説明

医療器具の洗浄評価方法およびこれに用いる洗浄評価用インジケータ

【課題】 洗浄後の医療器具について中程度の洗浄レベルを数値データとして記録に残すことのできる医療器具の洗浄評価方法および該方法に用いるインジケータの提供。
【解決手段】 基板21上に擬似汚れが形成された洗浄評価用インジケータ11を用いた医療器具の洗浄評価方法であって、溶解速度が異なる複数の擬似汚れ31,32,33を共存させて、インジケータ11を医療器具とともに洗浄し、洗浄後に擬似汚れ31,32,33の有無を観察することで、4段階の洗浄レベルに分けて医療器具の洗浄評価を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療器具の簡易な洗浄評価方法およびこれに用いる洗浄評価用インジケータに関する。
【背景技術】
【0002】
病院、検査センター、滅菌代行業などの医療関係機関では、使用済みの大量の医療器具を洗浄、滅菌し、再使用が繰り返されている。これらの医療機関において、医療器具の洗浄方法としては、感染からの安全性、経済性の面から、手洗浄に代わって機械洗浄が多く行われており、例えば、病院では、材料室にジェットウォッシャーを設置して集中的に洗浄、滅菌が行われている。そこで、昨今、洗浄された医療器具の清浄度を適切に管理する重要性が増してきている。
【0003】
従来から、洗浄された医療器具の清浄度の管理方法としては、基板上に蛋白質系擬似汚れを塗布した洗浄評価用インジケータを、被洗浄物である医療器具と一緒にバスケットに入れて洗浄し、前記擬似汚れの残量を肉眼で判定する間接法がある。該間接法としては、PEREG GmbH社製の「TOSI洗浄評価インジケーター」(非特許文献1参照)とアルバート・ブラウン社製の「STFロードチェック」(非特許文献2参照)がある。前者は、擬似汚れのスポットを1個ステンレス基板上に塗布したものであり、洗浄後に前記スポットが完全に溶解除去されたときに清浄度が合格と判定される。また、後者は、擬似汚れを複雑な模様でプラスチックフィルム上に印刷したものであり、洗浄後に前記模様が完全に溶解除去されたときに清浄度が合格と判定される。
【0004】
【非特許文献1】株式会社ニチオンのカタログ,TOSI洗浄評価インジケーター
【非特許文献2】アルバート・ブラウン社のカタログ,STFロードチェック
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記2つのインジケータを用いた場合、前記スポットまたは模様が不完全に溶解除去された中程度の清浄度・洗浄レベルをデータとして記録に残すことができず、管理上中程度の洗浄レベルを記録に残す場合、洗浄後のインジケータそのものを保存せざるを得ない。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、洗浄後の医療器具について中程度の洗浄レベルを数値データとして記録に残すことのできる医療器具の洗浄評価方法および該方法に用いるインジケータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕 基板上に擬似汚れが形成された洗浄評価用インジケータを用いて医療器具の洗浄評価を行なうにあたり、溶解速度が異なる複数の擬似汚れを共存させて、前記インジケータを医療器具とともに洗浄し、洗浄後に前記擬似汚れの有無を観察することで、少なくとも3段階以上の洗浄レベルに分けて医療器具の洗浄評価を行なうことを特徴とする、医療器具の洗浄評価方法、
〔2〕 前記〔1〕記載の方法に用いられる洗浄評価用インジケータであって、擬似汚れが、基板上に塗布された汚れ成分に凝固剤処理を施し形成されたものである、医療器具の洗浄評価用インジケータ、
