説明

化成皮膜の仕上げ剤及び仕上げ処理方法

【課題】 金属表面の化成皮膜を保護するための仕上げ剤であって、クロムを含まない薄膜であっても高い耐食性を付与できる仕上げ剤を提供することである。
【解決手段】 金属化成皮膜の表面を保護するための表面処理用仕上げ剤として、ケイ素化合物と希土類元素とを使用し、処理の際にこれらの物質の相互作用により耐食性向上効果を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化成皮膜の仕上げ剤及び仕上げ処理の方法に関し、特に化成皮膜処理された金属部材の仕上げ剤及び仕上げ処理の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化成皮膜処理は、防錆、装飾などの機能的効果が複合した表面処理であり、金属部品の上に直接、若しくは各種めっきを施した後に行われる。かつては6価クロムを用いるクロメート処理が一般的であったが、近年では環境保護の観点から6価クロムを使用しない化成皮膜が用いられるようになり、クロメート皮膜と同等以上の耐食性を確保するために、皮膜上に各種有機樹脂や無機皮膜を施すオーバーコート技術を併用することが特許第3332373号に記載されている。
【0003】
一方、オーバーコートには均一塗布や乾燥が難しく溜まりやシミが発生しやすい、部材の摩擦係数が低下しやすい、膜厚が厚くなりやすく調整が難しいという欠点があり、特にボルトやネジなど複雑な形状を持つ部材への適用は難しかった。それを解消することを目的とした発明に特開2005−320573や特開2005−023372が挙げられる。これらにはリンの酸素酸と三価クロムを含有し、さらに各種キレート剤や金属イオン、金属酸化物イオンやケイ素化合物を含むことが出来る六価クロムを含まない化成皮膜の仕上げ剤が記載されている。仕上げ処理を行った場合、オーバーコートと比較して均一塗布しやすく溜まりやシミ、乾燥、摩擦係数、膜厚の問題が発生しづらいという利点がある。
【0004】
しかし、近年は皮膜中の3価クロムについても経時で6価クロムに変化し溶出する現象が知られるようになってきている。クロムを含有しなくとも十分な耐食性を有し、かつ、既存の3価クロム仕上げ剤と同等以下の薄膜で均一塗付や乾燥も容易で溜まりやシミも発生しづらい仕上げ皮膜が求められるようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3332373号公報
【特許文献2】特開2005−320573号公報
【特許文献3】特開2005−023372号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は化成皮膜の仕上げ剤の耐食性を大幅に向上させ、仕上げ皮膜がクロムを含まない薄膜であっても高い耐食性を持つ仕上げ剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者が鋭意研究した結果、仕上げ処理液中に希土類元素とケイ素化合物を共存させることにより、仕上げ後の耐食性が大幅に向上することを見出した。希土類元素を仕上げ処理に適用する例が開示されたことは過去にほとんどない。これは希土類元素を単独で仕上げ処理液に添加してもほとんど有益な効果がないためである。リン酸と共存させることで耐食性に優れた顔料・塗料とし、それを塗付することについては過去に例があるが(特開2001−58804)、あくまで防錆塗料であり、厚膜を形成するため複雑な形状の部材には不向きである。しかも塗付後に高温での焼付けを必要とするため扱いやすいものとはいえなかった。
【0008】
本発明は上記の課題を技術手段を提供することにより解決する。
(1)ケイ素化合物を添加する場合に、希土類元素との相互作用により耐食性向上効果が大きくなる特徴を有する、希土類元素を含有する表面処理用仕上げ剤を提供する。この場合、ケイ素な予め希土類元素と処理液中に混合されていなくても良いが、遅くとも使用時に混合される必要がある。
本発明は希土類元素とケイ素化合物を含む水溶液に金属部材を浸漬させることにより金属表面上に耐食性の高い薄膜を形成することを特徴とする。ケイ素化合物のみ、あるいは希土類元素のみを仕上げ処理液に含む場合と比較して著しく耐食性が向上する効果がある。原因は不明だが、希土類元素とケイ素化合物と下地金属が相互に結合し高分子化することによる皮膜の形成が考えられる。特に希土類元素、ケイ素化合物以外の物質の濃度が低いときには組み合わせによる耐食性向上効果がより強く現れ、単なる希土類元素とケイ素化合物のみの水溶液でも仕上げ処理液として働き、耐食性向上効果を処理対象となる金属に与えることができる。言い換えればCr、P、有機物などといった環境負荷物質を一切含まないことさえ可能である。しかも、その操作は既存の3価クロム化成皮膜の仕上げ処理と同様であるため、既存の設備を用いることが可能であるという利点も有する。
