説明

化学蓄熱装置

【課題】耐圧構造を不用として小型軽量化を図り、装置全体で見たときの高蓄熱密度を実現可能とする化学蓄熱装置を提供する。
【解決手段】化学蓄熱装置において、気体の反応媒体140と可逆的に発熱および吸熱反応する固体の化学蓄熱材で構成される蓄熱部材120A、120Bを内部に収容し、反応媒体140が出入りする開口部113を有する反応容器110と、反応媒体140を液体の状態にて貯蔵する貯蔵容器130と、開口部113および貯蔵容器130とを連通させて、反応容器110および貯蔵容器130間の気体の反応媒体140の流通を可能とする連通路150とを備え、反応容器110、貯蔵容器130および連通路150は、それぞれの外圧が内圧より大きくなるよう構成されており、反応容器110の内面は、蓄熱部材120A、120Bに密着するように蓄熱部材120A、120Bを包んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車などの急速加熱用の熱源として用いて好適な化学蓄熱装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の化学蓄熱装置として、例えば特許文献1に記載されたものが知られている。この化学蓄熱装置は、アルカリ土類金属酸化物を充填した反応器と、水を貯蔵する水タンクと、水タンクの水を反応器に供給する水供給管と、反応器から水を水タンクに戻す還流管とからなる密閉サイクルを備えている。アルカリ土類金属酸化物は、円筒状の多孔質管内に充填されており、この多孔質管が反応器内に収容されている。
【0003】
更に、反応器への水の給排水を制御する水送給手段(第1、第2電磁弁、ポンプ、逆止弁)と、反応器内のアルカリ土類金属水酸化物を加熱分解しアルカリ土類金属酸化物に再生する加熱手段(排出ガスの熱、あるいは内燃機関の排熱等)と、水送給手段を制御しアルカリ土類金属酸化物と水との可逆反応を制御するコントローラとを備えている。
【0004】
そして、特許文献1では、水送給手段によって水タンクから反応器に水を供給することで、アルカリ土類金属酸化物の水和反応に伴って発生する熱を、例えば車両の排出ガス浄化用の触媒の急速加熱に利用するようにしている。尚、水和反応によって生成されたアルカリ土類金属水酸化物は、排出ガスの熱によってアルカリ土類金属酸化物に分解されるようになっており、繰り返しの使用が可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−180539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1では、密閉サイクル内へのCOガスの浸入を防止して、アルカリ土類金属の反応速度を最適な状態にすると共に、金属材料の腐食速度を抑制するために、密閉サイクル内には、不活性ガス、希ガス、窒素ガスの少なくともいずれかが1種以上充填されるようになっている。そして、密閉サイクル内は、絶対圧力で0.5〜2気圧に維持されている。
【0007】
よって、密閉サイクル内と外部とでは、大気圧による圧力差が生じ、反応器等においては、耐圧構造が不可欠となり、装置の体格、重量が増加し、更には装置全体で見たときの蓄熱密度が低下するという問題があった。
【0008】
本発明の目的は、上記問題に鑑み、耐圧構造を不用として小型軽量化を図り、装置全体で見たときの高蓄熱密度を実現可能とする化学蓄熱装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記目的を達成するために、以下の技術的手段を採用する。
【0010】
請求項1に記載の発明では、化学蓄熱装置において、気体の反応媒体(140)と可逆的に発熱および吸熱反応する固体の化学蓄熱材で構成される蓄熱部材(120A、120B)と、
蓄熱部材(120A、120B)を内部に収容すると共に、反応媒体(140)が出入りする開口部(113)を有する反応容器(110)と、
反応媒体(140)を液体の状態にて貯蔵する貯蔵容器(130)と、
開口部(113)および貯蔵容器(130)とを連通させて、反応容器(110)および貯蔵容器(130)間の気体の反応媒体(140)の流通を可能とする連通路(150)とを備え、
反応容器(110)、貯蔵容器(130)、および連通路(150)は、それぞれの外圧が内圧より大きくなるよう構成されており、
反応容器(110)の内面は、蓄熱部材(120A、120B)に密着するように蓄熱部材(120A、120B)を包んでいることを特徴としている。
【0011】
この発明によれば、反応容器(110)、貯蔵容器(130)、および連通路(150)のそれぞれの外圧が内圧よりも大きくなるように構成されているので、貯蔵容器(130)内の液体の反応媒体(140)を、外圧で蒸発する温度よりも低い温度で蒸発させることができる。そして、発生した蒸気を連通路(150)によって反応容器(110)内の蓄熱部材(120A、120B)に供給することができる。そして、気体の反応媒体(140)によって蓄熱部材(120A、120B)を発熱させることができ、発生した熱を必要部位の加熱に利用することができる。尚、発熱反応を終えた蓄熱部材(120A、120B)に吸熱させることで、反応媒体(140)を蒸気として離脱させて、この蒸気を、連通路(150)を介して貯蔵容器(130)に戻すことができる。
【0012】
ここで、反応容器(110)の外圧が内圧より大きくなっており、内外の圧力差によって、反応容器(110)の外側から内側に向けて反応容器(110)を変形させるような力が作用することになるが、反応容器(110)は蓄熱部材(120A、120B)に密着するように蓄熱部材(120A、120B)を包んでいるので、上記の作用力を蓄熱部材(120A、120B)自身が受け返すことができ、反応容器(110)の変形応力を緩和することができる。よって、反応容器(110)自身に耐圧構造を設ける必要がなく、小型軽量化が可能となり、化学蓄熱装置における高蓄熱密度を実現することが可能となる。
【0013】
請求項2に記載の発明では、反応容器(110)、貯蔵容器(130)、および連通路(150)は、それぞれの内圧が大気圧よりも小さくなるよう構成されていることを特徴としている。
【0014】
