説明

医療用アクチュエータ

【課題】 細長いパイプ部の先端に設けられた工具の姿勢を遠隔操作で精度良く変更することができ、生体に悪影響を及ぼすことなく相互接触箇所の摩擦を抑えることができる医療用アクチュエータを提供する。
【解決手段】 細長形状のスピンドルガイド部3と、その先端に姿勢変更自在に取付けられた先端部材2と、先端部材2に回転自在に設けた工具1とを備える。先端部材2は、工具1を保持するスピンドル13を回転自在に支持する。スピンドルガイド部3は、スピンドル13に回転を伝達する回転軸22と、両端に貫通したガイド孔30aとを内部に有する。ガイド孔30a内に進退自在に挿通した姿勢操作部材31を進退動作させて、先端部材2を姿勢変更させる。少なくとも一つの、互いに相対移動する複数の部品の相互接触箇所の表面にDLC膜を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、工具の姿勢を遠隔操作で変更可能な医療用アクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、骨の加工等に用いられる医療用アクチュエータがある。医療用アクチュエータは、直線形状や湾曲形状をした細長いパイプ部の先端に設けた工具を遠隔操作で制御する。ただし、従来の医療用アクチュエータは、工具の回転のみを遠隔操作で制御するだけであったため、複雑な形状の加工や外からは見えにくい箇所の加工が難しかった。また、ドリル加工では、直線だけではなく、湾曲状の加工が可能なことが求められる。さらに、切削加工では、溝内部の奥まった箇所の加工が可能なことが求められる。
【0003】
整形外科分野において、骨の老化等によって擦り減って使えなくなった関節を新しく人工のものに取り替える人工関節置換手術がある。この手術では、患者の生体骨を人工関節が挿入できるように加工する必要があるが、その加工には、術後の生体骨と人工関節との接着強度を高めるために、人工関節の形状に合わせて精度良く加工することが要求される。
【0004】
例えば、股関節の人工関節置換手術では、大腿骨の骨の中心にある髄腔部に人工関節挿入用の穴を形成する。人工関節と骨との接触強度を保つには両者の接触面積を大きくとる必要があり、人工関節挿入用の穴は、骨の奥まで延びた細長い形状に加工される。このような骨の切削加工に用いられる医療用アクチュエータとして、細長いパイプ部の先端に工具を回転自在に設け、パイプ部の基端側に設けたモータ等の回転駆動源の駆動により、パイプ部の内部に配した回転軸を介して工具を回転させる構成のものがある(例えば特許文献1)。この種の医療用アクチュエータは、外部に露出した回転部分は先端の工具のみであるため、工具を骨の奥まで挿入することができる。
【0005】
人工関節置換手術では、皮膚切開や筋肉の切断を伴う。すなわち、人体に傷を付けなければならない。その傷を最小限に抑えるためには、前記パイプ部は真っ直ぐでなく、適度に湾曲している方が良い場合がある。このような状況に対応するためのものとして、次のような従来技術がある。例えば、特許文献2は、パイプ部の中間部を2重に湾曲させて、パイプ部の先端側の軸心位置と基端側の軸心位置とをずらせたものである。このようにパイプ部の軸心位置が先端側と軸心側とでずれているものは、他にも知られている。また、特許文献3は、パイプ部を180度回転させたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−301149号公報
【特許文献2】米国特許第4,466,429号明細書
【特許文献3】米国特許第4,265,231号明細書
【特許文献4】特開2001−17446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
生体骨の人工関節挿入用穴に人工関節を嵌め込んだ状態で、生体骨と人工関節との間に広い隙間があると、術後の接着時間が長くなるため、前記隙間はなるべく狭いのが望ましい。また、生体骨と人工関節の接触面が平滑であることも重要であり、人工関節挿入用穴の加工には高い精度が要求される。しかし、パイプ部がどのような形状であろうとも、工具の動作範囲はパイプ部の形状の制約を受けるため、皮膚切開や筋肉の切断をできるだけ小さくしながら、生体骨と人工関節との間の隙間を狭くかつ両者の接触面が平滑になるように人工関節挿入用穴を加工するのは難しい。
【0008】
一般に、人工関節置換手術が行われる患者の骨は、老化等により強度が弱くなっていることが多く、骨そのものが変形している場合もある。したがって、通常考えられる以上に、人工関節挿入用穴の加工は難しい。
【0009】
そこで、本出願人は、人工関節挿入用穴の加工を比較的容易にかつ精度良く行えるようにすることを目的として、先端に設けた工具の姿勢を遠隔操作で変更可能とすることを試みた。工具の姿勢が変更可能であれば、パイプ部の形状に関係なく、工具を適正な姿勢に保持することができるからである。しかし、工具は細長いパイプ部の先端に設けられているため、工具の姿勢を変更させる機構を設ける上で制約が多く、それを克服するための工夫が必要である。また、パイプ部が湾曲部を有することも予想され、その場合でも確実に姿勢変更動作をさせられることが望まれる。
【0010】
なお、細長いパイプ部を有しない医療用アクチュエータでは、手で握る部分に対して工具が設けられた部分が姿勢変更可能なものがある(例えば特許文献4)が、遠隔操作で工具の姿勢を変更させるものは提案されていない。
【0011】
工具の姿勢を遠隔操作で変更する構成の場合、複数の部品が互いに相対移動する相互接触箇所が多く存在し、これらの相互接触箇所で摩擦が発生する。この摩擦により部品の摩耗が生じたり、駆動部の指令値と実際の動作との関係にヒステリシスが生じ、工具の位置決め精度が低下する可能性がある。また、摩耗が激しいと、摩耗粉が生体に悪影響を及ぼす危険性がある。そのため、相互接触箇所の摩擦を抑える必要があるが、グリース等の潤滑剤を使用することは生体にとって好ましくない。そこで、生体に悪影響を及ぼすことなく、相互接触箇所の摩擦を抑えることが課題となっている。
【0012】
この発明は、細長いパイプ部の先端に設けられた工具の姿勢を遠隔操作で精度良く変更することができ、生体に悪影響を及ぼすことなく相互接触箇所の摩擦を抑えることができる医療用アクチュエータを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明にかかる医療用アクチュエータは、細長形状のスピンドルガイド部と、このスピンドルガイド部の先端に先端部材連結部を介して姿勢変更自在に取付けられた先端部材と、この先端部材に回転自在に設けた工具と、この工具を回転させる工具回転用駆動源と、前記先端部材の姿勢を操作する姿勢変更用駆動源とを備え、前記先端部材は、前記工具を保持するスピンドルを回転自在に支持し、前記スピンドルガイド部は、前記工具回転用駆動源の回転を前記スピンドルに伝達する回転軸と、両端に貫通したガイド孔とを内部に有し、先端が前記先端部材に接して進退動作することにより前記先端部材を姿勢変更させる可撓性の姿勢操作部材を前記ガイド孔内に進退自在に挿通し、この姿勢操作部材を前記姿勢変更用駆動源で進退動作させる医療用アクチュエータであって、少なくとも一つの、互いに相対移動する複数の部品の相互接触箇所の表面にDLC膜を形成したことを特徴とする。DLC膜は、DLC単独からなる膜または層、もしくはDLCを主体とする膜または層のことを言う。
【0014】
この構成によれば、先端部材に設けた工具の回転により、骨等の切削が行われる。その場合に、姿勢変更用駆動源により姿勢操作部材を進退させると、この姿勢操作部材の先端が先端部材に対し作用することにより、スピンドルガイド部の先端に先端部材連結部を介して姿勢変更自在に取付けられた先端部材が姿勢変更する。姿勢変更用駆動源は、先端部材から離れた位置に設けられており、上記先端部材の姿勢変更は遠隔操作で行われる。姿勢操作部材はガイド孔に挿通されているため、姿勢操作部材が長手方向と交差する方向に位置ずれすることがなく、常に先端部材に対し適正に作用することができ、先端部材の姿勢変更動作が正確に行われる。また、姿勢操作部材は可撓性であるため、スピンドルガイド部が湾曲した状態でも姿勢変更動作が確実に行われる。
【0015】
相互接触箇所の表面にDLC膜を形成すると、グリース等の潤滑剤を使用しなくても相互接触箇所の摩擦係数を低くすることができる。例えば、摩擦係数を約0.1にできる。このため、摩擦によるスティックスリップのような動作を発生させることがなく、スムーズな動作を実現できる。また、相互接触箇所の表面にDLC膜を形成すると、相互接触箇所の耐摩耗性が向上し、動作の精度を高い状態に維持できる。さらに、摩耗粉の発生を防げる。DLC膜は生体適合性があるため、手術等で使用される医療用アクチュエータの表面処理に適する。