〔3〕 前記〔2〕に記載のインジケータを着脱可能に保持する保持台を備えたことを特徴とする、インジケータ用ホルダー。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る医療器具の洗浄評価方法によれば、基板上に擬似汚れが形成された洗浄評価用インジケータを用いて医療器具の洗浄評価を行なうにあたり、溶解速度が異なる複数の擬似汚れを共存させて、前記インジケータを医療器具とともに洗浄し、洗浄後に前記擬似汚れの有無を観察することで、少なくとも3段階以上の洗浄レベルに分けて医療器具の洗浄評価を行なうので、洗浄後の医療器具について中程度の洗浄レベルであっても数値データとして記録に残すことができる。また、本発明に係る洗浄評価用インジケータによれば、擬似汚れが、基板上に塗布された汚れ成分に凝固剤処理を施し形成されたものであるので、用いる洗浄方法の種類に応じて医療器具の洗浄レベルを適切に評価できるように、複数の擬似汚れの溶解速度がそれぞれ好適に制御されたインジケータを簡易に製造し、提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明は、基板上に擬似汚れが形成された洗浄評価用インジケータを用いて医療器具の洗浄評価を行なうにあたり、溶解速度が異なる複数の擬似汚れを共存させて、前記インジケータを医療器具とともに洗浄し、洗浄後に前記擬似汚れの有無を観察することで、少なくとも3段階以上の洗浄レベルに分けて医療器具の洗浄評価を行なう。
【0010】
本発明に使用する洗浄評価用インジケータ(以下、「インジケータ」と略す場合がある)は、基板上に擬似汚れが形成されたものである。基板の材質は、pH11〜12で60〜70℃のアルカリ性水溶液中に耐え得る耐アルカリ性を有するとともに、93℃の熱水や120℃の熱風に耐え得る耐熱性を有するものであれば特に限定されず、例えば、金属では、鉄、アルミニウム、鋼、真鍮、ステンレス鋼等が挙げられ、プラスチックでは、塩化ビニル樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリカーボネ―ト、ポリメタアクリル、ABS、FRP樹脂等が挙げられる。基板の形状についても特に限定されないが、小スペースでも使用することができる点で、通常、方形の薄板状に形成されたもの、または該薄板を丸めた筒体が好ましく、具体的には、縦横ともに100mm以下の方形で、厚みが5mm以下の薄板、または該薄板を丸めた筒体で、直径10mm以下、長さは300mm以下のものが好ましい。
【0011】
「擬似汚れ」とは、使用済みの医療器具(例えば、手術装置、深さのある容器、麻酔付属品、ガラス製品など)に付着している汚れを想定した成分からなる塗膜であり、前記基板上に汚れ成分を塗布した後、該汚れ成分に凝固剤を作用させて形成されたものである。
【0012】
「汚れ成分」とは、動物類または植物類由来の蛋白質成分、または該成分に物理的若しくは化学的処理を施して得られる変性成分をいい、より具体的には、血液、骨、皮、腱その他の器官・組織に係る成分、または該成分に物理的若しくは化学的処理を施して得られる変性成分をいう。汚れ成分として具体的に使用し得るものとしては、例えば、血液、血清、繊維素(フィブリン)除去血液、抗凝固剤添加血液、膠(にかわ)、ゼラチン、コラーゲン、ムチン、卵、卵白、アルブミン、セモリナプディング、オートミール、ポテトフレークなどをそのままで、または必要に応じて水などを添加して希釈した液状物が挙げられ、上述した各種の汚れ成分は単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0013】
該汚れ成分には、必要に応じて、例えば、脂質成分、粘度調整剤、接着性付与剤、防腐剤または着色剤などを適宜配合することができる。また、上述した汚れ成分のうち、血液関連成分を用いる場合、該血液関連成分を含む塗剤を長期間保存してインジケータの製造に供することができる点で、繊維素除去血液が好適である。
【0014】
基板上に形成される汚れ成分の形状は特に限定されず、基板全体に形成してもよいし、直線、曲線、丸、三角、四角などの単純な形状、またはこれらを組み合わせた複雑な形状(模様)を形成してもよい。また、該汚れ成分の厚みも任意であり、洗浄方式や洗浄条件などに応じて適宜設定することができる。なお、本発明において洗浄方式は特に限定されず、例えば、浸漬洗浄、ブラッシング洗浄などの用手洗浄法、または超音波洗浄、ウォッシャーディスインフェクターを用いた噴射・加熱式洗浄などの機械洗浄法が挙げられる。
【0015】
