説明

医療用活栓

【課題】 簡単な構造でシール性および操作性を向上できる医療用活栓を提供すること。
【解決手段】 医療用活栓Aに、上流分岐管12、下流分岐管13および合流用分岐管14にそれぞれ連通する連通穴14a等を備えたチャンバー部11と、チャンバー部11内に設置されるとともにチャンバー部11との間に溝部33,34が形成され、所定の方向に回転することにより連通穴14a等の中の所定の連通穴どうし連通させたり遮断させたりすることのできる切換栓31とを設けた。そして、切換栓31の外周面における溝部33の周縁部にチャンバー部11との間を密閉するシール部35を設けた。シール部35を、溝部33の周縁部から突出しその肉厚が溝部33の周縁部から先端側に行くほど薄くなるとともにチャンバー部11側に付勢可能な突条で構成した。さらに、切換栓31およびシール部35を、樹脂材料を一体成形することにより形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の医療用チューブ等に連結される複数の分岐管を備え、各分岐管の連通、遮断の状態を切り替えることのできる医療用活栓に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数の医療用チューブを用いて患者の体内に所定の薬液や生理食塩水等を供給したり、血液透析や輸血をすることが行われており、このような場合に、医療用活栓を用いて、各医療用チューブ間を連通したり遮断したりすることが行われている(例えば、特許文献1参照)。この医療用活栓は、本体、支持部材、切り換え部材およびシール部から構成されている。本体は両端が開口した円筒部の外周に各流路を介して連通する三つの接続管部を形成した構成をしており、支持部材は本体の一端側に固定された円筒体で構成されている。
【0003】
切り換え部材は本体の流路に対応する切り換え用流路が形成された円柱部の一端部に操作部が設けられた構成をしており、本体および支持部材に軸方向に移動しないが回動しうるように支持されている。そして、シール部材は本体の流路に対応する流路が形成されたゴム状弾性体製の円筒体で構成されており支持部材に固定されて本体および切り換え部材に圧接している。この医療用活栓では、シール部材によってシール機能が発揮されるため、切り換え部材を本体に緩く嵌め合わせるだけですみ、これによって切り換え部材の回動操作を軽くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−46349号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、前述した従来の医療用活栓では、切り換え部材を本体に緩く嵌め合わせても、シール部材が、本体と切り換え部材とに常時圧接しているため、切り換え部材を回動操作する際にシール部材から相当の抵抗を受ける。また、切り換え部材とシール部材との間を緩くするとシール性が低下する。さらに、従来の医療用活栓では、シール部材に流路が形成されるためその形状が複雑になるという問題もある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、その目的は、簡単な構造でシール性および操作性を向上できる医療用活栓を提供することにある。
【0007】
前述した目的を達成するため、本発明に係る医療用活栓の構成上の特徴は、複数の分岐管と、複数の分岐管にそれぞれ連通する複数の連通穴を備えた円筒状のチャンバー部と、チャンバー部内に軸周りに回転可能に設置されるとともに、チャンバー部との間に中継流路が形成され、回転することにより複数の連通穴どうしを中継流路を介して連通させたり、複数の連通穴のうちの少なくとも一つを外周面により遮断させたりすることのできる切換栓とを備えた医療用活栓であって、切換栓の外周面における中継流路の周縁部にチャンバー部との間を密閉するシール部を設けたことにある。
【0008】
前述したように構成した本発明の医療用活栓では、シール部を切換栓に形成された中継流路におけるチャンバー部に対向する周縁部に設けている。したがって、中継流路内を液体が流れ高圧がかかったときに、シール部がチャンバー部に圧接されて優れたシール性能を発揮し、中継流路内に高圧がかからないときには切換栓を回転させ易くなって切換え時の操作性が向上する。また、シール部は中継流路の周縁部に形成するだけであるためその構造が単純になる。
【0009】
