説明

医療用具の製造方法

【課題】ルアーロック型液体ポートへ高速且つ高精度に打栓ができ、ねじ締付け時の引掛かりや栓体が傾斜した状態で打栓される現象を確実に防止できる打栓方法を提供する。
【解決手段】栓体3を打栓ヘッド11で把持し、水平方向に突出したルアーロック型流体ポート2と栓体ねじ部が接触する位置まで打栓ヘッド11を前進し、栓体3の回転方向と直行する方向に一定圧力で圧接させ、栓体3の反締結方向に回転させることで、流体ポート2のねじ先端部と栓ねじ先端部とが接触する締結開始位置を、打栓ヘッド11の回転方向に直行する方向の変位量を測定することで検出し、その後、打栓ヘッド11を栓体3を流体ポート2との締結方向に回転させる打栓方法において、打栓ヘッド11の栓体と流体ポート2の締結方向(X1)と反締結方向(X2)の回転速度(r/min)が、以下式で表されることを特徴とする打栓方法。400≦X1≦640 100≦X2≦320

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体ポートにねじ式の栓体を打栓して得られる医療用具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
内部に気体や水、水溶液などの液体が充填された医療用具、例えば、人工腎臓、血漿分離器、白血球除去器、血液成分吸着材等は、体液の循環や水、水溶液などの通液のための一個以上の液体ポートを備える。
【0003】
各液体ポートへは、滅菌時や輸送時に、内部液体が漏出するのを防止するなどの目的で栓体を被冠する必要がある。
【0004】
図5にはシャンプー、化粧品、食料、飲料など各種製品を収容した容器に栓体をねじ締め打栓する操作を機械的に実施する方法が記載されている(特許文献1参照)。栓体を把持し、容器の口部へ押圧させた状態で、この栓体をねじの反締結方向に所要量を回転させてから、締結方向に回転させ、栓体を容器の開口部に被冠する。しかし、この文献には、栓体と容器口部のねじ開始部ポイントを一致させて、ねじを高速且つ高精度に締付けることに関する記載がない。したがって、ねじ締付け時の引掛かりや栓体が傾斜した状態で打栓される現象を確実に防止することが難しいものであった。
【0005】
そこで、変位検出器を用いて、栓体と容器をねじの締結方向に回転させた際に、栓体を締付ける方向の変位量が最大になるポイントから、栓体と容器とのねじ同士の噛み合い開始点を検出し、位置付けさせた後に締結方向に回転させて打栓する方法(特許文献2参照)や、トルク検出器を用いて、栓体と容器とをねじの反締結方向に回転させた際の出力トルクを計測し、出力トルクが急激に増加するポイントから、栓体と容器とのねじ同士の噛み合い開始点を検出し、そこから栓体の回転角度を規定して締付けることで栓体の締まり具合の均一化を図る方法がある(特許文献3参照)。
【0006】
しかし、特許文献2では、栓体をねじの反締結方向、締結方向に回転させる際の回転速度についての規定が明確でないため、反締結方向へ高速回転させた際には、変位検出器によるねじ同士の噛み合い開始点の検出精度が低下し、締結時にねじの引掛かりや、栓が傾斜した状態で取り付けられる現象が生じることや、容器の長手方向が地面と垂直な位置関係になり、ねじの回転方向と地面とが平行な位置になるように容器を設置した状態から打栓しているため、容器内部に液体が充填されている医療用具においては液体が漏出してしまうという課題がある。
【0007】
特許文献3では、少なくとも容器、栓体のいずれかに摩擦抵抗の小さな材質を使用した場合には出力トルクによる測定精度が低下し、回転時の出力トルク測定による位置合せは困難であると考えられる。さらに、加重による位置合せについては、(1)容器、栓体の寸法にバラツキが大きい場合には測定精度が低下する、(2)ねじのピッチが小さい場合には荷重も小さくなり測定精度が低下する、(3) ねじの回転方向が地面と垂直になる方向から打栓した場合には加重の測定が安定しない などの不具合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭64−23987号公報
【特許文献2】特開平11−124196号公報
