14では、記憶装置5に格納されている置換基データ27を読み出して、この反応生成物データに含まれる置換基を取り除くことで中途TSの源構造を演算する(ステップS0)。あるいは、中途TS設定部14は、記憶装置5に含まれる反応部位データ28を読み出して、反応生成物データに含まれる反応部位のみを残して中途TS源構造を演算してもよい(ステップS0)。なお、取り除く置換基は少なくとも1つでよいし、複数取り除くことができれば複数取り除くようにしてもよい。また、残す反応部位も1つ以上であればいくつでもよい。
本実施の形態においては、中途TS設定部14を設けて中途TSの源構造を演算したが、この中途TS設定部14を設けることなく、予め入力装置2から中途TSの源構造を入力するようにしてもよい。その際には、図2におけるステップS0も省略することが可能である。
【0024】
本願において、中途TSの源構造とは、構成される原子の種類や数は中途TSと同一であるものの、その構造の最適化がなされていないことによって、中途TSではないものを意味している。すなわち、中途TSと中途TS源構造は異なるものとして区別して用いる。他の源構造についても同様である。
次に、中途TS設定部14で演算された中途TS源構造を用いて、IG作成部7は中途TSを求めるためのIGを作成する(ステップS1)。このIGを作成するために、中途TS設定部14において演算された中途TS源構造を用い、反応物のformyl azide(フォルミルアジド)44との中間の構造を演算する。この中間構造の演算は、分子構造の内部座標(原子間の距離、角度、二面角を用いて定義される座標)の算術平均で計算される。例えば、原子C−Hの距離が1.5Å(オングストローム)の分子と原子C−Hの距離が3.0Åの分子の中間構造は、原子C−Hの距離が2.25Åの分子となる。
このようにして得られたIGを図5に示す。図5は、中途TS源構造を用いて得られたIG47を示す構造図である。作成されたIG47はIG作成部7によって記憶装置5にIGデータ25として読み出し可能に格納される。
なお、前述のように中途TS設定部14が設けられない場合には、IG作成部7には入力装置2から入力された中途TS源構造が入力され、IGが求められる。
作成されたIG47を用いて、CG探索計算部8ではCG探索計算(予備)を行う。この計算(予備)は既に述べたとおり、単なる「計算」よりも精度の低い計算を意味し、一般的には単なる計算よりも計算時間は短い。また、このような計算(予備)によって演算された結果求められたCGやTSなどをCG(予備)やTS(予備)と記載して、単なる計算によって得られたCGやTSと区別する。
CG探索計算部8では、記憶装置5からミニマムエネルギーパス法を用いた計算(予備)モデル21を読み出し、この計算(予備)モデル21を用いて、図5に示されるIGの窒素原子N(5)−N(4)−N(2)間の角度を130〜160°まで6段階で変化させ、その途中における全エネルギーを計算した(ステップS2)。計算した結果を図6に示す。
【0025】
図6に示されるグラフの横軸は窒素原子間の角度であり、縦軸は全エネルギーを示している。図6の計算結果から明らかなように、150°のときに最も全エネルギーが高くなっているので、これをCG(予備)とした。このCG(予備)の構造を図7に示す。
図7において、CG48は窒素原子間の角度が150°となっている。このCG(予備)48に関するCGデータ26は、記憶装置5に読み出し可能に格納される。なお、本実施の形態においては、CG探索計算部8は、計算(予備)モデル21としてミニマムエネルギーパス法を用いたものを採用したが、この他、CG探索計算が可能なものであれば、例えばSADDLE法や等高線図法による計算(予備)モデル21を用いてもよい。
【0026】
次に、TS構造最適化計算部9は、CG探索計算部8において得られたCG(予備)48を用いて、最適化計算を実行する(ステップS3)。具体的には、TS構造最適化計算部9は、記憶装置5から最適化計算を行うための計算(予備)モデル21を読み出し、この計算(予備)モデル21を用いて、構造の全エネルギーを計算する。さらに、計算を行いながら、構造の全エネルギーが極大値となる構造を求める。極大値となる構造を得たら、TS構造最適化計算部9は、それが中途TS(予備)であると判断する(ステップS4,5)。
TS構造最適化計算部9は、中途TS(予備)であると判断したら、さらに、記憶装置5から振動解析関数モデル22を読み出し、振動解析を実行して、この中途TS(予備)49が真の中途TS(予備)49であるか、あるいは単に、中途TS(予備)の源構造であるか否かを判断する。この判断は、振動解析を実行した際に、虚の振動数を持つ基準振動が唯一存在するか否かで判断される。なお、ステップS4において、中途TS(予備)が得られない場合には、そのまま計算は終了する。
ステップS4,5を経て得られた中途TS(予備)を図8に示す。図7に示すCG(予備)48においては、窒素原子間の角度が150°であったが、最適化計算を計算(予備)モデル21で行った結果、中途TS(予備)49の窒素間原子の角度は151.1°となった。中途TS(予備)49が得られると、TS構造最適化計算部9は、この中途TS(予備)49に関するデータを中途TS(予備)履歴データ29として、読み出し可能に記憶装置5に格納する(ステップS5)。中途TS(予備)履歴データ29として格納するという意味は、このステップS5が実行される度に、その順序を記憶しながら中途TS(予備)49に関するデータが格納されるという意味である。すなわち、中途TS(予備)49に関するデータ及びそれに序数を1から順次増加させて、その序数と共に中途TS(予備)履歴データ29として格納する。
【0027】
次に、TS構造最適化計算部9は、この得られた中途TS(予備)49が目的TS(予備)の源構造と一致しているか否かを判断する(ステップS6)。この一致の判断は、反応生成物を入力装置2から入力する場合には、その反応生成物のデータ中に含まれているので、その反応生成物の中に含まれる目的TS源構造を記憶装置5に格納しておく。また、入力装置2から入力するのが、中途TS源構造の場合には、予め目的TS源構造も別途入力して記憶装置5に格納しておく必要がある。そして、TS構造最適化計算部9によって、記憶装置5からその目的TS源構造を読み出し、これと中途TS(予備)49を比較して、中途TS(予備)49の中に既に目的TSに含まれるべき源構造が含まれているか否かを判断する。
中途TS(予備)49がまだ目的TS(予備)の源構造に一致していないと判断された場合には、置換基付加部11がこの中途TS(予備)49に対して、記憶装置5から置換基データ27を読み出して、置換基を付加する演算を実施する(ステップS7)。この置換基としては、例えば図9に示されるメチル基50である。置換基付加部11は、記憶装置5から読み出したメチル基50に関する置換基データ27を、中途TS(予備)49に含まれる水素原子と交換する形で付加するように作用する。置換基を付加するために交換される原子と置換基の組み合わせは予めわかっているので、その組み合わせについても置換基データ27に含めておくとよい。すなわち、置換基データ27には例えばメチル基50に関するデータとこのメチル基50を交換される水素原子に関するデータも含まれており、この水素原子に関するデータに一致する中途TS(予備)49の水素原子を探索し、その水素原子とメチル基50を交換するようにするものである。
このように置換基付加部11によって置換基を付加された新たな中途TS(予備)を図10に示し、この新たな中途TS(予備)49aを含む反応を図11に示す。この新たな中途TS(予備)49aは、構造最適化計算部12によって、新たに付加された置換基についてのみ構造最適化の計算の実行を受ける(ステップS8)。
【0028】
