説明

化成処理剤及び表面処理金属

【課題】局所的な低抵抗部が少ない化成皮膜を形成するも、低電圧印加領域における被塗装物部分の電着塗装性を向上させることができる化成処理剤を提供する。
【解決手段】当該化成処理剤により、局所的な低抵抗部22の数が少ない化成皮膜21を形成する場合であっても、その化成皮膜21中において金属微粒子、半導体微粒子、及び導電性有機物微粒子の少なくとも一種を共析させる。これにより、その微粒子に基づくトンネル効果を利用して、電着塗装における電圧印加時に局所的な通電部を増加させ、低電圧印加領域における被塗装物部分おいて、塗膜の析出を促進させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化成処理剤及び表面処理金属に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の塗装工程においては、一般的に、被塗装物に対するカチオン電着塗装の前にに、被塗装物に対して化成処理が行われる。このような化成処理においては、化成処理剤として、リン酸亜鉛を主成分としたリン酸亜鉛処理剤が多く用いられており、リン酸亜鉛処理剤を用いて被塗装物に対して化成処理を行えば、カチオン電着塗装工程において、良好な電着塗装性(塗膜膜厚特性)を得ることができる。しかし、リン酸亜鉛処理剤は、そのリン酸イオンが富栄養化をもたらし、また、化成処理に伴って、廃棄すべきスラッジを生成するという問題点を有している。このため、このような問題点を解決すべく、特許文献1に示すように、ジルコニウム、チタン、及びハフニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種、フッ素、並びに水溶性樹脂からなる金属酸化物タイプの化成処理剤が提案されている。
【0003】
ところで、近時、ジルコニウム化合物を主成分とした化成処理剤が開発されつつある。この化成処理剤は、前述の問題点を解決できるだけでなく、コスト面、品質面等でも優れている。
【特許文献1】特開2004−218074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ジルコニウム化合物を主成分とした化成処理剤を用いて被塗装物に対して化成処理を行った場合には、リン酸亜鉛処理剤を用いる場合に比べて、局所的な低抵抗部の数が少なくて通電しにくい化成皮膜が被塗装物面上に形成される。このため、電着塗装工程における特有の現象として、陽極とそれに近い被塗装物の部分(車体では外板部)との間に高い電圧が印加される一方で、陽極とそれから遠い被塗装物部分(車体では内板部)との間に低い電圧が印加されることになると、その低電圧領域に属する陽極から遠い被塗装物部分においては塗膜析出量が少なくなる。このため、ジルコニウム化合物を主成分とした化成処理剤を用いた場合には、リン酸亜鉛処理剤を用いる場合に比べて、低電圧印加領域である陽極から遠い被塗装物部分(車体では内板部)において、塗膜析出量が低下することになる(図2参照)。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたもので、その第1の技術的課題は、局所的な低抵抗部が少ない化成皮膜を形成するも、低電圧印加領域における被塗装物部分の電着塗装性を向上させることができる化成処理剤を提供することにある。
第2の技術的課題は、上記化成処理剤を用いて形成された化成皮膜を有する表面処理金属を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記第1の技術的課題を達成するために本発明(請求項1に係る発明)においては、
局所的な低抵抗部の数が少ない化成皮膜を形成する皮膜形成成分を含む化成処理剤において、
