説明

化粧、洗浄または医薬調合物のためのディスペンサ

【課題】目に見える部品数を制限した、非常に単純で直観的に使用できる、化粧、衛生または調剤物質を分配するためのディスペンサを提案する。
【解決手段】可動サブアセンブリのヘッドへのアクセスが不可能なように、可動サブアセンブリ(12)の全体を収納位置に収容するための管状スリーブ(14)からなる、化粧、洗浄または医薬調合物のためのディスペンサ(10)。ハート型のカム溝(44)とカム溝に係合するフィンガ(66)とからなるカム機構が両側に配置されたロック機構(16)が、収納位置にある可動サブアセンブリ(12)の、スリーブに対する外方への移動を阻止する。ユーザが、外方への方向と反対の方向へ、軸方向でヘッドを押し込むと、ロック機構は、ヘッドが少なくともスリーブから外側へ突き出す位置まで、ばね(70)によって外方へ付勢された可動サブアセンブリを解放する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧、衛生または調剤物質を分配するためのディスペンサに関し、例えば、リップスティックの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
リップスティックのスティック調整のためのディスペンサは、二つの部分からなることが知られている。すなわち、リップスティックを受容するための管状内容積を持つボディと、この容積の開いた軸方向の終端を閉じることが可能なシースとからなる。ボディは、通常、ボディの対称軸に関して回転可能に取り付けたヘッドと、ヘッドをボディに対して回転させるとリップスティックのスティックを繰り出すことが可能な繰出機構とを備える。
【0003】
英国特許公報GB859838は、鏡に関連したリップスティック・シースを説明している。そのシースは、鏡のフレームのヒンジ上に取り付けられて、リップスティックの管を側方へ締着させるタングを持つピストンを導くための円筒を形成する。シースの端壁には、ピストンを押しやる放出ばねが設けられ、シースの放出軸は、鏡のフレームのヒンジの軸に平行である。シースが鏡に対して離れるように折られると、リップスティックの管の基部は、鏡のフレームに締結した皿の上に立つ。鏡を回転すると、ばねが弛緩し、ピストンが解放され管を繰り出す。管はタングによって放出位置に保持されるため、管を掴むときに管が落下するのを防止することができる。鏡に関連した皿の移動によって直接的にリップスティック管が解放されるため、この原理を、関連する鏡を持たない管へ適用することは難しい。
【0004】
米国特許公報US2,552,714は、組み合わせリップスティックおよびアプリケータ・ブラシ容器を説明している。この容器のシースは、二つの部分、すなわち、ブラシを受容するように設計された狭い堅固なシースと、半径方向の保持ラグを備えたリップスティック管を受容するように設計された変形可能なシースとに細分化されている。スロットを備えた壁が、二つのシースを切り離している。アプリケータは、スロット内で導かれリップスティック管に接触するスライドを備え、戻りばねが、アプリケータの基部を放出位置の方へ付勢する。収容位置から開始し、ユーザがシースの壁を半径方向へ押し込んで、ユーザは、ラグを解放する。ばねは、弛緩し、同時に、アプリケータおよびリップスティック管を放出位置の方へ繰り出す。それから、ユーザは、リップスティック管をつまんで、従来のやり方でそれを使用することができる。残念なことは、放出されると、管をシースに保持するものが何もないので、管が落下する可能性があることである。加えて、変形可能な壁を持つシースの使用は、心地よい外観を得ることや、この種の品物が備える豪華さとは、相容れないものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】英国特許公報GB859838
【特許文献2】米国特許公報US2,552,714
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、本発明の目的は、目に見える部品数を制限した、非常に単純で直観的に使用できる、化粧、衛生または調剤物質を分配するためのディスペンサを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のために、本発明は、化粧、衛生または調剤物質を分配するための、次のものからなるディスペンサを提供する。
【0008】
放出軸と軸方向の放出方向に沿って筒状に伸びる管状シース。
【0009】