構造最適化計算部12では、図9に示すメチル基50についてのみ構造最適化計算を実施するが、その際には、記憶装置5から構造最適化に関する計算(予備)モデル21を読み出して、これを用いて構造の全エネルギー計算を実施し、全エネルギーが極小値となる構造を求める。
そして、その後に再度新たな中途TS(予備)49aについてTS構造最適化計算部9を用いてTS最適化計算を実施し(ステップS3)、中途TS(予備)49aが求まったかを判断し(ステップS4)、中途TS(予備)49aを得た場合には、記憶装置5へ中途TS(予備)履歴データ29として格納し(ステップS5)、再度、中途TS(予備)49aが目的TS(予備)の源構造と一致しているかを判断するものである(ステップS6)。一致していない場合には、図2に示されるステップS7、S8、S3〜S6を繰り返す。
本実施の形態においては、最初に付加した置換基はメチル基50であったが、これを用いて実施されたステップS3のTS最適化計算を実施した後に中途TS(予備)49aが得られて(中途TS(予備)49aの構造を図12に示す。)、先の中途TS(予備)49のデータに対して新たな中途TS(予備)49aのデータを記憶装置5に対して、新たに今回の場合であれば「2」という序数を付して中途TS(予備)履歴データ29として格納した。図12に示すとおり、この中途TS(予備)49aにおける窒素原子間の距離は1.79オングストロームとなっていた。序数を加えるには、n=n+1の演算式をステップS5に組み込んでおき、初期値としてn=0としておき、これに対してステップS5において、1ずつインクリメントして最初に格納される中途TS(予備)に関するデータについて、順次1から1つずつ増えていくnを付加して中途TS(予備)履歴データ29として格納するとよい。
ところが、ステップS6において、新たな中途TS(予備)でもまだ目的TS(予備)の源構造に達していないため、再度、置換基付加部11によって置換基を付加する。付加の仕方は先の説明と同様である。付加される置換基は、フェニル基51でその構造は図13に示すとおりである。
置換基付加部11によって置換基としてフェニル基51を付加された新たな中途TS(予備)49bを図14に示し、この新たな中途TS(予備)49bを含む反応を図15に示す。この新たな中途TS(予備)49bは、構造最適化計算部12によって、新たに付加された置換基についてのみ構造最適化の計算の実行を受ける(ステップS8)。
【0029】
構造最適化計算部12では、図13に示すフェニル基51についてのみ構造最適化計算を実施するが、その際には、記憶装置5から構造最適化に関する計算(予備)モデル21を読み出して、これを用いて構造の全エネルギー計算を実施し、全エネルギーが極小値となる構造を求める。
そして、その後に再度新たな中途TS(予備)49bについてTS構造最適化計算部9を用いてTS最適化計算を実施し(ステップS3)、中途TS(予備)49bが求まったかを判断し(ステップS4)、中途TS(予備)49bを得た場合には、記憶装置5へ中途TS(予備)履歴データ29として序数(3)も加えて格納し(ステップS5)、再度、中途TS(予備)49bが目的TS(予備)の源構造と一致しているかを判断するものである(ステップS6)。本実施の形態においては、ステップS4で中途TS(予備)49bが得られたと判断して、これを中途TS(予備)履歴データ29として記憶装置5に読み出し可能に格納した。また、得られた中途TS(予備)49bは図16に示す。図16に示すとおり、この中途TS(予備)49bにおける窒素原子間の距離は1.77オングストロームとなっていた。
ところが、ステップS6において、新たな中途TS(予備)49bでもまだ目的TS(予備)の源構造に達していないため、再度、置換基付加部11によって置換基を付加する。付加の仕方は先の説明と同様である。付加される置換基は、thiophenthio(チオフェンチオ)基52でその構造は図17に示すとおりである。
置換基付加部11によって置換基としてチオフェンチオ基52を付加された新たな中途TS(予備)49cを含む反応を図18に示す。この新たな中途TS(予備)49cは、構造最適化計算部12によって、新たに付加された置換基についてのみ構造最適化の計算の実行を受ける(ステップS8)。
【0030】
構造最適化計算部12では、図17に示すチオフェンチオ基52についてのみ構造最適化計算を実施するが、その際には、記憶装置5から構造最適化に関する計算(予備)モデル21を読み出して、これを用いて構造の全エネルギー計算を実施し、全エネルギーが極小値となる構造を求める。
そして、その後に再度新たな中途TS(予備)49cについてTS構造最適化計算部9を用いてTS最適化計算を実施し(ステップS3)、中途TS(予備)49cが求まったかを判断し(ステップS4)、中途TS(予備)49cを得た場合には、記憶装置5へ中途TS(予備)履歴データ29として格納し(ステップS5)、再度、中途TS(予備)49cが目的TS(予備)の源構造と一致しているかを判断するものである(ステップS6)。本実施の形態においては、ステップS4で中途TS(予備)49cが得られたと判断して、これを中途TS(予備)履歴データ29として序数(4)も加えて記憶装置5に読み出し可能に格納した。
今回の中途TS(予備)49cは、目的TS(予備)の源構造と一致しており、これの計算結果を図19(a)に示し、中途TS(予備)49cの構造を図19(b)に示す。図19(a)では、上部には計算のタイトルや日付等の情報、中部にはエネルギー、計算時間等の計算結果、下部には原子種とその内部座標が出力されているが、いずれも非経験的分子軌道計算(AM1法)の計算結果である。
【0031】
TS構造最適化計算部9によって中途TS(予備)49cが目的TS(予備)の源構造と一致していることが判断された場合には、反応部位固定部10が、中途TS(予備)49cの反応部位を固定し、構造最適化計算を実行する。具体的には、反応部位固定部10は、記憶装置5から反応部位データ28を読み出し、この中から中途TS(予備)49cに含まれる反応部位に関するデータを探索して得た後、その反応部位を固定する。この反応部位として固定される箇所は、図20に示されるとおり、破線楕円で囲まれた符号Aの部分である。さらに、構造最適化計算部12が、記憶装置5から構造最適化計算を実施するための計算(予備)モデル21を読み出して、これを用いて構造の全エネルギーを計算し、極小値となる構造を演算して求める(ステップS9)。
【0032】
さらに、先に反応部位固定部10によって固定されていた反応部位の固定解除を行い、TS構造最適化計算部9は、構造最適化計算を実行した後の中途TS(予備)49c、ここでは、既に目的TS(予備)と源構造は一致している状態にあるので、実質的には目的TS(予備)となるが、これに対して、TS最適化計算を実行する。具体的には、TS構造最適化計算部9は、記憶装置5からTS最適化の演算を行うための計算モデル20を読み出して、この計算モデル20を用いて、構造の全エネルギーを計算する(ステップS10)。さらに、計算を行いながら、構造の全エネルギーが極大値となる構造を求める。極大値となる構造を得たら、TS構造最適化計算部9は、それが目的TSであると判断する(ステップS11,12)。
TS構造最適化計算部9は、目的TSであると判断したら、さらに、記憶装置5から振動解析関数モデル22を読み出し、振動解析を実行して、この目的TSが真の目的TSであるか、あるいは単に、目的TSの源構造であるか否かを判断する。この判断は、振動解析を実行した際に、虚の振動数を持つ基準振動が唯一存在するか否かで判断される(ステップS11,12)。
このようにして真の目的TSが得られたら、計算は終了する。
【0033】
