説明

化繊紙及びその製造方法

【課題】高い和紙の風合いを有しつつ、優れた印刷適性を有する化繊紙の提供を目的とする。
【解決手段】本発明の化繊紙は、天然パルプ繊維とレーヨン繊維とを含有する化繊紙であって、上記天然パルプ繊維としてソーダストパルプ繊維を含むことを特徴とする。上記ソーダストパルプ繊維の含有率が20質量%以上80質量%以下、上記ソーダストパルプ繊維を除く天然パルプ繊維の含有率が10質量%以上30質量%以下、上記レーヨン繊維の含有率が5質量%以上50質量%以下であるとよい。上記ソーダストパルプ繊維のフリーネスが580ml以上700ml以下、重さ加重平均繊維長が1.0mm以上2.5mm以下であるとよい。上記レーヨン繊維の繊度が0.5dtex以上3.0dtex以下、数平均繊維長が2mm以上7mm以下であるとよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材パルプ、草木パルプ(非木材パルプ)等の天然繊維を主原料とし、レーヨン繊維を配合した化繊紙(化学繊維紙)に関する。
【背景技術】
【0002】
木材パルプ、草木パルプ(非木材パルプ)等の天然繊維を主原料とし、レーヨン、ポリエステル、ナイロン等の化学合成繊維を配合した化繊紙は、他の種類の紙にない風合い、光沢、手触りがあるため、それらの特性を生かし、印刷を施した後、和菓子、乾麺等の食品包装等に広く使用されている。
【0003】
従来から知られている印刷加工を施す用途に供せられる化繊紙としては、化学合成繊維であるレーヨン繊維を配合してなるレーヨン紙がある。しかし、レーヨン繊維は天然パルプと異なり、繊維の断面積が大きく、また断面形状が円形をしていることから紙表面に凹凸が形成され平滑性が低く、かつ密度が低くなるため、細かい文字や絵柄等の高精細な印刷に適していなかった。レーヨン繊維を配合した化繊紙の印刷適性を改善する技術として、特定の繊度、繊維長のレーヨン繊維を特定量配合する方法が開示されている(特開平11−350393号公報等参照)。
【0004】
しかしながら、上記化繊紙においては、従来よりも平滑性を高くでき、印刷適性を改善できるものの、印刷加工を施した後包装する用途に供せられる化繊紙が、最近のビジュアル化によりさらに高精細な印刷が要求されるようになってきており、このような用途においては満足できる印刷適性が得られないという問題がある。また、印刷適性を改善するため天然パルプの叩解を進め繊維を短くすると、レーヨン繊維で形成した空隙が少なくなり、レーヨン紙の特徴である和紙の風合いが失われるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−350393号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上述のような事情に基づいてなされたものであり、高い和紙の風合いを有しつつ、印刷適性に優れた化繊紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた発明は、
天然パルプ繊維とレーヨン繊維とを含有する化繊紙であって、
上記天然パルプ繊維としてソーダストパルプ繊維を含むことを特徴とする化繊紙である。
【0008】
当該化繊紙は、レーヨン繊維を含有することにより繊維間に空隙が形成されるため、和紙の風合いを有する。また、当該化繊紙は、微細な繊維を多く含むソーダストパルプ繊維を含有し、このソーダストパルプ繊維がレーヨン繊維による繊維間の空隙を適度に埋めるため、表面が平坦化され高い平滑性を有し、またグラビア印刷等の印刷時のインキ着肉性に優れ印刷時にインキの抜け等が生じにくい。そのため、当該化繊紙は、高い和紙の風合いを有しつつ、優れた印刷適性を有する。
【0009】
上記ソーダストパルプ繊維の含有率としては20質量%以上80質量%以下、上記ソーダストパルプ繊維を除く天然パルプ繊維の含有率としては10質量%以上30質量%以下、上記レーヨン繊維の含有率としては5質量%以上50質量%以下が好ましい。
【0010】
このように当該化繊紙が含有する各繊維の含有率をそれぞれ上記範囲とすることで、当該化繊紙は、レーヨン繊維による空隙による和紙の風合いを有しつつ、上述のソーダストパルプ繊維による適度な空隙充填効果がより効果的に発揮され、さらに高い印刷適性を有する。