シースの内部に軸方向に沿って移動可能に配置され、押し込み可能な端壁およびアクセス可能なドライブ・エレメントを持つ移動サブアセンブリ。
【0010】
物質を受容するために、シースおよび/あるいは移動サブアセンブリ内に区画形成した容積部。
【0011】
ロック状態において、収容位置にある移動サブアセンブリの、シースに対する放出方向の移動を阻止し、そしてアンロック状態において、移動サブアセンブリを解放して、少なくとも突出位置に到達するまで、移動サブアセンブリがシースに対して放出方向へ移動することを可能にする、ロック手段。
【0012】
ロック手段が、ロック状態にあるときに係止位置を保持し、移動サブアセンブリが収容位置から押入位置へ進み、ロック状態からアンロック状態へ移行するときに軸方向運動が変換された非軸方向の側方運動を含む解放相対運動を生じる、閉輪郭を持つハート型のカム溝とカム溝に係合する弾力フィンガとによるカム機構からなり、このカム機構は移動サブアセンブリの両側に配設されている。
【0013】
収容位置にある移動サブアセンブリは、シース内に完全に受容されて、ドライブ・エレメントはアクセス不能であり、前記突出位置において、ドライブ・エレメントは、シースの外側に突き出し、アクセスが可能である。また、ロック手段は、ユーザが移動サブアセンブリの端壁を、軸方向の放出方向と正反対の軸方向へ押し入れたときにロック状態からアンロック状態へ、すなわち収容位置から押入位置へ移行する。
【0014】
放出作動は非常に単純である。機構が、シースからヘッドを取り出すことを必要としないため、時機を逸した放出の危険性は少ない。
【0015】
突出位置に到達した移動サブアセンブリの使用を可能にするドライブ・エレメントは、異なる形態を採り、また異なる機能を実行することができる。ディスペンサが、特にシースから移動サブアセンブリを切り離す目的で、それを掴むことを必要とする場合、ドライブ・エレメントは、移動サブアセンブリを掴むためだけに利用する、端壁の一部、例えば、半径方向の面でもよい。ドライブ・エレメントは、また、分配すべき物質が流体であるならば、バルブまたはポンプを制御するための押しボタンであってもよい。物質を分配するための開口部を開くためのタングであってもよい。
【0016】
移動サブアセンブリの端壁の押し込みが、シースに対する回転運動を全く伴わない並進運動の移動になるように、移動サブアセンブリをシースに対して誘導することが好ましい。ユーザの観点から、並進運動の移動は、特に単純で直観的である。
【0017】
ディスペンサは、さらに、押入位置から突出位置へ、放出方向で移動サブアセンブリを繰り出すためのドライブ手段からなることが好ましい。ドライブ手段は、移動サブアセンブリを、放出方向に復帰させるように付勢する圧縮ばねからなる。ドライブ・エレメントにアクセスするためにディスペンサをひっくりかえす必要がないように、放出は自動である。
【0018】
移動サブアセンブリは端壁を備え、物質を受容する容積部を区画形成して物質を保持するアプリケータ、そしてシース内に配置され、移動装置に対してアプリケータを保持するための保持手段を備えた移動装置からなる。
【0019】
移動装置は、ロックおよび/あるいはガイド機能の少なくともいくつかを実行可能な、ユーザの目に付かない中間サブアセンブリを構成する。これは、ユーザから隠されてボディの純形状を維持することが可能である。
【0020】
保持手段は、移動サブアセンブリが突出位置にあるとき、そして放出方向へ移動サブアセンブリの端壁に軸方向力が加えられるとき、アプリケータを解放することが好ましい。保持手段は、非常に単純なやり方で、例えば、放射状に弾力的に変形可能なリングによって、またはフィンガを備えた締着嵌筒によって構成してもよい。この場合、フィンガは、弾性変形によって管の軸方向端に締着するため、管を解放するには、単なる牽引による移動だけで十分である。
【0021】
特に単純な実施例では、移動装置はワンピースである。したがって、ワンピースの移動装置は、例えば、シースに固定した、または一体化した補完的な手段と共にロック機能、管保持機能、そしてストローク端当接段部との共作用機能、および/あるいは管に対して移動サブアセンブリを誘導する機能等の、複数の機能を実行できる。
【0022】
シースは、一方の軸方向端部がシース端壁によって閉じられ、他方の軸方向端が、収容位置にある移動サブアセンブリの端壁によって閉じられる開口を持つことが好ましい。この場合、放出軸方向は、シース端壁から開口へ向かう。収容位置において、ディスペンサの外観は特に純粋である。一つのタイプの移動だけが許容されているため、シースから移動サブアセンブリを繰り出すために必要なドライブ運動に関して誤りを犯す危険性がない。