一方、本実施の形態においては、ステップS11において、目的TSが得られなかったので、図2のステップS11からステップS13へ移動する。ステップS13では、目的TSが得られなかったため、反応部位固定部10あるいは構造最適化計算部12が、現在の置換基を付加する前の中途TS(予備)を記憶装置5の中途TS(予備)履歴データ29から読み出す(ステップS13)。本実施の形態では、中途TS(予備)49cの前であるため、図14に示される中途TS(予備)49bとなる。この読み出しは、中途TS(予備)履歴データ29の中の中途TS(予備)のうち、付加された序数の最も大きいものから1つ前のものを選択して実行される。今回の実施の形態においては、序数は4までインクリメントされていたので、1つ前の序数まで戻って、序数3の中途TS(予備)が選択されて読み出されるのである。
この中途TS(予備)49bに対して、反応部位固定部10は中途TS(予備)49bの反応部位を固定し、構造最適化計算部12が構造最適化計算を実行する。具体的には、反応部位固定部10は、記憶装置5から反応部位データ28を読み出し、この中から中途TS(予備)49bに含まれる反応部位に関するデータを探索して得た後、その反応部位を固定する。この反応部位として固定される箇所は、図21に示されるとおり、破線楕円で囲まれた符号Bの部分である。さらに、構造最適化計算部12が、記憶装置5から構造最適化計算を実施するための計算モデル20を読み出して、これを用いて構造の全エネルギーを計算し、極小値となる構造を演算して求める(ステップS14)。
さらに、反応部位固定部10は、先に固定されていた反応部位の固定解除を行い、TS構造最適化計算部9は、構造最適化計算を実行した後の中途TSに対して、TS最適化計算を実行する。具体的には、TS構造最適化計算部9は、記憶装置5からTS最適化の演算を行うための計算モデル20を読み出して、この計算モデル20を用いて、構造の全エネルギーを計算する(ステップS15)。さらに、計算を行いながら、構造の全エネルギーが極大値となる構造を求める。極大値となる構造を得たら、TS構造最適化計算部9は、それが中途TSであると判断する(ステップS16,17)。
ステップS16で中途TSでないと判断された場合には、再度ステップS13へ戻り、反応部位固定部10あるいは構造最適化計算部12が、現在の置換基を付加する前の中途TS(予備)を記憶装置5の中途TS(予備)履歴データ29から読み出す(ステップS13)。すなわち、ここでさらに序数を1つ前にした中途TS(予備)を選択して読み出し、ステップS14以下を実行する。なお、図2には示していないものの、中途TS(予備)履歴データ29に序数と共に格納されている中途TS(予備)に関するデータは、序数が1で最後となるので、序数が1の場合の中途TS(予備)データを用いてステップS14及びステップS15の計算を実施してステップS16で中途TSが求まらない場合には、計算を終了するようにしておくことが望ましい。
【0034】
TS構造最適化計算部9は、中途TSであると判断したら、さらに、記憶装置5から振動解析関数モデル22を読み出し、振動解析を実行して、この中途TSが真の中途TSであるか、あるいは単に、中途TSの源構造であるか否かを判断する。この判断は、振動解析を実行した際に、虚の振動数を持つ基準振動が唯一存在するか否かで判断される(ステップS16,17)。TS構造最適化計算部9によって得られた真の中途TSに関するデータは、中途TSデータ30としてTS構造最適化計算部9によって読み出し可能に記憶装置5に格納される。
このステップS16,17で中途TSが求まると、ステップS18では、この中途TSが目的TSの源構造に達しているか否か、すなわち一致しているか否かを判断する。
この一致の判断は、前述のとおり、反応生成物を入力装置2から入力する場合には、その反応生成物のデータ中に含まれているので、その反応生成物の中に含まれる目的TS源構造を記憶装置5に格納しておく。また、入力装置2から入力するのが、中途TS源構造の場合には、予め目的TS源構造も別途入力して記憶装置5に格納しておく必要がある。そして、TS構造最適化計算部9によって、記憶装置5からその目的TS源構造を読み出し、これと中途TSを比較して、中途TSの中に既に目的TSに含まれるべき源構造が含まれているか否かを判断する。
【0035】
中途TSがまだ目的TSの源構造に一致していないと判断された場合には、置換基付加部11がこの中途TSに対して、記憶装置5から置換基データ27を読み出して、置換基を付加する演算を実施する(ステップS19)。この置換基としては、図22に符号Cの破線楕円で囲まれるチオフェンチオ基52が選択される。既に、既にステップS6で目的TS(予備)が得られており、この構造との関係から選択される置換基は一義的に選択される。
置換基付加部11は、記憶装置5から読み出したチオフェンチオ基52に関する置換基データ27を、中途TS53に含まれる水素原子と交換する形で付加するように作用する。
このように置換基付加部11によって置換基を付加された新たな中途TS53を図22に示す。この新たな中途TS53は、構造最適化計算部12によって、新たに付加された置換基についてのみ構造最適化の計算の実行を受ける(ステップS20)。構造最適化計算部12では、図22に符号Cで示すチオフェンチオ基52についてのみ構造最適化計算を実施するが、その際には、記憶装置5から構造最適化に関する計算モデル20を読み出して、これを用いて構造のエネルギー計算を実施し、全エネルギーが極小値となる構造を求める。
さらに、TS構造最適化計算部9は、この構造最適化の計算が終了した中途TS53に対して、TS最適化計算を実行する。具体的には、TS構造最適化計算部9は、記憶装置5からTS最適化の演算を行うための計算モデル20を読み出して、この計算モデル20を用いて、構造の全エネルギーを計算する(ステップS21)。さらに、計算を行いながら、構造の全エネルギーが極大値となる構造を求める。極大値となる構造を得たら、TS構造最適化計算部9は、それが中途TSであると判断する(ステップS22、ステップS17)。
ステップS22で中途TSが求められなかったと判断された場合には、計算は終了する。
【0036】
TS構造最適化計算部9は、中途TSであると判断した場合には、さらに、記憶装置5から振動解析関数モデル22を読み出し、振動解析を実行して、この中途TSが真の中途TSであるか、あるいは単に、中途TSの源構造であるか否かを判断する。この判断は、振動解析を実行した際に、虚の振動数を持つ基準振動が唯一存在するか否かで判断される(ステップS17)。
このステップS17で中途TSが求まると、ステップS18では、この中途TSが目的TSの源構造に達しているか否か、すなわち一致しているか否かを判断する。そして、目的TSの源構造に達している場合には、計算が終了する。
中途TS53に対してTS最適化計算を実行することで得られた中途TS(目的TS54)に関する計算結果を図23に示し、その構造を図24に示す。
TS構造最適化計算部9によって求められた目的TS54に関するデータは、TS構造最適化計算部9によって記憶装置5に目的TSデータ31として読み出し可能に格納される。
なお、図23では、一行目は計算に必要なキーワード、二行目は空行、3行目は計算のタイトル、四行目は空行、五行目は電荷とスピンの値、六行目以降は、原子種、X座標、Y座標、Z座標を示している。原子種及びX,Y,Z座標が示されている行の後の行には、エネルギー等の値が書かれている。
【0037】
以上説明したとおり、本実施の形態に係る化学反応遷移状態探索システム1及び化学反応遷移状態探索方法においては、計算時間を短縮しながら、しかも高い確率で目的TSを探索することが可能である。しかも、分子構造が複雑化した生成物であっても、目的TSを求めることが可能である。