【0011】
上記ソーダストパルプ繊維のフリーネスとしては580ml以上700ml以下、重さ加重平均繊維長としては1.0mm以上2.5mm以下が好ましい。このようにソーダストパルプ繊維のフリーネス及び重さ加重平均繊維長を上記範囲とすることで、当該化繊紙は、十分な強度を維持しつつ、上述のソーダストパルプ繊維による適度な空隙充填効果がより効果的に発揮され、さらに高い印刷適性を有する。
【0012】
上記レーヨン繊維の繊度としては0.5dtex以上3.0dtex以下、数平均繊維長としては2mm以上7mm以下が好ましい。このようにレーヨン繊維の繊度及び数平均繊維長を上記範囲とすることで、ソーダストパルプ繊維との組合せが良好となり、当該化繊紙は、和紙の風合いを損なわない程度に繊維間の空隙を保ちつつ、表面の平滑性による良好な印刷適性を有することができる。
【0013】
当該化繊紙の表面のPPS平滑度としては4.0μm以下が好ましい。このように当該化繊紙の表面のPPS平滑度を上記範囲とすることで、当該化繊紙は高い印刷適性を有することができる。
【0014】
また、上記課題を解決するためになされた発明は、
ソーダストパルプ繊維を20質量%以上80質量%以下、ソーダストパルプ繊維を除く天然パルプ繊維を10質量%以上30質量%以下、レーヨン繊維を5質量%以上50質量%以下含有するパルプスラリーを調製する工程と、
このパルプスラリーを抄紙する工程と
を有する化繊紙の製造方法である。
【0015】
当該化繊紙の製造方法によれば、ソーダストパルプ繊維、ソーダストパルプ繊維を除く天然パルプ繊維及びレーヨン繊維を上記の含有率で含有するパルプスラリーを調製し、このパルプスラリーを抄紙することによって、レーヨン繊維による空隙によって和紙の風合いを有しつつ、ソーダストパルプ繊維による適度な空隙充填効果によって優れた印刷適性を有する化繊紙を得ることができる。
【0016】
ここで、「ソーダストパルプ繊維」とは、木材の加工時に生じるオガクズ、削りくず等から取り出したパルプ繊維であり、未叩解の状態でメッツオオートメーション株式会社製「カヤーニFiberLab繊維長測定機」を用いて測定した数平均ファイン含有率(繊維長が0.2mm未満である繊維の含有率)が30%以上であるパルプ繊維を意味する。「重さ加重平均繊維長」、「数平均繊維長」とは、JIS−P8226に準拠して測定される値である。「フリーネス」とは、JIS−P8121に準拠して測定される値である。「繊度」とは、JIS−L1095に準拠して測定される値である。「表面」とは、化繊紙において印刷を行う面を意味する。「PPS平滑度」とは、JIS−P8151に準拠して測定される値である。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明の化繊紙は、高い和紙の風合いを有しつつ、優れた印刷適性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を詳説する。
【0019】
本発明の化繊紙は、天然パルプ繊維と、レーヨン繊維とを含み、天然パルプ繊維がソーダストパルプ繊維を含むことを特徴とするものである。
【0020】
当該化繊紙は、レーヨン繊維を含有することにより繊維間に空隙が形成されるため、和紙の風合いを有する。また、当該化繊紙は、微細な繊維を多く含むソーダストパルプ繊維を含有し、このソーダストパルプ繊維がレーヨン繊維による繊維間の空隙を適度に埋めるため、表面が平坦化され高い平滑性を有し、またグラビア印刷等の印刷時のインキ着肉性に優れ印刷時にインキの抜け等が生じにくい。そのため、当該化繊紙は、高い和紙の風合いを有しつつ、優れた印刷適性を有する。
【0021】
以下、当該化繊紙を構成する必須及び好適な具体的成分(原料、添加剤等)及び当該化繊紙の製造方法について説明する。
【0022】
<天然パルプ繊維>