【0023】
他の利点および特徴は、非限定的な例として添付図面に示す、本発明の実施例の以下の説明から、さらに明らかになる。
【0024】
本発明による実施例を説明するために使用する参照符は、可能な限り、他の参考例の、同一の、または同程度の部分を説明するためにも使用する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明によるリップスティック・ディスペンサの、一実施例の分解図である。
【図2】図1のディスペンサの、収容位置における軸方向断面図である。
【図3】図1のディスペンサの、押入位置における軸方向の断面図である。
【図4】図1のディスペンサの、突出位置における軸方向断面図である。
【図5】図1のディスペンサのハート型カムを示す詳細図である。
【図6】本発明に含まれない参考例としてのディスペンサの分解図である。
【図7】図6のディスペンサの、収容位置における軸方向の断面図である。
【図8】図6のディスペンサの、押入位置における軸方向断面図である。
【図9】図6のディスペンサの、掴める位置における軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1から図5に示すように、本発明によるリップスティック・ディスペンサ10の一実施例は、多角形断面を持つシース14内に受容され、ロック機構16によってロック位置に静止保持される移動サブアセンブリ12から構成される。
【0027】
シース14は、一方の軸方向終端が端壁18によって閉じているが、反対側軸方向終端が開口している。この構造によって、移動サブアセンブリ12のための、放出軸19および放出方向20が区画形成される。説明を単純化するために、以下においては、ディスペンサが、その放出軸を垂直にし、その放出方向を上方へ向けて配置されていると仮定するが、実際には、ディスペンサが全方向で使用できることは当然である。
【0028】
移動サブアセンブリ12は、従来からのリップスティック管24(アプリケータ)を支持する移動装置22からなる。リップスティック管は、リップスティックのスティック(図示せず)を受容するためのホルダ円筒26から構成され、この円筒は、一端が開いており、その反対側の終端がヘッド28によって閉じている。ヘッド28は、端壁32と、掴める半径方向の面から構成したドライブ・エレメント30とからなる。従来の機構(図示せず)のように、ユーザがヘッド28を掴み、それを円筒26に対して、その軸の回りに回転させることによって、ホルダ円筒26からリップスティックのスティックを繰り出すことが可能である。
【0029】
移動装置22は、カラー35を備えるガイド外側円筒スリーブ34を構成するワンピースの多目的部品によって形成され、シース14の内壁に沿って回転移動せずに軸方向に滑動するように取り付けられたガイドピストンを形成し、そして、リップスティック管24を収容するための収容容積38と機構16とを区切る中間隔壁36によって閉じられている。中間隔壁36は、収容容積側に、リップスティック管24を保持するための内部リング40を形成する。前記中間隔壁は、また、ロック機構16と同じ側に、シースの端壁18の方へ突き出す、軸平面に関して相互に対称形状を持つ二つの平行な底部フランジ42を形成する。これらフランジの各々は、図5に詳細に示すハート型の溝44を備える。各溝44は、ステップ状に、高トラック46、半高トラック48、休止トラック50および低トラック52を持つ。また、上昇トラック54も備える。トラックの各々には、低点および高点を定義する傾斜路のような、連続的にトラックの一端から次のトラックへと高さが減少する高さの変化が設けられている。各トラックの高点は、隣接するトラックの低点の近くにあり、隣接領域の低点よりも深さが浅い。このため、トラックは互いから、ステップ56、58、60、62によって区切られている。
【0030】
シースの端壁には、2本の弾力フィンガ66からなるクランプが固定されている。フィンガ66の自由端は、溝44(移動エレメント)内へ受容されるように、半径方向内方へ曲がったラグ68(当接部)を形成する。溝は、休止位置に対して、フィンガが離れるように付勢するため、フィンガは屈曲し、溝44の後部(溝底面)に弾性耐力を加える。その結果、フィンガの端部ラグ68が溝44の後部で滑動するとき、ステップ56、58、60、62は、低点から高点に向かう傾斜路を上るように移動した際に越えることができるが、逆向きにはステップを越えられずに非超越的で一方向性の、チェック・デバイスを構成する。圧縮コイルばね70(ドライブ手段)は、シースの端壁18に対して、そして移動装置の隔壁36に対して作用し、移動装置22を、シースから放出されるように放出方向20へ付勢する