これは、中途TS(予備)を精度の低い計算(予備)モデルを用いて求めて目的TS(予備)を求め、この目的TS(予備)から一旦目的TSを求めようとし、そこで目的TSが求められなかった場合に、1つ前の履歴における中途TS(予備)を読み出して、この段階から、精度の高い計算モデルを用いて今度は中途TSを求めて、この中途TSから目的TSを求めるという工程を経ることで実現される効果である。言い換えれば、異なる2つの目的TSの探索方法を無駄なく連続して実行することで得られる計算時間の短縮効果と複雑な分子構造を備えた目的TSを確実に求めるという効果の相乗効果とも言えるものである。
また、TS最適化に関する演算を実施する際に、まず、反応部位を固定して全エネルギーが極小となる構造の最適化(S9、S14)を図った後、その反応部位の固定を解除した上で、全エネルギーが極大となるTSの最適化に関する演算を実施(S10、S15)するので、演算を効率的かつ高精度に実行することが可能である。
なお、以上本実施の形態に係る化学反応遷移状態探索システム及び化学反応遷移状態探索方法について説明を行ったが、図1を汎用のコンピュータと捉え、これを動作させるプログラムとして、図2に示すフロー図を実行させることを考えると、上述の説明はコンピュータが各工程を実行しながら遷移状態を探索するプログラムについての実施の形態の説明として成立するものであり、このプログラムについての実施の形態に係る作用、効果については先に説明した化学反応遷移状態探索システムとその方法に係る実施の形態に係る作用、効果と同様である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
以上説明したように、本発明の請求項1乃至請求項9に記載された発明は、新薬開発や農薬開発など広く一般的に新しい化合物を合成する製薬分野や化学分野などにおける利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施の形態に係る化学反応遷移状態探索システムの構成図である。
【図2】本実施の形態に係る化学反応遷移状態探索システム、化学反応遷移状態探索方法及び化学反応遷移状態探索プログラムにおけるデータ処理手順を示すフロー図である。
【図3】2-(thiophen-2-ylthio)benzoyl azide (2-(チオフェン-2-イルチオ)ベンゾイルアジド)から2-(2-isocyanatophenylthio)thiophene(2-(2-イソチアナートフェニルチオ)チオフェン)を合成してN(窒素)を放出するCurtius(クルチウス)転移反応を示す化学反応式である。
【図4】図3に示される化学反応における目的TSを求める前に、中途TSを概念するために選択された化学反応式である。
【図5】中途TS源構造を用いて得られたIGの構造を示す概念図である。
【図6】本実施の形態に係るCG探索計算部における計算結果を示すグラフである。
【図7】本実施の形態に係るCG探索計算部によって得られたCG(予備)の構造を示す概念図である。
【図8】本実施の形態に係るTS構造最適化計算部によって得られた中途TS(予備)の構造を示す概念図である。
【図9】メチル基の構造を示す概念図である。
【図10】本実施の形態に係る置換基付加部によって置換基を付加された新たな中途TS(予備)の構造を示す概念図である。
【図11】図10に示される中途TS(予備)を含む化学反応式である。
【図12】新たな中途TS(予備)の構造を示す概念図である。
【図13】フェニル基の構造を示す概念図である。
【図14】本実施の形態に係る置換基付加部によって置換基としてフェニル基を付加された新たな中途TS(予備)の構造を示す概念図である。
【図15】図14に示される中途TS(予備)を含む化学反応式である。
【図16】本実施の形態に係るTS構造最適化計算部によって得られた新たな中途TS(予備)の構造を示す概念図である。
【図17】チオフェンチオ基の構造を示す概念図である。
【図18】本実施の形態に係る置換基付加部によって置換基としてチオフェンチオ基を付加された新たな中途TS(予備)を含む化学反応式である。
【図19】(a)は本実施の形態に係るTS構造最適化計算部によって新たな中途TS(予備)に対してなされたTS最適化計算の結果を示す出力であり、(b)はその新たな中途TS(予備)の構造を示す概念図である。
【図20】新たな中途TS(予備)の構造を示す概念図である。
【図21】図20に示される中途TS(予備)の置換基を付加する前の中途TS(予備)の構造を示す概念図である。
【図22】置換基付加部によって置換基を付加された新たな中途TSの構造を示す概念図である。
【図23】中途TSに対してTS最適化計算を実行することで得られた中途TS(目的TS)に関する計算結果を示す出力である。
【図24】TS最適化計算を実行することで得られた中途TS(目的TS)の構造を示す概念図である。
【図25】(a)は初期構造(IG)から遷移状態構造の候補構造(CG)を経て遷移状態構造(TS)を算出するまでの一般的な流れを示すフロー図であり、(b)は計算(予備)を用いてIGから目的TS(予備)を解析し、さらに、最適化計算を経て目的TSを求める流れを示すフロー図であり、(c)はIGから目的TSではなく、一旦中途TSを解析しておき、その後に目的TSを解析して求める流れを示すフロー図である。
【図26】最も基本的は遷移状態の探索方法の従来技術を示すフロー図である。
【図27】遷移状態の探索方法の従来技術を示すフロー図である。
【図28】遷移状態の探索方法の従来技術を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0040】
1…化学反応遷移状態探索システム 2…入力装置 3…演算処理装置 4…出力装置 5…記憶装置 6…データ入力部 7…IG作成部 8…CG探索計算部 9…TS構造最適化計算部 10…反応部位固定部 11…置換基付加部 12…構造最適化計算部 13…データ出力部 14…中途TS設定部 20…計算モデル 21…計算(予備)モデル 22…振動解析関数モデル 25…IGデータ 26…CGデータ 27…置換基データ 28…反応部位データ 29…中途TS(予備)履歴データ 30…中途TSデータ 31…目的TSデータ 41…2-(thiophen-2-ylthio)benzoyl azide (2-(チオフェン-2-イルチオ)ベンゾイルアジド) 42…2-(2-isocyanatophenylthio)thiophene (2-(2-イソチアナートフェニルチオ)チオフェン) 43…窒素 44…formyl azide (フォルミルアジド) 45…isocyanic acid (イソシアン酸) 46…窒素 47…IG 48…CG(予備) 49,49a〜49c…中途TS(予備) 50…メチル基 51…フェニル基 52…thiophenthio(チオフェンチオ)基 53…中途TS 54…目的TS


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学反応において目的とする遷移状態の化学的構造(以下、遷移状態の化学的構造を遷移状態構造又はTSといい、目的とする遷移状態構造を目的遷移状態構造又は目的TSという。)を求めるために、入力装置と、演算処理装置と、記憶装置と、を有する化学反応遷移状態探索システムであって、
