説明

化粧用塗布具

【課題】化粧用塗布具に化粧料を過剰に吸い込んだり、使用時に空隙による音が発生したり、使用によりしわが発生することを防止する。
【解決手段】化粧用塗布具として、連続気泡スポンジをスライスしてなるスライスシート層、該スライスシート層の下面の表面凹部形状を被覆するように形成された皮膜層を表面に有するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライスされた連続発泡体の片面に、凹部形状に沿って皮膜を密着して設けており、その皮膜面を基材に接合してなる化粧用塗布具に関する。更に詳しくは、スライス表面に有する多数の凹部形状に沿って密着した皮膜を熱転写により形成した化粧用塗布具に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧料の塗布具において、塗布具上の化粧料の量が多い場合には塗布具が上滑りして均一に塗布することが出来ない。逆に塗布具上の化粧料の量が少ない場合には塗布時における肌への抵抗が増加して、使用感の点において好ましくない。
このため、化粧に応じた適量を塗布できるように、化粧用のスポンジへの化粧料の含浸量を、該スポンジの発泡構造、発泡密度、厚さの調整により改善する開発がなされてきた。
具体的には、NBRラテックス、NRラテックスの発泡、ウレタンの湿式発泡について、気泡の大きさや密度を改良することにより含浸量を適切な範囲とすることや、連続気泡体のスライスの厚みを調整することにより化粧料の含浸量を調整してきた。
【0003】
前者の気泡の大きさや密度を改良することにより含浸量を適切な範囲とすることは、既に当業者が任意に実施できるところであるが、後者の連続気泡体のスライスの厚みを調整することには未だいくつかの改善すべき点が存在する。つまり、スポンジの発泡構造とその物性が肌への感触の向上と塗布性の向上に生かされて、任意の含浸量に調整できるので業界の関心が高いものの、化粧料が反対側の表面まで浸透して汚れることが問題であった。
そこで、この問題の解決策として皮膜を設けて不浸透層を形成する等の以下のア〜ウの方法が知られている。
【0004】
ア.弾性シート上にホットメルト性樹脂被膜を介して、湿式成膜されたスキン層を有する薄い湿式発泡ウレタン層等の多孔性層を設けた化粧用パフ塗布具。具体的には厚さ0.4〜0.8mmの湿式発泡ウレタンシートを編布(ナイロントリコットハーフ)に溶液塗布法により形成した多孔質層を用い、又は離型紙にポリウレタン樹脂を塗布して湿式法により成膜した多孔質層を用いてなる、ホットメルト性樹脂は厚さ30〜70μmの熱溶着性フィルムを用いて、弾性シートに熱溶着してなる化粧用パフである。(特許文献1参照)。
【0005】
イ.皮膜のない含浸量の調節として、連続気泡スポンジの片面に、幅1mm、間隔3mmのネット状パターンを熱圧縮して気泡を部分的に閉塞した化粧用スポンジパフ。(特許文献2参照)。
【0006】
ウ.塗布部スポンジと基材スポンジを不浸透性の層を介して接合して、その接合により皮膜を設け、更に、塗布部スポンジに凹凸パターンを熱圧して、浸透量を調節してなる化粧用パフ(特許文献3参照)。その実施例では、厚さ8mmのNBRスポンジを基材スポンジとし、そのスキン層を該不浸透性の層として、その上に塗布部スポンジである連続気泡ウレタンスポンジシートを設け、該塗布部スポンジに凹凸パターンを金属型で熱圧縮して厚さを0.5mmに圧縮している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭55−095611号公報
【特許文献2】特開平09−164017号公報
【特許文献3】特開2005−118433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記アの化粧用パフの表面の該多孔質は、表面にスキン層を有するものであるから、表面と内部はその発泡密度が異なり、表面層は緻密な層であるので、該化粧用パフ表面に供給された化粧料は、専ら表面層の上に存在するが、内部に大量に含浸されるものではない。そうすると、該多孔質層は化粧料の含浸と塗布に特に寄与するとはいえない。また、該化粧用パフはスライスシートではない、汎用のホットメルト樹脂によるフィルムを用いており、凹部形状に密着する皮膜は得られない。
また、弾性シート側に位置する多孔質体の面の凹部の内面の形状に沿って、ホットメルト樹脂により被覆されているとはいえない。