【特許文献3】特開2001−247191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされるものであり、その目的は、好ましくは2条ねじを備えた栓体を、ルアーロック型液体ポートへ高速且つ高精度に打栓することができるとともに、ねじ締付け時の引掛かりや栓体が傾斜した状態で打栓される現象を確実に防止できる打栓方法によって得られる医療用具の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するため、本発明では、栓体を医療用具のルアーロック型液体ポートに打栓する際に、栓体を液体ポートに栓体の回転方向と直行する方向に一定圧力で圧接させながら反締結方向に回転させて、栓体の回転に直行する方向の変位量を測定することにより、栓体と液体ポートとのねじ同士の噛み合い開始点を検出するものであり、さらに、当該栓体と液体ポートのねじ同士の噛み合い開始点検出後に栓体を締結方向に回転させる打栓方式において、締結方向(X1)と反締結方向(X2)の回転速度(r/min)が、以下式で表されることを特徴とする。
400≦X1≦640
100≦X2≦320
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、栓体を医療用具用液体ポートへ打栓する際に、液体ポートと栓体とのねじ同士の噛み合い開始点を正確に検出することができ、また、ねじ締付け時の引掛かりや栓体が傾斜した状態で打栓される現象を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明における打栓装置の基本構成を示す図
【図2】医療用具の液体ポートに打栓された栓体を示す側断面図
【図3】JIS T3250(2005)に規定される液体ポートの側断面図
【図4】本発明における栓体の側断面図
【図5】従来の打栓装置の基本構成を示す図
【図6】変位検出器による打栓時の変位量推移
【発明を実施するための形態】
【0013】
上記課題を解決するための本発明における打栓装置の説明に先立ち、本発明が用いられる容器と栓体の例について説明する。
【0014】
図1に示す容器1は、内部に気体や水、水溶液などの液体が充填された医療用具であり、この医療用具1に備えられたルアーロック型の液体ポート2に、栓体3が被冠されて医療用具1が密閉される。液体ポート2の形状はJIS T3250(2005)に規定されているものであり、ねじは2条台形の雌ねじ形状で、ノズル部径やねじのピッチや径は規定されている。栓体3は、この液体ポート2の2条台形雌ねじに螺合するように、2条台形雄ねじ部材で形成されており、これらのねじ締めにより栓体3を医療用具1へ装着させる。
また、上記ルアーロック型液体ポートは2条台形の雌ねじを有しており、医療用具の場合は、ノズル部径や、ねじ部のピッチや径はJIS T3250(2005)に規定されている、本発明に好適に用いられる型のポートである。この場合、栓体は、液体ポートのねじと螺合するように形成された2条ねじ形状を備えるものである。
【0015】
図2に栓体3を液体ポート2にねじ締めして被冠した際の側断面図を示すが、栓体3と液体ポート2とをねじ締めするためには、栓体3の雄ねじ5と液体ポート2の雌ねじ4とを噛み合い開始点に位置づける必要がある。栓体3を液体ポート2に一定圧力で圧接した状態で栓体を反締結方向に回転させると、栓体3は、回転方向に直行する方向のうち、押圧方向とは反対方向に変位する。この変位量は栓体3を反締結方向に回転させるに従い大きくなり、栓体3の雄ねじ5と液体ポート2の雌ねじ4との噛み合い開始点の直前に最大となり、噛み合い開始点に達した時に最小となる。
【0016】
本発明においては、打栓装置10を用いて、栓体3を液体ポート2にねじ締めする際に、栓体3を液体ポート2に圧接させながら反締結方向に回転させる間に、回転方向に直行する方向の変位量を測定してねじ同士の噛み合い開始点を検知し、反締結方向の回転を停止し、その位置から締結方向へ栓体を回転させてねじ締めすることが好ましい。
【0017】
また、打栓装置10は、図1に示すように、栓体を把持する打栓ヘッド11と、打栓ヘッドを回転させるためのサーボモーター12と、打栓時に栓体3を液体ポート2へ一定圧力で押圧するための押圧体13と、栓体3の回転方向に直行する方向の変位量を測定するための変位検出器14と、サーボモーターの出力トルク、回転方向、回転速度、回転開始・停止を制御するためのコントローラ15とを備える。
【0018】
医療用具1は例に示す如く内部に液体が充填されていることが多く、相反する2端に液体ポート2を備えている。この2端の液体ポート2を結ぶ長手方向を医療用具1の軸とすると、医療用具1は、内部充填液体の漏洩を防止するために、軸方向を地面と平行方向にする必要がある。そのため、打栓ヘッド11は、打栓時に、栓体3を、打栓時の回転方向が地面と直行する方向になるよう把持する必要がある。栓体3の外周面は凹凸形状になっており、打栓ヘッド11の内周面を栓体3の外周面に合致する凹凸形状とすることで、打栓ヘッド11が栓体3を把持した際に栓体3がずれたり落下したりすることを防止している。
