説明

医療用マニピュレータ

【課題】手術器具を複雑に動かせるようにするとともに、切開口から処置部位までの距離が長くなっても、手術者の操作に忠実に手術器具を動作させること。
【解決手段】先端側に配置された鉗子11と、この鉗子11に繋がるとともに、複数の歯車により構成される動力伝達機構13と、この動力伝達機構13に繋がるとともにモータの動力によって、それぞれ独立して軸線方向に移動可能な第1、第2、第3及び第4のロッド14、15、16、17とを備えて鉗子マニピュレータ10が構成されている。前記動力伝達機構13は、鉗子11を縦回転させる縦回転用機構29と、鉗子11を横回転させる横回転用機構30と、鉗子11をねじり回転させるねじり回転用機構31と、鉗子11を開閉動作させる把持動作用機構32とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用マニピュレータに係り、更に詳しくは、体外から患部までの距離が長い場合でも、先端側に配置された手術器具を正確に動作可能にする医療用マニピュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、患者の精神的負担や身体的負担を軽減する低侵襲手術が注目されている。この低侵襲手術は、内視鏡、メス、鉗子等の手術器具を皮膚組織に開けられた穴から体内の患部に向けて挿入し、手術者である医師が内視鏡画像をモニターで見ながら、体外側からメス、鉗子等の処置具を遠隔操作することにより、患部の処置を行う手術である。この低侵襲手術においては、手術者が患部を直視できず、内視鏡や処置具を遠隔操作しなければならないため、手術者に高い操作能力が必要となり、手術者の負担が大きくなる。
【0003】
そこで、近時においては、内視鏡や処置具を先端側に備えたマニピュレータをロボットにより動作させる手術支援ロボットが研究開発されている。この手術支援ロボットは、心臓血管外科手術にも使用され始めているが、冠動脈バイパス手術では、後述する構造上の理由により、内胸動脈を左前下行枝へと吻合する1枝病変を対象とした手術にしか適用できない。ところが、冠動脈バイパス手術は、全体平均で2.68枝病変を対象としており、手術支援ロボットによる冠動脈バイパス手術を普及させるためには、吻合箇所を左前下行枝に限らず、多枝病変に対する吻合を可能とした手術支援ロボットが望まれる。
【0004】
ここで、前記手術支援ロボットに適用されるマニピュレータシステムとしては、ワイヤの牽引によって、先端側の手術器具に所定動作を行わせるワイヤ式の伝達機構を備えたシステムが知られている(特許文献1〜3等参照)。
【特許文献1】特開2005−312991号公報
【特許文献2】特開2004−338057号公報
【特許文献3】特開2004−337474号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記マニピュレータシステムにあっては、手術器具に対する動力伝達にワイヤを用いているため、心臓の裏側の吻合を精度良く行なうことが難しいという不都合がある。すなわち、この場合、手術器具を心臓の裏側に潜り込ませる動作が必要となり、従来の自由度の構造では無理がある。また、マニピュレータが挿入される切開口から心臓の裏側の吻合部位までの距離は、心臓の表側で吻合する場合に比べて長くなる。このため、手術器具への動力伝達にワイヤを用いると、当該ワイヤの伸びや弛みが大きく影響し、手術器具の動作制御を正確に行うことが難しくなる他、ワイヤの取り回しが複雑になる等の不都合がある。
【0006】
本発明は、このような不都合に着目して案出されたものであり、その目的は、手術器具の動作自由度を多くすることで、手術器具を複雑に動かせるようにするとともに、切開口から処置部位までの距離が長くなっても、手術者の操作に忠実に手術器具を動作させることができる医療用マニピュレータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)前記目的を達成するため、本発明は、先端側に配置された手術器具を所定方向に変位させる動力伝達機構が設けられた医療用マニピュレータにおいて、
前記動力伝達機構は、前記手術器具をねじり回転させるねじり回転用機構を備え、