【0016】
この発明において、前記相互接触箇所の一つが前記先端部材連結部であり、この先端部材連結部は、前記スピンドルガイド部側の案内部と前記先端部材側の被案内部とが、前記スピンドルの中心線上に曲率中心が位置する球面状または円筒状のそれぞれの案内面で互いに接する構造である場合、前記案内部の案内面および被案内部の案内面のうち外周面である案内面にDLC膜を形成するのが良い。
【0017】
先端部材連結部は、スピンドルガイド部に対して先端部材を姿勢変更させるときに動作する箇所である。そのため、先端部材連結部にDLC膜を形成することにより、同先端部材連結部の摩擦を小さくして、先端部材のスムーズな姿勢変更動作を実現できる。案内部の案内面および被案内部の案内面のうち、外周面である案内面は、組立前の状態において外部に露出しているため、内周面である案内面よりも、DLC膜を形成する処理を行い易い。
【0018】
この発明において、前記相互接触箇所の一つが前記スピンドルと前記回転軸とを回転伝達可能に連結する回転伝達部であり、この回転伝達部は、前記スピンドルおよび前記回転軸のいずれか一方に設けた突起と他方に設けた溝とを互いに係合させて回転を伝達する構造である場合、前記突起の表面にDLC膜を形成するのが良い。
【0019】
また、前記相互接触箇所の一つが前記スピンドルと前記回転軸とを回転伝達可能に連結する回転伝達部であり、この回転伝達部は、前記スピンドルおよび前記回転軸のそれぞれに設けた突起同士を互いに係合させて回転を伝達する構造である場合、前記スピンドルの突起および前記回転軸の突起の両方または一方の表面にDLC膜を形成するのが良い。
【0020】
回転伝達部は、先端部材の姿勢に関係なく回転軸からスピンドルに高速回転を伝達する箇所であり、特に耐摩耗性が要求される。回転伝達部にDLC膜を形成することにより、耐摩擦性を向上させて、安定した回転の伝達が可能になる。回転伝達部が、突起と溝とを係合させて回転を伝達する構造、および突起同士を互いに係合させて回転を伝達する構造のいずれについても、突起の表面は、組立前の状態において外部に露出しているため、DLC膜を形成する処理を行い易い。
【0021】
この発明において、前記相互接触箇所の一つが前記ガイド孔の内周面と前記姿勢操作部材の外周面との接触部である場合、前記姿勢操作部材の外周面にDLC膜を形成するのが良い。
【0022】
姿勢操作部材はガイド孔の内周面に案内されて進退する。その際、ガイド孔の内周面と接触して摩擦が発生する。姿勢操作部材の外周面にDLC膜が形成されていると、ガイド孔の内周面と姿勢操作部材の外周面との摩擦係数が小さくなり、姿勢操作部材がスムーズに進退させられる。姿勢操作部材の外周面は、組立前の状態において外部に露出しているため、DLC膜を形成する処理を行い易い。
【0023】
この発明において、前記先端部材と前記姿勢操作部材の接触点における接線に対し垂直な垂線と前記回転軸の中心線とがなす角度をαとしたとき、α>0°であり、かつ前記相互接触箇所の一つが前記先端部材と前記姿勢操作部材との接触部である場合、先端部材側の接触部および姿勢操作部材側の接触部の両方または一方の表面にDLC膜を形成するのが良い。
【0024】
先端部材の姿勢変更動作時、姿勢操作部材の先端が先端部材の姿勢操作部材との接触面を押すことによって、先端部材が首振り動作して姿勢変更される。その際、先端部材の姿勢操作部材との接触面が姿勢操作部材の進退方向と垂直、すなわち先端部材と姿勢操作部材の接触点における接線に対し垂直な垂線と回転軸の中心線とがなす角度をαとしたとき、α=0°であると、先端部材と姿勢操作部材との間に滑りが生じないため、先端部材が首振り動作できない。しかし、α>0°であれば、姿勢操作部材に対して先端部材が滑りながら首振り動作することが可能であり、先端部材を滑らかに姿勢変更できる。
【0025】
このように、先端部材側の接触部と姿勢操作部材側の接触部とが互いに滑り接触しながら、姿勢操作部材が先端部材に作用力を付与する構成である場合、先端部材と前記姿勢操作部材との接触部に摩擦が生じる。この摩擦による抵抗のため、上記角度αのうち、姿勢操作部材に対して先端部材が滑ることができない角度範囲、すなわち摩擦角が存在する。この摩擦角は、先端部材と姿勢操作部材との接触部の摩擦係数に比例する。したがって、先端部材側の接触部および姿勢操作部材側の接触部の両方または一方の表面にDLC膜を形成して、先端部材と姿勢操作部材との接触部の摩擦係数を小さくすることで、摩擦角が小さくなり、先端部材のスムーズな姿勢変更が可能になる。また、摩擦角が小さくなれば、姿勢操作部材の進退量に対する先端部材の姿勢変更量が小さくなるため、先端部材の姿勢を細かい分解能で制御できる。
【0026】
この発明において、前記相互接触箇所の一つは、前記スピンドルガイド部内の前記回転軸を回転自在に支持する回転支持部材であって良い。回転支持部材が転がり軸受である場合、この転がり軸受のボールの表面および内外輪の転走面の両方または一方にDLC膜を形成するのが良い。
【0027】
回転支持部材についても、グリース等の潤滑剤を使用するのは好ましくなく、表面に生体適合性のあるDLC膜を形成することで、耐摩耗性を向上させるのが良い。回転支持部材が転がり軸受である場合、ボールの表面や内外輪の転走面は、組立前の状態において外部に露出しているため、DLC膜の形成が容易である。
【0028】
この発明の医療用アクチュエータは、各部品が生体適合性のある材料からなるのが良い。生体適合性のある材料とは、例えばチタンやステンレス系の材料である。このような生体適合性のある材料からなる部品を用いれば、手術等に使用しても、生体に悪影響を与えない。
【0029】
この発明において、前記スピンドルガイド部は、湾曲した箇所を有していても良い。姿勢操作部材は可撓性であるため、スピンドルガイド部が湾曲した箇所を有していても、ガイド孔内で進退させることができる。
【0030】
この発明において、前記DLC膜は、物理蒸着法により形成されたものであるのが好ましい。物理蒸着法により形成されたDLC膜は、耐摩耗性に優れるからである。中でも、アンバランスド・マグネトロン・スパッタリング法が好ましい。
【0031】
この発明において、基材と前記DLC膜との間に、クロムおよびタングステンを含む中間層を形成するのが良い。上記中間層を形成すると、基材とDLC膜の密着性を高めることができる。
【0032】
この発明において、前記DLC膜の膜厚は0.3〜3μmであるのが好ましい。
【発明の効果】
【0033】
この発明の医療用アクチュエータは、細長形状のスピンドルガイド部と、このスピンドルガイド部の先端に先端部材連結部を介して姿勢変更自在に取付けられた先端部材と、この先端部材に回転自在に設けた工具と、この工具を回転させる工具回転用駆動源と、前記先端部材の姿勢を操作する姿勢変更用駆動源とを備え、前記先端部材は、前記工具を保持するスピンドルを回転自在に支持し、前記スピンドルガイド部は、前記工具回転用駆動源の回転を前記スピンドルに伝達する回転軸と、両端に貫通したガイド孔とを内部に有し、先端が前記先端部材に接して進退動作することにより前記先端部材を姿勢変更させる可撓性の姿勢操作部材を前記ガイド孔内に進退自在に挿通し、この姿勢操作部材を前記姿勢変更用駆動源で進退動作させるものであって、少なくとも一つの、互いに相対移動する複数の部品の相互接触箇所の表面にDLC膜を形成したため、細長いパイプ部の先端に設けられた工具の姿勢を遠隔操作で精度良く変更することができ、生体に悪影響を及ぼすことなく相互接触箇所の摩擦を抑えることができる
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】この発明の実施形態にかかる医療用アクチュエータの概略構成を示す図である。
【図2】この発明の異なる実施形態にかかる医療用アクチュエータの概略構成を示す図である。
【図3】(A)は図1に示す医療用アクチュエータの先端部材およびスピンドルガイド部の断面図、(B)はそのIIIB−IIIB断面図である。
【図4】(A)は同医療用アクチュエータの回転伝達部の一例の平面図、(B)はその正面図、(C)は一部を省略した側面図である。
【図5】(A)は同回転伝達部の異なる例の平面図、(B)はその正面図、(C)は一部を省略した側面図である。
【図6】(A)は同医療用アクチュエータの工具回転用駆動機構および姿勢変更用駆動機構の断面図に制御系を組み合わせて表示した図、(B)はそのVIB−VIB断面図である。
【図7】先端部材連結部のDLC膜形成箇所を示す図である。
【図8】(A)は図4に示す回転伝達部のDLC膜形成箇所を示す平面図、(B)はその側面である。
