説明

医療機器

【課題】術具の交換時における作業効率が高い医療機器を提供すること。
【解決手段】処置対象部位に対して処置をするエンドエフェクタを有する術具12と、エンドエフェクタを動作させるアクチュエータ17と、術具12に設けられ術具12をアクチュエータ17に対して着脱可能に連結する着脱インターフェース20と、を備え、着脱インターフェース20は、アクチュエータ17から術具12が取り外されたときにエンドエフェクタを所定の原点位置へと移動させる原点出し機構32を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、手術支援システムとして、操作者が操作を行うマスタマニピュレータと、マスタマニピュレータの動作に基づいて処置を行うスレーブマニピュレータとを備える医療用マニピュレータシステムが知られている。
【0003】
たとえば特許文献1には、マスタマニピュレータ及びスレーブマニピュレータと、処置対象物の画像等を表示する表示画面とを備えた医療用ロボットシステムが開示されている。
特許文献1に記載の医療用ロボットシステムは、操作者の手によって操作される2つのマスタ入力デバイスと、各マスタ入力デバイスに2つずつ接続されたスレーブアームとを有し、マスタ入力デバイスの動作に対応して動作するスレーブアームを、スイッチを用いて切り替えることができる。
【0004】
また、医療機器において、操作者が把持する操作部と、処置対象物に対して処置を行う術具とを切り離すことができる装置が知られている。例えば特許文献2には、操作指令部から取り外すことができる術具(作業部)を備えたマニピュレータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2009−512514号公報
【特許文献2】特開2009−226093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の医療用ロボットシステムにおいて、スレーブアームに取り付けられた術具を他の術具に交換して使用したり、医療用ロボットシステムの使用中に術具を取り外したりする場合が考えられる。この場合に、特許文献2に記載の技術を適用すると、術具が取り外された後に再度術具を取り付けようとした場合に、手作業による位置合わせを要し、作業効率が悪い。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、術具の交換時における作業効率が高い医療機器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の医療機器は、処置対象部位に対して処置をするための可動部を有する術具と、前記可動部を動作させるアクチュエータと、前記術具に設けられ前記術具を前記アクチュエータに対して着脱可能に連結する着脱インターフェースと、を備え、前記着脱インターフェースは、前記アクチュエータから前記術具が取り外されたときに前記可動部を所定の原点位置へと移動させる原点出し機構を有することを特徴とする医療機器である。
【0009】
また、前記原点出し機構は、前記可動部に接続され、前記アクチュエータに接触可能であり、前記アクチュエータから離間している状態において初期位置を有し、前記アクチュエータとの接触により前記初期位置から移動される移動部材と、前記移動部材を前記初期位置へ移動させる復帰部材と、を有していてもよい。
【0010】
また、前記復帰部材は、前記移動部材を付勢して前記初期位置まで移動させる付勢部材を有していてもよい。
【0011】
また、前記付勢部材による前記移動部材の移動を規制する規制部材を有していてもよい。
【0012】
また、前記規制部材は、前記移動部材の移動量を調整する調整部を有していてもよい。
【0013】
また、前記付勢部材はダンパーを有していてもよい。
【0014】
また、前記アクチュエータは、回転動作する軸体と、前記軸体の中心軸線を回転中心として前記軸体を回転させる動力源と、を有し、前記移動部材は、前記軸体と係合して前記軸体とともに回転する回転部材であり、前記回転部材には、前記可動部に一部が固定された動力伝達部材の他の一部が連結されていてもよい。
【0015】
また、前記回転部材は、前記回転部材の周方向に延びるカムを有し、前記復帰部材は、前記カムに当接するカムピンが設けられ前記回転部材を押圧する押圧部材を有していてもよい。
【0016】
また、前記回転部材は、前記初期位置にて前記回転部材が停止するように前記回転部材の回転動作を規制するストッパを有していてもよい。
【0017】
また、前記回転部材は、前記回転部材の周方向に延びるカムと、前記初期位置にて前記回転部材が停止するように前記回転部材の回転動作を規制するストッパと、を有してもよい。
【0018】
また、前記復帰部材は、前記回転部材の外周に掛けられた紐部材と、前記紐部材に固定されたバネとを有し、前記回転部材は、前記バネに外力がかかっていない状態で初期位置となるように前記紐部材を介して前記バネに接続されていてもよい。