当該化繊紙に用いられる天然パルプ繊維は、オガクズ、切りくず等から得られるソーダストパルプ繊維を用いることが必須要件である。ソーダストパルプ繊維以外の天然パルプ繊維としては、特に限定されるものではなく、例えば、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等の化学パルプ;ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)などの機械パルプ;茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙等から製造される離解古紙パルプ、離解・脱墨古紙パルプ又は離解・脱墨・漂白古紙パルプ;ケナフ、麻、葦等の非木材繊維から化学的又は機械的に製造されたパルプ等の公知の種々の天然パルプを使用することができる。
【0023】
<ソーダストパルプ繊維>
当該化繊紙には、レーヨン繊維による繊維間の空隙を適度に埋めて印刷適性を向上させる目的で、天然パルプ繊維の一種であるソーダストパルプ繊維が含有される。このソーダストパルプ繊維は、木材の加工時に生じるオガクズや切りくず等を原料としてパルプ繊維化したものであり、数平均ファイン含有率(長さが0.2mm未満の繊維の含有率)が30%以上の繊維である。このソーダストパルプ繊維は、微細な繊維を一定量含有するため、叩解処理して繊維を短くしなくてもレーヨン繊維間の空隙を埋め平坦化することができる。
【0024】
上記ソーダストパルプ繊維のフリーネスは、580ml以上700ml以下が好ましく、600ml以上680ml以下が特に好ましい。ソーダストパルプ繊維のフリーネスが580ml未満では、ソーダストパルプ繊維のフィブリル化率が高くなるため、レーヨン繊維による繊維間の空隙が必要以上に充填され、表面の平滑性は向上するものの、和紙の風合いが低下するおそれがある。逆に、ソーダストパルプ繊維のフリーネスが700mlを超えると微細な繊維が少なくなりレーヨン繊維間の空隙を十分に充填することができず、当該化繊紙のインキ着肉性が低下し印刷適性が低下するおそれがある。また、オガクズや削りくずからこのような繊維を得ることが困難となる。特に、当該化繊紙においては未叩解のソーダストパルプ繊維を用いることにより、剛直で微細なソーダストパルプ繊維がレーヨン繊維による繊維間の空隙に入ることで、適度な空隙を残し和紙の風合いを低下させることなく適度に表面を平坦化できるため好ましい。
【0025】
上記ソーダストパルプ繊維の重さ加重平均繊維長は、1.0mm以上2.5mm以下が好ましく、1.5mm以上2.0mm以下が特に好ましい。ソーダストパルプ繊維の重さ加重平均繊維長が1.0mm未満では、微細なソーダストパルプ繊維が多くなるため、当該化繊紙がピッキングを生じさせやすくなるおそれや、和紙の風合いを出すための空隙が少なくなるおそれがある。逆に、ソーダストパルプ繊維の重さ加重平均繊維長が2.5mmを超えると、当該化繊紙のレーヨン繊維間の空隙の充填が十分にされなくなるため、当該化繊紙の印刷適性が低下するおそれがある。また、木材加工時のオガクズや削りくずからこのような繊維を得ることが困難となる。
【0026】
また上記ソーダストパルプ繊維の数平均繊維長は、0.2mm以上1.0mm以下が好ましく、0.35mm以上0.8mm以下が特に好ましい。ソーダストパルプ繊維の数平均繊維長が0.2mm未満では、微細なソーダストパルプ繊維が多くなり、当該化繊紙がピッキングを生じさせやすくなるおそれがある。逆に、ソーダストパルプ繊維の数平均繊維長が1.0mmを超えると、当該化繊紙のレーヨン繊維間の空隙の充填が十分にされなくなるため、当該化繊紙の印刷適性が低下するおそれがある。
【0027】
当該化繊紙におけるソーダストパルプ繊維の含有率は、20質量%以上80質量%以下が好ましく、25質量%以上70質量%が特に好ましい。ソーダストパルプ繊維の含有率が20質量%未満では、当該化繊紙のレーヨン繊維間の空隙の充填が十分にされなくなるため、当該化繊紙の印刷適性が低下するおそれがある。逆に、ソーダストパルプ繊維の含有率が80質量%を超えると、レーヨン繊維及びソーダストパルプ繊維以外の天然パルプ繊維の含有率が相対的に減るため、和紙の風合いが低下するほか、当該化繊紙の引張強度及び印刷適性が低下するおそれがある。
【0028】