前記演算処理装置は、前記目的TSの前段階の中途遷移状態構造(以下、中途遷移状態構造を特に中途TSという。)の源構造の入力を受けて、この中途TS源構造から中途TSを求めるための出発点となる初期構造(以下、IGという。)を演算するIG作成部と、このIG作成部で作成されたIGから遷移状態付近の候補構造(以下、CGという。)を演算するCG探索計算部と、このCG探索計算部で演算されたCG又はこのCGから演算されたTSの源構造に対して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を演算することでTSを求め、得られたTSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真のTSであるかあるいはTSの源構造であるかを判断するTS最適化計算部と、前記TSの源構造の反応部位を固定する反応部位固定部と、前記TSの源構造に置換基を付加又は削除する置換基処理部と、前記TSの源構造を構成する分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を演算することで分子構造の最適化を演算する構造最適化計算部と、を備え、
前記記憶装置は、前記IG,CG,TSの構造データ、反応部位データ及び置換基データを格納し、
前記CG探索計算部、TS最適化計算部及び構造最適化計算部は、演算を行う関数モデルと、この関数モデルよりも低精度の演算を行う関数モデルのいずれも選択可能に備えることを特徴とする化学反応遷移状態探索システム。
【請求項2】
化学反応において目的とする遷移状態の化学的構造(以下、遷移状態の化学的構造を遷移状態構造又はTSといい、目的とする遷移状態構造を目的遷移状態構造又は目的TSという。)を求めるために、入力装置と、演算処理装置と、記憶装置と、を有する化学反応遷移状態探索システムであって、
前記演算処理装置は、前記化学反応の生成物に関するデータの入力を受けて前記目的TSの前段階の中途遷移状態構造(以下、中途遷移状態構造を特に中途TSという。)の源構造を演算する中途TS設定部と、この中途TS設定部で設定された中途TS源構造から中途TSを求めるための出発点となる初期構造(以下、IGという。)を演算するIG作成部と、このIG作成部で作成されたIGから遷移状態付近の候補構造(以下、CGという。)を演算するCG探索計算部と、このCG探索計算部で演算されたCG又はこのCGから演算されたTSの源構造に対して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を演算することでTSを求め、得られたTSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真のTSであるかあるいはTSの源構造であるかを判断するTS最適化計算部と、前記TSの源構造の反応部位を固定する反応部位固定部と、前記TSの源構造に置換基を付加又は削除する置換基処理部と、前記TSの源構造を構成する分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を演算することで分子構造の最適化を演算する構造最適化計算部と、を備え、
前記記憶装置は、前記IG,CG,TSの構造データ、反応部位データ及び置換基データを格納し、
前記CG探索計算部、TS最適化計算部及び構造最適化計算部は、演算を行う関数モデルと、この関数モデルよりも低精度の演算を行う関数モデルのいずれも選択可能に備えることを特徴とする化学反応遷移状態探索システム。
【請求項3】
前記TS最適化計算部において、真のTSであると判断されたTSに関する構造データを外部装置へ出力あるいは表示する出力装置を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の化学反応遷移状態探索システム。
【請求項4】
化学反応において目的とする遷移状態の化学的構造(以下、遷移状態の化学的構造を遷移状態構造又はTSといい、目的とする遷移状態構造を目的遷移状態構造又は目的TSという。)を求めるための化学反応遷移状態探索方法であって、
前記目的TSの前段階の中途遷移状態構造(以下、中途遷移状態構造を特に中途TSという。)の源構造から分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算して中途TS(以下、計算(予備)によって得られた中途TSを中途TS(予備)という。)を得て、
この中途TS(予備)に対して置換基を付加して目的TS(予備)とした後、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して目的TSを得ることを特徴とすると共に、
前記目的TSが得られない場合には前記中途TS(予備)から分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して中途TSを得て、
この中途TSに対して置換基を付加して分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して目的TSを得ることを特徴とする化学反応遷移状態探索方法。
【請求項5】
化学反応において目的とする遷移状態の化学的構造(以下、遷移状態の化学的構造を遷移状態構造又はTSといい、目的とする遷移状態構造を目的遷移状態構造又は目的TSという。)を求めるための化学反応遷移状態探索方法であって、
前記目的TSの前段階の中途遷移状態構造(以下、中途遷移状態構造を特に中途TSという。)の源構造を演算し、
この中途TSの源構造から分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算して中途TS(以下、計算(予備)によって得られた中途TSを中途TS(予備)という。)を得て、
この中途TS(予備)に対して置換基を付加して目的TS(予備)とした後、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して目的TSを得ることを特徴とすると共に、
前記目的TSが得られない場合には前記中途TS(予備)から分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して中途TSを得て、
この中途TSに対して置換基を付加して分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して目的TSを得ることを特徴とする化学反応遷移状態探索方法。
【請求項6】
化学反応において目的とする遷移状態の化学的構造(以下、遷移状態の化学的構造を遷移状態構造又はTSといい、目的とする遷移状態構造を目的遷移状態構造又は目的TSという。)を求めるための化学反応遷移状態探索方法であって、
前記目的TSの前段階の中途遷移状態構造(以下、中途遷移状態構造を特に中途TSという。)の源構造の入力を受けて、この中途TS源構造から中途TSを求めるための出発点となる初期構造(以下、IGという。)を演算するIG作成工程(S1)と、
このIG作成工程で作成されたIGから遷移状態付近の候補構造(以下、CGという。)を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によってCG(以下、計算(予備)によって得られたCGをCG(予備)という。)を演算するCG探索計算工程(S2)と、
このCG探索計算工程で演算されたCG(予備)に対して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算して中途TS(以下、計算(予備)によって得られた中途TSを中途TS(予備)という。)を得る中途TS(予備)最適化計算工程(S3)と、
得られた中途TS(予備)に対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の中途TS(予備)であるかあるいは中途TS(予備)の源構造であるかを判断する中途TS(予備)判断工程(S4)と、
この中途TS(予備)判断工程において中途TS(予備)であると判断された場合に得られた中途TS(予備)を記憶装置へ読み出し可能に書き込む書込み工程(S5)と、
前記中途TS(予備)が目的TS(予備)の源構造に一致しているか否かを判断する目的TS(予備)判断工程(S6)と、
