説明

医療用潤滑剤

【課題】蒸散性を抑え、味が改善され、かつ使用後の医療器具の洗浄が容易である医療用潤滑剤を提供すること。
【解決手段】水、トレハロースおよび水溶性高分子を含有する医療用潤滑剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規医療用潤滑剤に関し、さらに詳しくは水、トレハロースおよび水溶性高分子を含有する医療用潤滑剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内視鏡検査等では経験的に粘滑・表面麻酔薬を塗布した検査機器等を使用していたが、検査時に時間の経過とともに患者の体内で麻酔薬に含まれる水分が蒸発し、該麻酔薬が剥離し、医療器具と体内との接触により出血が起こる等の問題が生じていた。
また、麻酔薬を大量に使用するとアナフィラキシーショックを起こすこともあるため、麻酔薬は大量に使用できないという制約があった。
そこで、麻酔薬に加えて、水の蒸散を抑制し、潤滑性を維持するために、麻酔成分を含まない医療用潤滑剤が提案されている(特許文献1)。
【0003】
しかしながら、現在提案されている医療用潤滑剤は、使用する際に、えぐ味や刺激性を感じる等官能性の面で問題があった。
さらに、医療器具は、感染症を予防するため、使用する毎に洗浄・消毒・滅菌を行う必要があるが、使用後の医療器具の洗浄に時間を要し、簡便に利用できないという問題が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−244375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、蒸散性を抑え、味が改善され、かつ使用後の医療器具の洗浄が容易である医療用潤滑剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、医療用潤滑剤に水、トレハロースおよび水溶性高分子を含有させることにより、蒸散性を抑え、味が改善され、かつ使用後に内視鏡等の器具を容易に洗浄できることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
[1] 水、トレハロースおよび水溶性高分子を含有する医療用潤滑剤、
[2] 水溶性高分子がカルボキシメチルセルロースナトリウムである前記[1]に記載の医療用潤滑剤、
[3] さらに、トレハロース以外の保湿剤を含有する前記[1]または[2]に記載の医療用潤滑剤、
[4] トレハロース以外の保湿剤がグリセリンである前記[3]に記載の医療用潤滑剤、
[5] さらに、保存剤を含有する前記[1]〜[4]のいずれかに記載の医療用潤滑剤、
[6] 保存剤がメチルパラベンおよび/またはプロピルパラベンである前記[5]に記載の医療用潤滑剤、
[7] 内視鏡検査、注腸X線検査、婦人科および泌尿器科領域における潤滑補助、直腸指診または浣腸に使用される前記[1]〜[6]のいずれかに記載の医療用潤滑剤、
[8] 粘度が、1500〜15000mPa・sである前記[1]〜[7]のいずれかに記載の医療用潤滑剤、
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の医療用潤滑剤は、蒸散性が低く、味が改善され、かつ使用後の医療器具の洗浄が容易であるという特長を有する。また、本発明の医療用潤滑剤は麻酔成分を必要としないため、この場合、ショックを起こさないという特長も有する。さらに、本発明の医療用潤滑剤は無臭で、飲み込んでも安全であるという特長も有する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に用いるトレハロースは、公知の方法により製造することができ、矯味剤としての性質だけでなく、保湿剤としての性質を有する。
そのようなトレハロースを製造する方法としては、特に限定されないが、例えば特許3616166号明細書または特許3949641号明細書に記載されている方法等が挙げられる。具体的には、デンプンの還元末端をトレハロース構造に変えるグリコシルトレハロース生成酵素(例えばマルトオリゴシルシンターゼ(MTSase)等)と、そのトレハロース構造部分を切り離していくトレハロース遊離酵素(例えばマルトオリゴシルトレハロヒドラーゼ(MTHase)等)の2つの酵素を作用させることで、デンプンから非常に高い収率で高純度のトレハロースを安価に大量生産することができる。また、シクロマルトデキストリングルカノトランスフェラーゼ(CGTase)を合わせて用いる方法によっても大量生産することができる。未反応のデンプンの除去方法等も公知の方法でよく、特に制限はない。また、トレハロースとしては、市販品を用いてもよく、例えばTREHA(登録商標、株式会社林原)等が挙げられる。トレハロースの含有量は特に限定されないが、医療用潤滑剤全量に対して、通常0.1〜10質量%程度、好ましくは0.5〜5質量%程度である。