上記ソーダストパルプ以外の当該化繊紙に用いる天然パルプ繊維としては、基紙としての各種品質特性等をバランスよく効率的に達成するために、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)のほか、上白古紙、ケント古紙、茶古紙、クラフト封筒古紙から製造された古紙パルプが好ましく、強度の面からNBKPが特に好ましい。
【0029】
ソーダストパルプ繊維を除いた天然パルプ繊維(以下基礎天然パルプ繊維と呼称することがある)の当該化繊紙における含有率は、10質量%以上30質量%以下が好ましく、15質量%以上25質量%以下が特に好ましい。基礎天然パルプ繊維の含有率が10質量%未満では、当該化繊紙の引張強度やレーヨン繊維の脱落を抑える効果が低下するおそれがある。また、当該化繊紙の地合が悪くなるため、表面の平滑性が低下し、結果として印刷適性が低下するおそれがある。逆に、基礎天然パルプ繊維の含有率が30質量%を超えると、印刷適性が低下するおそれがある。
【0030】
<レーヨン繊維>
当該化繊紙に用いられるレーヨン繊維は、化繊紙において和紙の風合いを醸し出すものである。このレーヨン繊維は公知のものが用いられる。
【0031】
このレーヨン繊維の繊度の下限としては、0.5dtex以上3.0dtex以下が好ましく、1.0dtex以上2.2dtex以下が特に好ましい。レーヨン繊維の繊度が0.5dtex未満では、レーヨン繊維が細くなるため、当該化繊紙の和紙の風合いが低下するおそれがある。逆に、レーヨン繊維の繊度が3.0dtexを超えると、当該化繊紙表面の凹凸が大きくなるため、平滑性が低下しインキ着肉性が低下するおそれがある。
【0032】
上記レーヨン繊維の数平均繊維長は、2mm以上7mm以下が好ましく、2.5mm以上5.0mm以下が特に好ましい。レーヨン繊維の数平均繊維長が2mm未満では、当該化繊紙の和紙の風合いが低下するおそれがある。逆に、レーヨン繊維の数平均繊維長が7mmを超えると、繊維同士の結束が生じることや、当該化繊紙表面の凹凸が大きくなり平滑性が低下することによって、当該化繊紙の印刷適性が低下するおそれがある。
【0033】
当該化繊紙におけるレーヨン繊維の含有率は、5質量%以上50質量%以下が好ましく、10質量%以上35質量%以下が特に好ましい。レーヨン繊維の含有率が5質量%未満では、当該化繊紙の和紙の風合いが低下するおそれがある。逆に、レーヨン繊維の含有率が50質量%を超えると、天然パルプ繊維の含有率が相対的に減るため、当該化繊紙の地合が粗くなり、また、ソーダストパルプ繊維による凹凸の平坦化及びレーヨン繊維間の空隙の充填が十分にされなくなるため、当該化繊紙の印刷適性が低下するおそれがある。
【0034】
当該化繊紙の原料となる上記天然パルプ繊維及びレーヨン繊維からなる混合原料繊維の重さ加重平均繊維長は、2.0mm以上3.0mm以下が好ましく、2.4mm以上2.8mm以下が特に好ましい。この混合原料繊維の重さ加重平均繊維長が2.0mm未満では、当該化繊紙の強度や和紙の風合いが低下するおそれがある。逆に、この混合原料繊維の重さ加重平均繊維長が3.0mmを超えると、当該化繊紙表面の凹凸が大きくなり、当該化繊紙の印刷適性が低下するおそれがある。
【0035】
また、上記混合原料繊維の数平均繊維長は、0.6mm以上1.5mm以下が好ましく、0.7mm以上1.2mm以下が特に好ましい。この混合原料繊維の数平均繊維長が0.6mm未満では、当該化繊紙の強度や和紙の風合いが低下するおそれがある。逆に、この混合原料繊維の数平均繊維長が1.5mmを超えると、当該化繊紙表面の凹凸が大きくなり、当該化繊紙の印刷適性が低下するおそれがある。
【0036】
このように本実施形態では、天然パルプ繊維とレーヨン繊維とを含有する化繊紙であって、上記天然パルプ繊維としてソーダストパルプ繊維を含み、さらに上記ソーダストパルプ繊維の含有率を20質量%以上80質量%以下、上記ソーダストパルプ繊維を除く天然パルプ繊維の含有率を10質量%以上30質量%以下、上記レーヨン繊維の含有率を5質量%以上50質量%以下とすることにより、レーヨン繊維によって和紙の風合いを有しつつ、ソーダストパルプ繊維がレーヨン繊維による繊維間の空隙を適度に埋めることによって高い平滑性及びインキ着肉性を有し、細かい文字や絵柄等の高精細な印刷に適した化繊紙が得られる。