そして、このような化粧用パフは、多孔質層が化粧料を含浸しないので、塗布開始直後に全量が皮膚に付着することから、塗布時の力のかけ方等により肌に対して徐々に化粧料を供給して、使用者の意図に沿って、もしくは均一の塗布量となるようにすることが困難である。
上記イの化粧用スポンジパフは、スポンジにネット状パターンの熱圧縮により気泡が閉塞されて風合が硬くなる。さらに裏面等に非透過性層を設けたものではないから、表面から浸透した化粧料が側面及び裏面から滲み出す問題があり、皮膜形成を行う技術よりも実用性はない。
上記ウの化粧用パフは、不浸透性層を形成し、該不浸透性層を介して凹凸パターンの多孔質の層を多孔質シートの接着等の手段により設けてなる。しかし、該不浸透性層は該化粧用パフの主体のスキン層であるから、その上に接する多孔質の塗布層の凹部表面を被覆するものではなく、しかも該多孔質の塗布層表面皮膜とスポンジの間の前記空隙が、凹凸パターンの熱圧により消滅しないので、使用時においてパフに含浸された化粧料が該スキン層に到達して、該凹部に充填されることになる。
【0009】
このように、連続気泡スポンジに何らかの皮膜を設けて化粧料の浸透を止めて含浸量を調整した塗布具とすることは、上記特許文献1及び3に記載されているように知られている。しかし、該連続気泡スポンジをスライスシートにした場合、その表面には、連続気泡体のスライス時にスライス刃が連続発泡体に引っかかることを原因にして形成された発泡体の泡の大きさより大きい多数の凹部と、該連続気泡スポンジの気泡の断面に由来する発泡体の泡の大きさの凹部とが複合してなる凹部が存在し、その上に単に皮膜を接合した場合にはスライスシート表面と皮膜の間にその複合してなる凹部に由来する空隙を生ずる。そして、この空隙はスポンジ内部の気泡より大きいものである。
この空隙が、パフの使用時に化粧料を過剰に吸い込むので、パフから化粧料を放出させて塗布が終了した後においても、その複合してなる凹部に化粧料が残留した状態となる。
また、頬や額のように比較的平坦な部位や、顎や鼻のように比較的凸部の部位のように、顔面の表面の形状が様々であるから、手により同じ力をパフにかけても、該凸部の部位においてパフの接触面にかかる圧力はより大となるので、その凸部の箇所にはより多くの化粧料が適用されることになる。
このようにして、従来では均一な塗布が困難で、体の部位によって、多くの化粧料が塗布されることがある。
さらに、使用後のパフを洗浄する際に、多くの化粧料がパフに残留していると、より洗浄に手間がかかることになり、また、洗浄を怠って含浸された化粧料が乾燥すると、パフに残留した化粧料が多い程、化粧料の乾燥物によってパフが硬くなる程度も大きくなり、その後の使用性がより悪化する。
加えて、使用時に音の発生源となり、さらに使用によりしわを発生する等の問題を生ずる。
本発明は、皮膜の形成による上記課題を解決して、しかも含浸量を任意に調整できる皮膜が形成された化粧用塗布具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
このような課題を解決する手段は、
連続気泡スポンジをスライスしてなるスライスシートの一面が塗布面を形成しており、該スライスシート面の他面に、スライス刃により表面が荒れることで生じた凹部、及び該連続気泡スポンジが元々有する泡が切断されてなる凹部の2種の凹部が複合して形成された凹部の形状通りに密着して皮膜層が設けられており、該スライスシートの皮膜層が形成された側の面が基材に接合されてなる化粧用塗布具[請求項1]であって、該皮膜層は熱転写により形成されていてもよく[請求項2]、スライスシート層の厚さが0.2〜2.0mmでもよく[請求項3]、前記熱転写による皮膜層が、引張破壊応力45〜60MPa、引張破壊歪み500〜700%であるポリエステルウレタン樹脂であり、厚さが2〜50μmで、前記2種の凹部が複合して形成された凹部の形状の通りに密着してもよく[請求項4]、該皮膜は抗菌剤を含有してもよく[請求項5]、該スライスシートの皮膜形成面が基材に接合されてなり、皮膜形成の対面のスライス面による塗布部を一面又は両面に有するか、前記スライスシートの皮膜形成面が基材に接合されており、該基材が支持具の一部に包接されてなり、スライスシート面による塗布部を支持具の一部の全面に有する[請求項6〜8]化粧用塗布具とすることである。
【発明の効果】