汚れ成分を基板上に形成するには、例えば、基板をトルエン、アルコールなどの溶剤を用いて脱脂・乾燥し、次いで得られた基板上に上述した汚れ成分を所定の形状および厚みになるように塗布し、続いて塗布された汚れ成分を60℃以下、さらに好ましくは室温で乾燥させる方法などが挙げられる。該汚れ成分の塗布方法は特に限定されず、例えば、手書き、刷毛塗り、スクリーン印刷などの機械印刷など公知の方法を採用することができる。
【0016】
「凝固剤」とは、基板上に形成された汚れ成分に作用すると、該汚れ成分を架橋ないし変性させて、全体として固体状の塗膜を形成するものをいう。凝固剤としては、蛋白質中のアミノ酸側鎖間を架橋する化合物であれば特に限定されず、例えば、アミノ基相互間を架橋する化合物としては、アルキルジイミテート(ビスイミドエスエル類)、アシルアジド類、ジイソシアネート類、ジアルデヒド類、シランカップリング剤などがある。また、アミノ基とチオール基間を架橋する化合物、チオール基相互間を架橋する化合物、カルボキシル基相互間を架橋する化合物なども使用できる。これらは単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0017】
また、上記とは異なる凝固剤として、蛋白質中のアミノ酸側鎖(例えば、アミノ基、チオール基またはカルボキシル基)に共有結合で付加反応する化合物も使用することができ、例えば、アルキルイミド類、イソシアネート類、アルデヒド類などが挙げられ、これらは単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0018】
上述した凝固剤のうち、取扱い性に優れ価格的にも安価である点で、蛋白質中のアミノ基相互間を架橋するアルデヒド類がさらに好ましく、例えば、グルタルアルデヒド、オルトフタルアルデヒド、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒドが挙げられる。
【0019】
上述した凝固剤は、溶剤に溶解した凝固剤液として使用される。そして、該凝固剤を基板上に形成された汚れ成分に作用させる方法は特に限定するものではないが、例えば、前記凝固剤液を前記汚れ成分の上から刷毛塗りなどで塗布し、次いで全体として固体状の塗膜が形成されるまで乾燥する方法、または前記汚れ成分が形成された基板を凝固剤液中に浸漬し、次いで該基板を凝固剤液から引き上げて、全体として固体状の塗膜が形成されるまで乾燥する方法などが挙げられる。
【0020】
本発明では、上述したインジケータを用いて医療器具の洗浄評価を行なうにあたり、溶解速度が異なる複数の擬似汚れを共存させて、前記インジケータを医療器具とともに洗浄する。ここで、「溶解速度が異なる複数の擬似汚れを共存させて」とは、一つの基板上に溶解速度が異なる複数の擬似汚れが形成された一つのインジケータを用いること、または複数の基板上に互いに溶解速度が異なる一ないし複数の擬似汚れが形成された複数のインジケータを用いることをいう。「溶解速度が異なる」とは、同一の洗浄条件下で、共存する複数の擬似汚れの溶解速度が互いに異なることをいう。
【0021】
擬似汚れの溶解速度は、凝固剤の処理濃度、時間、温度、その後の乾燥温度または乾燥時間を変えることにより容易に制御することができる。具体的には、まず、凝固剤の処理濃度が高くなるほど、時間が長くなるほど、または温度が高くなるほど、得られる擬似汚れの溶解速度は遅くなる。例えばオルトフタルアルデヒドの場合、前記処理液濃度は特に限定されず、通常、0.005〜5.0重量%、好ましくは0.01〜1.0重量%の範囲で適宜設定される。また、凝固処理後の乾燥温度が高くなるほど、得られる擬似汚れの溶解速度は遅くなる。前記乾燥温度は特に限定されるものではないが、通常、室温(25℃)〜90℃、好ましくは40〜70℃の範囲で適宜設定される。さらに、凝固処理後の乾燥時間が長くなるほど、得られる擬似汚れの溶解速度は遅くなる。前記乾燥時間についても特に限定されず、通常、0.1〜24時間、好ましくは1〜12時間の範囲で適宜設定される。
【0022】