また、本発明に係る医療用活栓の他の構成上の特徴は、シール部を、中継流路の周縁部から突出しその肉厚が中継流路の周縁部から先端側に行くほど薄くなるとともにチャンバー部側に付勢可能な突条で構成したことにある。この場合、突条は軟質にしておくことが好ましい。これによると、中継流路内が液体によって高圧になったときに、シール部がチャンバー部にさらに圧接されやすくなりより優れたシール性能を発揮するようになる。また、シール部は、切換栓の外周面に沿うように(中継流路の開口を覆う方向に)延ばしてもよいし、外周側に突出するように延ばしてもよい。
【0010】
また、本発明に係る医療用活栓のさらに他の構成上の特徴は、切換栓およびシール部を、樹脂材料で一体成形することにより形成したことにある。これによると、シール部を備えた切換栓を単純な構造にすることができるとともに、その成形が容易になる。
【0011】
また、本発明に係る医療用活栓のさらに他の構成上の特徴は、切換栓を、切換栓本体と、中継流路を形成する中継流路形成部とシール部とからなり切換栓本体に組み付けられる中継流路形成部材とで構成したことにある。本発明では、切換栓を、中継流路を形成する中継流路形成部とシール部とからなる中継流路形成部材を切換栓本体に組み付けることにより構成している。このため、中継流路やシール部が複雑な形状であっても、中継流路とシール部とを切換栓本体とは別体からなる中継流路形成部材として成形できるためその成形が容易になる。
【0012】
また、本発明に係る医療用活栓のさらに他の構成上の特徴は、複数の連通穴を、切換栓が回転する際の軸回り方向に沿って配置された上流穴、中間穴、下流穴の三つの流路で構成するとともに、中継流路を、切換栓の外周面に、切換栓がチャンバー部内における軸回り方向の所定の位置に位置したときに、上流穴と下流穴との一方と中間穴とを連通させる第1の溝部と、上流穴と下流穴との他方と合流分岐部とを連通させる第2の溝部とを設けることにより構成したことにある。
【0013】
これによると、医療用活栓が備える上流穴、中間穴および下流穴のそれぞれの連通、遮断の状態を任意に切り換えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態に係る医療用活栓を示した斜視図である。
【図2】医療用活栓を示した平面図である。
【図3】医療用活栓を示した正面図である。
【図4】医療用活栓を示した左側面図である。
【図5】医療用活栓を示した右側面図である。
【図6】医療用活栓を示した断面図である。
【図7】医療用活栓の内部を示した切り欠き断面図である。
【図8】切換栓を示した斜視図である。
【図9】切換栓を示した平面図である。
【図10】切換栓を示した横断面図である。
【図11】図9の11−11断面図である。
【図12】チャンバー部と切換栓との接触状態を示しており、(a)は横断面図、(b)は(a)に示した楕円領域の拡大図である。
【図13】本発明の第2実施形態に係る医療用活栓が備える切換栓を示した平面図である。
【図14】図13に示した切換栓の横断面図である。
【図15】図13の15−15断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態に係る医療用活栓を図面を用いて詳しく説明する。図1ないし図5は、同実施形態に係る医療用活栓Aを示しており、この医療用活栓Aは、活栓本体10、蓋部材20、蓋部材20を介して活栓本体10に取り付けられたゴム栓25および切換操作栓30で構成されている。活栓本体10は、軸方向を前後(図2の上下)に向けて配置された略円筒状のチャンバー部11(以下、図3を正面とし、上下方向および左右方向は図3を基準にして説明する。)と、チャンバー部11の左右両側に180度の角度を保って略同軸に沿って延びる上流分岐管12および下流分岐管13と、上流分岐管12と下流分岐管13とに対して直交してチャンバー部11の上部に設けられた合流用分岐管14(図6参照)とで構成されている。
【0016】
チャンバー部11の後部開口は、図6および図7に示したように、キャップ部材15で閉塞されている。キャップ部材15は、前端面が閉塞され、前部側の外径よりも後部側の外径の方が大きくなった段付き円筒体15aの後部開口の周縁部に外周側に突出するフランジ状の係止部15bを設けた形状に形成されている。係止部15bの外径はチャンバー部11の外径と略等しくなり、段付き円筒体15aの大径部分の外径はチャンバー部11の内径よりもやや小さくなっている。そして、段付き円筒体15aの外周面とチャンバー部11の内周面との間には、後述する切換操作栓30の後端部が嵌合している。
【0017】