前記中途TS(予備)が目的TS(予備)の源構造に一致している場合に、この目的TS(予備)の反応部位を固定して、前記目的TS(予備)を構成する分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算することで分子構造の最適化を演算する目的TS(予備)構造最適化計算工程(S9)と、
前記分子構造が最適化された目的TS(予備)の前記反応部位の固定を解除して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を前記計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して目的TSを得る目的TS最適化計算工程(S10)と、
前記目的TS(予備)判断工程(S6)において、前記中途TS(予備)が目的TS(予備)の源構造に一致していない場合に、前記中途TS(予備)に置換基を付加する第1の置換基付加工程(S7)と、この付加された置換基部位のみに対して分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算することで置換基の分子構造の最適化を演算した後に、これを新たな中途TS(予備)として、前記中途TS(予備)最適化計算工程(S3)へ編入させる第1の置換基構造最適化計算工程(S8)と、を有し、
前記目的TS最適化計算工程(S10)において得られた目的TSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の目的TSであるかあるいは目的TSの源構造であるかを判断する第1の目的TS判断工程(S11)と、
この第1の目的TS判断工程(S11)において目的TSの源構造であると判断された場合に、前記書込み工程(S5)において記憶装置に書き込まれた前記中途TS(予備)を読み出して(S13)、この中途TS(予備)の反応部位を固定して、前記中途TS(予備)を構成する分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算することで分子構造の最適化を演算する中途TS構造最適化計算工程(S14)と、
前記分子構造が最適化された中途TSの前記反応部位の固定を解除して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して中途TSを得る第1の中途TS最適化計算工程(S15)と、
得られた中途TSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の中途TSであるかあるいは中途TSの源構造であるかを判断し、中途TSの源構造であると判断された場合に、前記記憶装置に書き込まれた前記中途TS(予備)の前に書き込まれた中途TS(予備)を読み出す工程(S13)に編入する第1の中途TS判断工程(S16)と、
前記第1の中途TS判断工程(S16)において、真の中途TSであると判断された場合(S17)に、中途TSが目的TSに一致しているか否かを判断する第2の目的TS判断工程(S18)と、
この第2の目的TS判断工程(S18)において、前記中途TSが目的TSに一致していない場合に、前記中途TSに置換基を付加する第2の置換基付加工程(S19)と、
この付加された置換基部位のみに対して分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算することで置換基の分子構造の最適化を演算する第2の置換基構造最適化計算工程(S20)と、
この第2の置換基構造最適化計算工程において最適化された中途TSを新たな中途TSとして、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して中途TSを得る第2の中途TS最適化計算工程(S21)と、
前記第2の中途TS最適化計算工程(S21)において得られた中途TSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の中途TSであるかあるいは中途TSの源構造であるかを判断し、真の中途TSであると判断された場合に、前記第2の目的TS判断工程(S18)へ編入させる第2の中途TS判断工程(S22)と、を有することを特徴とする化学反応遷移状態探索方法。
【請求項7】
化学反応において目的とする遷移状態の化学的構造(以下、遷移状態の化学的構造を遷移状態構造又はTSといい、目的とする遷移状態構造を目的遷移状態構造又は目的TSという。)を求めるための化学反応遷移状態探索方法であって、
前記目的TSの前段階の中途遷移状態構造(以下、中途遷移状態構造を特に中途TSという。)の源構造を演算する中途TS設定工程(S0)と、
この中途TS設定工程(S0)で設定された中途TS源構造から中途TSを求めるための出発点となる初期構造(以下、IGという。)を演算するIG作成工程(S1)と、
このIG作成工程で作成されたIGから遷移状態付近の候補構造(以下、CGという。)を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によってCG(以下、計算(予備)によって得られたCGをCG(予備)という。)を演算するCG探索計算工程(S2)と、
このCG探索計算工程で演算されたCG(予備)に対して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算して中途TS(以下、計算(予備)によって得られた中途TSを中途TS(予備)という。)を得る中途TS(予備)最適化計算工程(S3)と、
得られた中途TS(予備)に対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の中途TS(予備)であるかあるいは中途TS(予備)の源構造であるかを判断する中途TS(予備)判断工程(S4)と、
この中途TS(予備)判断工程において中途TS(予備)であると判断された場合に得られた中途TS(予備)を記憶装置へ読み出し可能に書き込む書込み工程(S5)と、
前記中途TS(予備)が目的TS(予備)の源構造に一致しているか否かを判断する目的TS(予備)判断工程(S6)と、
前記中途TS(予備)が目的TS(予備)の源構造に一致している場合に、この目的TS(予備)の反応部位を固定して、前記目的TS(予備)を構成する分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算することで分子構造の最適化を演算する目的TS(予備)構造最適化計算工程(S9)と、
前記分子構造が最適化された目的TS(予備)の前記反応部位の固定を解除して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を前記計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して目的TSを得る目的TS最適化計算工程(S10)と、
前記目的TS(予備)判断工程(S6)において、前記中途TS(予備)が目的TS(予備)の源構造に一致していない場合に、前記中途TS(予備)に置換基を付加する第1の置換基付加工程(S7)と、この付加された置換基部位のみに対して分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算することで置換基の分子構造の最適化を演算した後に、これを新たな中途TS(予備)として、前記中途TS(予備)最適化計算工程(S3)へ編入させる第1の置換基構造最適化計算工程(S8)と、を有し、
前記目的TS最適化計算工程(S10)において得られた目的TSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の目的TSであるかあるいは目的TSの源構造であるかを判断する第1の目的TS判断工程(S11)と、