【0011】
スライスシート表面は、肉眼で見る限り平坦ではあるが、図5に示す通り波状の凹部が存在する。この凹部形状はスライス刃によるスライス時に発生したものであり、その凹部の径及び深さは、スライス刃の形状、仕様やスライス条件により異なるものの、スライスシートが元来有している気泡が切断されたことにより生じる凹部の径及び深さよりも格段に大きいものである。
このような凹部と共に、元々連続発泡体に存在する泡が切断されることにより形成されたより小さな凹部も存在しており、本発明におけるスライスシート表面には、この2種の凹部が複合してなる凹部が存在する。
連続気泡体のスライス層に皮膜を設ける面には、このようにスライスにより生じたこの凹部形状の内面に沿って密着して皮膜が形成される。
その結果、使用時において化粧料等が該スライスシートの表面である塗布面より含浸されて、連続気泡に含浸された化粧料等がスライスシートの奥に向けて進む。
このとき、含浸された化粧料等も連続気泡部分には浸透するが、該凹部に形成された皮膜が、スライスシート表面から続く連続気泡と、該凹部をつなぐ化粧料等の通路を遮断するように形成されているので、該凹部まで到達して該凹部を充填することがなく、過剰に含浸されない。
そうすると、使用者は化粧料等を塗布する際には塗布具に供給された少量ずつを肌等に塗布することができるので、意図した量を上滑りせずに部位に関わらず均一に塗布することが可能となる。しかも、使用後において、該凹部には化粧料等が残留しないので、洗浄が容易であり、且つ洗浄しない場合に、残留した化粧料等が乾燥することによる化粧用塗布具の硬化を防止することができる。また該凹部に化粧料等が残存することによる使用時の音の発生や、その凹部の存在によるスライスシートの皺の発生が防止でき、使用感が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】スライスシート層に皮膜層を設け、これを基材に積層させてパフを製造する工程の図
【図2】本発明の化粧用塗布具をチップとした図
【図3】把持部を設けた化粧用塗布具
【図4】把持部を設けた化粧用塗布具
【図5】実施例1により得られた皮膜表面の写真とスライスシートと皮膜の層の断面写真
【図6】比較例1により得られたスライスシートと皮膜の層の断面写真
【発明を実施するための形態】
【0013】
(スライスシート層)
本発明におけるスライスシート層の材料であるスポンジは、NBR、NRのラテックスのダンロップ法によるスポンジ、ポリウレタンの湿式発泡によるスポンジ、ポリウレタンの独立気泡を連続気泡に加工してなるスポンジ等の公知のスポンジを使用できる。発泡倍率等のスポンジ自体の性質を調整することは任意に行い得るものであり、発泡倍率を調整することによりスライスシート層への含浸量を調整することが可能である。
このようなスポンジをスライス刃によりスライスして厚さが0.2〜2.0mm、より好ましくは0.2〜1.0mmにして、両面がスライスされてなるスライスシート層を得る。スライスはスポンジ表面に存在する緻密な層、つまりスキン層を除去することと、及び厚さを調整することにより使用時の化粧料等の含浸量を調整することを目的として行う。スライスシート層の厚さを0.2mm未満とすることは困難であり、2.0mm以上であると含浸量の調整に有用ではなく好ましくない。また、連続気泡でなければ、十分に化粧料等を含浸して保持することが困難になる。
スライスシートの表面は、上記のように連続気泡のスポンジの気泡がスライス刃で切断される際に、該刃が気泡の壁面に引っかかるために生じる大きな凹凸を有しており、この凹凸はスポンジが有している気泡による凹凸よりも大きいものである。
【0014】
(熱転写シート)
熱転写シートは、上記のスライスシート層の片面に、化粧料等を透過させないことを最大の目的とした皮膜層である熱転写層を設けるための部材である。
該熱転写シートは、PET等の耐熱性樹脂フィルムを基材フィルムとし、この基材フィルムの片面に離型層と熱転写される樹脂層を順に形成してなるシートである。
該耐熱性樹脂フィルムの厚さは、柔軟性を有することが必要であることから20〜30μmが好ましく、離型層は、熱転写時において該基材フィルムと熱転写層を分離し、該熱転写層を該基材フィルムから剥がすための層である。
離型層は、加熱による溶融により基材層及び熱転写層との接着力が低下することにより、熱転写層の剥離を容易にするものである。