この発明によれば、大気圧において、反応容器(110)、貯蔵容器(130)、および連通路(150)内を大気圧よりも小さくなるように減圧することで、本化学蓄熱装置を形成することができる。そして、反応媒体(140)を大気圧下で蒸発する温度よりも低い温度で蒸発させることができるので、気体の反応媒体(140)による蓄熱部材(120A、120B)の発熱反応を促進させることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明では、蓄熱部材(120A、120B)は、板状に形成されており、
反応容器(110)は、フィルム状の部材にて形成されており、
板状の蓄熱部材(120A、120B)の側面と、反応容器(110)を形成するフィルム状部材の内面とがそれぞれ密着していることを特徴としている。
【0016】
この発明によれば、反応容器(110)をコンパクトにすることができ、熱出力の向上が可能となる。また、例えば、反応容器(110)を複数個用いる場合等では、積層構造を容易に形成することができる。
【0017】
請求項4に記載の発明では、蓄熱部材(120A、120B)には、最上流端が開口部(113)に通じると共に、気体の反応媒体(140)の流通を許容する通路(122、124)が形成されたことを特徴としている。
【0018】
この発明によれば、気体の反応媒体(140)を蓄熱部材(120A、120B)に供給する際に、開口部(113)から通路(122、124)に反応媒体(140)を流すことができ、反応媒体(140)を蓄熱部材(120A、120B)の広い範囲に渡って均一に供給することができるので、反応速度の分布を緩和して発熱時の反応率を向上させることができ、更なる熱出力の向上が可能となる。
【0019】
請求項5に記載の発明では、化学蓄熱材は、粉末粒子の集合体として形成されており、
通路(122、124)は、蓄熱部材(120A)内に配設された筒状部材(122)の内部空間によって形成され、
筒状部材(122)には、この筒状部材(122)の内部と外部とを連通して気体の反応媒体(140)の出入りを許容する連通口(123)が形成されたことを特徴としている。
【0020】
この発明によれば、蓄熱部材(120A)が粉末状の場合に、筒状部材(122)によって容易に通路(122)を形成することができる。また、連通口(123)を介して気体の反応媒体(140)を蓄熱部材(120A)の広い範囲に渡って均一に供給することができる。
【0021】
請求項6に記載の発明では、連通口(123)の開口面積は、1つの粉末粒子の投影面積よりも小さくなるように形成されたことを特徴としている。
【0022】
この発明によれば、連通口(123)の開口面積を、蓄熱部材(120A)の1つの粉末粒子の投影面積より小さくなるようにしているので、蓄熱部材(120A)が筒状部材(122)内に吸い込まれてしまうのを抑制することができる。
【0023】
請求項7に記載の発明では、蓄熱部材(120B)は、粉末状の化学蓄熱材が結着性を有する物質によって固定されるように形成されており、
通路(122、124)は、固定された蓄熱部材(120B)に彫られた空間(124)として形成されたことを特徴としている。
【0024】
上記請求項5に記載の発明では、粉末状の蓄熱部材(120A)の場合では筒状部材(122)よって通路(122)を形成していた。しかしながら、請求項7に記載の発明では、結着性を有する物質によって蓄熱部材(120B)を固定して1つの成形体としているので、この成形体に彫りこみを入れることで、上記筒状部材(122)を不用として容易に通路(124)を形成することができる。また、筒状部材(122)を不用とすることで、蓄熱部材(120B)としての熱容量を低減して、発熱、吸熱時の反応率を向上させることができる。
【0025】
請求項8に記載の発明のように、結着性を有する物質としては、粘土状鉱物を用いて好適である。
【0026】
更に、請求項9に記載の発明のように、粘土状鉱物としては、セピオライトを用いて好適である。
【0027】
請求項10に記載の発明では、蓄熱部材(120A、120B)は、金属酸化物が用いられ、
反応媒体(140)は、水、二酸化炭素、及びアンモニアのうち何れかが用いられたことを特徴としている。
【0028】
この発明によれば、これら材料選定により蓄熱密度の高い化学蓄熱装置(100)とすることができる。
【0029】
請求項10に記載の発明に対して、具体的には、請求項11に記載の発明のように、金属酸化物としては、酸化カルシウムまたは酸化マグネシウムを用い、
反応媒体(140)としては、水を用いて好適である。
【0030】
また、請求項11に記載の発明に対して、請求項12に記載の発明のように、蓄熱部材(120A、120B)には、金属塩が添加されるよう構成されたものとするのが良い。
【0031】
蓄熱部材(120A、120B)に金属塩を添加すると、蓄熱部材(120A、120B)の吸熱反応時における温度を下げることができるので、吸熱反応を促進させることができる。
【0032】
請求項13に記載の発明のように、金属塩としては、塩化リチウムを用いて好適である。
【0033】
請求項14に記載の発明では、貯蔵容器(130)には、反応媒体(140)を加熱する加熱部(171、172、173)が設けられたことを特徴としている。
【0034】
この発明によれば、加熱部(171、172、173)によって気体の反応媒体(140)の圧力を上昇させることができるので、反応容器(110)への気体の反応媒体(140)の供給量を増大させることができ、蓄熱部材(120A、120B)の発熱反応を促進させることができる。
【0035】
請求項15に記載の発明では、加熱部(171)は、外部からのエネルギが投入されることで加熱機能を果たすことを特徴としている。
【0036】
この発明によれば、加熱応答の速い加熱部(171)の設定が容易となる。
【0037】
請求項16に記載の発明では、エネルギ変換システム(10)に適用される化学蓄熱装置であって、
貯蔵容器(130)は、エネルギ変換システム(10)における排熱源に配設され、
加熱部(172)は、排熱源の排熱によって直接的に反応媒体(140)を加熱することを特徴としている。
【0038】