【0010】
本発明に用いる水溶性高分子としては、水溶性であれば特に限定されず、水溶性の天然高分子、水溶性の半合成高分子、水溶性の合成高分子、水溶性の無機高分子等の水溶性高分子類が挙げられる。水溶性の天然高分子としては、デキストリン、シクロデキストリン類(α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリンまたはγ−シクロデキストリン等)、タマリンドガム、アラビアガム、グアガム、カラギーナン、クインスシード(マルメロ)、アルファ化デンプン(コメ、トウモロコシ、バレイショ、コムギ)、グリチルリチン酸、トラガカントガム、キャロブガム、ペクチン、ガラクタン、カラヤガム、カンテン、アルゲコロイド(カッソウエキス)等の植物系高分子、キサンタンガム、デキストラン、サクシノグルカン、プルラン等の微生物系高分子、コラーゲン、ゼラチン、カゼイン、アルブミン等の動物系高分子等が挙げられる。水溶性の半合成高分子としては、カルボキシメチルデンプン、メチルヒドロキシプロピルデンプン等のデンプン系水溶性半合成高分子、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、セルロース硫酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC−Na)、セルロース末等のセルロース系水溶性半合成高分子、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル等のアルギン酸系水溶性半合成高分子が挙げられる。水溶性の合成高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー(カーボポール)、ポリビニルメチルエーテル等のビニル系水溶性合成高分子、ポリエチレングリコール−20,000、ポリエチレングリコール−4,000,000、ポリエチレングリコール−600,000等のポリオキシエチレン系水溶性合成高分子、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体等の共重合系水溶性合成高分子、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリエチルアクリレート等のアクリル系水溶性合成高分子、ポリエチレンイミン、カチオンポリマー等が挙げられる。水溶性の無機高分子としては、ラポナイト等が挙げられる。水溶性高分子としては、好ましくはカルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシビニルポリマーである。水溶性高分子の含有量は特に限定されないが、医療用潤滑剤全量に対して、通常0.1〜10質量%程度、好ましくは1〜5質量%程度である。これらの水溶性高分子は、市販品を使用してもよく、あるいは当該分野で公知の方法で製造したものを使用することができる。
【0011】
また、本発明の医療用潤滑剤は、トレハロース以外の保湿剤を含んでいてもよい。そのような保湿剤としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えばグリセリン、ブチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール等の多価アルコール類;ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ケランタン硫酸等のムコ多糖類、またはこれらの薬理学的に許容しうる塩(例えば、ヒアルロン酸ナトリウム等);スフィンゴ脂質、コレステロール、リン脂質等の脂質類、またはこれらの誘導体(例えば、水素添加大豆リン脂質等);D−パントテニルアルコール等のパントテン酸誘導体;コラーゲン、エラスチン、ケラチン等のタンパク質、これらの誘導体またはこれらの薬理学的に許容しうる塩;アミノ酸、乳酸ナトリウム、ピロリドンカルボン酸ナトリウム等の天然保湿因子(Natural Moisturizing Factor:NMF)成分等が挙げられ、グリセリン、ヒアルロン酸ナトリウム、水素添加大豆リン脂質、D−パントテニルアルコール、コラーゲン、グルタミン酸、乳酸ナトリウムが好適に挙げられ、プロピレングリコールは除いてもよい。これらの保湿剤は単独または2種以上を組み合わせて使用することもできる。本発明の医療用潤滑剤において、トレハロース以外の保湿剤の含有量は、その形態等に応じて適宜選択することができ、特に限定されないが、医療用潤滑剤全量に対して、通常1〜25質量%程度、好ましくは5〜20質量%程度、とりわけ好ましくは8〜15質量%程度である。これらのトレハロース以外の保湿剤は、市販品を使用してもよく、あるいは当該分野で公知の方法で製造したものを使用することができる。