前記ねじり回転用機構は、複数の歯車により構成され、所定の駆動装置から駆動力が付与されると、前記各歯車が回転して前記手術器具をねじり回転させる、という構成を採っている。
【0008】
(2)ここで、前記ねじり回転用機構は、前記駆動力により動作するねじり回転用ラックと、このねじり回転用ラックに噛み合うねじり回転用ピニオンと、当該ねじり回転用ピニオンの回転により回転可能に設けられた平歯車と、当該平歯車の回転により回転可能に設けられたねじり回転用第1かさ歯車と、当該ねじり回転用第1かさ歯車に噛み合うねじり回転用第2かさ歯車と、当該ねじり回転用第2かさ歯車の回転により回転可能に設けられた平歯車と、当該平歯車の回転により回転可能に設けられたねじり回転用第3かさ歯車と、当該ねじり回転用第3かさ歯車に噛み合い、前記手術器具をねじり回転させるねじり回転用第4かさ歯車とを備える、という構成を採ることが好ましい。
【0009】
(3)また、前記手術器具は、相互に離間接近可能な第1及び第2ブレードを備えた鉗子であり、
前記動力伝達機構は、前記第1及び第2ブレードを離間接近させることで、前記鉗子を開閉動作させる把持動作用機構を備え、
前記把持動作用機構は、複数の歯車により構成され、所定の駆動装置から駆動力が付与されると、前記歯車が回転して前記第1及び第2ブレードを離間接近させる、という構成も併せて採用することができる。
【0010】
(4)ここで、前記把持動作用機構は、前記駆動力により動作する把持動作用ラックと、この把持動作用ラックに噛み合う把持動作用ピニオンと、当該把持動作用ピニオンの回転により回転可能に設けられた平歯車と、当該平歯車の回転により回転可能に設けられた把持動作用第1かさ歯車と、当該把持動作用第1かさ歯車に噛み合う把持動作用第2かさ歯車と、当該把持動作用第2かさ歯車の回転により回転可能に設けられた平歯車と、当該平歯車の回転により回転可能に設けられた把持動作用第3かさ歯車と、当該把持動作用第3かさ歯車の回転に連動して同一方向に回転可能に設けられた把持動作用第4かさ歯車と、相互に逆方向に回転可能となるように、前記把持動作用第4かさ歯車にそれぞれ噛み合う把持動作用第5及び第6かさ歯車とを備え、
前記第1ブレードは、前記把持動作用第5かさ歯車と同一方向に回転可能に設けられる一方、前記第2ブレードは、前記把持動作用第6かさ歯車と同一方向に回転可能に設けられ、前記把持動作用ラックの動作により、前記第1ブレード及び前記第2ブレードが相反する方向に回転する、という構成を採ることが好ましい。
【0011】
なお、位置若しくは方向を示す用語である「前」とは、特に明記しない限り、マニピュレータの先端側について用いられ、「後」とは、その軸線方向の反対側について用いられる。
【0012】
また、「横回転」とは、図1における直交三軸(x軸、y軸、z軸)のうちx軸回りの回転Aを意味し、「縦回転」とは、前記y軸回りの回転Bを意味し、「ねじり回転」とは、前記z軸回りの回転Cを意味する。
【発明の効果】
【0013】
前記(1)、(3)の構成によれば、手術器具のねじり回転や把持動作を行うことが可能なるため、手術器具の横回転と縦回転が可能な構成を併用することで、手術器具を一層複雑に動かせるようにできる。また、駆動装置からの駆動力が歯車を使って手術器具に伝達されるため、従来のワイヤを使った駆動方式のようにワイヤの伸びや弛みに起因した前述の問題が生じず、切開口から処置部位までの距離が長いような場合にマニピュレータ全体の長さを増しても、短い場合と変わらず、手術者の操作に忠実に手術器具を動作させることができる。
【0014】
前記(2)、(4)のように構成することで、マニピュレータにコンパクトに歯車を配置させることができ、手術器具の横回転や縦回転を可能にする歯車を更に配置する場合、各種歯車を限られたスペース内に効率良く配置させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1には、本実施形態に係る医療用マニピュレータとしての鉗子マニピュレータの概略斜視図が示され、図2には、カバーを外した状態の前記鉗子マニピュレータの概略斜視図が示されている。これらの図において、前記鉗子マニピュレータ10は、マスタースレーブ方式の手術支援ロボット(図示省略)に用いられ、特に、スレーブ側のマニピュレータとして適用される。