この発明によれば、排熱源の排熱を有効活用して気体の反応媒体(140)の圧力を上昇させることができ、蓄熱部材(120A、120B)の発熱反応を促進させることができる。
【0039】
請求項17に記載の発明では、エネルギ変換システム(10)に適用される化学蓄熱装置であって、
貯蔵容器(130)は、エネルギ変換システム(10)における排熱源以外の場所に配設され、
排熱源から貯蔵容器(130)に熱を輸送する熱輸送手段(173a)を備え、
加熱部(173)は、排熱源の排熱を、熱輸送手段(173a)を介して間接的に用いることで反応媒体(140)を加熱することを特徴としている。
【0040】
この発明によれば、排熱源に対して貯蔵容器(130)の設定位置が制約されることなく、貯蔵容器(130)に加熱部(173)を設けることができると共に、排熱源の排熱を有効活用して気体の反応媒体(140)の圧力を上昇させることができ、蓄熱部材(120A、120B)の発熱反応を促進させることができる。
【0041】
請求項18に記載の発明では、連通路(150)には、この連通路(150)の流路断面積を調整する流路断面積調整機構(160)が設けられたことを特徴としている。
【0042】
この発明によれば、連通路(150)に設けられた流路断面積調整手段(160)によって、貯蔵容器(130)から反応容器(110)に向かう気体の反応媒体(140)の流量、および反応容器(110)から貯蔵容器(130)に向かう気体の反応媒体(140)の流量を調整できるので、必要なタイミングで蓄熱部材(120A、120B)に発熱反応、あるいは吸熱反応を起させることができる。
【0043】
尚、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】第1実施形態における化学蓄熱装置の全体を示す概略図である。
【図2】図1における反応器を示す斜視図である。
【図3】第1実施形態における反応容器の内部を示す分解斜視図である。
【図4】図3における分岐パイプを示す斜視図である。
【図5】第2実施形態における反応容器の内部を示す分解斜視図である。
【図6】図5における蓄熱部材を示す斜視図である。
【図7】第5実施形態における化学蓄熱装置の全体を示す概略図である。
【図8】第6実施形態における化学蓄熱装置の全体を示す概略図である。
【図9】その他の実施形態におけるヘッダパイプ、および分岐パイプを示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための複数の形態を説明する。各形態において先行する形態で説明した事項に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略する場合がある。各形態において構成の一部のみを説明している場合は、構成の他の部分については先行して説明した他の形態を適用することができる。各実施形態で具体的に組み合わせが可能であることを明示している部分同士の組み合わせばかりではなく、特に組み合わせに支障が生じなければ、明示していなくても実施形態同士を部分的に組み合せることも可能である。
【0046】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図1〜図4を用いて説明する。第1実施形態における化学蓄熱装置100Aは、車両用のエンジン10の排熱(ここでは排気の熱)を効果的に蓄熱すると共に、その熱を毎回のエンジン10始動時に加熱対象としての触媒12に回収するようにしたものである。図1は第1実施形態における化学蓄熱装置100Aの全体を示す概略図、図2は図1における反応器101を示す斜視図、図3は反応容器110の内部を示す分解斜視図、図4は分岐パイプ122を示す斜視図である。尚、図3の分解斜視図においては、蓄熱部材120Aは便宜的にそれぞれの容器111、112に分割されたように表示している。
【0047】
図1に示すように、エンジン10は水冷式の内燃機関であり、大きく捉えればエンジン10は、燃料を燃焼させた時の熱エネルギを走行用の運動エネルギに変換するエネルギ変換システムである。エンジン10は、燃料が燃焼した後の排気が排出される排気管11を有している。そして、排気管11の途中部位には、触媒12が設けられている。触媒12は、排気を浄化するものであり、例えばセラミック材から成る角柱状の部材(モノリス)に触媒物質が付加されて形成されている。
【0048】
図1〜図4に示すように、化学蓄熱装置100Aは、反応器101、貯蔵容器130、反応媒体140、連通路150、バルブ160、ヒータ171、および制御部180を備えている。
【0049】
反応器101は、ヘッダパイプ121、分岐パイプ122、および蓄熱部材120Aが内部に配設された反応容器110とフィン114とを備えている。反応容器110は、フィルム状の薄肉板部材から形成された第1容器111と第2容器112とが互いに向かい合うように接合されて形成されている。第1、第2容器111、112は、例えばステンレス製の板厚0.1mm程度の板部材から形成されており、両者同一の形状を成している。
【0050】
第1、第2容器111、112は、外観形状が縦長の長方形状を成しており、外周にフランジ部111a、112aが形成され、また、このフランジ部111a、112aの内側領域は、板厚方向に所定量だけ膨出された膨出部として形成されており、この膨出部における膨出側の平面部が、膨出平面部111b、112bとなっている。第1、第2容器111、112は、膨出部における開口側が互いに向き合うようにして最中合わせされて、フランジ部111a、111bにおいて互いに溶接されている。反応容器110は、板状の扁平容器となっている。また、第1、第2容器111、112の長方形状の短辺の一方(ここでは上側)には、切欠き部111c、112cが形成されており、この切欠き部111c、112cによって反応容器110の内部と外部とを連通する開口部113が形成されている。
【0051】
ヘッダパイプ121、および分岐パイプ122は、その内部空間によって後述する蓄熱部材120Aにおける通路を形成する筒状部材である。ヘッダパイプ121は、長手方向の両端部が閉塞されたパイプであり、長手方向が反応容器110の一方の短辺に沿うようにして開口部113に近接した位置に配置されている。ヘッダパイプ121の中央位置には、後述する分岐通路152が接続される接続開口部121aが形成されている。また、ヘッダパイプ121の周方向における接続開口部121aとは反対側には、複数の分岐パイプ122が接続されている。
