説明

医療機器

【課題】 移動して使用される医療機器において多様な環境で患者のQOLを阻害することなく、患者に確実に警報発生を伝えることを目的とする。
【解決手段】 機器の異常を自動検知し、異常警報を知らせる警報音発生手段を備えた医療機器において、該警報音発生手段が、発生する警報音の音圧レベルが、経時的に大きくなる手段であることを特徴とする医療機器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療機器の警報に関するものであり、特に移動して使用可能な医療機器の機器異常時の警報音に関する。
【背景技術】
【0002】
機器異常時に警報を発する従来の医療機器においては、例えば特開平10−118060号公報では医療用診断装置において警報の種類を任意に設定できる警報手段を備えているものを開示している。これは同じ診断装置が複数ある場所でどの診断装置が警報を発しているか判断しやすくするための工夫であり、具体的には警報音の周波数特性を変更できうる警報装置を備えた医療用診断装置に関するものである。同様な技術は実開平3−56406号公報においても生体現象監視用装置の用途として開示されている。また、実開平1−91992号公報では輸液注入ポンプで発生した異常の経過時間を認識しやすくするために、異常発生からの所定時間ずつ異種の警報を発生させるという技術が開示されている。これらの医療機器は病床等、一定の環境に置かれた医療機器に関する警報音の識別のし易さを改良するための工夫である。
【0003】
近年、患者のQOL改善の一環として、在宅医療が注目されている。在宅医療では患者は自宅にて治療を続けられるため、日常の生活の自由度が向上する。特に、喘息、肺気腫症、慢性気管支炎等の呼吸器系疾患などの低酸素血症に苦しむ患者が増加する傾向にある中で、在宅医療が進められている治療法として酸素吸入療法がある。酸素吸入療法は高濃度酸素を吸気時に供給することで低酸素血症を治療するというものである。このような治療機器としては、高圧酸素を充填したボンベを用い、流量制御装置を用いて一定の流量の酸素を供給する方法、液体酸素を容器に満たし酸素蒸発速度を制御して一定の酸素を供給する方法、また、空気中から酸素濃縮気体を直接分離する酸素濃縮器が開発され、使用時の利便性、保守管理の容易さから酸素吸入療法のための治療装置としてこれらが次第に普及するようになって来ている。
【0004】
従来、酸素濃縮器は重量物であったため家庭内で移動して使用するものではなかった。代わりに、高圧酸素を充填したボンベ、あるいは液体酸素を満たした容器が屋外移動用として使い分けられて来た。しかしながら、患者のQOL改善の目的からは1つの装置で屋内でも使用でき、かつ移動できる、さらには携帯できる酸素濃縮器が望まれており、特開平7−90155号公報、特開平11−92105号公報、特開平11−299894号公報、特開平11−319097号公報、特開平11−319098号公報、特開平11−332987号公報、特開平11−347125号公報等に観られるように、医療用酸素濃縮器は小型化あるいは、移動、携帯できる工夫がなされてきている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−118060号公報
【特許文献2】実開平3−56406号公報
【特許文献3】実開平1−91992号公報
【特許文献4】特開平7−90155号公報
【特許文献5】特開平11−92105号公報
【特許文献6】特開平11−299894号公報
【特許文献7】特開平11−319097号公報
【特許文献8】特開平11−319098号公報
【特許文献9】特開平11−332987号公報
【特許文献10】特開平11−347125号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このような駆動しながら移動、携帯できる医療機器においては、屋外において警報を発生させる必要があることもある。特に携帯のために電池で駆動をする医療機器では装置異常ではなくても、電池のエネルギー残量が少なくなった場合には警報音を発生させる必要がある場合があり、屋外での使用時に頻繁に警報が出される場合がある。
【0007】
また、高圧酸素を充填したボンベを用い、流量制御装置により患者の吸気を感知して、吸気時に酸素を供給し、呼気時には酸素供給を止める方式により、ボンベ内の酸素を節約する方式がある。この場合、患者が口呼吸する、あるいは酸素供給管の捩れ、折れにより流量制御装置が吸気を感知できない場合があり、このような場合にも警報音を発生させる必要がある場合がある。
【0008】
このように、屋外にて警報が発生される場合、使用される屋外環境は多種多様である。従来の医療機器のようにある一定音量に設定された警報音では煩すぎたり、逆に聞こえなかったりする場合がある。例えば、図書館等静かな公共施設においては患者本人に警報音が聞こえるに足りうる程度の小さい音量の警報音が望まれる。一方、交通量の激しい道路や、電車、自動車内などでは周囲の騒音が大きいため、騒音にかき消されない程度に大きな音量の警報音が安全上必要となる。