そして、本発明では、前記インジケータを医療器具とともに洗浄し、洗浄後に前記擬似汚れの有無を観察することで、少なくとも3段階以上の洗浄レベルに分けて医療器具の洗浄評価を行なう。これは、洗浄後に前記複数の擬似汚れの有無を観察したときに、擬似汚れが全て残存した弱い洗浄レベルと、擬似汚れが全て消失した強い洗浄レベルという2つの両極端の洗浄レベルに加えて、擬似汚れが少なくとも1つ残存した中程度の洗浄レベルを評価項目に加えて医療器具の洗浄評価を行なうことを意味する。このように中程度の洗浄レベルを評価するには、溶解速度が異なる2以上の擬似汚れを洗浄時に共存させればよい。なお、本発明において「観察」には、目視観察の他、機械を用いた観察も含まれる。
【0023】
また、本発明では、インジケータは、通常、医療器具といっしょにバスケット内に入れて洗浄される。機械洗浄の際に、インジケータの形状が小型で軽量であると、バスケットの中で移動、もしくはバスケットの外部へ移動してしまい、正確な洗浄評価が不可能となってしまう。したがって、バスケット内での移動または外部への移動を防ぐために重量のあるホルダーをインジケータに装着する。かかるホルダーとしては、例えば、インジケータと略同一サイズの保持台と、該保持台の両端部にインジケータを任意の方向から着脱し得る挟持部を備え、必要に応じて前記保持台の一端部から垂設された把持部を備えたものが挙げられる。また、洗浄中にホルダーが移動しないために充分な重量を必要とする。通常10〜200g、好ましくは20〜100gの範囲の重量が必要となる。かかるホルダーにインジケータを装着すれば、洗浄に際し、バスケット内の任意の所にインジケータを置くことができるとともに、ホルダーが洗浄中に移動することなく、正確な洗浄評価を行なうことが可能となり、洗浄後に把持部を摘んで引き上げることにより、安全に簡易にインジケータを取り出すことができる。
【0024】
以上説明した医療器具の洗浄評価方法によれば、洗浄後の医療器具について中程度の洗浄レベルであっても、それぞれの洗浄レベルに数値付けを行なうようにすれば、数値データとして記録に残すことができ、これにより洗浄する医療器具の種類、付着する汚れの状態などに応じて洗浄条件を簡易に調整することができる。
【0025】
以下では、図面を用いて本発明をより詳細に説明する。図1は、一つのインジケータを用いた場合の一実施形態を示す外観斜視図である。インジケータ11は、長方形の薄板状の基板21上に長手方向に沿って大、中、小と大きさの異なる円形の擬似汚れ31,32,33が形成されている。該擬似汚れは、溶解速度の速い順およびスポットの小さい順に31,32,33とされている。かかるインジケータ11を用いれば、洗浄後に前記複数の擬似汚れの有無を観察したときに、(1)全ての擬似汚れが消失したとき、(2)擬似汚れ33のみが残ったとき、(3)擬似汚れ32と33が残ったとき、(4)全ての擬似汚れが残ったときというように、洗浄レベルを4段階に分けて各レベルに応じて、例えば、0〜3の数字付けを行なうようにすれば、中程度の洗浄レベルを2つの評価(上記の場合、(2)と(3)に相当する洗浄レベル)に分けて数値データとして細かく記録することができる。
【0026】
なお、インジケータ11は、図3に示す専用のホルダー41に装着して洗浄に供することもできる。ホルダー41は、インジケータ11と略同一サイズの板状の保持台42と、保持台42の両端部にインジケータ11を水平方向に着脱し得る可撓性の挟持部43,44を備え、保持台42の一端部から垂設された把持部45を備えている。なお、ホルダー41は、例えば、鉄、ステンレス鋼などの金属製とすることが好ましい。図4に示すように、インジケータ11をホルダー41に装着すれば、洗浄に際し、バスケット内の任意の所にインジケータ11を置くことができるとともに、ホルダーが洗浄中に移動することなく、正確な洗浄評価を行なうことが可能となり、洗浄後に把持部45を摘んで引き上げることにより、バスケット内から安全に簡易にインジケータ11を取り出すことができる。
【0027】
図2は、図1で用いたインジケータ11に代えて、複数のインジケータを用いた場合の一実施形態を示す外観斜視図である。インジケータ21は、3枚1組の基板から構成され、基板22a,22bおよび22c上には、それぞれ擬似汚れ31,32および33が1つずつ形成されている。インジケータ21を用いた場合にも、洗浄中に擬似汚れ31,32および33が共存しているので、上述したインジケータ11と同様の作用効果が奏されることになる。