また、チャンバー部11の軸方向の略中央には、円周に沿って90度間隔で三つの穴部からなる連通穴が形成されており、これらの連通穴にそれぞれ上流分岐管12、合流用分岐管14および下流分岐管13の内部に形成された流路が連通している。上流分岐管12に連通する連通穴(図示せず)が本発明に係る上流穴を構成し、合流用分岐管14に連通する連通穴14aが本発明に係る中間穴を構成する。そして、下流分岐管13に連通する連通穴(図示せず)が本発明に係る下流穴を構成する。
【0018】
合流用分岐管14とチャンバー部11とを連通する連通穴14aの直径は、他の連通穴の直径よりも大きく設定されている。また、チャンバー部11と合流用分岐管14とを連通する連通穴14aの内壁における左右方向の両側(図6では紙面の表側から裏側にかけての部分)には上流分岐管12から下流分岐管13に向う流路を前後に仕切る仕切り壁16が掛け渡された状態で形成されている。仕切り壁16の上面は、後部側が高く前部側が低くなった傾斜面17に形成されている。
【0019】
上流分岐管12は、チャンバー部11と一体的に形成された雌ルアーコネクターからなっており、内部には穴部からなる流路が形成されている。そして、上流分岐管12の開口部の外周面には、連結用のねじ部12aが形成されている。下流分岐管13は、チャンバー部11と一体的に形成された雄ルアーコネクターからなっており、内部には穴部からなる流路が形成されている。また、下流分岐管13の先端側部分は先細り状の雄ルアー部13aで構成されている。合流用分岐管14は、チャンバー部11の上部に設けられた軸方向の長さが短い円筒部で構成されており、この合流用分岐管14の外周面には、合流用分岐管14とでゴム栓25を固定するための蓋部材20が取り付けられている。
【0020】
蓋部材20は、直径の異なる段違い状の略円筒状に形成されており、上部21が合流用分岐管14よりもやや直径が小さく、下部22が合流用分岐管14よりも直径が大きい略キャップ状に形成されている。この蓋部材20は、下部22の下端内周面を合流用分岐管14の外周面に係合させることにより、合流用分岐管14に着脱可能に取り付けられている。また、蓋部材20の下部22と合流用分岐管14との係合部の上部には所定の隙間が形成されている。この隙間は、ゴム栓25の下端部を蓋部材20に固定するために利用される。
【0021】
ゴム栓25は、天然ゴム、合成ゴムまたはエラストマーなどの伸縮性を備えた弾性部材からなっており、肉厚円板状のゴム栓本体26と、ゴム栓本体26の上部に形成されたフランジ状係合部27と、ゴム栓本体26の下部に形成された略円筒状の固定片28とで構成されている。そして、図6に示したように、ゴム栓本体26と固定片28とを蓋部材20の内部に押し込み、フランジ状係合部27を蓋部材20の開口縁部に係合させるとともに、固定片28を蓋部材20の下部22と合流用分岐管14とで挟み込むことにより、ゴム栓25は蓋部材20に固定されている。
【0022】
また、ゴム栓25には、合流用分岐管14の内部側と蓋部材20の外部側との間を貫通し、合流用分岐管14内の流路を外部に連通するためのスリット29が設けられている。このスリット29は、合流用分岐管14内の流路を使用しない時には、ゴム栓25の弾性によって閉塞された状態になる。また、合流用分岐管14内の流路を使用する時には、ゴム栓25のスリット29に、例えば、シリンジの雄ルアー部を差し込むことによりシリンジの薬液収容部と合流用分岐管14の流路と連通することができる。その際、雄ルアー部とスリット29の周面との間は、ゴム栓25の弾性によって密着状態になる。
【0023】
切換操作栓30は、図8および図9に示したように、略円筒状の切換栓31と、切換栓31の前端部に連結された操作部32とで構成されている。切換栓31は、先端部(後端部)をチャンバー部11の内周面とキャップ部材15の段付き円筒体15aの外周面との間に挿し込んだ状態でチャンバー部11内に設置されており、操作部32を回転操作することにより、薬液等による高圧がかかっていないときにはチャンバー部11の軸周り方向にスムーズに回転する。また、切換栓31の外周面には、本発明の中継流路を構成する溝部33が形成されている。溝部33は、切換栓31の外周面における軸方向の中心よりもやや後部側の部分で円周に沿って略半周にわたって延びる幅の大きな凹部で構成されている。
【0024】
そして、切換栓31の外周面における溝部33の周縁部には、軟質のシール部35が形成されている。このシール部35は、図10および図11に示したように、溝部33の周縁部から先端側にいくほど肉厚が薄くなった環状の突条で構成されており、先端側が溝部33の開口を覆う方向よりもやや外部に向かって突出するように形成されている。このシール部35は、可撓性を備えており、力が加わることにより溝部33の内部側にもさらに外部側にも撓むことができる。