【0052】
分岐パイプ122は、反応容器110の長辺に沿うように延設されており、ヘッダパイプ121の長手方向に沿って並ぶように複数設けられている。分岐パイプ122の延設された先端部は閉塞されている。
【0053】
そして、ヘッダパイプ121、および分岐パイプ122には、各パイプ121、122の内部と外部とを連通させる複数の連通口123が穿設されている。連通口123は各パイプ121、122の全体に渡って偏りなく均等に分布するように設けられている。連通口123の開口面積は、後述する粉末状の蓄熱部材120Aの1つの粉末粒子を外部から投影した時の投影面積よりも小さくなるように設定されている。例えば、蓄熱部材120Aを形成する粉末粒子の平均粒径は、10μm程度であり、連通口123の内径はそれよりも小さい孔となるように、レーザ加工等によって形成されている。
【0054】
蓄熱部材120Aは、気体の反応媒体140と可逆的に発熱反応および吸熱反応する固体の化学蓄熱材から形成されている。第1実施形態では、蓄熱部材120Aとして金属酸化物を用いており、更に具体的には例えばアルカリ土類金属の酸化物として、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)等を用いている。また、第1実施形態では蓄熱部材120Aは、粉末粒子の集合体から成る固体の化学蓄熱材を用いている。粉末状の蓄熱部材120Aは、上記のように反応容器110の内部に配設された各パイプ121、122の外側を覆うように反応容器110の内部に充填されている。よって、反応容器110の内面は、蓄熱部材120Aの外面に密着するように蓄熱部材120を包んでいる。
【0055】
上記のように内部に各パイプ121、122、および蓄熱部材120Aを備える反応容器110は、1つのユニットを形成し、この反応容器110が第1、第2容器111、112の接合される方向に複数積層されて、更に積層された反応容器110の間に、薄肉板材がクランク状に折り曲げられて形成された波形のフィン114が介在されて、反応器101が形成されている。反応器101は、エンジン10の排気管11における触媒12よりも排気流れの上流側で、排気管11内に配設されている。反応器101の各反応容器110が積層される方向に対して、排気流れ方向が直交するように反応器101は排気管11内に配置されている。よって、排気は各反応容器110の間(フィン114の部位)を流通するようになっている。
【0056】
貯蔵容器130は、反応媒体140を液体の状態で貯蔵する容器体であり、例えばステンレス材あるいは鉄材から形成されている。反応媒体140は、水、二酸化炭素、およびアンモニア等が好適な媒体として設定が可能であり、ここでは水を使用している。反応媒体140は、後述する放熱モード実行時に必要とされる予め定められた所定量が貯蔵容器130内に貯蔵されている。
【0057】
連通路150は、各反応容器110の内部(ヘッダパイプ121、および分岐パイプ122の内部)と、貯蔵容器130の内部とを連通させて、各反応容器110と貯蔵容器130との間で、反応媒体140の流通を可能とする通路である。連通路150は、例えば管部材から形成された主通路151と分岐通路152とを備えている。
【0058】
主通路151は、各反応容器110と貯蔵容器130との間で主たる通路を形成するものであり、また、分岐通路152は、各反応容器110に向けて主通路151から複数分岐する通路を形成するものである。分岐通路152は、主通路151の一端側において、主通路151に対して直交する方向に延設されて、主通路151の長手方向に複数並ぶように接続されている。そして、複数の各分岐通路152の先端部は、上記の反応容器110における各開口部113を通りヘッダパイプ121の接続開口部121aに接続されている。また、主通路151の他端側は、貯蔵容器130の上面に接続されている。
【0059】
よって、反応容器110の内部と貯蔵容器130の内部とは、主通路151、分岐通路152、ヘッダパイプ121、分岐パイプ122、および連通口123を介して互いに連通している。
【0060】
そして、上記の反応容器110、貯蔵容器130、および連通路150は、それぞれの外圧が内圧よりも大きくなるように設定されている。具体的には、反応容器110、貯蔵容器130、および連通路150は、それぞれの内圧が大気圧よりも小さくなるように、内部は外部の大気圧(略100kPa)に対して減圧されている。更に詳述すると、両者110、130の内部は、略真空状態に維持され、主に貯蔵容器130内の反応媒体140が蒸気となった蒸気圧(例えば3kPa程度)のみが存在するようになっている。水(反応媒体140)の沸点は、通常、一気圧で100℃であるが、上記のように真空状態とされていることから、沸点は30〜40℃となる。
【0061】
バルブ160は、連通路150(主通路151)の流路断面積を調整する流路断面積調整機構であり、連通路150の途中部位に設けられている。バルブ160は、例えば電力供給することで変化する磁力によって弁体が開閉される電磁弁が用いられており、この弁体によって連通路150が開閉されるようになっている。バルブ160は、後述する制御部180によって開閉状態が制御されるようになっている。
【0062】
ヒータ171は、貯蔵容器130内の反応媒体140を加熱する加熱手段であり、ここでは、電力供給によって発熱する電気式のヒータとしている。ヒータ171は、後述する制御部180によって、加熱の作動、停止が制御されるようになっている。
【0063】
制御部180は、例えば蓄熱部材120Aの温度を検出する温度センサ(図示せず)からの温度信号、エンジン10の始動信号等が入力されて、これら信号に基づいてバルブ160の開閉状態、およびヒータ171の作動状態を制御する制御手段である。
【0064】
次に、上記構成に基づく化学蓄熱装置100Aの作動について説明する。制御部180は、エンジン10の始動から停止の間(走行時)に放熱モード、および蓄熱モードを実行するようになっている。以下、各モードについて詳細に説明する。