【0009】
本発明は、移動して使用できる医療機器において多様な環境で患者のQOLを阻害することなく、患者に確実に警報発生を伝えることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は屋外へ駆動させながら携帯できる医療機器において、機器の異常を検知して発生する警報音の音圧レベルが、警報が発生してから経時的に所定時間の範囲内で連続的に、或いは段階的に大きくなる警報音発生手段を有することを特徴とする、携帯型の医療機器である。
【0011】
すなわち本発明は、機器の異常を自動検知し、異常警報を知らせる警報音発生手段を備えた医療機器において、該警報音発生手段が、発生する警報音の音圧レベルが、経時的に大きくなる手段であることを特徴とする医療機器であり、特に該警報音発生手段の発する警報音の最小音圧レベルから最大音圧レベルに達するまでの時間が、2秒以上、10分以下の範囲内、更に好ましくは5秒以上、2分以下の範囲内であることを特徴とする医療機器を提供するものである。
【0012】
また本発明は、該警報音発生手段の発する警報音が、無響音室内で1m離した状態で12.5−20kHzの1/3オクターブバンド測定値のオーバーオール値がA特性で、最小音圧レベルPが30dBAから50dBAの範囲内であり、最大音圧レベルPが40dBAから80dBAの範囲内であり、かつ、P<Pであることを特徴とし、該警報音発生手段の発する警報音が、断続音であり段階的に大きくなること、あるいは、連続音であり段階的に大きくなるなど、経時的に大きくなることを特徴とする医療機器を提供するものである。
【0013】
また本発明は、かかる医療機器が、携帯して使用可能な医療用酸素供給装置であることを特徴とする上記医療機器を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、屋外の多様な環境条件においても周囲環境に阻害を与えず、かつ患者に警報発生を伝えることができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明では、移動して使用できる医療機器において、機器の異常を検知して発生する警報音の音圧レベルが、警報が発生してから2秒から10分の範囲内で経時的に連続して、または少なくとも2段階で段階的に大きくなる警報音発生手段を有することを特徴としている。
【0016】
このような医療機器としては携帯型輸液注入装置、パルスオキシメーター、或いは高圧酸素ボンベを用いた酸素供給装置、液体酸素供給装置、酸素濃縮装置などの携帯型医療用気体供給装置がある。
【0017】
また、警報音発生手段は電子ブザー、発振装置にスピーカーを組み合わせた装置などの警報音発生素子と、警報音発生素子の音圧を変えるためのパラメーター、例えば電圧などを制御できる警報音制御手段により構成される。また、経時的に音圧レベルを変化させるには警報音制御手段には時間計測手段が含まれる。
【0018】
このような警報音発生手段を設けることにより、屋外において警報が発生しても初めは小さな音とすることができるので、静かな環境を阻害することなく、患者本人が認識できる。また、周囲の騒音の大きな場所では警報音が徐々に大きくなり、最終的な警報音の大きさとして周囲の騒音に勝って聞こえるようにすることができる。
【0019】
なお、音圧レベルが変化する時間範囲としては警報発生が開始されてから2秒から10分の範囲が好ましい。2秒よりも短い場合には、静かな環境下で、例え小さな音圧レベルで警報が始まったとしても、患者の対応がつかない内に大きな音圧レベルに達してしまうため、静かな周囲環境を阻害することになる。一方、10分よりも長い時間範囲で警報音の音圧レベルが変わる場合には、騒音の大きな場所ではそれまで警報発生に気づかず、安全性を確保するための警報の機能として充分に役だたない。より好ましい時間範囲としては、5秒から2分の範囲である。
【0020】
ところで静かな環境、騒音の大きな場所などの具体的な騒音レベルは、例えば東京都環境局発行の「東京の環境2003」の騒音、振動、悪臭対策の章に記載されている。騒音レベルの目安として静かな環境の例である図書館内では40dBA、普通の会話では60dBA、騒音の大きな場所の例である、窓を開けた地下鉄の車内では80dBAと報告されている。
【0021】
このような日常の環境での騒音レベルの範囲から、警報音が初めに発生した時の最小の音圧レベルPは、暗騒音が20dBA以下の無響音室内で1m離した状態で12.5−20kHzの1/3オクターブバンド測定値のオーバーオール値がA特性で30dBAから50dBAの範囲であり、最大の音圧レベルPは40dBAから80dBAの範囲でかつ、P<Pであることが好ましい。
【0022】