そのような離型層としては、熱転写時に液化して柔軟なクッション性が得られる離型層でもよく、例えば常温で固体の低融点ポリマーからなり、熱転写時の熱により液体となることにより、皮膜をスライスシート表面に存在する凹凸に密着させる柔軟なクッション性を必要とする。このような作用により、該凹凸の特に凹部に皮膜層を厚くすることができ、その凹部の深さを緩和することが可能となる。
そのような該離型剤としては、融点が60〜100℃の低密度ポリエチレン樹脂であって、例えば融点69℃のUBEポリエチレンUM8928、融点94℃のUBEポリエチレンUM8420、(宇部丸善ポリエチレン株式会社製品)を挙げることができる。離型層の厚さは25〜40μmが好ましい。
また、熱転写層によりスライスシート表面に存在する凹凸の凹部形状に密着した皮膜が形成されずに連続気泡が該凹部と連通すると、その凹部に由来する不具合、つまり、該凹部がスライスシート内の連続気泡と連通することにより、該凹部により形成される空間が該連続気泡を通じて含浸された化粧料で過剰に充填されてしまうことにより過剰に塗布されたり、使用後にも該凹部に化粧料等が残留する等という不具合を生じる。しかしながら、本発明により、凹凸の凹部形状に密着した皮膜を形成して連続気泡が該凹部と連通しないようにすると、該凹部には化粧料等が過剰に充填されないので、この不具合は解消する。
【0015】
(皮膜層)
上記のように、皮膜層はスライスシート表面に存在する凹部形状に密着して機能する層であるから、該凹部に存在する皮膜層は厚く、凸部に存在する皮膜層は比較的薄く形成されている。皮膜層の厚さは2〜50μm、より好ましくは2〜20μmであるが、この厚さは平均厚さであり、熱転写前の離型層を介して基材フィルム上に形成されていたときの厚さと同じ厚さである。
そして凹部形状に密着するように皮膜層が形成されている結果、該凹部はスライスシートと連通する通路が埋められて、気泡とは連通した状態ではなくなる。そして、化粧用塗布具を使用する際に、スライスシートから形成された表面層に含浸してなる化粧料等が、該凹部までは到達しないので該凹部に滞留することがなく、スライスシートの厚さにより決まる含浸量及び予定の塗布量通りに正確に塗布することが可能となる。それと共に、化粧用塗布具に過剰な化粧料が吸収されること、使用時に音が発生すること、及び使用するにつれて塗布面の皺の発生を防止することが可能となる。
そのような、離型層の上に設けた熱転写層とする皮膜の成分としては、凹凸に密着して不浸透皮膜となるものである。柔軟な樹脂被膜成分としては、引張破壊力45〜60MPa、引張破壊歪み500〜700%の範囲にあるポリエステルウレタン樹脂が好ましい。より好ましい引張破壊力は48〜53MPa、より好ましい引張破壊歪みは550〜650%である。引張破壊力及び引張破壊歪みがこの範囲より小さいと皮膜が破れやすく、大きいと密着性が不良となりスライスシートの凹部に密着して被覆しきれないので、いずれにしても該凹部と連続気泡が連通しないようにすることができない。該ポリエステルウレタンからなる厚さ2〜50μmの熱転写層を形成するために該樹脂を溶剤に溶かして基材シート上の離型層表面に塗布する。
また、一旦使用した化粧用塗布具には、使用時に付着した皮膚上の常在菌等が存在する。例えば化粧用塗布具に水性の化粧料等が付着している場合には、その常在菌等の繁殖により化粧用塗布具が臭気を発生させることになる。また、使用後に洗浄されて水分を含有する化粧用塗布具は、この水分中に存在する水棲菌等が繁殖することによっても、同様に臭気を発生することになる。しかしながら、皮膜層に抗菌剤を含有させておくと、該抗菌剤が徐々に化粧用塗布具に拡散して常在菌や水棲菌等の繁殖を防止、又は殺菌することができるので、臭気の発生を防止することができる。
このような用途に使用できる抗菌剤は、銀ゼオライト、銀含有ガラス等の銀系の抗菌剤や、化粧料用に使用できる抗菌剤等、公知の抗菌剤を任意に選択して使用することができる。中でも銀系の抗菌剤は、抗菌性と化学的安定性と皮膚を刺激しないなど人体への安全性の観点から好ましい。
このように、該皮膜層に抗菌剤を配合することが臭気の発生防止の点から必要である。仮にスポンジ層に抗菌剤をを配合しようとすると、そのスポンジが加硫発泡体である場合には、抗菌剤と硫黄化合物とが反応して抗菌性を失うことになり、また湿式方法により発泡体を得る方法において抗菌剤を配合しようとしても、液体中において泡を形成するために溶出される可溶性粒子とともに例えば銀含有の抗菌剤も溶出されることになるので、スポンジ層には抗菌剤が残留しないために抗菌性を発揮できない。