【0065】
1.放熱モード
制御部180は、エンジン10が始動されると、バルブ160を開状態とすると共に、ヒータ171を作動させる。エンジン10の始動時においては、まだ、排気の温度は充分に上昇していない状態にある。
【0066】
貯蔵容器130内の反応媒体140は、その条件下における温度に応じた圧力の蒸気を発生する(蒸発する)。蒸発が進むと蒸発時の蒸発潜熱によって反応媒体140の温度が低下していき蒸発が抑えられることになるが、ヒータ171の作動によって反応媒体140が加熱され、蒸発が継続される。蒸気となった反応媒体140は、その蒸気圧力によって連通路150の主通路151、および分岐通路152を通り、更にヘッダパイプ121、分岐パイプ122、連通口123を通り反応容器110内の蓄熱部材120Aに流入する。すると、蓄熱部材120Aの収着作用によって蓄熱部材120Aから熱が発生する。この反応は、以下の化学反応式1、あるいは化学反応式2における左辺から右辺への反応として示すことができる。化学反応式1は蓄熱部材120Aが酸化カルシウム(CaO)の場合、化学反応式2は蓄熱部材120Aが酸化マグネシウム(MgO)の場合を示すものである。
【0067】
【化1】

【0068】
【化2】

蓄熱部材120Aの化学反応によって発生した熱によって、複数の反応容器110の間を通過する排気が加熱され、更にこの加熱された排気によって触媒12が積極的に加熱されることになる(始動時の触媒暖機)。
【0069】
尚、制御部180は、本放熱モード開始からの経過時間、蓄熱部材120Aの温度信号等を基にして、蓄熱部材120Aに反応媒体140が収着する反応が充分に進んだ(例えば100%レベル)と判断するとバルブ160を閉状態とすると共に、ヒータ171を停止させる。バルブ160を閉状態とし、ヒータ171を停止することで、蓄熱部材120Aに対する反応媒体140の供給が停止される。
【0070】
2.蓄熱モード
上記放熱モードを実行した後に、経過時間と共に排気の温度が充分に上昇し、温度センサの温度信号より、蓄熱部材120Aの温度が所定の温度まで上昇すると、制御部180は、バルブ160を開状態にすると共に、ヒータ171を停止状態にする。
【0071】
蓄熱部材120Aにおいては排気の熱によって蓄熱部材120Aに収着された反応媒体140が離脱されることになる。この反応は、上記で説明した化学反応式1、あるいは化学反応式2における右辺から左辺への反応として示すことができる。バルブ160を開状態とすることで、離脱された反応媒体140は、連通口123、分岐パイプ122、ヘッダパイプ121、更に連通路150の分岐通路152、および主通路151を通り、貯蔵容器130に流入する。この時、ヒータ171は停止されているので、反応媒体140の熱は貯蔵容器130の外部に放出されることになり、反応媒体140は凝縮して水となって貯蔵容器130に溜められていく。この時、蓄熱部材120Aによる触媒12の加熱は停止されることになる。
【0072】
制御部180は、本蓄熱モード開始からの経過時間、温度センサの温度信号等を基にして、蓄熱部材120Aに反応媒体140が離脱する反応が充分に進んだ(例えば0%レベル)と判断すると、バルブ160を閉状態とする。バルブ160を閉状態とすることで、貯蔵容器130から蓄熱部材120Aへの反応媒体140の流入が阻止されて、蓄熱部材120Aの蓄熱状態(反応媒体111が離脱された状態)が維持される。
【0073】
以上のように、本実施形態では、まず放熱モードを実行することによって、エンジン10の始動時で、排気の温度が充分に上昇していない時に、蓄熱部材120Aに反応媒体140を供給して発熱させ、その熱で排気、更には触媒12を積極的に加熱することができる(始動時暖機)。
【0074】
また、触媒12が充分に加熱された後に、蓄熱モードを実行することによって、触媒12の加熱を停止させることができる。そして、排気の熱によって、反応媒体140を蓄熱部材120Aから離脱させると共に、バルブ160を閉じることで、蓄熱部材120Aへの反応媒体140の供給を阻止して、蓄熱部材120Aに対して反応媒体140の離脱した状態(蓄熱状態)を維持することができる。
【0075】
そして、本実施形態では、反応容器110、貯蔵容器130、および連通路150の内圧が大気圧よりも小さくなるように設定されるものにおいて、反応容器110の内面は、固体の蓄熱部材120Aの外面に密着するように形成されている。
【0076】
よって、反応容器110の内部は、外部の大気圧との圧力差によって、反応容器110の外側から内側に向けて反応容器110を変形させるような力が作用することになるが、反応容器110の内面は蓄熱部材120Aの外面と密着するように形成されているので、この作用力を蓄熱部材120A自身が受け返すことができ、反応容器110の変形応力を緩和することができる。したがって、反応容器110自身に耐圧構造を設ける必要がなく、小型軽量化が可能となり、化学蓄熱装置100Aにおける高蓄熱密度を実現することが可能となる。
【0077】
また、連通路150にバルブ160を設けるようにしているので、このバルブ160によって貯蔵容器130から反応容器110に向かう気体の反応媒体140の流量、および反応容器110から貯蔵容器130に向かう気体の反応媒体140の流量を調整でき、必要なタイミングで蓄熱部材120Aに発熱反応、あるいは吸熱反応を起させることができる。
【0078】
また、反応容器110を板状の扁平容器として形成して、その内部に粉末状の蓄熱部材120Aを充填しているので、反応容器110をコンパクトにすることができ、熱出力の向上が可能となる。また、本実施形態のように反応容器110を複数個用いる場合では、積層構造を容易に形成することができる。
【0079】
また、蓄熱部材120Aには、ヘッダパイプ121、および分岐パイプ122の内部空間によって形成される通路を設け、各パイプ121、122には連通口123を設けるようにしている。そして、各パイプ121、122のうち、分岐パイプ122は、最上流端が開口部113に通じると共に、板状の最長軸方向(長辺方向)に向けて延設されているので、気体の反応媒体140を蓄熱部材120Aに供給する際に、開口部113からヘッダパイプ121、および分岐パイプ122に反応媒体を流すことができ、反応媒体140を蓄熱部材120Aの広い範囲に渡って均一に供給することができ、反応速度の分布を緩和して発熱時の反応率を向上させることができ、熱出力の向上が可能となる。