【0019】
また、前記可動部は、処置対象部位に対して処置をするエンドエフェクタを有していてもよい。
【0020】
また、本発明の医療機器は、前記着脱インターフェースに設けられ前記術具の種類を特定するための情報を有する情報記録部と、前記情報記録部に記録された前記情報を認識する認識部と、前記認識部によって認識された前記情報に基づいて前記アクチュエータに取り付けられた前記術具を特定して動作させる制御装置と、を有していてもよい。
【0021】
また、前記情報記録部は、近距離無線通信をする無線タグであり、前記認識部は、前記無線タグからの情報を読み取る無線装置を有していてもよい。
【0022】
また、前記情報記録部は、前記術具に固有の形状を有する凹凸部を有し、前記認識部は、前記凹凸部により導通状態が切り替わる複数のスイッチを有していてもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の医療機器は、術具の交換時における作業効率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施形態の医療機器を示す全体図である。
【図2】同医療機器におけるスレーブマニピュレータの一部の構成を示す斜視図である。
【図3】同スレーブマニピュレータに設けられた術具の一部の構成を示す斜視図である。
【図4】同スレーブマニピュレータに設けられた術具の一部の他の構成を示す斜視図である。
【図5】同スレーブマニピュレータにおける着脱インターフェースの一部の構成を示す部分断面図である。
【図6】同スレーブマニピュレータにおける着脱インターフェースの一部の構成を示す部分断面図である。
【図7】同スレーブマニピュレータにおける遠位側インターフェースの一部の構成を示す斜視図である。
【図8】同医療機器の使用時の動作を示すフローチャートである。
【図9】同医療機器の変形例の構成を示す斜視図である。
【図10】同変形例における他の構成を示す斜視図である。
【図11】同医療機器の他の変形例を示す模式図である。
【図12】同医療機器のさらに他の変形例を示す斜視図である。
【図13】同医療機器のさらに他の変形例の構成を示す側面図である。
【図14】同変形例における使用時の動作を説明するための図である。
【図15】同変形例における使用時の動作を説明するための図である。
【図16】本実施形態に対する設計変更の一例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の一実施形態の医療機器について説明する。図1は、本実施形態の医療機器を示す全体図である。
図1に示すように、本実施形態の医療機器1は、マスタスレーブ方式の手術支援システムとして使用される医療用の機器である。医療機器1は、マスタマニピュレータ2と、スレーブマニピュレータ10と、制御装置40とを備える。
【0026】
マスタマニピュレータ2は、操作者Opの操作の動きをスレーブマニピュレータ10に伝達するマスタとして機能するものであって、マスタ表示部3と、操作部4とを備える。
【0027】
マスタ表示部3は、図示しないカメラによって撮影される患者の術部及びその近傍の映像を表示するものである。マスタ表示部3としては、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイなどの公知のディスプレイ装置を適宜選択して採用することができる。
【0028】
操作部4は、操作者Opの操作の動きをスレーブマニピュレータ10に伝達するためのものであり、制御装置40と通信可能に接続されている。また操作部4は、操作者Opがマスタ表示部3を見ながら操作できるようにマスタ表示部3の前側に配置されている。操作者Opによって操作部4が操作されると、操作部4は、操作の動きを解析し、スレーブマニピュレータ10を駆動させるための信号を制御装置40に出力する。
【0029】
図2は、スレーブマニピュレータ10の一部の構成を示す斜視図である。図3は、スレーブマニピュレータ10に設けられた術具12の一部の構成を示す斜視図である。図4は、スレーブマニピュレータ10に設けられた術具12の一部の他の構成を示す斜視図である。
図1および図2に示すように、スレーブマニピュレータ10は、スレーブアーム11と、術具12と、アクチュエータ17と、着脱インターフェース20とを備える。
【0030】
スレーブアーム11は、1自由度以上の関節を有するアームである。スレーブアーム11は、図示しない動力源から伝達される動力により、マスタマニピュレータ2の操作に対応して動作する。本実施形態では、複数のスレーブアーム11がスレーブマニピュレータ10に設けられている。
【0031】
術具12は、体内に挿入される挿入部13と、挿入部13に設けられたエンドエフェクタ14(可動部)と、エンドエフェクタ14に操作力量を伝達するためのワイヤW(動力伝達部材、図5参照)とを備える。