【0028】
以上本発明について詳細に説明したが、本発明は図示例の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、図1と図2には、3つの擬似汚れが基板上に形成されているが、溶解速度の異なる擬似汚れが複数形成されていれば、該擬似汚れに加えて、凝固剤で処理しない汚れ成分が含まれていてもよい。したがって、溶解速度の異なる擬似汚れが最低2つ共存すれば、該擬似汚れに加えて、凝固剤で処理しない汚れ成分が含まれていてもよい。
【実施例】
【0029】
以下、試験例などにより本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの試験例などによりなんら限定されるものではない。
【0030】
1.インジケータの作製例1
下記基板上に、大(直径10mm)、中(直径8mm)、小(直径6mm)の小円が一列に沿って形成されたスクリーン版を置き、それぞれの小円の枠内に下記汚れ成分を手塗りで塗布することで、図1と同じように基板の長手方向に沿って大、中、小の円形の汚れ成分(以下、「マーカー」という)を形成し、その後室温にて1時間乾燥させた。そして、大、中、小のマーカーが付着した基板のうち、大マーカーを下側に向けて、まず、大マーカーを下記凝固剤中に5秒間浸漬し、次いで該基板をさらに下方に移動させて大マーカーおよび中マーカーを5秒間浸漬し、最後に該基板をさらに下方に移動させて大、中および小の全てのマーカーを5秒間浸漬させた。続いて、基板を凝固剤から引き上げ、表2〜表11に示す乾燥温度および乾燥時間で凝固処理することでインジケータを作製した。
【0031】
(基板)
縦76mm、横27mm、および厚み0.4mmからなるステンレス(SUS304)基板の表面をトルエンで拭いて脱脂・乾燥したものを使用した。
(汚れ成分)
繊維素を除去したヒツジ血液100ml、アルブミン100mlおよびブタの胃粘液2gを500mlのフラスコに入れ、室温で十分攪拌したものを汚れ成分とした。
(凝固剤)
アセトアルデヒド(記号:AA)、グルタルアルデヒド(記号:GA)、ホルムアルデヒド(記号:FA)およびオルトフタルアルデヒド(OPA)のそれぞれをエタノールで溶解して0.01〜0.75重量%としたものを凝固剤とした。
【0032】
2.洗浄試験1
得られたインジケータを下記ホルダーに装着してバスケットに入れ、以下に示す3つの洗浄方式で洗浄し、洗浄後における大、中、小の擬似汚れの有無を以下に示す4段階のレベルで目視観察して、凝固剤による処理条件と擬似汚れの溶解速度(すなわち、医療器具の洗浄レベル)に相関性が認められるか検討した。結果を表2〜表11に示す。
【0033】
(洗浄方式)
浸漬洗浄、超音波洗浄(記号:US)およびウォッシャーディスインフェクター洗浄(記号:WD)の3つの方式を用いた。US洗浄は超音波洗浄機MU−624型(シャープマニファクチャリングシステム社製)を使用し、WD洗浄はウォッシャーディスインフェクター洗浄機MJ−700型(シャープマニファクチャリングシステム社製)を使用した。各洗浄方式を用いた洗浄条件の詳細は表2〜表11に示してある。また、WD洗浄の洗浄プログラムを表1に示す。
【0034】
(洗剤)
上記洗浄試験において用いた洗剤は次のとおりである。
・メディポールEX1〔酵素系洗剤〕(記号:M−EX1,イヌイメデイックス社製)
・メディポールZT〔アルカリ系無泡性洗剤〕(記号:M−ZT,イヌイメデイックス社製)
・メディポールF〔アルカリ系低泡性洗剤〕(記号:M−F,イヌイメデイックス社製)
【0035】
(ホルダー)
図3と同じL字型で、縦85mm,横28mmの保持台と、縦40mm,横28mmの把持部を備え、前記保持台の両端部に図3と同形状で幅7mmからなる挟持部を備えたステンレス(SUS304)からなるホルダーを用いた。
【0036】
(擬似汚れの溶解速度)
擬似汚れが全て消えていたとき・・・・・0
大の擬似汚れのみ残ったとき・・・・・・1
大と中の擬似汚れが残ったとき・・・・・2
全ての擬似汚れが残ったとき・・・・・・3
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
【表4】