【0017】
前記鉗子マニピュレータ10は、先端側に配置された手術器具としての鉗子11と、この鉗子11に繋がるとともに、複数の歯車により構成される動力伝達機構13と、この動力伝達機構13に繋がるとともに、図示しないモータ(駆動装置)の動力によって、それぞれ独立して軸線方向に移動可能な第1、第2、第3及び第4のロッド14、15、16、17と、これらロッド14〜17が内側に収容された円筒状のカバー19とを備えて構成されている。
【0018】
前記鉗子11は、ほぼクランク状となる形状に設けられた一対の第1及び第2ブレード21,22と、これら各ブレード21,22を支持する側面視ほぼコ字状のブレードホルダー23とにより構成されている。前記各ブレード21,22は、それらの先端部分がほぼ同一平面上に位置するように、それら各後端部分がブレードホルダー13の対向部位にそれぞれ回転可能に支持されている。このため、各ブレード21,22の後端部分が相対回転することで、各ブレード21,22の前端部分が離間接近して鉗子11の開閉動作が行われることになる。
【0019】
前記動力伝達機構13は、鉗子マニピュレータ10の先端部分に設けられており、鉗子11が取り付けられた前側部分25と、前側部分25の後側に横回転可能に連なる中間部分26と、中間部分26の後側に縦回転可能に連なるとともに、各ロッド14〜17に連なる後側部分27とに大別される。この動力伝達機構13は、鉗子11を縦回転させる縦回転用機構29と、鉗子11を横回転させる横回転用機構30と、鉗子11をねじり回転させるねじり回転用機構31と、鉗子11を開閉動作させる把持動作用機構32とを備えている。
【0020】
前記縦回転用機構29は、図1等に対して角度をほぼ90度変えた図3及び図4に示されるように、後側部分27に配置されており、第1のロッド14が図3中左右方向に動くと、中間部分26が後側部分27に対して縦回転するように設定されている。
【0021】
この縦回転用機構29は、図4に示されるように、第1のロッド14の前端側(同図中左端側)に連なる縦回転用ラック34と、この縦回転用ラック34に噛み合う縦回転用ピニオン35と、縦回転用ピニオン35の図4中下方に配置され、縦回転用ピニオン35と一体回転可能に設けられた縦回転用第1平歯車36と、縦回転用第1平歯車36に噛み合う歯部分が形成された縦回転用第1プレート37と、中間部分26のフレームF1の後端面に固定された縦回転用第2平歯車38と、縦回転用第2平歯車38に噛み合う歯部分が形成された縦回転用第2プレート39と、縦回転用ピニオン35、縦回転用第1平歯車36及び縦回転用第2プレート39を支持する第1支持軸41と、縦回転用第1プレート37及び縦回転用第2プレート39を支持する第2支持軸42と、縦回転用第1プレート37及び縦回転用第2平歯車38を支持する第3支持軸43とを備えて構成されている。第1及び第2支持軸41,42は、それら図4中上下両端側が後側部分27のフレームF2(図1参照)に支持されており、前記第3支持軸43は、その図4中上下両端側が中間部分26のフレームF1に支持されている。なお、前述した第1〜第3支持軸41〜43と、以下で説明する第4〜第10支持軸44〜50は、それらが支持する前後述の各部材に対し、回転可能なフリー状態で挿通されている。
【0022】
前記縦回転用機構29は、以上の構成により、次のように作用する。
【0023】
図示しないモータが駆動し、第1のロッド14が図4中左右方向に動くと、縦回転用ピニオン35及び縦回転用第1平歯車36が一体回転する。そして、縦回転用第1平歯車36に噛み合う縦回転用第1プレート37に回転力が付与され、縦回転用第1プレート37が第2支持軸42を中心として縦方向(図4中水平方向)に揺動する。この揺動に伴って、縦回転用第2平歯車38が、縦回転用第2プレート39の歯部分に沿って回転移動する。従って、縦回転用第2平歯車38は、中間部分26側に固定されていることから、中間部分26から前方となる領域は、縦回転用第2プレート39に対し図4中水平方向に揺動することになり、鉗子11が後側部分27に対して縦回転することとなる。