前記皮膜形成成分と共に、金属微粒子、半導体微粒子、及び導電性有機物微粒子の少なくとも一種が含有されている構成としてある。この請求項1の好ましい態様としては、請求項2〜4の記載の通りとなる。
【0007】
前記第2の技術的課題を達成するために本発明(請求項5に係る発明)においては、
請求項1〜4のいずれか1項に係る化成処理剤を用いて形成された化成皮膜を表面上に有し、
前記化成皮膜に、前記金属微粒子、半導体微粒子、及び導電性有機物微粒子の少なくとも一種が共析されている、
ことを特徴とする表面処理金属とした構成としてある。この請求項5の好ましい態様としては、請求項6以下の記載の通りとなる。
【発明の効果】
【0008】
請求項1に係る発明によれば、当該化成処理剤により、局所的な低抵抗部の数が少ない化成皮膜を形成する場合であっても、その化成皮膜中において金属微粒子、半導体微粒子、及び導電性有機物微粒子の少なくとも一種が含有することになり、その微粒子に基づくトンネル効果を利用して、電着塗装における電圧印加時に局所的な通電部を増加させることができる。このため、塗膜の析出が促進され、低電圧印加領域における被塗装物部分の電着塗装性を向上させることができる。
【0009】
請求項2に係る発明によれば、皮膜形成成分に、主成分として、Zr,Ti,Hf,Siから選ばれる元素を少なくとも一種有する化合物が含まれていることから、このような皮膜形成成分を用いることにより、局所的な低抵抗部の数が少ない化成皮膜が形成されることになるが、このような皮膜形成成分を用いることによっても、前記請求項1と同様の作用効果を得ることができ、さらには、その化成皮膜の性質に基づき、富栄養化の防止、化成処理に伴うスラッジの生成防止、耐食性の確保を図ることができる。
【0010】
請求項3に係る発明によれば、微粒子の含有量が、全体に対して8.2質量%以下とされていることから、微粒子に基づき低電圧印加領域における被塗装物部分の電着塗装性を向上させつつ、その微粒子の含有に基づき耐食性が許容限度以下になることを確実に防止できる。
【0011】
請求項4に係る発明によれば、微粒子の平均径が、40nm以下とされていることから、前述の請求項1〜3の作用効果を効果的に得ることができる。
【0012】
請求項5に係る発明によれば、請求項1〜4のいずれか1項に係る化成処理剤を利用して形成された化成皮膜を有する表面処理金属を提供できる。
【0013】
請求項6に係る発明によれば、化成皮膜に、主成分として、Zr,Ti,Hf,Siから選ばれる元素を少なくとも一種有する酸化物が含まれていることから、化成皮膜の主成分が具体化された表面処理金属を提供できる。
【0014】
請求項7に係る発明によれば、化成皮膜の主成分が、ZrO2であることから、化成皮膜の主成分がより具体化された表面処理金属を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。
自動車等の塗装においては、一般的に、被塗装物に化成処理により化成皮膜を形成した(表面処理金属の形成)後、カチオン電着塗装(下塗り塗装)が行われている。カチオン電着塗装は、図1に示すように、槽T内のカチオン電着塗料中に被塗装物(例えば車体)Wを浸漬させ、槽Tを陽極、被塗装物Wを陰極として、その両者T,W間に電圧を印加することにより、塗膜が被塗装物W面上に析出されるが、この塗膜は、電着塗装前に被塗装物W面に形成された化成皮膜により、塗膜の電着塗装性、密着性、さらには耐食性等が高められる。
【0016】