【0031】
したがって、溝44は、連続したステップが、図5に示す反時計回りの経路上で、弾力フィンガ66の端部のラグ68を強制的に移動させるハート型カムを構成する。ラグ68とばね70との協調から、前記溝は、後述する4ステージ作動サイクルをディスペンサに与える、双安定機構を区画形成する。なお、前記ラグ68(当接部)はシース14に固定されるほか一体化されてもよく、また、溝44(移動エレメント)つまりフランジ42は移動サブアセンブリ12に一体化されるほか固定されてもよい。
【0032】
収容位置において、リップスティック管24および移動装置22から構成される移動サブアセンブリ12は、完全にシース14内に位置する。このため、特に、ヘッド28のドライブ・エレメント30へのアクセスが防止される。ヘッド28の端壁32は、その周辺部が非常に小さな間隙でシース14の内周内に位置し、シース14を閉じる。リップスティック管24の、ヘッドから反対側の端部は、円筒端を形成し、移動装置の内部リング40(保持手段)上に嵌合することによって係止され、リップスティック管24が移動装置22に固定される。ばね70が移動装置22を放出方向へ付勢するが、ラグ68が、シースの端壁18の方に向いた休止トラック50の終端で溝44の側壁に当接するため、その方向への移動は阻止される。
【0033】
ユーザが、ばね70に抗して、ヘッドをシースの端壁の方へ押し込むと、シース14に対して溝44(移動エレメント)が移動する。ラグ68(当接部)は、半高トラックから休止領域を区切る上昇ステップ58を横切ることができないため、落下ステップ60を横切って低トラック52上に来るまで、端壁からより遠い休止トラック50の端部へ導かれる。その後、ステップ60は、休止トラック50の方への戻りを阻止する。その際に、フィンガ66は、図3の左側への曲げ変形を受ける。
【0034】
ユーザがヘッド28を押すのをやめると、ばね70は、低トラック52上に移動してしまったラグが、ステップ62を横切って高トラック46の下端で溝44の側壁に当接し戻れなくなるまで、移動サブアセンブリ12を自由に放出方向へ繰り出す。放出移動には、シース14の壁に沿って摩擦するカラー35と、おそらくスリーブ34とによるブレーキ手段によって、僅かにブレーキがかかるだけである。このため、放出移動は、波打つことなくスムーズに進行する。デバイスに与える豪華さの印象を得るこの効果は、必要に応じて、カラー35とシースの壁との間に不完全なシーリングを提供することによって強調することもできる。したがって、放出中におけるカラー35の両側の圧力の均一化は即時的なものではなく、シースの閉部分内にわずかな吸気が発生する。この過程の終了時、移動サブアセンブリは、掴める位置に到達する。この位置で、管のヘッドのドライブ・エレメント30の可掴側面にはアクセス可能であり、リップスティック管24は、密着嵌合による係合によって内部リング40上に保持される。ユーザは、単にドライブ・エレメント30の可掴面でヘッド28を掴み、少量の牽引力を加えることでリップスティック管24を引き出し、内部リング40上に係止されたリップスティック管の端部を解放することができる。
【0035】
シース14内にリップスティック管24を戻すためには、ユーザは単に、リップスティック管24をシース14内へ押し込むだけである。シースの端壁18の方へ移動装置22をも押し込みながら、リップスティック管24は内部リング40上に係止される。そのとき、低トラック52の方へ戻ることをステップ62によって阻止されるラグ68は、高トラック46に沿って移動し、ステップ56を横切って、端壁18から遠い半高トラック48の端部にある溝44の上端壁に当接する。これによって移動装置の移動が止まる。オプションとして、移動装置22が静止している間に、リップスティック管24は、内部リング40内に完全に係止されるよう、短ストロークだけさらに移動させてもよい。
【0036】
ユーザが加圧をやめるとすぐに、移動サブアセンブリ12は、それをロック位置の方へ繰り出すばね70によって押し離され、ラグ68は、半高トラックと休止トラックとの間のステップ58を横切り、もう一度溝の下端壁に当接する。これによって、使用サイクルが一巡する。
【0037】