【0025】
また、切換栓31の外周面には、溝部33とともに本発明の中継流路を構成する溝部34が溝部33と軸方向に並んで形成されている。この溝部34は、切換栓31の外周面における軸方向の中心よりもやや前部側の部分で溝部33と平行して切換栓31の外周面に沿って延びる周方向溝部34aと、周方向溝部34aの一方の端部から屈曲して軸方向の後部側に向って延びる軸方向溝部34bとからなる略L字状の凹部で構成されている。溝部34の軸方向溝部34bは、溝部33の一方の端部と所定間隔を保った位置に設けられており、溝部34の周方向溝部34aの他方の端部は、溝部33の他方の端部よりも円周方向に沿った一方側(図8における手前側)に位置している。また、溝部34の幅は、溝部33の幅よりも小さくなっている。
【0026】
溝部33と溝部34との切換栓31の円周方向に沿った長さはともに円周の略半周で等しく設定されており、溝部33と溝部34の周方向溝部34aとの間隔および溝部33と溝部34の軸方向溝部34bとの間隔は略等しく設定されている。そして、溝部33と溝部34の周方向溝部34aとの間には、切換栓31の外周面に沿った堰部36が形成されている。また、チャンバー部11内に設置された切換栓31は、外周面における溝部33および溝部34の軸方向溝部34bが形成された部分を、チャンバー部11と上流分岐管12とを連通する連通穴およびチャンバー部11と下流分岐管13とを連通する連通穴の位置に合わせた状態になる。
【0027】
すなわち、切換栓31の軸方向における溝部33および溝部34の軸方向溝部34bが形成された部分の位置と、チャンバー部11の軸方向における両連通穴が形成された部分の位置とが一致するようになる。また、チャンバー部11内に設置された切換栓31は、溝部34の周方向溝部34aをチャンバー部11の内周面における前部側部分に対向させた状態になる。すなわち、切換栓31の軸方向における溝部34の周方向溝部34aが形成された部分の位置と、チャンバー部11の内周面における前部側部分(両連通穴が形成された部分よりも前部側)の位置とが一致するようになる。
【0028】
また、切換栓31の外周面における堰部36が形成された部分は、チャンバー部11の内周面における仕切り壁16の内面前端側部分に対向できる位置にある。このため、図7に示したように、堰部36が上方を向くように切換栓31を位置させたときには、溝部33が上流分岐管12(図7の手前側に位置する。)内の流路と対向してチャンバー部11の内部と上流分岐管12の流路とは溝部33を介して連通する。また、溝部34における軸方向溝部34bの後部側(図7では溝部33の裏面側に位置する。)が下流分岐管13内の流路と対向してチャンバー部11の内部と下流分岐管13の流路とは溝部34を介して連通する。
【0029】
この場合、堰部36の上方には、仕切り壁16が位置して、堰部36の上面と仕切り壁16の下面とは略密着状態で接触する。また、切換操作栓30のシール部35が、堰部36の下面およびチャンバー部11の内周面に圧接して溝部33の周縁部とチャンバー部11の内周面(堰部36の下面を含む)との間を確実にシールする。そして、仕切り壁16の上方には、合流用分岐管14の流路となる空間部が位置しているため、溝部33と溝部34とは合流用分岐管14の流路を介して連通する。したがって、この状態では、上流分岐管12からチャンバー部11および合流用分岐管14を介して下流分岐管13に薬液等の液体を流すことができる。
【0030】
この場合、上流分岐管12から下流分岐管13に向う流路は、図7に矢印aで示したように、上流分岐管12からチャンバー部11の後部側上方に延びたのちに、仕切り壁16の上面を通ってチャンバー部11の前部側に延び、チャンバー部11の前部側下方から下流分岐管13に延びる。また、この流路を切換操作栓30に基づいて示すと、図8に矢印bで示したように、上流分岐管12から溝部33内に流れてくる薬液等は、上方の仕切り壁16(矢印bの上部の部分に位置する)を乗り越えて溝部34に流れていく。
【0031】