【0019】
押圧体13はバネ等の弾性体16を備えており、栓体3を液体ポート2へ接触させた際に弾性体の反力により、栓体3を液体ポート2へ圧接させ続けることができる。
【0020】
変位検出器14は押圧体13に設置されており、栓体3の回転方向と直行する方向の変位量を検出することができる。
【0021】
コントローラ15は、変位検出器14で検出された栓体3の変位量、サーボモーターの出力トルク、回転速度、回転方向、回転開始・停止の制御を実行する。
【0022】
栓体3と液体ポート2とのねじ締付けの際には、コントローラ15は、まず、栓体3を反締結方向へ回転させ、この間の栓体3の回転方向に直行する方向の変位量を検出器14が計測する。変位量は図6に示すように推移するが、サーボモーターの回転開始初期の加速による変位量を計測から除くよう設定しており、回転開始からの変位量の波うち、2回目に最小値を検知した地点をねじ噛み合い開始点として認識するよう設定して、この地点を検知後に反締結方向の回転を停止する。
【0023】
ねじ噛み合い開始点を検知した後に、栓体3を締結方向に回転させてねじ締めをする。栓体3を締結方向へ回転させる際には、サーボモーター12から出力されるトルク値をコントローラ15にて規定しており、ねじ締結時にトルク出力値に到達した時点でサーボモーター12の締結方向の回転を停止させ、栓体3の液体ポート2への打栓を終了する。
【0024】
本発明においては、上記の様に栓体を反締結方向に回転させる際、その回転速度X2に制限を設けることを一つの特徴としたものである。栓体3を反締結方向へ回転させる際の回転速度X2(r/min)については、100≦X2≦320の範囲となるようサーボモーターの速度を規定しており、これにより変位検出器14が、液体ポート2と栓体3とのねじ同士の噛み合い開始点を検知した瞬間に反締結方向の回転を停止し、締結方向の回転を開始することができる。反締結方向の回転速度がより小さいほど、ねじ噛み込み開始点の検出後に反締結方向の回転停止の精度が高まるが、工程で大量生産をする際には、高速で打栓する必要があるため、回転速度が小さいほど、タクトが悪化してしまうため、100≦X2としている。
【0025】
さらに、本発明においては、その反締結方向の回転速度を締結方向の回転速度との比率として検討したものである。通常は両者の回転速度を等しくすることがプロセスの簡略化、工程安定化に寄与すると考えられるが、本発明では、締結方向の回転速度X1とX2の比YをX2/X1=Yとすると、Y≦0.8である場合に、ねじ締付け時の引掛かりや現象を防止することができることを見出した。さらに、この場合、X1がX2上限の2倍を超えると、締結方向の速度が速すぎるため、ねじ締付け時の引掛かりの現象が生じることを見出した。すなわち、締結方向の栓体の回転速度X1は、400≦X1≦640r/minの範囲となるよう規定されるものであり、この回転速度で締結方向へ回転させることにより、液体ポート2と栓体3とのねじ締付け時の引掛かりや現象を確実に防止することができる。なお、ここでいう回転速度とは、平均速度を指すものである。
【0026】
さらに、より好ましくは、400≦X1≦500、100≦X2≦200、つまり、Y≦0.5の栓体の回転速度条件で打栓することでより確実に打栓失敗を防止することができる。この場合、X1はX2上限の2.5倍以下であれば、上記したように締結方向の速度が速すぎるため、ねじ締付け時の引掛かりの現象が生じることはない。
【実施例】
【0027】
以下、本発明にかかる実施例を示す。
[実施例1]
中空糸膜を用いた血液浄化モジュール(以下、ダイアライザー)の血液ポートに栓体を打栓した。ダイアライザーは、長手軸方向の対方2箇所に液体ポートを備えており、内部には水溶液が充填されているため、内部充填液の漏出を防ぐために、打栓時には軸方向を地面と平行となるように設置した。
【0028】
血液ポートは、JIS T3250(2005)に規定されたルアーロック形状であり、材質はポリスチレンである。血液ポートは、図3に示した通り、雌ねじ形状であり、該雌ねじには、第1の螺合圧接面と、該第1の圧接面よりも液体ポートの開口部側に設置された第2の螺合圧接面を備えている。
【0029】
栓体3は、図4に示した形状であり、材質はポリエチレンであり、円筒部側面において対方2箇所に2条ねじ4が形成されている。また、栓体は、ねじ部よりも外周に円筒カバー部6を設けており、該円筒カバー部6の外周面には36等配の凹凸を備えている。