【0024】
前記横回転用機構30は、図5及び図6に示されるように、中間部分26から後側部分27に亘って配置されており、第2のロッド15が図5中左右方向に動くと、前側部分25が中間部分26に対し、横回転(図5中紙面直交方向)に回転するように設定されている。
【0025】
この横回転用機構30は、図6に示されるように、第2のロッド15の前端側(同図中左端側)に連なる横回転用ラック53と、この横回転用ラック53に噛み合うとともに、前記第1支持軸41に支持された横回転用ピニオン54(図3参照)と、横回転用ピニオン54と一体回転可能に設けられるとともに、第1支持軸41に支持された横回転用第1平歯車55と、前記第2支持軸42に支持され、横回転用第1平歯車55に噛み合う横回転用第2平歯車56と、前記第3支持軸43に支持され、横回転用第2平歯車56に噛み合う横回転用第3平歯車57と、中間部分26のフレームF1(図1参照)に支持された第4及び第5支持軸44,45と、第4支持軸44に支持されるとともに、横回転用第3平歯車57に噛み合う横回転用第4平歯車58と、第5支持軸45に支持されるとともに、横回転用第4平歯車58に噛み合う横回転用第5平歯車59と、横回転用第5平歯車59と一体回転可能に設けられた横回転用第1かさ歯車60と、この横回転用第1かさ歯車60に噛み合う横回転用第2かさ歯車61と、中間部分26のフレームF1(図1参照)に支持されるとともに、第4及び第5支持軸44,45に対してほぼ直交する向きで配置された第6支持軸46と、この第6支持軸46に支持されるとともに、横回転用第2かさ歯車61に一体的に設けられた図示しない平歯車に噛み合う歯部分が設けられた横回転用プレート62と、第6支持軸46に支持された横回転用第6平歯車63と、前側部分25のフレームF3に支持され、第6支持軸46に沿う向きで配置された第7支持軸47と、この第7支持軸47に支持されるとともに、横回転用第6平歯車63に噛み合う横回転用第7平歯車64とを備えて構成されている。
【0026】
前記横回転用機構30は、以上の構成により、次のように作用する。
【0027】
図示しないモータが駆動し、第2のロッド15が図6中左右方向に動くと、横回転用ピニオン54と横回転用第1平歯車55とが第1支持軸41を中心として一体回転する。これに伴い、横回転用第2平歯車56〜同第5平歯車59が回転し、更に、横回転用第1及び第2かさ歯車60,61で回転方向が約90度変えられて図示しない平歯車を介して横回転用プレート62の歯部分に回転力が付与され、横回転用プレート62が第6支持軸46を中心として横方向(図6中紙面直交方向)に揺動する。この揺動に伴って、第7支持軸47に支持された横回転用第7平歯車64が、横回転用第6平歯車63の歯部分に沿って回転し、鉗子11に連なる前側部分25が、中間部分26及び後側部分27に対して横回転することとなる。
【0028】
前記ねじり回転用機構31は、図5、図7及び図8に示されるように、前側部分25、中間部分26及び後側部分27に亘って配置されており、第3のロッド17がその軸線方向に動くと、前側部分25に連なる前記ブレードホルダー23が前側部分25に対してねじり回転するように設定されている。
【0029】
このねじり回転用機構31は、図8に示されるように、第3のロッド16の前端側(同図中左端側)に連なるねじり回転用ラック68と、このねじり回転用ラック68に噛み合うとともに、前記第1支持軸41に支持されたねじり回転用ピニオン69(図3参照)と、ねじり回転用ピニオン69と一体回転可能に設けられるとともに、第1支持軸41に支持されたねじり回転用第1平歯車70と、前記第2支持軸42に支持され、ねじり回転用第1平歯車70に噛み合うねじり回転用第2平歯車71と、前記第3支持軸43に支持され、ねじり回転用第2平歯車71に噛み合うねじり回転用第3平歯車72と、前記第4支持軸44に支持され、ねじり回転用第3平歯車72に噛み合うねじり回転用第4平歯車73と、第4支持軸44に支持され、ねじり回転用第4平歯車73に対して一体回転可能に設けられたねじり回転用第1かさ歯車74と、中間部分26のフレームF1(図1参照)に支持されるとともに、第6及び第7支持軸46,47と同じ向