このとき、仕切り壁16の上面に形成された傾斜面17は、後部側が高く前部側が低くなっているため、薬液等はチャンバー部11の上方の空間内を通過するようになり、チャンバー部11や合流用分岐管14の内部に空気や薬液等の一部が滞留することを抑制できる。その状態から切換操作栓30を一方に回転させて、溝部33を下流分岐管13の流路に対向させるとともに、切換栓31の外周面を上流分岐管12の流路に対向させたときには、チャンバー部11内と下流分岐管13との間は連通し、チャンバー部11内と上流分岐管12との間は遮断される。この場合も、切換操作栓30のシール部35は、チャンバー部11の内周面に圧接して溝部33の周縁部とチャンバー部11の内周面との間をシールした状態を維持する。
【0032】
また、図6の状態から、切換操作栓30を他方に回転させて、溝部33の一方の端部側部分を上流分岐管12の流路に対向させて連通状態を維持するとともに、切換栓31の外周面を下流分岐管13の流路に対向させたときには、チャンバー部11内と下流分岐管13との間は遮断され、チャンバー部11内と上流分岐管12との間は連通する。この場合も、切換操作栓30のシール部35は、チャンバー部11の内周面に圧接して溝部33の周縁部とチャンバー部11の内周面との間をシールした状態を維持する。このように、切換操作栓30を回転操作することにより、上流分岐管12と下流分岐管13との双方をチャンバー部11内に連通したり、一方だけをチャンバー部11内に連通したりすることができる。
【0033】
その間、図12に示したように、チャンバー部11と切換操作栓30との間はシール部35によって、確実にシールされる。図12は、溝部33がチャンバー部11の内面に対向した状態を示しており、溝部33内に薬液等が流れているときには、シール部35は薬液等の液圧によってチャンバー部11の内面により強く圧接する。また、薬液等が流れてなく溝部33内の液圧が低いときには、シール部35はチャンバー部11の内面に弱く圧接する。
【0034】
なお、操作部32は、3個の操作片32a,32b,32cを備えており、この操作片32a,32b,32cは、それぞれ上流分岐管12、合流用分岐管14および下流分岐管13に対応するように、90度の角度を保って形成されている。すなわち、図3のように、操作片32aが上流分岐管12を、操作片32bが合流用分岐管14を、操作片32cが下流分岐管13をそれぞれ指す位置にあるときには、上流分岐管12、合流用分岐管14および下流分岐管13のすべてがチャンバー部11を介して連通した状態になる。
【0035】
また、図3の状態から、操作部32を時計周り方向に90度回転して、操作片32bが上流分岐管12を指し、操作片32cが合流用分岐管14を指す位置になったときには、上流分岐管12と合流用分岐管14とが連通し、合流用分岐管14と下流分岐管13との間は遮断された状態になる。さらに、図3の状態から、操作部32を反時計周り方向に90度回転して、操作片32aが合流用分岐管14を指し、操作片32bが下流分岐管13を指す位置になったときには、合流用分岐管14と下流分岐管13とが連通し、上流分岐管12と合流用分岐管14との間は遮断された状態になる。
【0036】
また、蓋部材20にはゴム栓25を介して、シリンジ等の薬液注入器(ここではシリンジとする)を着脱可能に取り付けることができる。このため、上流分岐管12と下流分岐管13とを連通させて上流分岐管12側から下流分岐管13側に向けて薬液等を流しながら、その薬液等にシリンジから注入される他の薬液等を混合することができる。また、チャンバー部11内と上流分岐管12との間を遮断した状態で、シリンジから下流分岐管13に他の薬液等を流すこともできる。
【0037】
この構成において、2種類の薬液を患者(図示せず)の体内に供給する場合には、まず下流分岐管13に、患者に穿刺して留置するための留置針が接続された医療用チューブ(図示せず)の後端部を接続する。ついで、上流分岐管12に、患者に供給する一方の薬液を収容する容器等から延びる医療用チューブの先端部に設けられた雄ルアー部を接続する。つぎに、シリンジの薬液収容部内に他方の薬液を吸引した状態で、シリンジの雄ルアー部をゴム栓25のスリット29に貫通させる。そして、一方の薬液をチャンバー部11を含む輸液ライン内に通して、輸液ライン内の空気をすべて外部に放出したのちに、留置針を患者の体に穿刺して留置した状態で容器等の薬液を患者に向けて送り出すことにより患者への薬液の供給を行う。
【0038】
また、シリンジの薬液収容部内の他方の薬液も、適宜、合流用分岐管14の流路を介してチャンバー部11内に注入する。このとき、シリンジの雄ルアー部によってゴム栓本体26は下方に押され、ゴム栓本体26の下面が仕切り壁16の傾斜面17に接近する。このため、チャンバー部11や合流用分岐管14の内部には僅かな空間しかできず、チャンバー部11や合流用分岐管14の内部には、空気や薬液の一部が滞留する場所が生じ難くなる。これによって、内部に菌が繁殖することが抑制される。また、チャンバー部11と合流用分岐管14との内部に薬液の一部が滞留することもなくなる。