【0030】
この栓体を、打栓ヘッド11に把持する。打栓ヘッド11は、内周面を36等配の凹凸形状を備えており、栓体3を把持した際に、円筒カバー部6の外周面の36等配の凹凸と打栓ヘッド11の凹凸が噛み合い、栓体が打栓ヘッドから落下することを防いでいる。
【0031】
打栓ヘッド11が栓体3を把持した状態で、押圧体13により、打栓ヘッド11を液体ポート2へ向けて前進させ、栓体3を液体ポート2に0.3MPaの一定圧力で圧接させた。圧接させた状態で、サーボモーター12にて栓体3の反締結方向の速度(X2)を100r/minで回転させた。押圧体13に設置した変位検出器14にて、栓体の反締結方向への回転時の、回転方向と直行する方向の変位量を検出した。栓体回転時の変位量は図6に示すように推移し、変位量のうち、回転開始初期の加速による変位量を計測から除き、2回目に最小値を検知した地点で、サーボモーター12の反締結方向への回転を停止させ、締結方向の速度(X1)400r/minで回転させた。サーボモーター12の、締結方向への回転時の出力トルクは60cN・mとした。トルク値はコントローラ15で検出しており、締結方向への回転時に出力トルクが60cN・mに到達した時点でサーボモーター12の回転を停止させ、打栓ヘッド11を液体ポートから離れる方向へ後退させる。
【0032】
100本のサンプルを用いて確認した結果、打栓不良は0本であった。
なお、打栓後のダイアライザー液体ポートについて、栓体が、ねじ締付け時の引掛かりや、傾斜した状態(以後、打栓不良)で打栓されているか否かを目視にて確認した。打栓後の液体ポートと栓体について、液体ポートの長手方向に対し、栓体の天面が垂直になっていれば十分な深さまで栓体が締付けられているが、液体ポートの長手方向に対し、栓体の天面が斜めに取付けてあった場合には、打栓不良であると判断できる。
[実施例2]
実施例1に記載の液体ポートに、実施例1に記載の栓体を打栓する方法において、栓体の反締結方向、締結方向への回転速度のみが表1に示すように異なる方法を採用した。100本のサンプルを用いて確認した結果、打栓不良は0本であった。
[実施例3]
実施例1に記載の液体ポートに、実施例1に記載の栓体を打栓する方法において、栓体の反締結方向、締結方向への回転速度のみが表1に示すように異なる方法を採用した。100本のサンプルを用いて確認した結果、打栓不良は0本であった。
[比較例1]
実施例1に記載の液体ポートに、実施例1に記載の栓体を打栓する方法において、栓体の反締結方向、締結方向への回転速度のみが表1に示すように異なる方法を採用した。100本のサンプルを用いて確認した結果、打栓不良は3本であった。X2>320r/min、つまり、Y>0.8の条件で打栓した際には、打栓不良が発生することを確認した。
[比較例2]
実施例1に記載の液体ポートに、実施例1に記載の栓体を打栓する方法において、栓体の反締結方向、締結方向への回転速度のみが異なる方法を採用した。栓体の回転速度を表1に示すように設定して打栓した。100本のサンプルを用いて確認した結果、打栓不良は5本であった。X1>640r/minの条件で打栓した際には、打栓不良が発生することを確認した。
【0033】
【表1】

【符号の説明】
【0034】
1:医療用具
2:液体ポート
3:栓体
4:雌ねじ
5:雄ねじ
6:円筒カバー部
10:打栓装置
11:打栓ヘッド
12:サーボモーター
13:押圧体
14:変位検出器
15:コントローラ
16:弾性体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
栓体のねじ部をルアーロック型流体ポートのねじ部に栓体の回転方向と直行する方向に一定圧力で圧接させつつ反締結方向に回転させ、前記流体ポートねじ先端部と前記栓体ねじ先端部とが接触する締結開始位置を前記回転方向に直行する方向の変位量の測定により検出した後、前記栓体を前記流体ポートとの締結方向に回転させて打栓して得られる医療用具の製造方法において、前記締結方向の回転速度(X1)と反締結方向(X2)の回転速度(r/min)が、それぞれ以下式で表されることを特徴とする医療用具の製造方法。
400≦X1≦640
100≦X2≦320
【請求項2】
前記医療用具が人工腎臓であることを特徴とする請求項1に記載の医療用具の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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