【図9】(A)は図5に示す回転伝達部のDLC膜形成箇所を示す平面図、(B)はその側面である。
【図10】姿勢操作部材のDLC膜形成箇所を示す図である。
【図11】転がり軸受のDLC膜形成箇所の一例を示す図である。
【図12】転がり軸受のDLC膜形成箇所の異なる例を示す図である。
【図13】異なる工具回転用駆動機構および姿勢変更用駆動機構の断面図、(B)はそのXIIIB−XIIIB断面図である。
【図14】さらに異なる工具回転用駆動機構および姿勢変更用駆動機構の断面図、(B)はそのXIVB−XIVB断面図である。
【図15】この発明の異なる実施形態にかかる医療用アクチュエータの概略構成を示す図である。
【図16】(A)は同医療用アクチュエータの工具回転用駆動機構および姿勢変更用駆動機構の断面図、(B)はそのXVIB−XVIB断面図である。
【図17】同工具回転用駆動機構の工具回転用可撓性ワイヤの断面図である。
【図18】同姿勢変更用駆動機構の姿勢変更用可撓性ワイヤの断面図である。
【図19】(A)は先端部材の姿勢を変更する機構が異なる医療用アクチュエータの先端部材およびスピンドルガイド部の断面図、(B)はそのXIXB−XIXB断面図である。
【図20】(A)は先端部材の姿勢を変更する機構がさらに異なる医療用アクチュエータの先端部材およびスピンドルガイド部の断面図、(B)はそのXXB−XXB断面図である。
【図21】(A)は先端部材の姿勢を変更する機構がさらに異なる医療用アクチュエータの先端部材およびスピンドルガイド部の断面図、(B)はそのXXIB−XXIB断面図である。
【図22】(A)は図20または図21に示す医療用アクチュエータの工具回転用駆動機構および姿勢変更用駆動機構の断面図、(B)はそのXXIIB−XXIIB断面図である。
【図23】(A)は図20または図21に示す医療用アクチュエータの異なる工具回転用駆動機構および姿勢変更用駆動機構の断面図、(B)はそのXXIIIB−XXIIIB断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
図1および図2は、この発明のそれぞれ異なる実施形態にかかる医療用アクチュエータの概略構成を示す図である。各医療用アクチュエータは、回転式の工具1を保持する先端部材2と、この先端部材2が先端に姿勢変更自在に取付けられた細長形状のスピンドルガイド部3と、このスピンドルガイド部3の基端が結合された駆動部ハウジング4aと、この駆動部ハウジング4a内の工具回転用駆動機構4bおよび姿勢変更用駆動機構4cを制御するコントローラ5とを備える。駆動部ハウジング4aは、内蔵の工具回転用駆動機構4bおよび姿勢変更用駆動機構4cと共に駆動部4を構成する。
【0036】
図3〜図5と共に、先端部材2およびスピンドルガイド部3の内部構造について説明する。図3は図1の医療用アクチュエータについて示すが、図1のようにスピンドルガイド部3が真っ直ぐな形状である場合も、図2のようにスピンドルガイド部3が湾曲した形状である場合も、先端部材2およびスピンドルガイド部3の内部構造は基本的に同じである。
【0037】
先端部材2は、略円筒状のハウジング11の内部に、一対の軸受12によりスピンドル13が回転自在に支持されている。スピンドル13は、先端側が開口した筒状で、中空部に工具1のシャンク1aが嵌合状態に挿入され、回り止めピン14によりシャンク1aが回転不能に結合される。この先端部材2は、先端部材連結部15を介してスピンドルガイド部3の先端に取付けられる。先端部材連結部15は、先端部材2を姿勢変更自在に支持する手段であり、球面軸受からなる。具体的には、先端部材連結部15は、ハウジング11の基端の内径縮径部からなる被案内部11aと、スピンドルガイド部3の先端に固定された抜け止め部材21の鍔状部からなる案内部21aとで構成される。両者11a,21aの互いに接する各案内面F1,F2は、スピンドル13の中心線CL1上に曲率中心Oが位置し、基端側ほど径が小さい球面とされている。これにより、スピンドルガイド部3に対して先端部材2が抜け止めされるとともに、姿勢変更自在に支持される。この例は、曲率中心Oを通るX軸回りに先端部材2が姿勢変更する構成であるため、案内面F1,F2が、点Oを通るX軸を軸心とする円筒面であってもよい。
【0038】
スピンドルガイド部3は、駆動部ハウジング4a内の工具回転用駆動源41(図6)の回転力を前記スピンドル13へ伝達する回転軸22を有する。この例では、回転軸22はワイヤとされ、ある程度の弾性変形が可能である。ワイヤの材質としては、例えば金属、樹脂、グラスファイバー等が用いられる。ワイヤは単線であっても、撚り線であってもよい。
【0039】
スピンドル13と回転軸22とは、自在継手として機能する回転伝達部23を介して、互いに回転伝達可能に連結されている。回転伝達部23は、例えば図4に示すように、スピンドル13の基端およびに回転軸22の先端にそれぞれ設けられた突起13a,22a同士を互いに係合させて、回転軸22からスピンドル13へ回転を伝達する構造である。この例の場合、スピンドル13側の突起13aは、スピンドル13の中心線CL1と平行に延びる円柱状で、円周方向の2箇所に等間隔に並んで配置されている。回転軸22側の突起22aは、回転軸22の先端から回転軸22の中心線CL2と直交する方向に延びる円柱状で、その両端が、前記スピンドル13側の2本の突起13aの間にそれぞれ介在している。スピンドル13側の突起13aと回転軸22側の突起22aとの連結箇所の中心は、前記案内面F1,F2の曲率中心Oと同位置である。この回転伝達部23の構成であれば、スピンドルガイド部3に対する先端部材2の姿勢に関係なく、回転軸22からスピンドル13へ回転を伝達することができる。
【0040】
また、回転伝達部23は、図5に示すように、スピンドル13および回転軸22のいずれか一方に設けた突起22bと他方に設けた溝13bとを互いに係合させて、回転軸22からスピンドル13へ回転を伝達する構造としても良い。この例の場合、スピンドル13の基端に、スピンドル13の中心線CL1と直交する方向に延びる溝13bが設けられ、回転軸22の先端に、回転軸22の中心線CL2と直交する方向に延びる突起22bが設けられている。上記溝13bと突起22bとの連結箇所の中心は、前記案内面F1,F2の曲率中心Oと同位置である。この回転伝達部23の構成であっても、スピンドルガイド部3に対する先端部材2の姿勢に関係なく、回転軸22からスピンドル13へ回転を伝達することができる。
【0041】
図3に示すように、スピンドルガイド部3は、このスピンドルガイド部3の外郭となる外郭パイプ25を有し、この外郭パイプ25の中心に前記回転軸22が位置する。回転軸22は、それぞれ軸方向に離れて配置された複数の転がり軸受26によって回転自在に支持されている。転がり軸受26は、スピンドルガイド3内の回転軸22を回転自在に支持する回転支持部材である。各転がり軸受26間には、これら転がり軸受26に予圧を発生させるためのばね要素27A,27Bが設けられている。ばね要素27A,27Bは、例えば圧縮コイルばねである。転がり軸受26の内輪に予圧を発生させる内輪用ばね要素27Aと、外輪に予圧を発生させる外輪用ばね要素27Bとがあり、これらが交互に配置されている。前記抜け止め部材21は、固定ピン28により外郭パイプ25のパイプエンド部25aに固定され、その先端内周部で転がり軸受29を介して回転軸22の先端部を回転自在に支持している。パイプエンド部25aは、外郭パイプ25と別部材とし、溶接等により結合してもよい。
【0042】
外郭パイプ25の内径面と回転軸22の間には、両端に貫通する1本のガイドパイプ30が設けられ、このガイドパイプ30の内径孔であるガイド孔30a内に、姿勢操作部材31が進退自在に挿通されている。この例では、姿勢操作部材31は、ワイヤ31aと、その両端に設けた柱状ピン31bとでなる。
【0043】
先端部材2側の柱状ピン31bの先端は球面状で、先端部材2の姿勢操作部材31との接触面であるハウジング11の基端面11bに当接している。ハウジング11の基端面11bは外径側ほどスピンドルガイド部3および姿勢操作部材31側に近い傾斜面であり、先端部材2と姿勢操作部材31の接触点Pにおける接線に対し垂直な垂線PLと回転軸22の中心線CL2とがなす角度をαとした場合、常にα>0°とされている。この実施形態の場合、ハウジング11の基端面11bは、断面形状が直線状である。基端面11bが姿勢操作部材31の中心線と直交しない平面であれば、常にα>0°の関係が保たれる。断面形状が直線状であれば、加工が比較的簡単であるため、製造コストを低減できる。駆動部ハウジング4a側の柱状ピン31bの先端も球面状で、後記レバー43b(図6)の側面に当接している。