きで配置された第8及び第9支持軸48,49と、第8支持軸48に支持され、ねじり回転用第1かさ歯車74に噛み合うねじり回転用第2かさ歯車75と、第8支持軸48に支持され、ねじり回転用第2かさ歯車75と一体回転可能に設けられたねじり回転用第5平歯車76と、第9支持軸49に支持され、ねじり回転用第5平歯車76に噛み合うねじり回転用第6平歯車77と、前記第6支持軸46に支持され、ねじり回転用第6平歯車77に噛み合うねじり回転用第7平歯車78と、前記第7支持軸47に支持され、ねじり回転用第7平歯車78に噛み合うねじり回転用第8平歯車79と、前側部分25のフレームF3(図7参照)に支持されるとともに、前記第6〜第9支持軸46〜49とほぼ同じ向きで配置された第10支持軸50と、第10支持軸50に支持され、ねじり回転用第8平歯車79に噛み合うねじり回転用第9平歯車80と、第10支持軸50に支持され、ねじり回転用第9平歯車80に対して一体回転可能に設けられたねじり回転用第3かさ歯車81と、前記ブレードホルダー23に一体的に取り付けられ、ねじり回転用第3かさ歯車81に噛み合うねじり回転用第4かさ歯車82とを備えて構成されている。
【0030】
前記ねじり回転用機構31は、以上の構成により、次のように作用する。
【0031】
図示しないモータが駆動し、第3のロッド16が軸線方向に動くと、ねじり回転用ピニオン69と、ねじり回転用第1平歯車70が第1支持軸41を中心として一体的に回転する。これに伴い、ねじり回転用第2平歯車71〜同第4平歯車73が回転し、更に、ねじり回転用第1及び第2かさ歯車74,75で回転方向が約90度変えられ、ねじり回転用第5平歯車76〜同第9平歯車80が回転する。これにより、ねじり回転用第3及び第4かさ歯車81,82が回転し、当該ねじり回転用第4かさ歯車82に一体的に取り付けられたブレードホルダー23がねじり回転する。従って、ブレードホルダー23を含む鉗子11が前側部分25に対してねじり回転することとなる。
【0032】
前記把持動作用機構32は、図7及び図9に示されるように、前側部分25、中間部分26及び後側部分27に亘って配置されており、第4のロッド17が図7中軸線方向に動くと、前記第1及び第2ブレード21,22が後端部分を支点として相互に反対方向に回転し、各ブレード21,22の前端部分が離間接近するように設定されている。
【0033】
この把持動作用機構32は、図9に示されるように、第4のロッド17の前端側(同図中左端側)に連なる把持動作用ラック86と、この把持動作用ラック86に噛み合うとともに、前記第1支持軸41に支持された把持動作用ピニオン87と、第1支持軸41に支持され、把持動作用ピニオン87と一体回転可能に設けられた把持動作用第1平歯車88と、前記第2支持軸42に支持され、把持動作用第1平歯車88に噛み合う把持動作用第2平歯車89と、前記第3支持軸43に支持され、把持動作用第2平歯車89に噛み合う把持動作用第3平歯車90と、前記第4支持軸44に支持され、把持動作用第3平歯車90に噛み合う把持動作用第4平歯車91と、前記第5支持軸45に支持され、把持動作用第4平歯車91に噛み合う把持動作用第5平歯車92と、第5支持軸45に支持され、把持動作用第5平歯車92に対して一体回転可能に設けられた把持動作用第1かさ歯車93と、前記第9支持軸49に支持され、把持動作用第1かさ歯車93に噛み合う把持動作用第2かさ歯車94と、第9支持軸49に支持され、把持動作用第2かさ歯車94に一体回転可能に設けられた把持動作用第6平歯車95と、前記第6支持軸46に支持され、把持動作用第6平歯車95に噛み合う把持動作用第7平歯車96と、前記第7支持軸47に支持され、把持動作用第7平歯車96に噛み合う把持動作用第8平歯車97と、第7支持軸47に支持され、把持動作用第8平歯車97に対して一体回転可能に設けられた把持動作用第3かさ歯車98と、把持動作用第3かさ歯車98に噛み合う把持動作用第4かさ歯車99と、把持動作用第4かさ歯車99に固定され、当該把持動作用第4かさ歯車99から前端側(図9中左端側)に向って前記ブレードホルダー23(図7参照)を貫通する位置まで延びるシャフト100と、このシャフト100の前端側に一体的に取り付けられた把持動作用第5かさ歯車101と、ブレードホルダー23内で図9中上下方向に延びるブレード軸102と、このブレード軸102の一端側で回転可能に支持されるとともに、把持動作用第5かさ歯車101に噛み合う把持動作用第6かさ歯車103と、この把持動作用第6かさ歯車103と第1ブレード21を連結する第1連結部材105と、ブレード軸102の他端側に回転可能に支持されるとともに、把持動作用第5かさ歯車101に噛み合う把持動作用第7かさ歯車104と、この把持動作用第7かさ歯車104と第2ブレード22を連結する第2連結部材106とを備えて構成されている。