さて、本発明には含まれない参考例を、図6から図9を参照して説明する。リップスティック・ディスペンサ10は、シース14内に受容されてロック機構16によってロック位置に静止保持された移動サブアセンブリ12を持つ。シース14の一端は、静止した歯のあるリング78を持つ端壁18によって閉じられている。このリングは、軸方向に突き出し、その歯は複数の傾斜路を形成している。シース14の他端は開いている。
【0038】
移動サブアセンブリ12は、上記実施例のリップスティック管に類似した、従来からのリップスティック管24を支持する移動装置を持ち、リップスティック(図示せず)のスティックを受容するためのホルダ円筒26から構成される。ホルダ円筒は、一端が開いており、その反対側がヘッド28によって閉じられている。ヘッド28は半径方向の可掴面によるドライブ・エレメント30と端壁32を持つ。従来からの機構(図示せず)は、ユーザがヘッド28を掴み、それを円筒26に対してその軸の回りに回転させることによって、ホルダ円筒26からリップスティック(図示せず)のスティックを繰り出すことを可能にしている。
【0039】
移動装置は、誘導締結スリーブ34、中間円筒としてのターンスタイル82、そして軸エクステンダ84から形成されている。スリーブ34は、シース内に、並進運動は自由であるが回転運動が阻止されるように取り付けられている。そしてリップスティック管の収容容積38と機構16とを区切る中間隔壁36によって、一端が閉じられている。中間隔壁36は、収容容積側に、リップスティック管24を保持するための内部リング40を形成し、そしてロック機構16側に、シースの端壁18の方へ突出して、溝付き底部軸エクステンション86を形成する。また、このエクステンションの軸端には、軸方向に突出する傾斜路88が形成されている。ターンスタイル82は、4つの半径方向へ突出する突起90を持つ。これらの突起には、一方でシースの端壁の静止歯リング78と、そして他方でスリーブの軸エクステンション86の傾斜路88と協調するように機能する補完的な傾斜路が形成されている。ターンスタイル82の内面には、その底部に、装飾溝94で区切った側面92が設けられている。軸エクステンダ84には、ターンスタイル82の側面92と装飾溝94とに協調する半径方向突出部96が設けられ、また、スリーブ34の隔壁36内の正方形断面の凹部内へ挿入される、4つのキャッチ98が設けられている。このため、エクステンダ84は、回転運動なしで、スリーブ34に対して小さな範囲で並進運動が可能である。
【0040】
圧縮ばね70は、シースのカム100のショルダとスリーブの中間隔壁36との間に装着される。ロック機構16は、側面102を備える円筒ブッシングを形成する静止カム100で構成される。これらの側面は、カム100の内方へ放射状に突き出し、ターンスタイルを誘導するためのガイド溝104A、そしてロック溝104Bで交互に区切られている。側面102の底部軸端には、傾斜路106が形成されている。溝104A、104Bの各々は、スリーブ34の溝付きエクステンション86の側面とのみ協調するように機能する浅い頂部108A、108B、そしてスリーブ34の溝付きエクステンションの側面のみだけではなく、軸方向に誘導するためにターンスタイル上の突起90とも協調する、より深い底部110A、110Bを持つ。異なる深さの二つの部分は、突起90のために軸方向の受面を形成するステップ112A、112Bによって相互から区切られている。ガイド溝104Aを区切るステップ112A(ストローク端当接段部)はシースの端壁18から遠隔に位置し、部分110Aは大きな軸方向の寸法を持つ。ロック溝104Bを区切るステップ112Bは、傾斜路の形状になっており、隣接側面の一つの傾斜路106と整列して位置するため、底部110Bは非常に小さい。
【0041】
デバイスは、以下の通りに作動する。
【0042】
図7に示すロック位置において、リップスティック管24はシース14内に収容されている。ばね70は、圧縮されており、リップスティック管24および移動装置から構成した移動サブアセンブリ12を放出するように付勢している。しかし、ターンスタイル82は、突起90が、ロック溝104Bの深い部分104B内に位置して、静止カム100内のロック溝105Bのステップ112Bに軸方向で当接し、そして隣接側面102の側壁に側面で当接するように配置されている。また、エクステンダ84の突出部96は、ターンスタイル82の側面92に対して軸方向で当接している。
【0043】