前記化成皮膜は、化成処理剤を用いて形成されている。化成処理剤には、主成分として、Zr,Ti,Hf,Siから選ばれる元素を少なくとも一種有する化合物が含まれ、副成分として、フッ素(エッチング剤)、水溶性樹脂を含まれたものが用いられ、その化成処理剤により、化成皮膜は、主成分として、Zr,Ti,Hf,Siから選ばれる元素を少なくとも一種有する酸化物が含まれるものとなっている。本実施形態においては、化成処理剤として、ジルコニウム化合物であるH2ZrF6を主成分とするものが用いられて、被塗装物上に酸化ジルコニウム(以下、ZrO2を用いる)を主成分とした化成皮膜(以下、ZrO2皮膜という)が形成され、被塗装物は、表面処理金属として、その表面にZrO2皮膜を有することになっている。すなわち、上記化成処理剤を用いて被塗装物(素地金属(鋼板))を化成処理すると、その被塗装物が酸により溶解(エッチング)されることになり、被塗装物表面に水酸化イオンが形成されてその表面のpHが上昇することになる。これに伴い、水酸化ジルコニウムが析出し、それが脱水、縮合反応することによりZrO2となる。この反応式をまとめて示せば下記(化1)に示す通りとなる。
【化1】

【0017】
化成皮膜としてZrO2皮膜が用いている理由は、富栄養化の防止、化成処理に伴って廃棄すべきスラッジの生成抑制を図ることができるばかりでなく、耐食性も確保できるからである。すなわち、耐食性、塗膜密着性等が優れている化成皮膜として、従来からリン酸亜鉛系処理剤を用いたリン酸亜鉛皮膜があることは知られているが、そのリン酸亜鉛皮膜を用いた場合には、そのリン酸イオンに基づき富栄養化をもたらされ、化成処理に伴って廃棄すべきスラッジが生成される等の問題が発生する。このため、本実施形態に係る化成皮膜としては、そのような問題が生ぜず耐食性等が確保できるZrO2皮膜を選択しているのである。但し、ZrO2皮膜が用いられることに伴い、その性質(非結晶性連続皮膜を形成すること)に基づき、その皮膜は、局所的な低抵抗部の数が少ないものとなる。
【0018】
本実施形態に係る化成皮膜には、そのZrO2皮膜中で共析し得る金属微粒子、半導体粒子、及び導線性有機物微粒子の少なくとも一種が含有されている。ZrO2皮膜は、耐食性を確保でき、また、富栄養化、スラッジ生成の問題を引き起こさない一方で、ZrO2皮膜のままでは、局所的な低抵抗部の数が少ないこと等に基づき、塗装膜厚特性(電着塗装性)がリン酸亜鉛皮膜の塗装膜厚特性に比べて劣ることになり、それを是正する必要があるからである(図2参照)。
【0019】
以下、具体的に説明する。電着塗装においては、その特性上、図1に示すように、陽極(図1においては槽T)とそれに近い被塗装物Wの部分(車体では外板部)との間に高い電圧が印加され、陽極とそれから遠い被塗装物部分(車体では内板部)との間に低い電圧が印加されることになり、陽極に近い被塗装物W部分から塗膜が析出を開始することになる。この析出する塗膜は絶縁性を有しており、この塗膜の析出が進行して析出塗膜が増加するに伴い、塗膜の電気抵抗が大きくなる。このため、塗膜が析出した部位での塗膜の析出が低下し、それに代わって、未析出部位への塗膜の析出が始まる。このような電着塗装の下において、従来のZrO2皮膜(金属微粒子、半導体粒子、及び導線性有機物微粒子の少なくとも一種が含有されていないもの)が被塗装物(例えば冷延鋼板)に形成されていると、図2に示すように、リン酸亜鉛皮膜が形成されている場合に比べて、低電圧印加領域(0〜70V付近)では塗膜膜厚が薄くなりすぎ、高電圧印加領域(70以上)では塗膜膜厚が厚くなりすぎる特性を示す。このため、高電圧印加領域に属する陽極に近い被塗装物部分(車体では外板部)においては、塗膜の膜厚が、リン酸亜鉛皮膜の場合の塗装膜厚よりもかなり厚くなり、低電圧印加領域に属する陽極から遠い被塗装物部分(車体では内板部)においては、塗膜の膜厚がリン酸亜鉛皮膜の場合の塗装膜厚よりもかなり薄くなり、従来のZrO2皮膜をそのまま使用した場合には、その塗膜の付き回り性は、リン酸亜鉛皮膜の場合よりも劣ることになる。