【0080】
また、本実施形態では粉末状の蓄熱部材120Aを用いており、蓄熱部材120Aの内部空間の形成にあたってヘッダパイプ121、および分岐パイプ122を用いることで、蓄熱部材120Aに容易に通路を形成することができる。
【0081】
また、ヘッダパイプ121、および分岐パイプ122に設けた連通口123の開口面積を、粉末状の蓄熱部材120Aの1つの粉末粒子の投影面積より小さくなるようにしているので、蓄熱部材120Aが各パイプ121、122内に吸い込まれてしまうのを抑制することができる。
【0082】
また、貯蔵容器130には、反応媒体140を加熱する加熱部としてのヒータ171を設けるようにしているので、ヒータ171によって気体の反応媒体140の圧力を上昇させることができ、反応容器110への気体の反応媒体140の供給量を増大させることができ、蓄熱部材120Aの発熱反応を促進させることができる。
【0083】
また、加熱手段としてヒータ171を用いているので、加熱応答の速い加熱部の設定が容易となる。
【0084】
(第2実施形態)
第2実施形態を図5、図6に示す。第2実施形態は、上記第1実施形態に対して、粉末状の蓄熱部材120Aに対して、粉末状の化学蓄熱材を結着して固定させた蓄熱部材120Bとしている。
【0085】
蓄熱部材120Bは、粉末状の化学蓄熱材が、結着性を有する物質(以下、結着物質と呼ぶ)によって固定されて成形体として形成されている。蓄熱部材120Bの形成にあたっては、結着物質として粘土状鉱物、更に詳しくは例えばセピオライトを用いている。即ち、粉末状のセピオライトに水、バインダを混合し、更にこの水、バインダの混合されたセピオライトと、粉末状の化学蓄熱材とを混合し、練り合わせて(以下、混練物)、所定の形状となるように成形した後に、高温下で焼付けすることで成形体としての蓄熱部材120Bが形成されている。
【0086】
本実施形態では、蓄熱部材120Bは、反応容器110の内部空間形状に対応するように縦長の長方形の板状に形成された2つの蓄熱部材120Bが板厚方向に重ね合わされて形成されている。各蓄熱部材120Bの板状に拡がる外側の面、つまり側面が外側板面120a、120bとなっている。そして、板状の蓄熱部材120Bのそれぞれには、一方(ここでは上側)の短辺に沿う方向に一つの、更に長辺に沿う方向に複数の溝124が形成されている。短辺に沿う溝と長辺に沿う溝は互いに繋がっている。溝124は、上記混練物を所定の型内に入れて、所定の加圧力でプレスすることで成形可能である。また、溝124は、上記混連物を板状に形成して、その後に、彫りこみすることでも成形可能である。そして、この溝124が互いに対向するように2つの蓄熱部材120Bを板厚方向に重ね合わせることで、蓄熱部材120Bの内部には溝124によって通路(彫られた空間)が形成されている。
【0087】
本実施形態では、上記第1実施形態と同様に、この通路にヘッダパイプ121、および分岐パイプ122を挿入している。ただし、分岐パイプ122の先端までの長さを長辺方向の溝124の長さよりも所定長さだけ短くして、通路(溝124)と分岐パイプ122との間に隙間124aが形成されるようにしている。
【0088】
そして、内部にヘッダパイプ121、および分岐パイプ122の挿入された蓄熱部材120Bは、反応容器110内に収容されている。このとき、蓄熱部材120Bの外側板面120a、120bが、反応容器110の膨出平面部111b、112bの内面と密着するようにしている。
【0089】
第2実施形態の作動および作用効果は、基本的に上記第1実施形態と同一である。加えて、蓄熱部材120Bを、結着物質による成形体としいるので、取り扱いが容易となり装置の組立て等の工数を低減できる。本実施形態で使用した結着物質としての粘土状鉱物は、金属酸化物との親和性が良く、蓄熱部材120Bの良好な固定状態を形成することができる。また、蓄熱部材120Bの通路において、隙間124aを形成するようにしているので、通路における反応媒体140の拡散効果を高めて、発熱時の反応率を向上させることができ、熱出力の向上が可能となる。
【0090】
(第3実施形態)
第3実施形態は、上記第2実施形態に対して、ヘッダパイプ121、および分岐パイプ122を廃止したものである。
【0091】
結着物質によって化学蓄熱材を良好且つ強固に結着させることで、結着後の蓄熱部材120Bの崩壊の心配がない場合であれば、ヘッダパイプ121、および分岐パイプ122を廃止して、蓄熱部材120Bの溝124によって形成される通路をそのまま気体の反応媒体140が流通する通路とすることができる。よって、筒状部材としてのヘッダパイプ121、および分岐パイプ122を不用とすることで、蓄熱部材120Bとしての熱容量を低減して、発熱、吸熱時の反応率を向上させることができる。
【0092】
(第4実施形態)
第4実施形態は、上記第2実施形態に対して、蓄熱部材120Bの形成における結着物質を変更したものである。結着物質は、金属塩とすることができる。つまり、蓄熱部材120Bには、金属塩が添加されたものとなる。具体的な金属塩としては、例えば塩化リチウムを用いて好適である。
【0093】
結着物質として金属塩を用いると、蓄熱部材120Bの良好な固定化を可能とすると共に、蓄熱部材120Bの吸熱反応時における温度を下げることができるので、吸熱反応を促進させることができる。
【0094】
(第5実施形態)
第5実施形態における化学蓄熱装置100Bを図7に示す。本実施形態は、上記第1実施形態に対して、加熱部(ヒータ171)を変更したものである。本実施形態の加熱部172は、エネルギ変換システムであるエンジン10の排熱源の排熱を直接的に活用したものとしている。排熱源の排熱は、ここでは排気の熱に対応する。
【0095】