【0041】
【表5】

【0042】
【表6】

【0043】
【表7】

【0044】
【表8】

【0045】
【表9】

【0046】
【表10】

【0047】
【表11】

【0048】
表2と表3は、異なる種類の凝固剤を用いて、凝固剤濃度0.5重量%、乾燥温度25℃、乾燥時間12時間の条件で作製したインジケータを用いた洗浄試験結果を示したものである。表2と表3の判定結果から、汚れ成分を凝固剤で処理した場合、汚れ成分を凝固剤で処理しない場合に比べて、溶解速度が遅くなる傾向を示した。このことから、本試験条件で汚れ成分に凝固剤を作用させると架橋反応が進行することが確認された。また、洗浄条件および洗浄剤の種類にかかわらず、擬似汚れの溶解速度は、凝固剤が異なる場合でも同じ傾向であることが確認された。
【0049】
表4と表5は、0.01〜0.75重量%のOPAを用いて、乾燥温度25℃、乾燥時間12時間の条件で作製したインジケータを用いた洗浄試験結果を示したものである。表4と表5の判定結果から、OPAの濃度が高くなるほど、擬似汚れの溶解速度が遅くなる傾向を示した。具体的には、凝固剤濃度が0.01重量%であっても、浸漬洗浄では判定が1以上となり、インジケータの役割を果たすことが確認された。一方、US洗浄やWD洗浄では、浸漬洗浄と比べて洗浄条件が厳しくなることもあり、凝固剤濃度が0.01重量%では判定がほとんど0となった。このため、US洗浄やWD洗浄に用いるためには、凝固剤濃度を0.5重量%以上に設定することが妥当と考えられた。
【0050】
表6〜表8は、0.5重量%のOPAを用いて、乾燥温度25〜90℃、乾燥時間12時間の条件で作製したインジケータを用いた洗浄試験結果を示したものである。表6〜表8の判定結果から、乾燥温度が高くなるほど、擬似汚れの溶解速度が遅くなる傾向を示した。具体的には、乾燥温度が25℃であっても、浸漬洗浄では判定が1以上となり、インジケータの役割を果たすことが確認された。また、US洗浄やWD洗浄では、浸漬洗浄と比べて洗浄条件が厳しくなることもあり、乾燥温度が25℃では判定が0になる場合もあったが、乾燥温度を60℃以上に設定すれば、ほとんどの洗浄条件で判定が1ないし2を示し、インジケータとして好適な溶解速度を示すことが確認された。
【0051】
表9〜表11は、0.5重量%のOPAを用いて、乾燥温度60℃、乾燥時間1〜24時間の条件で作製したインジケータを用いた洗浄試験結果を示したものである。表9〜表11の判定結果から、乾燥時間が長くなるほど、擬似汚れの溶解速度が遅くなる傾向を示した。具体的には、乾燥時間が1時間であっても、浸漬洗浄ではほとんどの条件で判定が1以上となり、インジケータの役割を果たすことが確認された。また、US洗浄やWD洗浄では、浸漬洗浄と比べて洗浄条件が厳しくなることもあり、乾燥時間が1時間では判定が0になる場合もあったが、乾燥時間を12時間以上に設定すれば、ほとんどの洗浄条件で判定が1ないし2を示し、インジケータとして好適な溶解速度を示すことが確認された。
【0052】
3.インジケータの作製例2
インジケータの作製例1にしたがって、大、中、小の汚れ成分(マーカー)が付着した基板を作製し、OPAを凝固剤として、表12〜表17に示す各濃度に調整したOPAを各マーカーの表面に刷毛塗りで塗布した。OPAの塗布終了後、得られた基板を60℃で12時間乾燥させてインジケータを作製した。
【0053】
4.洗浄試験2
得られたインジケータを上述したホルダーに装着してバスケットに入れ、表12〜表17に示す洗浄条件にしたがって洗浄し、洗浄後における大、中、小の擬似汚れの有無を上述した4段階のレベルで目視観察して、OPAによる処理条件と擬似汚れの溶解速度(すなわち、医療器具の洗浄レベル)に相関性が認められるか検討した。そして、表12〜表17の判定結果から、表12〜表17の各擬似汚れは、表2〜表11において対応する凝固剤濃度、乾燥温度および乾燥時間で作成した擬似汚れとほぼ同じ溶解速度を示した。このことから、OPAによる処理条件と擬似汚れの溶解速度に相関性が認められるといえる。また、凝固剤の塗布方法は、擬似汚れの溶解速度にほとんど影響を与えないことが確認された。なお、表12〜表17のうち、浸漬洗浄に加えて、US洗浄およびWD洗浄にも対応可能なインジケータは、表14の洗浄試験に用いたインジケータであると考えられる。
【0054】
【表12】