【0044】
上記姿勢操作部材31が位置する周方向位置に対し180度の位相の位置には、先端部材2のハウジング11の基端面とスピンドルガイド部3の外郭パイプ25の先端面との間に、例えば圧縮コイルばねからなる復元用弾性部材32が設けられている。この復元用弾性部材32は、先端部材2を所定姿勢側へ付勢する作用をする。
【0045】
また、外郭パイプ25の内径面と回転軸22の間には、前記ガイドパイプ30とは別に、このガイドパイプ30と同一ピッチ円C上に、複数本の補強シャフト34が配置されている。これらの補強シャフト34は、スピンドルガイド部3の剛性を確保するためのものである。ガイドパイプ30と補強シャフト34の配列間隔は等間隔とされている。ガイドパイプ30および補強シャフト34は、外郭パイプ25の内径面におよび前記転がり軸受26の外径面に接している。これにより、転がり軸受26の外径面を支持している。
【0046】
図6は、駆動部ハウジング4a内の工具回転用駆動機構4bおよび姿勢変更用駆動機構4cを示す。工具回転用駆動機構4bは、コントローラ5(図1、図2)により制御される工具回転用駆動源41を備える。工具回転用駆動源41は、例えば電動モータであり、その出力軸41aが前記回転軸22の基端に結合させてある。
【0047】
姿勢変更用駆動機構4cは、コントローラ5により制御される姿勢変更用駆動源42を備える。姿勢変更用駆動源42は、例えば電動リニアアクチュエータであり、図6(A)の左右方向に移動する出力ロッド42aの動きが、レバー機構43を介して前記姿勢操作部材31に伝達される。姿勢変更用駆動源42は、回転モータであってもよい。
【0048】
レバー機構43は、支軸43a回りに回動自在なレバー43bを有し、このレバー43bにおける支軸43aからの距離が長い作用点P1に出力ロッド42aの力が作用し、支軸43aからの距離が短い力点P2で姿勢操作部材31に力を与える構成であり、姿勢変更用駆動源42の出力が増力して姿勢操作部材31に伝達される。レバー機構43を設けると、小さな出力のリニアアクチュエータでも姿勢操作部材31に大きな力を与えることができるので、リニアアクチュエータの小型化が可能になる。なお、回転軸22は、レバー43bに形成された開口44を貫通させてある。なお、電動アクチュエータ等を設ける代わりに、手動により先端部材2の姿勢を遠隔操作してもよい。
【0049】
姿勢変更用駆動機構4cには、姿勢変更用駆動源42の動作量を検出する動作量検出器45が設けられている。この動作量検出器45の検出値は、姿勢検出手段46に出力される。姿勢検出手段46は、動作量検出器45の出力により、先端部材2のX軸(図3(B))回りの傾動姿勢を検出する。姿勢検出手段46は、上記傾動姿勢と動作量検出器45の出力信号との関係を演算式またはテーブル等により設定した関係設定手段(図示せず)を有し、入力された出力信号から前記関係設定手段を用いて傾動姿勢を検出する。この姿勢検出手段46は、コントローラ5に設けられたものであっても、あるいは外部の制御装置に設けられたものであってもよい。
【0050】
また、姿勢変更用機構4cには、電動アクチュエータである姿勢変更用駆動源42に供給される電力量を検出する供給電力計47が設けられている。この供給電力計47の検出値は、荷重検出手段48に出力される。荷重検出手段48は、供給電力計47の出力により、先端部材2に作用する荷重を検出する。荷重検出手段48は、上記荷重と供給電力計47の出力信号との関係を演算式またはテーブル等により設定した関係設定手段(図示せず)を有し、入力された出力信号から前記関係設定手段を用いて荷重を検出する。この荷重検出手段48は、コントローラ5に設けられたものであっても、あるいは外部の制御装置に設けられたものであってもよい。
【0051】
コントローラ5は、前記姿勢検出手段46および荷重検出手段48の検出値に基づき、工具回転用駆動源41および姿勢変更用駆動源42を制御する。制御内容については、後で説明する
【0052】
この医療用アクチュエータは、例えば人工関節置換手術において骨の髄腔部を削るのに使用されるものであり、施術時には、先端部材2の全部または一部が患者の体内に挿入して使用されるか、あるいはスピンドルガイド3の中間部から先が患者の体内に挿入して使用される。そのため、先端部材2およびスピンドルガイド部3を構成する各部品には、生体適合性のある材料が用いられている。生体適合性のある材料とは、例えばチタンやステンレス系(SUS304、SUS316等)の材料である。
【0053】
この医療用アクチュエータには、互いに相対移動する複数の部品の相互接触箇所が存在する。各相互接触箇所の表面には、摩擦を抑える目的でDLC膜が形成されている。DLC膜とは、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)単独でなる膜または層、またはDLCを主体とする膜または層のことを言う。DLC膜のことを、硬質カーボン膜と言うこともある。DLC膜の膜厚は0.3〜3μmであるのが好ましい。なお、ここで言う膜厚は、後記金属中間層を含むものである。
【0054】
DLCは、ダイヤモンドとグラファイトが混ざり合ったもので、両者の中間的な構造である。DLCは、ダイヤモンドと同等に硬度が高く、耐摩耗性、固体潤滑性、熱伝導性、化学安定性、耐腐食性等に優れた特性を有する。DLCとほぼ同義的に用いられる用語として、硬質非晶質炭素、無定形炭素、硬質非定形炭素、i−カーボン、ダイヤモンド状炭素がある。これらの用語は明確に区別されていない。この明細書中では、上に挙げた用語のものもDLCに含むものとする。これらDLCは、生体適合性のある材料である。
【0055】
DLC膜の形成方法として、物理蒸着法と化学蒸着法とがある。物理蒸着法では、例えばスパッタリング法、アンバランスド・マグネトロン・スパッタリング法(UBMS:Unbalanced Magnetron Spattering)、アークイオンプレーティング法、フィルタ付き低圧アーク放電法(FCVA:Filtered Cathodic Vacuum Arc)、フィルタードアーク法(Filtered Arc Deposition)等を採用することができる。化学蒸着法では、例えばプラズマイオン注入・成膜法(PBII法、Plasma Source Ion Implantation)、直流プラズマCVD法(Chemical Vapor Deposition)、パルスDCプラズマCVD法、熱CVD法、光CVD法等を採用することができる。いずれの方法を採用しても良いが、形成されたDLC膜の耐摩耗性に優れる物理蒸着法が好ましく、中でもアンバランスド・マグネトロン・スパッタリング法が好ましい。
【0056】
基材とDLC膜の密着性を高めるために、基材とDLC膜との間に金属中間層を形成するのが好ましい。金属中間層に用いる金属としては、クロム(Cr)、チタン(Ti)、タングステン(W)、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)等が良い。さらに密着性を高めるために、金属層に含まれる炭素量を表層側へいくほど徐々に増加させて、表層をDLC単層膜としても良い。また、クロム層(Cr層)の上に、炭化タングステン層(WC層)、炭化タングステンとDLCの複合層(WC−C層)を重層状態に形成しても良い。DLC層の硬度を基材側から表面側へ徐々に硬くなるように変化させて、基材とDLC層の硬度差を緩和させても良い。
【0057】
さらに、機能向上のため、DLC層に上記クロム(Cr)、チタン(Ti)、タングステン(W)、シリコン(Si)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、ニオブ(Nb)等の金属を少なくとも一種類以上添加しても良い。
【0058】
以下、各相互接触箇所のDLC膜形成箇所について説明する。
図7に、相互接触箇所が先端部材連結部15(図3(A))である場合のDLC膜形成箇所を示す。先端部材連結部15は、スピンドルガイド部3側の案内部21aと先端部材2側の被案内部11aとでなっており、両者の案内面F1,F2のいずれか一方にDLC膜を形成すればよいが、この例では、案内部21aの案内面F1にDLC膜100を形成してある。その理由は、案内部21aの案内面F1は外周面であり、被案内部11aの案内面F2は内周面であり、外周面である案内面F1は、組立前の状態において外部に露出しているため、DLC膜100を形成する処理を行い易いからである。このように、案内面F1にDLC膜100を形成することにより、先端部材連結部15の摩擦を小さくして、先端部材2のスムーズな姿勢変更動作を実現できる。
【0059】