(2)本発明の好ましい形態では、希土類元素とケイ素化合物を共に含有することを特徴とする表面処理用仕上げ剤が提供される。
(3)本発明の他の好ましい形態では、上記(1)または(2)において、前記ケイ素化合物がケイ酸塩又はコロイダルシリカのいずれかである仕上げ剤が提供される。
(4)本発明の他の好ましい形態では、上記(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記希土類元素がセリウムである仕上げ剤が提供される。
(5)本発明はまた上記(1)ないし(4)のいずれかの仕上げ剤を用いて仕上げ処理を行う仕上げ処理方法を提供する。
(6)本発明はまた上記(5)の方法により仕上げ処理を行い形成された、希土類元素とケイ素化合物を含有する仕上げ皮膜及び仕上げ皮膜を有する金属部材を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る仕上げ処理液は一実施態様において、各成分の水溶液として提供される。処理物は金属表面を持つ部材全般が対象である。特に亜鉛、マグネシウム、アルミニウム上に形成された化成皮膜を有する処理物が好ましいが特に限定は存在しない。
【0010】
本発明の仕上げ処理液はケイ素化合物と希土類元素を含有する仕上げ処理液である。ケイ素化合物の供給源としては、各種水溶性ケイ酸塩の他、水分散性コロイダルシリカが使用できる。コロイダルシリカとしては、例えば、スノーテックス(商標)シリーズ(日産化学工業(株))、アデライト(商標)ATシリーズ、((株)ADEKA)、シリカドール(商標)シリーズ(日本化学工業(株))、カタロイド(商標)シリーズ(日揮触媒化成(株))、等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。コロイダルシリカの平均粒子径は200nm以下であることが好ましく、より好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下とすることが好ましい。ケイ素化合物の濃度としては0.01〜200g/Lとすることが好ましく、より好ましくは0.1〜50g/L以下である。平均粒子径が200nm以上だと粉っぽい、ボソボソとした外観となる。ケイ素化合物の濃度が200g/L以上だと処理液に沈殿が発生するおそれが強い。希土類元素のイオンの供給源は特に制限はなく、一般的には、硝酸塩、硫酸塩、塩化物を使用することができる。希土類元素の中でもコスト面及び皮膜形成の容易さの両面でセリウムが有利であるが、これに限定されるものではなくセリウムの代わりにイットリウムやランタンなどを用いることも可能である。希土類元素の濃度は0.01〜200g/L以下が好ましく、より好ましくは0.1〜50g/L以下である。ケイ素化合物と希土類元素の比は一方が他方の10倍以下であることが好ましい。それ以上に差があると併用による著しい効果が得られなくなる。
【0011】
ケイ素化合物と希土類元素以外に既存の仕上げ剤に使用される各種成分の使用が可能であり、限定は存在しない。例えば耐食性、外観等を向上させるためクロム、コバルト、ニッケル、マグネシウム、カルシウムなど希土類以外の金属やモリブデン、タングステン、バナジウムなどの金属酸化物、キレート剤としてのカルボン酸及びその塩といった成分や有機樹脂又はポリオレフィンなどを含有することも可能である。濃度にも本質的には特に限定はないが、本発明の効果であるケイ素化合物と希土類元素の相互作用による耐食性向上効果が顕著に現れる範囲として、ケイ素化合物と希土類元素の合計濃度が水とケイ素化合物、希土類元素の塩以外の成分の合計濃度の3倍以上であるとき本発明の効果であるケイ素化合物と希土類元素の相互作用による耐食性向上効果が顕著に現れ、10倍以上でさらに顕著になる。
【0012】
浸漬条件としては、温度10〜50℃の範囲であることが好ましい。浸漬時間は5〜60秒の範囲であることが好ましい。浸漬時間が5秒以下では十分な膜厚が得られない可能性が高い。60秒以上の浸漬は効果が薄く、むしろ生産性の低下を招く。また、均一に皮膜を形成させる為には、撹拌があることが好ましい。仕上げ処理後は水洗せず乾燥する。乾燥は遠心乾燥またはオーブンによる乾燥で行う。乾燥温度も室温〜80℃で十分であり、一部既存の塗料のように高温で焼き付けたりする必要はない。
【実施例】
【0013】