この第1の目的TS判断工程(S11)において目的TSの源構造であると判断された場合に、前記書込み工程(S5)において記憶装置に書き込まれた前記中途TS(予備)を読み出して(S13)、この中途TS(予備)の反応部位を固定して、前記中途TS(予備)を構成する分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算することで分子構造の最適化を演算する中途TS構造最適化計算工程(S14)と、
前記分子構造が最適化された中途TSの前記反応部位の固定を解除して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して中途TSを得る第1の中途TS最適化計算工程(S15)と、
得られた中途TSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の中途TSであるかあるいは中途TSの源構造であるかを判断し、中途TSの源構造であると判断された場合に、前記記憶装置に書き込まれた前記中途TS(予備)の前に書き込まれた中途TS(予備)を読み出す工程(S13)に編入する第1の中途TS判断工程(S16)と、
前記第1の中途TS判断工程(S16)において、真の中途TSであると判断された場合(S17)に、中途TSが目的TSに一致しているか否かを判断する第2の目的TS判断工程(S18)と、
この第2の目的TS判断工程(S18)において、前記中途TSが目的TSに一致していない場合に、前記中途TSに置換基を付加する第2の置換基付加工程(S19)と、
この付加された置換基部位のみに対して分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算することで置換基の分子構造の最適化を演算する第2の置換基構造最適化計算工程(S20)と、
この第2の置換基構造最適化計算工程において最適化された中途TSを新たな中途TSとして、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して中途TSを得る第2の中途TS最適化計算工程(S21)と、
前記第2の中途TS最適化計算工程(S21)において得られた中途TSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の中途TSであるかあるいは中途TSの源構造であるかを判断し、真の中途TSであると判断された場合に、前記第2の目的TS判断工程(S18)へ編入させる第2の中途TS判断工程(S22)と、を有することを特徴とする化学反応遷移状態探索方法。
【請求項8】
コンピュータによって、化学反応において目的とする遷移状態の化学的構造(以下、遷移状態の化学的構造を遷移状態構造又はTSといい、目的とする遷移状態構造を目的遷移状態構造又は目的TSという。)を求めるために実行される化学反応遷移状態探索プログラムであって、
コンピュータに、
前記目的TSの前段階の中途遷移状態構造(以下、中途遷移状態構造を特に中途TSという。)の源構造の入力を受けて、この中途TS源構造から中途TSを求めるための出発点となる初期構造(以下、IGという。)を演算するIG作成工程(S1)と、
このIG作成工程で作成されたIGから遷移状態付近の候補構造(以下、CGという。)を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によってCG(以下、計算(予備)によって得られたCGをCG(予備)という。)を演算するCG探索計算工程(S2)と、
このCG探索計算工程で演算されたCG(予備)に対して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算して中途TS(以下、計算(予備)によって得られた中途TSを中途TS(予備)という。)を得る中途TS(予備)最適化計算工程(S3)と、
得られた中途TS(予備)に対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の中途TS(予備)であるかあるいは中途TS(予備)の源構造であるかを判断する中途TS(予備)判断工程(S4)と、
この中途TS(予備)判断工程において中途TS(予備)であると判断された場合に得られた中途TS(予備)を記憶装置へ読み出し可能に書き込む書込み工程(S5)と、
前記中途TS(予備)が目的TS(予備)の源構造に一致しているか否かを判断する目的TS(予備)判断工程(S6)と、
前記中途TS(予備)が目的TS(予備)の源構造に一致している場合に、この目的TS(予備)の反応部位を固定して、前記目的TS(予備)を構成する分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算することで分子構造の最適化を演算する目的TS(予備)構造最適化計算工程(S9)と、
前記分子構造が最適化された目的TS(予備)の前記反応部位の固定を解除して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を前記計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して目的TSを得る目的TS最適化計算工程(S10)と、
前記目的TS(予備)判断工程(S6)において、前記中途TS(予備)が目的TS(予備)の源構造に一致していない場合に、前記中途TS(予備)に置換基を付加する第1の置換基付加工程(S7)と、この付加された置換基部位のみに対して分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算することで置換基の分子構造の最適化を演算した後に、これを新たな中途TS(予備)として、前記中途TS(予備)最適化計算工程(S3)へ編入させる第1の置換基構造最適化計算工程(S8)と、を有し、
前記目的TS最適化計算工程(S10)において得られた目的TSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の目的TSであるかあるいは目的TSの源構造であるかを判断する第1の目的TS判断工程(S11)と、
この第1の目的TS判断工程(S11)において目的TSの源構造であると判断された場合に、前記書込み工程(S5)において記憶装置に書き込まれた前記中途TS(予備)を読み出して(S13)、この中途TS(予備)の反応部位を固定して、前記中途TS(予備)を構成する分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算することで分子構造の最適化を演算する中途TS構造最適化計算工程(S14)と、
前記分子構造が最適化された中途TSの前記反応部位の固定を解除して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して中途TSを得る第1の中途TS最適化計算工程(S15)と、
得られた中途TSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の中途TSであるかあるいは中途TSの源構造であるかを判断し、中途TSの源構造であると判断された場合に、前記記憶装置に書き込まれた前記中途TS(予備)の前に書き込まれた中途TS(予備)を読み出す工程(S13)に編入する第1の中途TS判断工程(S16)と、
前記第1の中途TS判断工程(S16)において、真の中途TSであると判断された場合(S17)に、中途TSが目的TSに一致しているか否かを判断する第2の目的TS判断工程(S18)と、
この第2の目的TS判断工程(S18)において、前記中途TSが目的TSに一致していない場合に、前記中途TSに置換基を付加する第2の置換基付加工程(S19)と、