【0055】
【表13】

【0056】
【表14】

【0057】
【表15】

【0058】
【表16】

【0059】
【表17】

【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明に係る医療器具の洗浄評価方法に使用するインジケータとして、一つのインジケータを用いた場合の一実施形態を示す外観斜視図である。
【図2】本発明に係る医療器具の洗浄評価方法に使用するインジケータとして、複数のインジケータを用いた場合の一実施形態を示す外観斜視図である。
【図3】図1のインジケータ11専用のホルダーを示す外観斜視図である。
【図4】図1のインジケータ11を装着した状態を示す外観斜視図である。
【符号の説明】
【0061】
11,21 インジケータ
21,22a,22b,22c 基板
31,32,33 擬似汚れ
41 ホルダー
42 保持台
43,44 挟持部
45 把持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に擬似汚れが形成された洗浄評価用インジケータを用いて医療器具の洗浄評価を行なうにあたり、溶解速度が異なる複数の擬似汚れを共存させて、前記インジケータを医療器具とともに洗浄し、洗浄後に前記擬似汚れの有無を観察することで、少なくとも3段階以上の洗浄レベルに分けて医療器具の洗浄評価を行なうことを特徴とする、医療器具の洗浄評価方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法に用いられる洗浄評価用インジケータであって、擬似汚れが、基板上に塗布された汚れ成分に凝固剤処理を施し形成されたものである、医療器具の洗浄評価用インジケータ。
【請求項3】
請求項2に記載のインジケータを着脱可能に保持する保持台を備えたことを特徴とする、インジケータ用ホルダー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−346136(P2006−346136A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−175905(P2005−175905)
【出願日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【出願人】(304051791)株式会社イヌイメデイックス (6)