【0012】
本発明の医療用潤滑剤は、さらに保存剤を含んでいてもよい。保存剤としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、パラベン、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、塩化セチルピリジウム、クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸、ソルビン酸ナトリウム、パラクロルメトキシフェノールまたはパラクロルメタクレゾール等が挙げられ、好ましくはメチルパラベンまたはプロピルパラベンである。保存剤は必要に応じて1種以上を組み合わせて用いてもよく、メチルパラベンおよびプロピルパラベンを用いるのが好ましい。保存剤の含有量は特に限定されないが、医療用潤滑剤全量に対して、通常0.001〜0.5質量%程度、好ましくは0.01〜0.2質量%程度である。これらの保存剤は、市販品を使用してもよく、あるいは当該分野で公知の方法で製造したものを使用することができる。
【0013】
本発明の医療用潤滑剤は、それ自体公知の方法によって製造でき、例えば、上記した成分をホモミキサー、コロイドミル、三本ロールミル、タービン型内歯付攪拌機、高吐出型プロペラ サタケP36型(佐竹化学機械工業社製)等の混合機を用いて均一に混合することにより製造することができる。
【0014】
本発明の医療用潤滑剤には、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、当該分野で周知の添加剤を幅広く使用することが可能であり、例えばクエン酸トリエチル、大豆レシチン、アラビアゴム、ショ糖脂肪酸エステル等の可塑剤、可溶化剤、界面活性剤、矯味剤等が例示される。
【0015】
本発明の医療用潤滑剤の粘度は、日本工業規格(JIS)の粘度測定法(JIS K 7117−2)に準拠し、共軸−二重円筒形粘度計における測定システムとしてBlookfield社製少量サンプルチャンバー13RおよびスピンドルSC4−34を使用し、温度25℃で測定した粘度を意味し、通常1500〜15000mPa・s程度、好ましくは2000〜12000mPa・s程度、さらに好ましくは2200〜10000mPa・s程度、とりわけ好ましくは2500〜9000mPa・s程度である。粘度が1500mPa・s程度以下の場合、使用時に液だれが起きやすく、15000mPa・s程度以上の場合、べたつきが増し、洗浄性が低下するためである。粘度の測定は、例えばデジタル粘度計(商品名:LVDVIII-ULTRA、Brookfield社製)を用いて測定することができる。
【0016】
本発明の医療用潤滑剤は、医療用潤滑ゼリーとして好適に使用でき、医療行為に用いる限り特に限定されないが、例えば内視鏡検査、注腸X線検査、婦人科および泌尿器科領域における潤滑補助、直腸指診または浣腸等に好適に使用される。具体的には、例えば内視鏡検査において、内視鏡挿入部表面に本発明の医療用潤滑剤を塗布して使用することができる。
【0017】
本発明の医療用潤滑剤は、使用後に、通常の洗浄(例えば、水洗等)により容易に除去できる。
【実施例】
【0018】
以下に実施例および比較例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0019】
[実施例1]
医療用潤滑剤の製造
医療用潤滑剤の総質量の80%(w/w)に相当する蒸留水を80℃〜90℃に加熱した。表1に示す配合量にて、グリセリン、トレハロース、メチルパラベン(以下、MPと略称する。)およびプロピルパラベン(以下、PPと略称する。)を前記蒸留水に加えて攪拌、溶解させ、溶解を確認した後、溶液の温度を50℃〜60℃まで下げた。次いで、溶液を攪拌しながらカルボキシメチルセルロースナトリウム(以下、CMC−Naと略称する。)を徐々に加えて溶解させ、溶解を確認した後、溶液の温度を20℃〜30℃まで下げた。さらに、蒸留水を加えた後、攪拌して均一にし、医療用潤滑剤を得た(以下、実施例品1という。)。得られた医療用潤滑剤の粘度をデジタル粘度計(商品名:LVDVIII-ULTRA、Brookfield社製)を用いて測定した。医療用潤滑剤の粘度は、6749mPa・sであった。