【0032】
挿入部13は、硬性あるいは軟性の筒状部材であり、内部にワイヤWが挿通されている。挿入部13の一端にはエンドエフェクタ14が取り付けられており、挿入部13の他端には着脱インターフェース20の一部である遠位側インターフェース25が取り付けられている。
【0033】
エンドエフェクタ14としては、外科手術等の医療行為において使用される器具を適宜選択して採用することができる。たとえば、エンドエフェクタ14として、図3及び図4に示すように、鉗子15や鋏16等を採用することができる。以下では、エンドエフェクタ14の例として、開閉動作可能な一対の鉗子15片が設けられた把持鉗子15を挙げて説明を行なう。エンドエフェクタ14は、医療機器1の使用開始時における原点位置が定められている。エンドエフェクタ14における原点位置は、処置対象部位となる生体組織を傷付けることないように考慮された位置である。たとえば、本実施形態のエンドエフェクタ14である把持鉗子15は、全開状態が原点位置とされている。これにより、エンドエフェクタ14の使用中にエンドエフェクタ14を原点位置に復帰させたときに、意図せずに生体組織を把持してしまうのを防ぐことができる。なお、原点位置は、全開に限らず、全閉や、全開と全閉との間、とすることができる。
【0034】
図2に示すように、アクチュエータ17は、着脱インターフェース20を介してワイヤWを駆動させるために設けられている。アクチュエータ17は、動力源となるサーボモーター18と、サーボモーター18によって回転される軸体19とを有する。
【0035】
図5は、スレーブマニピュレータ10における着脱インターフェース20の一部の構成を示す部分断面図である。図6は、スレーブマニピュレータ10における着脱インターフェース20の一部の構成を示す部分断面図である。図7は、スレーブマニピュレータ10における遠位側インターフェース25の一部の構成を示す斜視図である。
着脱インターフェース20は、スレーブアーム11に取り付けられた近位側インターフェース21と、術具12に取り付けられた遠位側インターフェース25とを有する。
【0036】
図2及び図6に示すように、近位側インターフェース21は、スレーブアーム11に固定されており、アクチュエータ17に連結されている。図近位側インターフェース21は、遠位側インターフェース25に係合するロック機構22と、術具12の種類を判別するためのセンサー23(認識部)が取り付けられている。
【0037】
ロック機構22は、手作業等によって近位側インターフェース21に遠位側インターフェース25を固定するために設けられている。
【0038】
センサー23は、後述する無線タグ33に記憶された情報を読み取る装置であり、無線タグ33に記憶された情報に基づいて、術具12の種類を判別することができる。これにより、近位側インターフェース21に取り付けられた術具12の種類に対応した動作をアクチュエータ17にさせることができる。
【0039】
遠位側インターフェース25は、アクチュエータ17の軸体19に対して着脱可能に設けられた移動部材26と、移動部材26を所定の原点位置へ復帰させるための復帰部材29と、術具12の種類を特定するための情報を有する無線タグ33(情報記録部)とを有している。本実施形態では、無線タグ33は、センサー23に対して極近い距離において通信をすることができるように通信可能範囲が制限された近距離無線通信に特化したタグであり、手術室内に持ち込まれた他の術具12との混信を防止するようになっている。
【0040】
移動部材26には、ローラ26aを有しており、ローラ26aにエンドエフェクタ14を動作させるためのワイヤWが連結されている。また、移動部材26は、アクチュエータ17の軸体19に接触可能な回転部材27でもある。回転部材27は、サーボモーター18からの動力によって、軸体19の回転軸回りに回転動作する。回転部材27が回転動作すると、ローラ26aの外周面にワイヤWの一部が巻き取られたり、ローラ26aの外周面からワイヤWが繰り出されたりすることにより、ワイヤWを介してエンドエフェクタ14が動作する。
【0041】
図6及び図7に示すように、回転部材27には、回転部材27の回転中心を中心線とするらせん形状の一部をなして形成された傾斜カム28が設けられている。
【0042】
復帰部材29は、傾斜カム28に当接する押圧部材30と、押圧部材30を付勢する付勢部材31とを有する。
【0043】
押圧部材30は、回転部材27が初期位置へ向かって回転中心周りに回転するように傾斜カム28を押圧するためのカムピン30aを有する。押圧部材30は、付勢部材31に押圧されることにより遠位側インターフェース25から突出する本実施形態では棒状の部材であり、遠位側インターフェース25を近位側インターフェース21に取り付けることによって遠位側インターフェース25内に押し込まれるようになっている。すなわち、押圧部材30は、近位側インターフェース21に当接して進退する。近位側インターフェース21によって押圧部材30が遠位側インターフェース25内に押し込まれている状態では、押圧部材30は傾斜カム28から離間した状態となる。