【0020】
本件発明者は、上記問題となる現象について、研究、検討した結果、次のように考察している。
(1)リン酸亜鉛皮膜の場合には、図3に示すように、リン酸亜鉛系処理剤で鋼板S表面(被塗装物W表面)を処理すると、尖った形状が隣り合うようにして並ぶ結晶性リン酸亜鉛皮膜1がされることになり、多数の低抵抗部(隣り合う尖った形状の境目空間下部)2が形成される。このため、電子が各低抵抗部2に移動し、鋼板S表面で電気分解が起きて水酸イオンが生じ、その水酸イオンにより塗料に水溶性を与えている酸が中和され(H2発生)、それに基づき、図4に示すように、塗膜Fが鋼板S表面に析出・沈着される。この結果、低電圧領域に属する陽極から遠い被塗装物部分であっても、鋼板S表面上に塗膜Fが形成されることが促進される。
これに対して、ZrO2皮膜21の場合には、図8に示すように、化成処理剤で鋼板Sを化成処理すると、ZrO2皮膜として、フラットな非結晶性連続膜が形成されることになり、そのZrO2皮膜21には、局所的な低抵抗部22が形成されるものの、その数は極めて少ない。このため、この従来のZrO2皮膜では通電し難く、低電圧領域に属する陽極から遠い被塗装物部分における塗膜析出量は少ない。
【0021】
(2)ZrO2皮膜21における数少ない局所的な各低抵抗部22の抵抗が、リン酸亜鉛皮膜1における低抵抗部2の抵抗よりも高くなっている。このため、この従来のZrO2皮膜21においては、ある程度以上の電圧が印加されない限り通電せず、低電圧領域に属する陽極から遠い被塗装物部分では、図9に示すように(比較として図4参照)、リン酸亜鉛皮膜1の場合に比べて、塗膜Fが析出し難い。
【0022】
(3)その一方、ZrO2皮膜21における最大抵抗部(皮膜の厚みが最も厚い部分(50nm程度):図8参照)23が、抵抗に関し、リン酸亜鉛皮膜1の最大抵抗部(尖った先端部分(1〜2μm程度):図3参照)3よりも小さい。このため、高電圧印加領域においては、ZrO2皮膜21の方が、リン酸亜鉛皮膜1よりも方々で塗膜Fが析出することになり、高電圧領域に属する陽極に近い被塗装物部分(車体では外板部)においては、塗膜Fの膜厚が、リン酸亜鉛皮膜1の場合の塗装膜厚よりもかなり厚くなる。図5、図6、図10、図11は、上記内容を概念的に示したもので、図5、図6は、化成皮膜がリン酸亜鉛皮膜1である場合における高電圧領域の初期、中期現象を概念的に示し、図10、図11は、化成皮膜がZrO2皮膜21である場合における高電圧領域の初期、中期現象を概念的に示している。
【0023】
(4)また、リン酸亜鉛皮膜1の各低抵抗部2の大きさ(空間の大きさ)は小さい。このため、その各低抵抗部2で電気分解が起きて水酸イオンが生じ、その水酸イオンにより塗料に水溶性を与えている酸が中和され(H2発生)、塗膜Fが析出すると、図7に示すように、その塗膜Fにより各低抵抗部2(の空間)は容易に埋められる。
これに対して、ZrO2皮膜21における数少ない局所的な各低抵抗部22は、薄く且つリン酸亜鉛皮膜1の低抵抗部2よりも大きい(広い)。このため、その大きな低抵抗部22に電荷が集中し、水酸イオン、水酸イオンによる塗料に水溶性を与えている酸の中和(H2発生)過程を経て塗膜Fが析出するも、その大きな低抵抗部22は、図12に示すように、塗膜Fにより容易には埋まらない。このため、鋼板S上への塗膜の析出に基づき抵抗が大きくならず、陽極に近い被塗装物部分(車体では外板部)においては、塗膜Fの析出し続け、その塗膜の膜厚は、リン酸亜鉛皮膜1の場合の塗装膜厚よりもかなり厚くなる。これに伴い、陽極から遠い被塗装物部分(車体では内板部)には、もともと電子が移動しにくいことに加えて、上記観点からも移動しないことになり、そこでは、容易には、塗膜Fは析出しない。
【0024】