また、皮膜層には香料、着色剤、充填剤等の公知の樹脂用添加剤を必要によって選択して含有させることができ、着色剤を使用した場合には化粧料塗布具の面によって色を変えることや、化粧料塗布具表面に模様等を描くことが可能となる。
【0016】
(熱転写方法)
本発明において、スライスシートの片面に皮膜を形成するために熱転写方法を採用してもよいが、熱転写方法としては連続転写方法と静止転写方法がある。
どちらの方法にしても、加熱により皮膜層がスライスシート表面の凹部形状を被覆できる程度に軟化すること、及び加熱により機能する剥離剤層の場合にはその機能を発現できる温度まで加熱されることが必要であり、そのために熱転写シートの加熱温度及び加熱時間、運転速度等を調整することが必要となる。
そして、連続転写法では、例えばウェブ状の前記熱転写シートをウェブ状のスライスシートに重ねて、15mm/Secの速度、ローラー表面温度180℃の温度の条件下にて連続して熱圧でカレンダー処理により、凹凸部に密着し、凹部形状を被覆した皮膜を転写できる。
また、静止転写法では、スライスシートと熱転写シートを積層して150℃の温度で4〜5秒間熱圧プレスすれば、凹凸部に密着し、凹部形状を被覆した皮膜を転写することができる。
【0017】
(化粧用塗布具)
本発明の化粧用塗布具はパフやチップ等として塗布面から化粧料を含浸させ、これを用いて体の対象部位に塗布するものである。もちろんパフやチップ以外の化粧用塗布具であっても、本発明の構造を有するものであれば良い。また、パフやチップ、その他の化粧用塗布具の大きさ及び形状、手持ち部位の構造等は公知の任意のものとすることができる。
そして、化粧用塗布具はスライスシートの片面に設けた皮膜層を基材の表面に接合してなるものである。具体的には、パフやチップ等として使用できる大きさの基材の表面にスライスシートが表面に現れるように、皮膜層を基材側にして積層させてなるものである。その積層手段としては、オレフィン系、ゴム系、アクリル系等の公知の接着剤を使用した接着や、溶着等の手段を採用する。皮膜層を熱転写する際に離型剤層の一部が皮膜層上に残留した場合、この積層に際して、例えば接着力の面おいて悪影響を及ぼさないような、接着剤を選択することも必要である。
離型層の上に設けた熱転写層とする皮膜の成分としては、スライスシートの凹凸に密着して不浸透皮膜となるものである。柔軟な樹脂被膜成分としては、上記のような引張破壊力45〜60MPa、引張破壊歪み500〜700%の範囲にあるポリエステルウレタン樹脂が好ましい。引張破壊力及び引張破壊歪みがこの範囲より小さいと皮膜が破れやすく、大きいと密着性が不良となりスライスシートの凹部形状を被覆しきれないことになる。該ポリエステルウレタンからなる厚さ2〜50μmの熱転写層を形成するために該樹脂を溶剤に溶かして塗布する。
化粧用塗布具としては、(1)皮膜形成面を基材に接合して、接合対面のスライス面を塗布部として用いるファンデーション用の塗布具、(2)基材の両面にスライスシートの皮膜面を接合し、基材を支持具の一端に包接合して、スライス面を塗布部とする化粧用チップとして用いることができる。
また、ブラシ状の形態の塗布具として、樹脂、金属や木材等の硬質材料からなる把持部を有し、その把持部に表面に塗布面を形成した基材を固定してなるものとすることも可能である。
その基材にも上記被覆層と同様に、公知の抗菌剤や香料、着色剤、充填剤等を選択して使用することが可能である。
【0018】
本発明を図面に基づいて説明する。
図1の(a)から(e)は本発明の化粧用塗布具の製造工程を示す。
(a)は連続気泡のスポンジをスライスして得られるスライスシート層1を示し、これに熱転写により皮膜層2を設けてなるものが(c)である。
(c)の積層体の該皮膜層を基材3表面に接着して、片面が塗布面であるパフ等としたものが(d)であり、さらに必要に応じて基材の他面にもスライスシート層1と皮膜層2からなる積層体である(c)を接着したものが(e)である。
また、図2はチップであって、支持具4によって支持されている円錐形基材3表面に上記(c)を接着させてなるものである。