ユーザがヘッド28の端壁32を押すと、移動サブアセンブリ112はシース14内へ突入する。スリーブの溝付きエクステンション86の傾斜路88は、ロック溝104Bからターンスタイルの突起90を押し出すため、ターンスタイル82は自由に回転するようになる。傾斜路88の並進運動の継続は、突起90およびターンスタイル82を、放出軸19の回りに回転させ、その移動は、突起90の各々が静止リング78の2枚の歯に係合するまで継続する。そのとき、軸エクステンダ84は、スリーブ34と端壁18との間のスペーサとして機能し、スリーブ34の挿入移動を制限するため、ディスペンサは、図8に示す位置に到達する。
【0044】
ユーザがヘッド38の端壁32を押すことをやめると、ばね70は、スリーブ34を押し出す。この動きは、キャッチ98の軸方向クリアランスに対応するロストモーション・ストロークの後、突出部96がターンスタイル82の側面92のステップ114に対して軸方向でなお当接している軸エクステンダ84の繰り出しを開始させる。ばね70の放出力は、それから、側面102の傾斜路106上を滑動して後退する突起90に伝達されるため、ターンスタイル82を回転させる。この回転運動の後、突起90はガイド溝104Aに軸方向で整列し、装飾溝94は突出部96に対向する。ターンスタイル82およびエクステンダ84から形成した入れ子式サブアセンブリは、ばね70によって並進運動で繰り出される。移動装置の移動は、突起90がガイド溝104Aのステップ112Aに当接し、そして突出部96が装飾溝94の軸方向端116に当接すると停止する。そのとき管は、図9に示す掴める位置に到達し、取り出しが可能になる。
【0045】
リップスティック管は、以下の方法で収容できる。
【0046】
リップスティック管24をスリーブ34内へ挿入して、前記スリーブをシースの端壁18の方へ押し込む。ロストモーション・ストローク後、スリーブ34は、エクステンダ84の押し込みを開始する。スリーブの溝付きエクステンション86は、静止カム100のブッシング内へ突入して、シースの端壁の方へターンスタイル82を押し込む。ターンスタイル82上の突起90が静止カム100の傾斜路106の底部軸方向端を通過したら、そして軸エクステンダの突出部96がターンスタイルの装飾溝92から出たらすぐに、ターンスタイル82は再び自由に回転できるようになり、スリーブの溝付きエクステンションの軸方向端傾斜路88から力を受けて回転を開始する。リップスティック管を押し込み続けると、突出部96が装飾溝94から放出され、突起90は静止リング78の歯に接触する。これらの歯は、突起90が静止カム100の傾斜路106に垂直に整列するまで、ターンスタイルが継続的に回転することを強制する。この回転移動の後、軸エクステンダ84は、ターンスタイルの側面92の端部114に軸方向で当接する。この圧入移動は、隔壁36と端壁18との間のスペーサとして機能する軸エクステンダによって制限される。
【0047】
ユーザが加圧をやめると、ばね70が移動装置を押し離すため、エクステンダ84は、ばね70からターンスタイル82へ、そしてその突起90へと軸方向の力を伝達する。突起は、傾斜路106に沿って滑動し、ロック溝104Bに突入して傾斜路112Bに当接する。そのとき、機構はロックされ、ディスペンサが図7に示す位置に復帰して、サイクルが完了する。
【0048】
当然、種々の変更は可能である。
【0049】
両実施例において、シースは断面が多角形である。これは、特に、リップスティック管を、シースに対して回転させることなく、並進運動で移動させることを可能にする。当然、本発明を円形断面のシースで具現することも可能である。この場合は、シースに対して軸方向に管および/あるいは移動装置を誘導するための、軸方向誘導手段を設ける必要があるかもしれない。
【0050】
ばねはどのタイプでもよいが、特に牽引ばね、または圧縮ばねが好ましい。ばねは、シースに対して静止した部品と、移動装置で繰り出される部品との間に装着することができる。
【0051】
上記実施例において、ステップ56、58、60および62は必須でない。また、トラックは、恒常的な深さで同一平面に存在してもよい。ラグを一方通行で誘導するために、同業者に既知の方法で、ハート型カムの形状を修正すれば十分である。
【0052】
上記参考例は、得られるストロークが、課題の使用に十分であるならば、エクステンダを省略して単純化してもよい。
【0053】
リップスティック管のヘッドの端壁に、糊の付いた紙からなる剥がすことのできないパッチを貼り付けることもできる。このパッチは、シースの外側の半径方向の面上へ折り重ねることが可能な側面タブを備える。
【0054】