また、警報音の周波数としては、医療機器が特に高齢の患者に使用される場合にはJIS S0013「高齢者・障害者配慮設計指針―消費生活製品の報知音」に記載のように、中心周波数が2.5kHz以下であることが好ましい。また、その下限周波数としては急激に聞き取り難くなるのが100Hzであり、それ以上が好ましい。より好ましくは300Hz以上、2kHz以下である。
【実施例】
【0023】
[実施例1]
図1に本発明を実施した医療機器の構成を示す。医療機器としては高圧酸素ボンベに流量設定器、流量制御装置である呼吸同調装置を接続した呼吸同調型気体供給装置を用いた。なお、この呼吸同調装置内には微圧センサーを有しており、吸気が検知できない状態が30秒継続すると警報発生信号を発生させることができるものである。また、警報音発生素子としてはスター精密製TMX−12Fを用い、856Hz発振回路とともに2mm厚のABS製箱内に収めた。また、音圧レベルは入力電圧を3から16Vの範囲で制御し変えられるようにした。
【0024】
そして、警報音制御手段により警報発生信号が発生した時の警報音発生素子への入力電圧を3V、10秒後に5V、20秒後に16Vとし、0.5秒ON、0.5秒OFFとすることで断続音となるように警報音を設定した。このとき警報発生時は43dBA、10秒後には55dBA、20秒後には70dBAと段階的に警報音の音圧レベルが大きくなった。
【0025】
このような医療機器を用い、1m離して酸素供給管より呼吸をしないことで警報音を発生させてみた。1分間の平均騒音レベルが36dBAの一般家庭屋内では警報発生時から警報が聞こえた。また平均騒音レベルが73dBAの屋外では警報発生から20秒後には警報がほぼ聞こえるレベルであった。
【0026】
[比較例1]
実施例1において使用した医療機器を用い、その警報音発生素子への入力電圧を5V一定とした。このとき警報音の音圧レベルは55dBであった。このような医療機器を用い、1m離して酸素供給管より呼吸をしないことで警報音を発生させてみた。1分間の平均騒音レベルが36dBAの一般家庭屋内では警報発生時から警報が大きく聞こえ、うるさいと感じるレベルであった。また平均騒音レベルが73dBAの屋外では全く聞こえなかった。
【0027】
本発明により、屋外の多様な環境条件においても環境に阻害を与えず、かつ患者に警報発生を伝えることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明に使用した医療機器の概略構成図。
【符号の説明】
【0029】
1. 高圧酸素ボンベ
2. ボンベ元弁
3. 減圧弁
4. 流量設定器
5. 電磁弁
6. 微圧センサー
7. カニューラ
8. 流量制御装置
9. 警報音発生手段
10. 警報音制御手段
11. 警報音発生素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器の異常を自動検知し、異常警報を知らせる警報音発生手段を備えた医療機器において、該警報音発生手段が、発生する警報音の音圧レベルが、経時的に大きくなる手段であることを特徴とする医療機器。
【請求項2】
該警報音発生手段の発する警報音の最小音圧レベルから最大音圧レベルに達するまでの時間が、2秒以上、10分以下の範囲内であることを特徴とする請求項1記載の医療機器。
【請求項3】
該警報音発生手段の発する警報音の最小音圧レベルから最大音圧レベルに達するまでの時間が、5秒以上、2分以下の範囲内であることを特徴とする請求項2記載の医療機器。
【請求項4】
該警報音発生手段の発する警報音が、無響音室内で1m離した状態で12.5−20kHzの1/3オクターブバンド測定値のオーバーオール値がA特性で、最小音圧レベルPが30dBAから50dBAの範囲内であり、最大音圧レベルPが40dBAから80dBAの範囲内であり、かつ、P<Pであることを特徴とする、請求項1乃至3の何れかに記載の医療機器。
【請求項5】
該警報音発生手段の発する警報音が、断続音であり段階的に大きくなることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の医療機器。
【請求項6】
該警報音発生手段の発する警報音が、連続音であり段階的に大きくなることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の医療機器。
【請求項7】
該医療機器が、携帯して使用可能な医療用酸素供給装置であることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれかに記載の医療機器。

【図1】
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【公開番号】特開2006−25973(P2006−25973A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−207030(P2004−207030)
【出願日】平成16年7月14日(2004.7.14)
【出願人】(503369495)帝人ファーマ株式会社 (159)
【出願人】(503391603)ソレクトロン株式会社 (2)