【0044】
付勢部材31は、回転部材27の回転中心方向へと押圧部材30を付勢する部材であり、本実施形態では圧縮バネによって構成されており、押圧部材30の外周側に位置している。付勢部材31を構成する圧縮バネの一端は押圧部材30のフランジ部30bに接し、付勢部材31を構成する圧縮バネの他端は遠位側インターフェース25の筐体に接している。付勢部材31は、回転部材27の回転中心方向と平行に伸縮し、回転部材27の回転中心方向と平行に押圧部材30を移動させる。具体的には、回転部材27が初期位置から最大回転位置へ向かって回転するときには、押圧部材30を介して付勢部材31が圧縮され、回転部材27が最大回転位置から初期位置へ向かって回転するときには、押圧部材30による付勢部材31の圧縮は解除される。回転部材27が初期位置にあるときに、付勢部材31はわずかに押圧部材30を押圧しており、付勢部材31は、回転部材27がアクチュエータ17と連結されていないときには、回転部材27が初期位置から最大回転位置側にずれにくいように付勢している。
【0045】
本実施形態では、傾斜カム28及び押圧部材30により、エンドエフェクタ14における原点位置及び可動範囲に対応して、回転部材27の初期位置及び最大回転位置が定められている。具体的には、付勢部材31の付勢力によって最も押圧部材30が押圧されたときにおける回転部材27の位置が初期位置である。また、最大回転位置は、初期位置からの回転角度として、アクチュエータ17を制御する制御装置40により規制されている。
本実施形態では、移動部材26及び復帰部材29により、エンドエフェクタ14を原点位置に復帰させる原点出し機構32が構成されている。
【0046】
図1に示すように、制御装置40は、マスタ制御部41と、マニピュレータ制御部42とを有している。
マスタ制御部41は、マスタマニピュレータ2から出力される信号を受信し、スレーブマニピュレータ10を動作させるための信号を生成する。さらに、マスタ制御部41は、マスタ制御部41において生成された信号をマニピュレータ制御部42へと出力する。
【0047】
マニピュレータ制御部42は、マスタ制御部41から受信した信号に基づいて、スレーブマニピュレータ10を動作させるための信号を生成してスレーブマニピュレータ10へと出力する。本実施形態では、マニピュレータ制御部42は、少なくとも、スレーブアーム11及びアクチュエータ17を、マスタ制御部41からの信号に従って動作させる。
【0048】
次に、医療機器1の作用について説明する。図8は、医療機器1の使用時の動作を説明するためのフローチャートである。
本実施形態では、医療機器1は、複数の術具12を有しており、各術具12は、近位側インターフェース21に取り付け可能な同様の遠位側インターフェース25を有している。また、各術具12に設けられた遠位側インターフェース25は、互いに異なる識別子を有する無線タグ33が設けられている。
【0049】
まず、医療機器1が立ち上げられ、待機状態となる(図8に示すステップS1)。
なお、外科手術に本実施形態の医療機器1が使用される場合には、全体が滅菌されている、あるいは、遠位側インターフェース25よりも遠位側に配される術具12が滅菌されていることが好ましい。この場合、近位側インターフェース21及び術具12は滅菌可能であることが好ましい。また、近位側インターフェース21より近位側の構成要素(例えばスレーブアーム11)は、滅菌ドレープによって覆われていてもよい。
【0050】
続いて、必要に応じて、操作者Opによる手作業その他の方法により、術具12がスレーブアーム11に取り付けられる(ステップS2)。
具体的には、ステップS2では、近位側インターフェース21に遠位側インターフェース25が固定されることにより、スレーブアーム11に術具12が取り付けられる。これにより、遠位側インターフェース25に配された回転部材27は、近位側インターフェース21に配された軸体19に係合し、回転部材27は、軸体19と係合して軸体19とともに回転できるようになる。
さらに、無線タグ33とセンサー23とが近接状態となるので、無線タグ33からの情報をセンサー23が読み取ることができるようになる。制御装置40では、センサー23を介して無線タグ33の情報を参照し、術具12が装着状態であるか否かの判定を行なう(ステップS3)。
【0051】
無線タグ33からの情報が読み取れない場合には、術具12が装着状態ではないと判定され、エラー判定(ステップS4)が行なわれる。例えば、ステップS3では、マスタ表示部3に「術具未装着」等のメッセージを表示し、術具12を装着することの要否の問い合わせを行なう。ステップS3において、例えば術具12の装着方法の誤り等によって術具12が正しくスレーブアーム11に取り付けられていない場合には、術具12を付け直すことにより、エラーは解消され、ステップS2、ステップS3を経てステップS6へ進む。