以下、実施例及び比較例により本発明を説明する。試験は試験片を硝酸浸漬などの適当な前処理を行った後、以下に示すそれぞれの実施例に従い処理を行った。試験片は亜鉛めっきを施したボルト(M8x50mm)を使用した。そこに三価クロム化成皮膜形成処理剤(1)TR−173(有機酸含有有色タイプ)、(2)TR−175(シリカ含有有色タイプ)、(3)TR−185(黒色タイプ)を用いて標準条件で行った。三価クロム化成皮膜を形成したのちに水洗後乾燥せずに仕上げ処理液に浸漬し、その後乾燥した。また、(4)ヨウ化バナジウム2g/L、塩化セリウム10g/L、25%硫酸チタン6g/L、硝酸ジルコニウム3g/L、pH2.0、30℃の溶液に45秒浸漬して形成したクロムフリー化成皮膜、(5)硫酸バナジウム30g/L、ジチオジグリコール酸ジアンモン20g/L、硝酸ソーダ10g/L、pH2.0、30℃の溶液に45秒浸漬して形成したクロムフリー黒色化成皮膜に対しても同様に水洗後乾燥せずに仕上げ処理液に浸漬し、その後乾燥した。耐食性の評価は、JIS Z 2371に従う塩水噴霧試験を行い白錆が5 % 発生した時間を試験結果に示した。
【0014】
(実施例1〜3、比較例1)
(1)を用いて得た三価クロム化成皮膜に対し、仕上げ処理としてセリウムとコロイダルシリカ(アデライトAT、平均粒子径50nm)を5(実施例1)、10(実施例2)、50(実施例3)g/Lずつ添加した(希土類は硝酸塩の形で添加、特に記載の無い限り以下同じ)25℃の水溶液に20秒浸漬した。仕上げ処理を行わないものを比較例1とし、塩水噴霧試験で耐食性を比較したところ、比較例1は120hで白錆発生したが、仕上げ処理を行ったものは実施例1で240h、実施例2,3では300hでも白錆発生しなかった。
【0015】
(実施例4〜7、比較例2〜5)
(2)〜(5)を用いて得た三価クロムおよびクロムフリー化成皮膜に対し、実施例2と同様の仕上げ処理液を用いて仕上げ処理を行い(実施例4〜7)、仕上げ処理を行わないもの(比較例2〜5)と耐食性を比較した。比較例2は120h、比較例3〜5は72hで白錆発生したが実施例4は300h、実施例5〜7は240hでも白錆発生しなかった。
【0016】
(実施例8〜11)
(4)を用いて得たクロムフリー化成皮膜に対し、セリウムを10g/Lに固定し、コロイダルシリカ(スノーテックス、平均粒子径100nm)を1、4、30、100g/Lに変化させて試験を行った。実施例8は168h、実施例9〜11は240h白錆発生しなかった。
【0017】
(実施例12〜15)
(5)を用いて得たクロムフリー化成皮膜に対し、コロイダルシリカを10g/Lに固定し、セリウムを1、4、30、100g/Lに変化させて試験を行った。実施例12は168h、実施例13〜15は240h白錆発生しなかった。
【0018】
(実施例16〜23、比較例6〜8)
(4)を用いて得たクロムフリー化成皮膜に対し、実施例2と同様の仕上げ剤に硝酸クロム(実施例16)、硫酸コバルト(実施例17)、塩化カルシウム(実施例18)、バナジン酸ソーダ(実施例19)、シュウ酸ソーダ(実施例20)、クエン酸ソーダ(実施例21)、ポリアクリル酸系分散剤(実施例22)、ポリビニルアルコール(実施例23)をそれぞれ5g/Lずつ添加した仕上げ剤で仕上げ処理を行った。いずれも240hで白錆発生しなかった。また、実施例16に対し、セリウムとコロイダルシリカの量をそれぞれ2(比較例6)、0.5(比較例7)、0(比較例8)g/Lに変化させて試験を行ったところ、比較例6では168hで、7、8では120hで白錆発生した。
以上の実施例1〜23のデータをまとめて表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
【表2】

【0021】
(実施例24〜27)
硝酸セリウムを塩化セリウムに置き換えて実施例2、23を行った(実施例24、25)いずれも240h白錆発生しなかった。実施例2でセリウムをイットリウム(実施例26)ランタン(実施例27)に置き換えたところ、300h白錆発生しなかった。
【0022】
(比較例9,10)
実施例2でセリウムを添加しないものを比較例9、コロイダルシリカを添加しないものを比較例10として同様の試験を行った。いずれも120hで白錆発生し、仕上げ処理をしない比較例1と変わらない結果となった

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケイ素化合物を添加する場合に、希土類元素との相互作用により耐食性向上効果が大きくなる特徴を有する、希土類元素を含有する表面処理用仕上げ剤。
【請求項2】
希土類元素とケイ素化合物を共に含有することを特徴とする表面処理用仕上げ剤。
【請求項3】
前記ケイ素化合物がケイ酸塩又はコロイダルシリカのいずれかである請求項1又は2に記載の仕上げ剤。
【請求項4】
前記希土類元素がセリウムである請求項1〜3のいずれか1項に記載の仕上げ剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の仕上げ剤を用いて仕上げ処理を行う仕上げ処理方法。
【請求項6】
請求項5記載の方法により仕上げ処理を行い形成された、希土類元素とケイ素化合物を含有する仕上げ皮膜。
【請求項7】
請求項6記載の仕上げ皮膜を有する金属部材。