【0037】
さらには、上述のようにソーダストパルプ繊維の含有率を20質量%以上80質量%以下、ソーダストパルプ繊維を除く天然パルプ繊維の含有率を10質量%以上30質量%以下、レーヨン繊維の含有率を5質量%以上50質量%以下とすることに加え、ソーダストパルプ繊維のフリーネスを580ml以上700ml以下、重さ加重平均繊維長を1.0mm以上2.5mm以下とすることにより、ソーダストパルプ繊維、レーヨン繊維の組み合せによる上述の効果がより顕著に発揮され、和紙の風合いを保ちつつ、平滑性及びインキ着肉性により優れた化繊紙を得ることができる。
【0038】
<バインダー繊維>
当該化繊紙は、レーヨン繊維同士及びレーヨン繊維と天然パルプ繊維とを結合させるためのバインダー繊維を含有することが好ましい。レーヨン繊維はフィブリル化しにくい性質を有しているため、パルプ繊維や他のレーヨン繊維との絡み合いによる結合をしにくいが、このバインダー繊維によって、原料繊維を強力に結合させることが可能になる。特に、本発明の化繊紙の製造工程においてヤンキードライヤーにて乾燥を行う場合、配合されるバインダー繊維の融点よりもヤンキードライヤーの表面温度を若干高く設定すると、バインダー繊維が熱溶融され、主原料である天然パルプ繊維及びレーヨン繊維を強固に熱接着させ、繊維の脱落や毛羽立ちを抑えることができるため好ましい。
【0039】
上記バインダー繊維としては、特に限定されるものではないが、ポリビニルアルコールや、ビスコース、ビニロン等が用いられ、通常の乾燥工程で用いられるヤンキードライヤーの表面温度は110℃程度であるため、それよりも低い80℃程度の融点を有するビニロンが好ましい。このような融点を有するバインダーであれば、ヤンキードライヤーの加熱によるバインダーの熱溶融が進行しやすく、天然パルプ繊維及びレーヨン繊維を強固に熱接着させることができる。
【0040】
バインダー繊維の含有量は、上記原料繊維(天然パルプ繊維及びレーヨン繊維)及びバインダー繊維の含有量の合計を100質量%として、0.5質量%以上3.0質量%以下が好ましく、1.5質量%以上2.5質量%以下が特に好ましい。バインダー繊維の配合量が0.5質量%未満では、繊維間の接着効果が十分でなく、レーヨン繊維が脱落するおそれがある。逆に、バインダー繊維の配合量が3.0質量%を超えると、ドライヤーへの張り付きが強くなり、ドライヤーからの剥離性が悪くなるため、当該化繊紙の表面の平滑性が低下し、印刷適性が低下するおそれがある。一方で、バインダー繊維の配合量を0.5質量%以上3.0質量%以下とすることにより、ソーダストパルプ繊維及びレーヨン繊維の脱落や毛羽立ちがより効果的に抑えられ、印刷適性の優れた化繊紙を得ることができる。
【0041】
<乾燥紙力剤>
当該化繊紙は、乾燥紙力剤が内添されることが好ましい。乾燥紙力剤は、セルロース分子中の水酸基と結合するため、当該化繊紙に内添することによって、繊維間の水素結合の数を増やし質を向上させて、当該化繊紙の強度を増加させることができる。また、乾燥紙力剤を配合することで、ソーダストパルプ繊維がレーヨン繊維、基礎天然パルプ間の空隙に充填されやすくなり、またこの空隙に固着されるため、当該化繊紙の印刷適性を向上させることができ、さらにピッキングも防止することができる。この乾燥紙力剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリアクリルアミド系樹脂、カチオン澱粉等が挙げられる。
【0042】
この乾燥紙力剤の配合量は、上記原料繊維(天然パルプ繊維及びレーヨン繊維)固形分に対し固形分で0.1質量%以上1.0質量%以下が好ましく、0.3質量%以上0.5質量%以下が特に好ましい。乾燥紙力剤の配合量が0.1質量%未満では、十分な強度や印刷適性の向上効果を得ることができないおそれがある。逆に、乾燥紙力剤の配合量が1.0質量%を超えると、生産コストが大きくなるばかりで、配合量に比した強度や印刷適性を得ることができないおそれがある。
【0043】
<填料>