本実施形態の貯蔵容器130は、排気管11の近傍に配置されている。排気管11には、排気の一部を流通可能とするバイパス通路172aが形成されて、このバイパス通路172aの途中部位が貯蔵容器130内に配設されている。また、バイパス通路172aの排気管11と貯蔵容器130との間となる途中部位には、このバイパス通路172aを開閉するバルブ172bが設けられている。バルブ172bは、制御部180によってその開閉が制御されるようになっている。本実施形態では、バイパス通路172a、およびバルブ172bによって加熱部172が形成されている。
【0096】
本実施形態では、放熱モード時において、制御部180は、バルブ172bを開状態とする。すると、排気管11を流れる排気の一部は、バイパス通路172aを通り、排気の熱を貯蔵容器130内の反応媒体140に放出して、反応媒体140を加熱する。よって、排気の熱を直接的に活用して貯蔵容器130内の反応媒体140の蒸発を促進させて、圧力を上昇させて、蓄熱部材120Aの発熱反応を促進させることができる。
【0097】
(第6実施形態)
第6実施形態における化学蓄熱装置100Cを図8に示す。本実施形態は、上記第1実施形態に対して、加熱部(ヒータ171)を変更したものである。本実施形態の加熱部173は、エネルギ変換システムであるエンジン10の排熱源の排熱を間接的に活用したものとしている。排熱源の排熱は、ここでは排気の熱に対応する。
【0098】
本実施形態の貯蔵容器130は、排気管11から離れた位置に配置されている。また、加熱部173は、熱輸送手段としての熱媒体通路173aとバルブ173bとを備えている。
【0099】
熱媒体通路173aは、環状に形成された通路であり、その一部が排気管11の内部に配設され、また他の一部が貯蔵容器130の内部に配設されている。熱媒体通路173aの内部には所定量の熱媒体が封入されている。熱媒体の封入された熱媒体通路173aは環状のヒートパイプを形成している。また、バルブ173bは、熱媒体通路173aを開閉する開閉手段であり、熱媒体通路173aの途中部位に設けられている。バルブ173bは、制御部180によってその開閉が制御されるようになっている。
【0100】
本実施形態では、放熱モード時において、制御部180は、バルブ173bを開状態とする。すると、排気管11を流れる排気の熱によって、熱媒体通路173a内の熱媒体が沸騰して蒸気となり、その蒸気は、貯蔵容器130側に流れ、蒸気の熱を反応媒体140に放出して、反応媒体140を加熱する。蒸気の熱を放出した熱媒体は、凝縮して排気管11側に還流し、この作動が繰り返されることで、反応媒体140が加熱されることになる。よって、排気の熱を間接的に活用して貯蔵容器130内の反応媒体140の蒸発を促進させて、圧力を上昇させて、蓄熱部材120Aの発熱反応を促進させることができる。本実施形態では、排気管11に対して貯蔵容器130の設定位置が制約されることなく、貯蔵容器130に加熱部173を設けることができる。
【0101】
(その他の実施形態)
上記各実施形態では、反応容器110および蓄熱部材120A、120Bを長方形の扁平板状に形成されるものとしたが、これに限らず、円筒状、角筒状等に形成されるものとしても良い。この場合、反応容器110の長手方向に沿う面の内側と対向する蓄熱部材120A、120Bの面とを密着させると良い。
【0102】
また、蓄熱部材120A、120Bの通路を形成するためのヘッダパイプ121、分岐パイプ122の組み合わせ配置は、上記各実施形態のものに対して、図9に示すように、ヘッダパイプ121を蓄熱部材120A、120Bの長辺に沿う方向に延設させて、蓄熱部材120A、120Bの中心に配置し、また、分岐パイプ122をヘッダパイプ121の径方向の両側で、互いに反対側へ延設させて、ヘッダパイプ121の長手方向に複数並ぶようにしたものとしても良い。
【0103】
また、ヘッダパイプ121、分岐パイプ122には、複数の連通口123を設けるようにしたが、連通口123を廃止して、各パイプ121、122の長手方向に延びるスリットを備えるものとしても良い。粉末状の蓄熱部材120Aを使用する場合は、スリットの幅寸法を蓄熱部材120Aの1つの粉末粒子の径よりも小さく設定する。更に、各パイプ121、122は、微細な網目を有するメッシュパイプによって形成するようにしても良い。この場合は、後加工による連通口123の形成が不要となる。
【0104】
また、蓄熱部材120A、120Bにおける反応媒体140との反応が良好に得られるならば、通路(各パイプ121、122、溝124)を廃止して、蓄熱部材が単に反応容器110内に収容されたものとしても良い。
【0105】
また、蓄熱部材120として金属酸化物、更に詳しくはアルカリ土類金属の酸化物として酸化カルシウム、酸化マグネシウムを使用したが、これに限らず、他のアルカリ土類金属(バリウムBa、ストロンチウムSr)、あるいは遷移金属(銅Cu、鉄Fe、マンガンMn)、あるいは両性金属(アルミニウムAl、亜鉛Zn、錫Sn、鉛Pb)の酸化物を用いても良い。
【0106】
また、反応媒体140として水を使用したが、これに限らず、アンモニアNH、二酸化炭素CO、メタノールCHOH、エタノールCOH等としても良い。
【0107】
また、結着物質としての粘土状鉱物としてセピオライトを使用したが、これに限らず、モンモリロナイト、ベントナイト、カオリン等としても良い。
【0108】
また、結着物質としての金属塩として塩化リチウムを使用したが、これに限らず、アルカリ金属(Li、K、Na)イオンの群から選択される1つのカチオンと、ハロゲン(F、Cl)イオンの群から選択される1つのアニオンとの組み合わせからなる金属塩等としても良い。
【0109】
また、連通路150の流路断面積を調整する流路断面積調整機構としてのバルブ160に、電磁弁を用いたが、この他にも、モータの駆動力によって弁体が駆動される電気式の駆動弁等を用いても良い。
【0110】
また、各実施形態の化学蓄熱装置100A〜100Cは、車両の排気を浄化する触媒12の暖機用に使用されるものとしたが、これに限らず、エンジン10の冷却水、エンジンオイル、自動変速機のATF等の暖機に使用されるものとしても良い。
【0111】
また、反応器101は、複数の反応容器110を組み合わせて形成するようにしたが、少なくとも1つの反応容器110としたものでも良い。1つの反応容器110とする場合は、フィン114を膨出平面部111b、112bの両側に設けたものとすると良い。