【0052】
また、術具12を装着しないスレーブアーム11がある場合には、術具12が装着されていないことを示すエラーコードを発する(ステップS5)。本実施形態では、術具12が取り付け可能な全てのスレーブアーム11に対して、術具12がスレーブアーム11に取り付けられたか否かの判定が行なわれる。これにより、術具12が取り付けられているスレーブアーム11と術具12が取り付けられていないスレーブアーム11とを区別することができる。また、必要に応じて、ステップS5において得られたエラーコードを用いて、術具12が取り付けられていないスレーブアーム11を、邪魔にならない位置に退避させたり、マスタマニピュレータ2からの信号に対して反応しない未使用状態に設定したりしてもよい。
【0053】
なお、術具12の取り付け間違い等がなく正しく術具12が取り付けられていれば、スレーブアーム11に対して術具12が装着状態であると判定されてステップS6へ進む。
【0054】
ステップS6は、医療機器1を動作状態とし、術具12を使用して処置をするステップである。
術具12の使用時には、センサー23によって認識された無線タグ33の情報に基づいて、アクチュエータ17に取り付けられた術具12を特定し、術具12の種類に対応した動作をさせることができる。術具12の操作は、マスタマニピュレータ2に設けられた操作部4によって行なわれる。
これでステップS6は終了する。なお、スレーブアーム11に取り付けられた術具12を交換する必要がない場合は、ステップS6までで操作の全体を終了させてもよい。
スレーブアーム11に取り付けられた術具12を交換する場合には、ステップS6へ進む。
【0055】
ステップS7は、術具12を交換するために動作を一時停止させるステップである。
ステップS7では、医療機器1のスレーブアーム11から術具12を取り外す必要が生じており、医療機器1の操作者Opは、術具12の動作を止め、術具12を安全な位置へと退避させる。術具12の移動は、マスタマニピュレータ2の操作部4を用いて行なう。たとえば、把持鉗子15を、処置対象部位から離間させることにより、安全な位置へと移動させる。
なお、術具12を安全な位置へと退避させる動作は、スレーブマニピュレータ10が自動的に行なってもよい。この場合、生体組織の位置を検知して、生体組織に術具12が接触しないように、術具12の移動経路を決定する手段がスレーブマニピュレータ10に設けられ、当該手段により術具12が退避するようになっていてもよい。
これでステップS7は終了し、ステップS8へ進む。
【0056】
ステップS8は、医療機器1を待機状態に変更するステップである。このステップでは、マスタマニピュレータ2の操作部4からの信号はキャンセルされ、スレーブマニピュレータ10は動作しない。このため、操作者Opがスレーブマニピュレータ10に触れることができる。ステップS8以降、医療機器1は、動作状態に変更するまで、待機状態となる。
【0057】
ステップS9は、待機状態にある医療機器1において、術具12を取り外すステップである。
ステップS9では、近位側インターフェース21から遠位側インターフェース25を取り外すために、ロック機構22を解除する。さらに、軸体19と回転部材27との係合が外れるように、近位側インターフェース21を遠位側インターフェース25から離間させる。
【0058】
上記ステップS8においてサーボモーター18を動作させるための信号はキャンセルされているので、軸体19から回転部材27へはトルクがかかっておらず、回転部材27から軸体19が容易に離間する。回転部材27から軸体19が離間すると、回転部材27は自在に回転できるようになる。さらに、近位側インターフェース21による押圧部材30の押圧も、近位側インターフェース21から遠位側インターフェース25が離間することにより解除される。
【0059】
回転部材27には、傾斜カム28を介して押圧部材30が連結されており、押圧部材30は、付勢部材31の付勢力によって、回転部材27が初期位置に移動する方向へと傾斜カム28を押圧する。押圧部材30が回転部材27の傾斜カム28を押圧することにより、回転部材27は、最大回転位置から初期位置へ向かって回転移動する。回転部材27が最大回転位置から初期位置へ向かって回転移動すると、回転部材27の外周面に巻かれたワイヤWは、一対の鉗子15片を原点位置へと移動させるように動く。
【0060】
これにより、近位側インターフェース21から遠位側インターフェース25を取り外すと、取り外し前における把持鉗子15の開閉状態に関わらず、付勢部材31の付勢力を動力として、把持鉗子15が原点位置に復帰する。すなわち、スレーブアーム11から術具12を取り外すと、術具12のエンドエフェクタ14は原点位置に復帰する。
これでステップS9は終了し、ステップS10へ進む。
【0061】
ステップS10は、アクチュエータ17を動作させて軸体19を初期状態の位置へ復帰させるステップである。