【0020】
【表1】

【0021】
[比較例1〜7]
実施例1において、各配合成分を表2の組成とする以外は、実施例1と同様にして、比較例1〜6の医療用潤滑剤を製造した(以下、比較例品1〜6という。)。比較例7としては、市販品を用いた(以下、比較例品7という)。得られた医療用潤滑剤の各粘度をデジタル粘度計(商品名:LVDVIII-ULTRA、Brookfield社製)を用いて測定した。測定結果を下記表3に示す。
【0022】
【表2】

【0023】
【表3】

【0024】
[試験例1]
セミミクロ化学天秤(型式:AT201/AX205、METTLER TOLEDO社製)で風袋の質量(プラスチックシャーレ(直径3cm×高さ1cm、フタこみ))を秤量した(この質量をAとする)。各試験検体(実施例品1および比較例品1〜7)を各々シャーレの底面から6mmの高さまで気泡が入らないように充填し、速やかにフタをした。次いで、充填した試験検体とシャーレの合計質量(試験開始時の総質量)を秤量した(この質量をBとする)。シャーレを恒温恒湿器(LHL23−14M、ナガノサイエンス社製)に移し、その内部でフタを開けて、20分間下記試験条件に暴露した。20分後、速やかに恒温恒湿器内部でシャーレにフタをし、セミミクロ化学天秤で質量(蒸散後の総質量)を秤量した(この質量をCとする)。この値を用いて以下の式(1)から、蒸散率(%)を算出した。結果を図1に示す。
(試験条件)
37±1℃,30±5%RH(相対湿度:Relative Humidity)
【数1】

(式中、Aは風袋の質量(g)を表し、Bは試験開始時の総質量(g)を表し、Cは蒸散後の総質量(g)を表す。)
【0025】
以上の結果から、グリセリンの含有量を増やした場合、蒸散率は低下したが、グリセリンの含有量を増加させると、べたつきが増し、洗浄性が低下するため、含有量にも限界ある。また、カルボキシメチルセルロースナトリウムの含有量を増加させすぎると、乾燥してフィルムを形成するおそれがあり、プロピレングリコール含有量の増加は刺激性および苦味の点から、好ましくない。一方、実施例品は、保湿剤の含有量が2倍である比較例6と比べても、顕著な蒸散率の低下を示すことが確認された。
一般的に、粘度と蒸散性には相関性があることから、市販品の1/20以下の低粘度であっても、市販品より優れた蒸散率を有する本発明の医療用潤滑剤は、製造機器への機械的圧力の負荷軽減となる。
【0026】
[試験例2]
(1)標準溶液の調製方法
標準品としてパラオキシ安息香酸メチル(MP)50mgを正確に量り、エタノール(95%(v/v))を加えて正確に100mLとした。この液5mLを正確に量り、移動相を加えて正確に50mLとした。次いで、この液5mLを正確に量り、移動相を加えて正確に50mLとし、標準溶液とした。
(2)試験検体の調製方法
回転バスケットに薄膜シール(パラフィルムM、Pechiney Plastic. Packaging, Inc.製)を巻きつけた。薄膜シールを巻いた回転バスケットをセミミクロ化学天秤に載せ、風袋引きした。試験検体(実施例品1、比較例品1、3、6、7)約5gを正確に回転バスケットへ量りとった。
以下、”第十五改正 日本薬局方 一般試験法 溶出試験法 回転バスケット法の操作”に従い、下記の溶出試験条件で操作した。ただし、回転バスケットに巻きつけた薄膜シールは試験開始直前に取り除いた。得られた液をメンブランフィルター(捨て液5mL)でろ過し、試料溶液とした。
【0027】
(使用機器)
溶出試験器:富山産業社製、型式:NTR−6100
試験用丸底フラスコ 900mL
回転バスケット 36メッシュ
セミミクロ化学天秤: METTLER TOLEDO社製、型式:AT201/AX205
高速液体クロマトグラフ:Waters社製、Alliance 2690/2487型
カラム:ナカライテスク社製、商品名:COSMOSIL 5C18-AR-II、4.6×250mm
メンブランフィルター:アドバンテック東洋社製、DISMIC-25HP PTFE 0.45μm
(溶出試験条件)
試験液:水、500mL
試験液温度:37±0.5℃
試験時間:10分
回転数:100rpm
【0028】
(3)液体クロマトグラフィーによる測定
上記の各試料溶液および標準溶液5μLについて、下記条件で液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定を行い、メチルパラベンのピーク面積AおよびAを求めた。次いで、下記式(2)から溶出率(%)を算出した。結果を図2に示す。なお、この実験系で標準溶液5μLにつき、上記条件で試験を6回繰り返した場合、メチルパラベンのピーク面積の相対標準偏差は1.0%以下である。