図8に、相互接触箇所が図4の回転伝達部23である場合のDLC膜形成箇所を示す。回転伝達部23は、スピンドル3に設けた突起13a(図4)と回転軸22に設けた突起22aとを互いに係合させたものであり、両突起13a,22aのいずれか一方の表面にDLC膜を形成すればよいが、この例では、回転軸22に設けた突起22aの表面にDLC膜101を形成してある。スピンドル3に設けた突起13aの表面にDLC膜を形成しても良い(図示せず)。いずれの突起13a,22aの表面も、組立前の状態において外部に露出しているため、DLC膜101を形成する処理を行い易い。このように、突起22aの表面にDLC膜101を形成することにより、回転伝達部23の耐摩擦性を向上させて、安定した回転の伝達が可能になる。
【0060】
図9に、相互接触箇所が図5の回転伝達部23である場合のDLC膜形成箇所を示す。回転伝達部23は、スピンドル3に設けた溝13b(図5)と回転軸22に設けた突起22bとを互いに係合させたものであり、これら溝13bおよび突起22bのいずれか一方の表面にDLC膜を形成すればよいが、この例では、突起22bの表面にDLC膜102を形成してある。その理由は、突起22bの表面は、組立前の状態において外部に露出しているため、DLC膜102を形成する処理を行い易いからである。このように、突起22bの表面にDLC膜102を形成することにより、回転伝達部23の耐摩擦性を向上させて、安定した回転の伝達が可能になる。
【0061】
図10に、相互接触箇所がガイド孔30a(図3)の内周面と姿勢操作部材31の外周面との接触部である場合のDLC膜形成箇所を示す。DLC膜103は、姿勢操作部材31のうちの柱状ピン31bの表面に形成されている。姿勢操作部材31はガイド孔30aの内周面に案内されて進退する。その際、ガイド孔30aの内周面と接触して摩擦が発生する。柱状ピン31bの表面にDLC膜103が形成されていると、ガイド孔30aの内周面と姿勢操作部材31の外周面との摩擦係数が小さくなり、姿勢操作部材31がスムーズに進退させられる。柱状ピン31bの表面は、組立前の状態において外部に露出しているため、DLC膜103を形成する処理を行い易い。
【0062】
また、上記DLC膜103は、相互接触箇所が先端部材2(図3(A))と姿勢操作部材31との接触部である場合のDLC膜でもある。後で説明するに、先端部材2の姿勢変更動作時、姿勢操作部材31の先端が先端部材2の基端面を押すことによって、先端部材2が首振り動作して姿勢変更される。その際、先端部材2の基端面と姿勢操作部材31の柱状ピン31bの先端面との間に滑りが生じる。柱状ピン31bの表面にDLC膜103が形成されていると、先端部材2の基端面と柱状ピン31bの先端面との摩擦係数が小さくなり、上記滑りが良好で行われ、先端部材2の姿勢変更がスムーズに行われる。
【0063】
図11および図12は、それぞれ回転支持部材である転がり軸受26のDLC膜形成箇所を示す。図11は、転がり軸受26の内輪26aおよび外輪26bの転走面にDLC膜104を形成した例であり、図12は、転がり軸受26のボール26cの表面にDLC膜105を形成した例である。内外輪26a,26bの転送面およびボール26cの表面のいずれについても、組立前の状態において外部に露出しているため、DLC膜103を形成する処理を行い易い。このように、内外輪26a,26bの転送面またはボール26cの表面にDLC膜104,105が形成されていると、転がり軸受26の耐摩耗性を向上させて、回転軸22を安定して高速回転させることが可能である。転がり軸受12,29にも同様にDLC膜を形成すると良い。
【0064】
この医療用アクチュエータの動作を説明する。
工具回転用駆動源41を駆動すると、その回転が回転軸22を介してスピンドル13に伝達されて、スピンドル13と共に工具1が回転する。工具1を回転させて骨等を切削加工する際に先端部材2に作用する荷重は、供給電力計47の検出値から、荷重検出手段48によって検出される。このように検出される荷重の値に応じて医療用アクチュエータ全体の送り量や後記先端部材2の姿勢変更を制御することにより、先端部材2に作用する荷重を適正に保った状態で骨の切削加工を行える。
【0065】
使用時には、姿勢変更用駆動源42を駆動させて、遠隔操作で先端部材2の姿勢変更を行う。例えば、姿勢変更用駆動源42により姿勢操作部材31を先端側へ進出させると、姿勢操作部材31によって先端部材2のハウジング11が押されて、先端部材2は図3(A)において先端側が下向きとなる側へ案内面F1,F2に沿って姿勢変更する。逆に、姿勢変更用駆動源42により姿勢操作部材31を後退させると、復元用弾性部材32の弾性反発力によって先端部材2のハウジング11が押し戻され、先端部材2は図3(A)において先端側が上向きとなる側へ案内面F1,F2に沿って姿勢変更する。このとき、先端部材連結部15には、姿勢操作部材31の圧力、復元用弾性部材32の弾性反発力、および抜け止め部材21からの反力が作用しており、これらの作用力の釣り合いにより先端部材2の姿勢が決定される。先端部材2の姿勢は、動作量検出器45の検出値から、姿勢検出手段46によって検出される。そのため、遠隔操作で先端部材2の姿勢を適正に制御できる。
【0066】
姿勢操作部材31は、回転軸22の中心線CL2から偏心して位置し、その先端が先端部材2のハウジング11の基端面11bに接した状態で回転軸22の中心線CL2と平行な方向に進退する。そして、姿勢操作部材31の先端が先端部材2の接触面であるハウジング11の基端面11bを押すことによって、先端部材2が曲率中心Oを中心に首振り動作して姿勢変更される。この際、ハウジング11の基端面11bが姿勢操作部材31の進退方向と垂直、すなわち先端部材2と姿勢操作部材31の接触点Pにおける接線に対し垂直な垂線PLと回転軸22の中心線CL2とがなす角度α=0°であると、先端部材2と姿勢操作部材31との間に滑りが生じないため、先端部材2が首振り動作できない。しかし、α>0°であれば、先端部材2と姿勢操作部材31との間の摩擦、および先端部材連結部15に作用する摩擦に打ち勝って、姿勢操作部材31に対して先端部材2が滑りながら首振り動作することが可能である。先に説明したように、姿勢操作部材31の柱状ピン31bの表面にDLC膜103が形成されており、先端部材2と姿勢操作部材31との間の摩擦が小さくため、両者が円滑に滑ることができる。それにより、先端部材2の姿勢変更がスムーズに行われる。
【0067】
さらに詳しくは、先端部材2と姿勢操作部材31間の摩擦による抵抗のため、前記角度αのうち、姿勢操作部材31に対して先端部材2が滑ることができない角度範囲、すなわち摩擦角が存在する。この摩擦角は、先端部材2と姿勢操作部材31との接触部の摩擦係数に比例する。したがって、姿勢操作部材31の柱状ピン31bの表面にDLC膜103を形成して、先端部材2と姿勢操作部材31との接触部の摩擦係数を小さくすることで、摩擦角を小さくすることができる。摩擦角が小さければ、姿勢操作部材31の進退量に対する先端部材2の姿勢変更量が小さくなるため、先端部材2の姿勢を細かい分解能で制御できる。
【0068】
姿勢操作部材31はガイド孔30aに挿通されているため、姿勢操作部材31が長手方向と交差する方向に位置ずれすることがなく、常に先端部材2に対し適正に作用することができ、先端部材2の姿勢変更動作が正確に行われる。また、姿勢操作部材31を構成する姿勢操作ワイヤ31aは可撓性であるため、スピンドルガイド部3が湾曲部を有する場合でも先端部材2の姿勢変更動作が確実に行われる。さらに、スピンドル13と回転軸22との連結箇所の中心が案内面F1,F2の曲率中心Oと同位置であるため、先端部材2の姿勢変更によって回転軸22に対して押し引きする力がかからず、先端部材2が円滑に姿勢変更できる。
【0069】
この医療用アクチュエータを、例えば人工関節置換手術における骨の髄腔部の切削に使用する場合、先端部材2の全部または一部が患者の体内に挿入される。先端部材2の姿勢を遠隔操作で変更できれば、常に工具1を適正な姿勢に保持した状態で骨の加工をすることができ、人工関節挿入用穴を精度良く仕上げることができる。各部品に生体適合性のある材料を用い、かつ相互接触箇所に生体適合性のあるDLC膜100〜105を形成することで、先端部材2の円滑な姿勢変更を図っているため、手術等に用いるのに適したものとなっている。
【0070】
細長形状であるスピンドルガイド部3には、回転軸22および姿勢操作部材31を保護状態で設ける必要があるが、外郭パイプ25の中心部に回転軸22を設け、外郭パイプ25と回転軸22との間に、姿勢操作部材31を収容したガイドパイプ30と補強シャフト34とを円周方向に並べて配置した構成としたことにより、回転軸22および姿勢操作部材31を保護し、かつ内部を中空にして軽量化を図りつつ剛性を確保できる。また、全体のバランスも良い。