用語「リップスティック管」は、その一般的な意味で理解すべきであり、化粧または膏薬のスティックを受容するための容積を区画形成し、そして使用のために前記スティックを繰り出すことを可能にする機構を備えるデバイスを示す。リップスティック管は、また、機構を持たず、そしてリップスティックのスティックを受容するための内部容積を持たないアプリケータに置換することもできる。すなわち、リップスティックのスティックを締結するためのはめ筒を備えたヘッドへと単純化してもよい。また、リップスティックは、化粧、衛生または調剤での使用のために設計したアプリケータの、どのタイプでも置換できる。この場合、それを掴むことを可能にするドライブ・エレメント、適用する物質のためのリザーバ、そしてそのリザーバから物質を繰り出すための手段を設ける。適用物質は、液体または粉状の物質でもよい。
【0055】
静止した、あるいは移動装置によって支持したチャンバ内のシース内に物質を収容するための容積を設けることも可能である。この場合、前述の例において言及したリップスティック管は、例えば、ブラシ、ピペットまたはスパチュラ・タイプのアプリケータで置換する。アプリケータには、上記の例のヘッド28に類似したヘッドを設ければ十分である。第一の変形例において、アプリケータは、収容位置で物質に接触できる。好適な第二の変形例においては、収容位置にあるアプリケータを、適用する物質を含むチャンバから分離する。アプリケータのヘッドを押し込んだときにだけ、アプリケータは、物質を含むチャンバ内へ突入し、ロック機構のロックが外れてアプリケータの放出が可能になる。
【0056】
本発明を、例えば香水ディスペンサ等の液体ディスペンサ、特にバルブあるいはポンプに適用することも可能である。第一の変形例として、移動サブアセンブリを、上記のタイプの移動装置と、端壁の反対側の面に計量分配ノズルとを備えたフラスコまたはビンから構成する。端壁を押すことによってロック手段を解放し、底部の端壁を、シースに対して突き出た突出位置へ繰り出す。その結果、ノズルへアクセスする目的で、ビンの端壁を掴んで、それをシースから完全に取り出すことができる。第二の変形例として、移動サブアセンブリは、突出位置を越えてシースから出てくるように設計されていないワンピースのサブアセンブリである。また、移動サブアセンブリは、例えば、半径方向のノズルと、そのノズルから正反対側にドライブ・ボタンとを備えたヘッドを持ち、バルブまたはポンプを制御することが可能である。シースに対する移動サブアセンブリの軸方向への移動に干渉しないように、シースの軸に直交する方向、例えば、ノズルの半径方向放出軸に対応する半径方向へ押すことによってドライブ・ボタンを作動させることが好ましい。
【0057】
実施例においては、リップスティック管の軸方向の移動のみがロック機構16に伝達され、そのエレメントが、非軸方向の構成要素を含む運動を行う。この軸方向運動の側方運動への変換は、どんな手段でも達成できる。
【符号の説明】
【0058】
10 ディスペンサ
12 移動サブアセンブリ
14 シース
16 ロック手段(ロック機構)
18 シース端壁
19 放出軸
20 放出方向
22 移動装置
24 アプリケータ(リップスティック管)
26 ホルダ円筒
28 ヘッド
30 ドライブ・エレメント
32 端壁
34 スリーブ
35 ブレーキ手段(カラー)
36 中間隔壁
38 収容容積
40 保持手段(内分リング)
42 フランジ
44 カム溝
46 高トラック
48 半高トラック
50 休止トラック
52 低トラック
54 上昇トラック
56,58,60,62 ステップ
66 弾力フィンガ
68 ラグ
70 ドライブ手段(圧縮ばね)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化粧、衛生または調剤物質を提供するためのディスペンサ(10)であって、
放出軸(19)および軸方向の放出方向(20)に沿って筒状に伸びる管状シース(14)と、
前記シースの内部に軸方向に沿って移動可能に配置され、前記シースの開口に臨む端壁(32)およびアクセス用のドライブ・エレメント(30)を持つ移動サブアセンブリ(12)と、
前記シース(14)および/あるいは前記移動サブアセンブリ(12)内に区画形成した、前記物質を受容するための容積部と、
ロック状態において、収容位置にある前記移動サブアセンブリ(12)の、前記シースに対する放出方向への移動を阻止し、そしてアンロック状態において、前記移動サブアセンブリを解放して、前記移動サブアセンブリが前記シースに対して、少なくとも突出位置に到達するまで放出方向へ移動することを可能にするロック手段(16)とからなり、