ステップS10では、近位側インターフェース21に取り付けられたアクチュエータ17により、軸体19が、回転部材27の初期位置に対応するように移動されて停止する。
本実施形態のアクチュエータ17はサーボモーター18を有しており、サーボ機構により位置情報がフィードバックされる。これにより、アクチュエータ17により軸体19が正しく初期状態に復帰したか否かが判定され(ステップS11)、軸体19が精度良く初期状態に復帰される。
【0062】
ステップS11の終了後、必要に応じて、術具12の交換対象となるスレーブアーム11に対して別の術具12aを取り付けることができる。
上記別の術具12aは、本実施形態における遠位側インターフェース25を有しているので、エンドエフェクタ14は原点位置にある。そして、近位側インターフェース21において、軸体19は、初期状態にリセットされている。これにより、軸体19と回転部材27との位置合わせはすでに完了しており、遠位側インターフェース25を近位側インターフェース21に容易に取り付けることができる。
さらに、無線タグ33とセンサー23との無線通信により、別の術具12aが取り付けられたことが判別され、マスタマニピュレータ2は、当該別の術具12aに対応した動作手順によって新たな信号を発することができる。
【0063】
別の術具12aを装着する場合も、上述のステップS2からステップS6までの一連のフローに基づいて、術具12aが正しく取り付けられているかの判定がなされた後に術具12aが使用可能となる。
【0064】
以上説明したように、本実施形態では、原点出し機構32は、アクチュエータ17から術具12が取り外されたときに、エンドエフェクタ14を所定の原点位置へと移動させる。これにより、術具12の取り外し後に別の術具12aを取り付ける場合に、位置合わせをする必要がない。また、取り外した術具12を再度取り付ける場合であっても、エンドエフェクタ14の位置は常に原点位置にあるので、位置確認をする必要がない。これにより、本実施形態の医療機器1では、術具12の交換時における作業効率が高い。
【0065】
また、復帰部材29に付勢部材31が設けられているので、遠位側インターフェース25の取り外し動作に対応して自動的にエンドエフェクタ14を原点位置へと復帰させることができる。
【0066】
また、無線タグ33に記憶された情報をセンサー23が認識することによって術具12の種類を判別することができるので、たとえばエンドエフェクタ14の種類が異なる術具12を交換して使用する場合に、マスタマニピュレータ2に対するエンドエフェクタ14の情報の入力を自動化することができる。また、無線通信によって術具12の種類を伝達することができるので、術具12の種類を伝達ための金属製の端子を必要とせず洗浄等により濡れる可能性が高い環境でも腐食せず清潔であり、且つ好適に通信できる。
【0067】
(変形例1)
次に、上述の実施形態の変形例について説明する。図9は、本実施形態の医療機器の変形例の構成を示す斜視図である。
図9に示すように、本変形例では、押圧部材30及び付勢部材31をさらに一組有し、且つ傾斜カム28の構造が異なっている。すなわち、本変形例では、回転部材27の径方向に対向するように2つの押圧部材30が配され、各押圧部材30に対して付勢部材31がそれぞれ設けられている。
このような構成であっても、上述の実施形態と同様の効果を奏する。また、2つの押圧部材30によって傾斜カム28を対向する位置で押圧することができるので、回転部材27がスムーズに回転する。
また、図10は、本変形例における他の構成を示す斜視図である。図10に示すように、本変形例とは逆に、押圧部材30及び付勢部材31の一組によって複数の回転部材27を回転させてもよい。たとえば、自由度が2以上あるエンドエフェクタ14では、回転部材27を各自由度に対応する数だけ備え、これらの回転部材27を押圧部材30及び付勢部材31の一組により初期位置へと復帰させることもできる。
【0068】
(変形例2)
次に、上述の実施形態の他の変形例について説明する。図11は、本変形例の構成を示す模式図である。
図11に示すように、本変形例では、押圧部材30に代えて、回転部材27の外周に掛けられた紐部材51と、紐部材51に固定されたバネ52とを有する。
本変形例では、紐部材51の両端にそれぞれバネ52として引っ張りバネの一端が固定されており、各引っ張りバネの他端は遠位側インターフェース25の筐体の一部に固定されている。紐部材に固定された各引っ張りバネは、等荷重のバネである。
このような構成であっても、上述の実施形態と同様の効果を奏する。また、本変形例では、カムを利用する上述の実施形態よりも、摩擦抵抗が少ない分スムーズに回転部材27を回転させることができる。
【0069】
(変形例3)
次に、上述の実施形態のさらに他の変形例について説明する。図12は、本変形例の構成を示す斜視図である。図13は、本変形例の構成を示す側面図である。図14および図15は、本変形例における使用時の動作を説明するための図である。