【0039】
さらに、チャンバー部11と切換栓31との間はシール部35によって、常時シールされるため、溝部33内に送り込まれた薬液が所定の流路から外れた他の部分に漏れることはない。また、操作部32の操作は、通常、薬液等の供給を停止した状態で行う。このため、操作部32を操作する際には、シール部35はチャンバー部11の内面に弱く圧接した状態になっており、シール部35があることによって操作部32の操作性が悪くなることもない。すなわち、本実施形態によると、溝部33内に薬液を供給しているときには、液圧により、シール部35のシール性が向上し、操作部32を操作する際には、シール部35がチャンバー部11の内面に弱く圧接した状態になって、操作部32の操作性がよくなる。
【0040】
このように、本実施形態に係る医療用活栓Aでは、シール部35を切換操作栓30に形成された溝部33の周縁部に設けている。したがって、溝部33内を薬液が流れ高圧がかかったときに、シール部35がチャンバー部11の内周面に圧接されて優れたシール性能を発揮する。また、溝部33内に高圧がかからないときには切換操作栓30を回転させ易くなって操作部32の操作性が向上する。また、シール部35は溝部33の周縁部に形成するだけであるためその構造が単純になる。
【0041】
また、シール部35を、溝部33の周縁部から突出しその肉厚が溝部33の周縁部から先端側に行くほど薄くなる可撓性を備えた軟質の突条で構成したため、溝部33内が薬液によって高圧になったときに、シール部35がチャンバー部11の内周面にさらに圧接されやすくなりより優れたシール性能を発揮するようになる。さらに、シール部35を切換操作栓30と一体に成形したため、シール部35を備えた切換操作栓30を単純な構造にすることができるとともにその成形が容易になる。
【0042】
(第2実施形態)
図13は、本発明の第2実施形態に係る医療用活栓が備える切換操作栓40を示している。この切換操作栓40は、前述した切換操作栓30と略同様の形状をしており、略円筒状の切換栓41と、切換栓41の前端部に連結された操作部42とで構成されている。そして、切換栓41の外周面には、本発明の中継流路を構成する二つの溝部43,44が軸方向に並んで形成されている。切換栓41の外周面における溝部43の周縁部には、シール部45が形成され、溝部44の周縁部にはシール部46が形成されている。
【0043】
このシール部45,46は、図14および図15に示したように、それぞれ溝部43,44の周縁部から先端側にいくほど肉厚が薄くなった環状の突条で構成されており、先端側が溝部43,44の開口を覆う方向よりもやや外部に向かって突出するように形成されている。このシール部45,46は、可撓性を備えており、力が加わることにより溝部43,44の内部側にもさらに外部側にも撓むことができる。この切換操作栓40および切換操作栓40を備えた医療用活栓のそれ以外の部分の構成については、前述した医療用活栓Aと同一である。したがって、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。
【0044】
この医療用活栓によると、高圧がかかる場合、例えば合流分岐管14を介したシリンジ等を用いたワンショット注入時に、溝部43内に送り込まれた薬液が所定の流路から外れた他の部分に漏れることを防止できるとともに、溝部44内に送り込まれた薬液が所定の流路から外れた他の部分に漏れることも防止できる。このため、より確実なシールが可能になる。この切換操作栓40を備えた医療用活栓のそれ以外の作用効果については、前述した医療用活栓Aと同一である。
【0045】
(第3実施形態)
また、図示は省略するが、本発明に係る第3実施形態として、前述した切換操作栓30における溝部33を形成する部分(表面層部分)とシール部35とを一体にした中継流路形成部材を形成するとともに、切換栓31における溝部33に対応する部分を一回り大きくした形状の切換栓本体を形成し、その切換栓本体に中継流路形成部材を組み付けることもできる。これによると、溝部とシール部とを切換栓本体とは別体からなる中継流路形成部材として成形できるためその成形が容易になる。また、本実施形態によると、中継流路形成部材を軟質材料、例えばポリエーテルブロックアミド、シリコーン、ポリプロピレン、ポリエチレン等で構成し、切換栓本体を硬質材料、例えばポリカーボネート、ポリオキシメチレン、金属等で構成する等異なる材質や性能を備えたものを組み合わせることができる。本実施形態のそれ以外の作用効果については、前述した医療用活栓Aと同様である。