収容位置にある前記移動サブアセンブリは、前記シース(14)内に完全に受容されて、前記ドライブ・エレメント(30)はアクセス不能であり、前記突出位置において、前記ドライブ・エレメントは、前記シースの外側に突き出し、アクセス可能であり、ユーザが前記移動サブアセンブリの前記端壁(32)を、前記収容位置から押入位置へ、軸方向の前記放出方向とは反対側の軸方向へ押し込むと、前記ロック手段が前記ロック状態から前記アンロック状態へ切り替わるものであり、
前記ロック手段が、前記ロック状態にあるときに係止位置を保持し、前記移動サブアセンブリが前記収容位置から前記押入位置へ進み、前記ロック状態から前記アンロック状態へ移行するときに軸方向運動が変換された非軸方向の側方運動を含む解放相対運動を生じる、閉輪郭を持つハート型のカム溝(44)と前記カム溝に係合する弾力フィンガ(66)とによるカム機構からなり、
前記カム機構は前記移動サブアセンブリの両側に配設されている、ことを特徴とするディスペンサ。
【請求項2】
前記移動サブアセンブリの前記端壁(32)の押し込みが、前記シース(14)に対する回転運動のない並進運動の移動であるように、前記移動サブアセンブリが前記シースに対して誘導される、請求項1に記載のディスペンサ。
【請求項3】
前記押入位置から前記突出位置へ、前記放出方向に前記移動サブアセンブリを繰り出すためのドライブ手段(70)をさらに備えてなる、請求項1または請求項2に記載のディスペンサ。
【請求項4】
前記ドライブ手段が、前記移動サブアセンブリ(12)を前記放出方向に復帰させるように付勢する圧縮ばね(70)からなる、請求項3に記載のディスペンサ。
【請求項5】
前記放出方向への前記移動サブアセンブリ(12)の移動にブレーキをかけるためのブレーキ手段(35)をさらに備えてなる、請求項3または請求項4に記載のディスペンサ。
【請求項6】
前記移動サブアセンブリ(12)が、
前記物質を受容するための前記容積部を区画形成し、前記物質を保持するためのアプリケータ(24)と、
前記シース(14)内に配置した移動装置(22)とからなり、
前記アプリケータは前記移動サブアセンブリの前記端壁(32)を備え、前記移動装置は、前記移動装置(22)に対して前記アプリケータ(24)を保持するための保持手段(40)を備える、請求項1〜5のいずれか1項に記載のディスペンサ。
【請求項7】
前記移動サブアセンブリ(12)が前記突出位置にあるとき、また、前記移動サブアセンブリの前記端壁(32)に前記放出方向へ軸方向力が加えられたとき、前記保持手段が前記アプリケータ(24)を解放する、請求項6に記載のディスペンサ。
【請求項8】
前記移動装置(22)がワンピースである、請求項6に記載のディスペンサ。
【請求項9】
前記弾力フィンガが、前記シースに固定され、または一体化されて前記アンロック状態へ移行するときには軸方向に移動せず、前記カム溝が、前記移動サブアセンブリに固定され、または一体化されて前記アンロック状態へ移行するときには軸方向に移動する、請求項1に記載のディスペンサ。
【請求項10】
前記弾力フィンガが前記シースに対して静止している、請求項9に記載のディスペンサ。
【請求項11】
前記シースの、一方の軸方向端部がシース端壁(18)によって閉じられ、他方の軸方向端部が、前記収容位置にある前記移動サブアセンブリの前記端壁(32)によって閉じられる開口を持ち、そして前記放出方向(20)が、前記シース端壁から前記開口へ向かう、請求項1〜10のいずれか1項に記載のディスペンサ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−240149(P2011−240149A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164768(P2011−164768)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【分割の表示】特願2006−552655(P2006−552655)の分割
【原出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(506273087)シャネル パルファン ボーテ (20)
【氏名又は名称原語表記】CHANEL PARFUMS BEAUTE
【住所又は居所原語表記】135,avenue Charles de Gaulle,F−92200 Neuilly sur Seine,France
【Fターム(参考)】