本件発明者は、このような考察に基づき、本実施形態に係る化成皮膜を、ZrO2皮膜21を基本としつつも、その内部で、金属微粒子、半導体粒子、及び導線性有機物微粒子の少なくとも一種を共析させたものとした。ZrO2皮膜21を基本としているのは、耐食性等の基本機能を確保するためである。ZrO2皮膜21の内部で、金属微粒子、半導体粒子、及び導線性有機物微粒子の少なくとも一種を共析させているのは、ZrO2の割合を減らして、陽極に近い被塗装物部分(車体では外板部)での塗膜F析出量を減らす一方、電子のトンネル効果に着目し、所定以上の印加電圧をかけたときにだけ通電する通電部を増加させるようとするためである。これにより、ZrO2の割合を減らすことに基づき、陽極に近い被塗装物部分(車体では外板部)での過剰な塗膜F析出量を減らすことができると共に、金属微粒子、半導体粒子、及び導線性有機物微粒子の少なくとも一種の通電(トンネル効果)に基づき、陽極から遠い被塗装物部分(車体では内板部)において、塗膜Fの析出を促進することができる。この結果、このようなZrO2皮膜21の塗膜膜厚特性(電着特性)を、リン酸亜鉛皮膜1の塗装膜厚特性に近づけることができることになり、このようなZrO2皮膜21を用いることにより、富栄養化、スラッジ生成の問題を引き起こさないことは勿論、耐食性及び電着塗装性をも満足させることができることになる。
【0025】
前記金属微粒子としては、Mg,Al,Ca,Co,Ni,Cu,Zn等を用いることができ、半導体粒子としては、ZnO、TiO2等、酸化物半導体を用いることが好ましい。Ti,Zn等の酸化物が半導体となる金属についてはイオンで用いることもできる。導電性有機物粒子としては、ポリアニリン、金属を有機物で保護した微粒子等を用いることができる。このような微粒子の平均粒子径としては、40nm以下が好ましく、20〜40nmがより好ましい。
【0026】
また、前述の問題(高電圧印加領域に属する陽極に近い被塗装物部分において、塗膜の膜厚が、リン酸亜鉛皮膜の場合の塗装膜厚よりもかなり厚くなり、低電圧印加領域に属する陽極から遠い被塗装物部分においては、塗膜の膜厚がリン酸亜鉛皮膜の場合の塗装膜厚よりもかなり薄くなること)に関し、従来のZrO2皮膜(金属微粒子、半導体微粒子、及び導線性有機物微粒子を含有せず)における各低抵抗部22の大きさを何らかの方法で小さくしてその各低抵抗部22に電荷が集中しないようにすることが考えられる。しかし、このように各抵抗部22の大きさを小さくした場合には、皮膜の厚みが厚くなって塗膜の析出開始電圧をさらに高くしなければ、塗膜は析出しなくなる。これに対して、ZrO2皮膜21の内部で、金属微粒子、半導体粒子、及び導線性有機物微粒子の少なくとも一種が共析されているものにおいては、各抵抗部22は大きいものの、半導体微粒子等のトンネル効果に基づき、電圧印加時に通電部が増加することになり、大きな各低抵抗部22への電荷の集中を回避できる。このため、この観点からも、前記問題点を解消(ZrO2皮膜21の塗膜膜厚特性をリン酸亜鉛皮膜1の塗装膜厚特性に近づけること)できる。
【0027】
図13は、上記内容を裏付けるべく、化成被膜として、n型ZnO(半導体微粒子)を共析させたZrO2被膜を用いた場合における塗膜膜厚特性を示したものである。この場合、n型ZnOの含有量は、5.6質量%、そのn型ZnOとしては、下記のものを用いた。
組成:Ga−Doped ZnO
体積抵抗率:20〜100(Ω・cm)
比表面積:30〜50(m2/g)
平均粒子径(1次粒子径):20〜40(nm)
【0028】