さらに、図3及び4はブラシ状の形態をしたパフであって、硬質材料からなる把持部6に平板状の中芯5を接続しこの中芯5の表裏面に基材層3を設けさらに該基材表面に皮膜2を介してスライスシート層1を形成してなるものを示す。使用時には把持部6を指で持ち、該スライスシート層1に化粧料を含浸させるものであるから、使用時には手指に化粧料等が付着して汚れることがない。
【0019】
本発明の化粧用塗布具は、(1)皮膜形成面を基材に接合して、接合対面のスライス面を塗布部として用いるファンデーション用の塗布具、(2) 基材の両面にスライスシートの皮膜面を接合して、両面に塗布部を有する化粧用塗布具、(3)スライスシートの皮膜面を基材に接合し、基材を支持具に包接して、塗布部が支持具の両面に形成された化粧用チップとして用いることができる。基材としてはNBR、NR、ポリウレタンのスポンジ、不織布等の多孔質基材や、ゴムや可撓性の樹脂成形体等の非多孔性基材でも良く、肌の表面に沿って柔軟に変形し表面のスライスシート層を肌表面に押しつけることが可能な材料を挙げることができる。実施例により具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
そして、本発明における引張破壊力はJIS K7161に基づいて測定され、引張破壊歪みもJIS K7161に基づいて測定がなされたものである。
【実施例1】
【0020】
(熱転写シート)
厚さ25μmのPETフィルムの一面に、柔軟なクッション性離型層として融点69℃のLDPEであるUBEポリエチレンUM8928(宇部丸善ポリエチレン株式会社製品)のフィルムをドライラミネートして30μmの離型層を設けた。さらに該離型層の上にポリエステルウレタン樹脂として引張破壊応力50MPa、引張破壊歪み600%のバイロンUR−2300(東洋紡績株式会社製品)をメチルエチルケトンに溶解して30%溶液として塗布・乾燥して厚さ15μmの成膜を形成して熱転写シートとした。
比較例1は、上記バイロンUR−2300に替えて、引張破壊応力42MPa、引張破壊歪み355%のクラミロンU8175(株式会社クラレ製品)を用いて厚さ15μmの皮膜を形成した。
【0021】
(転写による皮膜の形成)
連続気泡スポンジのスライスシートとして、ポリウレタン湿式発泡スポンジを0.7mmにスライスした。該スライスシートに、上記熱転写シートを積層して、150℃で4秒間加圧して厚さ15μmの密着皮膜を形成した。
このようにして得た皮膜を有するスライスシートを多孔質基材に接合して下記の化粧用塗布具を作成した。
(1)該スライスシートの皮膜形成面を、多孔質基材としての厚さ7mmのNBRスポンジに接合した化粧用塗布具を作成した。
(2)該スライスシートの皮膜形成面を、多孔質基材としての厚さ7mmのNBRスポンジの両面に接合した化粧用塗布具を作成した。
(3)該スライスシートの皮膜形成面を、多孔質基材としての厚さ1mmのNBRスポンジに接合し、化粧用成形チップの支持体の一端の11mmの長さにわたって多孔質基材を接合して、該スライスシートの面を塗布部とした化粧用チップを作成した。
【0022】
(評価)
上記作成(1)及び(2)について塗布面のリキッドファンデーション液の残留量を下記の測定条件にて測定した結果を表1に示す。
【表1】

実施例1と比較例1が同じ厚さにスライスされて皮膜を有する塗布具であるが、比較例の残留量が多いのは、皮膜形成面のスライスシート表面の凹部形状を十分に被覆できていないために、含浸された化粧料がスライスシートの他面のスライスに起因する大きな凹部と、スライスシートが含有する泡が切断されてなる凹部とが複合して形成された凹部にまで到達することによる。実施例では凹部形状を十分に被覆したことでリキッドファンデーションを有効に使用でき、使用後の塗布具内の化粧料の残留量を低くすることができた。従来の皮膜形成では0.012ml/cm2までの残留量とすることは出来ず、例えば比較例1に示すように0.058ml/cm2と多くの化粧料が残留するものであった。
化粧料の残留量の測定条件:
直径30mmの円形の既知の重量の塗布具試料の塗布面に、0.8gのリキッドファンデーションをのせて、該塗布具試料を手で持ち、腕の内側に塗布を行った。塗布後の塗布具の重量を測定することにより得た塗布前後の塗布具の重量から塗布後の塗布具に残っているリキッドファンデーションの量である残留量を求めた。
図5には、実施例1により凹凸部に密着して皮膜が形成された状態の断面図を示す。