当該化繊紙には、上記原料繊維に、内添の填料として従来製紙用途で用いられている填料を添加することができる。この填料としては、例えば、軽質炭酸カルシウム、タルク、二酸化チタン、クレー、焼成クレー、合成ゼオライト、シリカ等の無機填料や、ポリスチレンラテックス、尿素ホルマリン樹脂等が挙げられる。
【0044】
<化繊紙の製造方法>
当該化繊紙は、ソーダストパルプ繊維、ソーダストパルプ繊維を除く天然パルプ繊維及びレーヨン繊維を含有するパルプスラリーを調製する工程と、このパルプスラリーを抄紙する工程とを有する製造方法によって製造することができる。
【0045】
上記ソーダストパルプ繊維、ソーダストパルプ繊維を除く天然パルプ繊維及びレーヨン繊維のそれぞれの含有量は適宜決定することができるが、上述のように、ソーダストパルプ繊維の含有率を20質量%以上80質量%以下、ソーダストパルプ繊維を除く天然パルプ繊維の含有率を10質量%以上30質量%以下、レーヨン繊維の含有率を5質量%以上50質量%以下とすることが好ましい。
【0046】
上記抄紙工程としては、通常の製紙に用いられる抄紙装置を用いることができ、以下のような公知のワイヤーパート、プレスパート、ドライヤーパートを有する抄紙工程を用いることができる。
【0047】
ワイヤーパートでは、当該化繊紙の原料を抄紙する。フォーマーとしては、例えば、長網フォーマー、短網フォーマー、円網フォーマー等を用いることができる。
【0048】
プレスパートでは、ワイヤーパートで抄紙した湿紙に対して加圧による搾水を行う。プレス機としては、例えば、ストレートスルー型、インバー型、リバース型等を挙げることができ、これらの中から1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、紙を保持しやすく断紙が生じにくいオープンドロー部を有さないストレートスルー型が特に好ましい。
【0049】
上記ドライヤーパートの乾燥においては、化繊紙表面の平滑性を高め、印刷適性を向上させるためヤンキードライヤーを用いることが好ましい。化繊紙のヤンキードライヤーに接する面は、平滑性が高くなるため印刷面として好適に用いることができる。そのため、本発明では、化繊紙のこのヤンキードライヤーに接する面を表面(印刷面)とするのが好ましい。
【0050】
上記の製造方法によって得られる化繊紙は、ソーダストパルプ繊維、基礎天然パルプ繊維及びレーヨン繊維を含有していることによって、レーヨン繊維間の空隙をソーダストパルプ繊維が和紙の風合いを残す程度に適度に埋めて表面の平滑性を高めるため、和紙の風合いを有しつつ、優れた印刷適性をもつ化繊紙となる。
【0051】
<平滑度>
当該化繊紙の表面のPPS平滑度としては、2.0μm以上4.0μm以下が好ましい。当該化繊紙のPPS平滑度が4.0μmを超えると当該化繊紙の表面が十分な平滑性を有さないため、印刷適性が低下するおそれがある。一方、当該化繊紙はレーヨン繊維を含有していることによって表面に凹凸が発生するため、当該化繊紙のPPS平滑度を2.0μm未満とすることは製造上困難である。また、当該化繊紙のPPS平滑度が2.0μm未満では、レーヨン繊維による凹凸がなくなるため和紙の風合いがなくなるおそれがある。当該化繊紙において、表面のPPS平滑度は、例えば天然パルプ繊維の種類、フリーネス、天然パルプ繊維とレーヨン繊維の配合質量割合、レーヨン繊維の繊度、繊維長等を変化させることによって調節することができる。
【0052】
<表面粗さ>
当該化繊紙の表面の表面粗さとしては、10μm以上28μm以下が好ましく、10μm以上25μm以下が特に好ましい。当該化繊紙の表面の表面粗さが28μmを超えると、絵柄や文字の印刷時にインクの着肉不良やインクの抜け等が生じやすくなるおそれがあり、当該化繊紙の印刷適性が低下するおそれがある。一方、当該化繊紙はレーヨン繊維を含有していることによって表面に凹凸が発生するため、当該化繊紙の表面粗さを10μm未満とすることは製造上困難である。当該化繊紙において、表面の表面粗さは、例えば天然パルプ繊維の種類、フリーネス、天然パルプ繊維とレーヨン繊維の配合質量割合、レーヨン繊維の繊度、繊維長等を変化させることによって調節することができる。なお、「表面粗さ」とは、JIS B0601に準拠して測定される値(算術平均高さ(Ra))である。