【符号の説明】
【0112】
10 エンジン(エネルギ変換システム)
100A〜100C 化学蓄熱装置
110 反応容器
113 開口部
120A、120B 蓄熱部材
122 分岐パイプ(通路、筒状部材)
123 連通口
124 溝(通路、彫られた空間)
130 貯蔵容器
140 反応媒体
150 連通路
160 バルブ(流路断面積調整機構)
171 ヒータ(加熱部)
172 加熱部
173 加熱部
173a 加熱媒体通路(熱輸送手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体の反応媒体(140)と可逆的に発熱および吸熱反応する固体の化学蓄熱材で構成される蓄熱部材(120A、120B)と、
前記蓄熱部材(120A、120B)を内部に収容すると共に、前記反応媒体(140)が出入りする開口部(113)を有する反応容器(110)と、
前記反応媒体(140)を液体の状態にて貯蔵する貯蔵容器(130)と、
前記開口部(113)および前記貯蔵容器(130)とを連通させて、前記反応容器(110)および前記貯蔵容器(130)間の前記気体の反応媒体(140)の流通を可能とする連通路(150)とを備え、
前記反応容器(110)、前記貯蔵容器(130)、および前記連通路(150)は、それぞれの外圧が内圧より大きくなるよう構成されており、
前記反応容器(110)の内面は、前記蓄熱部材(120A、120B)に密着するように前記蓄熱部材(120A、120B)を包んでいることを特徴とする化学蓄熱装置。
【請求項2】
前記反応容器(110)、前記貯蔵容器(130)、および前記連通路(150)は、それぞれの内圧が大気圧よりも小さくなるよう構成されていることを特徴とする請求項1に記載の化学蓄熱装置。
【請求項3】
前記蓄熱部材(120A、120B)は、板状に形成されており、
前記反応容器(110)は、フィルム状の部材にて形成されており、
板状の前記蓄熱部材(120A、120B)の側面と、前記反応容器(110)を形成する前記フィルム状部材の内面とがそれぞれ密着していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の化学蓄熱装置。
【請求項4】
前記蓄熱部材(120A、120B)には、最上流端が前記開口部(113)に通じると共に、前記気体の反応媒体(140)の流通を許容する通路(122、124)が形成されたことを特徴とする請求項3に記載の化学蓄熱装置。
【請求項5】
前記化学蓄熱材は、粉末粒子の集合体として形成されており、
前記通路(122、124)は、前記蓄熱部材(120A)内に配設された筒状部材(122)の内部空間によって形成され、
前記筒状部材(122)には、前記筒状部材(122)の内部と外部とを連通して前記気体の反応媒体(140)の出入りを許容する連通口(123)が形成されたことを特徴とする請求項4に記載の化学蓄熱装置。
【請求項6】
前記連通口(123)の開口面積は、1つの前記粉末粒子の投影面積よりも小さくなるように形成されたことを特徴とする請求項5に記載の化学蓄熱装置。
【請求項7】
前記蓄熱部材(120B)は、粉末状の前記化学蓄熱材が結着性を有する物質によって固定されるように形成されており、
前記通路(122、124)は、前記固定された蓄熱部材(120B)に彫られた空間(124)として形成されたことを特徴とする請求項4〜請求項6のいずれか1項に記載の化学蓄熱装置。
【請求項8】
前記結着性を有する物質は、粘土状鉱物が用いられたことを特徴とする請求項7に記載の化学蓄熱装置。
【請求項9】
前記粘土状鉱物は、セピオライトが用いられたことを特徴とする請求項8に記載の化学蓄熱装置。
【請求項10】
前記蓄熱部材(120A、120B)は、金属酸化物が用いられ、
前記反応媒体(140)は、水、二酸化炭素、及びアンモニアのうち何れかが用いられたことを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の化学蓄熱装置。
【請求項11】
前記金属酸化物は、酸化カルシウムまたは酸化マグネシウムが用いられ、
前記反応媒体(140)は、水が用いられことを特徴とする請求項10に記載の化学蓄熱装置。
【請求項12】
前記蓄熱部材(120A、120B)は、金属塩が添加されるよう構成されたことを特徴とする請求項11に記載の化学蓄熱装置。
【請求項13】
前記金属塩は、塩化リチウムが用いられたことを特徴とする請求項12に記載の化学蓄熱装置。
【請求項14】
前記貯蔵容器(130)には、前記反応媒体(140)を加熱する加熱部(171、172、173)が設けられたことを特徴とする請求項1〜請求項13のいずれか1項に記載の化学蓄熱装置。
【請求項15】
前記加熱部(171)は、外部からのエネルギが投入されることで加熱機能を果たすことを特徴とする請求項14に記載の化学蓄熱装置。
【請求項16】
エネルギ変換システム(10)に適用される化学蓄熱装置であって、
前記貯蔵容器(130)は、前記エネルギ変換システム(10)における排熱源に配設され、
前記加熱部(172)は、前記排熱源の排熱によって直接的に前記反応媒体(140)を加熱することを特徴とする請求項14または請求項15に記載の化学蓄熱装置。
【請求項17】
エネルギ変換システム(10)に適用される化学蓄熱装置であって、
前記貯蔵容器(130)は、前記エネルギ変換システム(10)における排熱源以外の場所に配設され、
前記排熱源から前記貯蔵容器(130)に熱を輸送する熱輸送手段(173a)を備え、
前記加熱部(173)は、前記排熱源の排熱を、前記熱輸送手段(173a)を介して間接的に用いることで前記反応媒体(140)を加熱することを特徴とする請求項14または請求項15に記載の化学蓄熱装置。
【請求項18】
前記連通路(150)には、前記連通路(150)の流路断面積を調整する流路断面積調整機構(160)が設けられたことを特徴とする請求項1〜請求項17のいずれか1項に記載の化学蓄熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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