(HPLC測定条件)
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:254nm);
カラム:5μmの液体クロマトグラフィー用オクタデシリル化シリカゲルを充填したステンレス管(内径:4.6mm、長さ:250mm、商品名:COSMOSIL 5C18-AR-II、ナカライテスク社製);
カラム温度:30℃付近の一定温度;
移動相:アセトニトリル/2mmol/Lリン酸塩緩衝液(pH3.0)=55/45の混液1000mLにラウリル硫酸ナトリウム2.88gを溶解;
流量:1.05ml/分(メチルパラベンの保持時間:3.5分)
【数2】

(式中、Wは標準品採取値(mg)を表し、Wは試験検体の採取量(g)を表し、Aは標準液のピーク面積を表し、Aは試料溶液のピーク面積を表し、Cはメチルパラベンの理論含量(%)を表す。なお、Cの値は0.08として、溶出率を算出した。)
以上の結果から、医療用潤滑剤の粘度が上昇するに従って溶出率が低下することが分かった。これは、医療用潤滑剤の粘度が高いほど洗浄し難くなることを意味する。一方、粘度がほぼ同等の比較例品6に対して、実施例品1は溶出率に有意な差が認められ、本発明の医療用潤滑剤は、洗浄の容易さにおいても優れることが確認された。
【0029】
[試験例3]
モニター12名に、等量の実施例品1および比較例品1〜7を用いて、刺激性、苦味、甘味の各項目で官能性試験を実施した。結果を表4に示す。なお、表中の数は人数を表す。
【0030】
【表4】

以上のように、CMC−Naに刺激や苦味があり(比較例品1)、グリセリンを含有することにより苦味はある程度抑制されるものの(比較例品2、3)、グリセリン含量が10%を超える試験検体については、グリセリン自身の刺激性が強く現れる傾向を示した(比較例品4〜6)。また、プロピレングリコール含有検体(比較例品5、6)および市販品(比較例品7)において、刺激や苦味を感じるという回答が多く得られた。一方、実施例品1については、12名すべてが刺激および苦味がないとの回答が得られたことから、本発明の医療用潤滑剤は、刺激や苦味のマスキング効果を有することが認められた。
以上の結果から、本発明品は、刺激性や苦味が一切なく、官能性においても極めて優れていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、水、トレハロースおよび水溶性高分子を含有することにより、蒸散性を抑え、味が改善され、かつ使用後の医療器具の洗浄が容易である医療用潤滑剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、実施例品および比較例品の蒸散率(%)を示す。
【図2】図2は、実施例品および比較例品の溶出率(%)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、トレハロースおよび水溶性高分子を含有する医療用潤滑剤。
【請求項2】
水溶性高分子がカルボキシメチルセルロースナトリウムである請求項1に記載の医療用潤滑剤。
【請求項3】
さらに、トレハロース以外の保湿剤を含有する請求項1または2に記載の医療用潤滑剤。
【請求項4】
トレハロース以外の保湿剤がグリセリンである請求項3に記載の医療用潤滑剤。
【請求項5】
さらに、保存剤を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の医療用潤滑剤。
【請求項6】
保存剤がメチルパラベンおよび/またはプロピルパラベンである請求項5に記載の医療用潤滑剤。
【請求項7】
内視鏡検査、注腸X線検査、婦人科および泌尿器科領域における潤滑補助、直腸指診または浣腸に使用される請求項1〜6のいずれかに記載の医療用潤滑剤。
【請求項8】
粘度が、1500〜15000mPa・sである請求項1〜7のいずれかに記載の医療用潤滑剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−30994(P2010−30994A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147928(P2009−147928)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(501123411)ナガセ医薬品株式会社 (4)
【Fターム(参考)】