【0071】
回転軸22を支持する転がり軸受26の外径面を、ガイドパイプ30と補強シャフト34とで支持させたため、余分な部材を用いずに転がり軸受26の外径面を支持できる。また、ばね要素27A,27Bにより転がり軸受26に予圧がかけられているため、ワイヤからなる回転軸22を高速回転させることができる。そのため、スピンドル13を高速回転させて加工することができ、加工の仕上がりが良く、工具1に作用する切削抵抗を低減させられる。ばね要素27A,27Bは隣合う転がり軸受26間に設けられているので、スピンドルガイド部3の径を大きくせずにばね要素27A,27Bを設けることができる。
【0072】
この実施形態では、工具回転用駆動源41および姿勢変更用駆動源42が共通の駆動部ハウジング4a内に設けられている。そのため、医療用アクチュエータ全体の構成を簡略にできる。工具回転用駆動源41および姿勢変更用駆動源42のいずれか一方だけを駆動部ハウジング4a内に設けてもよい。また、後で説明するように、工具回転用駆動源41および姿勢変更用駆動源42を駆動部ハウジング4aの外に設けてもよい。
【0073】
この発明の医療用アクチュエータは、姿勢操作部材31が可撓性であるため、図2のようにスピンドルガイド部3が湾曲部を有する場合でも先端部材2の姿勢変更動作が確実に行われる。スピンドルガイド部3の一部分のみを湾曲形状としてもよい。スピンドルガイド部3が湾曲形状であれば、直線形状では届きにくい骨の奥まで先端部材2を挿入することが可能となる場合があり、人工関節置換手術における人工関節挿入用穴の加工を精度良く仕上げることが可能になる。スピンドルガイド部3を湾曲形状とする場合、外郭パイプ25、ガイドパイプ30、および補強シャフト34を湾曲形状とする必要がある。また、回転軸22は変形しやすい材質を用いるのが良く、例えば形状記憶合金が適する。
【0074】
図13は、姿勢変更用駆動機構4cの異なる構成を示す。工具回転用駆動機構4bは、図6のものと同じ構成である。この姿勢変更用駆動機構4cは、姿勢変更用駆動源42と一体に減速機構53が設けられている。減速機構53は、姿勢変更用駆動源42の回転を減速して出力するものであり、その出力軸53aに動作変換機構54Aが直結されている。動作変換機構54Aは、減速機構53の出力を回転運動から進退運動に変換する機構である。この図例の動作変換機構54Aは、減速機構53の出力を回転運動から直線往復運動に変換して出力する直動機構とされている。
【0075】
直動機構である動作変換機構54Aは、具体的には、両端部が軸受55で支持され一端が減速機構53の出力軸53aにカップリング56を介して連結されたボールねじ57と、このボールねじ57に螺合するナット58とでなるボールねじ機構59を備え、前記ナット58に、リニアガイド60によりボールねじ57の軸方向に移動自在に案内された直動部材61が固定されている。直動部材61は、動作変換機構54Aの出力部材であって、この直動部材61の先端面からなる接触部61aに姿勢操作部材31の基端が当接している。
【0076】
減速機構53の出力軸53aの回転が、ボールねじ機構59により直線運動に変換されて、直動部材61がリニアガイド60に沿って直線移動する。直動部材61が図13(A)の左側へ移動するときは、直動部材61に押された姿勢操作部材31が前進し、直動部材61が右側へ移動するときは、前記復元用弾性部材32の弾性反発力により押し戻されて姿勢操作部材31が後退する。
【0077】
直動部材61にはリニアスケール62が設置され、このリニアスケール62の目盛を、駆動部ハウジング4aに固定されたリニアエンコーダ63が読み取る。これらリニアスケール62とリニアエンコーダ63とで、姿勢操作部材31の進退位置を検出する位置検出手段64を構成する。正確には、リニアエンコーダ63の出力は進退位置推定手段65に送信され、この進退位置推定手段65により姿勢操作部材31の進退位置を推定する。つまり、位置検出手段64は、減速機構53と姿勢操作部材31間の動力伝達手段である直動部材61の動作位置を検出し、この検出結果から姿勢操作部材31の進退位置を推定する。
【0078】
進退位置推定手段65は、姿勢操作部材31の進退位置とリニアエコンコーダ63の出力信号との関係を演算式またはテーブル等により設定した関係設定手段(図示せず)を有し、入力された出力信号から前記関係設定手段を用いて姿勢操作部材31の進退位置を推定する。この進退位置推定手段65は、コントローラ5(図1、図2)に設けられたものであっても、あるいは外部の制御装置に設けられたものであってもよい。コントローラ5は、進退位置推定手段65の検出値に基づき、姿勢変更用駆動源42を制御する。
【0079】
この姿勢変更用駆動機構4cの構成によると、姿勢操作部材31の進退が次のようにして行われる。すなわち、前記姿勢変更用駆動源42の回転が、減速機構53により減速され、さらに動作変換機構54Aにより回転運動から直線進退運動に変換されて、出力部材である直動部材61に伝達される。この直動部材61の進退動作が接触部61aより姿勢操作部材31の基端へ伝達されて、姿勢操作部材31が進退動作する。減速機構53が設けられているため、姿勢変更用駆動源42の出力するトルクが小さくても、大きなトルクを発生させて、直動部材61に大きな作用力を与えることができる。そのため、姿勢操作部材31を確実に進退動作させることができ、先端部材2に設けた工具1を正確に位置決めできる。また、姿勢変更用駆動源42の小型化が可能となり、医療用アクチュエータ全体をコンパクトにできる。
【0080】
特に、姿勢変更用駆動源42にロータリアクチュエータを用い、減速機構53と、その出力を進退運動に変換する動作変換機構54Aとを組み合わせ、この動作変換機構54Aにより直動部材61を介して姿勢操作部材31を進退動作させるようにしたため、医療用アクチュエータ全体をより一層コンパクトにできる。
【0081】
先端部材2の姿勢は、位置検出手段64により検出される姿勢操作部材31の進退位置から求められる。位置検出手段64の検出値、正確にはリニアエンコーダ63の検出値をコントローラ5にフィードバックさせて、姿勢変更用駆動源42の出力量を制御するフィードバック制御を行えば、工具1の位置決め精度を向上させることができる。
【0082】
図14は、動作変換機構の異なる例を示す。この動作変換機構54Bは、回転運動を進退運動に変換する機能と、減速機能とを兼ね備えたものである。よって、姿勢変更用駆動源42に、前記減速機構53が付設されていない。動作変換機構54Bは、両端部が軸受55で支持され一端が姿勢変更用駆動源42の出力軸42aにカップリング56を介して連結されたウォーム67と、支持軸68aに支持され前記ウォーム67と噛み合うウォームホイール68とを備える。ウォームホイール68は動作変換機構54Bの出力部材であって、このウォームホイール68の先端面からなる接触部68bに姿勢操作部材31の基端が当接している。なお、ウォームホイール68は、円周の一部にだけ歯が設けられ形状をしており、回転軸22が挿通される開口68cを有している。
【0083】
姿勢変更用駆動源42の出力軸42aの回転が、ウォーム67とウォームホイール68とでなる減速機構により減速されて、出力部材であるウォームホイール68へ伝達される。ウォームホイール68の接触部68bが姿勢操作部材31に対して滑り接触しながら、ウォームホイール68が揺動することにより、姿勢操作部材31に進退動作を与える。すなわち、接触部68bが図14(A)の左側へ回動するときは、接触部68bに押された姿勢操作部材31が前進し、接触部68bが右側へ回動するときは、前記復元用弾性部材32の弾性反発力により押し戻されて姿勢操作部材31が後退する。
【0084】
姿勢操作部材31の進退位置は、位置検出手段64により検出される。この図例の場合、位置検出手段64は、ウォームホイール68の背面に設けた被検出部69と、駆動部ハウジング4aに固定して設けられ前記被検出部69の変位を検出する検出部70とでなる。位置検出手段64は、光学式であっても磁気式であってもよい。正確には、検出部70の出力は進退位置推定手段65に送信され、この進退位置推定手段65により姿勢操作部材31の進退位置を推定する。つまり、位置検出手段64は、減速機構と姿勢操作部材31間の動力伝達手段であるウォームホイール68の動作位置を検出し、この検出結果から姿勢操作部材31の進退位置を推定する。
【0085】
この動作変換機構54Bは減速機構を兼ねる。換言すれば、ウォーム67とウォームホイール68とを組み合わせた機構は、動作変換機能を付加した減速機構であると言える。このように、減速機構と動作変換機構を一体化とすることで、減速および動作変換の機能部分を小型でコンパクトにできる。ウォームホイール68を出力部材としたことで、部品点数を削減にできる。また、ウォーム67とウォームホイール68とでなる減速機構は、大きな減速比をとれる。