【0053】
<坪量>
当該化繊紙の坪量は、6g/m以上30g/m以下が好ましく、9g/m以上25g/m以下が特に好ましい。当該化繊紙の坪量が6g/m未満では、当該化繊紙の強度が低下するおそれがある。逆に、当該化繊紙の坪量が30g/mを超えると、当該化繊紙の柔軟性が低下し、取扱い性が低下するおそれがある。
【実施例】
【0054】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
なお、本実施例における各測定値は、以下の方法にて測定した値である。
【0056】
[フリーネス(単位:ml)]
JIS−P8121(1995)「パルプのろ水度試験方法」に準拠して測定した。
【0057】
[繊維長(単位:mm)]
JIS−P8226(2006)「パルプ−光学的自動分析法による繊維長測定方法−第1部:偏光法」に準拠して、重さ加重平均繊維長及び数平均繊維長をメッツオオートメーション製「カヤーニFiberLab繊維長測定機」を用いて測定した。
【0058】
[ファイン含有率(単位:%)]
メッツオオートメーション株式会社製「カヤーニFiberLab繊維長測定機」を用いて各繊維の数及び長さをそれぞれ測定し、数平均繊維長分布を導き出し、繊維長が0.2mm未満の微細繊維含有割合を算出した。
【0059】
[繊度(単位:dtex)]
JIS−L1095(2010)「一般紡績糸試験方法」に準拠して測定した。
【0060】
[PPS平滑度(単位:μm)]
JIS−P8151(2004)「紙及び板紙−表面粗さ及び平滑度試験方法(エア・リーク法)−プリント・サーフ試験機法」に準拠して、パーカープリントサーフ表面平滑度試験機(ローレンツェンアンドベットレー株式会社製、機種名:SE−115)にて、バッキングディスクとしてソフトラバー製のものを用い、クランプ圧力1MPaで化繊紙の表面(印刷面)について測定した。
【0061】
[表面粗さ(単位:μm)]
JIS−B0601(1998)「製品幾何学特性仕様(GPS)−表面性状:輪郭曲線方式−用語、定義及び表面性状パラメータ」に準拠して、株式会社小坂研究所製「粗さ解析装置サーフコーダーSE30K」を用いて、化繊紙の表面(印刷面)の算術平均高さ(Ra)を測定し、表面粗さとした。算術平均高さ(Ra)は、化繊紙の表面の横方向について、カットオフ値λc0.8mm、評価長さ5.0mmで測定した。
【0062】
本実施例においては、以下の各品質について評価を行った。
【0063】
[和紙の風合い]
20名が化繊紙を目視し、和紙調に見えるか否かを判断した。
◎:90%以上の人が和紙の風合いがあると評価した。
○:70%以上90%未満の人が、和紙の風合いがあると評価した。
△:50%以上70%未満の人が、和紙の風合いがあると評価した。
×:和紙の風合いを有すると評価した人が50%未満であった。
【0064】
[印刷適性]
PK Print Coat Instruments Ltd.製「Kプリンティングプルーファー」にて、グラビア印刷ヘッドを用いて化繊紙の表面に印刷を施し、以下の基準にて評価を行った。なお、インキとしては東洋インキ株式会社製「Gravure OG16紅NA」を使用し、インキ量は5mlとした。
◎:インキの着色ムラ、インキの転移不良等が目視できない。
○:インキの着色ムラ、インキの転移不良等がわずかに目視できる。
△:インキの着色ムラ、インキの転移不良等があるが、実用上問題はない。
×:インキの着色ムラ、インキの転移不良等が多い。
【0065】
[実施例1]
本発明の化繊紙の原料として、NBKP(市販品)を18質量%、ソーダストパルプ繊維(Domtar社製、品名:TYEE KRAFT)を50質量%、レーヨン繊維(オーミケンシ株式会社製)を30質量%、バインダー繊維(ビニロン繊維、ユニチカファイバー株式会社製、品名:ビニロンバインダーSML)を2質量%の比率で混合したものを用いた。さらに乾燥紙力剤としてポリアクリルアミド系樹脂(星光PMC株式会社製、品名:乾燥紙力剤DS4731)をNBKPとソーダストパルプ繊維とレーヨン繊維の合計固形分に対し固形分で0.3質量%配合した。