(a)スライスシートの片面に形成された皮膜層表面の写真であり、スライスにより表面に生じた凹凸を残している状態を確認できる。その皮膜層とスライスシートの接合状態を(b)〜(d)で示す。これらの図は、白っぽいスライスシート表面の凹部と黒い皮膜層とが密着している状態を確認できる。スライスシート自体が有している表面の凹凸を皮膜層表面が反映して、(a)のように皮膜層表面も凹凸を有している。
さらに図6は比較例1により得られたスライスシート表面と皮膜層との接合状態であり、黒い皮膜層の下のスライスシートの凹部には空間が存在する。このため、皮膜層表面は平坦であり、皮膜層表面はスライスシート層表面の凹凸を反映して凹凸とはなっていない。
【0023】
(肌への塗布性の評価)
塗布の使用評価は、実施例によれば、化粧料の過剰な吸い込みがなく残留量を0.012ml/cm2にすることができた。残留量が少ない分、塗布時の力の加えかたや塗布部位が異なってもより均一な塗布ができると共に、使用後に洗浄し、残留化粧料を除去することが容易であり、かつたとえ使用後に洗浄せずに乾燥しても、乾燥された化粧料の量も少ないので、それに起因して塗布具が硬化する程度は小さいので、次に使用する際の使用性は良好なままである。さらに、使用により音や皺の発生がなく、皮膜を有する塗布具の課題を解決することができる。
これに対して比較例では、残留量は0.058ml/cm2と多量の化粧料が残留する。あるいは、使用時に空隙による音の発生があったり、空隙を起点にしわを生じ、皮膜を有する塗布具の課題をそのまま有するものである。
【符号の説明】
【0024】
1:スライスシート層
2:皮膜層
3:基材
4:支持具
5:中芯
6:把持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続気泡スポンジをスライスしてなるスライスシートの一面が塗布面を形成しており、該スライスシートの他面の、スライス刃により表面が荒れることで生じた凹部、及び該連続気泡スポンジが元々有する泡が切断されてなる凹部の2種の凹部が複合して形成された凹部にその内面形状通りに密着して皮膜層が設けられており、該スライスシートの皮膜層が形成された側の面が基材に接合されてなる化粧用塗布具。
【請求項2】
該皮膜層は熱転写により形成されていることを特徴とする請求項1記載の化粧用塗布具。
【請求項3】
スライスシート層の厚さが0.2〜2.0mmである請求項1又は2記載の化粧用塗布具。
【請求項4】
前記熱転写による皮膜層が、引張破壊応力45〜60MPa、引張破壊歪み500〜700%であるポリエステルウレタン樹脂であり、厚さが2〜50μmであり、前記2種の凹部が複合して形成された凹部の形状の通りに密着していることを特徴とする請求項2又は3に記載の化粧用塗布具。
【請求項5】
該皮膜は抗菌剤を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の化粧用塗布具。
【請求項6】
前記スライスシートの皮膜形成面が基材に接合されてなり、皮膜形成の対面のスライス面による塗布部を一面に有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の化粧用塗布具。
【請求項7】
前記スライスシートの2枚の皮膜形成面が基材の両面に接合されてなり、スライス面による塗布部を両面に有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の化粧用塗布具。
【請求項8】
前記スライスシートの皮膜形成面が基材に接合されており、該基材が支持具の一部に包接されてなり、スライスシート面による塗布部を支持具の一部の全面に有することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の化粧用塗布具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−45676(P2011−45676A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−199041(P2009−199041)
【出願日】平成21年8月28日(2009.8.28)
【特許番号】特許第4505652号(P4505652)
【特許公報発行日】平成22年7月21日(2010.7.21)
【出願人】(000212005)
【出願人】(595118010)