【0086】
図15および図16は、工具回転用駆動機構および姿勢変更用駆動機構の構成が異なる実施形態を示す。前記実施形態は、工具回転用駆動機構4bの工具回転用駆動源41および姿勢変更用駆動機構4cの姿勢変更用駆動源42が駆動部ハウジング4a内に設けられているのに対し、図15、図16の実施形態は、工具回転用駆動源41および姿勢変更用駆動源42が駆動部ハウジング4aとは別の駆動源ハウジング80に設けられている。
【0087】
この実施形態の工具回転用駆動機構81は、駆動源ハウジング80に設けた工具回転用駆動源41の出力軸41aの回転を、工具回転用可撓性ワイヤ82のインナワイヤ84(図17)により、駆動部ハウジング4a内の回転軸22の基端へ伝達する。工具回転用可撓性ワイヤ82は、例えば図17に示す構造をしている。すなわち、可撓性のアウタチューブ83の中心に、可撓性のインナワイヤ84が、複数の転がり軸受86によって回転自在に支持されている。そして、インナワイヤ84の両端が、工具回転用駆動源41の出力軸41aおよび回転軸22の基端にそれぞれ繋がれている。各転がり軸受86間には、これら転がり軸受86に予圧を発生させるためのばね要素87A,87Bが設けられている。ばね要素87A,87Bは、例えば圧縮コイルばねである。転がり軸受86の内輪に予圧を発生させる内輪用ばね要素87Aと、外輪に予圧を発生させる外輪用ばね要素87Bとがあり、これらが交互に配置されている。このように、ばね要素87A,87Bにより転がり軸受86に予圧をかけることにより、インナワイヤ84を高速回転させることができる。市販されているフレキシブルシャフトを使用してもよい。
【0088】
また、この実施形態の姿勢変更用駆動機構91は、駆動源ハウジング80に設けた姿勢変更用駆動源42の回転を、姿勢変更用可撓性ワイヤ92のインナワイヤ94(図18)により、駆動部ハウジング4aに設置した減速機構53へ伝達し、さらに減速機構53から駆動部ハウジング4aの動作変換機構54へ伝達する。この図例の動作変換機構54は、図13の動作変換機構54Aと同じ構成であって、インナワイヤ94の回転を直線往復運動に変換して出力する直動機構とされている。図13と同じ構成の箇所を、その一部に付き同一符号を付して示してある。動作変換機構54として、前記動作変換機構54B等の他の動作変換機構を採用してもよい。
【0089】
姿勢変更用可撓性ワイヤ92は、前記工具回転用可撓性ワイヤ82と同じ構造であり、例えば図18に示す構造をしている。すなわち、可撓性のアウタチューブ93の中心に、可撓性のインナワイヤ94が、複数の転がり軸受96によって回転自在に支持されている。そして、インナワイヤ94の両端が、姿勢変更用駆動源42の出力軸42aおよび減速機構53の入力軸43bにそれぞれ繋がれている。各転がり軸受96間には、これら転がり軸受96に予圧を発生させるためのばね要素97A,97Bが設けられている。ばね要素97A,97Bは、例えば圧縮コイルばねである。転がり軸受96の内輪に予圧を発生させる内輪用ばね要素97Aと、外輪に予圧を発生させる外輪用ばね要素97Bとがあり、これらが交互に配置されている。このように、ばね要素97A,97Bにより転がり軸受96に予圧をかけることにより、インナワイヤ94を高速回転させることができる。市販されているフレキシブルシャフトを使用しても良い。
【0090】
姿勢変更用可撓性ワイヤ92のインナワイヤ94は回転伝達時に捩れて、その回転伝達上流側と下流側とで回転位相差が生じる。しかし、可撓性ワイヤ92よりも下流側に減速機構53が設けられているため、上記回転位相差は減速機構53の出力側で小さくなる。そのため、可撓性ワイヤ92の捩れの影響が出力部材である直動部材61に大きく現れることがなく、姿勢操作部材31を精度良く進退動作させられる。
【0091】
このように、工具回転用駆動源41および姿勢変更用駆動源42を駆動部ハウジング4aの外部に設けることにより、駆動部ハウジング4aを小型化することができる。そのため、駆動部ハウジング4aを持って医療用アクチュエータを操作する際の取扱性を向上させることができる。なお、工具回転用駆動源41および姿勢変更用駆動源42を制御するコントローラ5は、図15に示すように、駆動源ハウジング80に接続されている。
【0092】
図19は、先端部材2の姿勢を変更させる構成が異なる実施形態を示す。この医療用アクチュエータは、外郭パイプ25内の互いに180度の位相にある周方向位置に2本のガイドパイプ30を設け、そのガイドパイプ30の内径孔であるガイド孔30a内に、前記同様の姿勢操作ワイヤ31aおよび柱状ピン31bからなる姿勢操作部材31が進退自在に挿通してある。2本のガイドパイプ30間には、ガイドパイプ30と同一ピッチ円C上に複数本の補強シャフト34が配置されている。復元用弾性部材32は設けられていない。案内面F1,F2は、曲率中心が点Oである球面、または点Oを通るX軸を軸心とする円筒面である。
【0093】
駆動部4(図示せず)には、2つの姿勢操作部材31をそれぞれ個別に進退操作させる2つの姿勢変更用駆動源42(図示せず)が設けられており、これら2つの姿勢変更用駆動源42を互いに逆向きに駆動することで先端部材2の姿勢変更を行う。例えば、図19における上側の姿勢操作部材31を先端側へ進出させ、かつ下側の姿勢操作部材31を後退させると、上側の姿勢操作部材31によって先端部材2のハウジング11が押されることにより、先端部材2は図19(A)において先端側が下向きとなる側へ案内面F1,F2に沿って姿勢変更する。逆に、両姿勢操作部材31を逆に進退させると、下側の姿勢操作部材31によって先端部材2のハウジング11が押されることにより、先端部材2は図19(A)において先端側が上向きとなる側へ案内面F1,F2に沿って姿勢変更する。その際、先端部材連結部15には、上下2つの姿勢操作部材31の圧力、および抜け止め部材21からの反力が作用しており、これらの作用力の釣り合いにより先端部材2の姿勢が決定される。この構成では、2つの姿勢操作部材31で先端部材2のハウジング11に加圧されるため、1つ姿勢操作部材31だけで加圧される前記実施形態に比べ、先端部材2の姿勢安定性を高めることができる。
【0094】
図20は、先端部材2の姿勢を変更させる構成がさらに異なる実施形態を示す。この医療用アクチュエータは、外郭パイプ25内の互いに120度の位相にある周方向位置に3本のガイドパイプ30を設け、そのガイドパイプ30の内径孔であるガイド孔30a内に前記同様の姿勢操作部材31が進退自在に挿通してある。3本のガイドパイプ30間には、ガイドパイプ30と同一ピッチ円C上に複数本の補強シャフト34が配置されている。復元用弾性部材32は設けられていない。案内面F1,F2は曲率中心が点Oである球面であり、先端部材2は任意方向に傾動可能である。
【0095】
駆動部4には、3つの姿勢操作部材31(31U,31L,31R)をそれぞれ個別に進退操作させる3つの姿勢変更用駆動源42(42U,42L,42R)(図22、図23)が設けられており、これら3つの姿勢変更用駆動源42を互いに連係させて駆動することで先端部材2の姿勢変更を行う。
【0096】
例えば、図20における上側の1つの姿勢操作部材31Uを先端側へ進出させ、かつ他の2つの姿勢操作部材31L,31Rを後退させると、上側の姿勢操作部材31Uによって先端部材2のハウジング11が押されることにより、先端部材2は図20(A)において先端側が下向きとなる側へ案内面F1,F2に沿って姿勢変更する。このとき、各姿勢操作部材31の進退量が適正になるよう、各姿勢変更用駆動源42が制御される。各姿勢操作部材31を逆に進退させると、左右の姿勢操作部材31L,31Rによって先端部材2のハウジング11が押されることにより、先端部材2は図20(A)において先端側が上向きとなる側へ案内面F1,F2に沿って姿勢変更する。
【0097】
また、上側の姿勢操作部材31Uは静止させた状態で、左側の姿勢操作部材31Lを先端側へ進出させ、かつ右側の姿勢操作部材31Rを後退させると、左側の姿勢操作部材31Lによって先端部材2のハウジング11が押されることにより、先端部材2は右向き、すなわち図20(A)において紙面の裏側向きとなる側へ案内面F1,F2に沿って姿勢変更する。左右の姿勢操作部材31L,31Rを逆に進退させると、右の姿勢操作部材31Rによって先端部材2のハウジング11が押されることにより、先端部材2は左向きとなる側へ案内面F1,F2に沿って姿勢変更する。
【0098】