図12及び図13に示すように、本変形例では、付勢部材31による回転部材27(移動部材26)の移動を規制する規制部材53を有している点が異なっている。
規制部材53は、回転部材27の回転中心方向における押圧部材30の進退移動を規制することができるように、押圧部材30の移動経路の一部に入り込む板状部材である。
【0070】
また、図13に示すように、規制部材53には、テーパー部54(調整部)が形成されている。テーパー部54は、押圧部材30の移動経路内から規制部材53を引き出す量に従って押圧部材30を徐々に移動させるスロープとして機能する。さらに、規制部材53は、押圧部材30の移動経路において押圧部材30が通過した後に当該移動経路内に規制部材53を押し込むことができるスプリング55を有している。
【0071】
このような構成であると、遠位側インターフェース25を近位側インターフェース21から取り外しただけでは押圧部材30は移動せず、規制部材53による押圧部材30の移動規制を解除した後に、押圧部材30が移動し、回転部材27が初期位置へと移動する。これにより、たとえば、遠位側インターフェース25が意図せずに近位側インターフェース21から外れた場合に、エンドエフェクタ14の無用な動きを少なく抑えることができる。
【0072】
また、テーパー部54が規制部材53に形成されていることにより、図13ないし図15に示すように押圧部材30の位置の調整をして回転部材27の回転量を制御することができる。
【0073】
また、規制部材53にスプリング55が設けられているので、押圧部材30の移動経路内に規制部材53を手作業で押し込む必要がなく、遠位側インターフェース25を近位側インターフェース21に取り付ける動作だけでよい。
【0074】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
たとえば、上述の実施形態で説明した付勢部材31は、ダンパーを有していてもよい。これにより、遠位側インターフェース25を近位側インターフェース21から取り外した際にエンドエフェクタ14がゆっくり原点位置へと復帰する。
【0075】
また、上述の実施形態では、付勢部材31として圧縮バネを例にとって説明したが、付勢部材31はゴム部材であってもよい。例えば、押圧部材30において圧縮バネに代えてゴム部材を設け、ゴム部材の反発力を利用して付勢してもよい。
【0076】
また、回転部材27の回転可能範囲を規制するストッパが遠位側インターフェース25の筐体に形成されていてもよい。この場合、回転部材27の初期位置及び最大回転位置を精度良く規制することができる。
【0077】
また、上述の実施形態で説明した傾斜カム28は、2巻き以上、回転部材27の周方向に巻かれたカムであってもよい。図16は、上述の実施形態に対する設計変更の一例を示す側面図である。図16に示すように、この場合、傾斜カム28に係合する押圧部材30は、回転部材27の径方向にカムピン30aが進退可能なラチェット機構を有していてもよい。すなわち、この場合、押圧部材30は、近位側インターフェース21によって押し込まれるときには傾斜カム28における隣接する溝へと飛び越えて移動し、近位側インターフェース21による押圧が解除されたときには、傾斜カム28の溝に沿って移動する。
【0078】
また、術具12の種類を判別する手段として、無線タグ33とセンサー23による構成を例示したが、これに限らず、たとえば術具12の種類に対応した特有の形状を有する凹凸と、当該凹凸によって導通状態の組み合わせが形成されるスイッチとを有していてもよい。
【0079】
また、本実施形態では可動部の一例としてエンドエフェクタ14が例示されているが、可動部は、例えば術具12の遠位端を湾曲させるなど術具12を変形させるための関節等の構造物を含んでいてもよい。すなわち、当該関節等を、上述の実施形態の原点出し機構と同様の構成により、所定の原点位置へと移動させることができる。
【0080】
また、上述の実施形態及び各変形例において示した構成要素は適宜に組み合わせて構成することが可能である。
【0081】
なお、上記具体的な構成に対する設計変更等は上記事項には限定されない。
【符号の説明】
【0082】
1 医療機器
2 マスタマニピュレータ
3 マスタ表示部
4 操作部
10 スレーブマニピュレータ
11 スレーブアーム
12 術具
13 挿入部
14 エンドエフェクタ
15 鉗子
16 鋏
17 アクチュエータ
18 サーボモーター
19 軸体
20 着脱インターフェース
21 近位側インターフェース
22 ロック機構
23 センサー
25 遠位側インターフェース
26 移動部材
27 回転部材
28 傾斜カム
29 復帰部材
30 押圧部材
31 付勢部材
32 原点出し機構
33 無線タグ
40 制御装置
41 マスタ制御部
42 マニピュレータ制御部
51 紐部材
52 バネ(付勢部材)