この付加された置換基部位のみに対して分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算することで置換基の分子構造の最適化を演算する第2の置換基構造最適化計算工程(S20)と、この第2の置換基構造最適化計算工程において最適化された中途TSを新たな中途TSとして、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して中途TSを得る第2の中途TS最適化計算工程(S21)と、
前記第2の中途TS最適化計算工程(S21)において得られた中途TSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の中途TSであるかあるいは中途TSの源構造であるかを判断し、真の中途TSであると判断された場合に、前記第2の目的TS判断工程(S18)へ編入させる第2の中途TS判断工程(S22)と、を実行させることを特徴とする化学反応遷移状態探索プログラム。
【請求項9】
コンピュータによって、化学反応において目的とする遷移状態の化学的構造(以下、遷移状態の化学的構造を遷移状態構造又はTSといい、目的とする遷移状態構造を目的遷移状態構造又は目的TSという。)を求めるために実行される化学反応遷移状態探索プログラムであって、
コンピュータに、
前記目的TSの前段階の中途遷移状態構造(以下、中途遷移状態構造を特に中途TSという。)の源構造を演算する中途TS設定工程(S0)と、
この中途TS設定工程(S0)で設定された中途TS源構造から中途TSを求めるための出発点となる初期構造(以下、IGという。)を演算するIG作成工程(S1)と、
このIG作成工程で作成されたIGから遷移状態付近の候補構造(以下、CGという。)を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によってCG(以下、計算(予備)によって得られたCGをCG(予備)という。)を演算するCG探索計算工程(S2)と、
このCG探索計算工程で演算されたCG(予備)に対して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算して中途TS(以下、計算(予備)によって得られた中途TSを中途TS(予備)という。)を得る中途TS(予備)最適化計算工程(S3)と、
得られた中途TS(予備)に対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の中途TS(予備)であるかあるいは中途TS(予備)の源構造であるかを判断する中途TS(予備)判断工程(S4)と、
この中途TS(予備)判断工程において中途TS(予備)であると判断された場合に得られた中途TS(予備)を記憶装置へ読み出し可能に書き込む書込み工程(S5)と、
前記中途TS(予備)が目的TS(予備)の源構造に一致しているか否かを判断する目的TS(予備)判断工程(S6)と、
前記中途TS(予備)が目的TS(予備)の源構造に一致している場合に、この目的TS(予備)の反応部位を固定して、前記目的TS(予備)を構成する分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算することで分子構造の最適化を演算する目的TS(予備)構造最適化計算工程(S9)と、
前記分子構造が最適化された目的TS(予備)の前記反応部位の固定を解除して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を前記計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して目的TSを得る目的TS最適化計算工程(S10)と、
前記目的TS(予備)判断工程(S6)において、前記中途TS(予備)が目的TS(予備)の源構造に一致していない場合に、前記中途TS(予備)に置換基を付加する第1の置換基付加工程(S7)と、この付加された置換基部位のみに対して分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を低精度の関数モデルを用いた計算(予備)によって演算することで置換基の分子構造の最適化を演算した後に、これを新たな中途TS(予備)として、前記中途TS(予備)最適化計算工程(S3)へ編入させる第1の置換基構造最適化計算工程(S8)と、を有し、
前記目的TS最適化計算工程(S10)において得られた目的TSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の目的TSであるかあるいは目的TSの源構造であるかを判断する第1の目的TS判断工程(S11)と、
この第1の目的TS判断工程(S11)において目的TSの源構造であると判断された場合に、前記書込み工程(S5)において記憶装置に書き込まれた前記中途TS(予備)を読み出して(S13)、この中途TS(予備)の反応部位を固定して、前記中途TS(予備)を構成する分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算することで分子構造の最適化を演算する中途TS構造最適化計算工程(S14)と、
前記分子構造が最適化された中途TSの前記反応部位の固定を解除して、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して中途TSを得る第1の中途TS最適化計算工程(S15)と、
得られた中途TSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の中途TSであるかあるいは中途TSの源構造であるかを判断し、中途TSの源構造であると判断された場合に、前記記憶装置に書き込まれた前記中途TS(予備)の前に書き込まれた中途TS(予備)を読み出す工程(S13)に編入する第1の中途TS判断工程(S16)と、
前記第1の中途TS判断工程(S16)において、真の中途TSであると判断された場合(S17)に、中途TSが目的TSに一致しているか否かを判断する第2の目的TS判断工程(S18)と、
この第2の目的TS判断工程(S18)において、前記中途TSが目的TSに一致していない場合に、前記中途TSに置換基を付加する第2の置換基付加工程(S19)と、
この付加された置換基部位のみに対して分子構造を変化させて全エネルギーを極小にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算することで置換基の分子構造の最適化を演算する第2の置換基構造最適化計算工程(S20)と、
この第2の置換基構造最適化計算工程において最適化された中途TSを新たな中途TSとして、分子構造を変化させて全エネルギーを極大にする分子構造を計算(予備)よりも高精度の関数モデルを用いた計算によって演算して中途TSを得る第2の中途TS最適化計算工程(S21)と、
前記第2の中途TS最適化計算工程(S21)において得られた中途TSに対して振動解析関数モデルを用いて振動解析を行うことで、真の中途TSであるかあるいは中途TSの源構造であるかを判断し、真の中途TSであると判断された場合に、前記第2の目的TS判断工程(S18)へ編入させる第2の中途TS判断工程(S22)と、を実行させることを特徴とする化学反応遷移状態探索プログラム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【公開番号】特開2010−97371(P2010−97371A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−266903(P2008−266903)
【出願日】平成20年10月15日(2008.10.15)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】