このように姿勢操作部材31を円周方向の3箇所に設けることにより、先端部材2を上下左右の2軸(X軸、Y軸)の方向に姿勢変更することができる。その際、先端部材連結部15には、3つの姿勢操作部材31の圧力、および抜け止め部材21からの反力が作用しており、これらの作用力の釣り合いにより先端部材2の姿勢が決定される。この構成では、3つの姿勢操作部材31で先端部材2のハウジング11に加圧されるため、さらに先端部材2の姿勢安定性を高めることができる。姿勢操作部材31の数をさらに増やせば、先端部材2の姿勢安定性をより一層高めることができる。
【0099】
図21は図20にものと比べてスピンドルガイド部3の内部構造が異なる実施形態を示す。この医療用アクチュエータのスピンドルガイド部3は、外郭パイプ25の中空孔24が、中心部の円形孔部24aと、この円形孔部24aの外周における互いに120度の位相をなす周方向位置から外径側へ凹んだ3つの溝状部24bとでなる。溝状部24bの先端の周壁は、断面半円形である。そして、円形孔部24aに回転軸22と転がり軸受26とが収容され、各溝状部24bに姿勢操作部材31(31U,31L,31R)が収容されている。
【0100】
外郭パイプ25を上記断面形状としたことにより、外郭パイプ25の溝状部24b以外の箇所の肉厚tを厚くなり、外郭パイプ25の断面2次モーメントが大きくなる。すなわち、スピンドルガイド部3の剛性が高まる。それにより、先端部材2の位置決め精度を向上させられるとともに、切削性を向上させられる。また、溝状部24bにガイドパイプ30を配置したことにより、ガイドパイプ30の円周方向の位置決めを容易に行え、組立性が良好である。
【0101】
図20や図21のように姿勢操作部材31が周方向の3箇所に設けられている場合、姿勢変更用駆動機構4cを例えば図22または図23のように構成することができる。
すなわち、図22の姿勢変更用駆動機構4cは、各姿勢操作部材31(31U,31L,31R)をそれぞれ個別に進退操作させる3つの姿勢変更用駆動源42(42U,42L,42R)を左右並列に配置すると共に、各姿勢変更用駆動源42に対応するレバー43b(43bU,43bL,43bR)を共通の支軸43a回りに回動自在に設け、各レバー43bにおける支軸43aからの距離が長い作用点P1(P1U,P1L,P1R)に各姿勢変更用駆動源42の出力ロッド42aの力が作用し、支軸43aからの距離が短い力点P2(P2U,P2L,P2R)で姿勢操作部材31に力を与える構成としてある。これにより、各姿勢変更用駆動源42の出力が増力して対応する姿勢操作部材31に伝達させることができる。なお、回転軸22は、上側の姿勢操作部材31U用のレバー43bUに形成された開口44を貫通させてある。
【0102】
また、図23の姿勢変更用駆動機構4cは、各姿勢操作部材31(31U,31L,31R)をそれぞれ個別に進退操作させる3つの姿勢変更用駆動源42(42U,42L,42R)を設置すると共に、各姿勢変更用駆動源42に対応する3つの動作変換機構54(54U,54L,54R)を設ける。図23は、動作変換機構を、図13に示す直動機構型の動作変換機構54Aとした例である。各動作変換機構54は、回転軸22を中心にして放射状に配置してある。
【符号の説明】
【0103】
1…工具
2…先端部材
3…スピンドルガイド部
4a…駆動部ハウジング
5…コントローラ
11a…被案内部
13…スピンドル
13a…突起
13b…溝
15…先端部材連結部
21a…案内部
22…回転軸
22a,22b…突起
23…回転伝達部
26…転がり軸受(回転支持部材)
26a…内輪
26b…外輪
26c…ボール
30…ガイドパイプ
30a…ガイド孔
31…姿勢操作部材
31a…姿勢操作ワイヤ
41…工具回転用駆動源
42…姿勢変更用駆動源
100〜105…DLC膜
CL1…スピンドルの中心線
CL2…回転軸の中心線
F1,F2…案内面
O…曲率中心
P…接触点
PL…垂線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長形状のスピンドルガイド部と、このスピンドルガイド部の先端に先端部材連結部を介して姿勢変更自在に取付けられた先端部材と、この先端部材に回転自在に設けた工具と、この工具を回転させる工具回転用駆動源と、前記先端部材の姿勢を操作する姿勢変更用駆動源とを備え、
前記先端部材は、前記工具を保持するスピンドルを回転自在に支持し、前記スピンドルガイド部は、前記工具回転用駆動源の回転を前記スピンドルに伝達する回転軸と、両端に貫通したガイド孔とを内部に有し、先端が前記先端部材に接して進退動作することにより前記先端部材を姿勢変更させる可撓性の姿勢操作部材を前記ガイド孔内に進退自在に挿通し、この姿勢操作部材を前記姿勢変更用駆動源で進退動作させる医療用アクチュエータであって、
少なくとも一つの、互いに相対移動する複数の部品の相互接触箇所の表面にDLC膜を形成したことを特徴とする医療用アクチュエータ。
【請求項2】
請求項1において、前記相互接触箇所の一つが前記先端部材連結部であり、この先端部材連結部は、前記スピンドルガイド部側の案内部と前記先端部材側の被案内部とが、前記スピンドルの中心線上に曲率中心が位置する球面状または円筒状のそれぞれの案内面で互いに接する構造であり、前記案内部の案内面および被案内部の案内面のうち外周面である案内面にDLC膜を形成した医療用アクチュエータ。
【請求項3】
請求項1において、前記相互接触箇所の一つが前記スピンドルと前記回転軸とを回転伝達可能に連結する回転伝達部であり、この回転伝達部は、前記スピンドルおよび前記回転軸のいずれか一方に設けた突起と他方に設けた溝とを互いに係合させて回転を伝達する構造であり、前記突起の表面にDLC膜を形成した医療用アクチュエータ。
【請求項4】
請求項1において、前記相互接触箇所の一つが前記スピンドルと前記回転軸とを回転伝達可能に連結する回転伝達部であり、この回転伝達部は、前記スピンドルおよび前記回転軸のそれぞれに設けた突起同士を互いに係合させて回転を伝達する構造であり、前記スピンドルの突起および前記回転軸の突起の両方または一方の表面にDLC膜を形成した医療用アクチュエータ。
【請求項5】
請求項1において、前記相互接触箇所の一つが前記ガイド孔の内周面と前記姿勢操作部材の外周面との接触部であり、前記姿勢操作部材の外周面にDLC膜を形成した医療用アクチュエータ。
【請求項6】
請求項1項において、前記先端部材と前記姿勢操作部材の接触点における接線に対し垂直な垂線と前記回転軸の中心線とがなす角度をαとしたとき、α>0°であり、かつ前記相互接触箇所の一つが前記先端部材と前記姿勢操作部材との接触部であり、先端部材側の接触部および姿勢操作部材側の接触部の両方または一方の表面にDLC膜を形成した医療用アクチュエータ。
【請求項7】
請求項1において、前記相互接触箇所の一つは、前記スピンドルガイド部内の前記回転軸を回転自在に支持する回転支持部材である医療用アクチュエータ。
【請求項8】
請求項7において、前記回転支持部材は転がり軸受であり、この転がり軸受のボールの表面および内外輪の転走面の両方または一方にDLC膜を形成した医療用アクチュエータ。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において、各部品が生体適合性のある材料からなる医療用アクチュエータ。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項において、前記スピンドルガイド部は、湾曲した箇所を有する医療用アクチュエータ。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項において、前記DLC膜は、物理蒸着法により形成されたものである医療用アクチュエータ。
【請求項12】
請求項11において、前記物理蒸着法は、アンバランスド・マグネトロン・スパッタリング法である医療用アクチュエータ。
【請求項13】
請求項10ないし請求項12のいずれか1項において、基材と前記DLC膜との間に、クロムおよびタングステンを含む中間層を形成した医療用アクチュエータ。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のいずれか1項において、前記DLC膜の膜厚が0.3〜3μmである医療用アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2012−29841(P2012−29841A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171593(P2010−171593)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】