【0046】
同様に、前述した切換操作栓40における溝部43を形成する部分とシール部45とを一体にした中継流路形成部材および溝部44を形成する部分とシール部46とを一体にした中継流路形成部材を形成するとともに、切換栓41における溝部43,44に対応する部分を一回り大きくした形状の切換栓本体を形成し、その切換栓本体に二つの中継流路形成部材を組み付けることもできる。これによっても、溝部とシール部とを切換栓本体とは別体からなる二つの中継流路形成部材として成形できるためその成形が容易になる。また、この場合も、中継流路形成部材を軟質材料で構成し、切換栓本体を硬質材料で構成する等異なる材質や性能を備えたものを組み合わせることができる。この実施形態のそれ以外の作用効果については、前述した第2実施形態に係る医療用活栓と同様である。
【0047】
また、本発明に係る医療用活栓は、前述した実施形態に限定するものでなく、適宜変更実施が可能である。例えば、前述した実施形態では、医療用活栓を、三つの分岐管を備えた所謂三方活栓としているが、この医療用活栓は、三方活栓に限るものでなく、上流分岐管と下流分岐管との二つの分岐管だけを備えたもので構成することもできる。また、切換栓に設ける中継流路は、切換栓の外周面に設けた溝部だけでなく切換栓の外周面の一方から他方に貫通する貫通孔等で構成することもできる。また、前述した実施形態では、仕切り壁16の上面を傾斜面17で構成しているが、この面は傾斜面でなく平らな面で構成してもよい。さらに、本発明に係る医療用活栓のそれ以外の部分についても、本発明の技術的範囲で適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0048】
11…チャンバー部、12…上流分岐管、13…下流分岐管、14…合流用分岐管、14a…連通穴、31,41…切換栓、33,34,43,44…溝部、35,45,46…シール部、A…医療用活栓。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の分岐管と、前記複数の分岐管にそれぞれ連通する複数の連通穴を備えた円筒状のチャンバー部と、
前記チャンバー部内に軸周りに回転可能に設置されるとともに、前記チャンバー部との間に中継流路が形成され、回転することにより前記複数の連通穴どうしを前記中継流路を介して連通させたり、前記複数の連通穴のうちの少なくとも一つを外周面により遮断させたりすることのできる切換栓とを備えた医療用活栓であって、
前記切換栓の外周面における前記中継流路の周縁部に前記チャンバー部との間を密閉するシール部を設けたことを特徴とする医療用活栓。
【請求項2】
前記シール部を、前記中継流路の周縁部から突出しその肉厚が前記中継流路の周縁部から先端側に行くほど薄くなるとともに前記チャンバー部側に付勢可能な突条で構成した請求項1に記載の医療用活栓。
【請求項3】
前記切換栓および前記シール部を、樹脂材料で一体成形することにより形成した請求項1または2に記載の医療用活栓。
【請求項4】
前記切換栓を、切換栓本体と、前記中継流路を形成する中継流路形成部と前記シール部とからなり前記切換栓本体に組み付けられる中継流路形成部材とで構成した請求項1または2に記載の医療用活栓。
【請求項5】
前記複数の連通穴を、前記切換栓が回転する際の軸回り方向に沿って配置された上流穴、中間穴、下流穴の三つの穴で構成するとともに、前記中継流路を、前記切換栓の外周面に、前記切換栓が前記チャンバー部内における軸回り方向の所定の位置に位置したときに、前記上流穴と前記下流穴との一方と前記中間穴とを連通させる第1の溝部と、前記上流穴と前記下流穴との他方と前記中間穴とを連通させる第2の溝部とを設けることにより構成した請求項1ないし4のうちのいずれか一つに記載の医療用活栓。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−30648(P2011−30648A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−177938(P2009−177938)
【出願日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【出願人】(000228888)日本シャーウッド株式会社 (170)
【Fターム(参考)】