【0034】
前記把持動作用機構32は、以上の構成により、次のように作用する。
【0035】
図示しないモータが駆動し、第4のロッド17が軸線方向に動くと、把持動作用ピニオン87と、把持動作用第1平歯車88が第1支持軸41を中心として一体的に回転する。これに伴い、把持動作用第2平歯車89〜同第5平歯車92が回転し、把持動作用第1及び第2かさ歯車93,94で回転方向が約90度変えられた上で、把持動作用第6平歯車95〜同第8平歯車97が回転する。そして、把持動作用第8平歯車97の回転に伴い、把持動作用第3かさ歯車98及び把持動作用第4かさ歯車99が回転し、これにより、シャフト100が回転して、把持動作用第5かさ歯車101が回転する。その結果、把持動作用第5かさ歯車101の図9中上下両側で対向した状態でそれぞれ噛み合う把持動作用第6及び第7かさ歯車103,104が、相互に反対方向に回転し、これに伴って、当該かさ歯車103,104と一体化された第1及び第2ブレード21,22が相互に反対方向に回転し、各ブレード21,22の先端部分が離間接近し、鉗子11の開閉動作(把持動作)が可能となる。
【0036】
従って、このような実施例によれば、鉗子11の横回転動作や縦回転動作のみならず、ねじり回転動作や把持動作を行うことができ、鉗子11の多彩な動きを種々の歯車を使って実現することができ、マニピュレータ10の長短に拘らず、鉗子11の各種動作を正確に行えるという効果を得る。
【0037】
また、前記実施例では、手術器具として鉗子11が設けられた鉗子マニピュレータ10について図示説明したが、本発明はこれに限らず、他の処置具や内視鏡等の他の手術器具が先端に配置された医療用マニピュレータの機構としても採用可能である。
【0038】
その他、本発明における装置各部の構成は図示構成例に限定されるものではなく、実質的に同様の作用を奏する限りにおいて、各歯車の形状、構成数、配置等、種々の変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本実施形態に係る鉗子マニピュレータの概略斜視図。
【図2】図1に対して、カバー部分を外した状態の鉗子マニピュレータの概略斜視図。
【図3】図1及び図2に対して別の角度から見た縦回転用機構を表す概略斜視図。
【図4】図3に対して縦回転用機構の構成要素のみを残した概略斜視図。
【図5】図1及び図2に対して別の角度から見た横回転用機構及びねじり回転用機構を表す概略斜視図。
【図6】図5に対して横回転用機構の構成要素のみを残した概略斜視図。
【図7】ねじり回転用機構及び把持動作機構を表す概略斜視図。
【図8】図7に対してねじり回転用機構の構成要素のみを残した概略斜視図。
【図9】図7に対して把持動作用機構の構成要素のみを残した概略斜視図。
【符号の説明】
【0040】
10 鉗子マニピュレータ(医療用マニピュレータ)
11 鉗子
13 動力伝達機構
21 第1ブレード
22 第2ブレード
31 ねじり回転用機構
32 把持動作用機構
68 ねじり回転用ラック
69 ねじり回転用ピニオン
70 ねじり回転用第1平歯車
71 ねじり回転用第2平歯車
72 ねじり回転用第3平歯車
73 ねじり回転用第4平歯車
74 ねじり回転用第1かさ歯車
75 ねじり回転用第2かさ歯車
76 ねじり回転用第5平歯車
77 ねじり回転用第6平歯車
78 ねじり回転用第7平歯車
79 ねじり回転用第8平歯車
80 ねじり回転用第9平歯車
81 ねじり回転用第3かさ歯車
82 ねじり回転用第4かさ歯車
86 把持動作用ラック
87 把持動作用ピニオン
88 把持動作用第1平歯車