53 規制部材
54 テーパー部(調整部)
55 スプリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処置対象部位に対して処置をするための可動部を有する術具と、
前記可動部を動作させるアクチュエータと、
前記術具に設けられ前記術具を前記アクチュエータに対して着脱可能に連結する着脱インターフェースと、
を備え、
前記着脱インターフェースは、
前記アクチュエータから前記術具が取り外されたときに前記可動部を所定の原点位置へと移動させる原点出し機構を有する
ことを特徴とする医療機器。
【請求項2】
請求項1に記載の医療機器であって、
前記原点出し機構は、
前記可動部に接続され、前記アクチュエータに接触可能であり、前記アクチュエータから離間している状態において初期位置を有し、前記アクチュエータとの接触により前記初期位置から移動される移動部材と、
前記移動部材を前記初期位置へ移動させる復帰部材と、
を有する
ことを特徴とする医療機器。
【請求項3】
請求項2に記載の医療機器であって、
前記復帰部材は、前記移動部材を付勢して前記初期位置まで移動させる付勢部材を有することを特徴とする医療機器。
【請求項4】
請求項3に記載の医療機器であって、前記付勢部材による前記移動部材の移動を規制する規制部材を有することを特徴とする医療機器。
【請求項5】
請求項4に記載の医療機器であって、
前記規制部材は、前記移動部材の移動量を調整する調整部を有することを特徴とする医療機器。
【請求項6】
請求項3から5のいずれか一項に記載の医療機器であって、前記付勢部材はダンパーを有することを特徴とする医療機器。
【請求項7】
請求項2から6のいずれか一項に記載の医療機器であって、
前記アクチュエータは、
回転動作する軸体と、
前記軸体の中心軸線を回転中心として前記軸体を回転させる動力源と、
を有し、
前記移動部材は、
前記軸体と係合して前記軸体とともに回転する回転部材であり、
前記回転部材には、前記可動部に一部が固定された動力伝達部材の他の一部が連結されている
ことを特徴とする医療機器。
【請求項8】
請求項7に記載の医療機器であって、
前記回転部材は、前記回転部材の周方向に延びるカムを有し、
前記復帰部材は、前記カムに当接するカムピンが設けられ前記回転部材を押圧する押圧部材を有している
ことを特徴とする医療機器。
【請求項9】
請求項8に記載の医療機器であって、
前記回転部材は、前記初期位置にて前記回転部材が停止するように前記回転部材の回転動作を規制するストッパを有している
ことを特徴とする医療機器。
【請求項10】
請求項7に記載の医療機器であって、
前記回転部材は、
前記回転部材の周方向に延びるカムと、
前記初期位置にて前記回転部材が停止するように前記回転部材の回転動作を規制するストッパと、
を有することを特徴とする医療機器。
【請求項11】
請求項7に記載の医療機器であって、
前記復帰部材は、
前記回転部材の外周に掛けられた紐部材と、
前記紐部材に固定されたバネとを有し、
前記回転部材は、前記バネに外力がかかっていない状態で初期位置となるように前記紐部材を介して前記バネに接続されている
ことを特徴とする医療機器。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項に記載の医療機器であって、
前記可動部は、処置対象部位に対して処置をするエンドエフェクタを有することを特徴とする医療機器。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の医療機器であって、
前記着脱インターフェースに設けられ前記術具の種類を特定するための情報を有する情報記録部と、
前記情報記録部に記録された前記情報を認識する認識部と、
前記認識部によって認識された前記情報に基づいて前記アクチュエータに取り付けられた前記術具を特定して動作させる制御装置と、
を有することを特徴とする医療機器。
【請求項14】
請求項13に記載の医療機器であって、
前記情報記録部は、近距離無線通信をする無線タグであり、
前記認識部は、前記無線タグからの情報を読み取る無線装置を有する
ことを特徴とする医療機器。
【請求項15】
請求項13に記載の医療機器であって、
前記情報記録部は、前記術具に固有の形状を有する凹凸部を有し、
前記認識部は、前記凹凸部により導通状態が切り替わる複数のスイッチを有する
ことを特徴とする医療機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2013−34859(P2013−34859A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−154945(P2012−154945)
【出願日】平成24年7月10日(2012.7.10)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】