【0066】
上記原料に用いたNBKPは、レファイナーでフリーネス約400mlに叩解したものを用いた。また、レーヨン繊維の繊度は1.1dtex、数平均繊維長は3mmである。さらにソーダストパルプ繊維は未叩解(フリーネスが610ml)であり、重さ加重平均繊維長は1.81mm、数平均繊維長は0.49mm、数平均ファイン含有率は41.39%である。また、上記混合繊維(NBKPとソーダストパルプ繊維及びレーヨン繊維からなる繊維)からなる原料の重さ加重平均繊維長は2.45mm、数平均繊維長は0.78mmである。
【0067】
上記化繊紙原料を含有するパルプスラリーを調製し、このパルプスラリーを、短網フォーマーを用いたワイヤーパート、オープンドローを有さないストレートスルー型プレス機を用いたプレスパート、ヤンキードライヤーを用いたドライヤーパートを有する抄紙工程にて抄紙し、坪量17g/mの化繊紙を製造した。
【0068】
上記製造方法によって得られた実施例1の化繊紙の表面のPPS平滑度は、3.2μmであった。また表面の表面粗さは18.6μmであった。
【0069】
[実施例2〜12、及び比較例1及び2]
ソーダストパルプ繊維のフリーネス、重さ加重平均繊維長、数平均繊維長、含有率、NBKPの含有率、レーヨン繊維の繊度、数平均繊維長、含有率、バインダー繊維の含有率はそれぞれ表1に示す値とした。それ以外の数値及び化繊紙の製造方法は実施例1と同様とし、実施例2〜12及び比較例1及び2の化繊紙を得た。
【0070】
[品質評価]
実施例1〜12及び比較例1及び2で得られた各化繊紙について、PPS平滑度、表面粗さ、和紙の風合い、印刷適性について測定又は評価をした。この結果について、表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
表1の結果から示されるように、実施例1〜12の化繊紙は、和紙の風合いに優れ、印刷適性も実使用範囲にある。一方で、比較例1及び2の化繊紙は、和紙の風合いまたは印刷適性のいずれかが著しく劣る。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上のように、本発明の化繊紙は、高い和紙の風合いを有しつつ、優れた印刷適性を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然パルプ繊維とレーヨン繊維とを含有する化繊紙であって、
上記天然パルプ繊維としてソーダストパルプ繊維を含むことを特徴とする化繊紙。
【請求項2】
上記ソーダストパルプ繊維の含有率が20質量%以上80質量%以下、上記ソーダストパルプ繊維を除く天然パルプ繊維の含有率が10質量%以上30質量%以下、上記レーヨン繊維の含有率が5質量%以上50質量%以下である請求項1に記載の化繊紙。
【請求項3】
上記ソーダストパルプ繊維のフリーネスが580ml以上700ml以下、重さ加重平均繊維長が1.0mm以上2.5mm以下である請求項1又は請求項2に記載の化繊紙。
【請求項4】
上記レーヨン繊維の繊度が0.5dtex以上3.0dtex以下、数平均繊維長が2mm以上7mm以下である請求項1、請求項2又は請求項3に記載の化繊紙。
【請求項5】
表面のPPS平滑度が4.0μm以下である請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の化繊紙。
【請求項6】
ソーダストパルプ繊維を20質量%以上80質量%以下、ソーダストパルプ繊維を除く天然パルプ繊維を10質量%以上30質量%以下、レーヨン繊維を5質量%以上50質量%以下含有するパルプスラリーを調製する工程と、
このパルプスラリーを抄紙する工程と
を有する化繊紙の製造方法。


【公開番号】特開2013−57153(P2013−57153A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197686(P2011−197686)
【出願日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】