89 把持動作用第2平歯車
90 把持動作用第3平歯車
91 把持動作用第4平歯車
92 把持動作用第5平歯車
93 把持動作用第1かさ歯車
94 把持動作用第2かさ歯車
95 把持動作用第6平歯車
96 把持動作用第7平歯車
97 把持動作用第8平歯車
98 把持動作用第3かさ歯車
99 把持動作用第4かさ歯車
103 把持動作用第5かさ歯車
104 把持動作用第6かさ歯車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側に配置された手術器具を所定方向に変位させる動力伝達機構が設けられた医療用マニピュレータにおいて、
前記動力伝達機構は、前記手術器具をねじり回転させるねじり回転用機構を備え、
前記ねじり回転用機構は、複数の歯車により構成され、所定の駆動装置から駆動力が付与されると、前記各歯車が回転して前記手術器具をねじり回転させることを特徴とする医療用マニピュレータ。
【請求項2】
前記ねじり回転用機構は、前記駆動力により動作するねじり回転用ラックと、このねじり回転用ラックに噛み合うねじり回転用ピニオンと、当該ねじり回転用ピニオンの回転により回転可能に設けられた平歯車と、当該平歯車の回転により回転可能に設けられたねじり回転用第1かさ歯車と、当該ねじり回転用第1かさ歯車に噛み合うねじり回転用第2かさ歯車と、当該ねじり回転用第2かさ歯車の回転により回転可能に設けられた平歯車と、当該平歯車の回転により回転可能に設けられたねじり回転用第3かさ歯車と、当該ねじり回転用第3かさ歯車に噛み合い、前記手術器具をねじり回転させるねじり回転用第4かさ歯車とを備えたことを特徴とする請求項1記載の医療用マニピュレータ。
【請求項3】
前記手術器具は、相互に離間接近可能な第1及び第2ブレードを備えた鉗子であり、
前記動力伝達機構は、前記第1及び第2ブレードを離間接近させることで、前記鉗子を開閉動作させる把持動作用機構を備え、
前記把持動作用機構は、複数の歯車により構成され、所定の駆動装置から駆動力が付与されると、前記歯車が回転して前記第1及び第2ブレードを離間接近させることを特徴とする請求項1又は2記載の医療用マニピュレータ。
【請求項4】
前記把持動作用機構は、前記駆動力により動作する把持動作用ラックと、この把持動作用ラックに噛み合う把持動作用ピニオンと、当該把持動作用ピニオンの回転により回転可能に設けられた平歯車と、当該平歯車の回転により回転可能に設けられた把持動作用第1かさ歯車と、当該把持動作用第1かさ歯車に噛み合う把持動作用第2かさ歯車と、当該把持動作用第2かさ歯車の回転により回転可能に設けられた平歯車と、当該平歯車の回転により回転可能に設けられた把持動作用第3かさ歯車と、当該把持動作用第3かさ歯車の回転に連動して同一方向に回転可能に設けられた把持動作用第4かさ歯車と、相互に逆方向に回転可能となるように、前記把持動作用第4かさ歯車にそれぞれ噛み合う把持動作用第5及び第6かさ歯車とを備え、
前記第1ブレードは、前記把持動作用第5かさ歯車と同一方向に回転可能に設けられる一方、前記第2ブレードは、前記把持動作用第6かさ歯車と同一方向に回転可能に設けられ、前記把持動作用ラックの動作により、前記第1ブレード及び前記第2ブレードが相反する方向に回転することを特徴とする請求項3記載の医療用マニピュレータ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−152028(P2007−152028A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−355462(P2005−355462)
【出願日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年6月9日〜11日 日本機械学会ロボティクス・メカトロニクス部門主催の「ロボティクス・メカトロニクス講演会2005」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年9月15日 (社)日本ロボット学会発行の「第23回日本ロボット学会学術講演会講演概要集」に発表
【出願人】(899000068)学校法人早稲田大学 (602)