この図13の結果によれば、n型ZnO(半導体微粒子)を共析させたZrO2皮膜の塗膜膜厚特性(電着特性)は、リン酸亜鉛皮膜1の塗装膜厚特性に近づくことになった。これは、図14の概念図に示すように、化成被膜として、n型ZnO(半導体微粒子)を共析させたZrO2被膜21を用いた場合には、電圧印加時に、局所的な通電部が増加して(図14中では、1つだけを示す)、塗膜(樹脂)Fが鋼板S表面に析出することが促進されたためと考えられる。この場合、通電部を増加させる印加電圧は、腐食における電圧(例えば1V程度)よりも大きくなるように設定することが好ましい。尚、図14中、符号Pは、酸により水溶性を与えられた塗料を示す。
【0029】
図15〜図17は、従来のZrO2皮膜21(n型ZnO含有せず)、上記n型ZnOを共析させたZrO2皮膜21について、走査振動電極法(SVET)を用いて皮膜表面の電流密度分布を測定した結果を示したものである。図15は、従来のZrO2皮膜、n型ZnOを共析させたZrO2皮膜についての電圧非印加時の電流密度分布を示す。この場合には、いずれについても、電流は検出されず、同じ状態となった。図16は、従来のZrO2皮膜についての電圧(1V)印加時の電流密度分布を示す。この場合にも、電流は検出されなかった。図17は、上記n型ZnOを共析させたZrO2皮膜21についての電圧(1V)印加時の電流密度分布を示す。この場合には、図17中の丸印部分で示すように、電流が検出された。これにより、n型ZnOが局部的な通電部の増加に貢献し、n型ZnOにより塗膜Fの析出が促進されることが確認された。
【0030】
図18は、前記n型ZnOを共析させたZrO2皮膜21について、その皮膜中におけるn型ZnO(半導体成分)の含有割合が、塗膜膜厚(電着特性)及び耐食性に及ぼす影響を示したものである。図18によれば、塗膜膜厚(電着特性)に関しては、n型ZnOの添加量(wt%)が増加するほど塗膜膜厚が厚くなることを示し、耐食性に関しては、n型ZnOの添加量(wt%)が一定値まで許容できるものの、その一定値を超えると、耐食性に問題が生じることになった。この場合、耐食性に関しては、CCT(CCT1サイクル≒JISK5600−7−9サイクルAの3サイクル)60サイクル後の塗膜F膨れ率(%)を測定した。
【0031】
図19は、耐食性の観点からのn型ZnOの添加量(wt%)の上限を求めた内容を示している。すなわち、図19に、図18から、n型ZnOの添加量(wt%)とCCT60サイクル後の塗膜F膨れ率(%)との関係を示し、その関係から、塗膜膨れ率30(%)を耐食性の許容限界(基準値)として、n型ZnOの添加量(wt%)の上限を求めている。この場合、塗膜膨れ率30(%)を耐食性の許容限界(基準値)としているが、これは、自動車ボディ外板の穴あき錆保証の主流が12年となっており、その保証については、塗膜F膨れ率30(%)未満であれば満足することが実績を通じて確認されていることが根拠となっている。ここで、CCT1サイクル≒JISK5600−7−9サイクルAの3サイクルである。図19によれば、耐食性の許容限界におけるn型ZnOの添加量が、8.2wt%であることを示し、耐食性を確保するためには、n型ZnOの添加量を8.2wt%以下ですることが必要であることを示した。勿論この値は、半導体微粒子に限らず、金属微粒子、導電性有機物微粒子についても、ほぼ適用できる。これらについても、添加量を8.2wt%以下とすれば、化成皮膜中において、n型ZnOの化成皮膜中における含有割合(体積%)と同等ないしはそれ以下の含有割合(体積%)にすることができ、耐食性が確保できるからである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】電着塗装を説明する概略図である。
【図2】従来のZrO2皮膜及びリン酸亜鉛皮膜の塗膜膜厚特性を示す特性図。
【図3】リン酸亜鉛皮膜における各低抵抗部を概念的に説明する説明図。
【図4】リン酸亜鉛皮膜における各低抵抗部での塗膜の析出を概念的に説明する説明図。
【図5】リン酸亜鉛皮膜における各低抵抗部での初期の塗膜析出を概念的に示す平面図。
【図6】リン酸亜鉛皮膜における各低抵抗部での中期の塗膜析出を概念的に示す平面図。
【図7】リン酸亜鉛皮膜における各低抵抗部での末期の塗膜析出を概念的に示す正面図。
【図8】ZrO2皮膜における各低抵抗部を概念的に説明する説明図。
【図9】ZrO2皮膜における各低抵抗部での塗膜の析出を概念的に説明する説明図。
【図10】ZrO2皮膜における各低抵抗部での初期の塗膜析出を概念的に示す平面図。
【図11】ZrO2皮膜における各低抵抗部での中期の塗膜析出を概念的に示す平面図。
【図12】ZrO2皮膜における各低抵抗部での末期の塗膜析出を概念的に示す正面図。
【図13】n型ZnOを共析させたZrO2皮膜、従来のZrO2皮膜及びリン酸亜鉛皮膜の塗膜膜厚特性を示す特性図。
【図14】n型ZnOを共析させたZrO2皮膜の下での塗膜の析出を概念的に説明する説明図。
【図15】従来のZrO2皮膜、n型ZnOを共析させたZrO2皮膜についての電圧非印加時の電流密度分布を示す図。
【図16】従来のZrO2皮膜についての電圧(1V)印加時の電流密度分布を示す図。
【図17】n型ZnOを共析させたZrO2皮膜についての電圧(1V)印加時の電流密度分布を示す図。
【図18】n型ZnOを共析させたZrO2皮膜について、その皮膜中におけるn型ZnO(半導体成分)の含有割合が、塗膜膜厚(電着特性)及び耐食性に及ぼす影響を示す図。
【図19】耐食性の観点からのn型ZnOの添加量(wt%)の上限を求めることを説明する説明図。
【符号の説明】
【0033】
21 ZrO2皮膜
22 ZrO2皮膜の低抵抗部
S 鋼板
W 被塗装物



【特許請求の範囲】
【請求項1】
局所的な低抵抗部の数が少ない化成皮膜を形成する皮膜形成成分を含む化成処理剤において、
前記皮膜形成成分と共に、金属微粒子、半導体微粒子、及び導電性有機物微粒子の少なくとも一種が含有されている、
ことを特徴とする化成処理剤。
【請求項2】
請求項1において、
前記皮膜形成成分に、主成分として、Zr,Ti,Hf,Siから選ばれる元素を少なくとも一種有する化合物が含まれている、
ことを特徴とする化成処理剤。
【請求項3】
請求項2において、
前記微粒子の含有量が、全体に対して8.2質量%以下とされている、
ことを特徴とする化成処理剤。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、
前記微粒子の平均径が、40nm以下とされている、
ことを特徴とする化成処理剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に係る化成処理剤を用いて形成された化成皮膜を表面上に有し、
前記化成皮膜に、前記金属微粒子、半導体微粒子、及び導電性有機物微粒子の少なくとも一種が共析されている、
ことを特徴とする表面処理金属。
【請求項6】
請求項5において、
前記化成皮膜に、主成分として、Zr,Ti,Hf,Siから選ばれる元素を少なくとも一種有する酸化物が含まれている、
ことを特徴とする表面処理金属。
【請求項7】
請求項6において、
前記化成皮膜の主成分が、ZrO2である、
ことを特徴とする表面処理金属。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2009−209407(P2009−209407A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53227(P2008−53227)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】